☆衆院議長「セクハラ疑惑」むしろ女性記者はどう動くのか

☆衆院議長「セクハラ疑惑」むしろ女性記者はどう動くのか

   この記事の落としどころはいったいどうなるのか、先が読めない。『週刊文春』が報じている衆院議長の細田博之氏による国会担当の女性記者への「セクハラ疑惑」についてだ。今週号(6月2日号)を読んだが、「さもありなん」という印象ではある。ただ、「#Me Too」運動は盛り上がっていて共感を呼ぶものの、「事実無根、訴訟も」と主張する細田氏への決定打が見えない。

   政府中枢のセクハラ問題で思い出すのは、4年前の2018年4月に辞任した、当時の財務省事務次官・福田淳一氏の一件。『週刊新潮』の掲載で、このときも女性記者へのセクハラ問題だった。福田氏は「週刊誌に掲載された記事は事実と異なり、裁判で争う」とセクハラ発言は否定していたものの、音声データがネットで公開され、これが動かぬ証拠となり、本人は辞職した。女性記者はテレビ朝日の記者で、上司に自身のセクハラ体験を記事にすることを進言したが反対され、この案件を音声データとともに週刊新潮に持ち込んだことが同局から説明された。

   冒頭で「先が読めない」と述べたのも、実名による告発、あるいは音声データなど確たる証拠が記事からは読めないからだ。1989年8月に日本で初めてセクハラ被害を問う裁判を起こした福岡県の出版に勤務していた女性は上司の編集長を実名で提訴した。そして、「#Me Too」運動として日本の先端を切ったジャーナリストの伊藤詩織氏も実名を公表して元TBS記者を訴えて勝訴した。

   今回の細田氏のセクハラ疑惑についても、それが必要だろう。ところが、文春の記事を読んで、女性記者たちの「#Me Too」意識がいまいち伝わってこない。財務省事務次官を辞任に追い込んだ、あのテレビ朝日の女性記者の告発へのモチベーションが見えない。

   記者という立場にはジレンマンもある。記者は「虎穴に入らずんば虎児を得ず」という言葉を先輩たちから聞かされる。権力の内部を知るには、権力内部の人間と意思疎通できる関係性つくらならなければならない。そこには取材する側とされる側のプロフェッショナルな仕事の論理が成り立っている。その気構えがなければ記者はつとまらない、という意味だと解釈している。

   その過程でセクハラのような言葉が先方からあったとしても、女性記者たちには国政に関する重要な情報を得ることが最優先となる。女性記者たちにとって、細田氏は単なる「スケベじじい」なのだが、情報は取りやすい人物なのだろう。女性記者たち自身が告発しなければ文春の記事の結末が見えない。女性記者を議員取材に出しているメディアの対応も問われている。

⇒27日(金)夜・金沢の天気    はれ

★日本の「ゆでガエル」化を狙う隣国の軍事行動

★日本の「ゆでガエル」化を狙う隣国の軍事行動

   現代の世界の国家観を表現する絶妙な言葉ではある。「ならず者」と「ゆでガエル」。この2つの言葉を用いたのは、自民党の外交部会長、佐藤正久氏だ。元陸上自衛官で参院議員、テレビメディアの政治討論会でもよく見かける。FNNプライムオンライン(25日付)によると、きのうの自民党外交部会で、佐藤氏は24日の日米豪印によるクアッド首脳会合の最中に、中国軍とロシア軍の爆撃機が日本周辺の日本海や東シナ海、それに太平洋上空で長距離にわたって共同飛行したことについて、「ならず者国家」「常軌を逸した示威行動」と批判した。

   中露の軍事演習は当日午前から午後にかけて、中国の爆撃機「H-6」2機が、日本海でロシアの爆撃機「TU-95」2機と合流して行われた。また、ロシアの情報収集機「IL-20」1機が北海道礼文島沖から能登半島沖までの公海上空を飛行していることが確認された。これに対して、航空自衛隊は戦闘機をスクランブル発進させて監視を行った。中露による長距離の軍事演習は2021年11月以降で4度目となる(24日付・防衛省公式サイト「大臣記者会見」)。

   この中国とロシアの示威行動に対して、佐藤氏は「これはクアッド開催国の日本に対する当て付け・当て擦り以外の何ものでもなく、中国自らが力の信奉者、『ならず者国家』であることを示したようなものだ」と批判。そして、ウクライナ侵略の教訓として、「遺憾の意を示すだけでは国を守れない」との認識を示した(25日付・FNNプライムオンライン)。

   「ゆでガエル」発言が飛び出したのはこのタイミングだった。「日本はこうした常軌を逸した行動に対して単なる抗議だけではなく、国際法に基づいて毅然とした行動を示すべき段階に来ている。日本が『ゆでガエル』になっては絶対にいけない」。そして、「単なる抗議だけではなく毅然とした行動を示すべき段階に来ている」と述べ、自衛隊によるオホーツク海での訓練や台湾海峡の通過を実施すべきだと主張した(同)。

   「ゆでガエル」は、徐々に進む危機に気づかずに対処が遅れて命取りになる例えだ。確かにいまの日本をあり様を見渡すと、まさに「ゆでガエル」だ。尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域に中国海警局の艦船が連日来ているにもかかわらず、日本は「遺憾」を繰り返すだけだ。上記の中露の共同飛行でも両国に対し外交ルートで懸念を伝達しているが、佐藤氏が述べているような「毅然とした行動」は取らなかった。

   中国とロシアが日本周辺で軍事演習を繰り返す狙いの一つは、日本の「ゆでガエル」化なのだろう。日本の安全保障環境にあえて接近を繰り返すことで、緊張感を慣れへと持って行き、ウクライナ侵攻のように「偽旗作戦」を駆使して一気に領土に踏み込む。そのような思惑なのだろう。

   一方、23日の日米首脳会談で岸田総理は防衛費の増額を表明した。そして25日午後、航空自衛隊千歳基地のF15戦闘機4機とアメリカ軍三沢基地のF16戦闘機4機が日本海の上空で共同飛行を行っている。日本とアメリカが連携して対抗措置、すなわち隣国との「にらみ合い」を演じるステージに入った。ウクライナ侵攻から学んだ教訓でもある。

⇒26日(木)午後・金沢の天気      くもり

☆クアッド後に北の弾道ミサイル、なぜこのタイミングか

☆クアッド後に北の弾道ミサイル、なぜこのタイミングか

   あさ目覚めベッドで横になって、スマホでニュースをチェックすると、NHKの速報「北朝鮮から弾道ミサイルの可能性あるものが発射 EEZ外に落下か 政府関係者」(06:35)と流れていた。「このタイミングで、か」と思いながらベッドから身を起こした。

   関係省庁の公式サイトをチェックする。防衛省は弾道ミサイル発射の速報を「午前6時4分」に、そして、総理官邸では総理指示の内容を「午前6時5分」に発している。早朝にもかかわらず、このリスク管理の対応は見事だ。政府は北朝鮮はいつ発射するのかとじっと身構えていたのだろうか。

   冒頭の「このタイミングで、か」と思ったのも、アメリカのバイデン大統領が20日から24日にかけて日本と韓国の歴訪を終え、帰国したタイミングだったからだ。北朝鮮にとっては敵国であるアメリカに威力を誇示する狙いがあれば、なぜバイデン氏の滞在中に発射しなかったのか。きのうの日米豪印による「クアッド首脳会合」では、共同声明で北朝鮮による大陸間弾道ミサイル級を含めたたび重なるミサイル発射は地域の不安定化をもたらすと非難したうえで、国連安保理決議の義務に従って実質な対話に取り組むよう求めている(総理官邸公式サイト「クワッド共同首脳声明」)。

   北朝鮮とするとおそらくタイミングが悪かった。以下憶測だ。弾道ミサイルのもともとの発射予定日はバイデン氏と尹錫悦大統領による米韓首脳会談が行われる21日ではなかったか。ところが、今月19日に金正恩総書記のかつての「後継者教育担当」とされた軍の元帥が死去。22日に国葬が営まれ、金氏本人もが参列した。このタイミングでは発射の指示は出せなかったのだろう。23日と24日を喪服の期間として設定し、喪が明けたきょう発射したが、すでにバイデン氏は24日午後6時過ぎに帰国の途に就いている。北朝鮮の長距離弾道ミサイルの発射は金氏の立ち会いのもとで行われていたので現場への移動が間に合わなかったのかもしれない。

   防衛省は続報をサイトで掲載している。それによると、北朝鮮はきょう5時59分ごろ、北朝鮮西岸付近から1発の弾道ミサイルを東方向に向けて発射した。最高高度は約550kmで、約300km程度を飛翔し、東岸の日本海に落下。日本のEEZ外と推定される。さらに、6時42分ごろ、同じく北朝鮮西岸付近から、1発の弾道ミサイルを発射。最高高度は約50kmで、約750km程度を変則軌道で飛翔し、北朝鮮東側の日本海に落下。EEZ外と推定される。弾道ミサイル2発以外に、ミサイルを発射した可能性があり、情報の収集と分析を急いでいる。

   今回の弾道ミサイルの発射は、「クアッド首脳会合」の参加国にあらためて北朝鮮の無法ぶりを印象付けたに違いない。

(※写真は、24日の日米豪印による「クアッド首脳会合」=総理官邸公式サイト動画より)

⇒25日(水)夜・金沢の天気     はれ

★G7「広島サミット」来年開催にアメリカ世論はどう動く

★G7「広島サミット」来年開催にアメリカ世論はどう動く

   これは今回の日米首脳会談の最大の成果ではないだろうか。岸田総理はアメリカのバイデン大統領との会談後の共同記者会見(23日)で、来年日本で開催されるG7サミットを広島市で開催することの同意をバイデン氏から取り付けたと語った。そして、会見でのコメントは同選挙区の政治家らしい言葉だった。

   「唯一の戦争被爆国である日本の総理大臣として、私は広島ほど平和へのコミットメントを示すのにふさわしい場所はないと考えている。核兵器の惨禍を人類が二度と起こさないとの誓いを世界に示し、バイデン大統領をはじめG7の首脳とともに平和のモニュメントの前で平和と世界秩序と価値観を守るために結束していくことを確認したい」(23日付・NHKニュースWeb版「共同記者会見・詳細」)

   当地の広島県庁の公式サイトをチェックすると、湯崎知事=写真・上、左=も広島市で開催する意義について述べている。「ウクライナ侵略で損なわれた対話やルールに基づく国際協調を再び取り戻し、将来、ウクライナの人々が復興に向けて前進する際の『希望の象徴』にもなるものと考えています。核兵器廃絶に向けて、かつてないほど厳しい状況におかれている今だからこそ、広島で開催する意義が高まっていると考えます」

   被爆地でG7サミットが開催されるのは初めてのことだ。2016年の「伊勢志摩サミット」終了後の5月27日、アメリカの現職大統領として初めてオバマ氏が広島を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花した当時外務大臣だった岸田氏は原爆ドームなどについて通訳を介さずに英語でオバマ氏に説明を行ったことは知られている。史上初の原爆投下(1945年8月6日)で広島市では少なくとも14万人が死亡。3日後に長崎市でも原爆が落とされ、さらに7万4000人が死亡した。ただ、オバマ氏は献花の際、原爆投下について謝罪はしなかった。

   オバマ氏が「ヒロシマへの道」をつけてくれたので、バイデン氏も「広島サミット」の開催には同意しやすかったのだろう。では、オバマ氏と同様に「献花はすれど、謝罪はせず」なのだろうか。オバマ氏が謝罪をしなかったのは、世論が背景があったからだ。アメリカでは原爆投下が甚大な惨禍をもたらしたものの、戦争を終結させたのだから正当性はあるとの声がいまだ根強くあり、オバマ氏は世論に配慮した。その世論をもう少し詳しく見てみる。

   オバマ氏訪日のおよそ1年前の世論調査だ。アメリカの調査会社「ピュー・リサーチ・センター」は2015年4月に原爆投下に関する日米での世論調査の報告書「Americans, Japanese: Mutual Respect 70 Years After the End of WWII」をまとめている。アメリカ人の56%は「核兵器の使用は正当だった」と答え、34%が「そう思わない」と答えている=写真・下=。世代間格差もある。65歳以上のアメリカ人の70%が「正当だった」と答えているが、18歳から29歳の若い世代では47%と過半数を割る。また、共和党員の74%が、民主党員の52%が「正当だった」と答えている。調査から7年経つが、いまでも「正当だった」が根強いのかどうか、ピュー・リサーチ・センターのその後の調査は行われていない。

   バイデン氏は「核なき世界」を理想に掲げている。今後、どのようなヒロシマ発言をするのか注目したい。そして、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は「電光石火」という表現で核攻撃をちらつかせている。こうした動きにアメリカ世論はどう反応していくのか。

⇒24日(火)夜・金沢の天気   はれ

☆「バイデン訪日」めがけた弾道ミサイルと核実験の可能性

☆「バイデン訪日」めがけた弾道ミサイルと核実験の可能性

   アメリカのバイデン大統領が20日からの韓国と日本の訪問中に、北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射、あるいは核実験に踏み切る可能性があるとアメリカのサリバン大統領補佐官は記者会見で述べたと報道された(5月19日付・NHKニュースWeb版)。アメリカによる衛星観測の結果、過去のICBM発射時に現れたのと同じ兆候(平壌近くの発射場所、発射装備、燃料供給、車両と人員配置など)が確認されたからだ(18日付・CNNニュースWeb版日本語)。

   ところが、訪韓中に発射はなかった。憶測だが、19日に金正恩総書記のかつての「後継者教育担当」とされた軍の元帥が死去。22日午前4時25分から国葬が営まれた。労働党機関紙「労働新聞」Web版(23日付)には、金総書記が棺を持ち先頭を歩く姿が掲載されている=写真=。国葬が営まれ本人が参列する状況下で、弾道ミサイル発射の指示は出せなかったのだろう。これまで、長距離弾道ミサイルの発射は本人の立ち会いのもとで行われていたからだ。

   では、きょう23日の日米首脳会談、あるいは、24日の東京での日米豪印(クアッド)首脳会合に向けて、弾道ミサイルの発射、あるいは核実験は可能性があるのか。北朝鮮では、新型コロナウイルスとみられる発熱症の感染拡大が止まない。金総書記は「建国以来の大動乱」と位置づけ、今月12日にロックダウンの徹底を指示した。国民にはワクチン接種が施されず、医薬品も不足し、医療制度そのものも貧弱とされる。国内の食糧は限られていて多くの人々は栄養失調の状態にあり、ロックダウンが徹底されれば、国民が瀕死の状態に追い込まれることは想像に難くない。常識で考えれば、この状態下で弾道ミサイルの発射、あるいは核実験はないだろう。

   しかし、WHOは北朝鮮にデータや情報の共有を求め、検査キットや医薬品、ワクチンなどを供給することを伝えたが、北朝鮮は「政府による決定」としてワクチン接種などを拒んでいる(19日付・ニューズウイークWeb版日本語)。国際社会の支援を受け入れれば、道義上からも弾道ミサイル発射や核実験はできないだろうが、薬草による治療などで自力更生の立場を貫いている以上はありうる。ここが北朝鮮の怖いところかもしれない。

   新潟日報Web版(22日付)によると、林外務大臣は新潟市内で講演し、北朝鮮への支援を検討する必要があるとの認識を示し、「あそこの国とは国交もない。だから放っておけばいいとはなかなかならない」と述べた。北朝鮮による拉致被害の原点でもある場所であり、支援を表明することで解決の糸口をつかみたいとのメッセージを込めたのだろう。気持ちは理解できるが、果たしてこのメッセージは伝わるのだろうか。

⇒23日(月)午後・金沢の天気     はれ

★能登半島・輪島から「SDGs観光」の発信を

★能登半島・輪島から「SDGs観光」の発信を

   内閣府は国連のSDGs(持続可能な開発目標)に沿ったまちづくりに取り組む自治体を「SDGs未来都市」として選定している。ことし新たに能登半島の輪島市や新潟県佐渡市など30自治体が選ばれた。選定は2018年に始まり、今回含め154の自治体が選ばれている(内閣府地方創生推進事務局公式サイト「2022年度SDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業の選定について」)。

   輪島市のテーマは「“あい”の風が育む『能登の里山里海』・『観光』・『輪島塗』 ~三位一体の持続可能な発展を目指して~ 」。「“あい”の風」とは日本海沿岸で冬の季節風が終わり、沖から吹いてくる夏のそよ風を言う。ところによっては「あえの風」とも言う。キーワードに世界農業遺産「能登の里山里海」、観光、輪島塗の3つを入れている。ちなみに佐渡市のテーマは「人が豊かにトキと暮らす黄金の里山・里海文化、佐渡 ~ローカルSDGs佐渡島、自立・分散型社会のモデル地域を目指して~」。トキと佐渡金山がキーワードになっている。

   輪島市の提案書を読もうと思い、市役所公式サイトにアクセスしたがまだアップはされていなかった。後日、内閣府の公式サイトで一括して掲載されるようだ。多様な地域の特性をSDGsの視点で見直し、「誰一人取り残さない」「持続可能な社会づくり」に活かしていこうというまさに地方創生の実現に向けた取り組みだ。

   輪島の朝市や千枚田、海女漁を見ればSDGsが体現された地域であることが理解できる。朝市はもともと農村や漁村のおばさんたちが農作物や魚介類を持ち寄って物々交換したことがルーツとされる。作り、採ったものが余った場合、廃棄するのではなく、物々交換という取引で豊かさを共有する場だった。「もったいない精神」と言えるかもしれない。同時に、SDGs目標12「つくる責任つかう責任」である。

   そして、海女漁はまさにSDGs目標14「海の豊かさを守ろう」だ。現在200人いる海女さんたちのルーツは1569年、福岡県玄海町鐘崎から船で渡って来た13人の男女だったと伝えられている(1649年「海士又兵衛文書」)。24種もの魚介類を採ることで生業(なりわい)を立てているだけに資源管理には厳しいルールがある。アワビ漁については、貝殻10㌢以下の小さなものは採らない、漁期は7月から9月の3ヵ月、時間は午前9時から午後1時、酸素ボンベは使わず素潜り。こうした厳格な自主規制で450年余り経ったいまでもアワビを採り続けている。

   千枚田では自然災害と向き合ってき人々のSDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」の精神が見えてくる。1684年、この地区では大きな地滑りがあり、棚田があった山が崩れた。「大ぬけ」といまでも地元では伝えられる。いまで言う深層崩壊だ。その崩れた跡を200年かけて棚田として再生した。まさにレジリエンスだ。それだけでない、いまも地滑りを警戒して、千枚田の真ん中を走る国道249号の土台に発砲スチロールを使用するなど傾斜地に圧力をかけないようにと工夫をしている。

   持続可能な人々の営みというのは、その歴史を検証すことで見えて来る。輪島市には今回のSDGs未来都市の認定で、「SDGs観光」という新たな情報発信をしてほしいものだ。

⇒22日(日)午前・金沢の天気    はれ

☆イギリスに受信料廃止の風は吹くのか

☆イギリスに受信料廃止の風は吹くのか

   NHK受信料制度の見直しにつながる動きになるかもしれない。イギリスの「デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)」が4月28日に発表した放送政策全般を見直す年次報告書(白書)『Up Next The Government’s vision for the broadcasting sector』が注目されている。その中にはことし100年の歴史を刻む公共放送BBCの改革の方針が述べられている。そのホワイトペーパーがDCMS公式サイトにアップされているのでチェックした=写真、人物はナディーン・ドリスDCMS担当相=。

   前置きで「The UK’s creative economy is a global success story, and our public service broadcasters (PSBs) are the beating heart of that success. (イギリスのクリエイティブな経済は世界的なサクセス・ストーリーであり、公共放送局はその成功の脈動する心臓に相当する)」と評価しながらも、改革は避けられないとそのポイントを上げている。

   直面するのはネット環境だ。イギリスの視聴者の「メディア消費」のあり様が大きく変化していることを数値を紹介している。イギリスでは79%の世帯がネットに接続されたテレビを所有している。このため、放送局の番組を視聴する時間の割合は2017年の74%から2020年の61%に減少。逆に有料制の動画サービスの視聴時間における割合は2017年の6%から2020年の19%に増加している。さらに、コンテンツのグローバル化問題を指摘している。アメリカ発の動画配信サービス「ネットフリック」などはイギリスの放送業者よりもはるかに大きな予算でコンセンツ制作を展開している。

   このような時代の変化にも関わらず、国民は世帯当たり年間で159ポンド(およそ2万5000円)の受信料(ライセンス料)をBBCに払い続けている。国民の間では不公平感が募っている。また、ライセンス料の支払いを拒んだ場合は刑事裁判がある。件数は示されていないが、2019年に支払いを拒否して有罪判決を受けた人々の74%は女性だったと白書で記載されている。イギリスでは、テレビを見たい視聴者は近くの郵便局で1年間有効の受信許可証を購入する。この許可証がなければ、電気屋でテレビそのものが買えないシステムだ。ネット時代で、この受信許可モデルは不公平感を増長するだけではないだろうか。

   BBCの放送事業の認可であるロイヤルチャーター(女王の特許状)は2027年にいったん切れる。それまではライセンス料の徴収は継続する。白書では、「BBCの受信料制度について見直しを進める」、さらに「BBCの商業部門の限度額(広告枠)を2倍以上に増やす」などと記載されてはいるが、具体案はない。「We will set out more details in the coming months.」と数か月後に詳細を提示すると述べている。

   ジョンソン首相は、BBCの受信料の廃止と視聴する分だけ金を払う有料放送型の課金制(サブスクリプション)への移行を公約として掲げてきた。一方で、受信料が廃止されることで、収入が不安定になり報道の質の高さや公共性が失われるという懸念もある。公共放送の経営と安定、視聴者の不公平感の解消、次なるメディアのコンテンツのあり様、さまざまな課題が凝縮されている。そして他人ごとではない。

⇒20日(金)午後・金沢の天気    くもり

★クマに注意、ズーノーシスに警戒

★クマに注意、ズーノーシスに警戒

    新聞を読むと、このところ毎日のようにクマの目撃情報が掲載されている。きょう19日付でも石川県内のかほく市、津幡町、羽咋市の4ヵ所に現れている。記事によると、羽咋市のある小学校では集団で登下校し、屋外活動は中止、市は防災行政無線で付近住民に注意喚起し、警察署と登下校時にパトロールしている。

   石川県自然環境課が今年4月下旬に行った調査で、県内10ヵ所の山林のうち、8ヵ所でクマのエサとなるブナの実が凶作だった。このことから、県は大量出没の危険があると判断し、今月10日付で人身被害を未然に防止するための「出没警戒準備情報」を発表した(石川県公式サイト「ツキノワグマによる人身被害防止のために」より)。県内では2020年、クマに襲われる人身事故が立て続けに発生して1年間で15人が負傷した。この事態を受け、県はブナの実のなり具合を調べる調査をこれまでの6月と8月の年2回に加え、昨年から4月にも花のつき具合などを調べている。また、県内の各市町では独自に捕獲用の檻を設置するなど対策を進めている。

   山から人里に下りてきているのはクマだけではない。金沢の住宅街にサル、イノシシ、シカが頻繁に出没するようになった。エサ不足に加え、中山間地(里山)と奥山の区別がつかないほど里山が荒れ放題になっていて、野生動物がその領域の見分けがつかず、人里や住宅街に迷い込んでくる、とも言われている。里山の過疎化で人がいなくなり、野生動物たちは山から下りてきて作物を狙い始めている。

   懸念されるのは人身事故だけでない。UNEP(国連環境計画)がまとめた報告書に「ズーノーシス(zoonosis)」という言葉が出てくる。新型コロナウイルスの発生源として論議を呼んでいるコウモリなど動物由来で人にも伝染する感染病を総称してズーノーシス(人畜共通伝染病)と呼ぶ。人間の活動が野生動物の領域であるジャングルなどの山間地に入れば、それだけ野生動物との接触度が増えて、感染リスクが高まる、という内容だ。最近、欧米を中心に感染が懸念されている天然痘に似た感染症「サル痘」、エボラ出血熱や中東呼吸器症候群(MERS)、HIVなどこれまで人間が罹ってきた感染症はズーノーシスに含まれる。

   少々乱暴な言い方になるが、日本でも「ズーノーシス」が起きるのではないか。ズーノーシスに感染した野生生物が人里や住宅街に頻繁に入ってくることで、新たな感染症がもたらされるかもしれない。

⇒19日(木)夜・金沢の天気      はれ

☆北のICBM発射と核実験はこのタイミングか

☆北のICBM発射と核実験はこのタイミングか

   朝鮮戦争は終わっていない。1953年7月にアメリカなど国連軍と中国・北朝鮮の連合軍が休戦協定に署名した。まもなく69年になるが、平和条約ではなく休戦協定であるため、韓国と北朝鮮は現在も形式上は戦争状態にあることに変わりない。

そうなると、アメリカ世論もアフガンのケースと同様にいつまで韓国に軍隊を駐在させる必要があるのかと撤退の声が高まる。北朝鮮の狙いはそこにあるのではないだろうか。

   前置きが長くなった。アメリカのバイデン大統領は今月20日に韓国を訪れ、尹錫悦大統領と会談し、22日に日本を訪れ、24日に東京都内で日米豪印(クアッド)首脳会合に出席する予定だ。CNNニュースWeb版日本語(5月18日付)によると、アメリカ情報当局の担当者の話として、北朝鮮は今後48~96時間のうちにICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験を行う準備を進めているとみられる。平壌近郊にある発射場の衛星画像から、過去の実験に向けた準備期間と同じ動きがみられるという。足場などの設置作業や燃料、車両や人員の動きを指すとみられる。北朝鮮は今月4日にICBMを発射している。また、豊渓里(プンゲリ)核実験場でも準備が進んでいるとみられ、今月中に地下核実験を実施する可能性もあると当局者は指摘している、と伝えている。

   一方、北朝鮮では新型コロナウイルスとみられる発熱症状の拡大が止まらない。北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」(18日付)は発熱者が相次ぎ、17日午後6時までの1日で、新たに23万2800人余りに症状が確認され6人が死亡したと伝えた。先月下旬以降の発熱者の累計は171万5900人余り、死者は62人に上っている(18日付・NHKニュースWeb版)。

   普通に考えれば、国内がコロナ禍でパンデミック状態にあれば、ICBM発射や核実験は人心を惑わすことにもなり中止するだろう。北朝鮮国営メディアは5月4日、7日、12日に発射した弾道ミサイルについて、3回とも公表を控えている。公表を控えてでも、ICBM発射や核実験は続けるということか。先月25日に「朝鮮人民革命軍」創設90年にあわせて軍事パレードを開催した金正恩総書記は「核戦力を最速ペースで強化・開発するため、措置を取り続ける」と表明している(4月26日付・BBCニュースWeb版日本語)。あさって20日の米韓首脳会談に向けて、か。朝鮮戦争は終わっていない。

(※写真は、ことし3月25日付・BBCニュースWeb版が「N Korea claims successful launch of ‘monster missile’ Hwasong-17」の見出しで報じた、全長23㍍の「モンスター・ミサイル」)

⇒18日(水)夜・中能登町の天気   はれ

★渡り鳥シギが舞い降りる千里浜の風景

★渡り鳥シギが舞い降りる千里浜の風景

   きのう能登半島の「千里浜なぎさドライブウェイ」を久しぶりに車で走行した。波打ち際を車で走ると爽快な気分になる。乗用車やバスで走行できる海岸は世界で3ヵ所と言われる。アメリカ(フロリダ半島)のデイトナビーチ、ニュージーランド(北島)のワイタレレビーチ、そして能登半島の千里浜だ。砂のきめの細かさと、適度に海水を含んで引き締まっていることでビーチが道路のようになる。

   千里浜はもう一つの名所でも知られる。春と秋の波打ち際にシギやチドリといった渡り鳥の群れが次々と降りてきて、人々を和ませる。この日は、シギの一群が舞い降りていた=写真=。渡り鳥はオーストラリアから日本を経由してシベリアを往復する。この季節は、冬場をオーストラリア周辺で過ごした渡り鳥が夏場の産卵のためにシベリアで行うに向かう。その途中に能登半島に立ち寄る。

   シギのお目当ては全長5㍉ほどの小さなエビ、ナミノリソコエビだ。波が引いた砂の上に残るナミノリソコエビを次の波が打ち寄せるまでのごくわずかな時間でついばむ。このエビは環境に敏感なことでも知られる。砂質が粗くなり汚泥がたまると生息できなくなる。逆な言い方をすれば、シギやチドリが舞い降りる海岸はきれいな海のバロメーターでもある。

   いつまでも渡り鳥が舞い降りる千里浜であってほしいと願うが、難題もいくつかある。砂浜の浸食は以前から問題となっている。河川災害を予防するためにつくられた砂防ダムや、コンクリートの護岸が設置されて、陸からの砂が海岸に運ばれなくなった。とくに、金沢港に建設された長い堤防の影響で、砂を含んだ加賀地方からの海流がせき止められて、千里浜への流れが少なくなってしまった。県や関係自治体では2011年に「千里浜再生プロジェクト」を設置して対策を講じてはいる。

   砂浜の浸食だけでなく、能登半島の対岸の国で捨てられたポリタンクやペットボトル、食品トレー、医療系廃棄物(注射器、薬瓶、プラスチック容器など)の漂着が相次ぐ。海洋プラスティックごみによって、海岸の汚染が懸念される。さらに、地球温暖化による海面の上昇も気懸りだ。気象庁の調べによると、1960年から2020年までの海面水位の変化を海域別に見た場合、北陸から九州の東シナ海側で他の海域に比べ大きな上昇傾向がみられる(気象庁公式ホームページ「日本沿岸の海面水位の長期変化傾向」)。

   海岸の浸食や漂着物、海面上昇によって、ナミノリソコエビの生息環境が失われつつあるのではないか。そんなことを案じながらの、なぎさのドライブだった。

⇒17日(火)夜・金沢の天気     はれ