★寒々しい森発言 ウクライナ侵攻で岸田批判のそもそも

★寒々しい森発言 ウクライナ侵攻で岸田批判のそもそも

   国連憲章違反であるにもかかわらず偽旗を掲げてウクライナに侵攻し、国連安保理を拒否権で機能不全に落とし込んでいるロシアに対して世界の多くの国々が疑心暗鬼になっている。これまで中立を掲げてきた北欧のスウェーデンやフィンランドでさえ、NATOの加盟を申請している。ウクライナには負けてほしくないという世界の動向が顕著になっている。

          NHKニュースWeb版(25日付)によると、アメリカのバイデン大統領は25日、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナに対して、アメリカの主力戦車「エイブラムス」31両を供与すると発表した。また、ドイツ政府も、ドイツ製の戦車「レオパルト2」を供与すると発表した。レオパルト2を保有してポーランドやフィンランドなどもウクライナへの戦車供与を表明した。

   現在ウクライナ側が地上戦で使っている戦車は旧ソ連製で、消耗が激しく、砲弾も枯渇気味という。今回、アメリカとドイツが供与する戦車は火砲や機動力面で性能が高く、弾薬補給や修理を継続的に受けられるなどメリットがある(26日付・読売新聞)。日本は軍事支援を行っていないが、越冬のための発電機262台を供与するなど人道や復旧・復興、財政支援を中心に13億㌦の支援を表明している(総理官邸公式サイト「日本はウクライナと共にあります」)。

   こうした欧米や日本のウクライナ支援の動きと裏腹に、気になったのが森喜朗元総理の発言だ。メディア各社の報道によると、東京都内で25日に「日印協会創立120周年記念レセプション」があった。会長に就任した菅義偉前総理があいさつ。岸田総理も来場してあいさつなどして10分ほどで帰った。その後、あいさつに立った森氏はウクライナを支援する日本政府の対応を疑問視し、「こんなにウクライナに力を入れてしまって良いのか。ロシアが負けることは、まず考えられない」と述べた。さらに、「せっかく(日露関係を)積み立てて、ここまで来ている」として、ウクライナに肩入れしすぎれば日露関係が崩壊しかねないとの認識を示した(25日付・共同通信Web版)。

   さらに、「ロシアが負けるってことはまず考えられない。そういう事態になればもっと大変なことが起きる。そういうときに日本がやっぱり大事な役割をしなきゃならん。それが日本の仕事だと思います」(同・朝日新聞Web版)

   森氏の発言は地元・石川県では理解できないことでもない。森氏の父親の故・茂喜氏はロシアのソ連時代に交流関係を築いた先駆者で、町長を務めた根上町(現・能美市)はシェレホフ市と姉妹都市関係を結んだ。茂喜氏の遺言で同市に墓が造られ、森氏が総理だった2001年3月にはイルクーツクで日露首脳会談を行い、当時のプーチン大統領とともに墓参している。父の遺志を引き継ぎ、ロシアとは浅からぬ縁がある森氏はプーチン氏と昵懇の仲と評されている。

   なので、ウクライナ侵攻が勃発したとき、森氏はプーチン大統領を諫(いさ)めに行くべきではないかと地元ではささやかれていた。それもなく、今ごろになって立ち去る岸田総理の背中に向けて石を投げるような今回の発言だ。そして、もしロシアが敗北することになれば、助けるのが「日本の仕事」とまで述べている。実に違和感がある。寒々しい森発言、また物議かもすかもしれない。

⇒27日(金)午前・金沢の天気    くもり   

☆強烈寒波がもたらす「絶対零度下の生活」と「スタック」

☆強烈寒波がもたらす「絶対零度下の生活」と「スタック」

   「最強寒波  県内襲来」「強烈寒波 1万戸停電」。朝刊各紙の見出しは派手に踊っている。けさ(午前8時ごろ)の気温はマイナス3度と寒いが、自宅周囲の積雪を物差しで測ってみると15㌢ほどだ。金沢に住む人たちは朝の雪の具合を見て、「大したことない。車が出れる。よかった」とひと安心したのではないか。金沢市内の小中学校は、大雪予想のため臨時休校となった。子どもたちは「雪で学校休み、もうけた」と喜んでいるかもしれない。

            ただ、「10年に一度の最強寒波」とあって記録が更新されている。金沢市の気温は午前0時過ぎにマイナス5.1度を観測し、最低気温が1997年以来26年ぶりにマイナス5度を下回るなど記録的な冷え込みになった。最高気温も氷点下の予報だ。かつて読んだ小説『絶対零度下の鋼(はがね)』(作者:夏之炎)を思い出した。小説の中身はほとんど記憶にないが、「絶対零度」をネットで検索すると、絶対零度はマイナス273.15度。東京工業大学の熱力学の研究者が発見した下限温度。熱振動(原子の振動)が小さくなり、エネルギーが最低になった状態、つまり、原子の振動が完全に止まった状態の温度のこと。

   マイナス273度とまではいかなくても、気温マイナス3度は震えるくらい寒い。まさに、生活の中の絶対零度下だ。そのマイナス気温で心配なのが、車の「スタック」現象が起こりやすいことだ。英語で「stuck」、「立ち往生」のことだ。積雪の多い道路では、道路の雪のわだちにタイヤがはまり、前にも後ろにも進めなくなる。わだちでの立ち往生は冬場では当たり前の光景だったが、「スタック」という言葉が3年ほど前から出始め、意外な効果もあった。

   この言葉が報道などで用いられるようになると、金沢市の除雪作業本部では2021年12月から除雪計画を見直し、それまで15㌢以上の積雪で除雪車を出動させていたが、10㌢以上積もれば除雪作業を行うことにした。市内幹線の雪道の安全度は確実に高まった。(※写真は、車道を除雪するショベルカー。大雪の道路では車の立ち往生が頻発する=金沢市内)

 

⇒25日(水)夜・金沢の天気    くもり時々ゆき

★寒波襲来に雪国は耐える 「冬来たりなば春遠からじ」

★寒波襲来に雪国は耐える 「冬来たりなば春遠からじ」

   「10年に一度のレベルと言われている強烈な寒波が襲来し、きょう日本海側では大雪による災害に警戒が必要です」とテレビのニュースや情報番組では何度も繰り返されている。少々聞き飽きた感がある。雪国に住んでいると、これが当たり前だからだ。寒波は2波、3波とやってくる。強烈な寒波は昔から「冬将軍」と称して、メディアに言われなくても身構える。

   メディアがしつこく報道するのは、日本海側の大雪もさることながら、太平洋側にも雪雲が流れ首都圏などでの積雪が予想されるからだろう。日ごろ雪が降らない都市では少しの雪でも、生活を直撃する。スノータイヤを履いていない車はスリップ事故が起きる。電気や水道などの生活インフラにダメージが起きる。さらに、配送など物流が滞る。

   今回の寒波で身の回りのことを言えば、あす25日に出席予定だった金沢での会議が延期になった。きょう午後4時ごろ、風雪の中で車を運転すると、マイナス3度となっていた。そのせいで、フロントガラスやバックミラーになどに雪がこびりついて運転に危なさを感じたので=写真=、ほどなくして自宅に引き返した。

   北陸ではこうした強烈な寒波に備えて、乗用車をスノ-タイヤに履き替え、庭木には雪吊りを施してリスクに備えている。ただ、雪国で慣れているとはいえ、屋根雪下ろしは滑って落ちることもあり緊張する。屋根に1㍍余りも雪が積もると、天上からミシッ、ミシッと音がすることもあり、これも緊張する。

   夕方のテレビニュースによると、ヤマト運輸が猛烈な吹雪により高速道路の通行止めなどが見込まれることから、石川県など北陸3県と新潟県で荷物の配送や集荷を停止した。また、石川県内のほとんどの自治体で、あす25日は小中学校の臨時休校を決め、多くの県立高校も臨時休校を予定している。

   金沢地方気象台は雪のピークについて24日夜から25日朝にかけてと予想している。寒波襲来、冬本番だ。「冬来たりなば春遠からじ」(イギリスの詩人シェリー)の言葉を思い起こしながら、雪国に人々はこの季節を耐える。

⇒24日(火)夜・金沢の天気    ふぶき

☆身を切らずして、安易に増税と言うなかれ

☆身を切らずして、安易に増税と言うなかれ

   ことしの政権の行く末を占うような世論調査が次々と出ている。テレビ朝日系ANNの1月の世論調査(今月21、22日実施)によると、岸田内閣の支持率が政権発足以来、最も低い28.1%となった。前回調査(12月17、18日)より3ポイントの下落。不支持率は47.5%で前回より4.2ポイント上昇した。防衛費の財源として段階的に増税する方針については「支持しない」が58%、「支持する」が30%となっている。    

   朝日新聞社が実施した1月の世論調査(今月21、22日)によると、内閣支持率は35%だった。前回調査(12月17、18日)は31%で岸田内閣発足以来最低を記録したが、今回は4ポイント上昇しやや持ち直した。不支持は52%で前回より5ポイント減少した。防衛費を増やすために、およそ1兆円を増税する方針については、「賛成」が24%、「反対」が71%だった。

   産経新聞社とフジテレビ系FNNの合同世論調査(今月21、22日)によると、内閣支持率は37.7%で、前回調査(12月17、18日)より0.7ポイント増だった。7ヵ月連続で下落していた内閣支持率が下げ止まった。不支持率は前回比0.6ポイント増の58.1%だった。政府が防衛力強化のため防衛費を大幅に増額する方針を決めたことについては「賛成」が50.7%で、「反対」42.8%を上回ったものの、必要な財源を法人税や所得税、たばこ税を段階的に増税して賄うことについては「反対」が67.3%を占め、「賛成」28.9%だった。

   時事通信の世論調査(12月13-16日)によると、内閣支持率は26.5%で、前回調査(12月9-12日)より2.7ポイント下落。政権維持の「危険水域」とされる20%台は4ヵ月連続となった。不支持率は43.6%で前回より1.1ポイント上昇した。防衛力強化に伴う増税方針の表明や一段と進む物価高などが影響したとみられる。

   きょう午後2時からのNHKの国会中継で、岸田総理は施政方針演説を行った=写真、総理官邸公式サイトより=。去年12月、安保関連3文書を改定し、「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有を宣言。新年度から5年間の防衛費を総額43兆円と1.5倍にし、増税で年1兆円強を捻出する方針も決めている。この増税が内閣支持率の低迷の要因になっていることは上記の世論調査の数字でも見て取れる。

   国会議員には毎月給与が129万円、そして300万円以上のボーナスが年に2回支給される。「第二の財布」もある。給与とは別に月額100万円の「調査研究広報滞在費」が支給される。領収書は不要で、使途報告や残金返還の義務はない。さらに、「立法事務費」では所属の党を通じて議員一人当たり65万円。これも領収書の提出や使途報告の必要はない。国会で寝ていても、欠席しても年間4200万円余りが支給される。

   岸田総理がこの議員の第二、第三の財布をカットすると宣言し、増税に踏み込むのであれば国民の理解が得られ、内閣支持率も上がるだろう。身を切らずして、安易に増税と言うなかれ。

⇒23日(月)夜・金沢の天気    はれ

★魚醤「いしる・いしり」とイタリア料理のマリアージュ

★魚醤「いしる・いしり」とイタリア料理のマリアージュ

   前回ブログの続き。魚醤はイタリア料理にも欠かせない。とくにパスタとの相性がいい。ペペロンチーノのようにシンプルなオイルパスタの仕上げに数滴添えるだけで天然の旨みというものが加わるから不思議だ。魚醤は隠し味、あるいは名脇役のような調味料なのだ。

   能登の「いしる・いしり」加工業者からかつて聞いた話によると、イタリアの魚醤には2つのタイプがある。それは、「ガルム」と「コラトゥーラ」と呼ばれる。ガルムは、アジやサバ、イワシ、マグロなどの魚をツボに塩と共に入れて発酵させてつくる。熟成期間は20日ほどと短めのようだ。コラトゥーラは、アンチョビの原料でもあるカタクチイワシのみでつくる魚醤で、木の桶に頭と内臓を取り除いて塩を入れて発酵させる。9ヵ月ほど熟成させる。

   魚の内臓を素材として使うということで、ガルムは能登のいしる・いしりと製造方法が近い。能登の加工業者によると、イタリアのガルム加工業者はスペインなどからも魚醤を取り寄せて、加工販売している。そして驚くことに、能登産いしる・いしりも原料を輸出していて、イタリアのガルムとして世界に販売されているそうだ。

   いしる・いしりは能登の郷土料理の隠し味というイメージだったが、オリーブオイルと混ぜてサラダのドレッシングにしたり、パスタはもちろん、魚や肉料理の万能調味料としてグローバルにイタリア料理の隠し味として活用されているようだ。

   そうした能登のいしる・いしりなど発酵食品を活かして、「能登イタリアン」の料理を出すのが、能登町にある民宿「ふらっと」。シェフのベンジャミン・フラットさんはかつてオーストラリアのシドニーのイタリアンレストランでヘッドシェフ(料理長)をしていた。オーストラリアで日本語教師をしていた妻の船下智香子さんと知り合い結婚し、智香子さんの実家がある能登町で民宿を開業した。

   妻の父親がイカの内臓でつくる「いしり」の加工業者だったこともあり、フラットさんはイタリアンと能登の発酵食のマリアージュにのめり込んでいく。一度民宿に訪れた時に、いしりとイカスミを使った手打ちパスタをいただいた。能登で味わう絶品のイタリアンだ。能登の豊かな自然でつくられる「いしる・いしり」と、それに魅了されてつくられるイタリアンの話は尽きない。

⇒22日(日)夜・金沢の天気    はれ

☆能登の魚醤「いしる・いしり」が発酵食文化のシンボルに

☆能登の魚醤「いしる・いしり」が発酵食文化のシンボルに

   きょうは二十四節気のひとつ「大寒」。夕方からゴーゴーと風の音が響く。まさに冬将軍の到来を告げる天の声だ。天気予報によると、週明けにこの冬一番の強い寒気が北陸付近に流れ込み、来週の24日ごろから平野部、山沿いともに警報級の大雪になるおそれがある。気温もかなり低くなる見通しで、25日の金沢の最高気温がマイナス1度、最低気温がマイナス4度となっている。 

   一方で、この冬の寒さは発酵食に最適だ。かぶらずし(ブリと青カブラのこうじ漬け)や大根ずし、そして日本酒も今が一番忙しい時節だ。中でも、「なれずし」は魚を塩と米飯で乳酸発酵させる能登の伝統食だ。なれずしは琵琶湖産のニゴロブナを使った「ふなずし」が有名だが、能登ではアジやブリ、川魚など種類が豊富だ。なれずし独特の匂いがあり、なじめない人も多いが、食通にはたまらない味と匂いだろう。とくに「ヒネもの」と呼ばれる2年以上漬け込んだものは格別だ。

    前置きが長くなった。日本の3大魚醤と言えば、秋田の「しょっつる」、香川の「いかなご醤油」、そして能登の「いしる」「いしり」だ。イカの内臓やイワシを発酵させたもの。能登では材料がイワシのものを「いしる」、イカの内臓のものを「いしり」と称するが、場所によっては呼び方が異なる。

   大学教員の時代に学生や留学生たちを連れて、能登の「いしる・いしり」加工工場を何度か見学した。貯蔵庫入口のドアを開けると、発酵食の原点でもある魚醤のタンクがずらりと並んでいる。そして、とたんに発酵のにおいに包まれる。発酵のにおいは不思議だ。「ヤバイ」と言いながら鼻をふさぐ者もいれば、「どこか懐かしいにおいですね」と平気な学生もいる。フランス人の女子留学生は逃げるようにして遠ざかった。

   魚醤は日本料理のほか、イタリア料理の隠し味としてもニーズがある。この加工工場の経営者の話では、イタリアから製品化について問い合わせがあるとのことだった。能登の魚醤がヨーロッパに進出するかもしれない。

   その「いしる・いしり」がきょうニュースになった。朝日新聞Web版によると、国の文化審議会は、「能登のいしる・いしり製造技術」を国の無形民俗文化財に登録するよう文部科学大臣に答申した。天然の発酵力を生かした製造技術には地域の特色があり、発酵調味料の製造技術の変遷や、地域差を理解する上で重要だと評価された。能登のいしる・いしり製造技術のほかに、近江のなれずし製造技術(滋賀県)も同じく答申された。日本の発酵食文化のシンボルとして殿堂入りする。

⇒20日(金)夜・金沢の天気    くもり時々あめ

★インフレの中で、日銀は異次元緩和を続行のナゼ

★インフレの中で、日銀は異次元緩和を続行のナゼ

   赤字は膨らむ。財務省がきのう報道発表した「令和4年分貿易統計(速報)」によると、輸出額は前年比で18.2%増の98兆1860億円だったものの、輸入額は前年比で39.2%増えて118兆1573億円だった。輸出額から輸入額を引いた貿易収支は19兆9713億円の赤字だった。比較可能な1979年以降で最大の赤字となった。

   輸入額が膨らんだ背景には、ロシアによるウクライナ侵攻で、中東からの原油のほかオーストラリアの液化天然ガスなどの国際価格が上昇し、さらに「有事のドル買い」で円安が進んだ。追い打ちをかけるように日本とアメリカの金利差から一時1㌦=150円を超えるなど円安が顕著になった。

   原油価格や円安は物価に跳ね返る。総務省が毎月発表している消費者物価指数によると、直近の数字(2022年11月分)は前年同月比で3.8%の上昇だった。食料品やエネルギーなど生活に身近な品目の値上がりが続く。

   物価高は身の回りで感じる。近所のガソリンスタンドでは1㍑167円から170円で高止まりしている=写真=。クリーニング店では、かつてワイシャツ1枚180円がいまは240円、コットンパンツもかつて420円がいま600円だ。クリーニング店で話を聞くと、クリーニング工場では石油系の溶剤が使われ、アイロンやプレス機で使う蒸気は重油ボイラーとさまざまなものに石油製品が使われていて、原油価格はクリーニング料金に直結している、ということだった。

          これだけ物価上昇、インフレが進んでいるのに不可解なことがある。日銀の黒田総裁はきのうの金融政策決定会合後の会見で、「長期金利の変動幅をさらに拡大する必要があるとは考えていない」と発言、大規模緩和を続ける考えを改めて強調した。すると、為替市場は反応し、それまで1㌦=128円だった円相場が131円と円安ドル高にぶれた。そもそも、異次元緩和を解除する前提はインフレ率は2%の物価目標ではなかったか。上記のように消費者物価指数が3.8%になっているにもかかわらず、日銀がかたくなに異次元緩和を継続する理由は一体どこにあるのか。

   黒田総裁はいまのインフレに疑問を持っているようだ。経団連での講演会(先月26日)でこう述べている。「ウクライナ情勢、感染症の影響など、わが国経済をめぐる不確実性も、きわめて高い状況です。消費者物価は、現在2%を上回る上昇率となっていますが、先行きはプラス幅を縮小し、年度平均では、来年度以降、2%を下回るとみています。こうした経済・物価情勢を踏まえると、金融緩和によって、経済をしっかりと支え、企業が賃上げを行いやすい環境を整えることが必要だと考えています」

   ことしは通年のインフレ率が2%を下回るので異次元緩和を続けるというのだ。このタイミングを見計らったかのように、経団連は今月17日、ことしの春闘で経営側の交渉方針を示す「経営労働政策特別委員会報告」を発表し、急速な物価上昇を受け、基本給を底上げするベースアップを「前向きに検討することが望まれる」と明記した。中小企業を含めて幅広く賃上げの動きが広がり、景気の浮揚につなげられるかが焦点となる(17日付・読売新聞Web版)。

   経団連が春闘で賃上げをすることを約束したという内容だ。私見だが、黒田総裁と経団連側の「密約」があったのだろう。賃上げをベースにして、物価上昇を2%に高めることで異次元緩和を解除していく。賃上げによって、日銀が掲げる「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けて動き出す。春闘本番は3月、黒田総裁の退任も3月、この時期に合わせたのだろう。

⇒19日(木)夜・金沢の天気    あめ時々くもり

☆「中国 人口減」は「一人っ子政策」のツケなのか

☆「中国 人口減」は「一人っ子政策」のツケなのか

    最近のニュースで何かと中国が取り上げられている。きょうは「中国 人口減」の見出しが新聞一面のトップを飾っている=写真=。記事によると、中国の国家統計局は17日、2022年末時点の人口は14億1175万人で、前年から85万人減少したと発表した。人口減少は1961年以来、61年ぶりとなる。その主な要因は出生数の低下だ。2022年の出生数は956万人と、前年から107万人減少した。これは一時的な現象ではない。2014年の出生数は1904万人だったので、この8年間で1000万人近く減少したことになる。

   もともと中国は1979年から「一人っ子政策」をしいて人口抑制を図っていたが、2016年に2人目、2021年に3人目の出産を認めた。それでも少子化に歯止めがかからないようだ。長く続いた一人っ子政策によって、中国にはいろいろな現象が起きているのではないだろうか。

   2012年8月に中国の浙江省を訪れたときに、中国人の女性ガイドから聞いた話だ。当時、中国は地方でもマンション建設ラッシュだった。ガイド嬢に「なぜ地方でこんなにマンションが建っているのか、ニーズはあるのか」と尋ねた。すると、「日本でも結婚の3高があるように、中国でも女性の結婚条件があります」と。1つにマンション、2つに乗用車、そして3つ目が礼金、だと。礼金にもランクがあって、基本的にめでたい「8」の数字。つまり、8万元、18万元、88万元となる。こうした3高をそろえるとなると男性は大変、との話だった。

   その3高の背景には「一人っ子政策」がある。中国では、男子を尊ぶ価値観があり、性別判定検査で女子とわかったら人工中絶するケースが横行していた。その結果、出生の男子の比率は女子より高くなる。これが、結婚適齢期を迎えると、女性は引く手あまたとなり、3高をもたらす。一方で、男性は「剰男」(売れ残りの男)と称される結婚難が社会問題にもなっている。

   さらに、結婚した男女には「子は一人で十分」という考えが浸透している。日本では「若者の低欲望化」などと称されているが、中国でも物質的な満足ではなく、こだわりを重視するステージに入っている。その典型的な事例が「教育熱」だ。子どもの教育に時間と金をかけるので、「子は一人で十分」という発想になっていく。

   なので、政府から「どうぞ、自由に産んでください」と言われてもそう簡単ではない。さらに、「6つのポケットを持つ小皇帝」と呼ばれて育った人たち、つまり、両親と父方母方それぞれの祖父母の計6人にかわいがられて育った「一人っ子」たちが大人になって、今度は年老いた両親や祖父母の世話を背負うことの負担は重いに違いない。メディアでは報じられていないが、一人っ子政策に起因する問題は山積しているだろう。

⇒18日(水)夜・金沢の天気   くもり時々あめ

★「1・17」から28年 地震被災地を訪ね何思う

★「1・17」から28年 地震被災地を訪ね何思う

   ちょうど28年前の1995年1月17日午前5時46分に発生した阪神・淡路大震災は震度7だった。金沢の自宅で睡眠中だったが、グラグラと揺れたので飛び起きた。テレビをつけると大変なことになっていた。当時民放テレビ局の報道デスクだったので、着の身着のまま急いで出勤した。系列局のABC朝日放送(大阪)に記者とカメラマンの2人を応援に出すことを決め、応援チームは社有車で現地にかけつけた。取材チームの無事を祈り見送ったものの、日本の安全神話が崩壊したと無念さを感じたことを覚えている。金沢は震度3だった。

   そのことが身近で現実になったのは12年後、2007年3月25日午前9時41分に起きた能登半島地震だった。マグニチュード6.9、震度6強の揺れで、輪島市や七尾市、輪島市、穴水町で家屋2400棟余りが全半壊し、死者1人、重軽傷者は330人だった。当時は金沢大学に転職していたので、大学の有志と被災調査に入り、その後、学生たちを連れて被害が大きかった輪島市門前地区=写真・上=を中心に高齢者世帯を訪れ、散乱する家屋内の片づけのボランティアに入った。

   この能登半島地震がきっかけで全国の被災地を訪れ、取材をするようなった。同じ年の7月16日、新潟県中越沖地震(震度6強)が発生した。取材の目的は、柏崎市のコミュニティー放送「FMピッカラ」のスタッフに話を聞くことだった。通常のピッカラの生放送は平日およそ9時間だが、災害発生時から24時間の生放送に切り替え、41日間続けた。同市では75ヵ所、およそ6000人が避難所生活を余儀なくされた。このため、被災者が当面最も必要とする炊き出し時刻、物資の支給先、仮設の風呂の場所、開店店舗の情報などライフライン情報を中心に4人のパーソナリティーが交代で流し続けた。そして、「聞き慣れた声が被災者に安心感を与える」とのコンセンプトで続けた。被災地で地域メディアの果たす役割について考えさせられた。

   2011年3月11日の東日本大震災の後、気仙沼市を調査取材に訪れた。当時、気仙沼の街には海水の饐(す)えたような、腐海の匂いが立ち込めていた。ガレキは路肩に整理されていたので歩くことはできた。岸壁付近では、津波で陸に打ち上げられた大型巻き網漁船(330㌧)があった。津波のすさまじさを思い知らされた。

   気仙沼は漁師町。市役所にほど近い公園では、数多くの大漁旗を掲げた慰霊祭が営まれていた。津波で漁船もろとも大漁旗も多く流されドロまみれになっていた。その大漁旗を市民の有志が拾い集め、何度も洗濯して慰霊祭で掲げた。その旗には「祝 大漁」の「祝」の文字を別の布で覆い、「祈」を書き入れたものが数枚あった=写真・中=。漁船は使えず、漁に出たくとも出れない、せめて祈るしかない、あるいは亡き漁師仲間の冥福を祈ったのかもしれない。「午後2時46分」に黙とうが始まり、一瞬の静けさの中で祈る人々、すすり泣く人々の姿は今も忘れられない。

   2016年4月16日の熊本地震。震度7の揺れに2度も見舞われ、震度4以上の余震が115回も起きた。震災から半年後に熊本市と隣接の益城町の被災現場を訪ねた。かろうじて「一本足の石垣」で支えられた熊本城の「飯田丸五階櫓(やぐら)」を見に行った。ところが、石垣が崩れるなどの恐れから城の大部分は立ち入り禁止区域になっていて、見学することはできなかった。櫓の重さは35㌧で、震災後しばらくはその半分の重量を一本足の石垣が支えていた=写真・下、熊本市役所公式ホームページより=。まさに「奇跡の一本石垣」だった。熊本城の周囲をぐるりと一周したが、飯田丸五階櫓だけでなく、あちこちの石垣が崩れ、櫓がいまにも崩れそうになっていた。

   崩れた10万個にもおよぶ石垣を元に戻す作業は時間がかかる。飯田丸五階櫓もようやく石垣部分の積み直しが終わったものの、復旧工事は2037年度まで続く(熊本市役所公式ホームページ)。名城の復旧には時間がかかる。

⇒17日(火)夜・金沢の天気    くもり時々あめ

☆コロナ禍で丸3年 「ブラボー」まだ叫べない

☆コロナ禍で丸3年 「ブラボー」まだ叫べない

   新型コロナナウイルスの感染拡大は第8波に見舞われている。その起点となる最初の感染が確認されたのが2020年1月15日だったので、ちょうど3年たったことになる。この間、マスク着用やソーシャルディスタンスなどは日常の自然の振る舞いのようにもなった。そして、さまざまな変化にも気づく。

   先日、金沢市にある県立音楽堂で開催されたコンサートに出かけた。新型コロナウイルスの感染を避ける観客席の制限はとくになかったものの、一点だけ注意のアナウンスがあった。「ブラボーの声掛けは控えてください」。素晴らしい演奏にブラボーが飛べば客席の気分がさらに盛り上がるものだが、確かにブラボーを叫べば前方につばが飛ぶだろう。今後、コロナ禍が沈静化しても、ブラボーは復活しないかもしれない。

   もう一つ。茶道の茶会で濃茶は茶碗の回し飲みをする「吸い茶」が流儀だったが、コロナ禍では各服点(かくふくだて)と呼ばれる、一人が一碗で飲む流儀になっている。この各服点は、百年前の大正期にスペイン風邪と呼ばれるインフルエンザが日本で大流行したときに導入されたが、風邪が治まって吸い茶が復活していた。コロナ禍で人々の衛生観念はかなり敏感になった。コロナ禍が終了したとして、回し飲みの流儀にすんなりと戻るのか。

   話は海外に飛ぶ。いま流行のオミクロン株は世界で派生型の種類が多いとされる。メディアが連日取り上げている、中国のゼロコロナ政策解除の爆発的な感染拡大、さらに、春節の休暇(今月21-27日)による中国人の海外渡航の問題。中国国内ではすでに集団免疫を獲得していて、渡航を許可しているのかもしれない。ところが、中国政府が感染者数や死亡者数をあいまいにしたことから、他国は疑心暗鬼に陥っている。

   逆なことを考えると、中国人が国内で集団免疫を獲得していたとしても、海外の旅先で別の変異株に感染すると、帰国後にそれが新たな感染拡大の要因になるのではないか。人とコロナウイルスのいたちごっこが繰り返される。もちろん、中国だけの話ではない。コロナ禍の収束までには相当な時間がかかりそうだ。

⇒16日(月)夜・金沢の天気   くもり