☆ホタル舞う田んぼ 自然との共生のドラマがある


宇野文夫が日常の観察、大学での見聞、環境問題、時事問題、メディアとインターネットに関する考察を綴るブログ。新聞記者、民放報道局長、金沢大学特任教授を経て、現在はフリーで活動中。著書に『実装的ブログ論』(幻冬舎)など。
BBCニュースWeb版(25日付)はそのことを、「Prigozhin was adamant this was “a march for justice”, not a coup. Whatever it was, it came to an end very fast.」と伝えている=写真=。プリゴジンは、これはクーデターではなく「正義のための行進」であると断固として主張した。それが何であれ、それは非常に速く終わった。BBCはじつに簡潔な表現で伝えている。
ウクライナへの軍事侵攻をめぐり、ロシア国防省を非難する民間軍事会社ワグネルは24日朝にロシア南西部のロシア軍の拠点に入った。これに対し、プーチン大統領は同日午前、緊急テレビ演説を行い、ワグネルの行動は「我が国民を後ろから刺す」「裏切り」と非難した。これに対し、ワグネル創設者のプリゴジン氏は、この行動はロシア国民のためで、「正義のための行進」だと述べ、モスクワへと北上を続けた。
それが一転、部隊を引き返す。プリゴジン氏は24日夜(日本時間の25日午前2時すぎ)にSNSの音声メッセージで、「われわれは正義の行進に出た。しかし、ロシア人の血が流れることへの責任を自覚し、部隊を拠点に戻すことにした」と、流血の事態を避けるための決断だと述べた(25日付・NHKニュースWeb)。
一連のニュースに注目していて、プリゴジン氏は反乱者なのか英雄なのかと思っていたが、どうやらただの反乱者のようだ。メディア各社の報道をまとめると、ロシアと同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領がプリゴジン氏と直に協議を行い、プリゴジン氏がルカシェンコ大統領の申し出を受け入れた。プリゴジン氏をベラルーシに亡命させる。ワグネルの部隊はロシア国防省に組み入れる。プーチン大統領は緊急テレビ演説で「国家反逆罪と見なす」「全員処罰すると」と述べていたが、ロシア大統領府の報道官は、プリゴジン氏ならびにワグネルの戦闘員に対して、「罪は問わない」と表明した。
以下は憶測だ。プリゴジン氏は現政権にたった一日とは言え、反旗を翻した反乱者であることは事実である。この「プリゴジンの乱」をプーチン大統領は許すだろうか。今後プリゴジン氏はベラルーシに逃れるとは言え、将来、同調する勢力が現われ再び反旗を翻すとも限らない。プーチン氏はそう考えるのではないか。覚悟なき反乱の報い、その顛末はどうなる。
⇒25日(日)夜・金沢の天気 くもり
もう7年前になる。アメリカの当時のオバマ大統領が2016年5月27日、伊勢志摩サミット(G7首脳会議)の帰りに、安倍総理とともに広島市の平和記念公園の原爆死没者慰霊碑を訪れ、献花に臨んだ。オバマ氏は献花の後に頭を下げずに黙祷した。原爆投下の「謝罪はせず」という意味を込めていた。アメリカの現役大統領で初めての献花だった。(※写真・上は、オバマ大統領が安倍総理とともに原爆慰霊碑で献花=外務省公式サイト「オバマ米国大統領の広島訪問」より)
そして、その7ヵ月後の12月26日、安倍氏はオバマ氏とともにハワイのパールハーバー(真珠湾)を訪れ、かつて攻撃した側と攻撃された側の国の首脳がそろって慰霊した。このとき、安倍氏は「不戦の決意」を語ったが、謝罪に関することは口にしなかった。安倍氏とオバマ氏の双方が戦争の始まりと終焉の地で慰霊したことで、過去の悲しみを耐えて憎しみを乗り越え、過去への謝罪ではなく、未来志向で平和と和解のかけ橋の役割を果たす決意でもあった。(※写真・下は、パールハーバーを訪れ、声明を発表する安倍総理=外務省公式サイト「安倍総理大臣のハワイ訪問」より)
そして、ことし5月19日、G7広島サミットに訪れた各国首脳らが原爆慰霊碑で一列に並んで花を手向け、記念の植樹をした。国際社会に向けて核兵器による惨禍を二度と起こさないという強いメッセージとなったことは間違いない。
そのハワイのパールハーバー国立記念公園と広島の平和記念公園が姉妹公園の協定を結ぶことになった。メデアィア各社の報道によると、広島市が発表した。ことし4月、アメリカ側から広島市に対し、G7広島サミットをきっかけに協定を結びたいという打診があり、同市はG7サミットで出された核軍縮に関する声明「広島ビジョン」の実現に向けた機運の醸成にもつながるとして、受け入れを決めた。今月29日に姉妹公園の協定を結ぶ(22日付・NHKニュースWeb版)。
協定は署名から5年間有効で、具体的には▽若い世代に平和の尊さを伝える企画や▽公園の保全や来場者を増やす手法の共有などで連携する方針。アメリカ側は、パールハーバー国立記念公園について「太平洋戦争の当事者間の相互理解と平和の推進を目的とし、平和公園と目指すところは共通している」という見解を示している。29日の調印式は都内にあるアメリカ大使館で行われる予定(同)。
パールハーバーとヒロシマにはその背後に脈々と流れる歴史の連続性というダイナミックなドラマがある。ぜひ、日米と世界の子どもたちへの平和教育の場として連携してほしいと願う。
⇒23日(金)夜・金沢の天気 あめ
きのう自宅近くのガソリンスタンドで給油した。これまで1㍑165円前後だったのに、急に1㍑170円にアップした=写真・上=。スタンドの店員との立ち話だが、政府が石油の元売り会社に支給している補助金が徐々にカットされていて、「補助金がなくなれば、あと10円ほど高くなりますよ」とのこと。政府の補助金カットだけでなく、アメリカのFRBも年末までにさらなる利上げを示唆したことから円安が進んでいる。ガソリン価格もどこまでぶれていくのか。
マイナンバーカード問題もぶれまくっている。目立つのは、マイナンバーカードと一体化した健康保険証をめぐってこれまでに他人の情報が登録されていたケースが7300件余り確認されているにもかかわらず、政府は来年秋に保険証を廃止し、マイナンバーカードに一体化する方針を進めている。政府とすれば、カードを発行する自治体による共用端末のログアウト忘れや事務処理の誤りなど人為的なミスによるもので、マイナンバカードの仕組みそのものに問題はない、との理解のようだ。
岸田総理はマイナンバーカードを「デジタル社会のパスポート」と位置づける狙いがあるようだが、国民世論は健康保険証の廃止について、「廃止を延期するべき」38.3%、「廃止を撤回するべき」33.8%と、計72.1%ものが来年秋の廃止に違和感を持っている(共同通信・今月17,18日調査)。このミゾをどう埋めるかが先決だろう。
アメリカと中国の関係もぶれにぶれている。アメリカのバイデン大統領は20日にカリフォルニア州で開かれた民主党の政治資金パーティーで今年2月にアメリカ軍が偵察用と思われる中国の気球を撃墜した問題に言及。「偵察機器を満載した気球を私が撃墜した際、習氏は激怒したが、それはそこに気球があったことを知らなかったからだ」「真面目な話だ。何が起きたか知らないというのは、独裁者にとって非常に体裁が悪いものだ」と述べた。習主席を「独裁者」呼ばわりした(21日付・AFP通信Web版日本語)。
米中関係が悪化する中、アメリカのブリンケン国務長官が中国を訪れて19日に習主席と会談し、関係改善に向け対話を維持することを確認したばかりだった。バイデン大統領の心情は察するが、タイミングが悪くぶれ幅が大きく感じられた。
(※写真・下は、2022年11月、バイデン大統領と習主席がバリで会談=中国外務省公式サイトより)
⇒22日(木)午後・金沢の天気 あめ
きょうは二十四節気の「夏至」にあたる。太陽が真南に来たときの位置が一年で最も高くなる。簡単に言うと、一年で最も日が長く、夜が短い。これから夏の盛りへと、暑さが日に日に増していく。で、ことしの夏は猛暑なのか冷夏なのか、普通の夏なのか気になっていたが、ウェザーニューズ社はきのう20日、公式サイトで7月から9月までの気温に関する見解「猛暑見解2023」を発表した。
それによると、ことしの夏の気温は全国的に平年より高く暑い夏になる見通し。7月下旬から8月上旬にかけて暑さのピークを迎え、西日本や沖縄を中心に猛暑となる予想だ。添付されている予想図を見ると、真っ赤に焼け付いた日本列島が描かれている。
ことしは海面水温が高くなるエルニーニョ現象がやっくるとこれまで報道されていた。エルニーニョは冷夏をもたらすとのイメージがあったのだが、どうやらそんな単純な話ではないようだ。猛暑見解2023の記事を読んでいて気になった言葉が「ダブル高気圧」。高度が異なる太平洋高気圧とチベット高気圧があり、チベット高気圧が日本付近まで張り出した場合は、太平洋高気圧と上空で重なり合ってダブル高気圧となり、厳しい暑さをもたらす。35度以上の猛暑日が続いたり、フェーン現象が起こりやすい場所では40度前後の酷暑になることもあるそうだ。
気になる北陸の状況をチェックすると。【7月の気温】平年より高い予想。梅雨期間中は、晴れ間が出て蒸し暑い日もある見通し。梅雨明け後は、夏空が広がって暑さの厳しい日が多くなる。【8月の気温】平年より高い予想。晴れて暑くなる日が多い中、にわか雨や雷雨の発生で暑さが和らぐ日もある。【9月の気温】平年より高い予想。月の前半は晴れ間の出る日が多く、残暑が厳しくなり、後半は曇りや雨の日が多く、蒸し暑くなる日もある。
これだけ猛暑が長く続くと、熱中症が気になる。エアコンの室温設定を上げればよいが、6月から値上げされた電力料金も気になる(北陸電力は39.7%アップ)。なんとか乗り切ったとしても「夏バテ」でヘトヘトになるのではないか。この先が思いやられそうな、夏が来た。
⇒21日(水)午前・金沢の天気 くもり
ウクライナのゼレンスキー大統領も飛び入り参加するなど、G7広島サミットが注目されて岸田総理の株は上がった。が、その後、秘書官を務めていた長男が総理公邸で親族を集めて忘年会を開いていたことが発覚し、最近ではマイナンバーカードをめぐる相次ぐトラブルや健康保険証との一本化を進める政府方針をめぐって世論は揺れている。共同通信社の世論調査(今月17、18日)によると、内閣支持率は40.8%と前回(5月27、28日)47.0%を6ポイントも下げた。不支持は41.6%で前回35.9%より6ポイント上がり、再び不支持が支持を上回った。
下げの主な要因は、やはりマイナンバーカードにあるようだ。世論調査では、マイナンバーカードについて、「他人の年金情報が表示されたり、他人の口座や医療情報が登録されたりするトラブルが相次いでいます。あなたは、政府が進めるマイナンバーカードの活用拡大に不安を感じていますか」と問いに、「不安を感じている」39.8%、「ある程度感じる」31.8%と、計71.6%が不安に感じるていることが分かった。
そもそも論ではあるが、マイナンバーカードは市区町村長が交付するもので、取得は義務ではなく任意である。なのに、健康保険証を来年秋に廃止して、マイナンバーカードに一本化するなど本末転倒ではないかとの強い違和感が世論調査で浮かんで見える。
ところが、デジタル庁は2026年中にも偽造防止のため、暗号技術などを採用する新たなマイナンバーカードの導入を目指す方針を示していて、改正マイナンバー法を今月2日の参院本会議で可決成立させている。民意とは裏腹に、岸田総理がマイナンバーカードの普及をゴリ押しする背景には、これを「デジタル社会のパスポート」と位置づける狙いがあるようだ。
であるならば、国民にもっと丁寧に説明すべきだろう。世論調査では健康保険証の廃止について、「廃止を延期するべき」38.3%、「廃止を撤回するべき」33.8%、「予定通り廃止するべき」24.5%と、来年秋の廃止に対する異論は72.1%にも及ぶ。マイナンバーカードのゴリ押しで、内閣支持率がガタ落ち。こうなると衆院解散の話どころではない。どうする岸田内閣。
(※写真は今月18日、母校の早稲田大学で講演する岸田総理=総理官邸公式サイトより)
⇒20日(火)夕・金沢の天気 はれ
能登半島の舳倉島の沖合250㌔に北朝鮮が弾道ミサイルを落下させたことをきっかけに、記者時代に取材に訪れたこの島のことを再認識する意味で書き綴っている。ブログをチェックしてくれた東京の知人から、「この島で大伴家持の時代からアワビが採れていて、いまでも海女さんたちがアワビ漁を続けているということは、まさにSDGs=持続可能な海の資源ではないか。でも、それがどうして可能なんだ」と、メールで感想と問い合わせがあった。
確かに周囲5㌔ほどの小さな島で、大伴家持が能登を訪れてアワビのことを詠ってから1270年余りの間、連綿とアワビ漁が続いている。素潜りなので、一番深いところ18㍍ほどと採取エリアが限られている。そして、海女さんたちは自主的に厳しいルールをつくっている。アワビの貝殻の大きさ10㌢以下のものは採らない。漁期は7月1日から9月30日までの3ヵ月。海に潜る時間は午前9時から午後1時までの4時間と制限している。さらに、休漁日は一斉に休む。こうしたルールを互いに守ることで、持続的なアワビ採りの恩恵にあずかっている。
しかし、漁獲量は減少している。昭和59年(1984)の漁獲量39㌧をピークに右肩下がりで減少し、近年では2㌧ほどと20分の1に減少している。このため、島に禁漁区を設け、種苗の放流、アワビを捕食するタコやヒトデなどの外敵生物の駆除作業などを行っている。この傾向は舳倉島だけでなく、世界のアワビを襲っている。
野生生物の絶滅のリスクなどを評価しているIUCN(国際自然保護連合、本部=スイス・グラン)は去年12月10日、世界に54種あるアワビのうち、日本で採取されている3種(クロアワビ、マダカアワビ、メガイアワビ)を含め20種について、「絶滅の危機が高まっている」として新たにレッドリストの絶滅危惧種に指定した(IUCN公式サイト)。
アワビは日本だけでなく世界でも高級食材であり、南アフリカでは犯罪ネットワークによる密猟で壊滅的な打撃を受けている。さらに、「海洋熱波」によりアワビがエサとしている藻類が減り、西オーストラリア州の最北端では大量死。また、農業および産業廃棄物が有害な藻類の繁殖を引き起こしていて、カリフォルニアとメキシコ、イギリス海峡から北西アフリカと地中海にかけてはアワビの病弱化が報告されている。このアワビ激減の対応策として、IUCN研究員は「養殖または持続可能な方法で調達されたアワビだけを食べること。そして、漁業割当と密猟対策の実施も重要」と述べている(同)。
舳倉島でもクロ、マダカ、メガイの3種のアワビが採れている。今回のIUCNによるレッドリスト化によって、海女さんたちはさらにどのような取り組みを進めるのか。海の生態系から得られる恵みを肌で感じている海女さんたちがこの難題をどう乗り越えるのか、国際的にも注目されるときが来たのではないだろうか。アワビ漁は来月1日に解禁となる。
⇒19日(月)夜・金沢の天気 くもり
前回の続き。舳倉の海女さんは魚介類を専門とするプロの漁業者だ。アワビやサザエのほか、ワカメ、イシモズク、エゴノリなどの海藻、イワガキやナマコなど25種類もの魚介類を採取している。アワビは貝殻つきで浜値で1㌔1万円ほどする。よく働き、よく稼ぐ。新聞記者時代に取材に訪れたとき、海女さんたちから「亭主の一人や二人養えんようでは一人前の海女ではない」という言葉を何度か聞いた。自活する気概のある女性たちの自信にあふれた言葉だった。
いまから、69年前の1954年にイタリアの文化人類学者で写真家もあった、フォスコ・マライーニ(1912-2004)という人物が舳倉島にやってきた。島で見たこと、聞いたことを、自ら撮影した記録映像でまとめ、本も出した。日本語版は『海女の島 舳倉島』(未来社、初版1964年)として出版されている。
日本語版の本を読むと、マライーニは海女さんたちのことを「日本のヴィーナスたち」と表現している。自身はヴィーナスと言えば、フランスのルーブル美術館にある「ミロのヴィーナス」をイメ-ジしていた。なので、マライーニのこの本を読んでからもずっと、海女さんをミロのヴィーナスに例えたのだと勝手に想像していた。
それが変わったのは、今から17年前の2006年にイタリアのフィレンツェを金沢大学のスタッフとともに訪れたときだった。美術館めぐりなどを行い、ウフィツィ美術館を鑑賞に訪れたとき、アッと気がついた。ボッティチェリの作品「ヴィーナスの誕生」(1483年作)が展示されていた。作品はホタテの貝殻から生まれた、まさに海のヴィーナスだった。マライーニはフィレンツェで生まれで、フィレンツェ大学で教鞭をとっていたので、小さいころからこのボッティチェィリの作品を見ていたはずだ。ということは、彼のヴィーナスのイメージはこの海のヴィーナスなのだと初めて気がついた。
マライーニの頭の中には、ヴィーナスと言えば、海のイメージがあった。そこで、海に生きる日本の海女さんたちにとても興味を持った。そう考えると、本当の海のヴィーナスを見てみたいと、イタリアから舳倉にやってきた理由がようやく分かった。漁村に生まれ、海に生きる女性たち、マライーニはメージしていた本当のヴィーナスたちに会いたかったのだろう。舳倉を取材に訪れた彼の憧れ、好奇心、執念、学術意欲というものを感じたのだった。
⇒18日(日)午前・金沢の天気 くもり
前回ブログで能登半島の輪島市から49㌔沖にある舳倉島(へぐらじま)の北北西250㌔に北朝鮮の弾道ミサイル2発が落下したことについて述べた。その続き。ミサイル落下をニュースで知って一番驚いたのは、舳倉島の海女さんたちではないだろうか。周囲5㌔ほどの小さな島ではあるもの、アワビが採れる島で「海女の島」として知られる。
舳倉島にはアワビの長い歴史がある。万葉の歌人・大伴家持が越中国司として748年、能登を巡行している。島に渡ってはいないが、輪島で詠んだ歌がある。「沖つ島 い行き渡りて潜くちふ あわび珠もが包みて遣やらむ」。沖にある舳倉島に渡って潜り、アワビの真珠を都の妻に送ってやりたい、との意味だろう。この和歌から分かることは、少なくとも1270年余り前の昔からこの島ではアワビ漁が連綿と続いるということだ。
輪島市や舳倉島を拠点に現在でも200人ほどの海女さんたちがいる。ウエットスーツ、水中眼鏡、足ひれを着用して、素潜り。アワビ漁の解禁は来月1日からなので、いまの時期は体調の整えなどで緊張するころだ。島から250㌔離れたところでのミサイル落下とは言え、緊張はさらに高まっただろう。
今から38年も前の話になるが、新聞記者時代に舳倉の海女さんたちを年間を通して取材したことがある。深く潜る海女さんたちは「ジョウアマ」あるいは「オオアマ」と呼ばれていた。18㍍の水深を重りを身に付けて潜る。これだけ深く潜ると自力で浮上できない。そこで、海女さんの夫が船上で、命綱から引きの合図があるのを待って、海女の命綱を引き上げる。こうして夫婦2人でアワビ漁をすることを「夫婦船(めおとぶね)」と呼んでいた。信頼できる夫婦関係だからできる漁なのだ。
海女さんから怖い話も聞いた。アワビが大好物なのは人間だけではない。ウミガメも好物なのだ。海女さんが採ったアワビをめがけてウミガメが食らいついてくることがある。そんなときは、アワビを捨てて逃げるのだそうだ。アワビが分厚い殻で岩にへばりつくのも、大敵ウミガメから身を守ることだったのだとこのとき知った。
舳倉島でのルポルタージュは新聞で連載(分担執筆)され、その後『能登 舳倉の海びと』(北國新聞社)のタイトルで出版された。記者時代の思い出の地でもあるこの島や周囲に弾道ミサイルを落とさせてなるものか。そのような想いを込めている。
⇒17日(土)夜・金沢の天気 はれ
北朝鮮がまた弾道ミサイルを日本海に向けて発射した。今回落とした位置は狙いが定まっていると憶測する。防衛省公式サイトによると、北朝鮮は15日午後7時24分ごろと同36分ごろに、少なくとも2発の弾道ミサイルを半島の西岸付近から発射。それぞれ飛翔距離は850㌔と900㌔、また最高高度はそれぞれ50㌔と推定される。ミサイルは能登半島の尖端の輪島市の舳倉(へぐら)島の北北西およそ250㌔、日本のEEZ(排他的経済水域)内側の日本海に落下したとみられる。EEZ内への撃ち込みは今年2月18日以来となる。(※ミサイルの落下図は防衛省公式サイトより。舳倉島は加筆)
冒頭で「狙いが定まっている」と述べたのも、舳倉島の南49㌔にある高洲山(567㍍)には、山頂に航空自衛隊輪島分屯基地のレーダーサイトがある。このレーダーサイトには航空警戒管制レーダーが配備され、日本海上空に侵入してくる航空機や弾道ミサイルを24時間監視している。2017年3月6日、北朝鮮は「スカッドER」とされる中距離弾道ミサイル弾道を4発を発射し、そのうちの1発を輪島市から北200㌔㍍の海上に落下させている。手短に言えば、高州山のレーダーサイトは北朝鮮の弾道ミサイルの射程内に入っている。防衛ラインの「目と耳」とも言えるレーダーサイトを叩けば日本は丸腰同然となる。
今回落下した地点から30㌔ほど離れたところに、EEZ内の好漁場として知られる大和堆(やまとたい)がある。毎年6月から翌年1月にかけてはスルメイカ漁を始め、夏場の甘エビ漁やベニズワイガニ漁を目指して漁船が集まってくる。領海の基線から200㌋(370㌔)までのEEZでは、水産資源は沿岸国に管理権があると国連海洋法条約で定められている。ところが、北朝鮮は条約に加盟していない。非批准国であることを逆手にとって日本のEEZ内に平気でミサイルを撃ち込んでくるのだ。
⇒16日(金)夜・金沢の天気 はれ