★能登の新たな風~見せる、担ぐ、輪島塗のキリコ~

★能登の新たな風~見せる、担ぐ、輪島塗のキリコ~

   能登の祭りと言えばキリコ祭り。キリコは能登特有の「切子灯籠(きりことうろう)」を「切籠(きりこ)」と略したものだ。大人たちがキリコを担ぎ、子どもたちが太鼓をたたき、鉦(かね)を鳴らす。集落や町内会を挙げての祭りだ。「盆や正月に帰らんでいい、祭りの日には帰って来いよ」「1年365日は祭りの日のためにある」。能登でよく聞く言葉だ。能登のキリコ祭りは2015年4月に日本遺産「灯り舞う半島 能登 ~熱狂のキリコ祭り~」に認定され、全国から見学や参加希望のファンも増えている。

   「輪島キリコ会館」に入った。2015年3月にリニューアルオープンしている。展示スペースには、高さ10㍍規模の大キリコが7基と、5㍍ほどのキリコが24基展示されている=写真・上=。直方体のあんどんに、屋根や四本の柱、担ぐための棒などには輪島塗が施され、昇り竜の彫刻に金箔を貼り付けた飾り物などが際立つ=写真・下=。若い衆が激しく動かす祭りのときのキリコのイメージとは違って、まるで装飾品だ。

   会館の職員の説明によると、かつては高さ12㍍の巨大なキリコを100人で担いだ時代もあった。電線がはりめぐらされる昭和の時代になって、5㍍ほどの高さになり、その分、飾りが施され、基数も増えた。

   能登の他の地区では、祭りが終わればキリコの倉庫や、解体して神社の倉庫に仕舞われるが、輪島のキリコはキリコ会館で展示されいて、祭りになるとそのまま担がれて街を練る。祭りが終われば、また会館で展示され、観光客を呼び込むというシステムになっている。輪島でそれが可能になったのは、キリコ会館の周辺には奥津比咩神社大祭(8月22、23日)、重蔵神社大祭(同23日)、住吉神社大祭(同24日)、輪島前神社大祭(同25日)と祭りが集中して、展示にムダがないせいかと推測する。

   館内には祭り囃子が流れ、いながらにしてキリコ祭りの雰囲気が楽しめる。そして、これらのキリコが祭りの日には勢いよく輪島の街を練り歩く光景が目に浮かぶ。観光客も楽しみ、街の人も楽しむキリコなのだ。

⇒8日(土)夜・金沢の天気    くもり 

☆能登の新たな風~CO²回収と「火様」を守る炭焼き~

☆能登の新たな風~CO²回収と「火様」を守る炭焼き~

   能登半島の尖端にある珠洲市で木炭製造会社を経営する大野長一郎氏を久しぶりに訪ねた。伝統的な炭焼きを今も生業(なりわい)としている石川県内で唯一の事業所で、二代目でもある。

   大野氏の話は「火様(ひさま)」から始まった。能登では囲炉裏の火を絶やさず守る「火様」の伝統があったが、燃料が電気やガス、灯油などにシフトする燃料革命でその伝統は風前の灯(ともしび)となった。去年の9月、能登で300年の火様の伝統を守っている人から声をかけられ、火種を分けてもらった。炭焼きの伝統技術に、新たに火様の伝統を受け継いだ。(※写真・上は、火鉢に入れた能登の伝統の火を受け継ぎ守る大野氏)

   大野氏の火へのこだわりは多様だ。「炭焼きでカーボンニュートラルを起こすと決めたんです」。樹木の成長過程で光合成による二酸化炭素の吸収量と、炭の製造工程での燃料材の焼却による二酸化炭素の排出量が相殺され、炭焼きは大気中の二酸化炭素の増減に影響を与えない、とされる。しかし、実際は木を伐採するチェーンソーや、運ぶトラックのガソリン燃焼から出るCO²は回収されていない。「炭焼きは環境にやさしくないと悩んでいた」

   そこで、知り合った金沢大学の研究者と、自らの生業のCO²の排出について検証する作業に入る。ライフサイクルアセスメント(LCA=環境影響評価)の手法を用い、過去6年間の製造、輸送、販売、使用、廃棄、再利用までの各段階における環境負荷を検証した。事業所の帳簿をひっくり返しガソリンなどの購入量を計算。仕事の合間で2年かけて二酸化炭素の排出量の収支計算をはじき出した。また、環境ラベリング制度であるカーボンフットプリントを用いたCO²排出・固定量の可視化による、木炭の環境的な付加価値化の可能性などもとことん探った。

   得た結論は、生産する木炭を2割以上を不燃焼利用の製品にすれば、排出するCO² 量を相殺できるということが明らかになった。そこで商品生産の方針を決め、生産した炭の3割を床下の吸湿材や、土壌改良材として商品化することにした。

   付加価値の高い茶炭の生産にも力を入れている。茶炭とは茶道で釜で湯を沸かすのに使う燃料用の炭のこと。2008年から茶炭に適しているクヌギの木を休耕地に植林するイベント活動を開始。すると、大野氏の計画に賛同する植林ボランティアが全国から集まるようになり、能登におけるグリーンツーリズムのさきがけにもなった。(※写真・下はクヌギの木を材料とした茶道炭。切り口がキクの花模様に似ていることから菊炭とも呼ばれる)

   さらに、炭焼きの原木を育てる植林地では植物だけでなく、昆虫や野鳥などの生物も他の地域より多いことが研究者の調査で分かってきた。植林地に枝打ちや間伐など手を入れることで、生物多様性が育まれる。炭焼き業がカーボンニュートラルやバイオエコロジーに新風を吹き込むかもしれない。

⇒7日(金)夜・金沢の天気     くもり

★能登の新たな風~古刹の森にアンブレラスカイ~

★能登の新たな風~古刹の森にアンブレラスカイ~

   きょう能登の輪島市門前町にある総持寺祖院を訪ねた。2021年に開創700年を迎えた曹洞宗の寺で、禅の修行寺で末寺は1万6千余を数える。1898年、明治の大火で七堂伽藍の大部分を焼失した。これを契機に1910年、布教伝道の中心は横浜市鶴見に移る。能登の総持寺は「祖院」と改称され別院扱いとなった。その後の再建で山門や仏殿などがよみがえり、周囲の山水古木と調和して大本山の面影をしのばせる(総持寺パンフ)。2007年3月の能登半島地震でも大きな被害を受け、開創700年の2021年4月には修復工事が完了し落慶法要が営まれている。

   この寺で修行するドイツ人僧侶、ゲッペルト・昭元氏と久しぶりに面談した。ドイツのライプツィヒ大学で日本語を学んでいて禅宗に興味を持ち、2011年に修行に入った。「与えられたものを素直にいただく、能登での人生の学びも13年になります」と。曹洞宗のきびしい修行を耐え抜いた言葉の一つ一つが重く、そして心に透き通る。最後に、ドイツに戻っての布教は考えているのかと質問すると、「結婚し、子どもにも恵まれた。能登でさらに修行を積みたい」との返事だった。

   境内を歩くと、祖院最古の建物である白山殿前に六色仏旗にちなんだ青、黄、赤、白、紫などのビニール傘が飾られていた。寺の境内とは思えない遊び心のある光景だ。チラシによると、「sorahana」と呼ばれるイベント。全部で45本。天気が良ければ地面に写る影の色も楽しめただろうが、残念ながらこの日は曇りで、その光景は見ることができなかった。

   イベントのチラシによると、地域の人たちでつくる「禅の里づくり推進協議会」による行事で、4月からことし10月1日まで開催されている。ただし、台風などが来る場合はイベントは中止となるようだ。古刹に輝く傘の空、アンブレラスカイだ。

   1泊2日の短い旅程での能登散策。目にした能登の新たな光景をいくつか紹介する。

⇒6日(木)夜・輪島の天気     くもり時々あめ

☆テレビメディアへの格闘技 馳知事の肖像権問題

☆テレビメディアへの格闘技 馳知事の肖像権問題

   元プロレスラーの闘争本能に火がついたようだ。石川県の馳浩知事は自身や県職員の映像が地元テレビ局が制作したドキュメンタリー映画で無断使用された訴えもめている。メディア各社の報道によると、馳知事はきのう4日の新年度記者会見で「今後の定例会見はテレビ局の社長の出席を踏まえて開催するかどうかを検討したい」と述べた。テレビ局と知事の「一対一」の対決ではなく、社長が出席しないのであれば定例会見そのものを開催しないとメディア全体を巻き込むようにも取れる発言だ。

   馳氏がやり玉に挙げているドキュメンタリー映画は石川テレビ放送(本社:金沢市)が制作し、去年10月に全国公開した映画『裸のムラ』。残念ながら、まだこの映画を鑑賞してはいない。ネットに上がっている映画のチラシ=写真=によると、去年3月、「保守王国」と言われる石川県の知事を7期28年つとめた谷本正憲氏から馳氏にバトンタッチ。知事選では「新時代」をスローガンに掲げて選挙戦を戦ったが、2000年6月の衆院選の初立候補のときも、スローガンは「新時代」だった、とテレビ局側は軽く筆力でパンチ。そして、「ここ一番で必ず登場するのは、ご存知キングメーカーの森喜朗だ」「ムラの男たちが熱演する栄枯盛衰の権力移譲劇」と読み手の想像力をたくましくさせる文章を掲載している。

   このドキュメンタリー映画は石川テレビ放送が2021年と去年に放送した2本のドキュメンタリ-番組に新たな映像を加えて再編集したものを映画化した。馳氏がクレームをつけているのはこの点。テレビ報道のドキュメンタリ-番組に加え、さらに商業目的でつくった映画にも無断で自身や県職員の映像を使用しているのは、肖像権の無視ではないのか、との論拠だ。これに対し、石川テレビ側は、ドキュメンタリー映画の制作も報道活動の一環との位置づけで、映像は公務中ものであり、報道の目的である公共性に鑑み、許諾は必要ないと反論している。

   問題が表面化したのは今年1月。馳氏は元旦にサプライズで出場で議論を呼んだプロレス試合の映像を地元メディア各社に提供したが、石川テレビ側への提供は拒んだ。これに対して、同16日、石川テレビ側は馳氏に対して質問状を提出。一方、馳氏は同27日の定例記者会見で、公務員の映像を無断で使うことについて、石川テレビの社長に定例会見に出席して番組制作に対する考えを述べるよう求めた。

   2月4日、石川テレビ側は一歩引いて、質問状を撤回し謝罪したものの、馳氏は引かず、定例記者会見の場に社長が出席するよう再度求めた。石川テレビ側をこれを拒否している。そして、冒頭のように、馳氏は3月の定例記者会見は開かず、今月4日の新年度の記者会見で「定例会見に社長の出席を」と繰り返し述べている。

   ドロップキックやジャイアントスイングのような大技ではないが、狙いを定めたら一歩も引かない、まるで馳氏の格闘技のようだ。

⇒5日(水)午後・金沢の天気   くもり

★「芸術は長く、命は短し」坂本龍一氏の死を悼む

★「芸術は長く、命は短し」坂本龍一氏の死を悼む

   音楽家の坂本龍一氏が先月28日に亡くなったとメディア各社が報じている。坂本氏の公式ツイッターには、灰色の背景に黒文字で生没年が刻まれている=写真・上=。そして公式サイトには、「An  Announcement」(声明)が掲載され、医療関係者やファンへの感謝が言葉が述べられ、坂本氏が好んだという言葉が引用されている。「“Arts longa, vita brevis.” Art is long, life is short.」。享年71歳。

   自身の年齢と近いということもあり、若いころから映画『戦場のメリークリスマス』や『ラストエンペラー』のテーマ曲はよく耳にし、今も心に響く。『ラストエンペラー』で日本人として初めてアカデミー賞作曲賞を受賞(1988年)、そしてグラミー賞も獲得するなど世界的に評価された音楽家だった。

   思想家でもあった。核のない世界、戦争のない平和な世界を訴えるメッセージを発信していた。東日本大震災による福島第1原発の事故後では、脱原発を訴えた音楽イベント「NO NUKES」を開催するなど被災地の復興支援にも携わってきた。時代の流れを感じ取り、社会に訴える「時代のカナリヤ」のような人物だった。

   歌手の加藤登紀子氏はツイッターでコメントしている。「本当に素晴らしい音楽家であり、思想家であり、行動者だった坂本龍一さん。彼の亡き後も、彼の思いを受け継ぎ、音楽家として思考し、行動するひとりでありたいと願っています。心から哀悼を捧げ、共に生み出した音楽を大切に歌っていきます」と。

   冒頭の言葉は、坂本氏の人生そのものだったように思える。芸術のために生き、そして人々の心を豊かにして使命をまっとうする。「それでいい」と。Art is long, life is short(芸術は長く、命は短し)。ファンの一人として冥福を祈る。

⇒3日(月)夜・金沢の天気    はれ

☆際立つ「カントリーリスク」中国・ロシア・日本

☆際立つ「カントリーリスク」中国・ロシア・日本

   中国とロシアで、いわゆる「カントリーリスク」が際立ってきた。証券業界などでよく使われるこの言葉は、投資する国や地域において、政治や経済、社会情勢などの変化に起因するリスクのことを指す。テロ行為や紛争が起こり、政権交代によって政策や法律が変わりやすい国々はカントリーリスクが高いということになる。

   ある意味で中国はカントリーリスクの高い国と言える。NHKニュースWeb版(3月27日付)によると、中国外務省の報道官は同日の記者会見で「日本人1人に対し、法律に基づいて捜査している。この日本人はスパイ活動に関わり、中国の刑法と反スパイ法に違反した疑いがある」と、拘束して取り調べを行っていると述べた。拘束されたのは製薬会社「アステラス製薬」の現地駐在の50代の男性社員。中国側は、具体的にどういう行為が法律に違反したかなど、詳しい内容については明らかにしていない。男性は駐在期間を終え、帰国間際だったとの報道もある。(※写真・上、中国・北京の天安門)

   反スパイ法だけでなく、中国には国家安全法や国会情報法、国防動員法といった「法のリスク」がある。よく指摘されるのは、国防動員法の場合は中国政府が有事と判断すれば、中国のあらゆる組織と人的資本、資金などが政府の統制下に置かれる。「あらゆる組織」には中国に進出している日本企業なども含まれる。中国政府が台湾の統一を「有事」と判断した段階でこの法が適用される。投資目的に中国に進出した企業にとってリスクは高まっているのではないだろうか。

   そして、ロシアのカントリーリスクは「プーチン・リスク」だ。ロイター通信Web版日本語(3月31日付)によると、ロシア産業貿易省は同日、トヨタ自動車のサンクトペテルブルク工場が国営の自動車・エンジン中央科学研究所(NAMI)に譲渡されたと表明した。同省は「今回の合意は、工場の建物・設備・土地の所有権の完全な譲渡を意味する」と表明した。トヨタ自動車サイト(同日付)も、NAMIへの譲渡による移管を完了したと発表している。譲渡額は明らかにしていない。(※写真・下、2016年12月16日、日露首脳会談後の安倍総理とプーチン大統領による共同記者会見=総理官邸、NHK中継画像)

   この背景には、ウクライナ侵攻がある。トヨタ自動車サイトによると、ロシアに経済制裁が科されたことにより、ロシア国内からの部品調達が滞り、去年3月に同工場の操業を停止。その後、稼働再開に向けて生産ラインの保全など行っていたが、侵攻が予想外に長引き、9月に生産事業そのものを停止した。同工場が稼働したは2007年12月だった。ソ連崩壊(1991年)で混乱に陥った政治経済を安定軌道に乗せたと定評があったプーチン大統領がウクライナ侵攻で国際批判を浴びることになるとは、当時は想像すらできなかっただろう。それにしても、譲渡した工場で何が生産されるのだろうか。

   ところで、日本にはカントリーリスクはないのか。ある。自然災害(地震、津波、台風など)というリスクだ。東日本大震災では原発事故によるリスクが世界的に知れ渡った。そして、中国やロシア、北朝鮮などに囲まれるポジション(立地)もリスクとみなされているかもしれない。

⇒2日(日)午後・金沢の天気     はれ

★新学期、新年度、そしてエイプリルフールな「4月1日」

★新学期、新年度、そしてエイプリルフールな「4月1日」

   きょうから4月、新学期がスタートした。学校現場ではきょうからコロナ禍でのマスクの着用が原則、不要となるようだ。5月にはコロナ感染症法上の「2類相当」から、季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられるので、それに先立って学校現場では一足早くコロナ禍との決別となる。

   経済の新しい動きもある。賃金の支払いと言えば、これまで銀行口座への振り込みや、現金での支払いだったが、今月から決済アプリを使ったいわゆる「デジタル給与」も可能となる。もちろん、デジタル払いを導入する際には、企業の経営サイドは労働者と労使協定を結ぶことや、決済アプリの運営業者も厚労省の指定を受ける必要がある。

   ひょっとして社会の交通と物流インフラが劇的に変わるかもしれない。きょう1日から改正道路交通法が施行され、特定の条件のもとでドライバーがいない状態でも自動運転が可能な「レベル4」での公道走行が解禁となる。そして、来年4月からトラックの運転手の時間外労働の規制が強化されることから、運転手不足によって輸送量が激減することが懸念され、「2024年問題」とも言われている。ドライバーがいない車が人やモノを乗せて街を走る。そんな時代がやってくる。

   そして、きょうの地元紙の広告で、「ロケット乗務員大募集」という文字が目に飛び込んできた。「宇宙ビジネスに参入します。業務拡大につき。多様な人材を募集しています」とある。全面広告だ。ロケットが打ち上がる瞬間の写真付きの広告だ=写真=。さらに読み込むと、「英語を使ってインバウンドの仕事がした方 子育て中だけど空いた時間に仕事をしたい方 大きな車を運転できるようになりたい方 可愛い孫に小遣いをあげたい方」と妙にリアリティもある。地元のタクシー会社の広告だ。

   末尾に、「本日は4月1日 エイプリルフールです」とある。そうか、新学期、そして新年度の4月1日とばかり思っていたが、エイプリルフールか、と。それにしても、大胆で面白い。

⇒1日(土)夜・金沢の天気    はれ

☆台湾-金沢を結ぶ空の便 コロナ禍を経て再開

☆台湾-金沢を結ぶ空の便 コロナ禍を経て再開

   先日、兼六園に立ち寄るとかなりの人出だった。中でも、欧米からのインバウンド観光客とおぼしき人々が目立っていた。金沢港ではコロナ禍の水際対策で2020年にストップしていた国際クルーズ船の受け入れを今月から再開した効果もあるのだろう。

   きょう31日付の地元各紙を読むと、あす4月1日から台湾のエバー航空が毎日運航で再開すると、記事と広告で掲載されていた=写真・上=。この便の効果でさらに金沢はぎやかになるのではないだろうと憶測した。石川県観光戦略推進部「統計から見た石川の観光」(令和3年版)によると、コロナ禍以前の2019年の統計で、兼六園の日本人以外の国・地域別の入場者数のトップは台湾なのだ。数にして16万4千人、次は中国の4万4千人、香港3万7千人、アメリカ3万人の順になる。この年に兼六園を訪れた訪日観光客数は47万5千人なので、3割以上が台湾からの入りということになる。

   日本政府観光局(JNTO)の調べによると、2019年の訪日観光客数は中国959万人、韓国558万人、台湾489万人、香港229万人、アメリカ172万人の順だった。この順位と兼六園の訪日客数の国・地域別の入りを比較しても、台湾から金沢への入込が断然多い。この傾向はかなり以前からあった。その理由で一つ言えるのは、台湾での金沢の知名度が高いというだ。それには歴史がある。

   台湾の日本統治時代、台南市に当時東洋一のダムと称された「烏山頭(うさんとう)ダム」が建設された。不毛の大地とされた原野を穀倉地帯に変えたとして、台湾の人たちから日本の功績として今も評価されている。このダム建設のリーダーが、金沢生まれの土木技師、八田與一(1886-1942)だった。ダム建設後、八田は軍の命令でフィリピンに調査のため船で向かう途中、アメリカの潜水艦の魚雷攻撃で船が沈没し亡くなった。1942年(昭和17年)5月8日だった。

   2021年5月8日、八田與一の命日に、ダム着工100年を祝う式典が現地で営まれ、蔡英文総統をはじめ首相に当たる行政院長や閣僚などの要人が出席している。八田與一伝説が生きる台湾から、多くの観光客が「八田のふるさと」金沢を訪ねて来てくれていると思うと感慨深い。(※写真・下は、2017年5月、現地での八田與一の座像修復式。このとき金沢市の関係者も訪れた=台湾・台南市役所ホームページより)

⇒31日(金)午後・金沢の天気      はれ 

★極東で連日の軍事訓練 「対岸の事」で済むのか

★極東で連日の軍事訓練 「対岸の事」で済むのか

   ロシア極東での巡航ミサイル発射訓練、北朝鮮の弾道ミサイルと水中ドローン、そしてアメリカと韓国の大規模な軍事訓練などが連日のように報道され、日本海側がキナ臭い。はたして「対岸の事」で済ませることができるのか。

   朝日新聞Web版(今月28日付)によると、北朝鮮の党機関紙「労働新聞」(28日付)は、軍のミサイル部隊が首都ピョンヤンから北東部ハムギョン(咸鏡)北道の島に向けて「地対地戦術弾道ミサイル」2発を発射する訓練を27日に行ったと伝えた。また、27日までの3日間、日本海で「核無人水中攻撃艇」と呼ぶ新型兵器の「津波(ヘイル)1型」を使った実験を行ったと発表した。「ヘイル1型」は東部ウォンサン(元山)から41時間余りかけて、だ円などの針路で潜航したまま600㌔進み、27日午前、ハムギョン北道の沖で弾頭を起爆させた。

   共同通信Web版(28日付)によると、ロシア国防省は28日、ロシア太平洋艦隊の小型艦が日本海に面する極東ウラジオストク沖の湾内で、巡航ミサイルを発射する演習を実施したと発表した。2発のミサイルが100㌔先の目標に命中した。発射はソ連時代に開発された対艦巡航ミサイル「モスキート」。国防省は通信アプリでミサイルが発射される映像も公開した。

   読売新聞Web版(29日付)によると、アメリカと韓国の両軍は29日、大規模な上陸訓練「双竜訓練」の模様を韓国南東部・浦項の海岸で報道陣に公開した。訓練は朝鮮半島有事を想定したもので、海軍と海兵隊を中心に来月3日まで行われる。今年の訓練は、規模をこれまでの「旅団」級から「師団」級に拡大し、1万2000人が参加。アメリカ軍の強襲揚陸艦マキン・アイランドを含む30隻や最新鋭のステルス戦闘機F35Bなど航空戦力70機、軍用車両約50台が動員されている。イギリスの海兵隊員40人も参加している。核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮を強くけん制する狙いがある。

           共同通信Web版(30日付)によると、中国海軍のミサイル駆逐艦2隻と補給艦1隻の計3隻が29日に対馬海峡を相次いで通過し、東シナ海から日本海へ北上した。防衛省の発表。日米韓は近く共同訓練する見通しで、防衛省は中国艦の動向を注視している。

   記事を読むだけで、再び朝鮮戦争が勃発するのではないか、ロシアが偽旗を掲げて極東侵攻を始めるのか、などとつい想像を膨らませてしまう。別に根拠があるわけではない。日本海側に住む一人の憂いである。

⇒30日(木)夜・金沢の天気    はれ

☆桜は満開なれど 「どうする日本の技術力」

☆桜は満開なれど 「どうする日本の技術力」

   金沢のソメイヨシノは満開になっている。青空に映えて、まさに「花見日和」だ。近郊の里山では、菜の花畑がでも一面に咲き誇り、満開のソメイヨシノ、そして青空の絶好のコントラストを描いていた=写真・上、金沢市銚子町=。開花は23日で、平年(4月3日)より11日も早かったので、金沢市内の小学校の入学式(4月7日)のころは、桜吹雪が楽しめるかもしれない。

          満開のソメイヨシノでめでたい気分にはなるものの、残念なニュースもある。電圧をかけると発光する有機物でできた電子材料で、スマートフォンやテレビの画面などに使われている「有機EL」。メディア各社の報道によると、この先端技術を使ったディスプレイを生産しているJOLED(ジェイオーレッド、東京)は27日、東京地裁に民事再生手続き開始の申し立てを行ったと発表した=写真・下=。石川県能美市には主力工場がある。

   JOLEDはソニーグループとパナソニックホールディングスの有機ELパネル開発部門を統合し、2015年1月に設立。2019年11月には主力工場の能美事業所で、世界初の印刷方式有機ELディスプレイ量産ラインの稼働を開始。医療用モニター、ハイエンドモニター、車載向けなどに生産。しかし、安定した生産に想定以上のコストと時間を要したほか、世界的な半導体不足による影響に加え、高性能・高品質ディスプレイ需要の伸び悩みや価格競争の激化など、経営環境が厳しさを増していた。負債総額は337億円と見られる。なぜ世界随一の技術を持ちながらJOLEDは経営破綻に追い込まれたのか。

   有機ELパネルはシートのように薄かったり、丸めることもでき、いろいろな分野で使われると期待されている。しかし、品質面で高い評価を得られたとしても、問題はニーズで、有機ELよりも安価な液晶パネルを求める顧客が増えたとされる。

   それにしても、日本の技術力が問われるような暗いニュースが相次いでいる。今月7日、JAXAは主力ロケット「H3」の初号機を種子島宇宙センターで打ち上げたものの、2段目のエンジンに着火せず、打ち上げは失敗に終わった。国家プロジェクトとして9年前から開発が始まり、2度の年度をまたぐ延期を経て先月17日に打ち上げに臨んだが、発射直前にロケットの1段目の装置で異常が発生し、打ち上げを中止していた。最終検証を行い、満を持して7日の発射に臨んだものの、失敗した。「どうする日本の技術力」

⇒29日(水)夜・金沢の天気     はれ