★京アニ事件の「実名報道」でメディアが問われたこと

★京アニ事件の「実名報道」でメディアが問われたこと

   2019年7月18日に起きたアニメ制作会社「京都アニメーション」への放火で死者36人・負傷者32人を出した、いわゆる「京アニ事件」。殺人などの罪で起訴された被告の裁判員裁判がきょう5日始まる。事件が起きたこの年、金沢大学の授業で「ジャーナリズム論」を講義していて、ゲストで招いた新聞記者やテレビ番組の制作者、そして学生たちと「京アニ事件」について議論を交わした。そこで浮かび上がったのはメディアの取材手法についてだった。

   学生たちがジャーナリストに質問したのは「実名報道」についてだった。京アニの亡くなった36人の氏名について、京都府警は8月2日に10人の実名による身元を公表し、同月27日に25人、その後10月11日にさらに1人の身元を公表した。警察側の判断では、葬儀の終了が公表の目安だった。

   府警は同時に「犠牲になった35人の遺族のうち21人は実名公表拒否、14人は承諾の意向だった」(2019年9月10日付・朝日新聞Web版)と説明した。拒否の主な理由は「メディアの取材で暮らしが脅かされるから」だった。遺族側が警戒しているのはメディアという現実が浮かび上がった。

   警察側の身元の公表を受けて、メディア各社は実名を報道した。さらに、現場記者は被害者側のコメントを求め取材に入った。朝刊各紙には「亡くなった方々」として、実名だけでなく、年齢、住所(区、市まで)、そして顔写真もつけている。その写真は、アニメ作品の公式ツイッターやユーチューブからの引用だった。遺族から提供を受けたものもあった。

   学生たちの意見が相次いだ。「被害者遺族にさらなる苦痛を与える取材はやめるべき」や「実名か匿名かは遺族の意向が最優先されるべき」、「いまのマスコミは加害者の名前を報道することには慎重になっているが、被害者の名前は当たり前にように軽く報道している感じがする」と辛口のコメントだった。さらに、「被害者の実名報道が遺族に対するメディアスクラム(集団的過熱取材)の原因ではないか。被害者遺族への取材や実名報道にこだわる理由がわからない」と手厳しかった。

   メディアとすれば、実名報道は報道の信憑性を高めるために要件だろう。さらに、遺族からコメントをもらことも必要だろう。ただ、記者が玄関のドアホンを鳴らしただけで、生活を脅かされたと敏感に感じる遺族もいる。学生の意見に対し、ジャーナリストの一人は「現場記者として報道の基本を守れば、遺族への取材はどうしても必然になる。この矛盾をどう正せばよいのか迷っている」と。メディアスクラム問題については、新聞とテレビの各1社を選び、代表社が遺族に取材の意向を尋ね、了解が得られれば取材する形式が多くなっているとの説明だった。

   自身もかつて報道現場に携わった経験を持つ。そして今、読者・視聴者の一人としての立場からすると、やはり実名であることが記事内容の真実性が伝わる。ただ、被害者や遺族へのコメントが必須かどうか。警察の捜査で事件の状況が理解できれば、被害者側の心情は察するに余りあるものだ。ケースバイケースだが、被害者側のコメントはなくてもよい。顔写真もなくてもよい。

⇒5日(火)午前・金沢の天気   くもり

☆高騰する金の価格 金を楽しむ金沢という街

☆高騰する金の価格 金を楽しむ金沢という街

   金沢では金箔は体によいとされ、金箔を入れた日本酒、化粧品、金箔をまいたソフトクリーム、うどんもある。かつて、金沢の子どもたちが頭にたんこぶをつくると、金箔が熱の吸収によいことから膨らんだ部分にはっていた。

   「金沢は金箔で持つ」と言われるくらいに、金沢は伝統的に金箔生産量を誇り、全国シェアは98%だ。金を極限まで薄く伸ばしたのが金箔であり、この「縁付(えんつけ)金箔」と呼ばれる製法は「伝統建築工匠の技」の一つとして、2020年にユネスコ無形文化遺産にも登録されている。(※写真は、金沢金箔伝統技術保存会ホームページより)

   その金の価格が高騰している。日経新聞Web版(8月29日付)によると、国内小売価格が税込みで1㌘1万円の大台に初めて乗せた。地金商最大手の田中貴金属工業が29日発表した販売価格は前日比28円高の1㌘1万1円と、連日で最高値を更新した。外国為替市場で円安・ドル高が進行し、円建ての国内金価格が上昇。世界景気の減速懸念から「安全資産」とされる金が選好されていることも後押ししている。

   こうなると金箔生産が盛んな金沢では、業者は材料が難しくなるのではと思ったりもする。ところが、そうではないようだ。知人からかつて聞いた話。「金箔製造業者は潰れない(倒産しない)」と。なぜなら、インゴット(地金)の価格が安いときに大量に仕入れ、高くなれば売って経営を安定させる。「良質な金を見極める目利きであり、金箔業者は金のトレーダーだよ」と知人は妙にほめていたことを覚えている。

   金沢では金箔製造業者の店舗は観光地スポットでもある。店に入ると、工芸品や化粧品、食用金箔、建築装飾、箔材料、観光などさまざまな商品が並ぶ。最近では「金継ぎ」が国内外で知られるようになった。東京パラリンピックの閉会式(国立競技場・2021年9月5日)でアンドリュー・パーソンズ会長が発した言葉だった。日本の金継ぎの技術について、「不完全さを受け入れ、隠すのではなく、大切にしようという発想であり素晴らしい」と述べて、金継ぎという言葉が世界でもトレンドになった。さらに、金継ぎは一度は壊れてしまった製品を修復するだけでなく、金箔を使うことでアートを施し、芸術的価値を高める。

   金の価格高騰もさることながら、その金をどのように生活で使い、楽しみ、新たな価値を創造するか。金沢という街はそのショーウィンドーかもしれない。

⇒4日(月)夜・金沢の天気  くもり  

★「核汚染水」と呼び禁輸する中国に「TPP」ブーメラン

★「核汚染水」と呼び禁輸する中国に「TPP」ブーメラン

    日本など参加するTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に先月、イギリスが協定に加入することが決まった。加盟国は12ヵ国となり、TPP経済圏は世界全体のGDP合計額の15%を占めることになる(7月8日付・Bloomberg-Web版日本語)。

   TPPは当初アメリカが主導した加盟12ヵ国だったが、2017年に当時のトランプ大統領が離脱を決め、日本など11ヵ国でTPPを再出発した。日本はアメリカに復帰を求めているが、アメリカは対中包囲網の構築に向けて、ローバルサウスの代表格であるインドとインドネシアを加えた新経済圏構想「IPEF(インド太平洋経済枠組み)」を2022年5月に発足させている。加盟国は日本を含めた14ヵ国で、半導体のサプライチェーンの強化などを進めている。

   こうしたアメリカ主導の対中包囲網に対し、中国はTPP加盟申請を2021年9月に行っている。貿易制限による自国経済への影響を憂慮してのことだろう。現在、TPPに加盟申請しているのはウクライナ、中国、台湾、ウルグアイ、エクアドル、コスタリカの6つの国・地域だ。

   ここにきて、中国のTPP加盟について、日本では強烈な批判が起きている。福島第一原発の処理水の放出を理由に、中国が日本からの水産物を一方的に禁輸とした件だ。自民党の世耕参院幹事長は先月29日の記者会見で、「科学的な根拠なく、政治的・恣意的に、特定の国の特定の水産物を全面禁輸するような国には、TPPに加入する資格は全くない」と中国を批判。日本国内で相次ぐ中国発信の迷惑電話については「全く関係のない日本の店舗に電話をかけ、威力業務妨害に相当するようなことを行っている」と問題視し、日本政府に毅然とした対応を求めた(8月29日付・共同通信Web版)。

   憶測だが、中国がTPP加盟を望んでいる背景には、アメリカが離脱している間に加盟をすることで、アメリカ排除の主導権を握ろうとしているのかもしれない。ところが、処理水の放出に対する中国の動きに、日本は態度を硬化させた。中国がTPPに加盟するには、全加盟国の支持が必要だ。中国にとっては「ブーメラン」として戻って来る。

⇒3日(日)夜・金沢の天気   はれ

☆生成AIで「言葉の壁」を乗り越える 能登半島の事例

☆生成AIで「言葉の壁」を乗り越える 能登半島の事例

   生成AI=人工知能の進化が連日ようにメディアを通じて紹介されている。対話型AIの「ChatGPT」をはじめとする生成AIの登場で、進化は新たな段階を迎えたようだ。この生成AIを使った自動通訳機で地域起こしを行っている集落が能登半島にある。   

   事例を紹介したのは安倍晋三氏だった。2019年1月の第198回通常国会で安倍総理は施政方針演説の中で、能登半島・能登町で農家民宿で組織する「春蘭(しゅんらん)の里」=写真、「春蘭の里」公式サイトより=の取り組みを紹介した。「田植え、稲刈り。石川県能登町にある50軒ほどの農家民宿には、直近で1万3千人を超える観光客が訪れました。アジアの国々に加え、アメリカ、フランス、イタリア、イスラエルなど、20ヵ国以上から外国人観光客も集まります」と。この安倍氏の演説は、観光による地方創生がメインテーマだったので、生成AIのことは紹介していなかった。今はAI導入の成功事例として広く紹介されている。

   春蘭の里はインバウンド観光のツアーや体験型の旅行の受け入れを積極的に行っている。47軒の民宿経営の人たちが自動通訳機「ポケトーク」を使いこなして対応している。以下、春蘭の里の代表から聞いた話だ。「ポケトークだと会話の8割が理解できる。すごいツールだよ」と。ポケトークは74の言語に対応していて、春蘭の里は通訳機を使うようになって年間20ヵ国・2000人余りを受け入れるようになった。70歳や80歳のシニアの民宿経営者たちがポケトークを使いながらインバウンド観光の人たちと笑顔でコミュニケーションを取っている姿はAIの進化、まさに「文明の利器」を感じさせる。

   新型コロナウイルスのパンデミックでインバウンド観光客は一時期途絶えたが、いまは元に戻りつつある。この間、AIも進化した。コンピューターを介して言語を別の言語に変換することを「機械通訳」といい、「MT(Machine Translation)」と呼ばれている。このMTが人間の脳の神経細胞で行われている情報処理の仕組みを計算式に落とし込んでAI学習を行う、いわゆる「ニューラル機械通訳(NMT)」へと進化したことから、お互いがより自然なコミュニケーションをとり合うが可能になった。

   春蘭の里では、春は山菜、秋にはキノコをインバウンドの人たちといっしょに採取して、夕ご飯に料理として出して喜ばれている。この間の言葉のやりとりはデープなのだが、お互いの言葉の微妙な言い回しや地方の言葉の表現などがAI学習によって、自動通訳機で十分に通じるようになった。

   困難と言われ続けていた「言葉の壁」をしなやかに乗り越えた事例だ。生成AIの可能性に期待する時代を感じる。

⇒2日(土)夜・金沢の天気     くもり

★「記録ずくめの夏」はいつまで続く

★「記録ずくめの夏」はいつまで続く

   きょうから9月。それにしても、ことしの8月は異常な暑さだった。最終日の31日、自宅近くの街路の温度計は37度だった=写真・上、撮影午後3時15分=。買い物で街を歩いていても、熱風に煽られるような感じがして、熱中症のことが気にかかった。

   地元の新聞メディアは「猛暑 記録ずくめの8月」の見出しで、石川県内の異常な暑さのさまざまなデータを掲載している。以下、北陸中日新聞(1日付)の記事の引用。

   トピック的だったのは、8月10日に小松市では観測史上最高の40.0度を記録したこと。そして、この日の小松は全国1位の最高気温だった。金沢地方気象台の石川県内11の観測地点がすべて猛暑日となった日だった。

   「熱中症警戒アラート」という言葉が飛び交った。金沢ではきのう31日まで42日連続で気温が30度以上の真夏日となり、1985年の53日連続に迫っている。8月に県内で出されたアラートは24回。実際、消防庁の全国のまとめで、5月1日から8月27日の間に石川県で熱中症による救急搬送は934人に上り、昨年の同時期より281人多かった。         

   日中だけでなく、寝苦しい日も続いている。金沢では25度以上の熱帯夜が39日間連続している。これは、1994年に記録した27日間を大幅に更新している。

   そして、雨が降らない。金沢の8月の雨量は平年は179.3㍉だが、今年は40㍉で平年の2割ほどしか降っていない。自宅近くにある農園では、農作物の葉が枯れるなどしている。農業用水などに利用される金沢市の犀川ダムの貯水率が低下している。8月24日現在の貯水率は24%で、まとまった雨が降らない状況が続くと9月中旬にはゼロとなる可能性がある(25日付・北國新聞Web版)。ただ、市内では手取川ダムや内川ダムからの水道もあり、当面、配水がひっ迫する心配はないという。

   身の回りのことだが、雨が降らないことで、夕方に庭木への水やりが日課となっている。ホースで水まきをすると、強烈な日差しで枯れたように一面茶色になったスギゴケがまた青さを取り戻すのを見るとほっとする。と同時に、水道料金が気になったりもする。

   金沢地方気象台の北陸地方の3か月予報によると、9月も太平洋高気圧の勢力が引き続き強いため、気温は平年よりも高く厳しい残暑が長く続く見通しとのこと。水やりも当面続くのか。秋はまだ遠い。

(※ 写真・下は、金沢の141㍍の卯辰山から眺めた市街地。薄いモヤがかかったような状態だった=31日午後4時ごろ撮影)   

⇒1日(金)午後・金沢の天気     はれ

☆核攻撃をシュミレーション 北朝鮮また弾道ミサイル

☆核攻撃をシュミレーション 北朝鮮また弾道ミサイル

          北朝鮮が深夜にまた弾道ミサイルを日本海に向けて発射した。防衛省公式サイト(31日付)によると、発射は30日午後11時38分と同午後11時46分の2回。1回目は最高高度およそ50㌔で、350㌔ほど飛翔した。2回目も最高高度およそ50㌔で、400㌔ほど飛翔した。2発とも北朝鮮西岸付近から発射され、落下したのはいずれも朝鮮半島東岸の日本海で、日本のEEZ外だった=イメージ図、防衛省作成=。

   北朝鮮は1週間前の今月24日午前3時51分、北朝鮮北西部沿岸地域から、弾道ミサイル技術を使用した衛星を発射している。発射された1発は複数に分離し、午前4時ごろまでに日本のEEZ外にあたる朝鮮半島の西300㌔ほどの黄海、南西およそ350㌔の東シナ海、フィリピンの東600㌔程度の太平洋にそれぞれ落下した。衛星の打ち上げを試みたものの、地球周回軌道への衛星の投入は確認されておらず、打ち上げは失敗したとみられる。

   北朝鮮は失敗を繰り返しながら弾道ミサイル技術を進化させ、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発にこぎつけている。そして、ミサイルよりさらに高コストの衛星の打ち上げにも挑んでいる。では、今回の深夜2発はどのような意図で打ち上げたのか。読売新聞Web版(31日付)によると、北朝鮮の朝鮮中央通信は、北朝鮮軍が30日夜、平壌の飛行場から北東に向け、弾道ミサイル2発を発射する「戦術核打撃訓練」を実施したと報じている。

   「戦術核打撃訓練」とはどのような訓練なのか。BBCニュースWeb版(31日付)は「North Korea says it simulated nuclear strike on South」(意訳:北朝鮮、韓国への核攻撃をシミュレーションしたと発表)の見出しで今回の発射を伝えている=写真・下=。北朝鮮の発射は、韓国軍とアメリカ軍による11日間の合同軍事演習の最終日の前日に行われた。北朝鮮はこれまで「合同訓練は戦争のリハーサル」として非難してきたが、最近では軍事行動によって明確なメッセージを送っている。「戦術核打撃訓練」は韓国軍の主要な司令部と飛行場を戦術核で攻撃する作戦のシュミレーションと分析されている。

   確かに、防衛省が作成した落下地点のイメージ図をそのまま南に向けるとソウルなどの拠点がすっぽりと入る。さらにメディアによると、今回発射された2発の弾道ミサイルは目標とした島の上空400㍍で空中爆発をさせている。これは、核弾頭の空中起爆を想定した訓練だったと、朝鮮中央通信を引用して伝えている(31日付・日経新聞Web版)。

   となれば、核兵器の開発を急ぐ北朝鮮の7回目の核実験はいつあるのか、いつ起きても不思議ではない情勢になってきた。   

⇒31日(木)午前・金沢の天気  はれ時々くもり

★最後の一滴までモニタリング IAEAの科学のスタンス

★最後の一滴までモニタリング IAEAの科学のスタンス

   きょうの金沢は最高気温が33度の予報で真夏日が続く。ただ、夜にはスズムシやコウロギの虫の音が聞こえ、季節の移ろいを感じさせる。和室の床の間の掛け軸もそろそろ秋のものをと思い、掛け替えた。「清風払明月(せいふうめいげつをはらう)」=写真・上=。すがすがしい秋の夜、月は明るくこの世を照らし、風がしずかに吹きわたる(『茶席の禅語大辞典』淡交社)。 

   この句は「明月払清風」と対句である。明月と秋風が、互いに主となり客となり無心に払い合って自然美を極めている、という意味だろうか。それに比べ、世俗の人の動きはなんとも醜い。

   福島第一原発にたまる処理水を薄めて海に放出する措置を始めた日本に対し、中国の嫌がらせが止まらない。NHKニュースWeb版(29日付)によると、北京にある日本大使館で今月24日、中国人が大使館の敷地にレンガの破片を投げ込み、その場で警察に拘束された。これについて、中国外務省の報道官は29日の記者会見で、「日本政府が核汚染水の海への放出を一方的に強行し、各国の国民の強烈な憤慨を引き起こしたことが根本的な原因だ」と述べ、日本側に責任があると主張し、レンガの破片を投げ込んだ行為を正当化した。

   この建前論で何でも正当化されるのであれば、日本人に対する略奪行為などが許されることにもなる。すでに、日本人学校で石や卵が投げ込まれているのが見つかったほか、日本の大使館や総領事館には嫌がらせの電話などが相次いでいる。

   去年2月に処理水の海洋放出についての安全性を評価するため、IAEA調査団が現地調査を行っている。調査団はIAEAスタッフ7人と各国の専門家8人で構成され、中国と韓国の専門家も加わっていた。5日間にわたって、トリチウムを含む処理水の放出方法や、環境への影響を調べた。IAEAはことし7月4日、処理水の海洋放出について、国際安全基準に合致していることを結論付ける「包括報告書」=写真・下、経済産業省公式サイト「国際機関によるALPS処理水海洋放出の安全性確認」より=を公表している。

   同月7日にIAEAのグロッシ事務局長はNHKの単独インタビューに応じ、海洋放出する日本の計画は「国際的な安全基準に合致する」と評価したIAEAの報告書について「科学的に正しく、全面的に支える」と強調。中国や韓国などであがっている懸念の声について、「批判的な声があがることは予想外でも驚くことでもない。IAEAは商業的にも政治的にも利害関係がなく、原子力の安全確保を使命とする者として中立の声を届けることで役立てる。批判的な声などと向き合い、不安を取り除くために責任を果たすことが重要だ」と述べ、IAEAとしても向き合っていく考えを示した(7月8日付・NHKニュースWeb版)。

   さらに、AFP通信Web版日本語(30日付)によると、スウェーデンの首都ストックホルムを訪問中のグロッシ事務局長は29日、AFPのインタビューに対し、「(日本の処理水の海洋放出について)これまでに確認した限りでは、初期に放出された処理水に有害なレベルの放射性核種(物質)は一切含まれていなかった」「第1段階は想定通りだが、最後の一滴が放出されるまで(モニタリングを)続ける」と述べた。

   科学に基づいた調査を行い、その結論からIAEAとしてのスタンスは崩さない。そして、「最後の一滴」までモニタリングを続ける、と。実にすがすがしい秋の夜の明るい月のようなストーリーではある。

⇒30日(水)午後・金沢の天気    くもり

☆盆過ぎても猛烈な残暑 「寝釈迦」の積乱雲に思うこと

☆盆過ぎても猛烈な残暑 「寝釈迦」の積乱雲に思うこと

   盆を過ぎても猛烈な残暑が続く。きのう28日、能登半島で一番高い山として知られる宝達山(637㍍)のふもとの国道を走行していると、積乱雲が山を覆っているのが見えた。よく見ると、右腕を腕枕にして寝ている姿のようにも見え、まるで「寝釈迦」だと思い、シャッターを切った=撮影午後3時57分=。

   雲の面白いカタチは想像をたくましくさせてくれるが、積乱雲には気を付けたい。もう15年も前のことだが、「ダウンバースト」という現象が起きた。航空自衛隊がある石川県小松市。2008年7月27日午後3時半ごろ、突風が吹き荒れた。航空自衛隊小松基地が観測した最大風速は35㍍で、「強い台風」の分類だ。このため、神社の高さ4㍍の灯ろうが倒れたり、電柱が倒壊したり、民家70棟の窓ガラスが割れるなど被害が及んだ。このとき、小松基地が発表するのに使った言葉が「ダウンバースト」だった。積乱雲から急激に吹き降ろす下降気流。ダウンバースト、初めて聞いた言葉だった。

  同じ日に積乱雲の「ガストフロント」という現象が起きた。福井県敦賀市や滋賀県彦根市で午後1時ごろ、最大瞬間風速21㍍余り。敦賀では「西の空が急に暗くなって雨が強くなって、突風がきた」。このため、イベントの大型テントが横倒しになった。福井地方気象台では突風の原因を「ガストフロント」と説明した。非常に発達した積乱雲が成熟期から衰退期かけて発生する雨と風の現象。小型の寒冷前線のようなものでその線に沿って突風が吹く。北陸に前線が停滞し積乱雲が発生、ガストフロント現象が起き、その前線となった金沢では豪雨が、小松、敦賀、彦根では風速21㍍から35㍍のダウンバーストが発生した。

   地球環境学者のレスター・ブラウンは著書『プランB3.0』(2008)で述べている。「温暖化がもたらす脅威は何も海面の上昇だけではない。海面温度が上昇すれば、より多くのエネルギーが大気中に広がり、暴風雨の破壊力が増すことになる。破壊力を増した強力な暴風雨と海面の上昇が組み合わされば、大災害につながる恐れがある」と。

   レスター・ブラウンの警鐘が現実になった。異常気象は世界を覆っている。ことしの7月の暑さが記録的だったことから、国連のグレーテス事務総長は「the planet is entering an “era of global boiling”(地球は沸騰化の時代に入った)」と述べた。ことし11月から開催される国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では、二酸化炭素を排出するすべての化石燃料の段階的廃止の具体化が決議されるのではないか、と自身は注目している。

⇒29日(火)午前・金沢の天気    はれ

★処理水放出めぐる中国の動き 福沢諭吉ならどう語る

★処理水放出めぐる中国の動き 福沢諭吉ならどう語る

   やはりあのシーンが印象的だ。夏の全国高校野球で慶応高校が、連覇を目指した仙台育英高校に8対2で勝って、107年ぶりに優勝を果たした。テレビの生中継を視聴していたが、慶応大学のOB・OGがいっしょになってスクラムを組んで応援歌『若き血』を歌う、あの応援ぶりは今でも耳目に焼きついている。OBの一人なのでそう思うのかもしれないが。

   甲子園で決勝を観戦した大学時代の友人からSMSメールが届いた。「ひさしぶりに若き血を歌って、盛り上がった。これも福沢センセイのおかげ、引退を前に福業ですな」と。後半の「引退」と「福業」という文字が気になって、何度かメールを交わした。

   福沢センセイは慶応の創設者である福沢諭吉のこと。引退の意味は、2024年度から1万円札のデザインが福沢諭吉から渋沢栄一になるとのことのようだ。そして、「福業」とは神業をもじったもので、福沢諭吉のオーラがこの決勝戦にはあふれていたとの意味を込めていた。

   なるほど。1984年に1万円札のデザインが聖徳太子から福沢諭吉になったので、40年を経て来年「引退」だ。引退前に大正時代の第2回大会以来、107年ぶり2回目の優勝に導いてくれたという、少々スピリチュアルなスト-リーだ。

   話は変えて、では、もし福沢センセイが生きておられたら、このニュースについてどう語るだろうか。東京電力福島第1原発の処理水の放出をめぐり、中国で抗議や嫌がらせが相次いでいる一連の動きだ。もともと福沢諭吉は隣国に対する憤りの念を持っていた。主宰する日刊紙「時事新報」(明治18年3月16日付)の1面社説にこう記した。「我れは心に於て亜細亜東方の悪友を謝絶するものなり」と。

   社説は福沢の「脱亜論」で知られる。福沢の執筆の背景は、当時の清国、李氏朝鮮は近代化を拒否して儒教などの旧態依然とした体制に固執していた。そこで福沢は政治的な縁切り(国交断絶)ではなく、「謝絶」と表現した。要求には謝りつつ応じない、と。当時の福沢の気持ちが現代にも通じるのではないか。そして、福沢センセイは「中国は昔も今も変わりませんな。放っておきなさい」と苦笑いするかもしれない。

(※写真は、慶応義塾大学三田キャンパスの福沢諭吉像)

⇒28日(月)午前・金沢の天気    はれ

☆「核汚染水」キャンペーンを張る中国のどん詰まり事情

☆「核汚染水」キャンペーンを張る中国のどん詰まり事情

   それにしても中国では過剰反応が起きている。福島第一原発にたまる処理水を薄めて海に放出する措置が今月24日に始まったことを受けて、中国の税関総署は「日本水産物の輸入全面停止に関する公告」を出し、即日発効した。それ以前からも、中国税関は日本からの輸入食品、特に水産品(ホタテ貝など魚介類など含む)に放射能検査を課していた。検査結果が出るまで商品が留め置かれるため、輸出する日本側の企業は魚介類の鮮度の悪化を考慮し、出荷を止めざるを得なかった。実質的な中国側の水産物の輸入禁止措置だった。

   さらに24日以降は、処理水の放出とは関係のない日本国内の個人や団体に対して中国から嫌がらせの電話が相次いでいる。メディア各社の報道によると、とくに、福島県内の自治体や飲食店、学校などに中国の国番号「86」から始まる国際電話の着信があり、たどたどしい日本語で処理水の放出の理由を尋ねたり、中には「汚染水を飲みましたか、おいしかったですか」「核汚染水の放出は国際犯罪だ」と大声を出す者もいる。以下は憶測だが、この電話をかけている若者たちは電話番号を調べるチームと電話をかけるチームで分担しているのではないか。つまり「動員された者たち」ではないだろうか。

    中国が相手につけ込む振る舞いをするのは今回の処理水の放出だけではない。直近だと、ことし1月10日に中国国家移民管理局は日本に対し入国ビザ発給を中断し、トランジットビザ免除政策も中断した(1月29日に再開)。当時、中国では新型コロナウイルスの感染爆発が起きていて、日本政府が中国本土から入国する人を対象に抗原検査など水際措置を強化したことに対して、中国側は「差別的入国制限」の対抗策だと発表していた。

   今回の処理水の放出に関連する中国側の水産物の輸入全面停止には別の意図も感じる。巨額な赤字で経営危機に陥っている中国の不動産大手「恒大グループ」は今月17日、アメリカ・ニューヨーク州のマンハッタン地区連邦破産裁判所に連邦破産法15条の適用を申請した。恒大グループだけでなく、中国最大級の不動産会社「碧桂園」も経営危機が表面化していて、不動産危機の不安が高まっている。販売されたものの未完成の集合住宅は72万戸もあるとされ、住宅に入居できない人からは抗議の声が各地で上がっている。

   また、経済指標も悪化していて、雇用で言えば16歳から24歳までの若者の失業率(6月分)は過去最悪の21.3%と発表された。しかし、都合の悪い数字なので、7月分以降は非公表としている。

   憶測だが、中国政府とすれば拡大する不都合な現状から人々の目をそらしたいのではないか。なので、国を挙げて大々的な「核汚染水」キャンペーンを張っている。そう思えてならない。

(※写真は、2022年5月19日、福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出に向けて現地視察をするIAEAのグロッシ-事務局長=東京電力公式サイトより)

⇒26日(土)夜・金沢の天気    はれ