☆「変化を力にする内閣」も支持率は上がらず

☆「変化を力にする内閣」も支持率は上がらず

   第2次岸田再改造内閣の発足を受けて、新聞メディア各社が緊急世論調査を行い、その結果を報じている。結果を比較すると、内閣支持率が「横ばい」と「上昇」の2つの結果に分かれている。

   読売新聞が今月13日と14日に実施した調査では内閣支持率が35%で前回調査(8月25-27日)と同じだった。不支持も50%で前回と同じだった。日経新聞の調査(13、14日)も支持率が42%で前回(8月25-27日)と同じだった。不支持は51%で前回より1ポイント上昇した。一方、共同通信の調査(13、14日)では支持率が39.8%で前回(8月19、20日)より6.2ポイント上昇した。不支持率は39.7%で前回より10.3ポイントも減少した。

   G7広島サミットの議長国を無難にこなした5月の内閣支持率は上昇したものの、その後、総理長男の秘書官辞任やマイナンバーカードをめぐる一連のトラブルで内閣支持率が続落していた。本来ならば、内閣改造と自民党役員人事の入れ替えがあれば、支持率が上がるのが通例なのだが、今回はメディアによって数字のバラつきがあるのはなぜか。

   調査手法の違いかもしれない。調査方法は3社とも、コンピューターで無作為に数字を組み合わせて番号をつくり、固定電話と携帯電話の番号にかけて調査を行う、いわゆる「RDD(Random Digit Dialing)」方式で行っている。

          違うのは質問の仕方だ。読売、日経の両社は内閣支持率の質問で「支持」か「不支持か」を尋ねるが、「言えない・分からない」と答えた回答者に再度、「支持しますか、支持しませんか、お気持ちに近いのはどちらですか」と1回だけ重ね聞きするルールを採用している。なので、重ね聞きをしない場合と比べ、「支持」「不支持」の数字がそれぞれ上積みされる傾向にある。それが、前回の調査と比べて数字が動かなかったということは、今回の改造内閣発足では「支持」を増やすまでには至らなかった、ということになる。共同通信は重ね聞きを採用していないが、前回低くかった支持率がやや持ち直したのかもしれない。

   自民党支持層が多いとされる読売や日経の調査で支持率が上がらなかったことに、むしろ自民党関係者は焦りを募らせているかもしれない。

⇒15日(金)夜・金沢の天気    くもり時々はれ

★「変化を力にする内閣」が問われる山積する課題

★「変化を力にする内閣」が問われる山積する課題

   2021年10月に岸田内閣が発足したときは「新しい資本主義」がキャッチフレーズだった。次に2022年8月の第2次岸田改造内閣を「政策断行内閣」と名付けた。そして、きのう第2次再改造内閣が発足したときは「変化を力にする内閣」だ。

   最初に掲げた「新しい資本主義」は成長戦略の旗印で、「科学技術によるイノベーション」「デジタル田園都市国家構想による地方活性化」「カーボンニュートラルの実現」「経済安全保障の確立」の目標だった。中でも、「デジタル田園都市構想による地方活性化」は、「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくことで、世界とつながる『デジタル田園都市国家構想』の実現」(内閣官房公式サイト)を目指した政策で、じつに斬新なイメージで期待感があった。

   ところが、国際情勢が急変する。新型コロナウイルスの感染再拡大や、2022年2月からのロシアによるウクライナ侵攻が始まり、これらに起因したインフレなど世界経済に動揺が走る。日本も円安の急速な進行などに迫られている。こうなると、第2次岸田改造内閣では喫緊の重要な課題への対応が迫られる。そこで、有事に対応する「政策断行内閣」を掲げた。

   そして、きょう本格始動した第2次再改造内閣で岸田総理は、「経済、社会、外交・安全保障の三つの柱で政策を進めていきたい」と官邸で記者団に強調。物価高対応や構造的な賃上げ実現、人口減少による少子化対策に向け、経済対策策定を月内に閣僚に指示する方針を示した(14日付・共同通信Web版)。

   きょうの朝刊各紙=写真=の一面のトップ記事は「旧統一教会 解散請求 来月にも 政府方針 首相『最終の努力』」(読売)、「女性抜擢 刷新感アピール 4閣僚、旧統一教会と接点」(朝日)、「首相『賃上げの流れ継続』 投資拡大へ税改正」(日経)など見出しにかなりのバラツキがある。読み方によっては、政界を巻き込んだ旧統一教会問題や物価高対応や賃上げなど課題が山積し、岸田内閣は臨機応変な対応が迫られている。それが、「変化を力にする内閣」なのか、と。   

   それにしても、「新しい資本主義」の目玉政策の一つだった「デジタル田園都市国家構想による地方活性化」はいつの間にか影が薄くなった。

⇒14日(木)午後・金沢の天気    くもり

☆北の偵察衛星は開発支援 ロシアへの武器供与は沈黙

☆北の偵察衛星は開発支援 ロシアへの武器供与は沈黙

   この弾道ミサイル発射は祝砲なのか・・・。北朝鮮はきょう午前11時台に2発の弾道ミサイルを半島の西岸付近から日本海に向けて発射した。防衛省公式サイトによると、11時41分に発射した弾道ミサイルは最高高度がおよそ50㌔で、約350㌔飛翔したと推測される。2発目は11時51分の発射で、最高高度がおよそ50㌔、約650㌔飛翔したと推測される。落下した場所は日本のEEZの外側だった。

   防衛省が落下箇所を記したイメージ図を見てみると、ウラジオストクのほぼ真南に位置する。発射された時間帯は、北朝鮮の金総書記が列車に乗って、ウラジオストクから約1000㌔離れたアムール州の「ボストーチヌイ宇宙基地」に向かっていた途中だ。タイミングといい、距離感といい、金総書記にロシアのプーチン大統領との首脳会談が成功裏に運ぶようにと願った祝砲のようにも思える。あるいは、ロシアと北朝鮮の同盟関係を誇示した、日米韓同盟に対する威圧行為なのか。

   では、ボストーチヌイ宇宙基地での首脳会談でどのような内容が交わされたのか。BBCはWeb版で「Vladimir Putin signals help for Kim Jong Un but quiet on weapons」の見出しで、プーチン大統領は金総書記に支援の合図をするも、武器に関しては沈黙、と伝えている。そもそも、なぜ宇宙基地が会談場所として選ばれたのか。記事によると、ロシアが北朝鮮の偵察衛星の開発を支援するかどうか、記者に尋ねられたプーチン氏は、「これが我々がボストーチヌイ宇宙基地に来た理由だ」と述べた。つまり、偵察衛星の打ち上げに2度失敗している北朝鮮に対し、プーチン氏は衛星の開発を支援する意思を明確に示した。実際に、金氏はロケットの組み立てや発射施設などを視察した。

   では、プーチン氏は金氏に何を求めたのか。金氏はロシアのウクライナ侵攻の支持を表明した。「われわれは常にプーチン大統領とロシアの指導者の決定を支持する。われわれは共に帝国主義との闘いに加わる」とロシアへの支持を改めて伝えた。ただ、会談では北朝鮮のロシアに対する武器供与の話が明らかになっていない。

   BBCは、北朝鮮はロシアに対して「応急措置」として武器を提供する可能性もある、と伝えている。この場合、北朝鮮の武器がロシアによってウクライナで使用されたことが明らかになれば、国連の北朝鮮に対する追加の制裁を引き起こす動きが出てくる。そこで、プーチン氏はあえて「quiet on weapons」だったと解説している。

⇒13日(水)夜・金沢の天気    はれ

★現場を行く~「武士道ガーディアン」と「殺人事件」

★現場を行く~「武士道ガーディアン」と「殺人事件」

          かつて勤めた新聞社とテレビ局での取材経験で、現場でしか実感できない謎解きの面白さや喜び、怒り、悲しみというものを味わってきた。今でもニュースで知っただけのことなのだが、無性に現場に行ってみたいという欲求が湧いてくることがある。きょう現場を2ヵ所巡った。

   航空自衛隊小松基地で、日本とオーストラリアの共同訓練が行われている。共同訓練は「武士道ガーディアン23」と呼ばれている。その訓練の様子がきのう11日に報道陣に公開され、けさの紙面に載っていた。航空自衛隊のプレスリリース(7月25日付)によると、訓練には空自の戦闘機F15「イーグル」16機やオーストラリア空軍の最新鋭ステルス戦闘機F35A「ライトニングⅡ」6機などが参加している。訓練の目的は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現のためとしているが、海洋進出を続ける中国への対抗を念頭に、日豪の防衛協力を強化する狙いがあるのだろう。(※写真は上がF15、下がF35A=小松基地で午後1時30分ごろ撮影)

   記事の中で興味を抱いたのは「F35A」。F15はこれまで何度か見に行ったことはあるが、F35Aは初めてだった。正午ごろに小松基地周辺の無料駐車場に到着。すると、望遠レンズのカメラを携えたマニアらしき人たちがすでに40人ほどいた。乗用車のナンバーから石川県内のほか富山、福井、岐阜、静岡、愛知など遠方から来たようだ。そして、午後1時過ぎから訓練が始まった。驚いたのはF35Aの爆音だ。大型エンジンを搭載しているため、F15に比べ騒音が激しい。共同訓練は今月15日までだが、騒音被害を訴える市民の声も高まるのではないか。そんなことを思った。

   殺人事件があった。11日未明に石川県白山市のホテルで金沢市に住む23歳の女性が刺され死亡した。県警は同日午前中に白山市に住む54歳の男が刃渡り19㌢の刃物を持っていたとして金沢市内で銃刀法違反で現行犯逮捕、午後には殺人容疑で再逮捕した。ホテルの防犯カメラに映っていた人物と酷似していた。女性と逮捕された男の関係性は記事にはなっていない。女性には首や胸など10ヵ所ほど刺されていた。恨みによる犯行なのか。殺人の動機は徐々に解明されていくだろう。

   殺人があったホテルを見渡してみると、場所は市の中心部から少し外れにある=写真・下=。周囲には会社の建物やコンビ、そして別のホテルもある。新興地という雰囲気だ。メディア各社の報道によると、男はこのホテルで女性を殺害し、10㌔ほど離れた金沢市の繁華街へ自転車で移動し、逮捕されている。

   それにしても警察の防犯カメラの解析はスピード感がある。事件の発覚は午前1時半ごろで、ホテルの防犯カメラで人物像を察知。そして金沢の繁華街で逮捕されたのは午前7時45分ごろ。未明に繁華街の防犯カメラで男がうろついている様子が写っていて、警察は男の動向を把握していた。今後、生成AIによる防犯カメラの画像分析が可能になると、さらにリアルタイムな捜査となるのかもしれない。

⇒12日(火)夜・金沢の天気    はれ

☆生き残りへと動き出す日本のテレビ業界

☆生き残りへと動き出す日本のテレビ業界

          デジタル時代で帰路に立つ日本のテレビ業界がいよいよ生き残りへと動き出した。2021年11月から議論を重ねてきた総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」は今月6日に「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ(第2次)」を公表した。それによると、「デジタル時代において、放送を取り巻く環境は、インターネット動画配信サービスの伸長等による若者を中心とした『テレビ離れ』など、大きく変化し、情報空間はインターネットを含めて放送以外にも広がっている」と危機感を募らせている。

   一方でデジタル時代のテレビメディアの存在価値を強調している。それは、「インターネット空間では、人々の関心や注目の獲得ばかりが経済的な価値を持つアテンションエコノミーが形成され、フィルターバブルやエコーチェンバー、フェイクニュースといった問題も顕在化している」と問題視。テレビ業界がこれまで積み上げてきた「取材や編集に裏打ちされた信頼性の高い情報発信、『知る自由』の保障、『社会の基本情報』の共有や多様な価値観に対する相互理解の促進といった放送の価値は、情報空間全体におけるインフォメーション・ヘルス(情報的健康)の確保の点で、むしろこのデジタル時代においてこそ、その役割に対する期待が増している」と存在価値を強調している。

   若者世代からはNHKを含めてテレビメディアへの離反があり、民放は広告売り上げが厳しい。とくにローカル民放局が厳しい経営状況に陥るという予測もある。電通がまとめた2022年(1-12月)の日本の総広告費は7兆1021億円で過去最高となった。しかし、テレビ(地上波、BS・CS)は1兆8019億円と前年比98.0%で下降。一方で、インターネット広告費は3兆912億円と好調で前年比114.3%だ。この時代にテレビメディアはどのように生き残るのか。

   今回の「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ(第2次)」では、テレビメディアは電波にこだわらず、インターネットでの番組コンテンツの配信を行う、としている。NHKはインターネットで同時に放送を流す配信サービスをこれまで「補完業務として任意」と位置付けていたが、それを「放送としてネット配信を必須業務」と大転換した。スマホなどネットのみを通じて情報を得る人にもひとしく受け取れるよう努める義務をNHKが負うという考えだ。

   では、その場合にNHK受信料はどうなるのだろうか。提言では「スマホを持って、視聴の意志で負担する」という考えを示している。スマホとNHK視聴はイコールにせず、視聴意志に委ねるという考えだ。今後のその具体策や中身については議論となりそうだ。

⇒11日(月)夜・金沢の天気   くもり

★生涯付き合うことになる「帯状疱疹」という厄介な病

★生涯付き合うことになる「帯状疱疹」という厄介な病

   左足に強烈な痛みが走るようになったのは8月10日だった。座っても立ってもいられない痛さで、テーブルにもたれかかって痛みが和らぐを待つしかない。時間にして数分だが、これまで経験したことがないピリピリとした痛みだけに、心臓もどきどきとしてくる。

   一度ひやりとしたことは、自家用車を運転中に痛みが襲って来たときだった。旧盆帰省のため家族とともに実家に向っている途中で痛みが走った。たまたま左車線を走行していて、空きスペースがあったので駐車して痛みをしのいだ。もし、渋滞に巻き込まれ、駐車もできずにゆっくり運転をせざるを得ない状況だったらどうなっていただろうか。以降は同乗の家族の者に運転を代わってもらった。この痛みは1日に1回か2回やってきて、3週間ほど続いた。

   この痛みの原因は「帯状疱疹」。7月31日に皮膚科医院で知らされた病名だった。左足の太もも(大腿)の裏あたりが一面に赤く腫れているのに気づいて医院に行った。医師の説明では、小さいときの「水ぼうそう」と同じウイルスが加齢とともに帯状疱疹となって現れる病気で、50歳代から80歳までに3人に1人は発症するということだった。発症する体の部位は右か左どのどちらかで、顔面や胸部、腹部、足の太ももなどさまざまという。そのとき、医師から尋ねられたのは「痛みが走りませんか」ということだった。このときは、痛みはまったくなく、どちらかと言えば痒(かゆ)みが少々あった。塗り薬など処方してもらった。

   8月7日に薬が切れたので医院に行った。赤く腫れた部分はかなり落ち着いた様子になっていた。痛みもなかった。ただ、医師はこう話した。「赤く腫れているときに患部に痛みが走るのですが、まれなケースとして『かさぶた』化するときに痛みが走る場合があります」と。そして、新たに痛み止めの処方があった=写真=。

   その痛みが現実に現れたのが冒頭の8月10日だった。痛み止めの薬を飲んだものの、1日に1回か2回痛みが走る。我慢が出来なくなり、18日に医院に駆けこんだ。すると医師は「まだ良いほうです。1時間に1回という人もいて、夜眠れないという人もいます」と。痛み止めの薬を継続することに。

   痛みらしい痛みが消えたのは9月に入ったころだった。ネットで専門医など所見を読むと、病をもたらすウイルスは生涯にわたって体内に潜伏する。普段は悪さをすることはないが、ストレスや疲れ、免疫機能の低下などきっかけでウイルスが再活性化する、とある。そういえば医院の医師はこう言っていた。「いま治っても10年後くらいにまた(症状が)出てきますよ」と。

   最近、帯状疱疹のワクチンの広告をよく見かけるようになった。全国的な流行なのか。連日の猛暑でストレスや疲れ、免疫機能の低下したのか。厄介なウイルスと生涯付き合うしかないようだ。

⇒10日(日)夜・金沢の天気    あめ

☆性的虐待を黙認してきたメディアを問うBBCの論調

☆性的虐待を黙認してきたメディアを問うBBCの論調

   連日、ジャニーズ事務所のジャニー喜多川元社長(2019年死亡)の性加害問題が報道されている。この性加害をめぐっては、日本のメディアのあり様が問われている。そもそも、イギリスBBCのドキュメンター番組「Predator: The Secret Scandal of J-Pop 」がことし3月7日に放送されなければ、日本で白日の下にさらされることはなかった。番組の中で、元ジャニーズの4人が生々しく証言している。これが発端となり、日本のメディアにようやく着火した。   

   これまで日本のメディアで追及していたのは唯一、週刊誌「週刊文春」だった。1999年10月から14週にわたってジャニー喜多川社長の性加害問題を告発する連載キャンペーンを張った。この記事に対して、ジャニーズ事務所とジャニー社長は発行元の文藝春秋社を名誉毀損で提訴。二審の東京高裁は2003年5月、「その重要な部分について真実」「真実でない部分であっても相当性がある」と性加害を認定。ジャニーズ側はこれを不服として上告したが、最高裁は2004年に棄却している(ことし5月13日付・弁護士ドットコムニュース)。そして、この判決後もジャニー社長による性的搾取が続いていた、ということになる。

   では、ジャニーズ事務所が社長交代を発表したきのうの記者会見を、BBCはどう報じているのか。「Johnny Kitagawa: J-pop agency boss resigns over predator’s abuse」の見出し=写真=で、日本最大のポップ芸能事務所の社長が、創業者による性的虐待を最終的に認めて辞任したと伝えている。さらに、「Most mainstream Japanese media also did not cover the allegations for decades, prompting accusations of an industry cover-up.」と日本の主要メディア(テレビ、新聞)が何十年もの間、この疑惑を取り上げてこなかったと批判。その背景として、ジャニー元社長が日本の芸能界で最も影響力を持った人物で、ジャニーズ事務所が日本のボーイズバンドを独占してきたという背景にあると報じている。

   BBCのこの論調は解釈の仕方によっては、ジャニー喜多川元社長の性的虐待を黙って見逃してきた主要メディアはむしろ「共犯」ではないのかと言っているようにも読める。

⇒8日(金)夜・金沢の天気     くもり

★「震災復興の光に」アートを掲げ進む政治家の姿

★「震災復興の光に」アートを掲げ進む政治家の姿

   ことし5月5日に震度6強の揺れに見舞われた能登半島の尖端・珠洲市で、「奥能登国際芸術祭2023」が今月23日から11月12日まで開催される。3年に1度開催され今回は3回目となる。テーマは「最涯(さいはて)の芸術祭、美術の最先端。」。芸術祭の総合ディレクターをつとめるのはアートディレクターの北川フラム氏。そして、実行委員長は市長の泉谷満寿裕氏。震災という難局に見舞われながら、芸術祭を実行する意義は何なのか。

   石川県内の21の大学・短大などで構成する「大学コンソーシアム石川」のシティカレッジ授業(7月29日)で、泉谷氏の講義=写真・上=を聴講した。テーマは「さいはての地域経営」。その中で泉谷氏は芸術祭の開催意義について述べていた。

   珠洲市は人口1万3千人。過疎化が進み、本州で最も人口の少ない市でもある。一方で世界農業遺産「能登の里山里海」に認定され、農耕儀礼「あえのこと」はユネスコ無形文化遺産に登録。そして、珠洲市は佐渡のトキやコハクチョウなど野鳥が舞い降りる自然豊かな土地柄でもある。芸術祭の効果について、2017年の第1回芸術祭以降の5年間で移住者が269人になったと数字で説明があった。

   泉谷氏は「半島の尖端に位置する珠洲の潜在的な魅力がアートを通じて広がった。芸術家を志す若者や、オーガニック農業、リモートワーク、カフェの経営などさまざまな人たちが集まってきている」と強調した。アート作品は市内のさまざまな地域に点在し、作品はその地域の空間や歴史の特性を生かしたものが創作されている。なので、作品鑑賞をひとめぐりすると、同時に珠洲という土地柄も理解できる。これが移住を促すチャンスにもなっている。

   5月の震災では1人が亡くなり30人余りが負傷、全壊28棟・半壊103棟、一部損壊564棟などの被害を被った。ことしの開催に当たっては、「震災復興に集中すべき」と反対意見が多かった。芸術祭の市の予算は3億円余りで、復興に回すべきという議論も相次いだ。泉谷氏は、「何か目標や希望がないと前を向いて歩けない。芸術祭を復興に向けての光にしたいと開催を決断した」とその想いを語った。(※写真・下は、塩田千春作『時を運ぶ船』をベースにした国際芸術祭2023パンフの表紙)

   また、震災後の人口動態は、5月から7月の3ゕ月では転入が50人、転出が47人で3人が転入超過だった。「これまで移住してくれた人たちがどこかに行くのではないかと心配したが、なんとか留まってくれている」と述べた。

   「震災復興の光」としての芸術祭ではインバウンド観光客の誘致にもチカラを入れたいと積極的だった。実際、講義が終わってから台湾へ芸術祭のツアーについて打ち合わせに行くとの話だった。その結果、今月から10月にかけて台湾から能登空港へのチャーター便が6便運航することが決まったようだ。

   「災い転じて福となす」ということわざがある。「震災復興の光に」とリーダーシップを発揮して、前に向いて進む政治家の姿こそ、アートなのかもしれない。

⇒7日(木)午前・金沢の天気    くもり一時あめ

☆金沢はカミナリ銀座、インフル発生、コロナ禍止まず

☆金沢はカミナリ銀座、インフル発生、コロナ禍止まず

   朝から西の空に雨雲が立ち込めている。気象庁は、北陸地方できょう午前中から午後にかけて、線状降水帯が発生する可能性があると発表している。きのう5日午後も雷を伴って、一時的に激しい雨が降った。

   金沢に住んでいて、とくに気をつけるのは雷だ。何しろ金沢は「カミナリ銀座」。全国の都市で年間の雷日数がもっとも多いは金沢の45.1日だ(気象庁「雷日数」1991-2020)。ちなみに、東京は14.5日、仙台は9.8日となっている。雷が直接落ちなくても、近くで落ちた場合には「雷サージ」と呼ばれる、瞬間的に電線を伝って高電圧の津波現象が起きる。この雷サージがパソコンの電源ケーブルから機器内に侵入した場合、部品やデータを破壊することになる。(※写真は、北陸電力公式サイト「雷情報」より)

   きのうもピカッと空が光り、ヤバイと思い、瞬間的にパソコンの電源ケーブルを外した。PCをチェックしたが、異常はなくひと安心した。電源ケーブルをコンセントに入れたまま外出して、途中で雷が発生するということもある。万が一に備えて、雷害からPCを守るためにガードコンセントを使っている。

   話は変わる。この時節としては珍しい集団風邪が石川県内で発生している。県のプレスリリース(5日付)によると、5日現在の患者数はあわせて153人で、金沢市内の高校や小松市と白山市の小学校など4つの学校で学級閉鎖や学年閉鎖の措置がとられている。欠席した生徒や児童の症状は、38度以上の発熱があり、のどの痛みを訴えるなどインフルエンザの症状という。昨シーズンの集団風邪の発生はことし1月16日だった。インフルエンザは季節性がなくなり、年間を通して発症が見られるようになってきた。
   
   県内では新型コロナウイルスと診断された患者数は1223人(8月21-27日の合計)と高止まりの傾向が続いている。今後、集団風邪と新型コロナの「ダブル感染」も流行するのかもしれない。

⇒6日(水)午前・金沢の天気   あめ

★京アニ事件の「実名報道」でメディアが問われたこと

★京アニ事件の「実名報道」でメディアが問われたこと

   2019年7月18日に起きたアニメ制作会社「京都アニメーション」への放火で死者36人・負傷者32人を出した、いわゆる「京アニ事件」。殺人などの罪で起訴された被告の裁判員裁判がきょう5日始まる。事件が起きたこの年、金沢大学の授業で「ジャーナリズム論」を講義していて、ゲストで招いた新聞記者やテレビ番組の制作者、そして学生たちと「京アニ事件」について議論を交わした。そこで浮かび上がったのはメディアの取材手法についてだった。

   学生たちがジャーナリストに質問したのは「実名報道」についてだった。京アニの亡くなった36人の氏名について、京都府警は8月2日に10人の実名による身元を公表し、同月27日に25人、その後10月11日にさらに1人の身元を公表した。警察側の判断では、葬儀の終了が公表の目安だった。

   府警は同時に「犠牲になった35人の遺族のうち21人は実名公表拒否、14人は承諾の意向だった」(2019年9月10日付・朝日新聞Web版)と説明した。拒否の主な理由は「メディアの取材で暮らしが脅かされるから」だった。遺族側が警戒しているのはメディアという現実が浮かび上がった。

   警察側の身元の公表を受けて、メディア各社は実名を報道した。さらに、現場記者は被害者側のコメントを求め取材に入った。朝刊各紙には「亡くなった方々」として、実名だけでなく、年齢、住所(区、市まで)、そして顔写真もつけている。その写真は、アニメ作品の公式ツイッターやユーチューブからの引用だった。遺族から提供を受けたものもあった。

   学生たちの意見が相次いだ。「被害者遺族にさらなる苦痛を与える取材はやめるべき」や「実名か匿名かは遺族の意向が最優先されるべき」、「いまのマスコミは加害者の名前を報道することには慎重になっているが、被害者の名前は当たり前にように軽く報道している感じがする」と辛口のコメントだった。さらに、「被害者の実名報道が遺族に対するメディアスクラム(集団的過熱取材)の原因ではないか。被害者遺族への取材や実名報道にこだわる理由がわからない」と手厳しかった。

   メディアとすれば、実名報道は報道の信憑性を高めるために要件だろう。さらに、遺族からコメントをもらことも必要だろう。ただ、記者が玄関のドアホンを鳴らしただけで、生活を脅かされたと敏感に感じる遺族もいる。学生の意見に対し、ジャーナリストの一人は「現場記者として報道の基本を守れば、遺族への取材はどうしても必然になる。この矛盾をどう正せばよいのか迷っている」と。メディアスクラム問題については、新聞とテレビの各1社を選び、代表社が遺族に取材の意向を尋ね、了解が得られれば取材する形式が多くなっているとの説明だった。

   自身もかつて報道現場に携わった経験を持つ。そして今、読者・視聴者の一人としての立場からすると、やはり実名であることが記事内容の真実性が伝わる。ただ、被害者や遺族へのコメントが必須かどうか。警察の捜査で事件の状況が理解できれば、被害者側の心情は察するに余りあるものだ。ケースバイケースだが、被害者側のコメントはなくてもよい。顔写真もなくてもよい。

⇒5日(火)午前・金沢の天気   くもり