☆滝が流れるキャンパス

☆滝が流れるキャンパス

 金沢大学に就職して、その自然の豊かさを実感する毎日です。何しろ金沢大学の角間(かくま)キャンパスは200㌶もあります。東京ディズニーランドのテーマパークエリアの広さは51㌶ですから、ざっと4倍。手つかずの自然林も75㌶にわたって広がっています。きのう(28日)も付属養護学校の子どもたちがタケノコ掘りにやってきて収穫を楽しんでいました。

 そのキャンパスの中で私が気に入っているのは、「角間渓谷」と勝手に名付けている石積みの滝です。これは自然の滝ではなく、人造の滝ですが、おそらくキャンパスを造成した時、当時の関係者は「滝が流れる大学」を意識したと思います。それほど力が入っている(=経費がかかっている)造形なのです。この滝を眺めながらバーベキューをすると格別かも知れません。

 築280年のオフィス、そして渓谷の眺望、広がる自然林。このような環境の中で、大学の持てる知的な財産を地域社会にどう還流させていくを考える…。これは人生に二度とないチャンスだと実感しています。                        

★教授からヒントの宴会話

★教授からヒントの宴会話

 大学に勤めるようになって恩師とよく似た教授がいるので驚きました。恩師とは、人類学者の埴原和郎氏(故人)のこと。以下は思い出話です。東京の学生時代に埴原氏の研究室を訪ねると、いきなり「君は北陸の出身だね」と言われ、ドキリとしました。その理由を尋ねると、こうでした。「君の胴長短足は、体の重心が下に位置し雪上を歩くのに都合がよい。目が細いのはブリザード(地吹雪)から目を守っているのだ。耳が寝ているのもそのため。ちょっと長めの鼻は冷たい外気を暖め、内臓を守っている。君のルーツは典型的な北方系だね。北陸に多いタイプだよ」。ちょっと衝撃的な指摘だったものの、目からウロコが落ちる思いでした。

 埴原氏は、古人骨の研究に基づいた日本人の起源論が専門。とくに、弥生人は縄文人が進化したものではなく、南方系の縄文人がいた日本列島に北方系の弥生人が渡来、混血したことによって、日本人が成立したとする「二重構造モデル」を打ち立てたことで知られます。

 話はここからです。私は、埴原氏から指摘された話をこれまで何度となく宴席で使わせてもらいました。顔や骨格からルーツを探る話は、結構受けるのです。話の締めに「DNAを調べもらって、同じ遺伝子を持つシベリアの遠い先祖の村々を訪ねてみたいと本気で考えています。ところで、あなたも私と体や顔の骨格が似ているから、いっしょにどうですか」とダメ押しすると笑いも取れます。これで30分ぐらいは楽に座持ちがするのです。しかも、これで、「目が細く、耳が寝ている」私の顔も随分と覚えてもらいました。

☆TVデジタル化でも閉塞感

☆TVデジタル化でも閉塞感

フジテレビとライブドアによるニッポン放送株の争奪戦から一転して「和解」へ両社が業務提携をするという。テレビ業界にはもともと業務提携を前向きに受け止める流れがあると思う。1996年、ソフトバンクと豪News Corp.がテレビ朝日の発行済み株式の21.4%を取得した当時、テレビ朝日の社員の間にも「乗っ取られる」と動揺があった一方で、実際に話をした制作現場のスタッフの中には、「番組をグローバルに展開できるよいチャンスかもしれない」や「ソフトバンクと組めばテレビ局のIT化が一気に進むかもしれない」と先を読んでいた人たちもいた。

 業務提携を望む流れがテレビ局側にあるというのは、地上波のデジタル化で経営サイドあるいは制作現場にはある種の閉塞感があるからだ。ハイビジョン、高音質、データ放送、携帯電話向け放送などデジタル放送の機能は多様であるが、「視聴者は果たしてデジタル化を望んでいるのか」「技術的には可能でも、莫大な投資が将来の重荷になるのではないか」などデジタル化の先が見通せない。2006年までに終えなければならないデジタル化のその後のビジネスモデルや番組モデルをどのように構築するか、これはテレビ業界が等しく悩んでいることなのである。ましてや、2004年の日本の広告費で、インターネットとラジオが並んだ(電通調べ)となると、ラジオを兼営しているテレビ局にとっては死活問題ともなっている。テレビ業界がインターネット業界と業務提携し、デジタル化後の活路を見いだすというのは自然の流れなのである。

 すでに、IT企業が配信するブロードバンド(高速大容量)放送に、著作権などをクリアした上で番組を提供したり、携帯電話インターネットのコンテンツ制作会社に出資したりと、着々と手を打っているテレビ局もある。フジテレビとライブドアの業務提携が本格的に進めば、ほかの系列局も雪崩を打ったようにパートナー探しを始めるに違いない。株式の買収劇に目を奪わたが、本筋はテレビメディアの業態を大きく変えるエポックメーキングと捉えたい。

★50歳エイ・ヤッと出直し

★50歳エイ・ヤッと出直し

 ことし1月にテレビ局を退職し、4月から金沢大学の「地域連携コーディネーター」という仕事をしています。大学にはさまざまな「知的な財産」があって、それを社会に還流させていこうというのがその趣旨です。一口に「知的な財産」と言っても、それこそ人材や特許など有形無形の財産ですから、それを社会のニーズに役立てようとすると、そのマッチング(組み合わせ)は絡まった細い糸をほぐすような作業である場合もあります。この事例については差し支えない範囲で紹介していきます。

 ところで、「よくテレビ局を辞めたね。もったいない」とテレビ業界の仲間や友人から言われます。私自身、以前から「50歳になったら人生を見直す」と公言してきましたので「想定の範囲」なのですが、周囲からは奇異に見えるかもしれません。まず、性格的に言って、一つの仕事を最後まで務め上げて云々というタイプではありません。幼いころから寄り道や道草、よそ見が好きでよく親に心配をかけました。

 それともう一つ、50歳という年齢です。人生の折り返し点で、ニワトリのように強制換羽(きょうせいかんう)が必要なのです。ニワトリは卵を産み始めてから8ヶ月ほどで卵の質が落ちてきます。この時点で、絶食させられます。毛が抜け、衰弱したところでエサを豊富に与えると、また、良質の卵を産むようになるのです。人もまた同じ仕事を続けているといつか周囲が見えなくなったり、アイデアが枯渇したり、その延長線上に嫉妬、やっかみが出てくるのです。それは人生の劣化の始まりです。その年齢が50なのです。そのとき、「家族が大切…」と言いながら現状を続けるのか、収入減を家族に理解してもらい別の道を歩むのか、それぞれの選択です。私の場合、後者を選んだというわけです。

☆オフィスは築280年古民家

☆オフィスは築280年古民家

 私が「地域連携コーディネーター」として勤める金沢大学のオフィスはおそらく東京・六本木ヒルズと好対照を描く建物だと思います。

 何しろ、白山ろくの風雪に耐えて280年、手取ダムの水底に沈む危機にさらされたとき、地元の村の文化財として移築、残りました。そして金沢大学のキャンパスに今年4月に再度移築しました。幾度も蘇生する丈夫さ、危機を乗り超える運の強さは「国宝級」ではないかと、この家を眺めながら思うのです。

 コーディネーターの誘いがあり、この古民家を初めて見たとき、「やってみよう」と決断しました。圧倒的なその存在感に心がぐらりと揺れたのです。今この家を実際にオフィスとして使って、あと100年ぐらいは風格を保ちながら耐えるのではないか思っています。しかし、六本木ヒルズがあと100年持つかどうか、私には分かりません。