★またも「ニュースの天才」

★またも「ニュースの天才」

 アメリカ誌ニューズウィークのワシントン支局長がCNNに出演し、イスラム教の聖典コーランを米軍の尋問官がトイレに捨て冒涜(ぼうとく)したとの同誌5月9日号の記事について「誤りがあった」と述べ、異例のテレビ会見となった。何しろ、コーラン冒涜のニュースでアフガニスタンやインドネシアではイスラム教徒による反米デモが沸き起こり16人もの死者が出た。ニューズウィークが内外から責任を問われるのは必至だろう。

   ことし2月にアメリカ映画「ニュースの天才」を鑑賞した。かいつまんで内容を紹介すると、大統領専用機内に唯一設置されている米国で最も権威のあるニュース雑誌の若干24歳のスティーブン・グラス(ヘイデン・クリステンセン=写真=)が政財界のゴシップなど数々のスクープをものにし、スター記者として成長していく。グラスの態度は謙虚で控えめ、そして上司や同僚への気配りを忘れない人柄から、編集部での信頼も厚かった。しかし、ある時、グラスの「ハッカー天国」というスクープ記事に、他誌から捏造疑惑が浮かび上がり、グラスの捏造記事が発覚していくというストーリーだ。実話をもとに制作された映画でもある。
 
   今回の「コーラン冒涜」記事も、アフガン旧政権タリバンの関係者らが拘束されているキューバのグアンタナモ米海軍基地での虐待問題を取材したニューズウィークの記者がアメリカ政府高官からコーラン冒涜の匿名情報を入手。基地を管轄する南方軍の報道官はコメントを拒否したが、「国防総省の高官は否定しなかったため記事にした」(ニューズウィーク誌支局長)との説明だったが、結果的に記事に誤りがあると認めた。匿名情報を否定しないからとの理由でニュースにした記者も「ニュースの天才」だったに違いない。

   日本にも「やらせ」や捏造の記事は過去にもあった。しかし、アメリカのジャーナリズムは日本より、ある意味で「ニュースの天才」を生みやすい。日本のように記者クラブで取り決めた横並び取材は好まず、「一匹オオカミ」のような取材手法だ。また、日本の新聞社の場合、先輩、キャップ、デスク、部長のチェック機能があるものの、アメリカでは記者とデスク、編集長らが直接話し合って紙面構成の話し合いをするため、その場の雰囲気、たとえば記者が面白く説明すると「それはいい」と盛り上がってしまい、その場で紙面化が決まってしまうのではないか。映画「ニュースの天才」でもそのような場面が何度か強調されていた。

   しかし、米軍によるイラン人捕虜虐待事件などのスクープがどんどんと出てくるのがアメリカのジャーナリズの凄いところ。日本のような横並び取材がよいと言っているのでは決してない。

⇒26日(水)午前・金沢の天気 晴れ

☆ピンピンコロリの非常識

☆ピンピンコロリの非常識

  「PPKが最高!」、この本は独立行政法人・金沢医療センターの吉村光弘内科医長が執筆した新聞の健康コラムを本にまとめたものです。気になるPPKは「ピンピンコロリ」をもじったもの。丈夫で長生きして、倒れたらコロリと逝くのが「最高の人生の幕引き」という訳です。

  タイトルもさることながら、内容が私たちの「医学の常識」を衝いていて面白い。「長寿県で知られる沖縄は、米軍基地があり輸入豚肉の関税が安く、55歳以下の男性の2人に1人は肥満」というへエ~という話や、「インスタント食品に含まれる大量の防腐剤が腸内細菌を死滅させ、アレルギーを起こす体質にする」というドキッとする内容も。そして地元の医師の視点から、「石川、富山は死後に腎臓を提供する人が過去6年で両県合わせてたった3人しかいないのに、東海地方から51個もの腎臓をもらっている全国でもまれな輸入超過県だ」と問題点も指摘してます。

   「人は生きたようにしか死ねない」-。日ごろから命と健康について心がけ、無理せず実行しましょう。この本から学んだことです。
 ※「PPKが最高!」は85ページで一気に読める手ごろな本(400円)。問い合わせは丸善金沢支店(℡076‐231‐3155)

⇒25日(水)午前・金沢の天気 晴れ

★テレビに子育てを託す愚

★テレビに子育てを託す愚

 日本PTA全国協議会による2004年度「テレビ番組に関する小中学生と親の意識調査」が先日発表された。それによると、親が子供に見せたくない番組の上位3位はテレビ朝日系「ロンドンハーツ」、フジテレビ系「水10!」、テレ朝系「クレヨンしんちゃん」の順で、前の年と同じだった。毎年発表されるこのニュースを見て、いつも逆のことを考えてしまう。テレビは教育のためにあるのではない、エンターテイメントのためにあるのだ、と。だから、「見せたくない理由」が「内容がばかばかしい」(61.9%)、「言葉が乱暴」(38.7%)、「常識やモラルを逸脱」(37.4%)などなっていても、私は「テレビとはそんなものですよ」と居直りたい気分になる。
   テレビは子育てのツールではない
  問題にしたいのは、先に述べたようにテレビは教育のツールとしては成立しないのにもかかわらず、親がそれを期待する愚である。さらに、刺激的な表現をすると、子どもにテレビを見せておけば、子育てになると思っている親のなんと多いことか。「ドラえもん」を子どもに見せておけば、夢多き子どもに育つと思っている親も相当多いと思う。その幻想の裏返しで、「クレヨンしんちゃん」がヤリ玉に上がっているだけではないのか。
   バーチャルで深刻化する「壊れる日本人」  
  いまの子どもたちは、テレビやテレビゲーム、携帯電話やパソコンのインターネットなどバーチャルの環境にどっぷりと浸かり、リアリティーの感覚が希薄になっている。この現状を、ノンフィクション作家の柳田邦男氏は「壊れる日本人」と喝破し、その同名の著書の中で、バーチャルに慣れきったがゆえに起きる事件の数々を一つ一つ取り上げ検証している。去年6月、長崎県佐世保市で起きた小6女児による同級生殺害事件で、女児が映画「バトル・ロイワヤル」で殺人をゲームとして覚え、メールで相手を攻撃し、そして殺害を実行した経緯を心理分析の記録から浮かび上がらせている。警鐘を鳴らす柳田氏は日本小児学会の提言▽2歳児までのテレビ・ビデオ視聴は控える▽子どものメディアへの接触を1日2時間(テレビゲームは30分以内)まで-などの具体的な対策を紹介している。
   親がテレビのスイッチを切るべき
  「子どもに見せたくない」を実行に移すべきだ。子どもに見せたくないのであれば、親がテレビのスイッチを切る、またテレビタイムを制限する、さらにノーテレビ・デイを設けるくらいの教育的措置を取るべきなのである。テレビの内容の問題より、柳田氏が指摘するように、テレビやテレビゲームの見せ方をめぐる親と子のあり方が深刻な問題なのである。

⇒24日(火)午前・金沢の天気 雨

☆「賃貸アメーバー」の奇観

☆「賃貸アメーバー」の奇観

  北陸3県の税務署は先日、2004年の所得税額が1千万円を超えた高額納税者を公示しました。公示対象者は前の年より42人少ない1030人で、バブル経済の余韻が残っていた1991年の3319人に比べ、実に3分の1に減ったことになります。県別では石川が384人、富山が344人、福井が302人で、いずれも過去最低の人数でした。今回のコラムは、ある意味で、新聞に名前が出ないように苦闘している人たちの話です。

   県庁周辺に「バブルの再燃」
  高額納税者の話題と関連し、知り合いの住宅メーカーの社員がこんな話をしてくれました。「(石川)県庁周辺でバブルが再燃している」というのです。その話を聞いて、実際に県庁12階から眺めた周辺地が上の写真です。確かに、大きなビルこそ立ってはいないものの、低層のマンションやアパートや住宅が立ち込んでいる様子がうかがえます。私にはアメーバーのごとく広がる灰色の物体のようにも見えます。

  以下は、知り合いの社員の話です。県庁が一昨年この地に移転し、もともと田んぼだったこの土地の区画事業も完成、広大な宅地が出現したのです。そこで、資産保有者は何を考えて住宅メーカーと相談するかというと、「資産の圧縮」をどう効率よく行うかという一点にたどり着くのだそうです。たとえばの話です。1000坪の宅地を保有したとします。これだけでは固定資産税と都市計画税がかかるだけの「マイナス資産」です。そこで、抵当権設定の限度いっぱいに銀行から借り入れを起こし、その金額に見合う低層マンションや2階建てアパートを建てます。そして、一括管理と家賃保証を住宅メーカーに任せるのです。だいたい20年が保証期間になるといいます。
   空室率が高まり逆ザヤも懸念
  県庁周辺ですと、いま「人・モノ・金」が集まってきているので入居率が高く、住宅メーカーのリスクも少ない。これでだいたい年利回り7%が確保できる、つまり1億円を借りた場合、ここから上がる家賃収入が700万円という計算です。相続が発生した場合でも負債も相続することになり、さらに相続する土地には貸家建付地の評価減(20%)があるなど節税効果は大きいというわけです。土地を売却してそのままキャッシュを持っていても相続が発生した場合に税の網がかかるので、それなら、アパートやマンションの建てよう、となるのです。逆に言えば、田んぼが区画整理によって評価資産へと価値を高めた瞬間から、その所有者は税制によって心理的にコスト的に追いつめられていくのです。しかも、アパートやマンションが立ち並ぶ地域に住む魅力を感じないのは自明の理。古い賃貸物件から順に空室率が高まると同時に家賃が下がり、収支が逆ザヤに転じてこのバブルは終焉します。ちょっと暗い話ですが…。

 需要と供給のバランスではなく、土地に重くのしかかる税制と「税務署が怖い」という所有者の心理が生む建設ラッシュ。これが県庁周辺で広がっているアメーバーのような奇観の正体ではないか、と思うのです。

⇒23日(月)午前・金沢の天気 晴れ 

★将軍家十五代のカルテ

★将軍家十五代のカルテ

  きょうの「自在コラム」は書評です。新潮新書の「徳川将軍家十五代のカルテ」(篠田達明著)を一気に読みました。歴代の将軍たちがどのような病気で死去したのかという縦軸が一本通っていて、横軸に時代背景やエピソードが散りばめられているのでコンセプトがしっかりしていて、分りやすいから面白いのです。作者の篠田氏は愛知県生まれ、整形外科医で作家です。この本が説得力を持っているのは、歴代の将軍が眠っている東京・芝の増上寺の改修工事(昭和33年)の際、徳川家の墓所が発掘され、埋葬された遺体ついて学術調査が行われ、その資料に基づいていること。また、「徳川実記」など史実を裏付ける古文書に篠田氏が鋭い読み込みを入れているからでしょう。
徳川家の菩提寺・増上寺 

   歴代将軍の平均寿命は51歳の不思議
 歴代の将軍の平均寿命は51歳。最長寿は十五代の慶喜で77歳、次が初代の家康の75歳です。これは意外でした。織田信長は「人生50年」と謡い能を舞いました。それから時代が下り、御典医ら江戸城の医師団の手厚いメディカル・チェックを受けていたにもかかわらず、信長時代と寿命が変わらないのです。平均寿命が短いのはほどんどが将軍直系の子どもたちで、「大奥で過保護に育てられた虚弱体質といえようか」と篠田氏は述べています。

  その「過保護」の具体的な例が、将軍たちの乳母。乳母たちは白粉(おしろい)を顔から首筋、胸から背中にかけて広く厚く塗りました。抱かれた乳幼児は乳房を通じて白粉をなめたと同時に、乳幼児にも白粉が塗られました。これがクセ者で、江戸時代の白粉は鉛を含んでいたのです。体内に蓄積された鉛で中毒を起こし、筋肉のマヒや知能障害などに陥るケースもあったのではないか、と篠田氏は考察しています。
  正室にのしかかったストレス
  歴代の将軍よりさらに短命だったのが公家・宮家から迎えられた正室で、その平均寿命は47歳でした。宮廷社会から武家社会に入り、言葉もまったく違う。こうした強いストレスが加わった場合、卵巣に排卵異常が生じたり、卵管けいれんが起こったりと順調な受胎ができない場合が多いそうです。子どもができない場合、それがまた次のストレスを生むといった悪循環にも。ですから、将軍の世継ぎを生んだのは正室ではなく、侍や農民、商人の娘である側室でした。これがまた大奥での確執=ストレスへと発展していくのです。年齢についての考察以外にも、「生類憐れみの令」で有名な五代・綱吉は内分泌異常で身長が124㌢だったことなど、これまでの歴史教科書や小説では見えてこなかった将軍たちの実像が医学の観点から浮かび上がってきます。一読の価値があります。

⇒22日(日)午前・金沢の天気 くもり

☆詐欺罪は成立するはず

☆詐欺罪は成立するはず

 そのNHK職員は内部調査で「年度末で仕事が多く、給料以上に働いていると感じていた」と述べたという。「詐欺」を働いた理由がこれである。NHKは19日、39歳の男性職員が自分で作製したコンピューター・グラフィックスを外部のデザイナーに依頼したように見せかけて470万円を着服したとして、この職員を26日付で懲戒免職処分にすると発表した。
発注と受注が同じという詐欺の構図
  NHKの記者発表などによると、この職員は番組のセット制作を担当する映像デザイン部に所属し、去年3月から10月にかけて4回の詐取行為をした。その手口は、子会社のNHKアートを通じて新しいセットのイメージを描くCGを制作する際、自分が作ったCGを外部デザイナーに発注したように見せかけ、NHKアートから親族名義の口座に計557万円を支払わせた。このうち、源泉徴収分を除く470万円を着服した。つまり、この男はNHKアートを経由して、おそらく親族が経営するデザイン会社に発注し、自分のCG作品を買わせたということだろう。発注と受注が同じということなり、これは立派な詐欺である。
  不正流用事件を知りつつ
  今年3月末にNHKアートへの税務調査があり、本人も事情聴取を受け怖くなり、上司に告白し、NHKの内部調査で実態が明らかになった。NHKとすれば、本人が告白したので、今月分の給料(おそらく25日支給)を支給した後の26日付で懲戒免職、さらに着服分は全額返済されており、NHKは刑事告訴はしない方針という。しかし、この処分は甘い。税務調査で本人が聴取を受けたことが告白のきっかけであり、いずれ司直の手が入ると読んだ職員が「告白」という先手を打ったのであり、罪を悔いて「自首」したのではない。しかも、去年7月に元チーフプロデューサーによる6230万円にも上る番組制作費不正流用が発覚したが、職員はその後も不正行為を続けていたことになる。悪質である。
甘い処分、退職金の行方に注目
  刑事事件としての展開もさることながら、退職金の支払いに注目したい。NHKの職員就業規則には、「懲戒免職に該当する行為で解職された時は退職手当は支給しない」とあるが、情状によって100分の35を上限として支給することがあると規定されている。この職員が「告白」したということで処分が甘くなっており、退職金が支払われる可能性が高い。受信料を横領して、受信料で退職金が払われる。しかし、今後、国会でこの問題が追及されても、NHKは「退職金を支払ったかどうかも含めて、個人情報保護の観点から答えられない」と強弁を張るだろう。例のごとく…。

⇒21日(土)午前・金沢の天気  

★「珍客」の多い館

★「珍客」の多い館

 日照りに負けず 
先週14日、金沢大学「角間の里山自然学校」のボランティアの人たちが大学の空き地を耕し、サツマイモやトウモロコシの苗を植えました。ところが、今週は日照りの日が多く、せっかく植えた苗ですが元気がないのです。そこで、きのう19日に水撒き用のホースを購入し、ボランティアやスタッフが交代で本格的な水遣りを開始しました。 

  カメムシからアオダイショウまで
ところで、畑の奥に見える私のオフィスは築280年の古民家を再生した大学としては珍しい、文化財級の施設です。古風な建物だけに、「珍客」も多く寄ってきます。4月完成したばかりのころはカメムシがいたるところにいました。踏んだりすると強烈なにおいを発するあの虫です。ガラスの外にへばりついているのではなく、家の中に多いのです。どうやら、移築する前の旧・白峰村で解体工事中にカメムシが柱の裂け目などに入り越冬したらしいのです。私を含めたスタッフは、「自然学校だからカメムシと共存しよう」と意見が一致し、「カメムシを踏まないで」と貼り紙をし、駆除はしませんでした。カメムシは、5月になり気温が上昇するにつれ山に戻っていきました。

   カメムシが去った後は今度はツバメがやってきました。白いフンを落とし、土間や廊下が汚れましたが、「ツバメは縁起物」と追い出すことはしませんでした。が、適当な営巣場所が見つからなかったせいか、ツバメは一日で去っていきました。スタッフの一人は「今回は下見で後日やってくる」と。来訪があれば、温かく迎えるつもりです。

  招かざる客もいます。アオダイショウです。ボランティアの一人が「大きい」のを近くで見たというのです。「もう床下に入っているかもしれない」と。農作物を食い荒らすネズミを好んで食べるために、昔から農家では大切にされてきたようです。ちょっと気持ち悪いですが、アオダイオショウとも共存を、と考えています。

⇒20日(金)午前・金沢の天気 

☆先手必勝のフォルム

☆先手必勝のフォルム

 その広場は地上1万9400平方㍍(東京ドームの半分足らず)の広さがあり、バスターミナル、タクシー乗降場が連なる。目立つのは3000枚の強化ガラスでつくられた「もてなしドーム」である。能楽・加賀宝生の鼓をモチーフにしたという「鼓門(つづみもん)」がその存在を誇示している。イベント広場に使える地下広場もある。金沢市が170億円をかけて整備したJR金沢駅東口広場の概要である。
金沢の玄関口 

 ここに立つと、さまざまなフォルムが楽しめる。写真は、鼓門と「もてなしドーム」の屋根の連なりである。ガラスとスチール、そして木造が織りなす「都市の甍(いらか)」ではある。しかし、建築的な見地は今回の本論ではない。なぜ、このような建築物をここに出現させたのか、という考察である。この広場は、北陸新幹線のJR金沢駅を想定した広場である。「新幹線の駅が完成していないのに、170億円もの税金を先行的に投入してよいのか、他に税金を回すべきではないのか」と言った議論が計画当初にあった。

 結論から言うと、私は「つくってよかった」派である。実は、どこも新幹線の駅ものっぺりした同じような顔をしている。「金沢の玄関」にあのような駅はふさわしくない、と私も思う。JRは民営化以降、徹底したコスト主義を経営の柱に据えており、百万石・金沢だからと言って特別なフォルムの駅はつくらないし、つくれないのである。そこで、行政が先手を打って、玄関口に170億円を投じた。玄関口に見合う立派な母屋=駅をつくれとのメッセージをJRに対し送ったのである。もしこれで、金沢駅を例ののっぺり駅にしたら、JR批判の世論が沸きあがるに違いない。JR宝塚線の脱線事故で、JR西日本のコスト主義、合理主義がヤリ玉に上がっている折りである。

 北陸新幹線は10年以内に開通する見通しだ。それにともなって近い将来、新幹線金沢駅も建設される。金沢市の先手必勝とも言える作戦がどのような新幹線金沢駅のフォルムとして展開していくのか、そのような眼でこの駅広場を眺めている。

⇒19日(木)午後・金沢の天気  

★兼六園の楽しみ方④

★兼六園の楽しみ方④

カキツバタの花音は聞こえるか
  歴史の長い兼六園にはいくつか噂話もあって、それがまた楽しみの一つにもなります。たとえばこんな光景があります。ちょうど5月中ごろ、カキツバタが咲く曲水の周囲には早朝から市民が三々五々訪れます。かがんで耳に手をあて、じっと眺めている人もいます。地元の人の話では、「カキツバタは夜明けに咲く。その時に、ポッとかすかな音がする」とか。人々はその花の音を聞きにやってくるのです。

  私もかつてその話を聞き、2度か3度早朝に兼六園を訪れてみましたが、花音の確認はできませんでした。そのうち、カキツバタの花音は単なる噂(うわさ)話ではないかと思うようになり脳裏から消えていったのです。一昨年の5月、地元の民放テレビ局がその花音を検証しようと、集音マイクを立てて番組にしました。その時は、聞こえたような聞こえないような、かすかに空気が揺らぐような、そんな微妙な「音」でした。番組のディレクターがたまたま知り合いだったので確認したところ、「カキツバタの花音は、開くときに花弁がずれる音だと推測しマイクを立てましたが、現場では聞こえませんでした」とあっさり。ハイテク機器を持ってしても、実際の音にはならなかったのです。

風流という金沢人の楽しみ方
 でも、よく考えてみれば、早朝に集まる人々にとってはカキツバタの花音がしたか、しなかったは別にして、「兼六園にカキツバタの花音を聞きにいく」と家族に告げて早朝の散歩に出かけます。それだけでいいのです。兼六園がある金沢らしい風流な暮らしぶりの一端だと思えば、この話に角は立ちません。兼六園の楽しみ方を金沢の人は知っているのです。(このシリーズ終わり)

※「兼六園の楽しみ方」は、5月18日付の朝日新聞石川版・広告特集「兼六園への誘い」に執筆した原稿を一部手直しして掲載しました。

⇒18日(水)午前・金沢の天気

☆兼六園の楽しみ方③

☆兼六園の楽しみ方③

兼六園を造営した代々の加賀藩主は植栽の色や形の違いにこだわりました。たとえば桜だけでも20種410本に及びます。一重桜、八重桜、菊桜と花弁の数によって分けられている桜。中でも「国宝級」は曲水の千歳橋近くにある兼六園菊桜(けんろくえんきくざくら)です。そのまま学名にもなっています。
二代目「菊桜」も見事に咲く
 「国宝級」というのも、国の天然記念物に指定されていた初代の兼六園菊桜(樹齢250年)は昭和45年に枯れ、現在あるのは接ぎ木によって生まれた二代目です。二代目であっても、花弁が300枚にもなる生命力、咲き始めから散るまでに3度色を変える華やかさ、そして花が柄ごと散る潔さは変わりなく見事です。
兼六園菊桜

 「唐崎松」の二世はクローン
兼六園の名木、特にマツは樹齢150年を経ているものばかりで、いつかは枯れます。そこで、兼六園の管理する石川県は、県林業試験場と独立行政法人「林木育種センター関西育種場」(岡山・勝央町)に依頼し、松の名木のクローン増殖を行っています。クローンの苗木は接ぎ木方式で育成されていて、この方式だと、もとの木の性質を遺伝的に引き継ぐため、名木の後継種として活用できるそうです。現在増殖に成功しているのは雪吊りで有名な唐崎松や、お花松、根上松、巣ごもり松など。兼六園管理事務所はクローン苗木を「後継木」として仮置きして育て、次の出番を待ちます。出番と言っても数十年から数百年という長いスパンの話です。

⇒17日(火)午前・金沢の天気