★続・古民家のアーキテクチャー

★続・古民家のアーキテクチャー

   さる6月6日、文部科学副大臣の塩谷代議士が金沢大学の自然科学系図書館、自然科学棟、そして創立五十周年記念館「角間の里」を視察に訪れた。林学長から塩谷副大臣に紹介をいただき、私は塩谷氏と会話するチャンスに恵まれた。

(宇野)「民間のテレビ局から転職しました。よろしくお願いします」
(塩谷)「ほお、珍しいね。ところで、この古民家はあと何年持つのかね」
(宇野)「建築家はあと百年はかたいと言っています」
(塩谷)「百年か、百年たったら周囲の建物はないな」
(宇野)「それもそうですね…」

   ほんの二言三言の立ち話だったが、塩谷氏の言葉は印象深かった。コンクリートの耐久年数は50年か、よく持ちこたえて60年である。百年もたてば今ある大学の周囲の建物はなくなって、この館だけが残るだろう、塩谷氏はそう言ったのである。

   私はいま50歳である。余命は30年余りだろう。私の死後20年か30年たって、この古民家を再評価する動きが出てくる。大学は再び総合移転する必要性に迫られ、この家の処遇をめぐって、どう評価するかという論議である。その時、この家に関するインターネット検索が行われるだろう。するとこの家について記した私の「自在コラム」がインターネットの海底深くからサルベージされるはずである。以下は後世の人に贈る私の備忘録である。

   私はこの家で人生のある時を刻んだ。この意味で私はこの家のファミリーの一員である。この家の懐に抱かれるようにして時を過ごし、人と出会い、夢を語り、人生に悩み、そして生きるすべを考えた。私がここにいるだけでどれほどの人が訪ねてきてくれただろうか。私を訪ねてきてくれたのではない、この家を訪ねてきてくれたのだ、と思っている。

   学生時代にインド哲学でリーインカーネーション(輪廻転生)という言葉を習った。この家の価値を認める人がいる限り、この家はまた再生する。50年後、60年後の再評価の声というのは、この家を再生させるための呪文に過ぎない。私はそのことを「リーインカーションの調べ(旋律)」と仮に名付けた。この家、老翁のつぶやきが聞こえる。「私はもう300年も400年も生きている。もう死なせてくれてもいい。どうしてももう一度というのなら、今度は海の夕日の見える丘の上に建ててくれ、山里の暮らしが長かったから…」。後世の人はどうか老翁のこの願いをかなえてやってほしい。(2005年6月25日)

⇒25日(土)午前・金沢の天気  晴れ

☆古民家のアーキテクチャー

☆古民家のアーキテクチャー

   別に建築美というものを意識して造ったわけではないだろう。人間の知恵の限り合理的に木材を切り込んで組み立てたら、それが建築構造的にも美しく仕上がっていた、と表現したらいいのかもしれない。美の感性ではなく、知恵の美である。金沢大学創立五十周年記念館「角間の里」は白山ろくの旧・白峰村から寄付してもらった古民家(280年)を再生したものだ。完成間近の4月上旬にこの館を見学させてもらった時、何か胸にこみ上げてくるものがあった。昔、この家に住んだことがあったかもしれないと不思議な錯覚に陥ったものだ。それ以来、この家に愛着がわいた。

   冒頭記したように、古民家には知恵のアートというものを感じる。光を取り込む工夫、家の耐用年数を限りなく延ばすための工夫などである。それは環境に応じた自然な発想で、現代の建築家が意識するアートと違って気負いというものがない。上の写真(左)は梁(はり)がむき出しなった2階の部屋である。真ん中を通る照明とマッチしてかえってモダン建築のようにも見える。採光を貪欲に意識した窓。雨天の農作業に欠かせない長く伸びた「ひさし」=写真・下=は、少人数のゼミにはもってこいの空間になっている。

   もともとこの家は養蚕農家で、建築の専門家が言うには岐阜・白川の合掌造りのような3層構造になっていた。それをベースに改築が重ねられたものらしい。築280年というのは白峰村に移築されてからのことで、それ以前は福井の大野か勝山にあったものらしい。つまり、この家の本当の年齢は280年プラス何年かは分からないのである。ただ、合掌造りの名残をとどめるとすれば、それが350年か400年かと私には想像をめぐらすことしかできない。

   一つ言えることは、金沢大学に来る前は白峰村、その前は白峰村の桑島地区にあった。1980年に完成した手取ダムのダム底に沈む運命にあったものを引き上げたのである。さらにその前は石川と福井の県境である谷峠を越えてやって来た。13㍍もある棟木、数知れない柱。運搬のためにどれほどの馬車が峠を往来し、あの急坂に苦しげな馬のいななきがこだましたことだろう。そして、白山ろくの厳しい風雪に耐え、ダム底に沈む運命をかろうじて免れ、そして2005年の春、金沢大学のキャンパスにやって来た。この家の柱についた傷は人々が生きた証である。これを眺めているだけで、この屋根の下で織りなされた何百人という人の人生、暮らし、泣き笑いがまぶたに浮かんでくるようで自然と涙が出てくる。

   私は建築家ではないので専門的なことを語る術(すべ)はない。ただ、カメラを携えていろいろなアングルを撮っているうちに、黒光りする柱に人生で言えばベテランの「いぶし銀」のような生き方を感じ、人として共感する。ただそれを私は美しいと感じる。

⇒24日(金)午後・金沢の天気 晴れ

★バナナのから揚げ

★バナナのから揚げ

   今回の「自在コラム」のカテゴリー選択は実に迷った。果たしてどんな分類か、と。テーマは「ババナのから揚げ」=写真=である。金沢大学「角間の里山自然学校」代表の中村浩二教授(生態学)が「こんなの初めてでしょう」と袋詰めしたものを持ってこられた。インドネシアから帰国した研究生がお土産にと持参したものをお裾分けしていただいたというわけだ。  
アジアの風味 
   妙な味がした。中村教授によると、バナナを乾燥させたものをココナッツ油で揚げたものだそうだ。現地ではいろいろな食べ方があって、生のものを揚げて食する方法も「なかなかのもの」。お土産としては乾燥したものに人気がある、とか。初めて食べた印象は、干し芋を揚げたような食感だと思った。歯触りは軟らかなビーフジャーキーのようでもある。ココナッツ油が胃壁にこびりつく感じがして、量は食べることができなかったが、エスニックな雰囲気を味わうには十分だった。見た目は乾燥したナマコにも似ているが…。

   インドネシアの食品でもう一つ。コーヒーが妙だ。このコーヒーは挽いた粉にお湯を注ぐだけのインスタントなのだが、なかなかお湯に溶けない。そこで、粉をちょっと注ぎ足して飲み、また注ぎ足してと何回でも飲める。そして飲むうちにだんだんと喉がいがらっぽくなってきて、「そろそろ飲むのをやめようかな」となる。これはこれでまた異国情緒たっぷりのテイストなのだ。

   見た目や味で完璧さを求める日本の食品とはひと味もふた味も違うところに新鮮さを感じる。決してグルメの紹介ではない。そして、グローバルに研究交流が進み、人が往来すれば珍しい食べ物も自然に渡ってくる。大学というのは面白いところだ、と言いたかったのである。

⇒23日(木)午前・金沢の天気  曇り

☆パケット通信料の壁

☆パケット通信料の壁

   NTTドコモのFOMA端末を使っている友人に電話で、「きのうは見たか」と声をかけたら、「あんなもの恐ろしく見れないよ」と返事が返ってきた。やっぱりそうかと妙に納得した。楽天がきのう21日から、東北楽天ゴールデンイーグルスの携帯電話公式サイトで、フルキャストスタジアム宮城での生中継映像の配信を始めた。FOMAのテレビ電話機能「Vライブ」を使って、試合開始から終了まで配信。きのうの初戦は対福岡ソフトバンクホークス戦だった。

   サービス利用には、球団の公式サイト「楽天イーグルスモバイル」(月額315円)の登録が必要で、ほかに月額300円の情報料が必要だが、友人が「恐ろしくて」と言ったのは、テレビ電話のパケット通信料のことである。何しろ1分間で30円ー70円もかかる。2時間視聴したとして8400円になる。芝生席だった1000円ぐらいだから、その8倍もするというわけだ。楽天は「従来の配信は1秒間6枚ほど。最大12枚の配信が可能で、画像はより鮮明になる」と画質のよさを説明しているが、パケット料金を気にしながらプロ野球を観戦する気にはなれない。携帯電話の1ヵ月の平均的な利用料が8000円と言われているのでFOMAを持っていたとしても普通の人には手が出せない、と思う。

   でも、私は今回の携帯電話でライブ映像を配信するという楽天の取り組みを前向きに評価したい。実は、高校野球地区大会の中継映像やダイジェスト映像(編集済み)を携帯電話で配信できないだろうか、という要望が以前からある。地区大会は多くの場合、テレビ朝日系列のローカル局が実況中継をしているが、県域エリアを離れてしまうと視聴できない。そこで、せめて1分のダイジェスト映像でも手軽に携帯電話で見ることができればというニーズだ。しかし、著作権を保有している日本高野連は携帯電話での動画配信には首を縦に振らないのである。その明確な理由は示されていない。

   そこで、プロ野球の動画映像が携帯電話でも身近になれば、高校野球もそのうちに解禁…と妙に期待しているのである。もちろんその前にパケット通信料問題が解決されなければならない。たとえば、年間3万円程度でパケット使い放題というサービスがあればという話である。パケット通信料や著作権になんとか風穴を開けてほしい。

⇒22日(水)午後・金沢の天気 曇り
  

★稲はざ立つ里山の夏

★稲はざ立つ里山の夏

  梅雨は素通りで、真夏かと思うほど気温がぐんぐんと上昇しています。緑に囲まれた、ここ金沢大学角間キャンパスでも随分と暑いと感じます。その夏も通り越して、この「角間の里」ではもう秋の準備も始まっています。下の写真は稲はざ。市民ボランティアの人たちが立ててくれました。縦に立っているのはクリの木、横が竹です。最近はコンバインで一気に刈り取りと脱穀をするので、この稲はざの風情は失われつつあります。

   稲はざの向こうに見えるのが、金沢大学創立五十周年記念館「角間の里」。私のオフィスです。山の斜面の棚田ではモチ米が栽培されており、秋の収穫が楽しみです。刈り取られた稲がこのはざに掛けられ、直射日光をたっぷり浴びた米を蒸して、もちをつくのです。アワやキビも入れます。棚田を復元した人、田で植えた人、稲はざをつくった人みんなで収穫を祝いたい。そんな気持ちで、オフィスからこの稲はざを眺めています。

   今月30日にこの「角間の里」にアメリカのプリンストン大学の学生45人がやってきます。日本語と日本文化を学ぶ学生たちです。板ばりのセミナー室=写真=で車座になり、日本の学生たちと語り合う姿を想像してみてください。そして、市民ボランティアの人たちが「もちつき」をしてくれます。日本の農山村の風景はすでにsatoyamaとして彼らも知っているそうです。この日はmotitukiも彼らのボキャブラリーに加わることでしょう。そしてinahazaも。

⇒21日(火)午後・金沢の天気 晴れ

☆広告市場にネットの大波

☆広告市場にネットの大波

    先日、ある民放キー局から株主総会(6月29日)の招集通知書が届いた。株式を購入したのは、営業報告書や貸借対照表を通してテレビ業界をウオッチするためである。今回届いたキー局の営業概況を説明しよう。平成16年度の連結売上高は2420億円で前年度比11%増である。アテネオリンピックの効果だ。営業利益は136億円(前年度比108%増)。経常利益は135億円(同130%増)となり、利益率5.5%である。テレビ局をコンテンツ流通業と見なせば、ヤマト運輸の利益率3.9%であり、利益率は悪くない。1株当たりの純利益は7198円、前の年度の4.6倍にも膨らんだ。ちなみに1株当たりの年間配当金は1300円である。

    この内容を見る限り、テレビ業界はいいことずくめのようだが、これから起こるテレビ業界のことをちょっと考えてみる。アメリカではすでにメディア(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・インターネット)の視聴・購読時間の15%がインターネットの閲覧に費やされており、急速にインターネットの広告市場が拡大している。日本の広告市場はどうなっているのか。日本のメディアに投下された2004年の広告費はテレビ・ラジオ・新聞・雑誌・インターネットで合計3兆8574億円である(電通調べ)。そのうちネットは1814億円、ラジオの1795億円で、シェアはともに4.7%だが、金額ではネットがラジオを抜いたのある。近い将来、アメリカ並みにネットが日本の広告市場で伸びるとすると、シェア15%、金額にして5800億円ほどに膨らむと推測できる。

    しかし、全体の広告市場はすでに頭打ちである。金額ベースで1985年を100とした場合、2000年の174をピークに減少しているのだ。つまり、ネット収入が膨らんでいる分、どこかがへこんでいる計算になる。そのへこみはメディアではこれまで新聞とラジオだったが、すでに底打ち傾向である。今後、ネット市場が伸びた場合、どのメディアが割りを食うのかというとテレビ、中でも可能性がもっとも高いのがローカル局なのだ。大手スポンサーは手持ちの広告費を配分する際、東京、大阪、名古屋のテレビ局は外さない。大都市圏での販売シェアを確保したいからだ。ネットに広告費を回す場合、削ることになるのはローカル局への配分だ。事実、99年にネットバブルがはじけてネット関連の広告(PCなど)需要が落ち込んだ時、やはり削られたのはローカルのCM出稿だったのである。

     今後、2006年のローカル地上波のデジタル化が一気に進む。どんな小さなローカル局でも40億円ぐらいの投資が必要となってくる。その投資の波と、ネット広告の拡大の波と重なるのが来年だ。内部留保を吐き出し、デジタル化の投資がひと段落したころに「15%」のネット市場が迫ってくる。系列のローカル局の面倒を見るのは最終的にキー局だ。さらに、アメリカでも起きている現象だが、ヤフーとグーグルの売上高は今年、ABC,NBC,CBSのアメリカ3大ネットのプライムタイム広告収入に並ぶ可能性も指摘されている。キー局と言えども安泰ではないのだ。

     この広告市場にくるネットの大波は日本にも必ずやってくる。テレビメディアのマネジメントが、変化のスピードについていけるかどうか。放送と通信の融合に果敢に挑む姿勢が示せるのかどうか。イノベーションを起こせなければ凋落する。これは自明の理である。自宅に届いた一通の株主総会召集通知書からいろいろなことを考えてしまった。

⇒20日(月)午後・金沢の天気  晴れ

★テレ朝への抗議の行方

★テレ朝への抗議の行方

   自民党の岡田直樹参院議員(石川県選挙区)がテレビ朝日の番組「報道ステーション」で事実に反する内容が取り上げられたとして、17日、同党の武部勤幹事長と連名で、放送法に基づく訂正放送と謝罪を求める通知書をテレビ朝日あてに送った。この通知書はおそら内容証明郵便で出しているはずで、裁判になることを想定した「宣戦布告」とも解釈できる。

    岡田氏の公式ホームページによると、さる10日、北朝鮮への経済制裁を検討する参院拉致問題特別委員会で、参考人として呼んだ拉致被害者の家族代表の横田滋さん夫妻に岡田氏はこう質問した。

(岡田)「経済制裁を検討しながら一つ気掛かりなことは、今も北朝鮮に生存をしていると信じる拉致被害者の方々、めぐみさんを始め拉致被害者の方々が、この経済制裁によって状況が好転すればいいですけれども、裏目に出て万が一、不測の事態が生じはしないかということが我々も心配でならないわけであります。前のが偽の遺骨であったならば今度は本物を出そうと、こういうことを考えかねない国だと思うんです。御両親に対して本当に言うに忍びないことを言い、聞くに忍びないことをお聞きしますけれども、そうしたおそれを抱きながらもなお今、経済制裁をとお求めになるのか。その辺りの御心境を御両親からお伺いしたいと思います」

   以下は横田滋氏の答えである。

(横田)「そういった懸念はゼロではございません。それは、平成9年にめぐみのことが明らかになったときに最初に我々が直面しましたことは、名前を出して、かつ写真を公表するか、それとも匿名にするかというようなことで迷いました。やはり、実名を出して写真を出さなければ証言に信憑性ということが出てきません。しかし、それを明らかにすることによって、そんなことはなかったということで殺されてしまうというような心配もございました。ですから、最初から、スタートの段階ではやはりそういったリスクというものがもうゼロというのではないわけですが、しかし、それを恐れていれば結局そのままの状況がずっと続いて、一生もう北朝鮮で何もなかったような形で終わってしまうというようなことになりますので、やはり救出ということになりますとそうせざるを得ないと思います」

   つまり、岡田氏の質問は、「聞くに忍びないことをお聞きしますけれども」と夫妻の心境を気遣いながらも、北朝鮮に経済制裁をすれば、めぐみさんが本当に殺されるかもしれない、その覚悟のほどはどうですか、とたずねた。それに対し、横田氏は「それを恐れていれば結局そのままの状況がずっと続いて・・・」と経済制裁を強く求めたのだ。岡田氏とすれば、「家族はリスクを覚悟して経済制裁を求めている。だから、政府もやるべきだ」というセオリーを慎重な言い回しで組み立てた。この特別委員会が終了した後、「岡田先生が自分たちの考えを分かっていた上で、あえて国会の場でそのことを家族の口から話すことが大切と判断してあの質問をしてくださったことと思っています。岡田先生には委員会の後に、参考人として発言の機会が与えられたことに対してお礼しました」と横田氏は述べている(6月16日付「救う会全国協議会ニュース」)。特別委員会の終了時点では、岡田氏は確かな手ごたえをつかみ、横田さん夫妻は国会の特別委員会で経済制裁を訴えることができて、双方に充実した時間だったのである。

   ところが事態は一転する。横田さん夫妻が参考人として出席した特別委員会の様子をニュースとして取り上げた10日夜の「報道ステーション」で、古舘伊知郎キャスターが、岡田氏の質問に対し、「想像ですけれども、北をとっちめたいと思うあまり、まるで非常に苦しい立場にいるご夫妻に、この覚悟はありやなしやと聞いているふうに聞こえちゃうんですよね。本人に確認したわけじゃないですけれども」とコメントし、「無神経な質問」と決めつけてしてしまったのである。

   岡田氏とすれば、「無神経」どころか横田さん夫妻から「お礼」までされているのに、「想像」でベラベラとしゃべられて、「まったく事実に反する報道」で名誉を著しく毀損したというわけだ。岡田氏は東京大学法学部出身、新聞記者を経て、国会入りした。闘争本能をむき出しにするタイプではなく、むしろ温厚な性格。その岡田氏が相当な怒りを持って「宣戦布告」したのである。一方、テレビ朝日広報部は「詳細が確認できていない」とコメントしてはいるものの、どこまで準備を進めているのか。

   テレビの報道番組では、想像でものを言うこと自体、信憑性が失われ負けである。ましてや「北をとっちめ」云々のもの言いは古舘キャスター自身に抑制が効いていない証拠と見るべきだろう。事実関係はすでに明らかで争う余地はない。番組の中できちんと釈明し、「言葉が滑って申し訳ありませんでした」と謝罪すべきだ。先が見えた話は先延ばしすべきではない。

⇒19日(日)午前・金沢の天気  晴れ

☆腰の引けたフジテレビ

☆腰の引けたフジテレビ

   これでは、ライブドアの「完勝」と言っていい。6月14日付の「自在コラム」でライブドアとフジテレビジョンの業務提携の第一号とも言える公衆無線LAN(構内情報通信網)を紹介した。今回の注目点は、フジテレビがどのように無線LANとかかわるか、であった。結果的に、フジテレビは災害や事故の映像の送受信で無線LANを活用するというだけの話なのだ。単なるユーザーでしかない。フジテレビは15日の記者会見にわざわざ取締役を同席させ、「友好ムード」を演出したにすぎないのだ。

   記者会見によると、今回の無線LANの仕組みは東京・港区と新宿区の一部で来月から試験サービスを開始する。独自の無線LAN基地局を都内2200カ所の電柱に設置し山手線内側の80%の地域をカバー。屋外の半径100㍍でインターネットが利用できるようにする。月525円の定額制で、1つの基地局で30人程度までならば2メガか3メガの速度で使用できるという。長期的には100万人の利用者獲得を目指す。堀江貴文社長はこの記者会見で「インターネットを始めたころに夢見た、どこででも接続できるという状況を作りたい」と語った。 

   対等な業務提携を目指すというのならば、フジテレビはライブドアの無線LANを駆使したポータルの構築と放送の連動を目指すのが本筋だろう。14日の「自在コラム」でも述べたように、フジテレビとライブドアがたとえば「東京ハザード」と銘打った、一般からの動画の投稿サイトを共同運営し、東京で起きた災害・事故の映像をアーカイブすれば非常に価値がある。災害映像をフジテレビが一網打尽にでき、スクープ映像を集めて、地上波の番組にもできるからだ。

   フジテレビがなぜ無線LANを使って受発信する映像を災害や事故に限定したかというと、おそらく表向きには「事故や災害の映像をリアルタイムに受発信することにメリットがある」と交渉のテーブルでやり取りしたのであろう。しかし、本音は「こんなひ弱な回線で送れるのは画質を問わない災害・事故の映像ぐらいだろう。今回はお付き合い程度に」だったと推測する。テレビ品質の画像を受発信する際は回線容量で16メガは最低必要、というのがテレビ業界の大方の見方だ。ところが、今回の無線LANでは2メガか3メガしかないのである。だから、フジテレビはライブドアの無線LANを利用を持ちかけられたものの、最初から腰が引けていたのかもしれない。あるいは醒めていた。

   上記の分析は元「業界人」のうがった見方である。ひょっとして、放送と通信のあり方を大きく変える目の覚めるようなプランが進行中なのかもしれない。テレビ業界は曲がり角に立っている。早晩、インターネットに広告市場を奪われる。放送と通信の融合の夢を語っているのは堀江氏だけではないか。テレビ業界からは聞こえてこない。

⇒18日(土)午後・金沢の天気 晴れ 

 

★「小泉語」で大いに語る

★「小泉語」で大いに語る

   予め断っておきますが、きょうの「自在コラム」は小ネタです。6月4日付は、政府がキャンペーンをはっている夏の軽装「クールビズ」について書きました。ネクタイの男性社員に気兼ねして、冷房が効きすぎるオフィスで我慢している女性社員からもノーネクタイ運動は支持される、との内容でした。

   きのう届いた「小泉内閣メールマガジン」(第192号)は、小泉さんへのインタビュー企画。「おやっ」と思ったのが、「クールビズ」についての小泉さんの感想の下りです。「…オフィスに来ても、皆さんきっちりとネクタイと背広だから、女性はスカートで膝かけをしなければならない。それもしなくていいと。女性はもともとノーネクタイなんですが、男性より薄着だから、何か寒さを防ぐような服装を考えて、電車なり会社に行っていたという人も多かった。ですから、あまり冷房をきかせないということは体にもいいから助かるという声が多いです」。表現は異なるものの、内容としては「自在コラム」と偶然にも同じです。

    私がこのインタビューで注目するのは、小泉さんが目線を低くして、オフィスや電車での光景をイメージして答えていることです。実は、小泉さんの言動は庶民の目線で語るパターンが多く、分かりやすいのです。中曽根さんのように、天下国家を論ずることは稀です。

    そこで、「小泉語」で諸問題を解説してみます。

靖国参拝問題は…
 「坂本竜馬も靖国に祀られているんですよ。A級戦犯を崇めにいくのではありません。だいいち、A級戦犯は死をもって罪をあがなったではないですか」

日中問題は…
 「映画『亡国のイージス』に自衛隊が撮影協力しただけで軍国主義の復活と騒ぎ立てる方が異常ですよ。世界の常識というものを中国人は知らなさ過ぎる。だいたい、副首相が会談をいきなりキャンセルするからな。あの国はえらいよ」

郵政民営化は…
 「民でやれることは民で、と昔から言っているではないですか。反対だったら、何でオレを自民党総裁選で落とさなかったのか、と言いたい」

北朝鮮による拉致問題…
 「2回握手して5人帰して、おまけまでつけた。いまアメリカに行っているけどね。91歳の母親は今ごろ涙ぐんでいるんじゃないかな…」  

   どうです、分かりやすいと思いませんか。以上、小ネタでした。

⇒17日(金)午後・金沢の天気 くもり

☆虫愛でる少年たち

☆虫愛でる少年たち

   子供たちは随分ひ弱になったと言われる。たとえば、ここ金沢大学角間キャンパスの「里山自然学校」に遊びにやってくる子供たちの中には、虫を見ただけでフリーズしてしまう子もいる。4月の終わりごろ、附属幼稚園の子供たちが遠足の休憩に立ち寄った。トイレに入った男の子が便器に向かった途端にズルズルと後ずさりし、「なんで虫がいるのだ」と悲鳴を似た声を上げた。便器の中にカメムシが一匹歩いていた。男の子はこのカメムシに仰天し、オシッコもせずにその場を立ち去った。

    家の中に虫がいてはいけない、というのが最近の家庭の風潮だ。だから、ゴキブリを捕獲するのにあちこちに「粘着性のある虫取り箱」を仕掛け、ダニを駆除するために浴びるほどの殺虫剤をまいている。虫さえいなければ清潔だと思っている。その結果、ヒステリックなまでに「虫嫌い」の子供たちが家庭内で培養されている。
  
   逆に「虫を愛でる」子供たちを紹介する。里山自然学校で活動する子供たちの中で、金沢市子ども科学財団の面々はひと味違う。先日、昆虫採取の会が開かれ、小学生を中心に30人が集まった。虫取り網を持たせても右に斜めに構えてウオーミングアップするその姿は実に頼もしい。採取にいざ向かおうという時、雨が降り出した。指導者が「カッパを着よう」と言うと、「カッパなんか着たら動きが鈍くなって虫が捕れないよ」と言い出す子供がいた。確かにそうだ。いざ、虫取りが始まると、まるでハンターだ。ほれぼれするくらいに身のこなしが速い。男の子も女の子もである。 
 
   「成果物」を持ち寄っての標本づくりも慣れた手つきだ。一方で、昆虫採取に飽き足らず、近くのビオトープにジャブジャブと入っていき、クロサンショウを見つけて歓声を上げる子もいる。この子たちがこのまま大きくなれば生物学者や生態学者に成長するのではないか、と予感させた。

   きのうNHK金沢放送局の夕方のワイド番組で里山自然学校から生中継があり、子ども科学財団の子供たちを紹介した。上の写真は、本番前にもかかわらず、ビオトープに集まり観察する子供たちの姿である。もう一枚は中継のために持ち寄った自慢の昆虫標本(ミヤマカラスアゲハほか)だ。

   虫アレルギーの子供もいれば、昆虫学者の卵のような子供もいる。私は2つのタイプの子供たちを見てきた。もし大人が、前者のような子供たちしか見ていないとすれば、日本の将来を不安に思う違いない。

⇒16日(木)午前・金沢の天気 曇り