★「郵政選挙」と農村の風景

★「郵政選挙」と農村の風景

   随分とすっきりしたのではないか。小泉政権の命運を賭けた郵政民営化法案が参院本会議で、足元の自民からの大量造反で否決されたことを踏まえ、衆院解散・総選挙へと一気に展開した。衆院選の日程は8月30日公示、9月11日投開票と決まった。今回は、前回(2003年10月)の「マニフェスト選挙」などといったある種のムードではなく、「郵政民営化は是か非か」という争点がはっきりした選挙なので分かりやすい。従って、無関心層やシラケ組も多く投票率は低いだろう。

   なぜ「すっきり」としているのか。「大辞林」(三省堂)によれば、「すっきり」とは「よけいなものがなく、あかぬけしているさま」「煩わしいことがなくて、気持ちのよいさま。さっぱり」「筋が通っているさま。わかりやすいさま。はっきり」などの意味がある。私はこの場合の「すっきり」を「煩わしいことがなく…」の意味で使いたい。この意味の使用例として「腐れ縁を切って…(と)した」をよく使う。小泉総理は衆院本会議で反対票を投じた自民の37人を公認しない方針だ。14人の欠席・棄権者は郵政民営化に関する意向を確認し、明確な賛成者だけを公認するという。そうした、ピュアな自民党で選挙に勝って郵政民営化法案を再提出するという戦略だ。つまり、足を引っ張る民営化反対者との腐れ縁を切りたいのである。この意味で「すっきり選挙」と名付けたい。

    写真は小泉総理が腐れ縁を切りたいと願っている反対論者の頭目、綿貫民輔氏の選挙地盤である富山県五箇山の菅沼合掌集落である。世界遺産に指定されているだけあって、手前の溜め池、合掌造り、背後の山並みの景色は日本人の心の故郷のようにも想う。綿貫氏はよく「民営化で山里の郵便局がなくなる云々」というフレーズを使う。綿貫氏の山里とは、選挙地盤でもあるこの風景なのである。もう一人の反対論の急先鋒、荒井広幸氏も福島県の農村に生まれた。

    綿貫氏にしても荒井氏にしても、この美しい農村を郵政民営化という資本主義の波で洗ってはいけないという発想が根底にあるのではないか。尊王攘夷か佐幕かで血で血を洗った明治維新も確固たる理論戦でぶつかったというより、前に進む者と、守ろう(既得権ではない)とする者のイマジネーションのぶつかり合いだったと考えられなくもない。

    明治維新を論ずるのは本意ではない。ズバリ、どの党がどう勝つのかである。今回の総選挙が民主党に有利に働くかといえば決してそうではない。争点が「郵政民営化、行財政改革、小さな政府」だから、むしろ民主は郵政民営化に反対の分だけ不利となる。もともと民主党には民営化賛成の議員もいたのである。神奈川県知事になった松沢成文氏のように。支持層の中にも民営化シンパは相当いると推測する。そこで、有権者が「なぜ、民主は反対なのか」と自問して出す答えが、労組の存在である。それは自分が考える民主のイメージとは違うではないか、と思い始めたとたんに心がさめる。民主は相当難しい論点整理の必要性に迫られる。これを間違うと、綿貫氏らと同類と見なされるだろう。

⇒9日(火)夕・金沢の天気  晴れ  

☆イチロー選手の言葉

☆イチロー選手の言葉

   全国高校野球選手権の第2試合をテレビで観戦すると結構忙しい。7日の第2試合は地元・石川の遊学館と秋田の秋田商だ。まず地元民放のHAB北陸朝日放送にチャンネルを合わせた。カメラワークはABC朝日放送(大阪)だが、実況と解説はHABがやっている。HABの場合はローカル大会の1回戦から実況し、そして甲子園に臨んでいるので、地元チームの実況となると裏局のNHKとは思い入れが随分違うのである。ともあれ、HABは11時50分に全国ニュースに入り、チャンネルはNHK総合に。今度はNHK総合が11時54分にニュース&天気に入るためにNHK教育に。HABの全国ニュースが終わる12時00分にはNHK教育からHABに戻って、と10分間に3回の「チャンネルサーフィン」となる。

    試合は遊学館が秋田商を8-6で振り切った。遊学館らしい固め打ちで大量点を築いた。1回裏、遊学館は相手エラーの1アウト1、3塁で4番鈴木のタイムリーが出て1点、5番井原も2点タイムリーで3点を先制した。5回にも2点。7回には3番江川のタイムリーなど4本のヒットで8-1と大きくリードを広げた。上位打線がきっちりと仕事をした。先発は、去年甲子園のマウンドを経験しているエース曽根だった。8回までよく投げ、2番手の番匠と交代、9回の1アウト満塁のピンチに再びマウンドに登りよく踏ん張った。初戦の功労者は曽根だろう。

    しかし、私はむしろ秋田商の健闘を称えたい。3回表で、ローカル大会を一人で投げ抜いたエースの佐藤が走塁中に送球を頭(右こめかみ)に受けて負傷し交代した時、どれほどの動揺が選手に走ったことか。そして、8-1とリードされながらも8回に2点、9回に2度も満塁のチャンスをつくり、2点差にまで迫った。試合を投げたそぶりは誰も見せなかった。アメリカ大リーグ、マリナーズのイチロー選手の口癖は「負けている中でも粘りがないと、次の可能性は見えてこない」だ。最後までチャンスを狙うマインドが大切だ、との意味だろう。エース負傷という予期せぬアクシデントの逆境の中で粘りに粘った、「次の可能性」を感じさせるマインドの高いチームなのだ。

    遊学館の2回戦は8日目の第1試合(予定では13日)、宮城の東北と対戦する。あのダルビッシュはもういない。去年の雪辱を果たしてほしい。

⇒8日(月)朝・金沢の天気 晴れ

★大学に在り、政変を想う

★大学に在り、政変を想う

   私が勤める金沢大学はこの6日から夏休みに入った。大学行きのバスは大幅に間引かれ(夏季ダイヤ)、乗客も少ない。キャンパスではTシャツ姿の学生がまばらに行き交う。合宿でも始まるのか、学生が重そうにオーケストラの楽器を運んでいた。学生1万700人、教職員3500人の「この町」は蝉時雨の音が妙に大きく響く。

   人間の脳というのは不思議なものだ。野にあっては街を想い、夜にあっては昼を想う。静寂にあっては喧騒を想い、学問の場にあっては政争の国会を想ったりする。でも人間はなぜこのように逆の場面をイメージしてしまうのか理由が分からなかった。またまた、司馬遼太郎のエッセイや講演録をまとめた「司馬遼太郎の考えたこと・7」(新潮文庫・平成17年6月1日発行)の中の「願望の風景」を読んでいると面白い下りがあった。司馬さんの家の周囲で(選挙か)マイクなどが響いて騒がしかったので、高野山の宿坊を借りて、日本近世の小説を書こうとしたが、結局、一字も書けず下山してしまったというエピソードである。桧皮葺(ひわだぶき)の屋根や床柱の黒漆など、目に見える宿坊そのものが中世の風景で、肝心の頭の中での中世の風景描写が湧いてこなかったというのだ。司馬さんは「心理学的にはごくあたりまえの願望現象ではないか」と結んでいる。

    前置きが長くなった。郵政民営化のことである。テレビ局の報道を離れて(今年1月退職)、むしろ政治の動きに鋭敏になったような気がする。テレビ局時代は椅子に腰掛けていても「永田町の情報」が入ってきた。それがなくなった分、たとえば「小泉内閣メールマガジン」(毎週木曜日に配信)を丹念に読んでいる。特に小泉総理が発する郵政民営化についてのコメントはその行間まで読んでしまう。

    以下、行間からにじみ出た小泉総理の本音を読む。「一国の首相が5年間、情熱を傾けてやろうしてきた郵政民営化の公約が果たせないのであれば、日本という国の将来ビジョンを語る政治家は誰もいなくなる。金と技術はある、が、夢やビジョンがないからこの国は閉塞している。これまでタブーとされてきた郵政民営化を突破するだけで、この国の政治の未来は随分と明るくなるのだ。自民党が頑迷固陋の輩(やから)で支配されるのならば壊す。8日に。私は政界の突破者(とっぱもの)である」

    あす8月8日、参院本会議での郵政民営化法案の採決後に「政変」が始まり、学生がキャンパスに戻ってくる9月の終わりには政界地図が大きく塗り変わっている。

⇒7日(日)午前・金沢の天気  晴れ

☆「集団自決」の真実追う

☆「集団自決」の真実追う

  「8月27日」というタイトルの自費出版本がある。著者は金沢市の重田重守(しげた・しげもり)さん、73歳。石川県教育文化財団理事長として、「自分史同好会」を長らく主宰してこられた。自分の歩んできた人生を振り返り、手記にしようという集いである。しかし、「8月27日」は自分史ではない。語られることのなかった地域史であり、日本史である。

  終戦直後の1945年8月27日、旧満州(現在の中国東北部)に入植していた石川県出身の開拓団の人々350人余りが「集団自決」を遂げた。終戦の混乱の中、入植者は学校に集められ火が放たれた。熱さに耐え切れずに井戸に飛び込んだ親子もいた。「集団自決」とされた事件は本当に自決だったのか、重田さんは生き残りの日本人のほか、中国で現地調査を重ね、中国人からの証言も丹念に拾い集めた。そして一つの証言を得る。それは「自決」というより、錯乱状態で一部の指導者が「もはやこれまで」と火を放った集団焼死であった。実際、死亡したのは母親や15歳未満の子供たちが多かった。また、同じ地域の出身者が多かっただけに、生還者はこれまで真相について語ることはなかった。取材は10年にも及び、わずかな証言を一つひとつ積み上げて生還者に問い、それをまた積み上げていくという手法で一冊の本にした。

   この本の正式タイトルは「旧満州 白山郷開拓団 8月27日」(北國新聞社刊)。先月、全国新聞社出版協議会が主催する「第1回ふるさと自費出版大賞」の優秀賞に選ばれた。そして、重田さんといっしょに旧満州に出かけ、現地でともに取材した北陸朝日放送の番組「大地の記憶~集団自決、57年目の証言~」は第39回ギャラクシー賞奨励賞を受賞した。この番組は、8月11日(木)午後4時からCS放送「朝日ニュースター」で放送される。

   戦後60年のいま、死ぬ必要がなかった人までも犠牲にした戦争の真実の一端が語られている。

⇒6日(土)夜・金沢の天気  曇り

★試合に勝ち勝負に負ける

★試合に勝ち勝負に負ける

   「勝つためにどう努力するかだ」。1992年(平成4年)、夏の甲子園球場で石川代表の星稜高・松井秀喜選手に「連続5敬遠」という物議を醸した高知代表の明徳義塾の馬淵史郎監督は当時、マスコミのインタビューでこう語っていたのを覚えている。明徳義塾はその10年後の2002年に全国優勝、去年まで戦後最多の7年連続出場を果たし、強豪にのし上がった。そして今年の大会で部員の不祥事で前代未聞の全国出場辞退(4日)という不名誉な記録をつくった。以下、新聞紙面で拾った辞退までの26日間のドキュメント。

【7月9日】明徳義塾の野球部寮内のボイラー室で、たばこの吸い殻2本が見つかる。キャプテンが全部員を集める。1年生と2年生のおよそ10人が喫煙を申し出る。馬淵監督は、自主申告であり、また、集団喫煙ではないとして学校には届けなかった。

【7月15日】1年生部員の保護者が野球部寮を訪ねてきて、「子どもが暴行を受けているので学校をやめる」と訴える。

【7月16日】全国高校野球選手権高知大会が開会。開会式の終了後、馬淵監督はいじめた側の部員6人とその保護者らと、大阪のいじめられた部員の保護者宅を訪ねて謝罪。学校側は被害者側に入学金や寮費、教科書代などを返還した。

【7月末~8月3日】高知県高野連などへ匿名の投書が寄せられ、一連の不祥事が判明。日本高野連は高知県高野連を通じて事実を確認し、馬淵監督に対する事情聴取を行う。

【8月3日】組み合わせ抽選会で、明徳義塾は大会5日目に日大三高(西東京)との対戦決まる。

【8月4日】午前中、明徳義塾が大会本部に出場辞退を申し入れ。大阪の宿舎で、馬淵監督が選手を集め、辞退を伝える。日本高野連は午後、臨時審議委員会と同運営委員会を開き、大会規定により高知大会での明徳義塾高の優勝を取り消し、準優勝だった高知高を優勝校と決定し、午後2時半、高知高に電話で出場を要請した。午後3時、大阪市西区の日本高野連で馬淵監督が記者会見に臨み、辞任の意向を表明した。

    馬淵監督は、「勝つため」にあらゆる手段を講じていたことが分かる。いめじた側の部員6人と保護者、学校関係者ら少なくもと13人を擁した謝罪行動(7月16日)などはその真骨頂であろう。しかし、馬淵監督はここで被害者心理を読み違えたのではないか。推測だから確かではないが、監督はここでいじめた側の生徒の親に謝らせた。その証拠に「6人の親たちは慰謝料を払った」との報道もある。しかし、被害者とその親が本当に問うたのは監督の管理責任だったはずである。配下の選手や親を手駒のように使い、手段を選ばず「勝ちに急ぐ」。13年前の「連続5敬遠」と同じパターンではないか。「試合に勝って勝負に負ける」。歴史を繰り返したにすぎない。ただし、今回は名実ともに敗れた。

⇒5日(金)夜・金沢の天気 晴れ 

☆古民家とハワイアン

☆古民家とハワイアン

   この夏は劇的な変化だ。転職した先の職場には冷房エアコンがない。扇風機とうちわで十分しのげる。特に玄関から入った土間は下が地べたのせいか涼しささえ感じる。データーロガー(温度測定レコーダー)で調べればこの家の持つ「天然エアコン」機能が立証されるのではないかと同僚らと話し合っている。古民家を再生して造った金沢大学五十周年記念館「角間の里」での職場ライフのひとコマである。

  これまでの職場(テレビ局)は寒いくらいの冷房で、夏によく風邪をひいた。というのも、テレビ局の冷房というのは人間のためというより、熱を帯びた放送機材を冷やすための冷房で、通常のオフィスの冷房に比べ、体感温度で2、3度低い。古民家の現在のオフィスに冷暖房エアコンがないのも、実は家そのものの耐久性を高めるためにあえて自然のままの乾燥と湿気を取り入れることにしたのだとか…。ともあれ職場環境が一転したのである。 

   では古民家はなぜ涼しいのだろうか。周囲を緑に囲まれ、しかも、前庭を下ると谷川もあって風通りがよい。特に土間を伝う風は心地よく涼感もある。また、床は板場なので見た目にも涼しげである。冬はまだ経験していないのだが、この分だと井戸水のように「夏涼しく、冬暖か」かと。

   昼休み、インターネットラジオの「アロハ・ジョー」を聞きながら、板場でちょっとの間横になる。蝉時雨とウクレレの音、頬をなでる風。贅沢な昼下がりのひと時をしばしまどろむ。

⇒4日(木)午後・金沢の天気  晴れ

★「いのち」弾む8月

★「いのち」弾む8月

    金沢大学角間キャンパスもそろそろ夏休みに入ります。下の写真をご覧ください。五十周年記念館「角間の里」の前庭の畑で、5月14日に植えた雑穀のアワがこんなに青々と大きく生長しました。この畑を横切ると、草いきれのムッとしたものを感じます。植物の生命力が迫ってくるようです。ここは市民ボランティア「里山メイト」が耕作してくれている畑です。アワのほかにトウモロコシ、キビ、サツマイモもあります。

    5月の日照りでは「本当に育つのか」と心配し、6月中旬の大雨のときは土壌が流され、倒れるのではないかと天を仰いだものです。その大雨の後、一気に生長したようです。穂先に青いものがついています。夏が過ぎ、キャンパスに学生たちが戻ってくるころ収穫の季節を迎えます。

    石川県ゆかりの故・中川一政画伯の作品集「いのち弾ける!」(二玄社)にこんな一文があります。「草となって草を描く時、草が見えた時、画家は自然と溶合する」。草木の息遣いを感じながら描くことの大切さを述べているのだと私は解釈しています。きょうから8月。「いのち」の弾む音、息遣い、におい。あなたは真夏の生命の躍動を感じていますか…。

(※「石川県ゆかり」と表現したのは、中川一政画伯の母親が旧・松任市出身という縁で、現・白山市には市立中川一政記念美術館=076-275-7532=がある)

⇒1日(月)午前・金沢の天気  晴れ

☆大いなる産業実験

☆大いなる産業実験

        「あらゆる手段を使って、2011年を乗り切りましょう」。会長の庄山悦彦・日立製作所社長が答申のまとめをこの言葉で締めくくると、庄山氏の左横で麻生総務大臣は大きくうなずいた。きのう29日の総務省情報通信審議会(総務相の諮問機関)での答申は「大いなる産業実験」の最終工程へと大きく踏み出した。この答申が民放ローカル局のあり方を大きく変える劇薬になるのか、あるいは死へと導く毒薬になるのか。

   「自在コラム」では地上デジタル放送(略して「地デジ」)について何度かコメントしてきたが、そのポイントは「2011年問題」に尽きる。全国に地デジを普及させ、2011年7月に現行のアナログ放送を停止する。そして停止されたアナログ放送の電波帯域は民間通信業者に開放するというのが国の計画(国策)だ。問題は、今から6年後には全世帯がデジタル対応テレビに買い換えるか、既存のアナログテレビにSTB(セット・トップ・ボックス=外付けのデジタル放送チューナー)を取り付けなければならない。デジタル対応テレビの普及率は現行8%である。6年後に100%に近づくのか。また、民放各局は中継局をデジタル対応にする設備投資を始めているが、小さなテレビ局でも45億円ほどの投資は必要とされ、放送インフラが遅れる可能性もある。「普及率も伸びない。そもそも地デジの中継局は間に合うのか。アナログ停波を先延ばししてはどうか」との声が高まってくるだろう。これが「2011年問題」なのだ。

        この問題に対する回答の一つが、光ファイバーの通信網を利用する今回の答申だ。それによると、ビルの陰など電波が届きにくい地域を中心に、IP(インターネット・プロトコル)技術を使った光回線で番組を送信する。06年から通常の画質(SD)の放送を認め、08年からはハイビジョン画質(HD)の番組の送信を全国で認める計画だ。また今回、CS(通信衛星)で地上波放送の番組を流すことも認められた。冒頭の「あらゆる手段」とはこのことだ。

        ここで疑問が生じる。いったん光ブロードバンドで送信できるようになれば、原則として県単位になっている放送エリアは意味がなくなる。これに対して、答申でも、光回線での送信も放送対象地域の中でしか視聴できないようにする技術を確立することを条件にしている。果たして、そのような技術開発は可能か。制限なく見えてしまえば、県域が原則になっている放送免許制度の意味がなくなりかねない。民放ローカル局はこの県域を守ることで経営が成り立っている。民放連も神経を使っていて、たとえば7月21日の記者会見でのやり取りで、日枝会長は今回の答申を想定した記者の質問に注意深く答えている。

【記者】:衛星やIPでデジタルソフトをデリバリーすることになると、県域放送の充実を標榜したデジタル化の意義が薄らぐのではないか。
【日枝会長】:総務省は、放送のエリアと同じ県域の視聴者にIPを利用して番組を届けることができるか検証するのであり、同時再送信が前提と考えている。衛星利用についても、技術的に難しい面もあるようだが、県域の再送信が前提である。ただ、中継局を建設した方が低コストになる可能性もあるわけで、今のうちに検討しておこうというのが総務省の考えだろう。

       つまり、日枝会長は、インターネットや衛星放送にエリア制限を加える無理な技術を開発するより、ローカル局が中継局を建設する国の補助を充実した方がコスト的に安い、と言外に滲ませたのである。ところが、この放送免許制度そのものを疑問視する動きも出てきた。政府の規制改革・民間開放推進会議では8月にもまとめる中間報告で放送業界に新規参入を促すための制度の再検討を求めるようだ。新規参入の自由化が実現すると、民放が50年かけて築き上げた県域主義による「集金システム」が総崩れになる可能性もある。

        地デジの成功はデジタル対応テレビなど家電の売れ行きに大きな波及効果を与える。1台30万円のテレビが3千万台売れたとすると9兆円、民放のデジタル化投資が8000億円、これだけでもざっと10兆円ほどになる。国が狙っている「大いなる産業実験」とはこのことなのだ。だから民放がいくら利益を出しても、国の実験に次から次へと付き合わされ利益を吐き出していく。この実験が終了した後、おそらく放送の免許制度は撤廃される。日立製作所社長の庄山氏の横でうなずく麻生大臣の2人の構図を私はそのように読み取った。

 ⇒30日(土)夕・金沢の天気  晴れ

★不払いの悪循環

★不払いの悪循環

   これでもか、これでもかと問題が噴出してくる。NHKは28日、ビール券購入をめぐり不正があったとして、福井放送局のチーフ・カメラマン(46)を懲戒免職処分にしたと発表した。チーフ・カメラマンは、2000年6月から2004年12月にかけ、取材協力者への謝礼との名目でビール券を局に購入させて4830枚を換金し、354万円をだまし取った。チーフ・カメラマンは「単身赴任などで生活費がかさむと思い、不正を始めた。洋服代などに充てた」と話しているという。カメラマンは全額を弁済している。

    新聞などによると、チーフ・カメラマンは127回にわたり上司の印鑑を勝手に持ち出してビール券の発注伝票に押印していた。おかしな話である。一つには、私文書を偽造したとしても、なぜ個人が4830枚ものビール券を局から引き出せたのか。ちょっとした謝礼なら常識的に言えば1回につき10枚が相当である。すると5年間で483回分の謝礼ということになる。1年で平均97回、月平均で8回も謝礼があるのか。次に、不正で得た金を「洋服代などに充てた」とする理屈である。他のテレビ局のカメラマンがこの話を聞けばせせら笑うだろう。カメラマンは10㌔以上もあるカメラを操作する。移動中もカメラを手放さないものだ。だから常に動きやすい服装で、夏だったら襟付きの半そでポロシャツにスラックスという服装だ。このカメラマンはブランドもののスーツを着込んで仕事をしていたというのか。そうでない限り、「洋服代など」という理屈が理解できない。

   うがった見方をすれば、このカメラマンはビシっとスーツで決めて、夜の繁華街を札ビラを切りながら闊歩していた、ということだろうか。しかも、去年7月に元チーフプロデューサーによる6230万円にも上る番組制作費不正流用が発覚したが、カメラマンはその後も不正行為を続けていたことになる。悪質である。

   こうなるとカメラマンが悪いというより出金する管理業務がなぜチェックできなかったのかと首をかしげたくなる。4830枚ものビール券をなぜ買い与えてしまったのか。一連の不正事件で浮かんでいるのは、管理業務のチェック体制の甘さである。この方が罪が重い。監督責任を問われて、福井放送局長や放送部長ら5人が減給、副部長ら2人が譴責(けんせき)処分、ほか2人を厳重注意を受けているが…。

   NHKは今年度の予算で、受信料の不払いが45万件になると想定して事業計画を立て、受信料収入は前年度比1.1%(72億円)減の6478億円を見込んでいる。ところが次々とさらなる不祥事が発覚し、5月末の受信料不払い件数は当初見込みを上回る97万件に上り、6月末には100万件を突破したとみられる。こうなると「不払いの数が多いから払わない」という悪循環が出てきて、不払いの勢いが止まらなくなる。受信料の不払いが増えれば今度は番組制作費も削減され、番組が「劣化」することにもなりかねない。

   この悪循環を断ち切るにはこれしかない。金品で不正を働いた者は業務上横領の罪で警察に告訴してけじめをつけ、退職金は一切払わない。この2点がなければ国民は納得しないだろう。弁済しているから告訴しないとNHKが言い訳しているのであれば、国民は「カメラマンが『オレよりもっと悪いヤツがいる』と、警察にベラベラしゃべられてはNHKが困るからだろう」とNHK自体を勘ぐってしまう。

⇒29日(金)午前・金沢の天気  曇り時々晴れ

☆幻影と化した猿

☆幻影と化した猿

  ちょっと奇怪な写真を2枚お見せしよう。ブログにつける写真の多くは、ケータイ(携帯電話)のカメラ(100万画素)で撮っている。ケータイはいつも持ち歩いているので、シャッターチャンスには恵まれる。上の写真は7月23日、金沢大学角間キャンパスの創立五十周年記念館「角間の里」で撮影した。金沢市内の保育園がこの記念館で実施した園児のお泊り保育でのこと。その時のおやつにスイカが出た。保母さんたちが器用にスイカの中身をくり抜き、目と鼻と口も抜き、最後にトウモロコシの「頭髪」をかぶせた。実物はちょっと愛嬌のある「スイカくん」なのだが、逆光で撮影した写真はまるでエイリアンの凄みがある。口の中の赤が生物を感じさせ、向かって左の目が光っているので宇宙人のように見える。

  下の写真は24日に「いしかわ動物園」で撮影した2頭のチンパンジーの姿。くもり空で夕方16時50分。遠くにいたのでズームを最高にした。もともと黒毛で覆われているのでまるで影絵のようになった。核戦争で人類が滅亡し、次にサルが地球を支配するという映画「猿の惑星」のシーンとイメージが重なる。しかも、影絵だとそれがなんとなく深層心理の世界を表現するシュールレアリズムの絵画のように思えるから不思議だ。サルバドール・ダリ風にタイトルをつければ「幻影と化した猿」。「もはや誰<ヒト>もいなくなった死の空間に幻影と化した猿が群れる。未来の終わりも始まりをも予感させる奇怪な躍動」とでも説明しようか…。

   写真の技術で言えば完全な失敗作だ。私が写真家のはしくれだったら恥ずかしくて出せない。ただ、テレビや雑誌で見かける奇怪な写真とでも思って楽しんでもらえばいい。それも真夏だからなんとか理由をつけて掲載させてもらった…。

⇒27日(水)午前・金沢の天気 曇り