☆「選挙」上手の商売下手

☆「選挙」上手の商売下手

   9月11日の衆院選挙に向けて一番張り切ってきるのが小泉総理、二番目がNHKではないかと推測する。小泉総理は解散後の内閣支持率が50%前後と急上昇し、この勢いを過半数の議席確保(自民と公明で)につなげたいところだろう。NHKは去年7月に発覚した元チーフプロデューサーによる番組制作費の着服事件以来相次いで不祥事が発覚しており、なんとか得意分野の選挙報道で信頼回復をしたいと腕をさすっているに違いない。

    実際、NHKの選挙報道は民放テレビ局に比べ、開票速報のスピードや出口調査による当落の分析、選挙番組のボリュームなどにおいて群を抜く。だから、候補者が選挙事務所で万歳を行うとき、NHKの「当確」速報を確認してからというケースがままある。いくら民放が早々と「当確」を打っても候補者すら事務所に現れないこともある。また、視聴率も国政選挙ならばローカルでも20数%は稼ぐ。民放は最初からNHKを別枠にして「選挙番組の視聴率は民放で何位だった」などと広報したりする。

    受信料の不払い・保留件数が7月末現在で117万1千件にも達した。このままでいけば減収は年100億円にも上ることが予想され、秋の中途採用(40-50人)を取りやめると発表したほどだ。だから、降って沸いたような選挙だが、視聴者をNHKにクギづけして、「やっぱり皆様のNHKでしょう。そこで、受信料はお支払いください」とアピールするよいチャンスにしたいとNHK経営陣は考えているはずだ。

    しかし、選挙報道の上手は必ずしも商売上手にはつながらないようだ。NHKは公開番組の観覧申し込みについて、受信料を支払っている人に限定する措置を取るという。新聞報道によれば、9月27日放送分の番組「NHK歌謡コンサート」を東京・渋谷のNHKホールで収録する。応募者の中から抽選で1500組3000人に入場整理券を送るが、その前に応募はがきと受信料の契約台帳を照合し、支払いを確認するというのだ。人気歌手の鳥羽一郎や藤あや子が出演だから応募も多いだろう。

    どうやら「受信料を払っていない人でも番組が見られる」という不公平感や、「受信料を払っていない人が番組観覧できるのはおかしい」との声がNHKに寄せられたことによる措置らしい。が、不払い者締め出しは逆効果である。もともと余分な出費を抑えたいと思っていた人が一連の不祥事をきっかけに不払いに転じているのだ。最近は「隣が払っていないのなら私も」という便乗組も増えている。しかし、今は支払いを渋っていても、これらの人の中にはNHKの努力によって支払いを再開する人もいるはずだ。努力とはNHK営業マンによる戸別訪問とか、優良な番組を提供することによる信頼の回復である。ところが、支払う者と不払い者を選別すると、選別された側は強制力を持った法律でも出来ない限り、一生不払いになる。

    むしろ、番組観覧を有効に使えばいいのである。厳選に抽選して、その中に不払い者がいればNHK職員が持参して「抽選の結果当選しました。つきましては受信料もお願いします」と一言添えて入場整理券を手渡せばいい。新聞社は新規読者を開拓するためにこのような地道な努力をしている。選別は反感を買うだけだ。

⇒14日(日)夜・金沢の天気  雨

★金沢を描くということ

★金沢を描くということ

      画家で金沢美術工芸大名誉教授の百々(どど)俊雅さんと同大教授の小田根五郎さんの絵画展「金沢百景展」(8月11日-16日)が金沢市武蔵町の「めいてつエムザ」で開かれている。

    2001年から2004年まで足掛け4年にわたって、北陸朝日放送で放送された番組「金沢百景」で紹介された身近な風景を描いた油絵やパステル画を含む150点を中心に展示している。金沢の伝統的な街並みに加え、JR金沢駅前や新県庁舎、新しい商店街にも百々さんと小田根さんの目線が優しいタッチで注がれている。一枚一枚を眺めていると、金沢の街を散策した気分になる。

   かつて、2人をテーマにしたスペシャル番組の収録で、絵画制作の苦労話などうかがう機会があった。その中で印象に残るエピソードをいくつか。小田根さんが金沢の古い民家を描いていた。すると、家の女性が出てきて、「絵描きさんに描いてもらえるほどの価値があるのならこの家を残そうと思います」と言う。跡継ぎの女性は改築して保存しようか、いっそうのこと壊して新築しようかと迷っていた。小田根さんの真剣な眼差しを見て、女性は保存を決心したそうだ。

    百々さんは白髪の長身だから目立つ。路肩で描いていると、「ご苦労さまやね」とわざわざお茶を差し入れてくれたりする人もいる。弁当忘れても傘忘れるなーといわれるくらい金沢の天気は変わる。百々さんは雨が降っても絵が描ける場所を確保することに苦心した。屋根の下、橋の下、ビルの中、商店街のアーケードとありとあらゆる避難場所を探す「雨傘名人」となった。金沢市内でざっと100ヵ所にも。北陸・金沢でスケッチをするにはこういうことが話題になる。

    絵画展の会場では絵はがき=写真=も販売されている。ちなみに、左から県立音楽堂、金沢城二の丸、金沢城石川門である。また、番組と同名の「金沢百景」という書籍もある。変形A4判で132ページ、能登印刷出版部の発行で、会場ほか石川県内の主な書店で2700円で販売されている。

 ⇒13日(土)午後・金沢の天気  曇り

☆ドン綿貫氏の選挙の行方

☆ドン綿貫氏の選挙の行方

  すさまじいばかりの「民営化反対派つぶし」、と思われて仕方がないくらいに小泉総理は対立候補の擁立に躍起である。これに対し「安政の大獄か。意見が違う者を全部抹殺する気か」(亀井静香氏)や、「ヘビのように執念深い」(綿貫民輔氏)と感情をむき出しにするのも理解できる。テレビの取材ならこの言葉はぜひほしいところだ。しかし、マスメディアの政治担当なら小泉総理の意図をこう読んでいるはずだ。「造反者」の選挙区にあえて対抗する候補者を出し、マスコミの「注目の選挙区」に仕立てる。これによって、郵政民営化に反対か賛成かの争点をさらにブラッシュアップする意図だろうと。東京10区の小林興起氏に対し小池百合子氏を、静岡7区の城内実氏に財務省の片山さつき氏をと話題性のある人物をカードとして次々と切っているのはこのためだ。

     ところで、小泉総理に一つのフライングがあった。きょう(12日)比例区南関東ブロックへの重複立候補はしない考えを党の選挙担当者に伝えた。総理はこれまで党神奈川県連の要請を受け入れ、比例と小選挙区の重複立候補の意向を表明していたが、公選法が禁じる事前運動に当たるため、総理が映った掲示済みの党のポスターを南関東地域からすべて撤去する必要があり取りやめにしたとか。公選法もさることながら、他県で「小泉」と書かかれた比例の無効票が続出しては損だ、との判断もあるようだ。

     先日、石川1区、馳浩(はせ・ひろし)氏の有力なサポーターと話をする機会があった。馳氏が退路を断って比例代表には重複せず、小選挙区のみ立候補をめざすと宣言したことに、ちょっと悩んでいた。「1万の票の差ですよ」と。前回2003年11月は投票率59%で民主の奥田建氏が99868票、馳氏97075票だった。両者が競った攻防のように思われるが、実は前回は馳氏の票には公明の支援票が8000票加算されていた。従って、2800票余りの差であるように見えても、馳氏にとっては10800票の差で敗れたに等しい。というのは、さらにその前回2000年6月は投票率64%で馳氏が107179票、奥田氏が100392票だった。この時は公明の支援票がなくても勝った。保守基盤の強い金沢で1万票余りを奪還するには時間もかかるがその時間が今回はないので、その有力サポーターは「無理せず、比例と重複したら…」と言う。しかし生真面目な馳氏のことである。前言を撤回せず名実ともに走り回って選挙戦を戦うだろう。

     それにしても郵政民営化反対のドン、綿貫民輔氏の富山3区の公認問題は結論が出ない。結局、自民県連は12日に県連役員が上京して、党本部に対し、比例を含め3人が公認申請している現状を報告することにした。これでは県連そのものが分裂すると窮状を訴えるためだ。しかし、党本部の武部幹事長は11日午前の会見でも都道府県連が郵政民営化法案に反対した議員の公認や推薦を申請してきても絶対に受け付けない考えを強調していて、富山県連との協議に党本部が応じるかどうか…。なぜなら、綿貫氏の対抗馬となりそうな萩山教厳氏(前回比例単独)は亀井派に所属しているが、郵政法案には賛成した。党本部とすれば、「敵陣」で踏ん張った人物である。萩山氏にこそぜひ小選挙区にくら替え出馬させ、綿貫氏に戦いを挑んでほしいところだろう。少々地味だが「注目の選挙区」となる。

     「対抗馬」だの「敵陣」だのと書いていると、まるで関が原の合戦前夜の時代小説でも書いているような気分になる。そして、ここ数日の「自在コラム」へのIPアクセス(訪問者数)が普段の2倍にもなっている。タイトルに「選挙」と入れているから検索で引っかかってくるのだろう。このブログサイトが混み合うくらい情報が行き交っている。かつての「草の根選挙」に代わる、日本における初めての「ブログ選挙」となるかもしれないと私は注目している。

⇒12日(金)午後・金沢の天気  雨

★退路断つ、選挙の人生模様

★退路断つ、選挙の人生模様

   きょう(11日)届いた「小泉内閣メールマガジン第200号」の「総理メッセージ」で、小泉総理は郵政解散の意義をこう述べている。以下は抜粋。

   約400年前、ガリレオ・ガリレイは、天動説の中で地球は動くという地動説を発表して、有罪判決を受けました。そのとき、ガリレオは、「それでも地球は動く」と言ったそうです。今、国会では「郵政民営化は必要ない」という結論を出しました。「それでも郵政民営化は必要だ」と私は思います。私はもう一度国民の皆さんに聞いてみたいと思います。本当に郵便局の仕事は公務員でなければできないのか、民間人でやってはいけないのかと。

                   ◇

   今回の「解散・総選挙」を流れを見て、高校時代に世界史をかじった人ならこんなシーンをイメージしたかもしれない。1917年3月、食糧危機から暴動が起こり、ロシアの皇帝ニコライ2世が退位し、ロマノフ朝は滅亡する。翌4月16日にレーニンが亡命先スイスからペトログラードに帰還、4日後に「4月テーゼ」を発表し、「すべての権力を会議(ソビエト)へ」と声明を発する。11月、第2回全ロシア労働者・兵士ソヴィエト大会が開催され、革命に反対するメンシェビキと社会革命党右派は大会から退場した。ボルシェビキが圧倒的多数を占め、ソビエト権力の樹立が宣言された。ここで採択されたのが、地主による土地所有を廃止する「土地に関する布告」であった。レーニンを小泉総理、土地を郵政と置き換えて考えると面白い。あくまでも政治のダイナミズムを考察する上での一つのイメージである。理論づけではない。

今回の総選挙でさまざまな人間模様が交錯している。前回、石川1区で民主の奥田建氏に敗れ、比例代表で当選した自民の馳浩(はせ・ひろし)氏は、今回は比例代表の退路を絶って小選挙区一本で選挙を戦いたいと決意を述べた。前回敗れたとき、「自分は甘かった」と随分後悔していた。今回は、比例代表を担保することなく、小選挙区で勝負しようというのである。これはこれで覚悟が見えて潔い。逆に小泉総理は比例代表に疑問を投げかけ、これまで神奈川11区の小選挙区のみに立候補していた。今回は比例と重複出馬を決めたようだ。知名度が抜群の小泉氏が比例にも回れば大量得票が期待できる。信念ではなく実利を得る。

    郵政民営化反対の頭目、綿貫民輔氏の富山3区は悩ましい。綿貫氏は自民県連の重鎮である。今回の比例の萩山教厳氏と綿貫氏がともに県連に公認申請している。党本部へも綿貫氏へも義理立てしなければならない県連の心境はいかばかりか。綿貫氏は78歳である。この年齢もまた悩ましい。

⇒11日(木)午後・金沢の天気   くもり  

☆選挙プロのある読み

☆選挙プロのある読み

  新聞を丹念に読む人であるならば、きょう(10日)の紙面を読んで「勝負はついた」と判断しただろう。そして、選挙を実際に何度か指揮した、あるいは選挙情勢の分析に長けたいわゆる「選挙のプロ」ならば、「さて、8月15日に小泉総理はどう動くか」と思いをめぐらせていることだろう。

  新聞各紙はきょう一斉に世論調査を掲載した。共同通信が郵政民営化の否決と衆院解散が決まった8日から9日にかけて実施した内閣支持率は47.3%、7月の調査に比べ4.7ポイントのアップだった。衆院解散は54.4%が「良かった」と評価されている。同じく朝日新聞の調査は、内閣支持率が46%、7月の調査に比べ5ポイントのアップ、衆院解散に48%が「賛成」である。内閣支持率は40%が「上々」、50%が「磐石」と言われている。従って、小泉総理は総選挙を行わなくても「すでに勝利」しているのである。もちろん内閣支持率が小選挙区での議席獲得にダイレクトに結びつくわけではない。

  この共同通信と朝日新聞の世論調査で数字の差が出た点が大きく分けて2つある。一つは、自民党内の郵政民営化反対者のいわゆる「造反組」に対し、共同の調査では52.5%が「理解できる」としているのに、朝日では「共感する」が34%しかいない。これは「理解」と「共感」の設問の語感から取れるニュアンスの違いだろう。「共感」はより踏み込んだ「理解」の意味で、そこまでは評価できない、ということになる。もう一つ、選挙でどの政党の候補者に投票する意向かの調査項目で、共同は1位の自民が37.4%だったのに対し、朝日は1位の自民が29%と8ポイントも差がついている。これは朝日のアンケート調査にきちんと答えようとする人たちの意識の差、つまり「自民嫌い」が共同より多いとも取れる。

  きょうの新聞紙面で傑作だったのは、この世論調査の結果発表と民主党の岡田代表の記者会見の内容を並べたことだ。「内閣支持率47%に上昇」の見出しの脇で、下のほうに「岡田代表、政権取れなければ辞任」の見出し。見出しを流し読みすると、岡田代表の敗北宣言との印象になる。新聞ではたまにこうした妙な並べ方がある。岡田氏が読んだら目を白黒させるに違いない。

  ところで注目すべきポイントは、小泉総理は8月15日に靖国神社に参拝するか否か、である。私の友人(選挙のプロ)の見立てはこうだ。選挙がなければおそらく小泉総理は15日に参拝する。しかし、選挙になったので参拝の可能性はなくなった。なぜか。選挙の争点がぼけるからである。世論調査でも、67%が郵政民営化が選挙の争点としている。争点がくっきりと浮かび上がっている。この意味で、小泉総理の思惑が的中したと言ってよい。そこへ一石を投じるがごとく靖国参拝をするだろうか。選挙の定石から言えば、焦点ぼかしになるような行動は得策ではない。

  現に、朝日の世論調査では「小泉総理は靖国参拝を続けた方がよいか」との設問に「よい」が41%、「やめた方がよい」が47%となっており、二つに意見が分かれる。ということは総理の参拝が一気に争点化する可能性もあり、わずかながらでも「やめた方がよい」とする意見がある以上は選挙にもマイナスの作用に働くと見たほうがよい。つまり、小泉総理の靖国参拝は9月11日まではないと見るべきだろう。むろん筋論で言えば、戦後60周年の節目こそ8月15日の参拝に意味がある、だから総理の参拝はある、との見方も根強い。参拝の是非論は別として、選挙と靖国参拝をどう読むか。

⇒10日(水)夕・金沢の天気  晴れ  

★「郵政選挙」と農村の風景

★「郵政選挙」と農村の風景

   随分とすっきりしたのではないか。小泉政権の命運を賭けた郵政民営化法案が参院本会議で、足元の自民からの大量造反で否決されたことを踏まえ、衆院解散・総選挙へと一気に展開した。衆院選の日程は8月30日公示、9月11日投開票と決まった。今回は、前回(2003年10月)の「マニフェスト選挙」などといったある種のムードではなく、「郵政民営化は是か非か」という争点がはっきりした選挙なので分かりやすい。従って、無関心層やシラケ組も多く投票率は低いだろう。

   なぜ「すっきり」としているのか。「大辞林」(三省堂)によれば、「すっきり」とは「よけいなものがなく、あかぬけしているさま」「煩わしいことがなくて、気持ちのよいさま。さっぱり」「筋が通っているさま。わかりやすいさま。はっきり」などの意味がある。私はこの場合の「すっきり」を「煩わしいことがなく…」の意味で使いたい。この意味の使用例として「腐れ縁を切って…(と)した」をよく使う。小泉総理は衆院本会議で反対票を投じた自民の37人を公認しない方針だ。14人の欠席・棄権者は郵政民営化に関する意向を確認し、明確な賛成者だけを公認するという。そうした、ピュアな自民党で選挙に勝って郵政民営化法案を再提出するという戦略だ。つまり、足を引っ張る民営化反対者との腐れ縁を切りたいのである。この意味で「すっきり選挙」と名付けたい。

    写真は小泉総理が腐れ縁を切りたいと願っている反対論者の頭目、綿貫民輔氏の選挙地盤である富山県五箇山の菅沼合掌集落である。世界遺産に指定されているだけあって、手前の溜め池、合掌造り、背後の山並みの景色は日本人の心の故郷のようにも想う。綿貫氏はよく「民営化で山里の郵便局がなくなる云々」というフレーズを使う。綿貫氏の山里とは、選挙地盤でもあるこの風景なのである。もう一人の反対論の急先鋒、荒井広幸氏も福島県の農村に生まれた。

    綿貫氏にしても荒井氏にしても、この美しい農村を郵政民営化という資本主義の波で洗ってはいけないという発想が根底にあるのではないか。尊王攘夷か佐幕かで血で血を洗った明治維新も確固たる理論戦でぶつかったというより、前に進む者と、守ろう(既得権ではない)とする者のイマジネーションのぶつかり合いだったと考えられなくもない。

    明治維新を論ずるのは本意ではない。ズバリ、どの党がどう勝つのかである。今回の総選挙が民主党に有利に働くかといえば決してそうではない。争点が「郵政民営化、行財政改革、小さな政府」だから、むしろ民主は郵政民営化に反対の分だけ不利となる。もともと民主党には民営化賛成の議員もいたのである。神奈川県知事になった松沢成文氏のように。支持層の中にも民営化シンパは相当いると推測する。そこで、有権者が「なぜ、民主は反対なのか」と自問して出す答えが、労組の存在である。それは自分が考える民主のイメージとは違うではないか、と思い始めたとたんに心がさめる。民主は相当難しい論点整理の必要性に迫られる。これを間違うと、綿貫氏らと同類と見なされるだろう。

⇒9日(火)夕・金沢の天気  晴れ  

☆イチロー選手の言葉

☆イチロー選手の言葉

   全国高校野球選手権の第2試合をテレビで観戦すると結構忙しい。7日の第2試合は地元・石川の遊学館と秋田の秋田商だ。まず地元民放のHAB北陸朝日放送にチャンネルを合わせた。カメラワークはABC朝日放送(大阪)だが、実況と解説はHABがやっている。HABの場合はローカル大会の1回戦から実況し、そして甲子園に臨んでいるので、地元チームの実況となると裏局のNHKとは思い入れが随分違うのである。ともあれ、HABは11時50分に全国ニュースに入り、チャンネルはNHK総合に。今度はNHK総合が11時54分にニュース&天気に入るためにNHK教育に。HABの全国ニュースが終わる12時00分にはNHK教育からHABに戻って、と10分間に3回の「チャンネルサーフィン」となる。

    試合は遊学館が秋田商を8-6で振り切った。遊学館らしい固め打ちで大量点を築いた。1回裏、遊学館は相手エラーの1アウト1、3塁で4番鈴木のタイムリーが出て1点、5番井原も2点タイムリーで3点を先制した。5回にも2点。7回には3番江川のタイムリーなど4本のヒットで8-1と大きくリードを広げた。上位打線がきっちりと仕事をした。先発は、去年甲子園のマウンドを経験しているエース曽根だった。8回までよく投げ、2番手の番匠と交代、9回の1アウト満塁のピンチに再びマウンドに登りよく踏ん張った。初戦の功労者は曽根だろう。

    しかし、私はむしろ秋田商の健闘を称えたい。3回表で、ローカル大会を一人で投げ抜いたエースの佐藤が走塁中に送球を頭(右こめかみ)に受けて負傷し交代した時、どれほどの動揺が選手に走ったことか。そして、8-1とリードされながらも8回に2点、9回に2度も満塁のチャンスをつくり、2点差にまで迫った。試合を投げたそぶりは誰も見せなかった。アメリカ大リーグ、マリナーズのイチロー選手の口癖は「負けている中でも粘りがないと、次の可能性は見えてこない」だ。最後までチャンスを狙うマインドが大切だ、との意味だろう。エース負傷という予期せぬアクシデントの逆境の中で粘りに粘った、「次の可能性」を感じさせるマインドの高いチームなのだ。

    遊学館の2回戦は8日目の第1試合(予定では13日)、宮城の東北と対戦する。あのダルビッシュはもういない。去年の雪辱を果たしてほしい。

⇒8日(月)朝・金沢の天気 晴れ

★大学に在り、政変を想う

★大学に在り、政変を想う

   私が勤める金沢大学はこの6日から夏休みに入った。大学行きのバスは大幅に間引かれ(夏季ダイヤ)、乗客も少ない。キャンパスではTシャツ姿の学生がまばらに行き交う。合宿でも始まるのか、学生が重そうにオーケストラの楽器を運んでいた。学生1万700人、教職員3500人の「この町」は蝉時雨の音が妙に大きく響く。

   人間の脳というのは不思議なものだ。野にあっては街を想い、夜にあっては昼を想う。静寂にあっては喧騒を想い、学問の場にあっては政争の国会を想ったりする。でも人間はなぜこのように逆の場面をイメージしてしまうのか理由が分からなかった。またまた、司馬遼太郎のエッセイや講演録をまとめた「司馬遼太郎の考えたこと・7」(新潮文庫・平成17年6月1日発行)の中の「願望の風景」を読んでいると面白い下りがあった。司馬さんの家の周囲で(選挙か)マイクなどが響いて騒がしかったので、高野山の宿坊を借りて、日本近世の小説を書こうとしたが、結局、一字も書けず下山してしまったというエピソードである。桧皮葺(ひわだぶき)の屋根や床柱の黒漆など、目に見える宿坊そのものが中世の風景で、肝心の頭の中での中世の風景描写が湧いてこなかったというのだ。司馬さんは「心理学的にはごくあたりまえの願望現象ではないか」と結んでいる。

    前置きが長くなった。郵政民営化のことである。テレビ局の報道を離れて(今年1月退職)、むしろ政治の動きに鋭敏になったような気がする。テレビ局時代は椅子に腰掛けていても「永田町の情報」が入ってきた。それがなくなった分、たとえば「小泉内閣メールマガジン」(毎週木曜日に配信)を丹念に読んでいる。特に小泉総理が発する郵政民営化についてのコメントはその行間まで読んでしまう。

    以下、行間からにじみ出た小泉総理の本音を読む。「一国の首相が5年間、情熱を傾けてやろうしてきた郵政民営化の公約が果たせないのであれば、日本という国の将来ビジョンを語る政治家は誰もいなくなる。金と技術はある、が、夢やビジョンがないからこの国は閉塞している。これまでタブーとされてきた郵政民営化を突破するだけで、この国の政治の未来は随分と明るくなるのだ。自民党が頑迷固陋の輩(やから)で支配されるのならば壊す。8日に。私は政界の突破者(とっぱもの)である」

    あす8月8日、参院本会議での郵政民営化法案の採決後に「政変」が始まり、学生がキャンパスに戻ってくる9月の終わりには政界地図が大きく塗り変わっている。

⇒7日(日)午前・金沢の天気  晴れ

☆「集団自決」の真実追う

☆「集団自決」の真実追う

  「8月27日」というタイトルの自費出版本がある。著者は金沢市の重田重守(しげた・しげもり)さん、73歳。石川県教育文化財団理事長として、「自分史同好会」を長らく主宰してこられた。自分の歩んできた人生を振り返り、手記にしようという集いである。しかし、「8月27日」は自分史ではない。語られることのなかった地域史であり、日本史である。

  終戦直後の1945年8月27日、旧満州(現在の中国東北部)に入植していた石川県出身の開拓団の人々350人余りが「集団自決」を遂げた。終戦の混乱の中、入植者は学校に集められ火が放たれた。熱さに耐え切れずに井戸に飛び込んだ親子もいた。「集団自決」とされた事件は本当に自決だったのか、重田さんは生き残りの日本人のほか、中国で現地調査を重ね、中国人からの証言も丹念に拾い集めた。そして一つの証言を得る。それは「自決」というより、錯乱状態で一部の指導者が「もはやこれまで」と火を放った集団焼死であった。実際、死亡したのは母親や15歳未満の子供たちが多かった。また、同じ地域の出身者が多かっただけに、生還者はこれまで真相について語ることはなかった。取材は10年にも及び、わずかな証言を一つひとつ積み上げて生還者に問い、それをまた積み上げていくという手法で一冊の本にした。

   この本の正式タイトルは「旧満州 白山郷開拓団 8月27日」(北國新聞社刊)。先月、全国新聞社出版協議会が主催する「第1回ふるさと自費出版大賞」の優秀賞に選ばれた。そして、重田さんといっしょに旧満州に出かけ、現地でともに取材した北陸朝日放送の番組「大地の記憶~集団自決、57年目の証言~」は第39回ギャラクシー賞奨励賞を受賞した。この番組は、8月11日(木)午後4時からCS放送「朝日ニュースター」で放送される。

   戦後60年のいま、死ぬ必要がなかった人までも犠牲にした戦争の真実の一端が語られている。

⇒6日(土)夜・金沢の天気  曇り

★試合に勝ち勝負に負ける

★試合に勝ち勝負に負ける

   「勝つためにどう努力するかだ」。1992年(平成4年)、夏の甲子園球場で石川代表の星稜高・松井秀喜選手に「連続5敬遠」という物議を醸した高知代表の明徳義塾の馬淵史郎監督は当時、マスコミのインタビューでこう語っていたのを覚えている。明徳義塾はその10年後の2002年に全国優勝、去年まで戦後最多の7年連続出場を果たし、強豪にのし上がった。そして今年の大会で部員の不祥事で前代未聞の全国出場辞退(4日)という不名誉な記録をつくった。以下、新聞紙面で拾った辞退までの26日間のドキュメント。

【7月9日】明徳義塾の野球部寮内のボイラー室で、たばこの吸い殻2本が見つかる。キャプテンが全部員を集める。1年生と2年生のおよそ10人が喫煙を申し出る。馬淵監督は、自主申告であり、また、集団喫煙ではないとして学校には届けなかった。

【7月15日】1年生部員の保護者が野球部寮を訪ねてきて、「子どもが暴行を受けているので学校をやめる」と訴える。

【7月16日】全国高校野球選手権高知大会が開会。開会式の終了後、馬淵監督はいじめた側の部員6人とその保護者らと、大阪のいじめられた部員の保護者宅を訪ねて謝罪。学校側は被害者側に入学金や寮費、教科書代などを返還した。

【7月末~8月3日】高知県高野連などへ匿名の投書が寄せられ、一連の不祥事が判明。日本高野連は高知県高野連を通じて事実を確認し、馬淵監督に対する事情聴取を行う。

【8月3日】組み合わせ抽選会で、明徳義塾は大会5日目に日大三高(西東京)との対戦決まる。

【8月4日】午前中、明徳義塾が大会本部に出場辞退を申し入れ。大阪の宿舎で、馬淵監督が選手を集め、辞退を伝える。日本高野連は午後、臨時審議委員会と同運営委員会を開き、大会規定により高知大会での明徳義塾高の優勝を取り消し、準優勝だった高知高を優勝校と決定し、午後2時半、高知高に電話で出場を要請した。午後3時、大阪市西区の日本高野連で馬淵監督が記者会見に臨み、辞任の意向を表明した。

    馬淵監督は、「勝つため」にあらゆる手段を講じていたことが分かる。いめじた側の部員6人と保護者、学校関係者ら少なくもと13人を擁した謝罪行動(7月16日)などはその真骨頂であろう。しかし、馬淵監督はここで被害者心理を読み違えたのではないか。推測だから確かではないが、監督はここでいじめた側の生徒の親に謝らせた。その証拠に「6人の親たちは慰謝料を払った」との報道もある。しかし、被害者とその親が本当に問うたのは監督の管理責任だったはずである。配下の選手や親を手駒のように使い、手段を選ばず「勝ちに急ぐ」。13年前の「連続5敬遠」と同じパターンではないか。「試合に勝って勝負に負ける」。歴史を繰り返したにすぎない。ただし、今回は名実ともに敗れた。

⇒5日(金)夜・金沢の天気 晴れ