☆「ミモレットの和解」と計略

☆「ミモレットの和解」と計略

   きのう25日付の「自在コラム」で「ミモレットの誤解」をテーマに、「干からびたチーズ」の映像からこの選挙のドラマが始まった印象があるとの内容のコラムを書いた。偶然にも、昨夜は「ミモレットの和解」が演出されたようだ。けさの新聞記事によれば、小泉総理が25日夜、自民党本部で森前総理と夕食をともにした。今月6日夜に首相公邸で衆院解散の是非をめぐり激論、決裂して以来とのこと。今回は「豪華な弁当」が出たこともあってか、森氏も機嫌を直したとある。例の、森氏が不平を漏らした干からびたチーズについては、小泉総理が「高級チーズだとは知らなかった」などと一応先輩を立てるかたちで釈明し、「選挙が終わったらそのチーズを出す高級レストランに行こう」と約束し和解したらしい。

    しかし、この会食で交わされた会話は「ミモレットの和解」だけだったのだろうか。小泉総理が自民党本部で武部勤幹事長と協議していた森氏を誘うかたちで会食が実現したとある。つまり、党本部で総理、総裁派閥の長、党幹事長の3人が話し合ったということだ。「豪華な弁当」というから、おそらく料亭から取り寄せた箱型の仕出し弁当だろう。おかずは10品ほど、フルーツもつくから30分は夕食をたべながら話す時間があったはず。「和解」の会話は数分そこそこ、では残りの20数分で何を話し合ったのか。ヒントは森氏がこの日、テレビ朝日の番組収録で語った内容とリンクしている。来年9月までの小泉総理の党総裁任期について、森氏は「党の改革をここまでやったのだから、改革を続けなければいけない。(総選挙に)勝ったら少し余裕を持ってやったらいい」と総裁続投を示唆した(朝日新聞インターネット版)。選挙後の党の体制について言及したのだが、公示前のタイミングでは早過ぎる。以下は私の想像だ。森氏は小泉総理にある決断を迫った。その決断の前提条件として総裁任期の延長を持ち出している、と読む。

    森氏が総理に迫った決断とは何か。民主の小沢一郎氏の動きを睨んだ対応である。会食と同じ25日、民主の藤井裕久代表代行らが自民党本部を訪れ、岡田代表と小泉総理との一対一の公開討論会に応じるよう求める文書を提出した。しかし、自民の武部幹事長は「自民と民主だけでの党首討論は、他の政党に公平ではない。機会均等という観点から慎むべきだ」(記者会見)と拒否する考えを示した。民主の提案した一対一の公開討論会は、有権者の関心事を年金問題にひきつけようとの作戦だろう。「郵政では勝てない」と焦った小沢氏の計略。だから腹心の藤井氏が動いた。

  各党のマニフェストを見比べると、年金問題に関しては、民主は「議員年金を直ちに廃止」とした上で「すべての年金を一元化する」と言い切っている。それに比べ、自民は「公務員を含めたサラリーマンの年金制度の一元化を推進する」としており、民主よりトーンは低い。解散から公示まで22日間と長い。前哨戦では郵政民営化でリードした自民だが、途中で「年金」の旗を掲げる民主の巻き返しも予想される。自民にとっては公示以降の後半戦のテーマをどう設定するかが急務なのだ。

   以下はフィクションである。この日の会食で、森氏は「年金の一本化を民主より声高に打ち出したらどうか」と進言した。これに対し、小泉総理は「(総裁は)来年9月までと公言している。年金改革は数年かかる。これは矛盾だと野党から突っ込まれる」と渋った。森氏は「それだったら、改革のために総裁続投も躊躇(ちゅうちょ)せずと公言すればいい。選挙に勝たなきゃ意味がないじゃないか」と決断を促した。小泉総理もようやく「郵政改革を成し遂げ直ちに年金改革に着手する」とぶち上げると肝(はら)を固めた。協議の結果、その日を投票の3日前と決めた。選挙戦の最終盤で一気に「まくり」に入る。年金問題でなんとか命脈(マニフェスト)を保っている民主の息の根を断つ、というシナリオだ。テレビ朝日の番組収録で「小泉続投」を滲ませたのは森氏の得意とする地ならしだ。

    表向き「ミモレットの和解」の傍ら上記のような選挙の秘策が交わされていたとしても不自然ではない。冒頭の新聞記事では、会食で「選挙が終わったらそのチーズを出す高級レストランに行こう」と約束したとある。私の推測ではそれに続く言葉があったはずだ。(小泉総理)「森さん、歯が立つように薄く切ったミモレットをツマミに祝杯を上げましょう」

⇒26日(金)午前・金沢の天気   雨

★「ミモレットの誤解」と選挙

★「ミモレットの誤解」と選挙

   森喜朗元総理のあの「干からびたチーズ」の映像は何度見ても面白い。実に滑稽なのだ。この人が映画俳優だったらいぶし銀のいい味を出す名脇役になっていたに違いない。

    今月6日夜、小泉総理に衆院解散を思いとどまらせようと森氏が官邸を訪ねたが、「殺されてもいい」と拒否された。その会談で出たのが缶ビールとツマミの「干からびた」チーズだった。会談後、森氏はわざわざ握りつぶした缶ビールと干からびたチーズを取り囲んだ記者団に見せ、「寿司でも取ってくれるのかと思ったらこのチーズだ」「硬くて歯が痛くなったよ」と不平を漏らした。あの映像を見た視聴者は「小泉は命をかけているんだ、本気だな」との印象を強くしたのではないか。選挙のドラマのエピローグはここから始まったように思えてならない。

    この話には後日談があって、あの干からびたチーズはフランス産高級チーズ「ミモレット」だった。ミモレットはカラスミに似た深い味わいで日本酒にもあう。18カ月もので100㌘750円ほど。干からびた風合いが一番おいしいそうだ。もし、森氏が「小泉さんが高級チーズで歓待してくれたよ」と自慢していれば、国民の反感を買って、今ごろ小泉総理に逆風が吹いていただろう。そう考えると、ひょっとしてこれは日本の政治史に「ミモレットの誤解」として語り継がれるかもしれない。

    マスメディアはそれぞれ1週間ぐらいの間隔で世論調査を行い選挙動向を分析しているが、各種の調査は内閣支持率が50%を超えたと伝えている。インターネットでもいろいろなアンケート調査があり、たとえば「goo」のブログサイトが行っている公開アンケートでは、小泉総理による「郵政解散を支持するか、しないか」の設問がある。24日現在で「支持する」が68%、「支持しない」が27%でダブルスコア以上に差が開いている。インターネットを利用するのは比較的若い世代なので、この調査からは若い世代の考えのおおまかな傾向をつかむことができる。

    さらにちょっと踏み込んで考えてみると、今回の選挙は「デジタルっぽい」感じがする。「郵政民営化」にイエスかノーか、すべての小選挙区に賛成の候補(自民)と反対の候補(自民造反組、民主ほか)がいる。「0」 と「1」 とで表現されるデジタル信号のようにも考えられ、今回の選挙はインターネットとの親和性が随分あるようにも思える。そして、「白黒をつける」という分かりやすさが内閣支持率を押し上げているのではないかと考えたりもする。もちろん、小選挙区は「ドブ板」と「しがらみ」のアナログ的な要素があり、デジタルっぽさが内閣支持率を押し上げたとしても投票行動とは必ずしもリンクしない。こうした諸条件を勘案すると、「内閣支持率50%超え」という世論調査はそこそこに的を得た数字ではないかと思う。

    選挙が行われる9月11日まであと17日。TVメディアはそろそろ当日の選挙特番の打ち合わせに入るころ。番組タイトルは「YESかノーか小泉郵政民営化、国民の審判下る!~選挙劇場ライブ2005~」といった感じだ。そして番組構成として、冒頭にこれまでの選挙の「振り返り」VTRを流す。5分ぐらい。そのVTRのスタートのシーンは例の森氏の「干からびたチーズ」のはずだ。VTRが終わると西日本の四国や山陰あたりの小選挙区の当確の速報が早々と流れ始め、大勢の判明は午後11時ごろ。選挙結果を受けての番組第2部の討論コーナーのスタートは11時半ごろか。

 ⇒25日(木)朝・金沢の天気   晴れ

☆小泉総理と徳川幕府

☆小泉総理と徳川幕府

  先日、名古屋市を訪れた際、徳川美術館に立ち寄った。昭和10年(1935)の開館以来70周年に当たり、尾張徳川家に伝えられる名品や家康の甲冑など見ごたえのある品々だ。しかし、国宝「源氏物語絵巻」は11月12日から特別展として公開され、今回は複製のダミーが展示されていた。これで入館料1200円は高い、と思いつつも名古屋人の商売上手に脱帽した。

   ところで、徳川と言えば私は小泉総理を思い出す。以下は「風が吹けば桶屋が儲かる」と言ったような話の展開になる。朝日新聞「AERA」スタッフライターで軍事問題に詳しい田岡俊次さんは「今の日本は江戸幕府時代の加賀藩と同じだ」が持論の人だ。東西の冷戦に終止符が打たれ、西側の代表アメリカが名実ともに世界のナンバー1となった。これは、天下分け目の戦いといわれた関が原(1600年)で東軍が勝ち、徳川家康が幕府という統治機構を築いたことと重なる。加賀の前田利家は関が原の戦いの前年に没するが、病床にあった時、見舞いに来る家康を「暗殺せよ」と家臣に言い残しこの世を去る。遺言は実行されなかったが、「謀反の意あり」と見抜かれ、利家の妻・まつは江戸で人質となり、その後も加賀藩は百万石の大藩でありながら外様大名の悲哀を味わうことになる。日本も太平洋戦争でアメリカに宣戦布告して、4年後に占領統治される。いまだに国連憲章の「旧敵国条項」は生きている。

   地元・金沢ではこんな話が伝わっている。前田家は、徳川家の警戒心を解くことに腐心した。このため、自らの金沢城に戦時の司令塔となる天守閣は造らなかった。また、三代藩主の利常は、江戸城の殿中ではわざと鼻毛を伸ばし、立ち居振舞いをコミカルに演じたそうだ。ここまでやって加賀藩は264年続いた幕藩体制を生き抜いた。駐留米軍に「思いやり予算」と称して、15億ドルをポンと「上納」する日本。田岡さんの「日本は加賀藩と同じ」という論拠は、地元では実に理解しやすい話なのだ。

   そろそろまとめに入る。小泉さんの鼻は長くて高くてかっこいいが、ローアングルのカメラから顔に寄った時の映像で、鼻毛が覗くのが気になる。特にNHKのハイビジョンカメラだと鮮明に見えるときがある。「何もそこまで(加賀藩を)真似することはないだろう」と笑うのは私だけか…。

   先日宴席があり、この話をマンスフィールド財団の政府間交流事業で金沢を訪れていたアメリカ人弁護士(35歳)にしたら、「このユーモアはアメリカ人にも通じる」と喜んだ。彼は20代に金沢に4年間滞在した経験があり、日本語と日本史に対する造詣は深い。宴席後のカラオケで、彼はこの話のお礼にと十八番の沖縄の「島唄」を歌ってくれた。これだけの話である。他意はない。

⇒23日(火)朝・金沢の天気 雨

★選挙に「ロマンを感じる」世代

★選挙に「ロマンを感じる」世代

   新聞紙面から「国民新党」や「新党大地」はもう消え去りつつある。最近の新党「日本」ですらもう時間の問題かもしれない。ことほどさように、時間の流れは速い。そして、マスメディアの関心事は広島6区(亀井静香氏VS堀江貴文氏)がさらっている。けさ、フジテレビ系の朝の情報番組でコメンテイターが「なんで自民党と」としつこく堀江氏に質問した。堪忍袋の緒が切れた様子の堀江氏が「くだらない質問には答えたくない」と憮(ぶ)然とした。こうした緊張した場面には生中継ならではの醍醐味がある。おそらく収録だったらカットされていたに違いない。見ている側からすれば、堀江氏が憮然した理由は「理解の範囲」である。揚げ足を取るための繰り返しの質問は見ている側も不愉快に感じる。

   これからの話はおそらく50歳代の後半からの世代の人のごく一部が理解できる話かも知れない。先日、私のかつての業界の先輩と2時間ばかり話をする機会があった。先輩いわく。「今回の選挙にはロマンを感じる」という。「何のロマンですか」と問うと、「革命のロマンだよ。われわれは70年安保の世代。権力との対峙に明け暮れて、自民党=体制をぶっ潰すことを考えていた。細川(政権)はブルジョワ革命だと思っていたので魅力はなかった。でも、今回の小泉は戦略的な手法の革命だね。感じるんだよロマンを」と。

   上記の話には少し説明がいる。先輩は東京の私大卒。70年安保では国会付近でのデモに参加し、警察に「パクられた(逮捕された)」経験がある。過激派ではないが、つい最近までパクられた当時のヘルメットを家族に見つからないように隠し持っていた。近く早期退職するので、「一応人生にケリをつけたい」と思い出の品は全部捨てた。ヘルメットも捨てた。彼には、警察官僚だった亀井氏や自民党最大派閥の綿貫民輔氏は「自民党そのもの」に思えてならない。「その連中と小泉は闘っている」と。「右翼に共感する左翼もいる。左翼に共感する右翼もいるんだ」と先輩は言う。「靖国を信奉する小泉は右翼だが、共感できる」のだそうだ。

   そして「戦略的な手法の革命」のことである。レーニンが「すべての権力を会議(ソビエト)へ」と発し、全ロシア労働者・兵士ソビエト大会で革命に反対するメンシェビキを追い出しソビエト権力の樹立(1917年)した過程と似ている、と言う。「権力闘争の何たるかを小泉は知っている」と先輩は妙に関心して見せるのである。若かりしころの「革命のロマン」をイメージさせているのだ。

   先輩と別れた後で、最後に一つ質問をすべきだったと悔やんだ。「ところで先輩、投票に行くんですか」と。いまさら電話で質問をするのも気が引けるので、以下想像する。先輩は投票には行かないだろう。ロマンと投票行動は違う。「小泉には共感する」が選挙区は違う。その選挙区の自民党候補者は70歳を過ぎた老人である。先輩がその候補者に一票を投じるとは到底思えない。

⇒22日(月)夕・金沢の天気  雨

☆選挙で終結する政治ドラマ

☆選挙で終結する政治ドラマ

   プロ野球を観戦したいと思い、昨夜、ナゴヤドーム(名古屋市)に出かけた。リーグ首位を狙う中日、対するのは勝率を5割に戻したい横浜だ。名古屋というアウエイ(遠征地)は強烈だ。主催者の発表で3万5400人のほとんどが中日応援である。このドームがどよめいたのが6回表。リードされていた横浜、小池が満塁ホームランを放つなど打者一巡の猛攻で8点を奪う逆転劇だった。「オレ流」落合監督も「長いシーズンは、勝ちゲームをひっくり返されることもある。いちいちとやかく言うことではない」と敗戦のコメントがけさの地元紙で載っていた。肝(はら)の据わった監督の言葉である。

    試合を見ながらふと思った。人々はなぜ野球に熱中しドームを埋めるほど集まるのか、と。私のような、どちらを応援するでもない観戦するだけの「観光客」は回数を重ねない。しかし、ファンにはいでたちからしてチーム名入りのTシャツで、「また応援に来たぞ」と意気込みがある。ファンと観光客の違いは、暴論と言われるかもしれないが、「野球のストーリー」というものが脳裏に刻まれているか否かの違いだろう。中日ファンならば、ベテラン立浪が今季初めてスタメン落ちしたのはなぜか、落合監督は打線にカンフル剤を打ったのか、などとストーリーの筋を読みながら観戦したに違いない。だから面白く、面白いからファンになる。

     今回の総選挙にも関心が高まっているのは、野球と同様、政治のストーリーも面白いからだ。小泉総理という人物に郵政民営化というシナリオがあり、参院での否決、衆院の解散という国民を巻き込んだリアリティーがある。そのシナリオが展開する中で、改革と抵抗勢力の攻防、解散という総理の大立ち回り、その後に刺客や怨念といった人間臭さが脚色され、政治がいつの間にかドラマになった。 しかも、一部の人しから知らないドラマではなく、国民的なドラマなのだ。小泉内閣の発足から4年半、そろそろこのドラマの結末が近づいてきたことを有権者が感じ、クライマックスを自分たちで見極めようとしているのではないか。ちなみにドラマの主演とプロデューサーは小泉総理である。

    だから総選挙というドームに人が「賛成」と「反対」のメガホンを持って大勢の人が集まってきている。そうでも説明しなければ説明できないほど、今回の総選挙は異常に盛り上がっている。どちらの応援団が多いかは、見たところ、ナゴヤドームの雰囲気に近い。あとは想像にお任せする。

⇒21日(日)午前・名古屋の天気  曇り

★世論調査と注目の選挙区

★世論調査と注目の選挙区

   最新の世論調査を読み解く。読売新聞社がきょう掲載した衆院選に関する世論調査(電話方式・17日‐19日)によると、内閣支持率は53.2%で衆院解散直後の調査(8、9日)より5.5ポイント上昇し、不支持は34.1%で前回調査より8.2ポイントも減った。今回の衆院選の比例代表で投票したい政党は自民37%で前回調査より10ポイント増加、民主党16%で5ポイント減だった。公明4%、共産3%、社民党2%、国民新党1%と続いた。小選挙区でどの政党の候補に投票したいかでは自民党39%で前回より9ポイント増、民主党14%で4ポイント減。公明3%、共産党2%、社民1%、国民新党1%となった。

   おそらく世論調査の担当は驚いているだろう。通常の国政選挙の世論調査でこれほど数字は動かない。調査ごとに、一つの政党にグングンと数字が集約されていくということは、有権者の関心が相当高まり、争点がはっきりしてきたという証左でもある。1989年参院選のマドンナ旋風と1990年総選挙の反消費税で議席を増やした社民の「おたかさんブーム」以来ではないか。世論調査の担当者は「ヤマは動く」と今回の総選挙の結果をすでに読み切っているに違いない。

   世論調査の分析を踏まえ、各マスメディアの選挙担当は今後の番組や紙面構成を練っている。つまり、「注目の選挙区」「話題の選挙区」の選定である。重点的に記者を投入し、公示後に選挙区ルポなどを行う。これも大方決まったようなものではないか。何と言っても、郵政民営化反対のドンである亀井静香氏とITの風雲児ホリエモンこと堀江貴文氏の広島6区だろう。続いて「刺客」という言葉が踊った東京10区(小林興起氏VS小池百合子氏)、静岡7区(城内実氏VS片山さつき氏)、民営化反対のもう一人のドンであり「国民新党」代表の綿貫民輔氏の富山3区も注目を集めそうだ。

   こうして見ると自民VS民主という構図で注目される選挙区は少ない。目立つのは衆院補選から4カ月後にまた同じ顔ぶれで戦うことになる自民・山崎拓氏VS民主・平田正源氏の福岡2区ぐらいではないか。

   ここにきて総選挙を報道するマスメディアも争点あるいは対立軸を「郵政民営化に賛成か反対か」の一本に絞らざるを得ない状態になってる。年金で争っている選挙区はどこにあるのか、という具体的な話で詰めていくとそのような選挙区ははないからである。従って「注目の選挙区」の取材が進み報道されれば郵政民営化問題がさらにクローズアップされることになる。マスメディア側に意識はないものの、マスメディアに日ごろ触れている有権者が自然と誘導される「見えざる世論操作」ともえいる現象なのだ。

⇒20日(土)朝・金沢の天気   晴れ

☆ブログと選挙とホリエモン

☆ブログと選挙とホリエモン

    来月26日と27日に「放送ゼミ」の集中講義があり、学生に夏休みの宿題を出した。テーマはズバリ、「2005年総選挙でインターネットのブログはどのような役割を果たしたか検証せよ」だ。

     本来の選挙スケジュールにはなかった総選挙が降って湧いたようにやってきた。これは、マスコミを志望する学生にとってチャンスだ。在学中に選挙というものを考え、ディスカッションするということは就職活動の筆記や面接に役立つだけでなく、選挙と切ろうにも切れない人生を送るわけだからとてもプラスになる。「選挙は民主主義の普遍的なテーマなのだ」と学生に発破をかけた。

    その論点として、日本において選挙に積極的に参加する意思の現れとして「勝手連」や「草の根選挙」といった市民の自発的行動があった。ところが、文明の利器としてのインターネットが1980年代から勃興し、いまではブログという個人がコストをかけなくても自由に意見発表ができるツールにまで発展した。日本でも335万人(総務省調べ・3月末)のブロガーがいて、その数は日ごとに増えるという盛り上がりを見せている。このブログ層が選挙に及ぼす影響についてきちんと分析することは今後の選挙のあり方を考える上で重要なポイントとなる。ブログが全盛期を迎えて初めての国政選挙だけに、おそらく各大学の計量政治学のゼミも取り組み始めている横一線の研究だと推測する。

     ところで、ライブドアの堀江貴文社長が「どうせなら亀井静香氏の対抗馬になりたい」と意欲を燃やしているという。「どうせ買収するならフジテレビ」と言ったあのツボ狙いの感覚が今回も。名を得ずとも、実をしっかりと獲得するホリエモンはすでにこの時点で勝っている。というのも堀江氏の「出馬」でライブドアのホームページのページビュー(閲覧数)はこの8月で月間5億に達する、と業界筋は読んでいる。

     ここで選挙日程と、選挙でどこまでインターネットが使えるか確認する。総選挙の公示は8月30日、投票は9月11日だ。公職選挙法では、公示日から投票日までは立候補者や政党はホームページの更新や開設が原則禁止となる。候補者はもちろん、関係のない個人であってもメールやブログ、掲示板で特定候補への投票呼びかけは禁止である(違反した場合、2年以下の禁固、もしくは50万円以下の罰金)。つまり、堀江氏がインターネットをフルに活用できるのは8月29日までとなる。全般的に言って、今回の総選挙は8月29日までに白黒がつく可能性がある。選挙の争点がはっきりしていて、案外有権者に迷いは少ない。小選挙区で候補者が出そろった段階で勝負が決まるのではないか。「1」か「0」か。これを「デジタル選挙」と言っては早計に失するかもしれないが・・・。

 ⇒19日(金)朝・金沢の天気    晴れ

★流しそうめんと選挙

★流しそうめんと選挙

    旧盆も終わり、あいさつ文は「残暑お見舞い」となった。先日、学生が流しそうめんのキットをつくった。キャンパスの山林から調達した竹でつくったなかなかの優れものである。問題はどうやって数㍍もある竹を真っ二つに割いたか、である。まず、ナタで円の面を割く。その後、棒を裂けた部分に差し込んで金槌で棒の両端叩きながら割いていく。一気に割くと真っ二つにならなら場合もあるので結構慎重さを要する。

     そうしてできた竹に水を流し、そうめんを上流から手のひらに乗るくらいの分量で流していく。水流が速すぎるとキャッチが難しい。加減というものがある。流しそうめんでポイントはつけタレだろう。水切りが十分にされないまま食べるとすぐタレが薄まってしまう。そうめんをよく振って水を落としてから食べるのだ。右利きの人は水の流れる方向の右側に座った方がよい。箸で流れを棹差すようにして待ち構え、そうめんが箸に絡まるタイミングを見計らって一気にすくい上げる。これがコツだ。

     ところで竹を割ったように、スパっと自民は割れた。郵政民営化反対のドン、綿貫民輔氏と亀井静香氏らが新党を旗揚げすることになった。党名は「国民新党」という。傑作なのはその活動方針だ。「小泉恐怖政治の打破」「破壊でない真の改革」である。どこかの国のように、大統領権限を振りかざして民政を圧迫するのであれば恐怖政治とも表現できようが、総理が解散権を行使し、対立候補を立てたくらいのことを恐怖政治と称しては「言葉の愚弄」となる。語気を強め、他人が嫌悪する言葉を吐いても、誰にも意図するところは伝わらない。

    新党の結成で、綿貫氏の地盤、富山3区の自民党県連は胸をなでおろしているだろう。綿貫氏は富山県の自民党のドンでもある。無所属で立候補した場合、これまでのことを恩義に感じあるいは義理立てして応援に回る人もいる。しかし、新党となると話は別である。「オレは自民党だから、他党は支持できない、従って綿貫氏は申し訳ないが…」と支援を断る理由になる。県連もおそらく「他党を応援するのはよろしくない」とお触れを出すだろう。それにしても綿貫氏は78歳、新党の代表をよく引き受けたものだ。 冷静に考えれば哀れでもある。

    そうめんは好き嫌いが分かれる麺類である。うどんやそばとは違って食感が薄いからだ。それでも流しそうめんだと風流や涼感という別の要素が加わって食べる人は多い。新党も同じで「改革を断行しそうだ」などといった期待感やムードが醸成されれば、その党の候補者をよく知らなくても一票を投じるものだ。それがこれまでの民主党だった。ところが、その新味が民主党には感じられないという意見をよく聞く。実際、ブログを閲覧しても、そのような書き込みが多いのではないか。ましてや、綿貫氏や亀井氏の新党に期待感がわくだろうか。水分が抜けて絡まって食えないそうめんのような感じがするのだが…。

 ⇒17日(水)午後・金沢の天気  雨  

☆昔「勝手連」いまブログ選挙

☆昔「勝手連」いまブログ選挙

   終戦記念日の15日、小泉総理は東京の千鳥ケ淵戦没者墓苑に献花し、日本武道館で開かれた全国戦没者追悼式にも出席したが、靖国神社への参拝は見送った。10日の「自在コラム」でも述べたように、衆院選で靖国問題が争点化するのを避けたいとの現実的な判断があったのだろう。

    ちょっと意地悪な見方をする。郵政民営化反対派の急先鋒、野田聖子氏は14日に夫の鶴保庸介氏(参議員)と靖国神社を参拝した。私はこの「夫婦参拝」を小泉総理を15日に参拝させるためのおびき出し作戦ではなかったか、と見ている。「8月15日の靖国参拝」を公約に掲げて総理に就任した2001年、小泉総理は中国の反発に配慮して8月13日に参拝した。このとき野田氏は「総理の初心が変節されたのか。いつもの歯切れの良さとは異なり、総理ご自身が日程変更の理由を明確に説明されなかったことを私は残念に思っています」(野田氏ホームページ)と批判している。そこで夫婦参拝を前日に行うことによって、「郵政民営化の公約にそれほどこだわるなら、8月15日参拝の公約も守ってよ」と挑発したのではないかとの推測だ。真意はどうであれ、小泉総理は動かなかった。

    小泉総理のこうした徹底した「郵政」争点化の狙いは的中している。最新のTBS系列のJNN世論調査(13、14日実施)によると、内閣支持率は59.3%、不支持は39.8%である。解散直後の各メディアの内閣支持率は50%前後だったから、日ごとに支持が高まっているとの印象だ。有権者にとっては、小泉総理が自ら軍旗を掲げて関が原の戦いに臨む武将のイメージと重なり、実に分かりやすい。要は「西か東か」、つまり「民営化賛成か反対か」なのである。

    この分かりやすさで、内閣支持率を押し上げているのはインターネットのブログではないかと思う。争点がはっきりしているので、ブログのテーマになりやすい。つまり書き手自らの旗色を鮮明にしやすい。しかも、善玉と悪玉と言っては語弊があるが、両陣営の顔が見えてキャラクターも立っている。こんなにストリーが読める面白い選挙はかつてない。そこで、たとえば「小泉陣営=郵政民営化賛成」に共感したある人がブログを書いたとする。そのブログに50人のアクセスIP数(訪問者数)があり、読んでくれたとすると、乱暴な言い方かもしれないが、「50人のミニ集会」が成立したと同じことにならないか。

    かつて「勝手連」や「草の根」と言われた無数の選挙サポーターがいまブログという手法で参戦しているのではないか。総務省の調査だと、2005年3月末時点の国内ブログ利用者数は延べ335万人、アクティブブログ利用者(少なくとも月に1度はブログを更新しているユーザ)数は95万人いて、日々その数は増えている。今回いろいろなブログをざっと見てみると、「郵政民営化賛成」が多い。このブログ・サポーターが世論形成のベースにいて、内閣支持率を押し上げている要因の一つになっているように思えてならない。もちろん数字的な裏付けはない。ただ、ピーク時に比べ減ったものの「小泉内閣メールマガジン」は160万人に配信されている。しかもそのメルマガは200号を数えた。毎週配信されるメルマガで小泉総理の言動をウオッチし共鳴するコアなサポーター層も存在するのである。

    選挙後こうしたブログ現象と選挙結果が分析され、リンクしていたことが評価されると、「ブログはメディアにのし上がった」と一気に脚光を浴びる。評価されなければ、単なる個人日記にすぎない。

⇒16日(火)朝・金沢の天気   晴れ    

★「キャッチコピー」で読む選挙

★「キャッチコピー」で読む選挙

     きのう(14日)は衆院解散後初めての日曜日とあって、NHKや民放の朝の討論番組は選挙一色だった。今回の一連の流れをメディアに焦点を当て注意深く読んでみると、メディアで報じられた登場人物の「言葉の魔力」というものを感じる。「自民党をぶっ壊す」「殺されてもいい」が注目された衆院解散、その直後の総理会見で「ガレリオは『それでも地球は動く』と言った、私は『それでも郵政民営化は必要だ』と言いたい」と述べ、内閣支持率を一気に上げた。前から言われていたが、小泉総理はキャッチコピーの名人だ。

    ところが、郵政民営化反対派からもキャッチコピーは発せられるものの「名人」がいない。反対のドン・綿貫民輔氏は、すべての反対者の小選挙区に自民が対抗馬を立てることについて「小泉さんは織田信長。罪のない子女まで殺した比叡山・延暦寺の焼き打ちと似てきた」と。綿貫氏はもともと神主だから「宗教弾圧」をイメージして言葉を発したのだろうけれども、視聴者や読者で「延暦寺の焼き打ち」と聞いてピンとくる人はそう多くない。これでは印象に残らない。もう一人の亀井静香氏はきのう、自民から非公認とされた反対派の受け皿とする新党結成について、番組の中で「どうやったら仲間が一人でも生き延びていくか。無所属がいいか、新党でいくべきか、結論は出していないが」と語った。強気の面構えだったが、言葉はすでに萎(な)えていた。視聴者は敏感にそう読み取っただろう。

     では、野党はどうか。きのうは各番組とも与野党の党首討論を企画したが、自民は「マニフェストがまだ完成していない」との理由で同じ討論のテーブルに着かず、野党だけが顔をそろえた。小泉総理に代わり、幹事長代理の安倍晋三氏や元副総理の山崎拓氏らが中継で顔を出していたが、欠席は自民の深謀だろう。野党は当然、年金改革はどうだ、靖国参拝はどうだと、論点を郵政民営化から外しにかかる。ましてや「8月15日」を前に野党から大声を上げられたら小泉総理も3対1で形勢が不利となる。テレビ出演は公の仕事でも義務でもない。もちろん「公の党首は国民に向かって説明する責任があるのでは」と番組プロデューサーは自民サイドと交渉を重ねたに違いない。しかし、命運がかかる「いくさ」を前にそのキャッチコピーがどれほどの説得力を持ったのか。

     番組で傑作だったのは、野党党首の討論の直後に出演した石原慎太郎東京都知事の発言だ。野党党首の発言を聞きながらスタジオの片隅で出番を待っていたので「つまんなかったから、眠くなったよ」と。さらに「(今度の選挙で)社民は消えるね、共産は減らすね」と。さらに亀井氏から新党の党首になってほしいとの要請があったことをあっさりと暴露し、「(亀井氏らは)私怨に満ちているよ」とも。短いフレーズながら、討論の感想と選挙分析、幻の新党の裏話がコミカルにそして鋭く刻み込まれていた。トータルの秒数にして20秒だったろう。言葉の力というのは表現もさることながら、タイミングとスピード感であったりする。

 ⇒15日(月)午前・金沢の天気  雨