☆ブック2006「リアルな虚栄」
今年読んだ本の中で、印象深い本と言えば、アメリカ史上最大の合併といわれ、ウォールストリート最大の失敗に終わったAOLとタイムワーナー社との合併劇の結末を描いたルポルタージュ「虚妄の帝国の終焉」(アレック・クライン著、ディスカヴァー・トゥエンティワン社刊)と、1990年代のボスニア紛争でうごめいた情報操作の一部始終を描いた
「ドキュメント戦争広告代理店」(高木徹著、講談社文庫)だ。とくに「虚妄の帝国の終焉」は2度読んだ。
一度目は茶の蛍光ペンで気になるセンテンスをマークした。二度目はピンクの蛍光ペンで印をつけた。どこに反復して読む価値があるのか。この合併劇の失敗は「放送と通信の融合の失敗の事例」と日本でも喧伝されていた。果たしてそうなのかと検証したかったからである。単にルポルタージュを楽しみながら読むというより、今後日本でも十分起こりうる放送と通信・インターネット企業の合併という展開を分析したかったからだ。
精緻な資料分析とインタビューを構成した「虚妄の帝国の終焉」は、CNNなどを擁しメディア帝国と呼ばれたタイムワーナーが企業風土も違う新興のAOLとの合併を決意したものの、最終的にはAOL側の粉飾決算などで、そのシナジー(相乗効果)が十分に発揮されないまま、AOLがタイムワーナーの一部門に降格していく様を描いている。アメリカンドリームの面白さと企業ドキュメントのリアルさが蛍光ペンを2度走らせることになったのである。
もう一冊の「戦争広告代理店」もアメリカのネタである。NHKの取材ディレクターが丹念に取材したドキュメンタリー番組をその後に加筆してまとめ上げたもの。ボスニア紛争で「モスレム人=被害者」、「セルビア人=加害者」という分かりやすい善玉・悪玉論を情報操作したアメリカのPR会社「ルーダー・フィン」社のジム・ハーフという男の動きに焦点をあてている。どのような手法で世論を形成し、アメリカ大統領をどのように動かし、紛争に介入させたか…。そのキーワードとなった「民族浄化(エスニック・クレンジング)」という言葉がどう使われたのか、克明に描かれている。
ジム・ハーフが駆使したPR手法の数々は高度なテクニックではあるものの、なかには企業の広報マンも使えそうな細やかな対人折衝の心得のようなものもある。「インタビューする主役に最大限に注目が集まるように、黒子(PR担当マン)は息を殺してその存在感を消す」といったプロの所作である。この本が単行本として世に出た2002年に講談社ノンフィクション賞などを受賞している。
2冊ともダイナミックな政治と経済がテーマである。アメリカンドームと紛争。受け止めようによってはアメリカのリアルな虚栄とも表現できる。
⇒25日(月)夜・金沢の天気 はれ
ネット配信を無事終え、その2週間後にイタリアのフィレンツェに調査のため渡航した。しかも、渡航前日の成田でパスポートを金沢の自宅に置き忘れたことに気がつき、フライト当日の朝、家人に送ってもらったパスポートを羽田空港に取りに行くというハプニングも。そんなあわただしい1年のスタートだった。
そのおさらい。政府のタウンミーティング調査委員会の最終報告書(12月13日)を読んでいくと、15回の「やらせ」のうち6回が法務省がらみ。04年12月18日(東京)、05年1月15日(香川)、05年4月17日(宇都宮)、05年6月25日(金沢)、05年10月23日(那覇)、06年3月25日(宮崎)の6回のうち、宮崎を除く5回で一致点があった。そのすべてに当時の法務大臣、南野(のおの)知恵子氏(参議員)が出席していた。南野氏と言えば、04年8月の第2次小泉改造内閣で法務大臣に就任して以来、「なにぶん専門家ではないもので」と述べて失言が取りざたされていた。もともと看護婦さんだったので、支援団体は日本看護協会。法務とは畑違いなので、前述のような発言になったのだろう。
政府が発表した「タウンミーティング調査委員会最終報告」(今月13日)をもとに金沢でのタウンミーティングの「やらせ」を検証すると、法務省から金沢地検と金沢地方法務局に質問者探しの指示があった。実際、去年6月25日のタウンミーティングでは地検や法務局の職員の友人・親戚3人が発言した。
東大のイチョウは校章にもなっているだけあって、キャンパス全体を黄色く染めるくらい本数は多い。そのイチョウと赤門がコントラスを描いて、これも見ごたえのある風景だ。青森から訪れたという女子高生が記念撮影に夢中だった=写真=。
たとえば、キノコは合理的な施設栽培が主流となって、店頭では四季を問わず様々なキノコが並んでいる。しかし、それらのキノコからは味や香り、品質そして季節感が感じられない。味より合理性を重視した供給体制が多すぎる。
大手紙の全国調査は選挙人名簿から3000人を地域的や性別・年代などの偏りがないように無作為で選び、「有権者全体の縮図」をつくる。全国の有権者は1億330万人(05年)なので、1人がおよそ3万人余りの代表となるわけだ。ちなみに私が住む石川県の場合だと28人が調査対象数だ。
東京生まれの岩城さんは読売ジャイアンツのファンだった。親友だった故・武満徹さんが阪神ファンで、岩城さんがある新聞のコラムで「テレビの画面と一緒に六甲おろしを大声で歌っていた」「あのくだらない応援歌を」と懐かしみを込めて書いていた。また、岩城さんはクラシックを野球でたとえ、04年と05年の大晦日、ベートーベンの1番から9番の交響曲を一人で指揮したときも、作曲家の三枝成彰さんとのステージトークで「ベートーベンのシンフォニーは9打数9安打、うち5番、7番、9番は場外ホームランだね」と述べていた。面白いたとえである。
記事によると、記者はゴルフ場に生息してたオオタカの取材をきっかけにゴルフ経営者と知り合った。そして、02年8月に記者が異動する際、餞別として封筒を受け取り、04年9月に大阪本社に戻った時にも、出産祝いとして封筒を渡された。記者は「いつか返そう」と思い、封筒の封を切らずにカンバに入れていた。ところが、今月15日に一部の情報誌が「ゴルフ場経営者が大手紙記者に現金百万円」とする記事を掲載したことから、記者が上司に報告した。そして、未開封だった封筒を弁護士立ち合いで開けて、異動祝いが10万円、出産祝いが5万円だったことが分かったという。
月尾氏は文明批評家でもある。金沢での講演では、経済優先主義で没落したカルタゴ、造船の技術革新に出遅れたベネチアなどの事例を挙げ、「現代の日本は歴史に学ぶべき」と。