★人質の論理

★人質の論理

   一連のニュースを読み込んでいくと、これまで気づかなかったことが見えてくることがある。今回はとっさにそのタイトルが浮かんだ。「人質の論理」である。

  20日付の新聞各紙によると、北朝鮮が来月に予定された南北離散家族再会行事を取り消し、金剛山面会所の建設を中断すると韓国側に通報してきたという。この韓国と北朝鮮の離散家族の再会は南北の赤十字が窓口になって開催されているが、8月9日-11日、21-23日に予定されていたのを北朝鮮側が一方的に中止すると通告してきたというもの。

  北朝鮮側の中止理由は「南側がコメや肥料など人道的な事業を一方的に拒否した」である。この中止通告には伏線ががある。今月13日に韓国・釜山で開かれた南北北閣僚級会談で、北朝鮮代表団が「韓国の一般国民は金正日総書記の先軍政治の恩恵にあずかっている」と発言し、その代価としてコメ50万㌧の援助を要求した。しかし、この要求に対し、ミサイル発射問題から韓国側がコメの援助を凍結すると回答したのである。今回の南北離散家族再会行事の中止の直接の原因はおそらくこの韓国側の措置に対する主意返しである。

  もちろん、ミサイル発射問題で国連安保理が対北朝鮮決議を採択(15日)、国際的に四面楚歌になっている北朝鮮が「立場をはっきりせよ」と韓国政府に揺さぶりをかけているという見方があっても不思議ではない。20日付の中央日報インターネット版によると、盧武鉉大統領は19日の青瓦台での安保関係閣議で、北朝鮮がミサイルを打ち上げたことについて「状況の実体をこえて過度に対応し不必要な緊張と対決の局面を作っている一部(日本など)の動きは、問題解決にプラスにならない」と述べたといわれる。北側に配慮したコメントである。

  話を元に戻す。離散家族とは言うものの、先日話題になった金英男さんら韓国人拉致被害者も含まれる。拉致をしておきながら、韓国に帰さずに止めておき、韓国から家族を呼び寄せる。これは一体どういうことか。日本でも欧米でも、家族を誘拐されたらあらゆる手段を使って、奪還することを考える。だから、こうした「犯人」の意に沿った「離散家族の再会」などという手法には乗らない。日本人拉致被害者の横田めぐみさんの両親が北朝鮮には行かないのも、これは人質奪還闘争だからだ。

  ところが、今回の離散家族の再会問題にしても、北朝鮮の立場は人質を取った側の論理で、相手の弱みにつけ込んで身代金を要求するのは当たり前と考えている。一方、韓国側も人質を取られた側の弱みで、身代金を払う(コメや肥料の支援事業など)のは当たり前との考え方のようだ。これはまさに犯人側の人質の論理である。

  これに対し、日本は人質奪還の論理だ。日本と韓国の政府の立場は人質奪還闘争を展開するか、しないかの腹のくくり方の違いのように思える。かつて、日本も犯人側の人質の論理にすっぽりはまっていた時期が長らく続いた。「こちらが帰せと騒げば、(北で人質となっている)家族が殺される。それだったら穏便に日本政府としてコメでも援助して、肉親と会えるチャンスをつくってあげよう。それが人道というものだ」との考えだ。その論理で、寺越武志さんと家族の再会が演出された。おそらく森喜朗前総理まではこの発想だったろう。

 ⇒20日(木)夜・金沢の天気   あめ

☆そのニュースでほくそ笑む者

☆そのニュースでほくそ笑む者

 ニュースの陰でほくそ笑む者がいる。パロマ(本社・名古屋市)が販売した瞬間湯沸かし器で一酸化炭素(CO)中毒事故が相次いだ問題で、経済産業省から指摘された17件以外に10件の事故が起こり5人の死亡者が出ていたと、同社は18日になって発表した。判明した事故は合計27件、死者数は20人に上る。

  記者会見したパロマの社長は「経営者としての認識の甘さや社会的責任に関して、本当に申し訳なく思う」と謝罪し、事故が起こる恐れのある7機種について無償で交換すると述べた。この一連のニュースを見ながら高笑いしている電力会社の経営陣の姿が目に浮かぶ。「ガスの連中もこれでお仕舞いだな」と。

  ガスと電力の攻防はすさまじい。都市ガスを供給している金沢市企業局のチラシを見ても、その一端が伺える。それは新築を希望している人に向けたチラシ。要約すると「(企業局が所管している)水道引き込み管工事は42万円、しかし都市ガス引き込み工事とのワンセットなら19万円となりお得です」という触れ込み。ガスを引いてくれれば双方の工事を水道工事費の半分以下に落とす、と。ある種の捨て身の作戦である。

  これに対し、電力会社は住宅メーカーを巻き込んで「オール電化で安全、クリーン」とキャンペーンを張っている。家庭の光熱費をめぐってガスと電力それぞれの関連会社が争奪戦を繰り広げている。今のところ勢いに乗っているのは電力側だ。今回のパロマ事件は会社単体の話ではない。「ガスはやっぱり危ない」との印象が国民に広がり、家庭のガス離れが加速する。ガス業界全体の敗色は濃厚だ。

  では、電力は安泰か。これまで電力会社が独占してきた電気の販売事業が2005年から本格的に自由化された。参入を始めている商社系企業と大口需要のシェア争いに勝つことが電力会社の本命、さらに小口の家庭も「オール電化」によって基盤固めをするのが電力側の戦略だろう。

  しかし、電気は米や水のように産地や生産者によって風味が異なるというものではない。差別化できない分、価格勝負、つまり値下げするしかないのである。安閑としていると隣のエリアの電力会社が攻めてくる。この市場原理を考えれば、どの電力会社もコストを削減し生産効率を上げ、どこよりも低価格を売りにするしかないのである。つまりエンドレスの戦いなのだ。

 ⇒18日(火)夜・金沢の天気  あめ  

★京に見る町家の美学

★京に見る町家の美学

 京都を仕事で訪れた16日は祇園祭の宵山の日だった。先方と待ち合わせた円山公園は、浴衣がけの女性らも繰り出して大勢の人でにぎわっていた。園内にある野外音楽堂では、高石ともや、上条恒彦、永六輔らが出演する「宵々山コンサート」と銘打ったコンサートが午後4時から本番とあって、リハーサルにもかかわらず、上条恒彦のボリューム感のある声が園内に響き渡っていた。人のにぎわいと音で騒然としていた、と表現した方が分かりやすいかもしれない。

  その音楽堂近くの路地の一角の民家にふと目をやると、一瞬、雑踏が遮断されたかのような静寂の世界に入る思いがした。すべての感覚がその光景に集中してしまったのである。民家の玄関入り口は一坪もないほどの庭である。その庭にはジグザグに敷石と波型の瓦の縁を幾何学模様に配してあった。瓦と瓦の間隙には緑色のコケがはえて、これが何ともいえない色彩美を醸し出しているのである。この種の瓦を配した作庭は以前、金沢でも見たことがある。が、京都のそれは時間に馴染んで趣(おもむき)があった。

  心を動かされたのは庭だけではない。屋根もである。かやぶき。京都の市内中心部で初めて見た。かやぶきとこの玄関の庭の絶妙なバランスが周囲にこの民家の風格をにじませているようにも感じる。

 しばし眺めているだけで、この家に住む人びとの美的センスというものを感じさせ、ひょっとしてこの家に京都の美的エッセンスというものが凝縮されているのはないか、と思ったりした。素材にしても、フォルムにしても西洋的なにおいを一切感じさせない、純粋な和の質感。隙のない建築美。それでいて、この屋根の形状からも伺える伸びやかで柔軟なフォルム。この家には和の輝きがある。それはまた、グローバルに通じる美の世界ではないだろうか。

⇒17日(月)朝・大阪の天気  くもり  

☆国論分裂

☆国論分裂

 北朝鮮によるミサイル連続発射(7月5日)の波紋がついにここまできたか、という思いで毎日記事をチェックしている。その状況は、国論分裂と言ってよい。ただし、お隣、韓国のことである。

  韓国の朝鮮日報や中央日報のインターネット版(日本語)には連日、ミサイル関連の記事が大きく扱われている。国論分裂とはマスメディアと、政府ならびに与党であるヨルリン・ウリ党との鋭い意見対立である。まずは、ホットなニュースから。国会統一外交通商委員会・金元雄委員長(ウリ党)は14日、北朝鮮に対し強硬姿勢を示している日本について「日本が核問題とは全く関係のない日本人ら致被害者問題を取りあげ続け、6カ国協議を成功裏に展開させるうえで障害物となっている」とし「(6カ国協議の)当事国としての資格を再検討すべき。日本が抜けるほうがさらに柔らかいだろう」と述べた(中央日報)。さらに、ウリ党議員43人が13日、「日本主導による国連の対北制裁決議案は明白な侵略主義」という声明を発表し、「日本が露骨に軍事大国化を試みている。膨張戦略を中断せよ」と主張した(朝鮮日報)。

 ウリ党議員らは、日本は6カ国協議から外れた方がいい、あるいは、対北制裁決議案は侵略主義と露骨に日本批判を展開しているのだ。ちなみに前述の金元雄議員は拉致被害者の横田めぐみさんの両親に「韓国には、日帝によって強制的に連行された数十万の『めぐみ』がいることを忘れるな」との手紙を送った人物である。

  こうした政府・与党の動きに敏感に反応しているのがマスコミだ。朝鮮日報の14日付のコラムは「・・・(北朝鮮のミサイル発射で)日本政府には北朝鮮への先制攻撃論が巻き起こり、これに対して大統領府は潜伏していた敵をようやく見つけ出したとでも言うかのごとく、戦争も辞さないような姿勢で日本を非難している。すでに北朝鮮のミサイル問題は、韓国と日本の紛争に発展したような様相を呈している。韓国が北朝鮮に代わって日本と争っているようなものだ」と政府の批判の矛先が違うと痛切に批判している。

 この政府・与党とマスコミの意見対立をさらに煽ったのが、釜山で開かれた南北北閣僚級会談。北朝鮮代表団が「韓国の一般国民は金正日総書記の先軍政治の恩恵にあずかっている」として、コメ50万㌧の援助を要求した(13日)。北朝鮮の軍隊が韓国を守っているのだからコメを寄こせと主張したのである。これで韓国世論がハチの巣をつついたような大騒ぎになった。

  韓国以外には向ける国もない射程距離300㌔のスカッド・ミサイルが何の目的で発射されたのかという点を検証せずに、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は6日間沈黙していた。そして、日本の「先制攻撃論」が出てきたタイミングで一気に日本叩きに出たことが裏目に出て、かえってマスコミの批判を浴びることになった。盧大統領は相当の策士なのだろう。が、今回は策を弄しすぎた。

 ⇒14日(金)夜・金沢の天気  はれ

★ステマネの師匠逝く

★ステマネの師匠逝く

  こんな偶然というものが実際にあるのだ、と思った。11日付の朝日新聞の「惜別」のページに6月13日に亡くなった指揮者、岩城宏之さん(享年73歳)を追悼する署名記事が載っていた。「…音楽界を常に驚かせ、皆に愛され続けた希代の『ガキ大将』らしく、命がけで、自らの音楽人生にけじめをつけようとしているかのように見えた。」と。この記事を書いた吉田純子記者は、2004年12月31日にベートーベンの全交響曲を独りで振り切るという岩城さんの壮大なプランが持ち上がったとき、何度か朝日新聞東京本社に出向いて、番組化について相談させていただいた人だ。

   ところで、「こんな偶然」というのは、同じ11日付の北陸中日新聞に、「延命千之助氏 死去」の死亡記事が掲載されていたことだ。2人を知る人ならば、「延命さんは岩城さんを追いかけたのかも知れない」と言うに違いない。延命さんは石川県旧鹿島町(現・中能登町)の出身で、慶応大学文学部西洋美術美学科を卒業、音楽雑誌の編集部を経て、NHK交響楽団の演奏担当マネジャーを務めた。長男だったので父親の後を継ぐため54歳で故郷に戻った。

 岩城さんは延命さんのことを、「世界一の感じのステージマネージャー」と著書「オーケストラの職人たち」(文春文庫)で絶賛している。そして何よりも、オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の設立に奔走し、岩城さんをOEKの音楽監督に招いたのは延命さんだった。私は延命氏と直接の面識はなかったが、岩城さんから「延命さんが(石川県に)いたから金沢にきたんだ」と何度か聞かされたことがある。上記の延命さんのプロフィルも岩城さんから聞いていた。

  80歳。死亡記事によると、いまでもOEKのアドバイザーとして、時折り若手の団員を指導していて、「ステージマネージャーの師匠のような存在だった」。この業界ではステージマネージャーをステマネと呼んだりする。たいぐい希なるマエストロとステマネは同時に逝った。

 ⇒12日(水)午前・金沢の天気  あめ

☆イタリア優勝と視聴率

☆イタリア優勝と視聴率

 サッカーのワールドカップ(W杯)ドイツ大会を制したイタリア代表の選手団が日本時間11日未明に帰国し、ローマで優勝パレードが行われた。24年ぶりのW杯勝者となった英雄たちをたたえようとおよそ100万人が沿道や屋外の競技場に集まった、と新聞各紙が報じている。政府主催の祝賀パーティーで、プロディ首相は「努力と汗で目的が達成されることを若者たちに教えてくれてありがとう」と選手たちに感謝を表した。

  イタリアは今回で4度目の優勝である。まさにサッカー王国なのだ。そう言えば、ことし1月にローマ、フィレンツェ、ミラノを訪れた際も、街角にサッカーのCMのポスターが目立った。ごらんの写真は、ミケランジェロの「アダムの創造」をモチーフにしたポスターである。こんなポスターがあちこちに貼られていて、サッカ-が街の中に溶け込んでいるという印象だった。

 日本の話である。10日早朝にフジテレビ系で生中継された決勝戦「イタリア対フランス」の視聴率は延長戦開始前までは平均11.6%、延長戦以降の平均視聴率(関東地区)が16.6%だった(ビデオリサーチ社調べ)。この数字をどう評価するか。NHKが6月23日早朝に生中継した日本ブラジル戦は22.8%(関東地区)だった。実は、この数字は意味深い。この数字を04年8月13日未明から早朝に行われたアテネ五輪開会式の中継と比べると、その視聴率は12.7%(NHK、関東地区)だったので、少なくとも平均してオリンピック並みに視聴率が取れたわけだ。しかも日本チームが出場していない試合である。

 松井秀喜選手やイチロー選手がアメリカ大リーグに移籍してから、アメリカの野球をテレビで観戦する大リーグファンが増えた。同様に、サッカーの醍醐味を楽しむという習慣が日本人に定着してきた、ということなのだろう。未明から早朝の10数%というのは、相当の覚悟と意欲がないと視聴できない時間帯だけに、ゴールデンタイム(19時-22時)の数字より価値がある。その数字は、単なる視聴率というより、意識調査のようなものだ。「あなたは寝不足を覚悟でサッカーW杯をテレビ観戦しますか」…YES16.6%。

⇒11日(火)午後・金沢の天気  あめ

★昆虫をスキャンする

★昆虫をスキャンする

 夏といえば昆虫の季節である。金沢大学「角間の里山自然学校」の研究スタッフが、「すごいことできますよ」と見せてくれたのが昆虫写真。ご覧の通り、クワガタの裏と表がくっきりと写っている。まるで、図鑑のようである。さぞかし特殊なカメラ(スリットカメラなど)でと思ったがそうではない。これがなんと、市販のスキャナで撮った画像なのだ。

  スキャナなのでフタをするが、直に載せると虫が潰れてしまうので、フタとガラス面の間に薄手の雑誌など挟んで隙間をつくる。1㌢ほどの大きさならば十分に足の毛まで写るのである。小さなものをこうして撮影できるとなると格段に昆虫への理解も深まる。研究スタッフはさっそく「子どもたちの学習プログラムに取り入れましょう」と意欲満々である。

  電子レンジでつくる「押し花」にも目を見張ったが、スキャナにもこんな得意技があったとは正直驚きである。偶然発見したのではない。ネタ本がある。「養老孟司のデジタル昆虫図鑑」(日経BP社)である。この本では、養老氏がこの撮影方法を作家の山根一眞氏から教わったことを述べている。ひょっとして、「デジタル昆虫撮影」はこの夏のブームになるかもしれない。

  これだとお気に入りの昆虫標本をスキャナで撮って、A1サイズで拡大して研究室や部屋に飾っても、随分と癒されるかもしれない。こうなるデジタルアートと言えるかもしれない。

 ⇒10日(月)夜・金沢の天気  はれ

☆JanJanからの手紙

☆JanJanからの手紙

 きょう8日、出張から帰宅すると、「日本インターネット新聞社」から封書が届いていた。「何だろうインターネット新聞社って。まさか架空請求書じゃないだろうな」と少々疑念を持ちながら封を切った。すると「編集委員選賞」の受賞のお知らせと図書カード(1000円分)=写真=が同封されていた。これで日本インターネット新聞社はインターネット新聞サイト「JanJan」を運営する会社だったことに気づいた。

  JanJanにはたまに投稿している。私が勤める金沢大学のイベントや、地域の話題など。今回、編集委員選賞に選ばれたのは6月14日に投稿した「マエストロ岩城の死を悼む」である。選ばれた理由は、記事の内容より、むしろタイムリーに投稿したためではなかったかと考えている。指揮者・岩城宏之さんの死去は13日、投稿は翌日だった。

  ところで、インターネット新聞といえば、日本ではJanJanが独走している。ここにきて強力なライバルが出現した。韓国で大きな影響力を持つインターネット新聞「オーマイニュース」の日本版が8月下旬にも立ち上がる。5月の記者発表で、編集長には元毎日新聞記者でジャーナリストの鳥越俊太郎氏が就任することが明らかに。さらに、日本語版を発行する現地法人のオーマイニュース・インターナショナル(東京)は、70%を韓国のオーマイニュース、30%をソフトバンクが出資している。ソフトバンクという強力なバックが存在するのだ。

  そのライバル出現をかなり意識してか、今回届いた封書には、「ぜひご参加ください」と呼びかけるパンフレットも同封されていた。同社の会社概要によれば、代表取締役は竹内謙氏(前鎌倉市長、元朝日新聞編集員)。ソフト開発大手の「富士ソフト」会長で創業者の野沢宏氏が取締役に、同じく取締役に岩見隆夫氏(毎日新聞社特別顧問)らが名を連ねる。

  競争はよい意味でお互いのレベルを高める。図書カードをもらったからではないが、エールを送りたい。

⇒8日(土)夜・金沢の天気  あめ

★続・天を仰いで唾する…

★続・天を仰いで唾する…

 北朝鮮のミサイル発射が韓国でも相当、論議をよんでいるようだ。中には、「北」擁護の声を紹介している韓国紙もある。日本では見受けられない貴重な内容だ。以下、6日付の中央日報インターネット版(日本語)から引用する。

 ・・・「盧武鉉を愛する人々の会」の掲示板には「今回のミサイル発射実験は強大国間で犠牲になった不遇な民族歴史の憂憤を晴らす発射だった」という解釈もある。 この文に関連し「北朝鮮の(ミサイル)発射はそれほど責めることではない。政府の立場としては止むを得ないが、われわれは拍手を送るべき」という意見もあった。・・・

 上記は盧武鉉大統領支持派のインターネット掲示板の内容紹介であり、新聞社の論調ではない。ただ、ミサイル発射の対応について、小泉総理が主宰する国家安全保障会議が開かれたのは5日午前7時30分だったのに比べ、盧大統領が主宰する安保長官会議が開かれたのは同午前11時だった。この3時間半のタイムラグをめぐり、日ごろから「北」擁護の論陣を張っている盧大統領についてさまざな憶測を呼んでいる。たとえば、ミサイル発射と排他的経済水域(EEZ)での調査が同じ日だったことから、「盧大統領はミサイル発射の日を予め知っていて、調査船を竹島沖に向わせた。つまり南北合作の陽動作戦じゃないのか」といった疑念が日本側でもくすぶっているのだ。

  話は変わる。今回の北のミサイル発射でマスメディアでの露出が格段に多くなったのが安倍晋三官房長官だ。安倍氏は5日午前4時30分ごろ、首相官邸に一番乗りだった。内閣のスポークスマンとしてこの日は4回の記者会見に臨み、北を強く批判する声明を発表した。その毅然とした物言いの映像や、口をヘの字に閉ざした写真がマスメディアに頻繁に登場することになる。マスメディアが番組や紙面で緊張感を演出するには「安倍」は欠かせない素材となっているのである。

  言いたいことは一つ。自民党は5日の党総裁選管理委で、小泉総理の任期満了に伴う総裁選を「9月8日告示、20日投票」と決めた。告示まであと2カ月。ミサイル発射の衝撃は今後、国連安保理での北朝鮮非難決議の採択や経済制裁などをめぐり2カ月は持つだろう。ということは、総裁選レースは安倍氏がこのまま走り込んでゴールとなる。10月上旬には首班指名選挙、続く組閣と政治日程は組み立てられていく。

 ⇒6日(木)夜・金沢の天気  くもり

☆天を仰いで唾するのたとえ

☆天を仰いで唾するのたとえ

  誰がどう見ても、常識的に考えても、この2つの行為はおかしい。北朝鮮によるミサイル発射と、日本が主張する排他的経済水域(EEZ)での韓国の一方的な海洋調査のことである。きょう帰途のバスの中で、私の前の席に座っていた会社員らしき2人の男が交わしていた会話の中で、「南北(韓国と北朝鮮)共同の宣戦布告みたいなもんやろ」という言葉もあった。こうした「車内の声」は意外と世論なのである。

   この2つの行為が連動していないにしても、また意図がどうであろうと韓国が北朝鮮と同等だとみなされたことは韓国にとって大きなダメージだろう。先にこの「自在コラム」で韓国の土地バブルが崩壊寸前だと書いた。この動向はすでに日韓の懸案になっていて、ことし2月の日韓財務長官会議で、韓国に通貨危機が発生すれば日本が100億㌦を、日本に危機が生じれば韓国が50億㌦を支援することに合意している。 支援は、通貨危機にある相手国の通貨をドルに換える形式(通貨スワップ)で行われる。双方の危機に対応するというかたちをとっているが、実質的に韓国のデフォルト(破綻)に対する救済策なのである。しかし、今回の北朝鮮によるミサイル発射を受け、政府が新たな制裁措置を行う過程で南北の2つの行為が連動していたものとなれば、この100億㌦の合意は当然、ご破算だろう。

   しかも、北朝鮮はきょう5日未明の午前3時から8時かけての6発で国際世論が沸き立ったにもかかわらず、夕方午後5時20分にも中距離ミサイル1発を追加で発射している。国連安保理が日本時間の午後11時から緊急会合を開くと決めた以降もこうしてミサイルを発射し続けているのである。天を仰いで唾(つば)するとはこのことだろう。

    北朝鮮が巧妙だったは、アメリカの最大の祝祭日である独立記念日に「派手な花火」を打ち上げたことだ。 アメリカ時間の4日午後2時38分、フロリダのケープカナベラル基地から7人のクルーを載せた宇宙船「ディスカバリー号」が飛び立った。北朝鮮の最初のミサイル発射はアメリカ時間で午後2時32分だった。つまり、北朝鮮はディスカバリー号打ち上げ6分前に最初のミサイルを発射したのだ。これは意図的なものか、偶然か。アメリカがショックを受けているのはこの事実なのである。

  それにしても滑稽なことがある。このタイミングで共同通信など日本のマスメディアが北朝鮮を訪れている。きょう5日、横田めぐみさんら拉致被害者が一時居住していたとされる平壌市郊外の2カ所の招待所や、めぐみさんの「遺骨」を焼いたとする火葬場を見学した。真実が語られることのない北朝鮮で何を見ても聞いても果たして取材に値するのだろうか。北朝鮮がお膳立てした現場で撮ったものを、これがめぐみさんを焼いた火葬場の写真であると掲載しても、日本の読者は信じるだろうか。「さっさと戻って来い」。私ならそのひと言である。

 ⇒5日(水)夜・金沢の天気  あめ