☆GIAHS国際会議その後‐1

☆GIAHS国際会議その後‐1

世界農業遺産国際会議(5月29日-6月1日)を終えてから10日余り、これまで2度、世界農業遺産(GIAHS)に関して講義をする機会に恵まれた。きょう12日午後、アメリカのプリンストン大学の学生らが石川県に滞在して日本語と日本の文化について学ぶ「PII(Princeton in Ishikawa)」プログラムの講義があった。学生はプリンストン大やハーバード大など16大学の50人、それに金沢大学の学生65人が加わり、大教室での講義となった=写真=。

      世界農業遺産、アメリカの学生からの質問

 講義(90分)のテーマは「Noto’s Satoyama Satoumi~Omnibus consideration ~」。言葉は日本語で、文字表記と資料は英語、あるいは英語と日本語の両表記にした。歴史や文化、そして現代まで遡って講義をするとなると、いくら日本語研修とはいえ、学生たちには理解できなだろうと思い、そのようにせてもらった。講義は次のような流れで話した。

 2011年6月、能登の里山里海は国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産(GIAHS=世界重要農業資産システム)に認定された。持続可能な、未来へと続く、里山里海での人々の生き方が高く評価されたからだ。自然と調和することの意味は、たとえば生物多様性に配慮して農業や漁業を営むことだ。そして伝統文化では、自然からの恵みに感謝する儀式がある、と前置きして、輪島の海女漁、ユネスコの無形文化遺産に登録された農耕儀礼「あえのこと」、そして、生物多様性条約事務局長、アフメド・ジョグラフ氏が2008年9月に能登を視察に訪れたときのエピドーソを紹介した。

 能登の祭りのルーツともいわれるユネスコ無形文化遺産「あえのこと」は目の不自由な「田の神様」を丁寧にもてなす農耕儀礼である。これは視覚障がい者にどのように手を差しのべればよりよい「もてなし」が可能か、家々の人が自らのイメジネーションを膨らませて考えるエアー・パフォーマンスである。その精神はユニバーサル・サービスでもある。こうした「もてなし」の風土や精神は「能登はやさしや土までも」といわれる能登の風土をつくった。そのもてなしはアニュアル化されたものではなく、ホスピタリティ(癒し)である。

 ジョグラフ氏は自らカメラを構えて、能登の風景を撮影し、土地の人々の話に耳を傾け、「自然と人、農業、文化、宗教が共生していることに感動した」「そこには人々の努力があることを実感した」と感想を述べたことを話した。こうした、能登の農村漁村の自然と調和し恵みに感謝する精神性、農耕儀礼などの伝統文化、そして2000年続いた農業漁業には、その営みを持続可能にする人々の伝統知や知恵があり、それをベースに地域社会を弛まず保全していけば、未来への可能性が広がる。それをGIAHSでは「Dynamic Conservation(動的保全)」と呼んでいる。

 学生からは以下の質問があった。「GIAHSという言葉はアメリカでは聞いたこともない」。この質問には以下のように答えた。GIAHSはFAO(国連食糧農業機関)が提唱しているアジア、アフリカ、そして中南米のムーブメントで現在25ヵ所の認定サイトがある。200の候補地があるとFAOでは説明している。2011年に日本のサイト(能登と佐渡)が先進国として初めて認定された。FAOの候補地にはスペインのエべリコ豚やイタリアのソレント半島のレモン園、アメリカのカリフォルニアのパナ・バレーの有機ワインも入っている。いずれ、このムーブメントは欧米にも広がる。単なる農業というより、文明というものを示唆するムーブメントである。

 もう一つ。「日本も交渉に参加するTPP(Trans-Pacific Partnership、環太平洋戦略的経済連携協定)では、能登の農林漁業にどのような影響が考えられるのか」。この質問には以下のように返答した。GIAHSサイトの農業のほとんどは小農、家族経営であり、その意味では生産効率の高いアメリカやオーストラリアの大規模農業とは農業形態がまったく異なる。しかし、GIAHSでは価格競争力ではなく、付加価値の高いブランド農産品を目指していて、たとえば能登の稲作では「能登米」「能登棚田米」としてブランド化を図っている。TPPのような農産品のグローバル取引の到来がむしろ世界農業遺産(GIAHS)の評価を押し上げていくのではないだろうか。

 後で聞いた話だが、2人目の鋭い質問をした男子学生はハーバード大学からの研修生だった。

⇒12日(水)夜・金沢の天気    はれ

★GIAHS国際会議の価値‐4

★GIAHS国際会議の価値‐4

  世界農業遺産国際会議の2日目の5月30日午前、政府代表者らがGIAHSの活用法をテーマに「ハイレベルセッション」=写真・上=が開かれた。その中で、農林水産省の角田豊審議官が注目すべきことをいくつか述べた。一つは、「日本独自の認定基準づくりを検討する」と述べたことだ。

          日本独自の「農業遺産」創設に期待、中国は先行

  FAOのGIAHS認定の基準(食料と生計の保障、生物多様性と生態系機能、知識システムと適応技術など)があるが、それぞれの国で農林水産漁業の事情は異なる。日本の場合、稲作だけでなく、ため池や森林利用などもあり、さらに祭りなどの文化もあり農業の多様性は豊か。日本の村落の農業そのものが世界農業遺産と称してよいくらいだ。おそらく公募すれば、全国から手が上がるだろう。そこで、国内農業の特長や文化、生物多様性の取り組みなどを明確化するために基準が必要となる。もちろん、「世界農業遺産」の考えを広めることにもなる。つまり「日本農業遺産」創設という展開になるのかどうか、期待したいところだ。

  実は、この取り組みでは中国は先行している。独自にNIAHS(National Important Agricultural Heritage Systems)を創設して、特徴ある農業をピックアップして、GIAHSに推薦している。これまでのハニ族の棚田、アオハンの乾燥地農業、トン族の稲作・養魚・養鴨、プーアルの伝統的茶農業、青田県の水田養魚、万年の伝統稲作、それに今回、会稽山の古代中国のトレヤ(カヤの木)、宣化のブドウ栽培の都市農業を新たに加え、8サイトにかさ上げした。中国農業省と中国科学院がタッグを組んで、システマチックにFAOに申請しているのだ。

  もう一つ、角田審議官のコメントで、今年度からFAOに対し信託基金を拠出する方針を明らかにした。使途を「GIAHS推進」に限定し、その額を3000万円程度と述べた。日本政府として、GIAHSに関与していくことを国際会議の場で発表した、ともいえる。

  日本がGIAHSの普及に関与するは実にタイムリーだ。とうのも、5サイトがある日本ですら「GIAHS」「世界農業遺産」といっても、ほとんど知られていないだろう。世界でも欧米での認定サイトはこれからだ。「日本農業遺産」の創設と併せて、個々のサイトのブランド(名品)ではなくトレンド(流れ)をつくる必要が、国内的にも国際的にもあるだろう。

  日本のサイト(GIAHS登録地)、特に能登は中国など他国と比べて、高齢化や過疎化が進行している。それの伝統的な農業、GIAHSを未来に伝えていくためには地域の努力では限界がある。新しい参入者、顔ぶれが必要だ。そのためには、都市からの移住者、CSRに熱心な企業やNPO法人、サポーター(都市住民)など多様な支援を得なければ、GIAHSのベースとなる農林漁業は守れないだろう。

  世界農業遺産(GIAHS)が歩んでいる道は一つだ。地域に根ざした高品質の農産物を多種にわたって育て、高い付加価値をつけて市場に出すことだ。徹底的に企業化して、低コストの農産品を市場に出して海外の産品とわたり合うことではない。そうなれば、地域性や伝統文化、生物多様性が失われることは自明の理だ。GIAHSの理念をアピールして、新しい参入者の心を引き、賛同を得ることだ。そのチャンスがようやくめぐってきた。今回の国際会議ではそれを国際公約とした確認したのだ(能登コミュニケ)。

  同日午後の全体セッション。テーマは「GIAHSの未来に向けて」。GIAHS基金代表のパルヴィス・クーハフカン氏は、2013年にGIAHSの枠組みを伝える「大使」を養成する考えを打ち上げた。クーハフカン氏から「大使」の言葉を聞くのは2度目だった。ことし2月20日、能登半島・珠洲市で国際GIAHSセミナー(主催:能登キャンパス構想推進協議会)を開催し、クーハフカン氏を招いて能登の若手農業者と対話集会を開いた。その折、最後のコメントでこう述べた。「皆さん一人ひとりお願いがあります。どこへ行こうとも、里山やGIAHSの大使になっていただきたい。GIAHSの概念的な枠組みを自分の環境に持ち込み、ビジネスに適用してください。もちろん政治家、政策決定者の皆さんも、子供たちや若い世代が、このような持続可能な暮らしや持続可能な発展の枠組みについて実際に考えるよう促してください」と。このとき、私は「大使」より「伝道者」の方が意味的に近いと思ったが、宗教と間違えられて困るので、国際的には「GIAHS大使」、これでよいのかもしれない。

※写真(下)は、5月30日、世界農業遺産国際会議のレセプションで、能登の「里山マイスター」ら若手の農業者と、パルヴィス・クーハフカン氏が再会しての記念撮影。このなから「能登のGIAHS大使」が生まれるかもしれない。

⇒2日(日)朝・金沢の天気    はれ

☆GIAHS国際会議の価値-3

☆GIAHS国際会議の価値-3

  今回の世界農業遺産国際会議の価値というのはどこのあるのだろうか。一つは、31日の閉会式で挨拶した国連食糧農業機関(FAO)のクレイトン・カンパンホーラ土地・水資源部長が評価したように、世界11ヵ国19あるGIAHSサイトで、今回初めて国際会議が開催されたことだろう。これまで3回の国際会議は、2007年がローマ、09年がブエノスアイレス、11年が北京だった。

      能登コミュニケから読み解く、日本にかかる期待

  このことは、GIAHSサイトが有する「交流価値」を広げたことになるだろう。もちろん、能登で開催できたのは、農林水産省や石川県などが予算的、人的にバックアップしてのことだが、他国のGIAHSサイトでは伝統的な村落の集合体のようなところであり、国際会議を開催しようにも施設の収容力などの点で難しいだろう。ところが今回、首都に出向くのではなく、サイトで集まるという状況が能登で設定できたのである。採択されたコミュニケではそのことが盛り込まれた。「日本の石川県能登地域で開催された今回の世界農業遺産国際会議は、先進国での、またGIAHS認定サイトでの開催となった初の世界農業遺産国際会議であることに留意する(原文:Note further that the this Forum held in Noto region, Ishikawa Prefecture, 」apan, is the first GlAHS international Forum to take place at a GIAHS designated site in a developed country)」。さらに、この交流価値を結びつきの場として活かすべきだと、以下の勧告がなされた。「先進国と発展途上国の間のGIAHSサイトの結びつきを促進すること(原文:Promote the twinning of GIAHS sites between developed and developing countries)」

  カンパンホーラ部長は上記コミュニケで先進国と途上国の連携を促した意義を述べ、「GIAHSを通じて先進国、途上国の間でつながりをつくり、情報と成功事例を共有することで、GIAHSの経験を世界に広げてほしい」と強調した。簡単に言えば、国際会議を開くことができる先進国(日本)のサイトは、他国の途上国のサイトと連携して、GIAHSの価値を世界に広めてほしい、それが先進国のサイトの役割であると期待されたのだ。

  カンパンホーラ部長はなぜこのように思ったのか。会議開催もその理由の一つだが、29日に候補地としてプレゼンテーションを行った、熊本県、静岡県、大分県のそれぞれの知事、地域の代表が行ったスピーチ(英語)は迫力があった。熊本などは、それこそオリンピック候補地として名乗りを上げたかのように、地域(阿蘇)を上手に売り込み、GIAHSの未来可能性を説得した。これを聞けば、「ぜひ情報と成功事例を共有して、途上国のGIAHSへのモチベーションも高めてほしい」と思うに違いない。

  GIAHS基金代表のパルヴィス・クーハフカン氏(GIAHS事務局長)=写真=は講演でこう述べた。「FAOではGIAHS認定にふさわしい伝統的な農業システムとして世界中で200 ほど特定し、そのうち19 のシステムを認定した。しかし、開発が進んで農作業が一律化し、その貴重なシステムがあっという間に消えることもある」、「私たちは、GIAHSにふさわしいシステムを見つけたら、基本的に三つのレベルで調整作業を行います。まずグローバルなレベルでシステムを認定します。国レベルでは動的保全のための発展政策を策定します。ローカル・レベルでは、人々に力を与え、これらのシステムが発展し、維持されるようにして、エコラベル、エコツーリズムなどで多様化を図ります。グローバル・レベル、国レベル、ローカル・レベルでこれらの活動をつなぐのです」、「GIAHSは過去にまつわるものではなく、将来を見据えたものです。ごくわずかな農場を博物館に保存しようというのではありません。将来性のある農業をいかに発展させていくかということを問題にしています」(2月19日・能登で開催した国際GIAHSセミナーで)

  これは個人的な解釈だが、両氏のコメントはこのように聞こえる。伝統的な農業システムというのは世界どこでも「絶滅危惧種」化しつつある。これを守り、未来のつなげることは持続可能社会を世界に提示する上でも重要だ。しかし、これはFAOが単独できることでもない。日本のような先進国のチカラを借りたい。日本ならば独自で国際会議やネットワークづくりができる。カンパンホーラ部長、クーハフカンGIAHS事務局長からそのような、叫びにも似た声が聞こえる。

⇒1日(土)朝・金沢の天気    はれ  

★GIAHS国際会議の価値-2

★GIAHS国際会議の価値-2

  新しくGIAHSサイトとして認定されたのは、「静岡の茶草場農法」(静岡県掛川市など)、「阿蘇の草原と持続的農業」(熊本県)、「国東(くにさき)半島宇佐の農林漁業循環システム」(大分県)、「会稽山の古代中国のトレヤ(カヤの木)」(中国・浙江省紹興市)、「宣化のブドウ栽培の都市農業遺産」(中国・河北省張家口市)、「海抜以下でのクッタナド農業システム」(インド・ケララ州)の6つ。

       「能登コミュニケ」でGIAHSの発信力を高める

  きょう30日午前は、政府関係者や国際機関幹部らが協議する、GIAHSでは初の「ハイレベルセッション」が20ヵ国から出席して行われた。角田豊農林水産省大臣官房審議官は、日本政府が今年度、世界農業遺産プロジェクトに初めて3000万円を資金協力するとし、GIAHSの理念に合致した地域は農業遺産に認定されるように支援する考えを示した。このために、認定地域を評価・観察し、日本独自の認定基準づくりを検討したいと話した。この後、認証式が行われた=写真=。

  能登コミュニケ(共同声明)が発表され、世界農業遺産の認定サイトで初めて開かれた国際会議であることに意義があるとした上で、先進国と発展途上国の結びつきを促進するなどの5項目が採択された。世界農業遺産国際会議(GIAHS国際フォーラム)の開催は、2007年がローマ、2009年がブエノスアイレス、2011年が北京だったので、国際フォーラムの認定サイトでの開催は確かに意義がある。冒頭であいさつに立ったジョゼ・グラツィアーノ・ダ・シルバFAO事務局長、加治屋義人農林水産副大臣もその点を強調した。GIAHSはまだまだ国際認知度が低い、先進国のGIAHSの役割はこれを世界に発信することだ、と。能登コミュニケ(原文英語)は以下の通り。

<世界農業遺産システムに関する能登コミュニケ>
我々、すなわちアフリカ、アジア及び南米の各国政府や地方政府、国際機関、市民社会、その他を代表し、石川での世界農業遺産国際会議に集まった参加者は、
a)持続可能な世界に向けた農業遺産の貢献に関して自由に意見交換し、議論を行う機会を歓迎する。
b) 食料安全保障、地域の雇用及び天然資源の保全を提供し、生物多様性や生態系から提供されるモノおよびサービスの供給を維持し、気候変動への適応を強化する点において、小農、家族農業者及び伝統的な農村社会の重要性を認識する。
c)急速に変化する世界における持続可能性のペンチマークとして、また、地域社会が自らの資産を持続的に管理するためのコミットメントの指標として、農業遺産システムの重要性を認識する。
d)2002年から世界の農業遺産システムを動的に保全し、GIAHSサイトの特定、支援、認定及び保護を推進し支援しているFAOとそのパートナーの努力に留意する。
e)農業遺産の保全への政策支援および投資を促進するための官民連携を拡大する必要性を強調する。
f)GIAHSに含まれる生物多様性の固有の価値を確認するとともに、生態的、社会的、経済的、文化的及び美観的価値とそれらが生態系や生計を維持する上で果たす重大な役割を確認する。
g)先住民や地域社会の伝統的な知識、革新および実践が、持続可能な開発に重要な貢献をしていることを認識する。
h)さらに、日本の石川県能登地域で開催された今回の世界農業遺産国際会議は、先進国での、またGIAHS認定サイトでの開催となった初の世界農業遺産国際会議であることに留意する。
i)2012年の第67回国連総会(※脚注)第2委員会を含め、GIAHSの概念は国際会議でも広く認知されていることを認める。
j)GIAHSは、農業の生物多様性の保全と持続可能な利用のための革新的な手段として生物多様性条約第10回締約国会議で認知され、愛知ターゲットに言及されたことに留意する。
k)FAO、政府および国際社会による保全や開発の取組を今後も維持するため、強固な体制を確立する必要性を認識する。
l)Rio+20会合の「私たちが望む未来」で規定された、持続可能な開発目標(SGDs)や、より幅広いポスト2015開発アジエンダを達成するため、GIAHSの重要性を強調する。
m) 経済、社会、環境の側面を統合し、それらの関係性を認識しつつ、あらゆる局面において持続可能な開発を達成するために、あらゆるレペルでGIAHSの主流化が必要であることを認める。GIAHSは、家族農業者、先住民および地域社会における人間の基本的な福祉を支える極めて重要な要素の結果であり、今後の発展に向けた機会である。
n)農村地域を活性化し、持続可能な開発についての目標を達成するため、FAO総会、国際機関、民間セクターおよびその他関係者に対し、農業遺産やGIAHSイニシアティブへの支援を勧告する。
o)GIAHSサイトをさらに認定するため、また、持続可能性の現存のモデルとして動的にその保全を拡大していくため、人的および政治的資源を動員することをコミットする。
p)全ての政府および関係者に対し、農業遺産システムを支援し守るよう要請する。
q)全ての政府に対し、現在のGIAHSの枠組みを支持し、そしてFAOの事業予算計画において必要なリソースを配分することを要請する。

以上を考慮し、この会議は以下を勧告する。
 1.GIAHS認定サイトでは、定期的なモニタリングが行われ、その活力が維持されるべきである。
 2.農業遺産の保全や、世界の食料安全保障および経済発展への貢献を促進するため、さらにGIAHSサイトを漸進的に認定すること。
 3.特に開発途上国において、、現場での事業および取組を促進することにより、GIAHSを動的に保全すること。
 4.既存のGIAHSは、開発途上国におけるGIAHS候補地が認定されるよう支援すること。
 5.先進国と開発途上国の間のGIAHSサイトの結びつきを促進すること。

※脚注・第67回国連総会第2委員会「議題26:農業開発と食料安全保障』決議文書

  午後からは中国、チリ、ペルーの政府関係者や国際機関幹部ら30人がエクスカーションが行われた。輪島市三井町市ノ坂は典型的な能登の村落。。田植えを終え、周囲にはカエルの鳴き声が響く現地で、伝統文化を継承し、生物多様性と環境配慮型農業を実践している若者グループ「まるやま組」の取り組みが紹介された。雑穀クッキーの振る舞いや、土地の生態系を描いた小学校の子どもたちの手作りの地図が配られ、その取り組みの広がり、きめ細やかな視察対応に参加者から高い評価の声が聴かれた。

⇒30日(木)夜・七尾市の天気   はれ

 

☆GIAHS国際会議の価値‐1

☆GIAHS国際会議の価値‐1

  きょう29日、石川県七尾市和倉温泉の「あえの風」で世界農業遺産国際会議(GIAHS国際フォーラム)が開幕した。GIAHS関係の11ヵ国19サイトの関係者が集まる国際会議。午前9時に開会式が始まり、午前中は新たな候補地サイトによるプレゼンテーションが行われた。

 日本の新サイトに阿蘇カルデラ農業、掛川の茶草場、国東のシイタケ栽培

  発表順に、日本の熊本県の「阿蘇の草原と持続可能な農業(Managing Aso Grasslands for Sustainable Agriculture)」、静岡県の「静岡の茶草場農法(Traditional tea (Chagusaba) of Shizuoka)」、中国の「会稽山の古代中国のトレヤ(Kuaijishan Ancient Chinese Toreya)」、中国の「宣化のブドウ栽培の都市農業遺産(Urban Agricultural Heritage of Xuanhua Grape Gardens)」、インドの「海抜以下でのクッタナド農業システム(Kuttanad Below Sea Level Farming System)」、イランの「カナード灌漑システム(Qanat Irrigation System)、最後が日本の大分県の「国東半島宇佐の農林漁業循環システム(Kunisaki Peninsula Usa Integrated Forestry, Agriculture and Fisheries System)」の7つの地域。

  日本の3候補地を簡単に説明すると、熊本県の阿蘇地域(7市町村)は野焼きや放牧などで草原を維持管理する農法、静岡県掛川市など5市町の「静岡の茶草場農法」は秋から冬にススキやササを刈り取り、有機肥料などに活用するもの。大分県の国東半島宇佐地域(6市町村)はクヌギ林とため池群の管理により維持されているシイタケ栽培などに活かす。3候補地のプレゼンでは、熊本県は蒲島郁夫知事、静岡県は川勝平太知事、大分県は広瀬勝貞知事がそれぞれ英語で説明するなど力の入ったプレゼンだ。とくに、川勝知事は自身が再選を目指して立候補する県知事選があす30日告示にもかかわらずの能登入りだ。

  プレゼンが終わり、川勝知事は結果を聞かずに静岡に戻られた。プレゼンの後、GIAHSの運営委員会・科学委員会が開催されて、候補地を認定するかどうかが話し合われた。結論から言うと、イランの案件は科学的なデータなどが不ぞろいで認定されず、他は採択となった。つまり、今回は日本の3サイト、中国の2サイト、インドの1サイトが新たに認定されることになる。認定式はあす30日午前中に執り行われる。

  FAOは2002年から、環境保全に配慮した特色ある農業を実践している地域を世界農業遺産に認定している。国内では、能登半島の「能登の里山里海」、佐渡市の「トキと共生する佐渡の里山」が2011年に認定されており、日本のサイトはこれで5サイトとなる。
  
⇒29日(水)午後・七尾市和倉温泉の天気   あめ    

★GIAHS国際会議の視座‐6

★GIAHS国際会議の視座‐6

伝統的な農法や景観を有し、多様な生物を抱える地域を「世界農業遺産(GIAHS)」として認定する、国連食糧農業機関(FAO)主催の世界農業遺産国際会議(GIAHS国際フォーラム)があす29日から、石川県七尾市を会場に開催される。それを前に、サブイベントが連日、金沢市で開催された。

     認知度が低いGIAHS、アジアから発信を

  27日午後から金沢大学では、日本の里山里海を保全し、持続的発展を目指す「国際GIAHSセミナー」が開催され、生態学や文化人類学の研究者、自治体、NPO法人の職員ら60人が研究発表や討論に耳を傾けた。国際会議が開かれるのを前に研究者の連携を広げようと同大学里山里海プロジェクト(代表・中村浩二特任教授)が主催した。中村教授は、GIAHS事務局の科学委員会の委員でもある。趣旨説明に立った中村教授は「GIAHSの国際評価を活かした持続的な発展のために、研究者が何をなしうるのか考え、支援につなげたい」と述べた。

  GIAHSサイトを持続可能にカタチで未来にわたって展開するためには、科学的な評価が必要となる。そのために大学など研究機関とGIAHSサイトがどのように関わり、データが整理されているか、選定の際の評価基準として重視されている。具体的に言えば、FAOの認定基準は、1)食料と生計の保障、2)生物多様性と生態系機能、3)知識システムと適応技術、4)文化、価値観、社会組織 (農-文化)、5)優れた景観と土地・水資源の管理の特徴‐などである。これらが、申請段階で提示されているか、それが科学的な根拠に基づくものかという点である。「生き物がたくさんいる」という表現でははなく、「○○大学の調査によると、この地域に生息する動植物は○○種におよび…」という文章表現で申請されているかである。
  
  セミナーでは、金沢大学のほか国連大学や新潟大学、宇都宮大学、石川県立大学、東京農業大学など6つの研究機関から13人が研究発表した。中でも、「能登GIAHSにおける地域住民と協働による自然環境調査」(柳井清治・石川県立大学教授)、「能登GIAHSと人材養成」(小路晋作・金沢大学博士研究員)、「文化資源学とGIAHS」(野澤豊一・金沢大学特任助教)、「佐渡の生物共生型農業:自然再生の視点から」(西川潮・新潟大学准教授)、「佐渡GIAHSを発展・活用する人材の養成」(大脇淳・新潟大学准教授)、「里山を鳥獣害から守る人材の育成」(高橋俊守・宇都宮大学准教授)らから能登と佐渡のGIAHSと直接のかかわりからの発表もあり、人材養成や獣害問題に及んだ。

  「日本におけるGIAHSの発展:大学の役割」と題して発表した国連大学サスティナビリティと平和研究所の永田明シニア・プログラム・コーディネーターの言葉だった。「欧州がユネスコの世界遺産をリードしたように、農業遺産はアジアがリードできるポジションにある」と述べ、とくに、日本、中国、韓国、日本の連携が重要で、国連大学は今後ともアジアの国々の世界農業遺産の連携に貢献したいと強調した。

  28日、金沢市文化ホールで、世界農業遺産の調査や認定に協力する研究機関でもある、国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(金沢市)が主催するシンポジウムが開かれた=写真=。国内外の研究者、市民など90人が参加した。認定での知名度を生かしてエコツーリズムなどを進める中国での取り組みや、まだ認定地域を持たない韓国での今後の課題などが紹介された。国連大学の武内和彦上級副学長は、「GIAHSの認定地域19のうち、アジアには11のサイトがある。世界農業遺産の一般への認知度は、世界遺産にはまだ及ばないことから、観光などへの活用も念頭に、アジア各国の取り組みによって浸透を図ってはどうかと」と話した。前日の永田氏の話と同様、GIAHSのアジアからの発信を強調した。

  こほか、GIAHSをどのように活用するばよいか、地域のイメージアップ(住民の自信と誇り、アイデンティティの回復)、農産物等への付加価値、ブランド力の強化(環境保全型農業、6次産業化などの推進)、観光(グリーン・ツーリズムなど)への活用(農業・農村の活性化)、世界のGIAHSサイトとの知識や経験の交流(国際フォーラムや現地ワークショップの開催など)など討論が繰り広げられた。

⇒28日(火)夜・金沢の天気    はれ

☆GIAHS国際会議の視座‐5

☆GIAHS国際会議の視座‐5

   能登半島・珠洲市でことし2月19、20日の両日開催された国際GIAHSセミナー「パルビスGIAHS事務局長と日本のGIAHSを担う人々との対話」はある意味で画期的だった。GIAHSの統括責任者と、能登と佐渡のGIAHS担当の行政マンや農業者、研究者らとパルビス・クーハクカン氏が直接対話するという形式をとっていたからだ。参加者の質問、それに対するパルビス氏の返答からGIAHSの意義付け、未来を目指すGIAHSのビジョンを読み解く。この「Q&A」で特徴的なことは、パルビス氏に丁寧に事例を上げながら答えている点だ。以下。

         対話から読むGIAHSの意義、現状、未来可能性

  (GIAHS担当の能登の行政マン) 能登GIAHSと佐渡GIAHSは、先進国では初めての認定と言われています。地元では、そのことを自分たちはどう解釈すればいいのだろうという思いを巡らせながら、約2年がたとうとしています。そこでパルヴィスさんから、先進国のGIAHSに対する期待聞かせてください。

  (クーハフカン氏) これについてはいくつか考えがあります。日本は近代的な工業国のリーダーの一つで、本当に素晴らしい興味深い例になってくれると私は確信しています。一つ目には、都市と農村のつながりです。私たちが都市の人口過剰と農村部の過疎という問題を抱えていることは疑いようがありません。私たちは、都市と農村の統合ができればいいと願っていますが、統合が無理なら、せめて交流が起こればいいと考えています。
 具体的な例をいくつかご紹介しましょう。これは日本の一部の地域で、GIAHSのためではなく、別の目的のために起こったことなのですが、何が起こったのかというと、スーパーマーケットや産業界は、一般的に言って何かしら農村コミュニティに負っています。農村のいろいろな資源を利用してお金を稼ぎ、ビジネスが繁栄していく一方で、農村部は過疎が進んでいます。食品市場におけるスーパーマーケットの責任として、そのインフラを活用して、ローカルな農家が自分たちのローカルな製品を週に1回、2回、あるいは3回と、都市部に供給できるようになってきました。ローカルな製品、優れた製品、ブランドのラベルがつけられた製品、GIAHSなどのラベルのある製品がスーパーマーケットで販売されて、農村部に出向くことはない人々が購入できるようになっているわけです。これはスーパーマーケットがパッケージした食品ではなく、ローカルなレベルで生産された食品です。
 ローカルな農家がその製品を都市部で販売できる可能性を拡大することは、市長や知事、その他の政治家の仕事ですが、興味深いことに、このような非常に高品質の食品というのはスーパーマーケットで売られる食品より安いことがよくあります。ブラジルなどでは、政府が学校給食や公式レセプション用の食品をすべて、スーパーマーケットではなく地元で生産活動を行う小規模な農家から購入しています。
 また、インターネットを通じてこのようなネットワークづくりを行うことも考えられます。都市の市民がその週、あるいはその日に欲しいものを簡単なリストにして、インターネットに載せると、市民のグループが様々な生産者のところへ出向いて製品を購入し、都市でそれを分配するのです。この制度はすでに運用されており、うまく行っています。カリフォルニアのバークレーなどにこのような動きがあって、このような活動は食品生産の多様性を促進するだけでなく、味や色、多様性に富んだ食文化を甦らせることにもつながっています。
 最後に大事なことですが、産業部門にも果たせる役割があると思います。日本のような国ではどこでもインターネットを利用でき、インフラがあらゆるところに整備されていて、すべての人を都市に押し込めることなく、ビジネスが分散されています。人々が農村部に住んで、在宅勤務することもできます。美しい場所に住みながら働くことができるわけです。コンピューターの前で同じ仕事をすればいいわけですから、農村部に住んで農村部を豊かにし、農村部に生活を呼び戻しながら、そこで仕事をすることができるのです。他にもいろいろな事例が考えられますが、GIAHSのような概念的な枠組みに取り組み始めると、私にさえわからないような新しいことに投資が行われるということが重要です。

  (大学の研究者) これまでに多数の場所が認定を受け、認定地とともに取り組みが進められていますが、すでに認定を受けた場所に対する評価はどうでしょうか。認定地の中でも進んでいるところ、成功しているところはどこでしょうか。またその理由は何でしょうか。

  (クーハフカン氏) これまでの認定地で非常にいい例となっているのは迅速に取り組みを進めた国々です。GIAHS認定というアイディアをしっかり把握し、そのプロセスを理解した国々で、中国、ペルー、チリ、マグレブ諸国のオアシスなどがそうです。多くの国が、コミュニティやGIAHSの観点からだけでなく、国の発展の観点からも農業遺産の重要性を理解するようになってきました。GIAHS認定によって、自分たちの持っている宝を再認識できたからです。それは文化であったり、自然であったり、技術(といっても伝統的な技術ですが)であったりしますが、そういった自分たちの宝の価値がわかるようになったのです。
 これはGIAHS認定や、どんなに素晴らしい遺産があるか確認するというだけの話ではなく、この動き、このアイディアが今後の世代を実際にどう支援できるかという問題です。例えば、市場への非常に強力なエントリー・ポイントとして、私たちはラベリングを活用しています。現代では、消費者はより優れた選択肢を持ちたいと思っていて、より質の優れた製品を求めており、非常に味気ない大量生産のお米と、高山地帯や非常に特殊な場所で収穫されたとてもおいしいお米の違いを認識しています。また、より健康にいい製品も求めています。20年前には、有機農業について話す人のことをみんな笑っていたものです。しかし今では、世界の市場の製品の20%が有機栽培のものになっています。あいにく、実際にはビジネス界のほうが農家コミュニティより有機農業を活用しているのですが、これはまた別の問題です。

  (能登の農業者1) 将来に向けた人材育成について、日本と海外の場合では環境ももちろん違いますし、生活の状況ももちろん変わると思います。海外の場合、例えば農業をやる人たちのモチベーションや意識は、もちろん食べてゆくためということが多いと思います。日本の場合、「幸せ」というものが変化しており、農業に対しても、若い人たちがサラリーマン的感覚になっていたり、時間を拘束されることを嫌ったりします。農業を一人や家族でやる場合は、そういう問題は比較的解決されるのではないかと思いますが、チームや組織として動く場合に、何か良いヒントをいただければと思います。

  (クーハフカン氏) GIAHSプログラムの枠組みで私たちが行っている取り組みに、「持続可能な暮らし(sustainable livelihood)」と私たちが呼んでいる全体的なアプローチがあります。持続可能な暮らしというのは、環境に目を向けると、どこにいようと、世界中のどの場所にあろうと、人には少なくとも五つの資本があるということをベースにしています。それは、自然資本、人的資本、社会資本、インフラ資本、金融資本です。
 自然資本は、土地や水、生物多様性、森林のことで、非常にシンプルでわかりやすいです。人的資本は、健康、年齢、教育、知識のことです。社会資本は私たちの連帯、関係、組織、交流の力などです。インフラ資本は道路やインターネット、飛行機、市場、そういった私たちが持っているあらゆるもの、インフラのことです。金融資本はもちろん、私たちが投資するお金のことです。
 さて、持続可能な生活を送るためのこれらの資本ですが、私たちはそのうちの一つだけではなく、五つすべてに投資をする必要があります。残念なことに、現代の社会、現代のビジネスは、一つだけ、多くても二つくらいにしか投資しておらず、それがこんなに歪んだ社会を生んだ原因になっています。金融資本に目を向けると、ただお金儲けすることが目的とされて、他のことは忘れられてしまい、自然が破壊されました。コミュニティを発展させようとしたときには、人的資本や社会資本にだけ目を向けて、他のことを忘れてしまいました。本当に持続可能な開発を実現したければ、私たちはこれらすべての資本に投資しなければならず、またこれらの資本が相互に作用するようにしなければならないのです。
 要するに、本当に持続可能なビジネスをしたかったら、これらすべての資産、資本に目を向け、どうすればこれらすべてを同時に強化させられるか、考える必要があるということです。また、私たちはこれらの資本のうち、あるものを他のもののために活用しなければなりません。ある資本を別の資本に変化させる、一つの資本の限界に目を向けて、これらの資本を枯渇させるのではなく強化する、そういったことを目指さなければならないのです。これは、あらゆる持続可能なプログラムやビジネスに欠かせないことです。

  (能登の農業者2) 日本では今、里山里海が本当に見直されています。しかし、ほんの30~40年前までは高度成長期で、乱開発が進んで公害等が出たりしていました。今、世界では同じように乱開発・環境破壊が進んでいて、それが自国内のみならず他国にも影響を及ぼしています。これについて、FAOあるいは世界農業遺産として、環境という面からどのような意見をお持ちでしょうか。

  (クーハフカン氏) 様々な違った国の社会があり、その内部には違った部分があることは、確かにビジネスの仕方や暮らし方を通じて互いに影響を与えています。しかしあるコミュニティが他のコミュニティに影響しようと、ある自治体が他の自治体に影響しようと、ある国が他の国に影響しようと、長い間たいして関心を集めずにそうされてきました。私たちは単にビジネスを行い、交換し、互いから利益を得ようとしてきたわけですが、資源に対する競争が激しくなり、自然資源の劣化が進むにつれ、もっと汚染が広がり、もっと問題が生まれることが明らかになってきたわけです。しかし、これが歴史的な流れでした。たいてい、先進国が最初に自然を破壊して豊かになり、それからもっと貧しい途上国を植民地支配したわけです。
 現在では、二つの重要なコンセプトが生まれています。一つは「汚染者の国」、破壊を行ったものがその行為の代償を支払うというものです。自宅の周辺でも、近所の人が水を汚染したら、その人を罰せずに放っておくわけにはいきません。それと同じでビジネス界など社会の一部が海を汚染したら、放っておくわけにはいきません。しかし残念ながら、つい最近まで、各国政府は全く無頓着でした。そのための厳密な規則はあまり導入されてきませんでした。国の間でも同じです。気候変動が起こっているのは先進国が自然を破壊し、先進国のビジネスがこんなにもたくさんの温室効果ガスを排出しているからで、今ではみんなが非常に困難な状況にあることを理解しています。しかし今、途上国は先進国に自分たちはあなたたちの発展の犠牲者だから、あなたたちが責任を取って代償を支払えと主張しており、問題になっています。
 現時点では、気候変動などに関連した各国間の最も大きな懸案事項は、先進国がこれまで通りにビジネスを続け、大量の炭素を排出し続けているということです。途上国は、なぜ自分たちがその代償を支払わなければいけないのか、自分たちだって発展したいと言っています。先進国は途上国が発展するのを阻止したがっています。例えば、アメリカと中国、あるいは日本と中国の間で対立が起こっていますが、それにはそれだけの理由があります。だからこそ、国連が壊れた道を実際に舗装し、対立したり緊張関係を作り出すのではなく、問題解決のためにみんなが一緒に取り組むよう、持続可能な方法で互いの長所を探し、互いに助け合うよう、みんなをまとめることが非常に重要です。そのために国際協力が存在し、協力が必要とされている、そのために京都議定書が存在し、生物多様性条約が存在するのです。これは非常に本質的な問題ですが、残念ながら私たちが生み出してきたあらゆる差異やあらゆる問題のために解決できていません。みんながビジネスだけについて考えるのではなく、もっと持続可能なやり方で成功を収め、私たちの問題をどうすれば本当に解決できるのか考えることが国際社会の重要な役割です。だからこそ、GIAHSや里山のようなプログラムが、このような統合されたアプローチを本当に推進するために、重要なのだと私たちは考えています。

⇒27日(月)朝・金沢の天気    はれ

★GIAHS国際会議の視座‐4

★GIAHS国際会議の視座‐4

(「GIAHS国際会議の視座‐3」のつづき) では、世界各地のGIAHSの例をいくつかご紹介したいと思います。あまり細かいところまではご紹介できませんが。一つ目は米と魚の同時生産システムです。日本では残念なことに、たくさんの水田があり、米と魚が両方食べられているのに、農薬が集中的にあまりにも多く使用されているせいで、水田で魚が生育できなくなっていますが、この魚を使った米の生産は非常に巧妙なシステムです。魚が害虫を食べ、米の肥やしとなり、米と魚の調和が保たれるだけでなく、世界の貧困国においてタンパク質とエネルギーと穀物を同時に得ることができます。

          パルビスGIAHS事務局長が能登の農業者に語ったこと(下)

 私は能登の一部で、農薬の使用をやめた所を見学させていただきました。そこでは有機栽培で米が生産されており、少しずつ水田にカエルや動物、様々な種類のヒルやミミズ、貝類が戻ってきています。生態系や生物多様性を回復するだけでなく、自然の中のある種のバランスが取り戻され、農薬や肥料の必要がなくなるため、これは非常に重要なことです。このような自然なシステムがもっと増えれば、きっと水田にもっと魚が増え、GIAHSがいっそう改良されます。

 フィリピンのイフガオの棚田は一つのおどろきです。その素晴らしい場所で様々な種類の米が栽培されています。しかし森林が劣化し、水田の灌漑システムに必要な水が不十分なため、危機にさらされています。私たちは、エコツーリズムを導入したりして、この場所に暮らしを取り戻すために努力をしています。エコツーリズムを導入したのは、この美しい棚田や伝統的な儀式を見て喜んでくれる人がたくさんいるからです。イフガオでは、酒に似た製品などもたくさん作っています。これは、私たちがフィリピン政府や地元のコミュニティと協力している取り組みの例です。

 砂漠の真ん中のオアシス・システムもあります。ここには非常に巧妙な地下灌漑システムがあり、非常にわずかな水でナツメヤシを生産し、多層の庭を作り出し、魅力的な文明を生み出しています。これは、私たちが取り組んでいるチュニジア、アルジェリア、モロッコ、エジプトなど北アフリカの国のGIAHSの例です。このオアシスの周りには、水がないので何も育ちません。人の創造力によって、このような美しい庭が生み出されました。はるか彼方、500キロも離れた山から水が引かれているのです。また、インドのカシミール地方のサフラン遺産システムや、もちろん日本の里山もGIAHSとして認定されています。

 私たちは、これまでに世界中で200のシステムが独特のシステムであると特定してきました。きっともっとたくさんあるでしょうが、これら200システムのうち、19のシステムをGIAHSに認定し、取り組みを続けています。私たちは、GIAHSにふさわしいシステムを見つけたら、基本的に三つのレベルで調整作業を行います。まずグローバルなレベルでシステムを認定します。国レベルでは動的保全のための発展政策を策定します。ローカル・レベルでは、人々に力を与え、これらのシステムが発展し、維持されるようにして、エコラベル、エコツーリズムなどで多様化を図ります。グローバル・レベル、国レベル、ローカル・レベルでこれらの活動をつなぐのです。グローバル・レベルではFAOが認定を行い、国レベルの政策が小規模な農家や家族経営農家、地域の里山や里海をサポートし、そしてローカル・レベルで製品やサービスをブランド化し、経済的な付加価値が得られるようにします。

 私たちは、「持続可能な暮らしの枠組み(Sustainable Livelihood Framework)」の策定に取り組んでいます。これは農村部の五つの資本を取り上げたものです。すなわち、自然資本、人的資本、社会資本、物的資本、金融資本の五つです。これらはすべて、私たちが投資する必要がある資本です。金融資本やお金だけでないし、土地や水などの自然資本だけでもありません。若い人や健康、学校、知識、技能といった人的資本も重要です。社会資本、すなわち人的関係やつながりもあるし、道路や市場など物的資本のインフラも重要です。私たちは農家と一緒になって、これらすべてに投資する行動計画の準備を進めています。

 私たちは生産を強化する必要がありますが、単純化してはいけません。例えば、日本の水田のような生産強化は、もっと多くの種を蒔き、もっと肥料と農薬を使い、もっと生産するということが多いですが、これはシステムの単純化につながり、たくさんのエネルギーを使い、自然資本を破壊してしまいます。私たちは、システムを単純化することなく生産を強化し、たくさんの生産物とサービスを生み出したいと考えています。例えば、里山システムと生産強化した稲作システムを比較してみましょう。いずれも非常に生産性が高いですが、里山の方は生産物の多様性があり、産品の美しさがあり、文化を伴う豊かさがあります。一方、生産強化した稲作の方は重さだけ、何キロの米が採れたかということだけが問題にされており、これは私たちの目的には全く適いません。

 私たちは、グローバルとローカル、ローカルとグローバルをつなぐことも目指していて、これはまさに私たちがこれまでに実行してきたことです。インドの首相がインドのコラプットというところの農家にGIAHS認定証を交付しました。この農家はもともと地元の人で、その農場で400種以上の米を栽培しています。非常に小さな農地に、400種という品種の多様性の高さが世界的貢献として認められました。私たちは、エコロジカルな農業やラベリング、展示会など、いろいろな活動を世界中で推進しています。展示会には、例えばイモの見本市とか、オアシスのナツメヤシの見本市とかがあり、農家の製品が直接展示されます。私たちはこのような活動を通じて、農業遺産の世界的な重要性の発信に取り組んでいます。

 GIAHSは過去にまつわるものではなく、将来を見据えたものです。ごくわずかな農場を博物館に保存しようというのではありません。将来性のある農業をいかに発展させていくかということを問題にしています。アメリカのナパバレーには有機栽培のブドウ園があり、そこでは農家の人がブドウ園の周辺に生えている植物などすべての生態的サービスを再現しました。これらの植物が訪花性のハチを呼び寄せ、有機農業により非常に素晴らしい香りのワインを生産できるようになりました。これは将来を見据えたもので、過去の話ではありません。このブドウ園では大量生産をしていませんが、市場では高値がついています。ブドウ園の農家は、優れた製品を生産するだけでなく、生態系と生物多様性を維持し、その恩恵を受けています。これはアメリカの現代の里山と言えるでしょう。

 コフィ・アナン(前・国連事務総長)があるスピーチで指摘しているように、生物多様性とは生命そのものにとっての生命保険です。私たちは、生物多様性が高い農業を維持していく必要があります。農業や文化の多様性や生物多様性は、私たちの生命維持システムにとって重要であり、保険のような存在なのです。生物多様性が優れていればいるほど、私たちは将来の問題に備えて保険をかけることができます。例えば、キノア(アンデス地方で栽培される雑穀)は各地に異なる種があり、その種ごとに異なる色をしています。ペルーにある栽培地は本当に美しい場所です。さらに興味深いことに、種ごとに違った病気に強いという性質があるため、全体として非常に病気に強い、生物多様性に富んだ農場ができます。これは、現在と将来の世代にとって重要なことです。

⇒26日(日)朝・金沢の天気    はれ

☆GIAHS国際会議の視座‐3

☆GIAHS国際会議の視座‐3

  今月29日から能登半島・七尾市で開催されるGIAHS国際フォーラムには当然、主催者であるFAOからパルビスGIAHS事務局長も出席する。私の知る限りでパルビス氏の能登入りは今回のフォーラムを含めると4度目である。過去に2010年6月4日の事前視察、2011年6月17日の認証セレモニー(inception workshop)=写真・上=、2013年2月19、20日の国際GIAHSセミナー(能登キャンパス構想推進協議会など主催)=写真・下=である。

   パルビスGIAHS事務局長が能登の農業者に語ったこと(上)

  では、パルビス氏は能登でどんなことを語っているのだろうか。国際GIAHSセミナーでのスピーチ(英語)を日本語で採録してみる。このセミナーのテーマは、「パルビスGIAHS事務局長と日本のGIAHSを担う人々との対話」である。能登と佐渡のGIAHS担当の行政マンや農業者らとパルビス氏が直接対話するという形式で、日本のGIAHSに期待すること、GIAHSの目指すところ、未来に向けてのGIAHSの意義など示唆に富んだものだった。なおこのセミナーの様子はニュースレターとしてGIAHS公式サイトで掲載されている。パルビス氏のスピーチのタイトルは「Cultivating Diversity in our Agricultural Heritage Systems(世界農業遺産システムによる多様性の涵養)」。以下。

  私は昨年、食料・農業のために使われる世界の土地資源および水資源の状況を、1冊の本にまとめて出版しました。FAO(食糧農業機関)が、過去50年にわたる土地・水利用の世界的な実態を評価したものです。世界レベルでは、農地が森林、湿地、山間部に12%拡大しました。灌漑地は117%増加し、食料生産は200%増加しました。つまり3倍になったということです。

 これは非常に喜ばしいことで、とても成功していると思えますが、同時に、土地の質が悪化し、砂漠化、気候変動、貧困、移住といった様々な問題が起こっています。農業セクターが大量の食料を生産することによって成し遂げたことは、地球の自然資源の基盤を破壊し、多数の問題を引き起こしたのです。
 私自身、ペルシャにおける浸食の問題を目の当たりにしてきました。農地の多くが塩類化し、牧草地の質が悪化して家畜が食べる牧草がほとんどなくなり、砂丘が農地にも広がって、都市で洪水が起こるようになりました。これは気候変動と、貧困による人々の移住が原因です。

 私たちは、「危機に瀕する農業システム(Agricultural Systems At Risk)」というタイトルの本の中で、このような事例を多数取り上げました。農業に関連した多数のシステムが危機に瀕しています。例えばヨーロッパでは、水の汚染、生物多様性の喪失、気候変動の影響など、多数の問題が起こっています。場所が変わればリスクの種類も異なるため、私たちのこれからの食の安全や発展にはたくさんの不確実要素があります。その一つの例が、インドや中国、中東、南米など乾燥地帯にある多くの国の地下水の枯渇です。地下水は灌漑の源であるため、地下水の枯渇と汚染が起こっている多くの国は、食の安全が脅かされて非常に困難な状況に置かれています。灌漑のためにあまりに多くの水をくみ上げたため、水が枯れてしまったのが原因です。

 もちろん、伝統的な農業システムも危機に瀕しています。例えば中国の棚田は世界農業遺産の一つですが、人間の創造力がいかにこのような美しい棚田を生み出し、素晴らしい灌漑システムを作り上げてきたのか、物語ってくれています。この棚田では米と一緒に魚が育てられ、地域の人たちに食の安全を保障してきました。しかし現在では、十分な支援政策がないためにこのような棚田が放置されたり、破壊されたりしています。このように消滅してしまったシステムもあるのです。

 さて、2050年に向けて考えてみますと、私たちには多数の課題が待ち構えています。私たちはすでに自然資源の基盤を破壊してしまい、私たちの将来にはとてつもない課題が潜んでいます。途上国での最も重要な課題の一つは、貧しい国における人口の増加です。現在、最も貧しい途上国の人口増加率は先進国の6倍になっています。もう一つの問題は、私たちの消費パターンの変化です。野菜や穀物、果物より肉を食べる人がどんどん増えています。伝統的な社会では近代的な社会よりはるかに多く野菜を消費していました。肉を1キロ生産するには、1キロの穀物・果物・野菜を生産するよりも10倍の水が必要とされます。これはとてつもない問題です。特に乾燥地帯の一部の国では、水はすでに貴重な資源となっており、水問題が起こっています。このような国は、インド、中国、ブラジルなど、世界中に多数あります。乾燥地帯の国では、水はすでに枯渇しています。手に入る水はほとんどなく、飲用水でさえ非常に貴重です。しかし食生活の変化により肉を食べるようになり、ますます水が必要とされています。私たちはすでに水が足りないという問題を抱えており、これは重大な問題です。

 このような、人口増加、都市化、消費パターンの変化により、私たちは世界全体で食料の生産を60%、途上国に限れば100%増加させる必要があります。私たちの資源はすでに限られており、さらに資源が減少していますから、これは大きな課題です。となると当然、私たちには変化が必要です。私たちの開発のパラダイム、特に農業開発のパラダイムを変える必要があります。なぜなら、過去50年で私たちが成し遂げたあらゆる成功にもかかわらず、その背後では私たちはあまりにも多くの資源を失い、劣化させ、今後も同じ道を歩み続ければたくさんの問題が起こるからです。私たちは、農業を行う方法を変える必要があるのです。

 途上国の貧困層でも最貧困の人たちについてお話しますと、彼らには十分な食料も、十分な水も、十分な保健衛生もありません。私たちが過去50年間に成し遂げた様々な成功にもかかわらず、いまだに10億人以上の人が飢餓に苦しんでいます。ですから、今お話ししているこのパラダイム転換を引き起こすためには、次のように問いかけるべきです。つまり、農家は低いコストで、地元で利用できる技術を活用し、気候変動シナリオを考慮に入れて、どの程度まで食料生産を改善できるか、そしてこのような食料生産システムは、環境資源やサービスにどのような影響を与えるのかという問いです。

 グローバリゼーションは貧困、食料不安、自然資源の劣化といった問題を解決してきませんでした。ですから少し遡って考えてみる必要があるというのが大事なメッセージです。現在では、先進国と新興国、そして貧困国の食料生産システムは同じではありません。1週間分の食料に必要な金額を比較すると、先進国では1週間当たり約350ドル、1日当たり50ドル程度ですが、チャドのような国では1週間でたったの1.35ドルです。先進国では、ありとあらゆる食料があふれているのに、一家族分の食料は途上国より340倍も高いのです。途上国の貧しい人々は、食料に必要な収入を得ることは決してできません。加えて、先進国には食の多様性が存在しているように見えますが、真の多様性は存在しません。あるのはパッケージの多様性、物を詰め込むカラフルな箱の多様性なのです。

 さらに、食の多様性の喪失は、二重の問題を引き起こしています。途上国では、食の多様性の喪失により、人々が栄養不足や微量元素不足に陥っています。先進国では、貧弱な食生活と食の多様性の喪失により、裕福病のような問題が起こっています。これは、タイプ2の糖尿病や、心臓疾患、肥満などです。先進国と途上国の両方とも、食の多様性を減少させてしまった結果、食料生産の方法に問題が起こっているのです。幸運なことに、これは日本には当てはまりません。日本は伝統を維持し、食の多様性を維持してきましたが、アメリカやオーストラリア、ヨーロッパ、その他の先進国や、途上国の大都市では、食の多様性がどんどん貧弱になってきています。日本や中国のような国でさえ、若い世代では食の多様性がますます貧弱になっており、健康問題が起こるようになってきています。食の多様性と栄養がもはや十分存在せず、脂肪分や糖分をより多く摂取するようになってきているので、当然、健康問題がより多く起こるのです。

 食の多様性は生物多様性と関連しています。南米のペルーとアンデス地方にはジャガイモが230種あり、それぞれ色や味が異なります。乾燥地域に非常にたくさんの種子作物と穀物が存在していましたが、食べられなくなってしまったのですべて失われてしまいました。この点でも中国、インド、日本は幸運です、これらの国では食の伝統を守ってきたため、幸いなことに依然として食の多様性が守られています。これは一般的なことではありません。また、機能的生物多様性と呼ばれるものも失われてきました。これはハチの授粉能力の喪失のことで、農業にあまりにも多くの農薬が使われていることが原因です。ハチや昆虫がいなくなり、農作物が受粉ができなくなって、多くの国で大問題になっています。

 私たちは、重要な課題と解決のチャンスの両方が小規模な農家と家族経営の農家にあるとの結論に達しました。小規模農家や家族経営農家は地域で生産活動を行い、自然環境をよりうまく維持し、輸送費をかけたり炭素を排出せずに食料を流通させています。そしてもちろん、今日でさえ、世界の食料の70%以上を生産しています。このような小規模農家になぜ投資をしないのでしょうか。何を生産するかにかかわらず、地元の小規模農家に投資をすれば、多様性が広がります。その方が生態学的に優れており、実行可能です。こうすれば、私たちは食料生産の問題を解決できるだけでなく、環境管理の問題にも貢献できます。もちろん、文化、生物多様性、環境保全は互いに関連し合っています。文化は私たちの文明の根幹です。米の生産は多数の文化的ルーツを生み出しました。中国、ヒマラヤ、インド、インドネシア、日本、ベトナム、ヒンズー教の寺院には、様々なお米の神様やお米の象徴が存在します。ですから食と文化は非常に密接に関連しているのです。文化を維持したかったら、食の多様性を維持しなければなりません。食の多様性を維持したかったら、文化の多様性を維持しなければなりません。ここには非常に重要なつながりがあります。

 世界に存在するこのような一般的な課題を受け、私たちは私たちが主題の核心、すなわち、GIAHS(世界重要農業遺産システム)の動的保全という領域に到達しました。このプログラムは、今お話ししたすべての問題に応えることを目的としています。GIAHSは、2002年にヨハネスブルグで行われた持続可能な開発に関する世界サミットにおいて私たちが立ち上げたグローバル・パートナーシップで、持続可能な開発に関する需要に応えるものです。

 GIAHSには、5つの重要な選定基準があります。1つ目はローカルな食と暮らし、2つ目は生物多様性と遺伝資源、3つ目は個人とコミュニティに関するローカルな知識、4つ目は製品やサービスの多様性を含む農業(agri-“culture”)の文化的多様性、そして最後の5つ目は景観の多様性と美しさです。これが、GIAHSシステムを認定する際の五つの選定基準です。GIAHSは、これらの基準を最低50%から70%満たさなければなりません。例えば、生物多様性の非常に豊かな地域や、文化的多様性の非常に豊かな地域、あるいは景観の美しい地域があります。興味深いことに、ほとんどの場合これらは同時に存在しています。こういったものがすべて揃って、世界農業遺産となります。

 能登と佐渡島がGIAHSに立候補したとき、これらの基準をすべて検討、分析、評価をまとめてFAOに送付しました。私たちは能登と佐渡島を訪れて、重要な生物多様性、ローカルな食、文化的多様性が存在し、この地域が美しく、コミュニティ意識があり、人々が土地・水・景観の管理方法を理解していることを確認しました。文化の多様性もありました。これらすべてが一体となって、GIAHSの候補地として提示されました。これに基づき、もちろんFAOと事務局だけでなく、科学委員会も一緒になってこれらの基準を評価し、運営委員会に提案して、FAOが能登と佐渡島をGIAHSとして選出・認定しました。

 もちろん、私たちはこれらの基準のフォローアップとモニタリングを続け、改善されなかったり、悪化したりしたことが明らかになれば、そのGIAHSシステムは自然にその認定を失います。モニタリングは2~3年ごとに行われます。私たちはGIAHSの地域を再び訪れて改善や悪化を評価します。ユネスコの世界遺産システムも、遺産地が適切に維持されなければ認定が取り消されます。GIAHSでも同じです。常に改善されなければいけないのです。だからこそ、地域コミュニティと国や県の政策とが力を合わせて、より良い未来のためにこのシステムを維持していかなければいけないのです。(つづく)

⇒25日(土)朝・金沢の天気   はれ

★GIAHS国際会議の視座‐2

★GIAHS国際会議の視座‐2

  昆虫の標本を見つめるパルビス・クーハフカンGIAHS事務局長の目は輝いていた。2010年6月4日、パルビス氏は国連大学高等研究所の研究員らとともに能登を視察に訪れた。金沢大学能登学舎(珠洲市)では、「能登里山マイスター」養成プログラムの教員スタッフから、里山里海の地域資源を活用する地域人材の養成の仕組み、とくに生物多様性など環境配慮の水田づくりの実習カリキュラムなどについて説明を受けた。

            GIAHS認証までの多様なプロセス

  フランスのモンペリエ第2大学(理工系)で生態学の博士号を取得したパルビス氏は天然資源管理や持続可能な開発、農業生態学に関する著書(2008「Enduring Farms:Climate Change,Smallholders and Traditional Farming Communities(困難に耐える農家:気候変動、小規模農家と伝統的農村社会)」など)もある。スピーチを聞けば論理を重んじる学者肌だと理解できる。そのパルビス氏は目を輝かせながら、のぞき込んだのが能登の水田で採取した昆虫標本だった=写真・上=。そして、「この虫を採取したのは農家か」「カエルやヒルやミミズ、貝類の標本はあるか」と矢継ぎ早に質問もした。当時、視察対応の窓口だった私の第一印象は「虫好き、生物多様性に熱心な人」だった。その年の10月に開かれた生物多様性条約第10回締約国会議(名古屋市)の会場でもお見かけした。

  2011年6月、北京で開催されたGIAHS国際フォーラムに出席した。同フォーラムは2007年のローマ、2009年のブエノスアレス、そして2011年の北京と3回目。パルビス氏はこの一連の会議の主催側だった。前年12月、FAOに申請した「NOTO’s Satoyama and Satoumi(能登の里山里海)」と「SADO’s Satoyama in harmony with the Japanese crested ibis(トキと共生する佐渡の里山)」が審査される会議。GIAHS認定に向けて日本から初めての申請だった。金沢大学の「能登里山マイスター」養成プログラムの代表、中村浩二教授は能登における里山里海の人材養成についてプレゼンテーションを目的に出席、私は発言する立場にないオブザーバー参加だった。佐渡や能登の自治体、農林水産省、国連大学高等研究所、石川県庁など含め日本から総勢16人の参加だった。

  フォーラムの2日目(6月10日)の午前、能登地域4市4町のGIAHS申請者の代表の武元文平七尾市長(当時)、高野宏一郎佐渡市長(同)がそれぞれ英語で15分ほど申請趣旨についてプレゼンを行った。午後のsteering committee(運営委員会)で議題の一つとして新たな認定の同意をもとめ、拍手で採択された=写真・中=。正直言って「拍子抜け」という感じだった。国連教育科学文化機関(UNESCO)の世界文化遺産登録などのように、その諮問機関(国際記念物遺跡会議=ICOMOS)が一つ一つ厳格に審査を行うとのイメージがあった。同じ国連の機関である食糧農業機関が認定する世界重要農業資産システム(GIAHS、通称「世界農業遺産」)なので、プレゼン後の審査もさぞ厳しいものがある、のだと。日本側では別室で開かれた運営委員会を傍聴すらできないと当初思われていた。ところが、中村教授がパルビス氏に傍聴は可能と尋ねると「No problem」の返事だった。運営委員会の雰囲気は緊張ではなく、各国のテレビ局などメディアも入るオープンな場だった。認証式は翌日11日午前に行われた=写真・下=。

  ここで、そんな甘々な認定ならば「わが地域も申請したい」と考える向きもあるだろう。ところが、むしろ大切なのでは認定までのプロセスなのである。公募ではなく、推薦である。国の機関と学術機関が推薦すること、日本の場合は農林水産省と国連大学がそれに相当する。中国の場合は、農業省と中国科学院。そして、FAO、農水省、国連大学による事前の現場視察、申請書類の提出、会議の場でのプレゼンテーション、運営委員会ので採択となる。冒頭述べた、昆虫の標本をくいるように見つめるパルビス氏の様子は事前視察の1シーンである。

⇒24日(金)夜・金沢の天気   はれ