☆ノーサイドの演出

☆ノーサイドの演出

  先月(10月)5日に投開票が実施された金沢市長選で前市長の山野之義氏(52)が自民・公明推薦の候補に大差をつけて当選したことの考察をこのブログで紹介した。その金沢市長選が昨日23日告示され、現職の山野氏のほかに立候補の届け出がなく、無投票で3選が決まった。山野氏は8月に1期目の途中で辞職し、先月の出直し選で再選された。公職選挙法の規定で任期は辞職前と同じ12月9日までのため、任期は次が2期目となる。何ともややこしい。

  さて、山野氏は、競輪の場外車券売り場の誘致をめぐって業者と不透明なやり取りをしていたとの批判を受けて辞職した。しかし、支援者らに経緯の説明を重ねていくなかで、「市民の審判を仰ぐ」と10月の出直し選への立候補を決意したのだった。フタを開けると、9万票以上の得票で自民・公明が推す候補らを寄せ付けず圧勝、再選された。しかし、議会は車券場問題を追及するため、山野氏や業者を招致して経緯の説明を求めてきた。10月下旬には、地方自治法に基づく調査特別委員会(百条委員会)が設置された。12月中に山野氏を証人喚問することも決まっている。

  ここで話はさらにややこしくなる。12月2日公示される衆院選石川1区に出馬する馳浩氏(自民)の選対本部顧問に山野氏が就任するというのだ。馳氏は、山野氏が8月に引責辞職した原因となった競輪場外車券売り場問題の新たな事実を自民党の会合で示し、政治問題化し、「山野下ろし」へと誘導した。10月の市長選では、自民・公明推薦の候補を支援し、選挙戦を通じて山野氏が出馬したことに、激しく批判する発言を繰り返していた。しかし、馳氏側は選対本部顧問の就任を山野氏に依頼した。10月の市長選で対立した関係から一転して、圧勝した山野氏との和解をアピールすることで、市長選のしこりが自らの選挙に及ぶことを抑える意図が見える。いわば、市長選の「ノーサイド」を演出したのである。

  地元メディアはこう報じている。「20日に市内で開かれた選対の準備会合後、本部長を務める中村勲石川県議が明らかにした。顧問は他に県関係の参院議員3人。中村氏によると、19日に山野氏に近い紐野義昭県議、高村佳伸金沢市議が顧問就任を要請、山野氏は二つ返事で引き受けた」(北陸中日新聞)と。つまり、山野氏は顧問を引き受けて損をすることはない。わだかまりを拭い去る、よいチャンスと状況を読んだのかもしれない。有権者には、すっきりと理解できない、すんなりとは腑に落ちない、両者の政治行動ではある。

写真説明:金沢市長選の候補者ポスター掲示板。山野氏の無投票当選だった。

⇒24日(祝)夜の金沢の天気    あめ

 

★イフガオにて‐下

★イフガオにて‐下

  イフガオの現地入りに先立ち、11月12日、JICAフィリピン事務所を訪ね、丹羽憲昭所長、小豆澤英豪次長に、JICA草の根技術協力(地域経済活性化特別枠)事業「世界農業遺産(GIAHS)イフガオの棚田の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」の進捗状況を説明した。プロジェクトの実施責任者である中村浩二特任教授が昨年11月の事業採択内定から、現地パートナーとのミニッツ(合意文書)の締結、現地説明会、イフガオGIAHS持続発展協議会とイフガオ支援協議会(能登)の設立、カリキュラム作成、受講生募集、現地調整員の赴任、ワークショップ開催、講義の開始、能登研修などの流れを説明。「ソフト事業はカタチが見えにくいが、人材養成は大学ならでは試み」と述べたのに対し、丹羽所長からは「モデル事業として成功させてほしい」と期待が寄せられた。

      イフガオ州大学長「イフガオ棚田を今後2000年持続していく」

  14日、イフガオ里山マイスター養成プログラムの第6回の講義がイフガオ州大学で行われた。今回日本からのイフガオに訪れた講師陣は多彩な顔ぶれだった。能登里山里海マイスター育成プログラムの教員、小路晋作特任准教授とシュクル・ラフマン教務補佐員、国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)のイヴォーン・ユー研究員の3人が講義を行った。

  小路氏は「“Noto Satoyama Satoumi Meister” Training Program: an outline」と「Ecosystem approach for Noto’s Satoyama Satoumi」の2つをテーマに能登里山里海マイスター育成プログラムの取り組みの現状と自然と共生する農林水産業について解説。シュクル氏は「Intangible Cultural Heritage」と「My Experience of Meister Program in Noto」と題して、能登の「アエノコト」などユネスコ無形文化遺産について説明し、能登里山里海マイスター育成プログラムの修了生たちの取り組みを紹介した。イヴォーン氏は「GIAHS monitoring and role of OUIK in GIAHS Twinnig Program」のテーマで世界農業遺産の発展させるためのモニタリング調査の重要性と国連大学の役割、今後の連携を説明した。

  ゴハヨン・イフガオ州大学長はイフガオ里山マイスター養成プログラムの意義についてこう述べた。「私たちは、能登マイスターと同じだけの情熱とエネルギーでイフガオ里山マイスターに取り組んでゆく。このプログラムが、FAOによって認定されたGIAHSイフガオ棚田を保全し、活性化することを信じます。イフガオ棚田は、私たちの祖先が、2000年かけて築き上げてきた遺産であります。私たちは、これをこれからの2000年にわたり持続してゆく」。学長のこの言葉にイフガオ再生を成し遂げる決意を感じた。

⇒15日(土)イフガオの夜   はれ  

  

  

☆イフガオにて‐中

☆イフガオにて‐中

  イフガオに入って2日目。イフガオ里山マイスター養成プログラムを現地で支援する「イフガオGIAHS持続発展協議会(IGDC=Ifugao GIAHS Sustainable Development Committee)が11月14日開催された。イフガオGIAHS持続発展協議会はことし3月25日に設立され、イフオガ州のアティ・デニス・ハバウエル知事が会長に就任した。今回の会合はイフガオ里山マイスター養成プログラムの活動状況を報告する目的で、州知事はじめ、バナウエ、ホンデュワン、マユヤオの3自治体関係者が参加した。

        州知事をうならせた受講生の課題研究プレゼン           

  開会挨拶のなかで、イフガオ州大学のセラフィン・ゴハヨン学長が、イフガオの棚田を保全する人材養成を支援するための学内組織「GIAHS支援センター(仮)」の設置を表明した。続いて、JICA事業「世界農業遺産(GIAHS)イフガオの棚田の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」の日本側実施責任である金沢大学の中村浩二特任教授が能登里山里海マイスター育成プログラムの取り組みの進捗状況を説明。イフガオ州大学のダイナ・リチヤヨ教授がイフガオ里山マイスター養成プログラムこれまでの活動状況(6回の講義、能登研修など)を報告した。その後、受講生の中から選ばれた5人が課題研究の中間報告をプレゼンし、イフガオに伝わる農耕や文化資源の価値を再評価し、現代の視点で活かす試みを披露しました。この協議会のハイライトは前回のコラムでも掲載したように受講生たちの課題研究のプレゼンだ。

  アマラ・ダーエンさん=民間事務職員=の研究テーマは「伝統的な薬用植物」。イフガオの集落の多くは人里離れており、伝統的な薬用植物を自前で調達してきた。咳止めや糖尿病に効くといわれる薬用植物を10種類採取し、専門家の意見を聞きデータ収集。市販も視野に。ジェネリン・リモングさん=自治体職員(農業)=の研究テーマ「市販飼料と有機飼料による養豚の比較」。市販の飼料による養豚より、伝統の有機飼料の養豚の方がコストも発育も優れていることをデータにより示した。マリヤ・ナユサンさん=保育士=の研究テーマは「離乳食に活用する伝統のコメ品種」。保育士の立場から、離乳食の歴史を調べる。乳児の発育によいイフガオ伝統コメ品種を比較調査している。マイラ・ワチャイナさん=家事手伝い・主婦=の研究テーマは「伝統品種米の醸造加工」。親族が遺した伝統のライス・ワイン製造器を活用し、イネ品種や、イースト菌の違いによる酒味やコクを調査。売上の一部を棚田保全に役立てる販売システムを検討している。

  受講生たちの発表を受けて今後のイフガオGIAHS持続発展協議会の取り組みの方向性などが話し合われた。まず、議長を務めたハバウエル知事は、「かつて先ほどの発表のような伝統資源のビジネス化をテー マとした事業化を計ったことがあったがうまくいかなかった。今回のプレゼンを聞いて、研究調査計画がよく練られており、たとえばライス・ワインなどは市場価値が高いと感じている。州政府として今後予算化も含めて、イフガオ里山マイスター養成プログラムの受講生たちを支援する取り組みを始めなければならないと考えている」と高く評価した=写真・下=。

  ゴハヨン・イフガオ州大学長は「受講生たちはこれまでのマイスター授業(6回)で里山概論、土地利用、生態学的な視点、伝統的なコメづくり、地元食材の料理法などを学んでいる。その上で、イフガオ棚田を保全し、活性化することを自らのテーマとして選び、調査し、議論を重ねた上でプレゼンしている。これらの課題研究はイフガオにとって非常に有用で、可能性がある」と述べた。

⇒14日(金)夜・イフガオの天気    はれ
        

★イフガオにて‐上

★イフガオにて‐上

  今月11日に成田空港、マニラ空港を経由してフィリピンに入った。13日と14日に開催されるイフガオ里山マイスター養成プログラムの授業とワークショプに参加するためだ。イフガオ里山マイスター養成プログラムでは月1回(1泊2日)、イフガオ州大学を拠点に現地の若者(社会人)20人がフィリピン大学やイフガオ州大学の教員の指導で地域資源の活用や生物多様性と環境、持続可能な地域づくり、ビジネス創出について学んでいる。

         イフガオの文化・伝統資源を価値として活かす地域の若者たち

  イフガオの棚田は1995年にユネスコの世界文化遺産、2005年には国連食糧農業遺産に認定されている、壮大な棚田だ。その面積はざっと1万7000㌶、東京ディズニーランドとディズニーシーを合せた面積が100㌶なので、その170倍も広がる広大な棚田だ。さて、そのイフガオの棚田で起きている現実はこれまで何度かこのコラムで述べてきたように、若者の農業離れだ。現地の人が言うには、最近は若者だけでなく、中高年の田んぼ離れも広がっている、と。世界遺産でもある地域の文化を今度どう守って、継続的に発展させていけばよいのか、まったく日本と同じような、いや世界で起きているこの若者の農業離れという問題に向き合えばよいのか。そこで、金沢大学が国際協力機構(JICA)草の根技術協力事業で実施しているが、「世界農業遺産(GIAHS)イフガオの棚田の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」、別称「イフガオ里山マイスター養成プログラム」。フィリピンでのカンターパートナーはイフガオ州大学、フィリピン大学オープン・ユニバーシティだ。

  13日はイフガオ里山マイスター養成プログラムの受講生20人による研究課題の中間発表会が開かれた。いつくか受講生たちの研究課題を紹介したい。ヴィッキー・マダンゲングさん(41)はイフガオ大学の教員で、研究テーマは「イフガオの民俗資料と写真展示」だ。本人の大学における研究テーマでもあるのだが、イフガオ里山マイスター養成プログラムの受講生の仲間を通じてさらに情報を収集したいとプログラムに応募した。実際にヴィッキーさんが大学で収集してる民俗資料を見せてもらい、少々驚いた。一部は日本、あるいは能登のそれとそっくりなのだ。

  たとえば、現地で今でも使用されているストーン・ミルだ。米などを挽いて粉に昔ながらのものだが、これが日本の石臼(いしうす)にそっくりなのだ。しかもサイズや石臼も回す取っての棒の配置なども、である。このほか、蓑(みの)やザル、カゴなど、懐かしさがこみ上げてくるようなものがさまざまに。1万年ほど前、中国の長江流域で稲作を中心とした農耕が始まったといわれる。その農耕文化が南に伝播してイフガオに、そして北に伝わり能登など日本に。そんな農耕文化のダイナミックな広がりを感じさせるのだ。ヴィッキーさんは「イフガオの民俗資料をまとめて文化遺産の価値や誇りを未来に伝えたい」と意欲を持っている。

  もう一つ気になる発表を紹介する。家業手伝いのマイラ・ワチャイナさん(29)の研究はライス・ワイン。当地では伝統的な酒づくり。大鍋を使って米を火で炒(い)る。こんがりきつね色になるまで炒って、水を入れて炊きく。そこに昔から伝わるイースト菌を入れてバナナの葉でくるみ、5日間発酵させれば出来上がり。イフガオ伝統のティブンと呼ばれるライスワイン。酸味が効いて、甘味があり、確かに日本酒よりもワインに似た味だ。マイラさんをこれを地酒としてだけではなく、海外にも広めたいと考えている。どの品種の米が醸造に向いているのか、どのような販促活動をしていくのか研究する課題は多い。が、本人は「イフガオの米はすばらしいと思う。そこからすばらしいライン・ワインを世に出したい」と研究に余念がない。

  地元であるイフガオの文化資源や伝統的な価値をもう一度見直して、地域を再生させたい、思いはまったく日本の現状と通じるのだ。

※写真説明:写真・上はイフガオの伝統的な高床式の茅葺家屋を説明するヴィッキー・マダンゲングさん(右)、写真・下はマイラ・ワチャイナさん(左から2人目)がつくったライス・ワインの試飲会

⇒13日夜・イフガオの天気  はれ

☆イフガオ州大学長からのメッセージ

☆イフガオ州大学長からのメッセージ

 先月(10月)11日、金沢大学が石川県能登半島の4自治体(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)などと連携して実施している、社会人の人材養成講座「能登里山里海マイスター育成プログラム」(実施代表・中村浩二特任教授)の第三期生入講式が、珠洲市の金沢大学能登学舎で執り行われた。この入講式は通算で7回目となるが、今回初めて海外からの参加があった。フィリピンのイフガオ州大学、セラフィン・ゴハヨン学長だ。イフガオ州大学は、先日このコラムで紹介したイフガオ里山マイスター養成プログラムを実施するにあたっての、金沢大学のカウンターパートでもある。入講式ではゴハヨン学長から祝辞をいただいた。イフガオからの心のこもったメッセージだった。

I am deeply honoured and privileged to be invited here again and be a witness to the enrolment of a new batch of trainees under the Noto Satoyama Satoumi Meister Training Project being spearheaded by Kanazawa University. We are always awed and inspired by your extraordinary commitment and passion towards sustaining your GIAHS. Since the launching of the Ifugao Satoyama Meister Training Program in March 25, 2014 various activities were already conducted. Our trainees attended various lectures such as overview of the satoyama landscapes in Japan and Philippines, land utilization, ecological concepts and practices, Natural farming system, management of heirloom rice production and training in native delicacy preparation. They also visited successful small scale industries in Ifugao such as taro production facility and traditional and modern rice wine facilities. But it is their visit and interaction with their counterpart trainees here in Japan that really opened their eyes and helped them internalize the objectives of the program that we are trying to achieve.Now, the 17 trainees in Ifugao have started their GIAHS conservation projects in their field of interests. These study projects were presented and shared with their counterparts/ experts here in Japan 3 weeks ago.

The Ifugao State University considers the Meister Program as one of its banner program. We commit to work with the same passion, commitment and indefatigable energy that you have in your meister program here. We are convinced that the program will surely help conserve and revitalize our Ifugao Rice Terraces, declared by FAO as a GIAHS site. This is a heritage developed by our forefathers for us. If it sustained them in the last 2000 years, surely, when harnessed, it can also sustain us in the next 2000 years to come.

Allow me to manifest our sincerest invitation to all of you, our partners here in Japan, to visit our place and see for yourself the various life changing initiatives of our trainees that is starting to unfold. Our university and province will be most happy to accord you with the same friendship and hospitality you have accorded us here.

 金沢大学が主導されている能登里山里海マイスター育成プログラムの三期生入講式に招待いただき、たいへん光栄です。能登GIAHSの持続的発展に向けた、金沢大学の日頃からの格別の取組と熱意に心から敬意を表します。本年3月25日にイフガオ里山マイスター養成プログラムが設立され、すでにいろいろな活動がスタートしています。受講者は、いろいろな講義を受けています。たとえば、日本とフィリピンの里山概論、土地利用、生態学的なものの見方、伝統的なコメつくり、地元食材の料理法などです。また、タロイモやライスワインの作業場も見学しました。しかし、能登訪問や能登里山マイスター達との交流こそが、かれらの目を開かせ、課題をグローバルに考えることに役立ちました。現在、17名のイフガオ受講生がそれぞれの関心分野において、GIAHS課題に取り組みはじめました。3週間前の能登訪問では、課題発表会とともに能登マイスター受講生やスタッフ、関係者と意見交換の場をつくっていただきました。

 イフガオ州大学では、マイスター・プログラムを、特別プログラムとして全学の旗印としています。私たちは、能登マイスターと同じだけの情熱とエネルギーでイフガオ里山マイスターに取り組んでゆく決意です。このプログラムが、FAOによって認定されたGIAHSイフガオ棚田を保全し、活性化することを信じます。イフガオ棚田は、私たちの祖先が、2000年かけて築き上げてきた遺産であります。私たちは、これをこれからの2000年にわたり持続してゆく決意です。

 私は、パートナーである皆さまをイフガオへ招待したく思っています。イフガオ・マイスターの活動が、イフガオの生活を変えつつあることを、ぜひ、ご自分の目で確かめて下さい。イフガオ州大学、イフガオ州政府は、いまこの能登において、皆さまが私にくださっている友情と歓待でもって皆さまをお迎えいたします。

⇒1日(土)朝・金沢の天気    くもり

★能登キャンパス-下

★能登キャンパス-下

   2日目の続き。東洋大学の 川澄厚志特任講師と学生が登壇=写真・上=。同大学が実施している能登の里山保全や祭り参加をする「能登ゼミ」について、「能登ゼミ・SFS(学生の短期滞在型実習) による、現場主義的な地域づくり」と題して事例報告した。学生にとって、過疎化は能登の魅力になりうる、人が少ないからこそ一人ひとりの存在が大きく、人同士の強い結びつきが生まれる点がメリットと述べた。

       地域の「多様な価値」を知る機会に

   北陸学院大学の田中純一准教授が、2007年3月の能登半島地震で学生たちを能登に引率して、ボランティア活動などを積極的に行い、現在も東日本大震災の被災地へ学生を引率し、ボランティア活動をしている。テーマは「 地域防災と学生教育」と題して事例報告。参加する学生たちに「ひとつの命、ひとりのかけがえのない存在に寄り添う、最後のひとりを見逃さない、取りこぼさない」と教えている。金沢美術工芸大学の真鍋淳朗教授は、「珠洲でアートによる地域おこし」と題して報告。奥能登の里山里海の自然•風土•歴史を活かしたこの地域でしか出来ないアートプロジェクトを展開していくと現在実施しているアート展の意義を説明した。

   石川県立看護大学の川島和代教授は学生とともに、「過疎地の暮らしと健康づくりを民泊型実習で学ぶ」と題して報告。能登町を中心に学生が民家に泊まりながら、一人暮らしのお年寄りの看護や健康づくりを学ぶ教育を指導している。地域の人が培ってきた健康を保つ暮らし方を教わり、地域の持つ多様な力を知る機会となっていると、その成果を述べた。

   総括討論は締まった内容だった。「学生が地域に学ぶ価値とは何か」という問いが会場からあった。対馬市の川口幹子氏の回答は明確だった。「これまで人間が克服型の技術を使って発展して来たように、これからは生態系の法則を人間社会に取り入れるようにして、新たな持続可能なシステムを構築して行く必要があると思う。このシステムの確立に向けて、学生たちに地域を学びの場として提供していくことだ」と述べた。また、過疎化と地域の在り様を尋ねられた、長野県木島平村「農村文明塾」の井原満明氏は「数人の高齢者が一人の若者を育てる地域社会であり、車いすや寝たきりになっても支えられる地域社会であり、乳幼児や子どもの感性を育てる農山村漁村の環境がムラであり、価値観を変えることだ」と。逆転の発想だ。

   シンポジウムに参加した国連大学のスタッフから「地域のグローバル展開があってもよいのではないか」と問題提起があった。2日目の金沢美大の真鍋淳朗氏の講演はそれに答えるものだった。「奥能登の里山里海の自然•風土•歴史を活かした、この地域でしか出来ないアートプロジェクトで国際芸術祭を開催する計画だ。アートによる地域社会の活性化、環日本海のアジアとのアートネットワーク、アジアから世界への発信を奥能登が拠点となる」。

     学生たちが地域活動に参加するのもよい、地域おこしもよい、要は学生たちが地域の価値を見出す仕掛けづくりを丹念に設計すること、そして、その仕掛ける人材を育てるのは地域だ。総括討論の議論を聞いてそう考えた。

   2日目の午後からのエクスカーションには18人が参加した。穴水町新崎(にんざき)・志ヶ浦地区の里山里海の保全活動を聞き、「ボラ待ち櫓(やぐら)」=写真・下=を実際に上って見学。能登ワイン株式会社ではブドウ畑やワイナリーの説明を受けた。穴水湾で養殖されているカキ貝の殻を天日干しして、酸性土壌の赤土の畑の入れてブドウを栽培している。晴天に恵まれ、里山と里海の景観が映えた。

⇒28日(火)朝・金沢の天気     くもり

☆能登キャンパス-中

☆能登キャンパス-中

   事例報告で4組が報告。最初に、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンターの加藤基樹助教が、学生2人と演壇に立ち「学生の地域活動の教育効果」と題して述べた=写真・上=。同センターは、「社会貢献」と「体験的学習」をキーワードに、昨年度実績で13600人の学生たちが地域活動に参加。東京からバスと電車で9時間かかる岩手県田野畑村へ50年間、年4回の合宿を通して育林作業を中心に活動しているサークルもある。学生のボランティアセンターでは日本最大で最古かもしれない。

      地域は学生の感性を磨く「学びの場」

   地域に密着した鳥獣管理技術者を養成 宇都宮大学の 高橋俊守准教授が、全国的に問題となっているイノシシやクマなどの獣害の問題について、地域と連携した取り組みを「野生鳥獣と人間の軋轢問題」と題して報告。同大学が獣害対策の人材を育成する「里山野生鳥獣管理技術者養成プログラム」(平成21‐25年度)の修了生も発表した。高橋氏は「獣害の所轄官庁が一般化された対応しているが、細分化された土地所有、集落の事情、対策すべき動物の相違、非農家の増加で、集落機能が低下しており、そのギャップが大きいと問題提起。同大学では引き続き一般社団法人鳥獣管理技術協会を設立、地域に密着した鳥獣管理技術者の養成のため、「鳥獣管理士」資格認定を実施している。

   金沢大学の小路晋作特任准教授は、能登半島で展開している「能登里山里海マイスター育成プログラム」の教員スタッフとして7 年間能登に駐在し、これまで107人のマイスターを育ててきた経緯を、「地域とともに育む人材養成プログラム」と題して報告。長崎県対馬市で学生の受け入れを中心とした地域づくりを行っている一般社団法人MITの吉野元統括マネージャーは「地域づくりコーディネーターの役割」と題して報告。対馬では市をあげて大学との連携を図ろうとしており、コーディネーターの役割は地域と大学の双方のメリットを生み出す潤滑油であると述べた。

   学生や講師陣、地元の関係者ら60人余りが参加した意見交換会は地元・鹿波獅子太鼓の披露されるなど=写真・下=、和やかな雰囲気での懇親の場となった。

   2日目のシンポジウムは「地域の資源を学びに活かす~能登の事例から」と題して事例報告と総括討論が行われた。金沢星稜大学の池田幸應教授が、穴水町において長年にわたり、学生と地域の交流・連携を推進してきた成果を「穴水町における学生と地域との交流・連携、この10年」と題して事例報告した。廃校舎を拠点とした地域資源活用による体験型コミュニティづくりを目指して、「能登シーズンキャンパス」や「かぶと塾」など開設している。他方で、祭りなど一時的な参加交流だけで、本当の地域貢献に繋がるのかは疑問と、問題提起をした。

⇒27日(月)夜・金沢の天気     はれ

   

★能登キャンパス-上

★能登キャンパス-上

   「能登キャンパス」を掲げ、能登の地域自治体と大学が連携して4年になる。その成果として、先日開催したシンポジウムでは地域と大学の位置取り、学生たちと地域のあるべき姿、地域創生と大学の役割などが浮かび上がった内容となった。

       地域と大学 連携メリットを相互に活かす

   金沢大学と石川県、奥能登4市町(輪島、珠洲、穴水、能登)、県立大学、看護大学、星稜大学で構成する能登キャンパス構想推進協議会(会長・福森義宏金沢大学理事・副学長)は10月17、18日の両日、「地域・大学連携サミット2014㏌穴水」を開催した。協議会では、平成23年度「地域再生人材大学サミット」(輪島市)、同24年度「域学連携サミットin能登」(珠洲市)、同25年度「地域・大学連携サミット」(能登町)を開いており、今回4回目となった。学生・研究者との交流を拡大して地域再生を目指すシンポジウムで初日170人が訪れた=写真=。

  開会式では、福森会長が「大学と地域が連携することはそう簡単なことではないが、地域再生のために、地域に必要な人材を育てるために、大学と地域がどう連携していけばよいのか、大学は研究と教育の成果をどう地域に役立てればよいのか、大学と地域はいまこそ、未来の可能性に向けて、しっかりとしたパートナーシップを築き上げていかなければならない」と主催者あいさつ。続いて、石川宣雄穴水町長が「地域再生を目指した議論と同時に、能登の魅力も穴水で実感してほしい」と開催地を代表して挨拶、藤雄⼆郎 ⽯川県企画振興部⻑のあいさつ文を寺坂公佑同部課長が代読した。

  続いて、中村浩二能登キャンパス構想推進協議会幹事長(金沢大学特任教授)がシンポジウムの趣旨説明を以下行った。能登半島は、自然と伝統文化に恵まれているが、同時にきびしい過疎・高齢化にさらされている。一方、2011年に「能登の里山里海」が国連食糧農業機関から世界農業遺産(GIAHS)に認定されたこともあり、国内外の大学・研究機関から注目を集め、県内はもとより、全国、海外からの研究者や学生の来訪が増えている。能登における教育・研究交流の拡大は、来訪者と地域の双方にとって大きなメリットがあると考える。こうした状況を踏まえて、シンポジウムは「地域に学び、地域を元気にする」をテーマに、能登地域の再生に向けた学生・研究者の交流人口拡大を目指す。活動の成果や課題を明らかにしていくことで情報が共有され、各主体の横の連携を促進し、能登の活性化に向けた新たな取り組みにつなげていくことを期待する。

  基調講演で、一般社団法人MIT(長崎県対馬市)の川口幹子専務理事が「対馬で学生たちが学んでいること、そして島民はどう変わったのか」と題して講演。2011 年に総務省地域おこし協力隊として対馬市に移住し、学生と地域をつなぐ活動や、グリーンツーリズム、環境保全に関する仕事に携わっている。同市では、自然豊かな農村を「学びの場」として、地域振興を学びたい学生や研究者に提供。耕作放棄地や空き家を実習で使ってもらい、実際に移住者を獲得している。川口氏は「地域を学びの場として活用すれば人がやってくると実感した」と述べた。また、長野県 木島平村農村文明塾の総合コーディネーター井原満明氏は「地域の資源を活かし学生たちの学びを創造する」と題して講演。2010 年から農村文明の創生に向けた農村文明塾の運営に関わり、大学生と地域の域学連携を実践している。井原氏は「若者たちの感性を研ぎ澄ますことが大切で、農村の暮らしと生業は豊かな感性による生活技術であり、その暮らしの技術に若者たちは感動する。また、交流は地域の感性を呼び戻す」と述べた。

⇒26日(日)朝・金沢の天気    はれ

☆続・金沢市長選結果の考察

☆続・金沢市長選結果の考察

  今月5日に投開票が実施された金沢市長選で前市長の山野之義氏(52)が自民・公明推薦の候補に大差をつけて当選した。競輪の場外車券売り場の開設問題で軽率な行動をとったとして辞任した首長がなぜ大勝したのか、新聞各社が有権者アンケートを通じた分析を掲載している。いくつか紹介する。投票率は47.03%とこの20年でもっとも高く、獲得した票は山野氏が9万3698、2位の下沢佳充氏(53)=元県議、自民・公明推薦=が3万5924だった。

  北陸中日新聞石川版(7日付)では、5日の投票日に実施した出口調査(1120人)の回答結果を分析した記事を掲載している。この結果で目を引くのは、自民党の支持層の56.7%が山野氏に投票したと答え、30.7%の下沢氏より倍近いことだ。また、民主党支持層でも51.6%、社民党支持層で69.2%もの人が山野氏に票を投じている。民主・社民・連合石川の推薦候補がいたにもかかわらずである。記事では「共産支持層でも23.1%が山野さんに投票しており、政党に関係なく幅広い支持を集めたことがうかがえる」と記載されている。

  この記事を読んでの私の直観だが、山野氏は大阪市の橋下市長のような強烈なキャラクターの持ち主でもなく、実際の選挙演説でも山野コールが街頭に湧き上がっていたというわけでもない。むしろ、自民・公明党推薦候補に対する反対意志としての行動だったのではないか。「あの人には市長になってほしくない」という論理である。あるいは、石川県選出の国会議員を自民党が独占している状況下で、県都・金沢市長までも自民に渡したくないという意思表示だったのかもしれない。そのミックスが今回投票行動かもしれない。

  北陸中日新聞の記事では、上記の有権者感情を読み解くのに面白いアンケート結果がある。女性票と男性票の行方である。男女別の投票先では男性が56.7%、女性が61.0%が山野氏に投じている。とくに50-70代の年代別の女性票では、70代の67.5%を筆頭に軒並み60%を超えている。一番少ないのは80代の46.9%である。選挙期間中、私の身の回りの会話を聞いた中でも「山野さんの方がましやね(山野氏と自民推薦候補と比較して)」という女性の声が聞かれた。つまり、女性票が山野氏に流れた。それは、山野氏への評価なのか、自民・公明党推薦候補への反対票なのか、後者の方がニュアンスとして強かったのではないか。

  無党派層への支持を狙った選挙と、組織票に依存した選挙。山野氏は街頭演説や個人演説会では、競輪場外車券売り場の問題を「軽率な行為だった」と支持者らに詫びた。党の推薦は受けずに、若者ほか無党派の支持を狙った運動を展開した。大学生が応援演説をしている姿もあった。これに対して、自民・公明党推薦候補は企業や団体めぐりを小まめに行い、また、丸川珠代氏ら現職自民党議員も応援に駆けつけた。が、自民・公明党推薦候補が獲得した票は山野氏の3分の1ほどだった。組織票を活かしきれなかった原因はどこにあったのか。選挙当日は金沢地方は、時折晴れ間ものぞく天気だった。無党派層の票が伸びやすい状況ではあった。

  最後に、意気込みである。投票が終わり、午後8時すぎると新聞とテレビが出口調査などから一斉に「山野氏が当選確実」を伝えた。勝った山野氏は頭を下げながらも、最後は次の市長選に向けて「ガンバロー」と気勢を上げた=各紙の写真=のである。これは通常の勝った候補者の姿とすれば奇妙な光景だったが、山野氏の任期は、公職選挙法の規定により、1期目の残り期間の12月9日までとなり、任期満了の前日から30日以内に再び選挙が行われることになる。前回のコラムでも述べたように、むしろ厳しいのは次の選挙だろう。たとえ次回勝っても投票率を維持できなければ本当に信任されたとは言えない。そんな思いが山野氏には強かったのだろう。

⇒7日(火)夜・金沢の天気    くもり

★金沢市長選結果の考察

★金沢市長選結果の考察

   金沢市の前市長の山野之義氏の辞職に伴う金沢市長選が5日投開票が行われ、山野氏(無所属)が、前市議の升きよみ氏(共産推薦)、前石川県議の石坂修一氏(民主、社民推薦)、前県議の下沢佳充氏(自民、公明推薦)の新人3を押さえ再選を果たした。山野氏が辞職したのは、競輪の場外車券売り場の開設計画への協力を支援者に約束した問題でけじめをつけるため、8月に引責辞職した。山野氏はこれまでの実績について「市民の審判を仰ぐ」とし、立候補した。選挙では、新人3人が山野氏への批判票を集めきれなかったようだ。

   確定票は山野9万3698、下沢3万5924だった。政権与党の自民党と公明党の推薦を受けた候補に圧勝したのだった。さらに投票率は47.03%とこの20年でもっとも高い。それに関連して、面白い現象は同時に行われた県議補選と市議補選にそれぞれ2万5千ほどの無効票(白票など)が出たことだ。つまり、トリプル選挙の相乗効果として市長選の投票率が上がったのではなく、有権者が市長選そのものに高い関心を寄せていたということだろう。

   今回の選挙の論点は、この競輪の場外車券売り場の開設計画への協力という行為が、今回の選挙で批判票にならなかったのか、逆に投票率を上げ、自民ほかの候補に圧勝したのか、だ。これまでの報道によると、山野氏の支援者だったビル管理会社社長との間で昨年3月、名古屋競輪場の場外車券売り場の設置を認めるかのような書面を独断で交わしていたことが判明した。車券売り場計画は立ち消えになったが、8月に入り、市の予算でリサイクル施設を入居させる案を社長側に示していたことも明らかになった。市長が独断で約束した、ととられたことが軽率だったとして山野氏は8月に辞任した。問題発覚時には、支援者との「密約」との報道だったので、汚職を連想させた。しかし、金銭授受の問題が浮上してこなかったことから、陳情に対し首長がサインするといった軽率な、脇の甘い行動だとの流れに変わっていったようだ。

   逆に、これを問題化した自民党石川県連が「山野下ろし」のために競輪の場外車券売り場問題を吹聴したと、政争の具に使ったと一部市民からは見られた。私の身近な人の間でも「山野さんは(自民党に)ハメられたね。かわいそうだ。でも、果たして辞任する必要はあったのだろうか」といった声がささやかれていた。もともと金沢の政治地盤では自民は盤石ではない。むしろ「人柄」だ。きっぱり辞任し出直すと表明したことが、潔い人柄ととられたのだろう。

   山野氏の任期は、公職選挙法の規定により、1期目の残り期間の12月9日までとなり、任期満了の前日から30日以内に再び選挙が行われることになる。むしろ厳しいのは次の選挙だろう。たとえ次回勝っても投票率を維持できなければ信任されたとは言えない。

⇒6日(月)朝・金沢の天気  あめ