☆4Kの風

☆4Kの風

   先日(12月10日)金沢市に本社がある石川テレビ(フジテレビ系列)で、月刊ニューメディア主催の「Xデー勉強会㏌金沢」が開かれ、参加した=写真=。同局がことし8月から始めた4K制作の番組、そして効率的なワークフローを考えるための基本と、HDR技術を勉強するという、ちょっと欲張ったセミナーに心がひかれ参加した。参加は20人。北陸のTVメディア関係者が多いだろうと想像していたのだが、当日の顔ぶれをみると、北海道の札幌テレビ放送、南は琉球朝日放送からの参加があり、4Kの番組制作についての関心の高さがうかがえた。

   4K番組と言えば、最近は4K放送や4KVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスも充実してきたが、それは高速インターネットサービスや124/128度CS対応パラボラアンテナの設置によって視聴するもの。地上波やBSでの4K番組の放送がいつ始まるのか、気になる。総務省のHPを検索して調べてみると、4K・8K放送のロードマップが記されている。2014年には、4K放送「Channel 4K」(124/128度CS)、4K商用VODサービス「ひかりTV 4K」、4K商用VODサービス「4Kアクトビラ」が開始した。2015年には3月に4K商用放送「スカパー! 4K」(124/128度CS)が始まった。来年2016年は、BSで4K試験放送(最大3チャンネル)と8K試験放送(1チャンネル)を開始される予定。2018年にはBSで4K・8K実用放送の開始が予定されている。ところが、地上波での放送は空き周波数帯域の問題などもあり、現状では全くの未定なのだ。

   勉強会で、あいさつ立った石川テレビの高羽国広社長は、「新社屋のメディア館が完成し、喫茶店で現場の担当者に4K番組の制作を話題にしたら、『できますよ』と言われ即断した。そして、間もなく取材が動き出した。新しい4Kという技術があるのに、地上波だけが取り残されていいのかという思いがあった。周波数の割り当てがないからとBSやCSの後塵を拝していていいのだろうか」と懸念を述べた。

   石川テレビはことし8月から4Kカメラで取材する週一回のレギュラー番組『新ふるさと 人と人』の放送を開始した。4Kカメラで撮影したものを2Kにダウンコンバートした映像で放送している。ところが、他局からは「4Kで撮影しても2Kで放送するのなら4Kは無駄ではないか」との意見が出た。実際は、4Kから2Kにダウンコンしても、4Kの映像のシャープさ(精鋭感、解像感)はさほど衰えないことが実証されている。

   周波数の割り当てが不明確だから、4K番組にチカラが入らないというのはまったく当てはまらない。むしろ、積極的に4K番組を先駆的につくってこそ時代のテクノロジーを未来に活かせるのだ。ディスカッションで、札幌テレビの参加者は「アジアで4K番組を売れる手応えがある。アジアのコンテンツ市場はすでに4Kが前提だ」と。4K映像に詳しい立教大の佐藤一彦教授は「4Kの風はローカルから吹き始めている」と述べたのが印象的だった。

   映像の美しさを求めるのは人間の欲求である。それは、解像度や自然界の色の「色域」の広がり。それに輝きをどう加えるか、その欲求は果てしない。勉強会に参加しての感想だ。

⇒14日(月)朝・金沢の天気    くもり

★能登の風

★能登の風

  知り合いの新聞記者から近著、『能登の里人ものがたり~世界農業遺産の里山里海から』(アットワークス)をいただいた。著者は藤井満氏。2011年に朝日新聞輪島支局で記者として赴任し、ことし4月に和歌山の南紀支局に転勤となった。藤井氏と面識を得たのは2011年5月だった。輪島支局に来られた早々のころ。能登についていろいろと質問を受け、貪欲なまでの取材意欲を感じた。その後、4年間の能登での取材と考察をまとめたのが、上記の著書である。読み続けると、行間から能登の人たちへの敬愛がにじみ出ていて、引き込まれる。

  藤井氏が赴任したころ、能登には一つの大きなエポックメイキングが始まろうとしていた。国連食糧農業機関(FAO)による世界農業遺産(GIAHS)に日本で初めて能登と佐渡がエントリーしていて、6月のGIAHS国際フォーラム(中国・北京)で認定の可否が注目されていた。藤井氏と名刺を交換した5月は、世界農業遺産についての勉強会が朝日新聞金沢総局の主催で開かれた日だった。その後、「能登の里山里海」がGIAHSに認定され、人々のさまざまな動きが始まる。それをつぶさに観察して、朝日新聞石川版で「能登の風」とのタイトルで連載記事を連ねた。著書の中で述べている。「能登には『超一級品』がない」のになぜ世界農業遺産に認定されたのか、疑問を持ちつつ、能登の世界農業遺産という時代の風と人々の動きを丹念に追っている。

  能登半島の先端・珠洲(すず)市に隣り合わせに狼煙(のろし)と横山という2地区がある。隣接地だが、観光と漁師の狼煙と純農村の横山は気質の上でも折り合いが悪く、原発立地計画をめぐってしこりも残った。2003年に原発計画は凍結され、気が付いてみると両地区は過疎と高齢化に見舞われていた。狼煙は水田の4割が耕作放棄地になっていた。隣の横山は在来種の大浜大豆の栽培に活路を見出し、豆乳や豆腐の加工品の販売に活路を見出した。そこで、狼煙に禄剛崎灯台という「さいはての灯台」が観光地としてあり、両地区の住人が出資して「道の駅狼煙」の運営会社をつくった。大豆の関連商品の売上年間2200万にもなり、観光客も増えてきた。お互いに協働を模索し、観光と農業がうまくマッテイングした。能登にはそんな風が吹いている。藤井氏が発掘した記事だ。

⇒10日(木)午前・金沢の天気   くもり 

  

☆大阪の混迷

☆大阪の混迷

  大阪維新の会が22日に行われた、市長選と府知事選の大阪ダブル選で2勝した。獲得した票も府知事選では自民推薦の候補の倍、市長選では18万票も引き離し圧勝だった。この選挙結果によって、半年前の5月に住民の審判が下った大阪都構想への再挑戦に道が開けたということになる。しかし、北陸の地からこの選挙を眺めても、民意が読めない。

  まず、選挙そのものが盛り上がっていない。前回のダブル選挙より、市長選は10.41㌽下回る50.51%、府知事選は7.41㌽下回る45.47%だった。見方によっては、大阪の有権者はさめていたということだろう。うがった見方をすれば、住民票で反対票を入れた有権者が今回は棄権したといえなくもない。「一度廃案になったものをまたぶり返すのか」というあきれた思いが多くの有権者の思いがあるだろう。かといって、今回自民党候補に投票するには抵抗感を感じるという有権者が結局、投票所に足を運ぶのをためらったということかと推測する。

  政令指定都市の大阪市を廃止して、東京23区のような特別区に分割して、大阪府と行政機能を再編する大阪都構想は東京一極集中を是正し、地域を立て直す起爆剤としたいとする思いは共鳴する。どこかの地域が東京一極集中の突破口を開く必要があるのだ。しかし、その大阪都構想は今年5月の大阪市の住民投票で反対が70万6千票と賛成を1万票上回り廃案となり、民意で決着がついた。そして橋下市長は責任を取って、「政界を引退する」とけじめをつけたのだった。

  票差が少なかったので、大阪都構想をあきらめ切れない市民から再挑戦の熱意が沸き上がったのならば話は別だが、今回の選挙の投票率の低さを読む限りでは、そうした民意が伝わってこない。ましてや、国政レベルでの維新の会の「内紛劇」が目立ったせいか、全国的には、大阪の有権者と候補者による、大阪だけの選挙という閉ざされたイメージがつきまとう。

  ダブル選挙の期間中のニュースを見ていても、候補者が「大阪都になって、中央省庁や企業を大阪に誘致する」と強調していたことが印象に残った。大阪から今の日本を変えるという志(こころざし)がどこに行ってしまったのか、と。全国の共感を得られた前回とまるで状況が異なる。

  ダブル選で圧勝したはと言え、大阪府と大阪市の双方の議会では自民など非維新勢力が過半数の議席を占めている。これまで、橋下市長の強気と強弁で乗り切ってきたが、その手法は新市長では役不足だろう。今後4年間、大阪都構想をめぐって大阪はどのように展開していくのか、変革を求める民意はどこまで高まるのか、あるいは混迷なのか。

⇒23日(祝)午前・金沢の天気      はれ

★北の破船

★北の破船

  ことし1月9日午前6時すぎ、能登半島の石川県志賀町安部屋の海岸で木造船が漂着した。自称北朝鮮在住の60代の男1人が船の近くにいた。男は「12月中旬、船の点検のため1人で乗船し、船体を固定していたロープをほどいたところ流された。8日夜に能登に漂着した」と。船には食料と水は底をついた状態で、男は数日間は何も食べていなかったようだ。船のエンジンは故障していた。男はイカ釣り漁船の管理点検の業務に就いていて、不法入国ではなかった。日本海側では、北朝鮮の船が国内に漂着する例は毎年数十件確認されているが、生存したまま保護されるケースは珍しい。

  今月20日、同じ能登半島の輪島市門前町の沖合で、国籍不明の漂流船2隻が見つかった。うち1隻で4人の遺体が発見された。同じ門前町の沖合で21日にも転覆船が見つかり、6人の遺体が収容された。ほかにももう一隻が漂流していた。人は乗っていなかった。2隻とも船体は長さ9㍍から10数㍍の木造で、エンジン付きだった。船底が平らで黒のタール状の塗料が塗られるなど、朝鮮半島の船に多い特徴だった。漁網や釣り針が見つかった。20日に引き揚げた船にはハングル文字で「朝鮮人民軍 第325」との表記があった。

  そして、きょう22日午前8時すぎ、福井県越前町の越前岬の沖合で、木造船が転覆し漂流していた。3人の遺体が確認された。

  北から破船はシケが続くこの時期に多い。エンジンが故障して、そのまま海流に乗って、能登半島などに漂着するのだ。遺体は男性とみられており、難民や、いわゆる脱北者ではなさそうだ。

  ここからは推測である。北朝鮮の沖合でイカ釣りなど漁をしていて、海が荒れて流される。ところが、日帰り、あるいは数泊の予定で食料や水、ガソリンも十分になく、そのまま漂流する。大陸の沖合を流れる寒流のリマン海流に、その後、対馬暖流に流され、で日本側の沖合にやってくる。エンジン付きの船なので、おそらく軍からガソリンを供給され、漁に出た者たちだろう。

  漂流してきた船は氷山の一角だと察せられる。途中で船が破損して沈没したものも多数あるだろう。今後北の政権が破たんし、今度は多くの難民が漁船で脱出した場合を想像しよう。一隻の船に何十人もの老若男女がやってくる。しかし、日本海は荒れ、漂流する。あるいは転覆する。想像を絶する阿鼻叫喚が日本海に響き渡る。考えるだけでゾッとする。

⇒22日(日)夜・金沢の天気   くもり
 

☆「クロ現」問題のてん末

☆「クロ現」問題のてん末

  「出家詐欺」を扱ったNHK報道番組「クローズアップ現代」をめぐる問題で、今月6日、「重大な放送倫理違反があった」とする放送倫理・番組向上機構(BPO)の検証委員会の意見が公表され、新聞・テレビのニュースでも大きく報じられた。意見書はBPOのホームページで公開されていて、その内容は、「情報提供者に依存した安易な取材」「報道番組で許容される範囲を逸脱した表現」など厳しいコメントとなった。

  この問題は、私が大学で担当する総合科目「マスメディアと現代を読み解く」でも取り上げ、BPOのコメントには注目していた。番組は去年5月14日放送の「追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」。寺で出家の儀式「得度」を受けると戸籍の下の名前を法名に変更できることを悪用して別人を装い、金融機関から融資をだまし取るケースが広がっていると紹介した。ところが、番組内で多重債務者に出家を指南するブローカーとされた男性が今年3月18日付の週刊文春に「NHKのやらせ」と告発した。

   これを受けたNHKの対応は速かった。4月3日に調査委員会を立ち上げ、同9日に中間報告書を、同月28日に最終報告書を公表し、「過剰な演出」や「実際の取材過程とかけ離れた編集」があったことを認める一方で、「事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』は行っていない」と結論づけた。「やらせ」との言葉が世間で独り歩きすることを極度に恐れ、必死になって報告書をまとめたであろうことは想像に難くない。BPOの放送倫理検証委員会は5月8日、審議の対象にすることを決めた。BPOの調査目的は、果たして「過剰な演出」や「実際の取材過程とかけ離れた編集」というレベルにとどまるものなのかどうか、その一点にあったようだ。番組制作関係者11人と番組内での「ブローカー」、「多重債務者」の計13人に25時間に及ぶ聞き取り調査を行った。

   BPOの意見書を読むと、驚くことが掲載されている。番組では初対面で相談する「ブローカー」と「多重債務者」のそれぞれの男性は10年来の知り合いであり、番組をコーディネートしたNKH記者とも旧知の間柄だった。さらに、2014年4月19日に撮影が行われた、2人が相談する場所も「多重債務者」の方が事前に準備したもので、さらに撮影終了後には、記者と「ブローカー」と「多重債務者」の3人が「打ち上げ」と称して居酒屋で飲食を共にしていたのである。これが報道番組「クローズアップ現代」で隠し撮りシーンとして紹介された場面の撮影の舞台裏だった。視聴者にとって全く想定外だろう。これを一般の視聴者に問えば、十中八九「それは『やらせ』です」と答えるに違いない。

   NHK側は、「ブローカー」と「多重債務者」のそれぞれの男性が知り合いで、番組をコーディネートした記者とも知り合いだったことから、2人が記者が説明した番組の意図を忖度して、それぞれの知識や体験にオーバートークを交えて「出家の相談をするブローカーと多重債務者の相談場面」を演じた、いわゆる「過剰演出」と結論づけた。相談場面は、この意見書を読む限り、番組の狙いを強調する事実をわい曲ではないのかと思ってしまう。

   もう一点、腑に落ちないことがある。NHKが最終報告書を公表し、番組に携わった記者ら15人を処分した4月28日、その同日に総務大臣名で文書による厳重注意の行政処分がNHKに対してあった。5月8日にBPO放送倫理検証委員会が審議入りする前に行政指導に踏み切ったのである。このことについて、今月6日に公表されたBPOの意見書の「おわりに」の章で、「政府が個別番組の内容に介入することは許されない」と総務省を批判ししている。また、新聞メディアなどもきょう7日付の紙面でむしろ政府の「介入」を問題視している=写真=。

   私はもう少しうがった見方をしている。NHKの最終報告書の公表と社内処分、総務省による行政処分のタイミングがよすぎるのである。これは、BPO放送倫理検証委員会が審議入りする前にこの問題の幕引きをはかりたいというNHK側の意図があり、NHKが総務省に行政処分を出すよう働きかけたのではないか、と。放送界の第三者機関(BPO)に「やらせ」と詮索されては困るからである。一連の「クロ現」問題のニュースを読んで、そう考える人も多いのではないか。メディアの批判の矛先がNHKより、むしろ政権党や総務省に向かい、NHKサイドも今頃ホッと胸をなでおろしているのではないか。

⇒7日(土)午後・金沢の天気    くもり
  

★観光の危機管理

★観光の危機管理

   JICA国際協力機構が開催した観光政策を課題とする研修会の研修成果発表会が2日、金沢市内であり、コメンテーターとして招かれた。一行は、アジアやアフリカなど11ヵ国から観光政策に携わる国・地方自治体の行政マン13人。9月26日から石川を始め、富山、東京、京都、奈良で現場を視察し、現場の担当者と意見を交してきた。

   石川では金沢のほか、能登を巡った。雨宮古墳(中能登町)、巌門(志賀町)、総持寺(輪島市)、塩田村(珠洲市)、能登ワイン(穴水町)、のとじま水族館(七尾市)など見学した。巌門では、貝の土産品店で地元で採れた貝をブローチなど工芸品や、輪島の海女が採ったアワビの殻を加工してさらに付加価値の高い装飾品など見入った。そのほか、観光施設の展示方法やツーリズムの組み立て方、エコツーリズム(生物多様性など)のノウハウなどに質問し、熱心にカメラを向けていた。

   その研修の仕上げとして、自国の観光政策として活かす「アクション・プラン」を組み立て、政策の概要、実施スケジュール、実施予算の見積もりまでを発表した。その間で、テーマとして上がったのか、「観光地の危機(リスク)管理」だった。チュニジアの観光省の事務局長はこう話した。同国には、世界遺産が多くあり、カルタゴ遺跡(1979年、文化遺産)やエル・ジェムの円形闘技場(1979年、文化遺産)、ケルクアンの古代カルタゴの町とその墓地遺跡(1985年、文化遺産)、イシュケル国立公園(1980年、自然遺産)はその代表例だ。しかし、2011年ごろから続く民衆を狙ったテロ、とくに今年に入ってから2度もテロ事件が起き、かつてヨーロッパなどから年間700万人もあった観光入り込みが半減している。これによって、観光に携わっていた3000人が職を失った。

   チュニジア政府はテロに対する危機管理政策、プラン、広報など緻密な政策を実施している。が、悩ましいのはテロは、政府を不利にするための国際世論を狙って、観光客をターゲットとする場合がある。実際、ことし3月、武装集団が首都チュニスのバルドー博物館で銃を乱射、日本人3人を含む外国人観光客ら21人が死亡している。観光客を守るための「観光警察」など配置すれば、今度はそこが狙わるという。本来ならば、大統領が「安全宣言」を行い、世界にアピールしたいところだが、それがかえってテロの標的とされる。なんとも危機的で、悩ましい事態なのだ。それでも観光を再興させたいと知恵をひねる担当者。この発表を聞いて、コメンテーターとして同席した私は言葉が出なかった。

   世界に誇る自然遺産がありながらも、アクセスなどの観光政策が伴わず焦っている国もある。ジンバブエの観光担当者の悔しさをにじませていた。世界一の瀑布はジンバブエとザンビアの国境にあるビクトリアの滝だ。滝幅は1700㍍、落差108㍍の威容を誇り、南米のイグアス、北米のナイアガラと並ぶ世界三大瀑布の一つに数えられる。ところが、ここを訪れるのは年間100万人、規模が劣るナイアガラは桁違いの1200万人だ。アクション・プランでは「2016年に200万人、2020年には500万人に観光客を増やしたい」と5倍計画を打ち上げた。国をあげての観光情報の発信をしていきたいと意欲を見せた。

   私がアドバイスしたのは。国際的な海外メディアを使うこと。たとえば、イギリスの公共放送BBCは世界の地域おこしを紹介する「ワールド・チャレンジ」コンテストを実施している。このファイナル10チームに残ると、地域を紹介する番組が繰り返し流れ、投票が呼びかけられる。PR効果は抜群だ。日本でも、2011年に能登半島の「春蘭の里」がファイナルに残り、今やここで宿泊する1割がいわゆるインバウンドの客だ。

   予算が確保できない国、テロに見舞われる国、政変が起きやすい国、いろいろな事情がそれぞれの国にある。ただ、それを理由にせず前向きに、観光と向き合う世界の人々と接することができたことが何よりの収穫だった。(※写真は、10月30日の能登ツアーで輪島・千枚田を訪れたときのショット。千枚田は大規模な土砂崩れ現場であり、今もリスク管理の一環として、ここを通る国道249号の地盤は発砲スチロールを使用し、道路の重さを軽減する工夫がなされている)

⇒3日(祝)朝・金沢の天気   はれときどき雨

      

   

☆オートドライブの意義

☆オートドライブの意義

   高齢者と自動車運転をめぐる事故が最近多い。先月28日午後、73歳の男性が運転する軽自動車が宮崎県宮崎市内の繁華街を暴走し、2人が死亡、4人が重軽傷を負ったとの事故のニュースが報じられた。事故現場の歩道にブレーキ痕がなく、途中で加速したとの目撃談もあり、制御不能の状態に陥っていたようだ。また、男性には認知症での入院歴もあったという。老人が運転する車の暴走、そして逆走の事故が目立っている。高齢化社会の歪みの一つだ。

   高齢者(65歳以上)の4人に1人が軽度の認知症を患う社会。認知症の老人が家出して、行方不明となった人はこれまで1万人いると言われる。では、一律に老人には車は危険だからと言って、取り上げることはできるのだろうか。むしろ買い物など老人こそ車を必要しているのではないか。能登半島に出向くと、車を運転する老人たちが多くいる。まさに車がないと暮らせない。

   その能登半島の先端、珠洲(すず)市で金沢大学の研究チームによる、自動運転(オートドライブ)が実証実験プロジェクトが進んでいる。実証実験は今年2月に開始され、障害物や信号などを把握するセンサーやカメラなどを取り付けたトヨタ「プリウス」を使用して自動運転し、対向車や歩行者の複雑な動きも予測できるようデータを積み上げている。2020年をめどに高齢者の移動手段としての実用化を目指している。

   同プロジェクトの実験ルートはこれまで1コース6.6㌔だったが、先月27日から4コース延べ60㌔に拡大した。ルートの新設は、さらに学術的に自動運転の技術を総合的に加速する必要があるからだ。もはやオートドライブのシステム構築は、国際競争の段階になっているからだ。と同時に、日本では高齢化社会の課題にもなっている老人と車の課題解決への貢献が期待されるのだ。

   過日(9月11日)、プロジェクトの菅沼直樹准教授(ロボット工学)にお願いして、実際に自動運転のプリウスに実際に乗せてもらい、珠洲市の公道を走った=写真=。車道から駐車場に入るため右折する際も、対向車が来た場合は一時停止する。また、道路脇に倒木などの障害物があっても上手に避ける。なんとも快適なドライブだった。この地域はトンネルも多いため、GPSは使わず、車道の白線を自動的に読み取って走る。なので、雪道をどうドライブするか、今後の課題として残る。また、信号機の赤青黄の情報も読み取るが、晴天では逆光になって信号機などの情報は読みにくくなるといった状態にもなり、いろいろ課題もある(菅沼准教授)という。

  実際の市街地や一般道のいわゆる公道で60㌔の実証実験の取り組みは全国でも例がないかもしれない。この実証実験を通じて、オートドライブの車が完成し、老人が「病院へ行ってくれ」と声をかけると、「どちらの病院ですか」などと対話して、自動走行する社会が実現したら、老人と車事故の課題は解決する。生活動線でオートドライブを実用化する、何とも夢のある話だ。(※写真は、オートドライブで走行中。実験中は、ハンドルには触れないが、万が一のためを想定し、ハンドルに手をかざし、すぐ握れる状態にしている)

⇒2日(月)朝・金沢の天気    あめ

★「もてなし」の神髄

★「もてなし」の神髄

  ことし6月に能登半島の和倉温泉で中学時代の学年同窓会があった。いわゆる「還暦同窓会」なので豪華に祝おうと、幹事たちが恩師もお呼びしてと選んだ会場が「加賀屋」だった。能登半島で生まれた者にとって、「加賀屋」は「最高のもてなし」の場なのである。そう気軽に行けるところではない。小さな企業や町内会では「加賀屋講」といって、お金を数年積み立てて行くことがある。加賀屋といえば、「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」(主催:旅行新聞新社)で35年連続総合第1位の評価を受けていることでも知られる。

  40名余りが参加した中学時代の学年同窓会は全員が赤いちゃんちゃんこを着て、記念写真を撮影してもらうなどいたれり尽くせりのサービスだった。翌朝、金沢に帰るため早めに加賀屋の玄関を出ると、女将が見送りに出ていたいので挨拶した。名刺交換をすると、なんとこの名刺が画像変化カードなのだ。見る角度によって画像が切り替わり、3画面(客室係が並んで挨拶、浴場から見える海、宿泊部屋)の絵柄が出現する。旅館の女将の名刺だと、角の取れた和紙をイメージするのだが、画像変化カードは意外だった。女将の名前は小田真弓さん、その小田さんが日経新聞出版社から本を出した。『加賀屋 笑顔で気働き~女将が育んだ「おもてなし」の神髄~』

  35年間連続第1位のエッセンスが描かれている。そのポイントは「笑顔で気働き」という言葉に集約されている。客に対する気遣いなのだが、マニュアルではなく、その場に応じて機転を利かせて、客のニーズを先読みして、行動することなのだ。たとえば、客室係は客が到着した瞬間から、客を観察する。普通の旅館だと浴衣は客室においてあり、自らサイズを「大」「中」の中から選ぶのだが、加賀屋では客室係が客の体格を判断して用意する。そこから「気働き」が始まる。茶と菓子を出しながら、さりげなく会話して、旅行の目的、誕生日や記念日などを聞いて、それにマッチするさりげない演出をして場を盛り上げる。たとえば、家族の命日であれば、陰膳を添える。客は「そこまでしなくても」と驚くだろう。しかし、それが加賀屋流なのかもしれない。小手先のサービスではない、心のもてなしなのである。

  女将の仕事はそうした気働きのできる客室係を育てることにある。「約50年間、加賀屋で仕事をしてきましたが、客室係の育て方にはいちばん気を遣い、試行錯誤をしてきました」。この実感は今でも続いているようだ。ほめる場面を探して「ありがとう」と声掛け、注意する際は言い分を聞いてから、自己啓発の機会を与える、普段から細やかなコミュニケーション、プロとしての正確性を養うなど、こうした人材の育てのノウハウは上下関係だけでは決して方はられないことがよく分かる。女将の存在が輝かなければ人はついてこない。

  その女将の存在とは、一面で経営者であることだ。陶器が載った料理の御膳は数㌔の重さがある、これを何度も客室に運ぶとなると体力を消耗する。そこで、料理自動搬送システムを導入して、皿を揺らさずに客室近くまで運搬する。これによって、客室係は接客に集中できるようになる。保育園付きの母子寮を造り、仕事場と保育園が内線で連絡しあうようにしている。客室係が安心して働ける職場とは、重労働からの解放や母子関係の細やかな配慮が必要なのだ。それには企業家として投資の覚悟が欠かせない。加賀屋の女将が輝くのは人を育てる細やかな気遣いと、人材こそ企業成長のエンジンとして投資する意欲だ。冒頭で述べた、画像変化カードの名刺は経営者としての小田さんの顔だったのかもしれないと、この本を読んで納得した。

⇒26日(月)朝・金沢の天気   はれ

☆プラチナ社会への道

☆プラチナ社会への道

   金のようにギラギラとした欲望社会を目指すのではなく、プラチナのようにキラキラと人が輝く社会づくりを理念に掲げているが、まだ余り知られていない団体がある。「プラチナ構想ネットワーク」だ。会長は、小宮山宏氏、元東京大学総長で現・三菱総研の理事長でもある。日本を他国に先駆けて、たとえば少子高齢化、過疎化などの課題が顕在化している「課題先進国」と定義し、 この状況を困難であると同時にチャンスと捉え、国際社会で本来の競争力を持った国にするためにどう手を打つべきか、行政や経済界、学術関係の有志らが集うポータル的な団体組織だ。

   その解決の知恵を集めるのが「プラチナ大賞」制度。いろいろな創意工夫を通じて、過疎・高齢化などの地域の課題解決を目指す自治体や民間企業の取り組みを評価しようと、プラチナ構想ネットワークが2年前から実施している表彰制度だ。今年3回目となり、全国から57件の応募があり、昨日(23日)は最終候補に残った10件の審査発表会が東京・千代田区のイイノホールで行われた。その中に10件の中に、金沢大学が能登半島の珠洲市などと取り組んでいる、能登里山里海マイスター育成プログラムなどの大学連携(あるいは域学連携)のプログラムが残り、珠洲市の泉谷満寿裕市長と金沢大学の中村浩二特任教授が最終のプレゼンテーションに登壇した=写真=。

   発表のタイトルは「能登半島最先端の過疎地域イノベーション~真の大学連携が過疎地を変える~」。以下はその概要。珠洲市は日本海に突き出た能登半島の最先端に位置する。県庁所在地である金沢市まで約150㌔、車で約2時間余りかかるという地理的なハンディがあり、さらに奥能登地区(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)に大学などの高等教育機関がないことから、若い人は高校を卒業するとほとんどが市外に出てしまう。こうした中、昭和29年の市制施行当時(1954)、3万8千人だった人口は現在1万5千人に、年平均350人のペースで人口減少が進んでいる。高齢化率は44%を超える。

   2006年6月に泉谷氏が市長に就任したころチャンスがめぐってきた。金沢大学からの連携事業の提案があった。生物多様性をテーマとした環境保全プロジェクト「里山里海自然学校」(三井物産環境基金)だった。市内の空き校舎を双方で選定し、市側で改修整備し無償で貸与した。市民と大学の研究者が協働で調査するオープンリサーチセンターが誕生した。翌2007年、金沢大学、石川県立大学、奥能登の2市2町で「地域づくり連携協定」を締結し、連携を広範囲に広げて、「能登里山マイスター育成プログラム」の人材育成事業が始まる。金沢大学から、5名の教員スタッフが常駐し、主に45歳以下の若い方を対象に週末を中心としたカリキュラムを展開している。環境境保全型の農林水産業を実践的に学び、これまで9年間で、128名のマイスターが誕生した。この人材育成プログラムを受講するために、市外、県外から移住してくる若者も現れてた。珠洲市内だけでも、この事業を通して12名の若者が移住し、現在も定住している。東京から移住した女性はスイーツの製造販売と民家レストランを営んで、お年寄りに喜ばれている。同じく、東京から移住した男性は、和がらしの製造販売などの商品開発や、企画・デザインを生業として、インバウンドの能登旅行も手掛けている。最初、マイスターの活躍は点としての存在だったが、点と点が結びついて線となり、そして人数が増えるとともに、いまは面として、能登半島に活気をもたらしている。

   2011年には、「能登の里山里海」が国連の食糧農業機関から、佐渡とともに我が国初めてとなる「世界農業遺産」に認定されたが、その際にも、この人材育成事業が高く評価された。このような、域学連携や世界農業遺産の認定を受けて、市内のNPOなど民間団体による、生物多様性や里山里海を保全する活動も活発化している。金沢大学は、能登半島の先端という地の利を活かして、アジアの環境問題に関わる、大気観測も行っている。これからの高齢化社会を見据えた、自動運転システムの国内初となる公道での実証実験も珠洲市で実施している。さらに、珠洲市での人材育成事業のノウハウは、世界遺産であり、世界農業遺産にも認定されているフィリピンのイフガオの棚田で、JICA国際協力機構と連携した、人材育成事業へと展開している。

   発表時間は8分。大学と自治体が連携して多様な事業展開がここまで高まったことが評価され、見事に大賞・総務大臣賞を射止めた。泉谷市長は表彰の挨拶で、「人口の減少を食い止めることは並大抵ではなく、とても難しいことだ。しかし、大学との連携を通して地域の質と魅力を高め、プラチナ社会を、そして未来を切り開いていきたい」と述べた。

   同じく大賞・経済産業大臣賞は積水ハウスの「5本の樹で命あふれる笑顔のまちを」が選ばれた。生態系の保全などにつなげるため、クヌギやコナラなど地域の気候風土にあった在来種の植物を住宅の庭木などに植える取り組みを進めている。

⇒24日(土)午前・金沢の天気    はれ

★銀座の巨大なツル

★銀座の巨大なツル

   今月22日、北陸新幹線で東京に出かけた。銀座でホテルを予約したので、夜久しぶりに7丁目の銀座ライオンに入った。テレビ局時代、テレビ朝日で会議があり、系列の仲間たちと訪れて依頼、20年ぶりだろうか。ただ、今回は5階の音楽ビアプラザに。今回飲み仲間はいなかったので、ジョッキ片手にビアソングでも聴こうと。一歩入ると、そこは別世界。懐かしいアルプホルンの響きやアルプス民謡、思わず手を手拍子を打った。アルプホルンが順番に回ってきたので、つい調子に乗って、ラッパの口にご祝儀(1000円)を入れた次第。

   ふと5階の窓から外を眺めると、巨大なツルの影が3羽、窓の外にいるかの錯覚に捕らわれた。工事現場だ。ツルの影は銀座の夜景に映えた大型クレーン。6丁目の1区画全部が工事中だ。巨大なビルが再開発されているようだ。降りて、工事フェンスの工事広報看板を確かめると、敷地は9077平方㍍、地上13階・地下6階の巨大な複合施設が来年2016年11月には完成するようだ。「銀座6丁目プロジェクト」と名付けられているこの再開発工事は森ビルなどが「設計プロジェクトマネージャー」として名を連ねている。そこで、森ビルのホームページからその概要を以下拾ってみる

   「松坂屋銀座店」跡地を含む街区と隣接する街区の2つの街区、約1.4haを一体的に整備する再開発事業となっている。「Life At Its Best~最高に満たされた暮らし~」をコンセプトにしたリティの高い商業施設や、都内で最大級の1フロア貸室面積6100平方㍍の大規模オフィスも予定されている。さらに、「観世能楽堂」など文化施設も入る。「銀座エリア最大級となる大規模複合施設を計画しています」「銀座エリア全体のさらなる魅力と賑わいを創出するとともに、国内だけでなく、世界中の人々を惹きつける複合施設として、東京の国際競争力強化に貢献します」と誇らしげに書いてある。

   翌朝、今度はホテルの7階窓から眺めていると、6丁目だけではない、銀座界隈で巨大なツルがここを含めて4ヵ所で確認できる。どこかで見たことのある光景、そう、20数年前のバブル時代の光景ではないかと思った。銀座だけではない。JR有楽町駅から隣の東京駅まで電車に乗っても、車窓からは巨大なツルがあちこちにいる。

   バルブの光景と称したものの、日本の経済は「バブル経済」ではなく、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた開発など実需要に支えられたものだ。投機ではない。この銀座の光景が日本の各地に波及するのかどうか…。

⇒23日(金)午後・東京の天気  くもり