☆ハイブリッド戦争

☆ハイブリッド戦争

  昨日(12日)未明のトランプ時期大統領の初めての記者会見をテレビで視聴していて、この大荒れの会見が次の時代の到来を端的に象徴してると実感した。注目したのは、CNNのホワイトハウス担当記者が「報道機関を攻撃するのであれば質問のチャンスを与えてください」と訴えたの対し、トランプ氏は「あなたのところ偽ニュースだ」と質問をさせなかった。

  この偽ニュースとは、会見の前日(11日)に報道されたロシアのアメリカ大統領選への関与かんするニュースだ。以下、11日付のCNNウエッブ版(日本語)。「ロシアがトランプ氏の個人情報や財政情報も集めていたことを示す極秘文書が含まれていたことが分かった。事情を知る複数の米当局者がCNNに語った。」「添付文書の内容からは、ロシアがもともと米民主、共和両党について情報を収集していながら、民主党のクリントン陣営に不利な情報だけを公開していたことがうかがえる。ロシア政権がトランプ氏に肩入れしていた事実が裏付けられたと指摘する当局者もいる。」「文書の基になっているのは、英国の情報機関、対外情報部(MI6)の元工作員がまとめた35ページ分のメモだ。CNNはメモ自体の内容も入手したが、その詳細については独自の確認が取れていないため報道を差し控える。」

  少々長くなったが、要点はロシアはトランプ氏に有利に大統領選挙を進めるためにサイバー攻撃など行い、それだけでなく、ロシアはトランプ氏の個人情報や財政情報なども収集していた。しかし、この程度の記事で怒りの矛先がCNN記者に向かうものだろうか、と。

  というのも、ロシアがアメリカ大統領選の期間中、民主党のクリントン陣営幹部らにサイバー攻撃を仕掛け、メールを含む大量の情報を収集し、クリントン陣営に不利な情報だけを告発サイト『ウィキリークス』などに提供した疑いがあるということは、この記者会見でトランプ氏も「ロシアがやったと思う」と認めているのである。

  事の真贋は別として、この記者会見での様子を見て、「ハイブリッド戦争」という言葉を思い起こした。2014年ロシアが宣戦布告をせずにウクライナのクリミア半島に非正規軍を送り込んで制圧し併合した手法が「ハイブリッド戦争」と世界で言われるようになった。従来の国家と国家という争いの構図ではなく、非国家組織(極右や極左集団、テログループ、民兵などの非正規軍、サイバー攻撃集団、経済詐欺集団など)が、国家レベルではなく、狭い範囲で戦争に起こす構図だ。

  ロシアが前回のアメリカ大統領選で、民主党のクリントン陣営にサイバー攻撃を仕掛けたのも、明らかにハイブリッド戦争だろう。サイバー攻撃だけでなく、経済的手段やメディアを利用する方法もある。相手の社会に深く入り込んで、内部から政治的な意思を突き崩す方法である。おそらく、トランプ氏もこのハイブリッド戦争の仕掛け人になるのではないか。それも陰に隠れてではなく、堂々と実行するのがトランプ流かもしれない。この手法にメディアは無力だ。なぜなら、本来アメリカでもウオッチドッグ(権力監視)がメディアの役目だが、そんなものは不要というのが、あのトランプ氏が記者会見で見せた攻撃的なスタンスだった。

  なぜ、トランプ氏がCNNを目の敵にという理由をもう一つ。それは日本のメディアとはまったく異なる状況がアメリカにはあるからだ。日本のテレビ局は放送法の中で定められている、政治、とくに選挙での公平中立を守らなくてはならない。ところが、アメリカでは公平中立を旨としたフェアネス・ドクトリンがとっくの昔(1987年)に廃止され、テレビ局は政党色を強く押し出して報道している。たとえば、FOXは共和党、CNNは民主といったところが代表的だ。だから、もともとトランプ氏は民主党色が強いCNNを嫌っていたのだろう。このままだとメディアは無力化することになるのではないか。

⇒13日(金)朝・金沢の天気    くもり時々あめ

★涙の演説、荒れる会見

★涙の演説、荒れる会見

  アメリカのオバマ大統領が昨日(11日)在職2期8年の締めくくりの演説を行った。次期大統領のトランプ氏はきょう12日、当選後初めての記者会見を開いた。その二人の様子が余りにも対象的だったので、感想を述べてみたい。

  オバマ氏はイリノイ州シカゴでの退任演説で、リーマンショックとその後の景気回復、キューバとの国交回復、医療保険制度改革(オバマケア)、イランとの核合意など政権の政策の実績を述べ、「Legacy(政治的遺産)」を強調した。

  ちょっと感動したのはこの一節だった。Our Constitution is a remarkable, beautiful gift. But it’s really just a piece of parchment. It has no power on its own. We, the people, give it power – with our participation, and the choices we make. Whether or not we stand up for our freedoms. Whether or not we respect and enforce the rule of law. America is no fragile thing. But the gains of our long journey to freedom are not assured. 意訳すると、憲法は美しい贈り物だが、私たちが政治的に参加し責任ある選択をしなければ憲法はただの紙である。  

  本来、大統領の退任演説はホワイトハウスでするのが通例だが、今回オバマ氏の希望で、2008年大統領選で勝利演説をしたシカゴで市民を前に退任演説した。締めくくった言葉は、2008年と同じ「Yes We Can(私たちにはできる)」と、「Yes We Did(私たちは成し遂げた)」だった。この場所設定と締めくくりの言葉でも想像できるように、オバマ氏は「演出家」なのだ。自らのヒロシマ訪問、真珠湾への安倍総理の招へいもそうだ。演説中には涙をぬぐって見せた。役者でもある。

  一方、12日未明にあったトランプ氏の当選後初めての記者会見はテレビのニュースで見る限り荒れ模様だった。自身に不都合な情報を伝えてきたCNNテレビのリポーターからの質問を拒否する一方で、報道に手加減してきたテレビ局や新聞社には謝意を示すなど、メディアの選別を露わにした。このことを逆にCNNはどう伝えたか。12日付のCNNウエッブ版(日本語)は「ニューヨーク市内のトランプ・タワーで行われた記者会見では、メディアや政敵にも容赦ない批判を浴びせ、20日に就任した後も攻撃的なスタイルを変えない姿勢をはっきりさせた。」と記事で応戦している。

  そのほか記者会見では、20日の就任後は即座に医療保険制度改革法(オバマケア)の撤廃に乗り出し、メキシコとの国境を隔てる壁の建設を急ぐことなどが語られたようだ。ツイッターによる攻撃、「ツイ撃」から今度は本人の「口撃」が本格化しそうだ。

⇒12日(木)朝・金沢の天気    くもり時々はれ
  

☆続・広告のメッセージ性

☆続・広告のメッセージ性

  「これは、自虐ネタですよ」。大学の先輩教授は3日付の全国紙の広告を見て笑った。『早慶近』の特大文字とマグロの頭の写真が掲載された全面カラー広告。広告主は近畿大学だった。

   この特大文字を読者が普通に読めば、「早稲田、慶応、そして近大」。これまでは「早慶上智」だったが、最近は上智にとって代わって近大が早稲田、慶応と並んだ、と言いたいのだろうと解釈する。文章を読めば、3日が近大の一般入試出願の受付の開始日と書いているので、インパクトを狙った、自虐ネタだと理解できる。

   ウイキペディアによると、自虐ネタ(じぎゃくねた)とは、主にお笑い芸人が、漫才や漫談などの話題として使用する、自分を貶(おとし)めるネタのこと。自虐ネタの元祖はタレントの坂田利夫かもしれない。自ら「アホのサカタ」と歌って、そのキャラをネタに笑いをとる。

   今回の広告では、その自虐ネタを大学の広報目線で使っているということで価値が高いと感じる。文章を読むと、広告で言うべきことは言っている。「“早慶近”はさておき、日本は語呂がよいだけの大学の“くくり”に依存してませんか? こんなもん世界から見たら、通用するわけがない。2017年。そんな大学界の常識、そろそろ見直してもいい頃じゃないですか。」と。その通りだ。日本でしか通用しない大学のランクを表現する“くくり”はグローバルを標榜するこの社会にどのような価値や意味があるというのだろう。そのことをひと言せていただきたいとの意思が十分に伝わってくる。ただし、オチもつけている。「でも、さすがに“早慶近”て、言いだした自分でもアホくさくて、笑てまうわ。」。言葉表現といい、実に関西らしい自虐ネタのオチである。

    そして最後に“早慶近”の意味を披露している。「みなさまに早々に慶びが近づきますように」。この広告の練り方は深い。

⇒7日(土)夜・金沢の天気   はれ   

★広告のメッセージ性

★広告のメッセージ性

   けさ(5日)全国紙の朝刊を広げて少々驚いた。「これ、なんの広告だ」と。2ページの見開き白黒で、向かって左面に真珠湾攻撃の写真を、もう一方に広島に落とされた原爆によってできたきのこ雲の写真を配置してある。そして、「忘却は、罪である。」「人間は過ちを犯す。しかし学ぶことができる。世界平和は、人間の宿題である」のメッセージが添えられている。最初の印象は、宗教団体の広告かとも思った。出版社の宝島社が、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、日本経済新聞、日刊ゲンダイの全国版に掲載した広告だ。

   同社は昨年1月5日付でも、全国紙に「死ぬときぐらい好きにさせてよ」を掲載した。15段カラー見開きで、女優の樹木希林さんが水面に浮かぶ様子を、イギリスの画家・ジョン・エヴァレット・ミレイの名作「オフィーリア」をモチーフに写真で表現した。ほかにも、「子孫のために、借金を残す。」(2013年)、「ヒトは本を読まねばサルである。」(2012年)など。過去の作品の多くは、数々の新聞広告賞を受賞している。1998年から、商品では伝えきれない「企業として社会に伝えたいメッセージ」を発信したいと新聞広告を掲載している。

   企業のメッセージ性としてはインパクトがある。宝島社のホームページには以下の「広告意図」が掲載されていたので、全文を紹介する。

 今回の企業広告のテーマは「世界平和」です。
 2016年は、オバマ大統領の広島訪問、
 安倍首相の真珠湾訪問が実現した歴史的な年でした。
 そして2017年。世界は大きく変動することが予想されます。
 トランプ新大統領が誕生します。
 イギリスがEU離脱交渉を本格化し、
 難民問題は各国を揺るがすでしょう。
 変わりゆく世界にあっても、
 決して変わらない、変えてはいけない人間の目標が、世界平和です。
 そのために何ができるのか、何をすべきなのか。
 この広告が、それを今一度見つめ直すきっかけとなれば幸いです

⇒5日(木)夜・金沢の天気    くもり

☆人生の決断に「鶏の声」

☆人生の決断に「鶏の声」

   ことしの干支は酉(とり)、動物に当てれば鶏(にわとり)となる。中国では、鶏は夜明けを知らせる威勢の良い鳴き声から、吉兆をもたらすと言われているそうだ。日本でも、鶏にまつわる有名な神話がある。太陽神である天照大御神(あまてらすおおみかみ)が、天岩戸(あまのいわと)という洞窟に引きこもり、世が闇夜になってしまう「岩戸隠れ」だ。他の八百万の神々(やおよろずのかみがみ)は天照大御神の気を引いて、洞窟から出そうとする。よく知られている立役者がアメノウズメの踊りだが、闇夜に鳴き声を上げて夜明けを知らせる「常世の長鳴鶏(とこよのながなきどり)」もひと役買った。

  鶏って卵を産むだけでなく、太古から神話にもかかわる貴重な動物だったのだと改めて思いながら、元旦に届いた年賀状(141枚)を読んだ。そして分類してみた。賀状に鶏のイラストで酉年を表現していものが57通、「酉」という文字表現が8通、鶏ではなく鳥類(ツル、トキ、不死鳥、ダチョウなど)で表現しているものが24通、酉とは関係のない「謹賀新年」「富士山」「日の出」「家族」などで表現しているものが51通、残り1通はなぜか豚だった。過半数の89通が酉をイメージした賀状であったことを考えると、干支は今でも賀状に欠かせない年始のあいさつ代わりなのかと思う。

   「鶏」と言えば、実は人生の決断を迫られた思い出がある。50歳のときにテレビ局を辞した。人生の折り返し点で、悩んでいるとき、ある政治家が私にこう言った。「ニワトリのように強制換羽(きょうせいかんう)をしてはいかがですか」と。初めて聞いた言葉だった。

   養鶏業者の間の言葉だ。ニワトリは卵を産み始めてから8ヶ月ほどで卵の質が落ちてくる。この時点で、絶食させる。毛が抜け、衰弱したところでエサを豊富に与えると、また、良質の卵を産むようになる。その政治家は彼なりの解釈を聞かせてくれた。人もまた同じ仕事を続けているといつか周囲が見えなくなったり、アイデアが枯渇したり、その延長線上に嫉妬、やっかみが出てくる。それは人生の劣化の始まりなのだ、と。その年齢が50ごろ。そのとき、「家族が大切…」と言いながら現状を続けるのか、収入減を家族に理解してもらい別の道を歩むのか、それぞれの選択ですよ、と。私の場合、結局後者を選んだ。それから12年、今彼には感謝している。

⇒4日(水)夜・金沢の天気   くもり
   

★2017年の賀状を「読む」

★2017年の賀状を「読む」

  正月3が日、金沢は晴天に恵まれ、穏やかな年の始めとなった。以下は私の年賀状。

    謹  賀  新  年
 
   今年もよろしくお願いいたします。還暦を過ぎて、自分の至らなさにハッとすることが多々あります。先日お寺が点在する金沢の東山界隈を歩いていると、山門の掲示板にあった「その人を憶(おも)いて、われは生き、その人を忘れてわれは迷う」という言葉が目に入りました。仏教的な解釈は別として、人は若いころは諸先輩の言葉に耳を傾けていても、加齢とともに聞く耳を持たなくなり、我がままに迷走するものだと。これって自分のことではないか、と気がついて掲示板を振り返った次第です・・・。荒れ模様の世界情勢ですが、引き続き、人生のよきお付き合いをお願いいたします。

   いただいた年賀状から。かつての仕事仲間(新聞・テレビメディア)からの賀状。「世界もテレビ業界もいよいよ激動の時代へ。メディアの胆力が問われます」、「放送コンテンツのネット同時配信に向けて動きが本格化しています。ネットワークの在り方にも変化が出始めました」、「・・・『空気』や『言葉』が言論を抑え込んでいる。そんな時代になっていないかと、考えました。その答えははまだ見つかりません・・・」。新聞も放送メディアも大きな岐路に立っている。短文だが、ひしひしとその気持ちが伝わってくる。

   ITベンチャーの社長からいただいた賀状。「当社は新たなサービスの開発を目的として、今後発展が期待されるIoT技術の活用やデジタルマーケティングについて研究を行うIoTマーケティングラボをスタートいたします」。金沢のホテルの社長兼支配人からいただいた賀状。「おもてなしの神様は、細部にこそ宿る・・・20世紀を代表する建築家ミース・ファン・デル・ローエの『神は細部に宿る』の言葉通り、細かな設え、おもてなしのすみずみまで、金沢らしいこだわりをもって、お客様をお迎えします」。

   漆芸の重要無形文化財保持者(人間国宝)からいただいた賀状。「うるしの木は植樹して、12年から15年ぐらいで樹液を採取出来ます。その事を漆を掻くといい、一本の樹から約180mlぐらいしか採れません。・・・・昨年暮れに届いた漆を使い今年も仕事が出来る事に感謝いたし、新年のご挨拶申し上げます。」。漆芸と人生をともにする謙虚な心根がこちらの心にも響く一文だった。

⇒3日(火)夜・金沢の天気    くもり

☆大晦日 定なき世の定かな

☆大晦日 定なき世の定かな

  「大晦日 定(さだめ)なき世の定かな」と俳句を詠んだのは井原西鶴(1642-93)だった。以下は私独自の解釈だが、混沌としたこの世にもはや守るべき定(さだめ)というものはなくなったが、不思議と大晦日だけはみなが律儀に新年を迎えようと定めにしたがっている、と。

  西鶴が生きた1600年代の後半は寛永から元禄時代にまたがる。四代将軍・徳川家綱から五代・綱吉の世である。戦国の世を直接体験していない世代が大半を占め、社会の価値観や意識というものが大きく変化する時代だったと言える。綱吉が発した「生類憐れみの令」(1687年)はその時代の在り様を表現するシンボリックな事例だろう。人を含む生き物すべてを慈しみ、その生命を大切にしようとする、まさに「平和な時代」を象徴している。西鶴は大坂で名を成したが、大坂と江戸で同時発売した『好色一代男』(1682)はベストセラーになり、続いて『好色一代女』(1686)も大流行。「浮世草紙」(小説)という文芸作品のジャンルを築いた。

  話を元に戻す。「大晦日の定(さだめ)」とは何か。そのヒントが『世間胸算用(せけんむねさんよう)』(1692)にある。この浮世草紙の副題は「大晦日は一日千金」である。ネットで現代語訳を見つけ、読むうちにこの作品は当時のリアルなドキュメンタリ-ではないかと思えてきた。まず、出だしがこうである。「世の定めで、大晦日の闇は神代このかた知れたことなのに、人はみな渡世を油断して、毎年一度の胸算用が食い違い、節季を仕舞いかねて困る。というのも、めいめい覚悟がわるいからだ。この一日は千金に替えがたい。銭銀のうては越されぬ冬と春との峠が大晦日、借金の山が高うては登りにくい。」

  つまり、大坂の商人にとって1年の総決算である大晦日に時間を絞って、金の貸し手と借り手との駆け引きを中心に、年の暮れの庶民の姿を描いているのだ。取り立てる側、取り立てから逃げる側の攻防を描いた。

  借金の取り立てを逃れるため、遊女の宿で身を隠していた男性がつい大騒ぎして、声が外に漏れてしまう。すると、取り立ての若い衆2人が宿に乗り込んできた。「旦郡、ここに居やはりましたか。今朝から四五度も御宅へ伺いましたが、お留守では仕方がおまへなんだ。よいところでお眼にかかりました」と、何やら談判した挙句、あり金全部と、羽織、脇差、着物類までまき上げてしまって、「残りは正月五日までに」、と言い捨てて帰った。

  『好色一代男』が描かれたことは経済的に活況だったが、『世間胸算用』が世に出た頃は逆にある意味でバブル崩壊で、商売に失敗した人々の貧乏長屋があちこちに立っていたと言われる。江戸時代は、盆と正月が商売上の支払期限(いまでも業種によってこの日が期限)となっていて、借金している者はいよいよ返済に迫られ、切羽つまるのが大晦日だ。西鶴の筆は、金が一番動く大晦日に絞って、無名の庶民の悲喜こもごもを実録風に描いた。作家としての鋭い構成に感服する。

31日(土)午後・金沢の天気    あめ

★2016 ミサ・ソレニムス‐続々

★2016 ミサ・ソレニムス‐続々

        先ほど2016年最後の取引となる日の東京株式市場で日経平均株価が大引けとなった。終値は前日に比べ30円77銭安の1万9114円37銭。12月に入り、「トランプ効果」を期待して、2万円突破かなどと言われていたが、やはり相場は相場だ。

   最近のニュースで、いろいろ数字が気になった。というよりショックだったのが、厚生労働省が発表した統計だ。2016年に国内で生まれた日本人の子どもの数は98万1000人で過去最低で、統計を取り始めた1899年以降初めて100万人を割り込む見通し、と。これにともなって、死亡数が出生数を上回る自然減は10年連続となり、人口減に歯止めがかからない。

         いつの間にか恐ろしい数字が飛び交っている

   さらに数字を拾っていくと、日本は年間に30万人ずつ人口が減っている。この減り方は、出生数の減と高齢化の増で今後は50万人、60万人と減少幅は大きくなっていくことになる。現在の鳥取県(57万人)、島根県(69万人)、高知県(73万人)くらいの人口分が年に一つずつ消滅していくことになるだろう。そうなると、次世代の地域を誰が支えるのか、国民一人ひとりの負担額は大きくなってくる。では、移民政策を推し進めるのか。移民が流入するヨーロップの混乱ぶりを見ていると、簡単に移民政策をと主張することもできない。では、座して死を待つのか、新年をまえに何とも暗く重苦しい気分になってくる。

   とんでもない数字が飛び交った。経済産業省が、東京電力福島第一原子力発電所の賠償や廃炉費用の合計が20兆円を超えると試算しているという。11兆円としてきたこれまでの想定の2倍に膨らんでいるのだ。福島第一原発の事故の賠償や廃炉などにかかる費用が20兆円を超える規模に膨らむ見込みであることが分かった。当初の見込みでは賠償は5兆4000億円、除染は2兆5000億円、廃炉は2兆円で約11兆円。それが、新たな試算では賠償は対象が増えて8兆円、除染は長期化により4兆円から5兆円に膨らみ20兆円を超えたのだ。増加分を誰が負担するか。原則的には、東京電力だが、一部は電気料金に上乗せされる見通しだという。

   福島原発事故を受けて、多くの国民は原発に否定的な眼差しを向けるようになった。鹿児島県知事選(7月10日)や新潟県知事選(10月16日)の結果でもそれが如実に表れている。しかし、政府は、原発に依存するエネルギー政策を維持しており、2030年度には全発電に占める原発の割合を20-22%にするという目標も打ち出している。今後新たに原発を建設しないとこの目標は達成できないとも言われている。

   原発の運転で生じるプルトニウムもたまり続けている。すでに国内外に50トンのプルトニウムがある。プルトニウムは原爆の材料にもなる危険な物質だが、原発で使う核燃料の材料にもなるという理由から政府はプルトニウムを増やす施設の建設を続けていく方針だ。北欧ではプルトニウムを地下数百㍍に埋める仕組みを実現させようとしている。仮に処分できたとしても、無害化まで10万年かかるようだ。人間がとうてい責任を負えないようなとんでもない数字が飛び交っている。

⇒30日(金)夕・金沢の天気   くもり

☆2016 ミサ・ソレニムス-続

☆2016 ミサ・ソレニムス-続

  真珠湾攻撃から75年、安倍総理がアメリカのオバマ大統領とともにハワイの地・パールハーバーを訪れ、かつて攻撃した側と攻撃された側の国の首脳がそろって慰霊した。日本のマスメディアは「謝罪はせず」という見出しをあえて立てて、この慰霊の様子を報じた=写真=。5月にオバマ氏が広島を訪問したときと同じように、安倍総理も謝罪に関することは口にしなかった。では、日本の総理の真珠湾訪問は、アメリカ、日本の両国民にどのように映ったのだろうか。

  パールハーバーで「不戦の決意」を語った総理の演説は格調高かったのではないか。とくに最後の2フレーズだ。「私たちを見守ってくれている入り江は、どこまでも静かです。パールハーバー。真珠の輝きに満ちたこの美しい入り江こそ、寛容と、そして和解の象徴である。私たち日本人の子どもたち、そしてオバマ大統領、皆さんアメリカ人の子どもたちが、またその子どもたち、孫たちが、そして世界中の人々が、パールハーバーを和解の象徴として記憶し続けてくれることを私は願います。そのための努力を私たちはこれからも惜しみなく続けていく。オバマ大統領とともに、ここに固く誓います。ありがとうございました。」

       「場の演出」の総合プロデューサーは誰か

      とくに練られていると感じた言葉は「パールハーバーを和解の象徴として記憶し続けてくれることを(will continue to remember Pearl Harbor as the symbol of reconciliation.)」の下りだ。アメリカ人にとって、「remember Pearl Harbor」は憎しみを喚起する言葉だ。そのフレーズをあえて使って、「remember Pearl Harbor as the symbol of reconciliation」としたことだ。

  これに対し、オバマ氏はこう応えた。「As nations, and as people, we cannot choose the history that we inherit. But we can choose what lessons to draw from it, and use those lessons to chart our own futures.Prime Minister Abe, I welcome you here in the spirit of friendship, as the people of Japan have always welcomed me. I hope that together, we send a message to the world that there is more to be won in peace than in war; that reconciliation carries more rewards than retribution.(国も、人間も、自分たちが受け継ぐ歴史を選ぶことはできません。でも、歴史から何を学ぶかは、選ぶことができます。安倍総理、私は友情に基づいて、あなたを歓迎します。日本国民が常に私を歓迎してくれてきたように。戦争ではなく、平和で勝ち得るものが多く、和解は報復よりも報われるというメッセージを、私たちが一緒に世界へ送りたいと願っています。)」

  双方の演説を読めば、今回の安倍総理の訪問は日本とアメリカの同盟関係をより強化するというコンセプトだったことが理解できる。オバマ氏の広島訪問のときもそうだった。両国のトップが互いに「シンボリックな場」を訪れ、献花し、慰霊した。「場の演出」とすれば、官邸やホワイトハウス、国会や上院などに比べれば、パールハーバーやヒロシマはより臨場感があり、同盟関係の強化を双方が強烈にアピールできた。そう理解すれば、「謝罪の言葉」はこの場にはそぐわない。

では一体誰がこのような「場の演出」を見事にプロデュースしたのか。これまでの経緯をたどると、総合プロデューサーはオバマ氏だ。演説は格調高かったが、安倍総理はオバマ氏の演出に乗った役者だった。では、トランプ次期大統領にはこのような「場の演出」ができるだろうか。トランプ氏にはそのセンスがどうもなさそうだ。

⇒29日(木)朝・金沢の天気     くもり

★2016 ミサ・ソレニムス~下

★2016 ミサ・ソレニムス~下

  最近、社会活動を行うNPOなど団体で「CSV」という言葉がよく用いられる。CSVCSV(Creating Shared Value)は共通価値の創造、略して「共創」とも言う。これまで、CSR (Corporate Social Responsibility)という言葉をよく耳にした。企業による社会貢献、あるいは企業の社会的責任だ。CSVは組織の枠を超えて、企業や地域、人々と新たな文化的なつながりや、道徳的な規範、政治的な価値共有などもこれに入るかもしれない。

   次なる世界史の序章が始まる

  このCSVを歴史的に、グローバルに展開してきたのはアメリカだったと言っても、それほど異論はないだろう。1862年9月、大統領のエイブラハム・リンカーンが奴隷解放宣言(Emancipation Proclamation)を発して以来、自由と平等の共通価値の創造の先頭に立った。戦後、共産圏との対立軸を構築できたのは資本主義という価値ではなく、自由と平等の共通価値の創造だった。冷戦終結後も、その後も自由と平等の価値創造は、性、人種、信仰、移動とへと進んでいく。アメリカ社会では、こうした共通価値の創造を政治・社会における規範(ポリティカル・コレクトネス=Political Correctness)と呼んで、自由と平等に基づく文化的多様性を標榜してきた。

  ところが、ここに来てポリティカル・コレクトネスを標榜し、先頭に立ってきたアメリカの白人層は疲れてきた。そして「これは偽善ではないのか」と思うようになってきた。誰もが自由と平等で、それは誰かの犠牲に上に成り立っている偽善だ、と。アメリカ社会は薬物を社会にまき散らし治安を乱している不法移民に甘い顔をして彼らを事実上受け入ている。ポリティカル・コレクトネスに我々は圧迫されている、これは偽善だ、と。そのような声なき世論の盛り上がりのタイミングにトランプ氏が大統領選挙に向けて動き出し、そしてその座を勝ち取った。

  イギリスのEU離脱をはじめ、今回のトランプ勝利をひとくくりに「ポピュリズム(Populism)の嵐」と称する向きもある。ポピュリズムは、国民の情緒的支持を基盤として、政治指導者が国益優先の政策を進める、といった解釈がマスメディアなどではされる。果たしてこんな単純な意味づけでよいのだろうか。当初、マスメディアでは「トランプを支持したのは白人労働者だ」と。もっと広く、トランプ勝利を押し上げた「声なき声」があるのではないか。それは自由と平等の共創に疲れた白人インテリ層ではなかったのか。

  2017年、トランプ大統領が始動するとおそらく世界の秩序は次なるステージに入る。自由と平等の共創ではなく、価値の分断だ。アメリカ独自の価値判断がその基準だろう。次なる世界史の序章が始まる。

⇒27日(火)朝・金沢の天気   くもり