☆豊穣の海、国難の海

☆豊穣の海、国難の海

   今月6日午前0時を期して日本海側でズワイガニ漁が解禁された。香箱(こうばこ)ガニと呼ばれるメスは来月12月29日まで、オスは来年3月20日までの漁期。きょう8日夕方、近所のスーパーマーケットに季節のものを求めに。こうなると不思議と足取りが軽く速くなる。魚介類の売り場に着くと同じ思いの人たちだろうか、茹でガニのコーナーをじっとのぞき込んでいた。見ているのは産地と値札である。私は迷いなく、能登半島の「蛸島(たこじま)産」のものを選んだ。

   これは蛸島漁港で水揚げされたズワイガニだ。同漁港は能登半島の先端部分にある。金沢から距離にして150㌔、能登沖で漁をする漁船の水揚げの拠点になっている。半島の先端で、水揚げして、陸路で金沢に搬送することになり、海路で金沢港に持ち込むより時間的に速く、その分鮮度が保たれるというわけだ。茹でガニのパックを手にしてレジへ。3980円。価格は去年とほとんど変わらず。旬のものなので確かに高価だ。少し値段が落ちる、来週まで待てるかというとそうでもない。もし時化(しけ)が続いて、漁そのものができなければ、値段どころか、口にも入らない。旬が買い時だ、毎年同じようなことを思って自分を納得させて高値づかみをしている。

    能登のズイワガニには能登の酒がマリアージュ(料理と酒の相性)と勝手に思い込んでいて、同漁港の近くの造り酒屋の「宗玄」と「赤大慶」を予め仕込んでおいた。ぴっちりと締まったカニの身には少々辛口の宗玄、カニ味噌(内臓)には風味がある赤大慶が私の口にはしっくりなじんだ。

    「豊穣の海」を感じる日本海だが、「国難の海」でもある。地元紙は連日のように、スルメイカの漁場・大和堆での北朝鮮漁船による違法操業について伝えている。大和堆は日本海のほぼ真ん中に位置し、もっとも浅いところで水深が200㍍。寒流と暖流が交わる海域でもありプランクトンの豊富な好漁場。日本のEEZ(排他的経済水域)であるにもかかわらず違法操業が続いている。

    北朝鮮の木造漁船はイカ網漁だが、集魚灯が装備されていない。日本のイカ釣り船団(中型イカ釣り船)がやってくると、そのそばに寄って来て網漁を行う。スクリューに網が絡まる事故を恐れる能登の船団などは、北海道沖の武蔵堆へ移動を余儀なくされている。これまでの報道では海上保安庁の取締船が8月までに延べ820隻に警告や散水して退去させたが、今も数百隻が居座り続けているようだ。

    石川県漁協では国への陳情を続け、臨検や拿捕(だほ)といった厳しい取り締まりを要望しているが、違法状態は続いている。弾道ミサイルを日本海に続けさまに撃ち込んでいる北朝鮮の情勢を推し測ると、これ以上の関わりを保安庁としては持ちたくないのだろうか。安倍政権は国難の打破を掲げて、衆院選を断行し再び政権の座に就いた。その公約を日本海で実装してほしい。

⇒8日(水)夜・金沢の天気    はれ

★ドナルドとシンゾーに望む‐追記

★ドナルドとシンゾーに望む‐追記

   それにしても「見事な外交手腕」だ。去年12月、真珠湾攻撃から75年、安倍総理がアメリカのオバマ大統領とともにハワイのパールハーバーを訪れ、かつて攻撃した側と攻撃された側の国の首脳がそろって慰霊した。その前の5月にオバマ氏が広島を訪問し、原爆犠牲者の慰霊碑に花を手向けた。両首脳は謝意といった外交辞令のような言葉をあえて口にしなかったが、世界の人々は日本とアメリカの信頼関係を視覚で実感したのではないだろうか。

    不思議だったのは、安倍総理がトランプ氏が大統領就任前の去年11月、ニューヨークのトランプ・タワーの私邸を訪ね、1時間半の非公式会談を行ったことだ。いくら日本とアメリカの信頼関係が不可欠であるとしても、就任前に私邸を訪れたことに、違和感を感じた国民も多かった。私自身も「そこまで愛想しなくても」と。海外メディアなども「charm offensive」ではないかと皮肉っていた。ちなみに、charm offensiveは目標を達成するために意図的にお世辞や愛想をふるまうこと。

   そのcharm offensiveから1年、きょう(5日)は日本の地を初めて踏んだトランプ大統領と安倍総理は「霞ケ関カンツリー倶楽部」(埼玉県川越市)でゴルフを楽しんだ。2月にフロリダに続いて2度目のゴルフ外交だ。トランプ氏は去年の大統領選の期間中、一貫して「大統領に就任すれば、日本などアメリカ軍が駐留する同盟国に駐留経費の全額負担を求める」などと演説していた。そのときの、緊張感に比べれば何の「しこり」もない、実に爽快なプレーだ。

   中国、北朝鮮、ロシアといった隣国が核保有国でもあり、日本にとっては誰が大統領になろうとも、日本とアメリカの同盟関係、信頼関係を確定しておくことが、日本の安全保障に必要なことを安倍総理は理解しているのだろう。その意味では見事な外交手腕だ。

※写真は総理官邸ホームページ(5日付)より

⇒5日(日)夜・金沢の天気    はれ

☆ドナルドとシンゾーに望む

☆ドナルドとシンゾーに望む

    面白いキャッチフレーズだ。安倍総理はあす(5日)、来日するアメリカのトランプ大統領を出迎え、ゴルフを楽しみ日米会談に臨む。すでに、二人は「ドナルド、シンゾー」と呼び合う仲だそうだ、二人でぜひとも世界平和を実現してもらいたい。課題は山積している。

   日本海側に住む国民の一人として、やはり北朝鮮による違法操業はなんとかしてほしい。能登半島の北300㌔にある大和堆(やまとたい)にはEEZ(日本の排他経済水域)であるにもかかわらず、北朝鮮の木造船が大挙して押し寄せていると、地元の新聞各紙は報じている。それによると、北朝鮮の木造船が日本の漁船の集魚灯を目当てに次々と近づいてくる。北朝鮮の船は釣りではなく、漁網によるイカ漁であり、その漁網が日本の漁船のスクリューに絡まった場合、船の損傷となることから避けている。それをさらに集魚灯目当てに追いかけてくるというのでタチが悪い。日本で有数の漁場が無法地帯と化しているのだ。

   そして空だ。これも地元紙での報道なのだが、漁船保険の一種で、戦争による攻撃の被害に備える戦乱等特約への加入が急増している。この特約を販売している日本漁船保険組合での加入は去年実積で235隻だったが、今年は10月末ですでに1630隻に上っているという。北朝鮮の弾道ミサイルが8、9月の2度上空を通過した北海道では特に増えているというのだ。戦乱等特約は通常の漁船保険に追加で契約するものだ。有事の際の補償対象が船体だけでなく、乗組員の生命や積み荷も補償対象となっている。

         北朝鮮は9月3日に6回目の核実験を実施した。同15日に弾道ミサイルを日本上空に飛ばした。それを国連総会で、トランプ大統領が「ロケットマンが自殺行為の任務を進めている」と演説した(同19日)。世界各国が国連安保理の制裁決議に同調するようになったはこのころだろう。「ロケットマン」演説の通り、この国の暴発をどのように防ぐのか。

⇒4日(土)夜・金沢の天気    はれ

   

   

   

★「イノシシの天下」

★「イノシシの天下」

   「イノシシの天下」という言葉を初めて聞いた。能登半島はマツタケの産地なのだが、このところイノシシがマツタケをほじくって各地で大きな被害が出ているようだ。そのことを、土地の人たちは「もうマツタケは採れない、イノシシの天下や」と嘆いているのだ。

    きょう(3日)能登町でキノコ採りをしている知人から聞いた話だ。アカマツ林の根元が掘られて、毎年採れるマツタケがなくなっていた。根元がほじくられているので、「おそらく来年からは生えてこないだろう」と肩を落とした。あちこちでこうしたイノシシによる被害があり、「能登のマツタケは壊滅だ」という。マツと共生する菌根菌からマツタケなどのキノコが生えるが、イノシシによる土壌の掘り返しで他の菌が混ざるとキノコは生えなくなることが不安視されているのだ。

   春にはタケノコが同じくイノシシに荒らされたとも知人は嘆く。さらに、「ブドウ畑もやられているようだ」と話してくれた。赤ワイン用のソービニオン系の品種を栽培している農家が被害に遭っているという。

   こうしたイノシシの被害に対して、「デンサク」と呼ばれる電気柵を畑の周囲に張り巡らす方法がある。イノシシの鼻の高さの地上40㌢ほどで設定して、イノシシに電気ショックを与えると近寄ってこない。問題もある。面積が限られる畑の場合はそれでよいが、マツタケ山のような広範囲を張り巡らすことはコスト的に難しい。ましてや、農作物と違って、年によって不作の場合もあるキノコの場合、デンサクを設けても労力が報われない場合もあるのだ。

   石川県の「イノシシ管理計画」(平成29年5月)によると、一般にイノシシは多雪に弱く、積雪深30㌢以上の日が70日以上続くことが生息を制限する目安と言われているが、平成以降で「70日」を越える年は平成3年、7年、18年、23年、24年、27年の5回のみで、いわゆる暖冬傾向がイノシシの生息拡大に拍車をかけている。

   能登半島の先端である奥能登地域(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)では平成22年からイノシシによる農業被害が出始め、年々増えている。このイノシシ被害に危機感を持った人々の中には狩猟免許を取って、鉄檻を仕掛けて捕獲に乗り出すケースも増えている。自治体ではイノシシの捕獲報奨金として1頭当たり3万円(うり坊など幼獣は1万円)を出している。
輪島市で捕獲されたイノシシは平成28年度690頭(同27年度117頭)、珠洲市で平成28年度432頭(同27年度119頭)と格段に増えている。

   問題は、捕獲頭数が増えたから頭数が減ったといえるのか。その逆だ。絶対数が増えているから捕獲頭数が増えたにすぎないのだ。イノシシのメスは20頭の子を産むといわれる。「イノシシの天下」。この現実をどうすればよいのか。

⇒3日(祝)夜・金沢の天気   はれ

   

☆林業のイメ-ジが変わる

☆林業のイメ-ジが変わる

   これまでの林業のイメージがガラリと変わった。山林での木の切り出しは、林業機械 ハーベスターで立木の伐倒、枝払い、玉切り(規定の寸法に切断)、集積がその場で行われる。まさに1台4役なのである。これまで伐採や枝払いはキコリの職人技とばかり思っていた。林業機械を操縦するのは人だが、まるで山で働くロボットの光景だ。

   昨日(1日)金沢大学が実施している社会人の人材養成事業「能登里山里海マイスター育成プログラム」で、森林行政や木材加工に携わる受講生たちがチームで開催した「林業ワークショップ」があり、仲間内の勉強会なのだが、参加させてもらった。開催趣旨は「林業の現場でも機械化が進み、安全性と効率に優れた伐採・搬出用の様々な機械が活躍しているが、森林所有者や住民が目にする機会はこれまでほとんど無かった。知られざる木材生産のプロセスを間近で体験できるワークショップ」。

    午前9時、能登空港に集合し乗り合いで山林に入った。アテ(能登ヒバ)とスギの50-60年の人工林だ。ハーベスター=写真=が機敏に動いている。立木の伐倒、枝払い、玉切りなど造材を担うのはハーベスターヘッド。枝払いなどは1秒で5㍍もアッという間に。ディーゼルエンジンに直結した発電機で発電し、発電機から得る電力でモーターを駆動させる。燃料のこと気になって、休憩に入った操縦士に質問すると。1回の給油(軽油)で160㍑、2日でなくなるので1日当たり80㍑の計算だ。現地を案内してくれた能登の林業者は「道づくりは山づくりなんです。道づくりによって、山の資産価値も高まるんです」と。なるほど、その道づくり(森林作業道)も別の重機でこなしていく。山にマシーンは欠かせない。

   丸太切りで造材された木材は木材市場に運ぶのではなく、渡場(ドバ)と呼ばれる近くに設置した集積場に運搬車で運ぶ。ここに買い付け業者が来て、売買が始まる。いわゆる「山の地産地消」だ。トレ-サビリティでもある。これまで、ひと山いくらで売買が成立して、伐採したものは製材所に運ばれていたが、使える木と使えない木があった。そこで、現地で交渉して必要な木材を選んで交渉する。チップ材、あるいはベニヤ材、それぞれ用途に応じて業者が買い付けにくる。

   もう一つ、林業のイメージを変える光景があった。女性が関わっていることだ。この林業者は女性を「林業コーディネーター」として女性を採用している。5年前に法律が改正されて、森林所有者、あるいは森林の経営の委託を受けた業者が森林経営計画書を市町村などに提出して、伐採や造材、出荷など行う。その面積は30㌶以上であり、複数の山林の所有者に林材の切り出し、つまり山の資産価値を説明して事業計画に参加してもらう必要がある。

   とは言え、能登の山は「木材生産林として使えるのは3分の1しかないのが現状です」とSさん。3分の2が使えない理由はいくつかある。たとえば、道をつけるにしても山の境界が分からない、所有者が不明というケースが多い。また、能登の場合は農業用水として使う「ため池」などの水源近くで作業をすると、水が濁るの歓迎されないということもままあるようだ。

   いくつかハードルを超えて森林経営計画書を提出して認可されれば、所得税や相続税の優遇、金融機関の融資、森林環境保全直接支援事業(造林補助)などの補助金など得て、着手ができる。Sさんは「手入れされた森林を次世代につなぐこと。木材の価値を高め、利益を山に還元することを丁寧に説明すると、山持ちの方は納得してくれます」と微笑んだ。

⇒2日(木)朝・金沢の天気   はれ

★大学連携の社会実装、11年目

★大学連携の社会実装、11年目

   日本が直面する課題、それは人口減少、急速な高齢化、老朽化するイ都市や道路のインフラ、活力を失う地方、荒廃する農地、財政を圧迫する社会保障全般など挙げればきりがない。まさに日本は課題先進国である。物質的な豊かさを享受した先進国ならではの解題でもある。むしろ、こうした課題の解決策を探ることができる日本は「課題解決先進国」でもある。

    こうした課題解決を目指すべき社会を「プラチナ社会」と定義し、地域でさまざまイノベーションに取り組んでいる自治体や企業、団体を表彰するのが、民間団体「プラチナ構想ネットワーク」(会長:小宮山宏元東京大学総長)だ。ちなみに、金のようにギラギラとした欲望社会を目指すのではなく、プラチナのようにキラキラと人が輝く社会づくりを理念に掲げている。その「プラチナ大賞」の第3回大賞・総務大臣賞(2015年)に、珠洲市と金沢大学が共同でエントリーした「能登半島最先端の過疎地イノベーション~真の大学連携が過疎地を変える~」が選ばれた。プラチナ構想ネットワーク事務局から、受賞から2年間の取り組みを報告してほしいと依頼され、過日(10月26日)、同市の担当者と2人で東京・イイノホールでに出かけた。
  
   以下、報告の概要だ。金沢大学から160㌔北、半島の最先端で珠洲市から廃校舎をお借りして、能登学舎を設立した。最初は、三井物産環境基金を活用して、市民交流と研究を兼ねた拠点である「里山里海自然学校」というプログラムをつくった。博士研究員を1人配置して、市民と一緒になって生物調査や田んぼの生き物など行った。研究者と市民がともに調査に参加する、オープンリサーチという手法だ。その翌年2017年に文科省の事業費で「能登里山マイスター養成プログラム」という社会人を対象とした人材養成プログラムをスタートさせた。

   能登の農業や森林や海の資源、文化資源を活用して地域の生業(なりわい)づくりをしていく若者を育てるというコンセプトだ。ここに若手教員や博士研究員らスタッフを増員して、独自の研究調査も実施している。能登における里山里海の価値を再評価すること、能登における持続可能な到達目標SDGsをどのように進めていくか、国連のFAOが認定する世界農業遺産のグローバル連携、そしてベンチャー・エコシテム、つまり起業環境の構築を併せてミッションとしている。マイスタープログラムの実施に当たっては、同市の自然共生室との連携を密にしている。大学の研究調査の総合窓口でもある。こうした大学の専用の窓口を持つ自治体は全国でも少ない。

   マイスタープログラムの卒業要件は卒業課題研究だ。15分の公開での発表を審査する。このプレゼンまでに調査やヒアリング、発表の技を磨くわけだが、受講生全員が発表にこぎつけることができるわけではない。人前で発表し、卒論の審査にパスしたという実積が本人のモチベーションをとても高めることになる。卒業課題研究のテーマは、農業に関することが25%ともっとも多く、次が林業、3番目が起業などとなっている。ツーリズムや子育て環境づくりなどとても多彩なテーマだ。144人の修了生を輩出したが、その後も自らの課題研究を極めて実装するケースが多く、社会的ビジネスとして起業したものが11人、農林漁業の担い手として14人が新規就業している。能登でノベーションを担うのは、彼らだと確信している。

   同市の担当課長はこの秋に実施した国際芸術祭に触れ、アートの地域インパクトの大きさを実例を挙げて報告した。さらに市長のビデオメッセージが会場に流してもらった。20分余りの報告だったがコンパクトにまとまったものとなった。会場の最前列で小宮山会長がうなずいて聞いておられる様子が見えた。

   同市と金沢大学の連携事業はもう11年になる。地域と大学との連携は型にはまったものではない。「大学でしかできないことを、大学らしからぬ方法で社会実装する」。いつもの肝に銘じていることである。

⇒1日(水)朝・金沢の天気   はれ

☆「選挙一過」の光景

☆「選挙一過」の光景

   23日、台風21号が北陸を去ってしばらく青空がのぞいた。すっきりと晴れ渡った金沢の家並み、山河はまさに台風一過の透明度の高い風景だった。衆院総選挙は与党が定数の3分の2(310議席)を超える議席を獲得した。そこから見える光景もまた、くっきりと見える「選挙一過」の政治の光景だ。

    すっきりと見えた山が「株高」だった。23日、日経平均株価は2万1696円と上昇し、ことしの最高値を更新し29年ぶりの高値水準、15営業日連続の値上がりは57年前の14営業日連続の値上がりの記録を超え「史上最長」と、メディアは報じている。「天晴(あっぱれ)」と言うべきか。

   すっきりと見えた公約は消費税率を10%に引き上げること。国の借金減らしに当てる分を削って、幼児教育の無償化などに使うと宣言して安倍総理は解散に踏み切ったのだから、これは間違いなく実行されるだろう。曇り空も見える。では、消費税の使い道を見直すことで財政再建が遅れることを国民にも国際的にも説明責任がある。もう一つ見逃せないのが日銀による大規模な金融緩和が継続されるということだ。

   選挙一過のもう一つの光景は北朝鮮。首班指名を行う特別国会は来月1日に招集され、第4次安倍内閣がスタートする。その最初の大仕事が「トランプ大統領との外交展開」だと読む。5日に2泊3日で日本を訪れるトランプ大統領はゴルフだけをするわけではない。北朝鮮問題、とくに「斬首作戦」の日程の双方合意ではないかと個人的に勘ぐっている。そう推測する理由は、今月20日の各社が伝えている、安倍総理がトランプ大統領を護衛艦「いずも」(全長248㍍)に招待するというニュースだ。「いずも」は海上自衛隊最大級の護衛艦だ。報道各社は「強固な日米同盟をアピールする狙い」など報じているが、本来の狙いは「朝鮮半島有事の際はこの護衛艦を出す」とアピールするためではないか。

   アメリカ軍の機関紙「星条旗新聞(Stars and Stripes)」は今月23―27日で、非戦闘員救出作戦(NEO)訓練を実施すると報じている(9月12日付)。大使館員やアメリカ軍の家族、民間人らが旅券などを持って韓国内に18ヵ所の避難所に集まり、航空機や船舶で日本に逃げる退避訓練だ。その記事の見出しがすべてを物語っている。「US military plans semiannual evacuation drills against backdrop of North Korea tensions」。通常の訓練とは言え、朝鮮半島有事を想定した訓練は半年に一度行われているのだ。アメリカ軍はすでに朝鮮半島沖に戦略爆撃機や原子力潜水艦、空母などを展開している。

   このような状況で、「いずも」にトランプ大統領を招待することは、「斬首作戦」を決意する大統領に対し、後方支援の最大のアピールになると安倍総理は考えているのではないか。衆院総選挙を早めた理由も北朝鮮情勢を計算に入れたものではなかったか、と。これでは勘ぐりである。

⇒24日(火)朝・金沢の天気    くもり

    

★選挙の開票結果と暴風雨

★選挙の開票結果と暴風雨

            衆院選は22日投開票で、与党が総定数465のうちち、300議席超を確保する勢いとなった。午後8時から選挙特番は自民の圧勝を一斉に伝えた。自民党は単独でも過半数(233)を獲得し、大勝となった。自民党は争点に挙げた北朝鮮への圧力強化など、国民の信任が得られたとして、動きを加速させるだろう。何しろ、アメリカのトランプ大統領が来月5日から2泊3日の日程で日本を訪れる。それまでに特別国会を召集し、首班指名、新内閣の発足と慌ただしい。

    ところで、海外のメディアと今回の総選挙をどう伝えているのか。イギリスの公共放送「BBC」は23日0時00分のホームページの見出しで「Abe on course for strong victory in Japan」と伝えている。「日本の選挙は安部の圧勝だ」と。さらに記事の中で、日本の戦後の、平和憲法を改正するという安部総理の野心にとって大多数での勝利は不可欠」と述べ、自民党は改憲に向けて大きく進むだろう、と論評している。

    アメリカのテレビ「CNN」もNHKの選挙速報の数字を引用して伝えている。出口調査の結果で、大勝が判明した総選挙について安倍総理は「謙遜にこの勝利に向き合わねばなりません」と述べ、「有権者は、我々与党に大多数を与えてくれた。これは日本人の声です。そして、我々は公約を推進して、選挙結果に応える」とNHKのインタビューで答えたと報じている。

    アメリカの経済紙「ウオール・ストリート・ジャーナル」は「Japan’s Abe Cements Hold on Power With Election Win」と見出しで伝え、安倍総理は日曜日の国政選挙で有権者から強い新しい委任を得た(NHK出口調査による)。 「1947年に施行された憲法について、最初の改憲に向けて進むだろう。(選挙の)勝利が彼を励ましている」と報じている。

    海外メディアは、安部自民党は改憲に向けて突き進むだろうとの論調で、選挙勝利を伝えている。選挙結果では、確かに野党含め改憲勢力が8割に達したことで、改憲に現実味が帯びてきた。それにしても台風21号の勢いが未明にかけて吹き荒れている。金沢には土砂災害警戒情報が流れている。

⇒23日(月)朝・金沢の天気   暴風雨

   

☆さいはてのアート <下>

☆さいはてのアート <下>

   先日(今月7日)、奥能登国際芸術祭の実行委員長でもある泉谷満寿裕・珠洲市長と立ち話だったが、今回のアートフェスティバルについて話をうかがうチャンスに恵まれた。「すごい反響ですね」と水を向けると、泉谷氏は「おかげさまで鑑賞者は目標の2倍の6万人を超えそうな勢いで、手応えを感じています」と口元がほころんだ。

    ~芸術はセットで一つ、可能性の示唆「Something Else is Possible」~

    次に「トリエンナーレ(3年に一度の美術展)で次回は2020年になりますが、『奥能登』と銘打っているので2市2町(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)へと会場を広げるお考えはあるのですのか」と質問した。「さいはてのアートなので、他の自治体とも連携してできればさらにアートの面白味がでてきます。しかし、運営資金を出し合うとなると途端にハードルは高くなります」と今度は口元が引き締まった。1週間後の14日夜、再び泉谷市長にお目にかかった。地元のキリコ祭りの会場で、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」で知られる新潟県十日町市の関口芳文市長の訪問を受けて、市内を案内されていた。珠洲市と十日町市の連携イベントを模索しているのかと直感したのだが。

   鉄道の能登線の終着駅だった旧・蛸島(たこじま)駅から数百㍍点前、かつての線路上にカラフルな作品がある。「なにか他にできる Something Else is Possible」(作者:トビアス・レーベルガー)。何か可能性を引き出してくれそうな、響きのある言葉だ。ドイツ人作家であるレ style=”float:left; margin: 5px;”>    ーベルガー氏が能登に贈ったメッセージではないだろうか。「さいはて」であるがゆえに出来ることがある、と。

    黄色からピンク色への暖色に塗られたトンネルのようなカタチをした作品だ。レールの上を意識したのだろうか。そのトンネルの出口付近に双眼鏡を置いてあり、のぞくとネオンサインの看板が見え、そこに「Something Else is Possible」の文字が描かれている。ボランティアの男性ガイドによると、ネオンサインの看板とセットで一つの作品なのだと解説してくれた。なるほど。肉眼であれ、双眼鏡であれ、近くでも遠く離れていても「作品の場」は構成できる。なるほど、芸術はセットで一つだ。 

   もう一つセットがあった。作品から100㍍ほど山側の線路上に錆びた電車が1車両ある。2005年4月に穴水駅以北の能登線が廃止された後、地元の有志が買い取ってイベントなどに使っていた。が、最近ではガラスが割れ、錆びなどの痛みも激しく、利用されず放置状態となっている。そこで、錆びた車両、カラフルなトンネル、ネオンサインの看板と3点セットで見てみると、過疎の現実からアート表現へ、過去・現在・未来へ、絶望から可能性へ、など一本のレールの上で物語が構成されていることに気付く。

   「さいはて」のアートは22日に千秋楽だ。大型台風が来ることも予想される。衆院選総選挙の投票日も重なって、慌ただしさの中でフィナーレを迎える。2020年、どのような運営コンセプトで開催され、作品が鑑賞できるのか。

⇒20日(金)夜・金沢の天気  くもり 

★さいはてのアート <中>

★さいはてのアート <中>

   これはパロディ・アートだと直感した。最初は笑いが込み上げ、後は少々悲しくなる現実と直面するのがこの作品だ。「神話の続き」(作者:深沢孝史)は笹波海岸に創作された「鳥居」である。青空と青い海に映える白い鳥居は印象深い。説明看板には平成29年建立の「環波(かんなみ)神社」で、海と漂着物を信仰する神社、と記されている。

    ~現代の漂着神は海の向こうからの廃棄物、文明の大いなるパロディ~

    2礼2拍手1礼で鳥居をくぐった。よく見ると、鳥居の柱やしめ縄まで、すべて廃棄物なのだ。ボリタンクやペットボトル、漁具など。しかも、ハングル文字や中国語、ロシア語の表記のものが目立つ。日本語のものもある。しめ縄は廃棄された漁網だろうと想像がついた。この周辺で集めた廃棄物で相当の量に驚く。海にはこれほど廃棄物が漂着しているのか、と。

   かつて能登には寄神(よりがみ)信仰があった。文明が大陸からもたらされた時代、海から漂着した仏像や仏具などは神社にご神体として祀られ、漂着神となった。神は水平線の向こうからやってくるという土着の信仰だ。時代は流れ、現在の寄神は最良の廃棄物なのである。その廃棄物で造った鳥居に2礼2拍手1礼するのかと、たっぷりと皮肉が込められていて、思わず笑ってしまう。

   作者の深沢氏はさらに突っ込んだ解釈でこう述べている。「人間たちは、電気を供給する役目を終えてあまりある力を持つ廃棄物=神様を埋葬するために、ガラスの棺に納め、さらに土で周りを囲い、地の底まで埋めて供養することにしました」(説明看板)。廃棄物は海だけでなく、陸にもある。それは、放射性廃棄物だと暗示している。

         この作品を見ながら、ふと、国連環境計画(UNEP)のアルフォンス・カンブ氏の言葉を思い出した。カンプ氏が「いしかわ国際協力研究機構(IICRC)」の所長時代に金沢で知り合い、何度か能登視察に同行したことがある。廃棄物が漂着した海岸を眺めながら、「日本海の環境を守る能登条約が必要ですね」と。もう10年前のことだが、カンプ氏は日本海は生け簀(いけす)のような小さな海域であり、このまま放置すれば大変なことになるとカンプ氏は危機感を抱いていた。地中海の汚染防止条約であるバルセロナ条約(1976年)が21ヵ国とEUによって結ばれ、地中海の海域が汚染されるのを何とか防いでいる。「能登条約」、遅まきながらその必要性を実感した。

⇒18日(水)朝・金沢の天気   はれ