☆大学の存在価値、それは

☆大学の存在価値、それは

    大学に勤めて12年目になる。いろいろな場面でこれまでよく質問された。「地域における大学の存在価値ってなんだと思いますか」と。私はもともと民間のマスメディアにいたので、あえてそのような言葉を投げかけてくれたのだと思っている。最初は正直言って言葉に詰まった。しかし、12年にもなると応えなければならない。

    「そうですね。私は金沢大学で地域連携コーディネーターという役割を担って12年目になります。この石川という地域を一つの価値ある研究フィールド、あるいは教育フィールドとしてとらえ、地域を活用して大学の研究力、教育力を伸ばしていく、そして、それを地域にお返ししていくことで地域の解題解決をはかる、あるいは新たな産業を興す技術を提供する。そのようなことが大学の使命、ミッションだと考えています」と。

    偉そうに聞こえるかもしれないが、地域に大学のリーダーシップというものがなければ、次の時代に地域はなくなるのではないかと考える。大学の研究力や教育力を上げるためにも地域連携や社会貢献が必要なのだと考える。社会は大きく変化してきている。たとえば、地域が人口減少や高齢化という問題に直面して、北陸では多くの市町は「消滅可能性都市」とまで言われている。社会の変化や技術の進歩など時代が大きく変化しているにもかかわらず地域が対応できていなかったということになる。むしろ、さまざまな課題に大学がイニシアティブを発揮できなかったということに等しい。

    地域の未来像を描きながら、大学が真剣に地域とタイアップすることが今ほど求められている時代はない。こんなランキングがある。日経新聞が発行する「日経グローカル」で発表された「大学の地域貢献度ランキング2017」で、国公私立大学の総合1位は大阪大学だった。同大学は文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム」(WPI)にも採択された屈指の研究大学だ。その大学が、研究だけでなく地域貢献においても、確実な成果を挙げているのだ。関西における存在価値として、多様な人材養成、世界的な研究そして地域との連携を深めている。見習いたい。ちなみに金沢大学は総合6位だった。
    
    根っ子にもう一つ大きな問題がある。大学の価値は教育力や研究力、専門性なのだが、一般的な評価はまったく異なる。その基準は偏差値が目安になっている。そして学生たちは3年も終わりになれば、就活が始まる。リクルートスーツに身を包んで会社の人事部の門をたたく。4年間の学びがいつの間にか3年間に「短縮」されている。日本の大学の在り様は果たしてこれでよいのかと考え込んでしまう。

⇒6日(火)夜・金沢の天気    くもり

★「核ありきの統一」

★「核ありきの統一」

     ニュースを視聴してずっと気になっていたフレーズがあった。先月ドイツで開催された「ミュンヘン安全保障会議」で、河野太郎外務大臣が「北朝鮮は朝鮮半島再統一の野心があり、目的達成のために核兵器を重要な手段と考えている」と発言(2月20日付・朝日新聞デジタル)がそれだ。フレーズを読めば核兵器で韓国を揺さぶって統一を狙う、だ。それだったら、わざわざ平昌での冬季オリンピックに美女軍団を派遣する必要もない。このフレーズの意味がよく理解できなかった。一度気になると、何かの折に繰り返し脳裏をよぎってくる。その回答を得た気分になったのが、今朝届いたニュースレター「大前研一 ニュースの視点」だった。

     同じことを大前氏も感じていたのだと思いながら興味深く本文を読んだ。大前氏の結論を先に述べると、「文在寅大統領が目指すのは、韓国が核保有国になるための半島統一」と述べている。確かに、韓国も北朝鮮もは様々な場面で「南北統一」ということに触れている。両者の共通狙いについて、大前氏は「北朝鮮と統一した結果、韓国が核保有国になれるからです。韓国が核保有国になることは、米国が強く反対するため、普通には実現することができません。ところが、核を保有したままの北朝鮮と統一すると、まるで裏口入学のような形で韓国は核保有国の仲間入りを果たせるのです」と述べている。

     韓国で核兵器の保有論は一定の支持を得ている。韓国ギャラップの調査(2017年9月5-7日、1004人対象)では韓国の核保有に賛成する意見は60%で、反対は35%だった(2017年9月9日付・産経ニュース電子版)。その一方、アメリカによる対北先制攻撃には59%が反対で、賛成は33%にとどまり、北朝鮮が戦争を仕掛ける可能性は58%が「ない」とし、「ある」(37%)を上回った(同)。

     文大統領は、冬季オリンピックでの外交成果を軸に北朝鮮と交渉を続けるだろう。北朝鮮の非核化を前提としての交渉ではなく、「一国二制度」のような構想を互いに模索するのかもしれない。そうすれば、韓国にとって在韓米軍や米韓軍事演習も不要となる。さらに核保有国として、近隣諸国に睨みを効かせることができる。「いつの間にか韓国は核保有国」のシナリオで描いているのでないだろうか。

     北朝鮮にとってもメリットは大いにあるだろう。国連安保理の強烈な経済制裁がこのまま続けば核兵器の開発どころか国家体制が持たない。アメリカによる「斬首作戦」「鼻血作戦」といった先制パンチも現実味を帯びてきている。かと言って、核兵器開発をストップすればみすみす武装解除をするのと同じだ。むしろ韓国を抱き込んで統一を掲げながら核開発を進める。これは北朝鮮、韓国の目指す方向性として一致する。そんな文脈がニュースレターから読み取れた。

     「核なき統一」は日本もアメリカも国際社会も望むところだ。それが「核ありきの統一」ということが鮮明になった場合、アメリカはどう出るか、日本の外交スタンスもガラリと変わるに違いない。

⇒2日(金)朝・金沢の天気   くもり

☆箸袋から見える知事選

☆箸袋から見える知事選

     きょうから3月。朝から風が吹き荒れている。テレビのニュースによると、台風並みの強い風で、加賀・能登ともに瞬間最大風速は陸上で30㍍だ。落雷や竜巻への注意も必要と呼びかけている。この強風で、JR北陸線では大阪方面の特急サンダーバードと名古屋方面の特急しらさぎを全て運休するようだ。

     この冬の雪も異常だった。金沢市内の自宅周辺でも一時積雪量が150㌢になった。この豪雪で、せっかく雪吊りを施したのに、五葉松の枝が一本折れたほどだった。先日、関西に住む知人から大雪見舞いの電話があった。積雪150㌢の話をすると、知人は「金沢の積雪は最大86㌢と報道されていたよ。金沢でも場所によっては、福井よりすごいところもあったんだね」と驚いた。

     知人には「一里一尺」という言葉で説明した。金沢地方気象台が発表する積雪量は、金沢の海側に近いところにある同気象台での観測、山側にある自宅周辺とでは積雪の数値が異なる。山側へ一里(4㌔)行けば、雪は一尺(30㌢)多くなる、と。そして付け加えた。「3月になると雪が降らないと思ったら大間違い。きついダメ押しがある」と言うと、知人は「私は雪国には住めないな」と苦笑した。ただ、ダメ押しの雪を「名残り雪」と表現すれば、少し文学的にもなる。

     外は「豪雪、のち暴風」なのだが、静かなのが今月11日に投開票の石川県知事選挙だ。先月22日告示され、共産党推薦で元石川県労連議長の女性新人候補(65)と、社民党のほか自民、公明、民進各党の県組織から推薦を受け7選を目指す現職(72)の一騎打ちの構図。ただ、自宅周辺には選挙カーが回って来ていないのか選挙ムードが盛り上がっていない。

     ちょっとした話題はある。動画サイト「ユーチューブ」への投稿で広告収入を得る「ユーチューバー」が石川県知事選の選挙掲示板に自分の顔写真を貼った様子を撮影し投稿していたことがネットで炎上し、公職選挙違反違法や軽犯罪法違反の可能性もあると新聞やテレビでも報道された。この動画はすでに先月26日に削除された。ただ、顔写真は掲示板の候補者ポスターが掲示されていない枠内に貼られていたので、県選挙管理委員会は特定の候補者を妨害するものではないとしている。このユーチューバーは県内に住む19歳の男性で、なんとチャンネル登録者216万人を有するプロだ。

     もう一つ選挙関連ネタを。きのう(28日)、自宅周辺のコンビニ「セブンイレブン」でおにぎりや野菜サラダを買った。箸がついてきた。その箸袋にはなんと「石川県知事選挙 投票日 3月11日」と書いてあった=写真=。選挙権は18歳からある。若者に投票を呼びかけようと選挙管理委員会がアイデアを凝らしたに違いないと想像を膨らませた。

     そこで県の選管に電話で尋ねた。「コンビニで知事選挙の投票日を記した箸がありました。石川県内の全部のコンビニで配布されているのですか」と。すると担当と名乗る職員は「こちら(県選管)でお願いして、箸をつけてもらっているのですが、セブンイレブンさんだけが引き受けてくれました」と。「なぜですか」と再度尋ねる。「ほかのコンビニさんは、つまようじがついていないからダメだとか言われまして…」と。確かに箸袋にはつまようじが入っていなかった。

     メディアでは「多選の是非が主要な争点」と知事選の特集を組んでいるが、対抗馬は共産の新人のみだ。選挙は盛り上がっていない。このままだと投票率は前回44.98%(2014年3月16日)を大きく下回ることは想像に難くない。むしろ「多選で必死なのは選管」、そんな現状が箸袋から見えてきた。

1日(木)朝・金沢の天気  風雨
     

★AI、ヤポネシア人、新幹線、ミンコフスキ

★AI、ヤポネシア人、新幹線、ミンコフスキ

   きょう(26日)一日の行動をキーワードで表現すれば、少々長ったらしいタイトルにあるように「AI、ヤポネシア人、メンデルスゾーン、新幹線」だった。行動範囲も広く金沢と東京の往復だった。

   午前9時46分、JR金沢駅から北陸新幹線「かがやき」に乗った。目指すは東京・品川にある日本マイクロソフト社。午後2時からの勉強会「AIと放送メディアの活用を考える」(主催・月刊ニューメディア)に参加するためだった。金沢大学での講義「マスメディアと現代を読み解く」「ジャーナリズム論」の科目を受け持っていて、AIとメディアのつながりの可能性について関心があり、参加を申し込んでいた。

   北陸新幹線での金沢駅から東京駅への所用時間は2時間28分。この時間を利用して、読みかけの本がカバンにあったので取り出した。『日本人の源流 核DNA解析でたどる』(斎藤成也著、河出書房新社)。著書は10年足らずの間に急速に蓄積してきた膨大な核ゲノム・データの解析結果を分析して、日本人のルーツを論じている。アフリカを出た人類の祖先はいかにして日本列島にたどりついたのか、縄文人や弥生人とは異なる集団が存在したのではないか、日本列島の民を「ヤポネシア人」と定義して、謎解きに挑んでいるのが面白い。

   午後0時20分、ぴったりに東京駅に着いた。品川の日本マイクロソフト社に向かう。品川駅の港南口を出ると同じようなビルが高層ビルが群立していて、とにかく場所が分かりにくい。近くの書店で店員に尋ね、「確か、向こうのビルです」と指刺された方向を歩く。オフィスはテレビや雑誌に取り上げられることも多く、TBSで放映された「安堂ロイド〜A.Ⅰ. Knows Love?〜」や「下町ロケット」で、企業オフィスシーンの撮影に使用されたことでも有名なのだが。

   午後2時00分、東京湾が一望できる31階で勉強会「AI(人工知能)と放送メディアの活用を考える」が始まった。東京大学大学院情報理工学系研究科 の山崎俊彦准教授が「AI研究と放送メディアへの応用」と題して講演が面白かった。番組(TV局、曜日、時間帯)、役者(俳優、女優)、スタッフ(原作、脚本、監督、主題歌など)、役者人気(検索、Twitter)などのデータをAIで解析すれば、放送前でも視聴率が予測できる時代なのだ。また、「AIジャーナリズム」を掲げて、SNSの画像をAIで解析してメディアに提供、さらに「AIアナウンサー」を提供している株式会社「Spectee」代表取締役の村上建治郎氏の話はとてもリアルだった=写真・上=。たき火と火災の写真の違いの判断、偽造写真をAIが分析する時代だ。そこで質問をした。「昨年正月にドイツのドルトムントでイスラム教徒の暴動で、教会に放火とのフェイクニュースが世界的に問題となった。フェイクニュースを摘発するAIを開発してはどうか」と。すると「実は、すでに着手・・」と話が広がった。

   午後5時24分、東京駅から北陸新幹線「かがやき」に乗った。読みかけの本『日本人の源流 核DNA解析でたどる』の続きを。「あとがき」の最後は「本書を、故埴原先生に捧げる」と締めくくられていた。もう40年余りも前の話だが、東京の学生時代に、人類学者の埴原和郎氏の研究室を訪ねたことを思い出した。いきなり「君は北陸の出身だね」と言われ、ドキリとしたものだ。その理由を尋ねると、「君の胴長短足は、体の重心が下に位置し雪上を歩くのに都合がよい。目が細いのはブリザード(地吹雪)から目を守っているのだ。耳が寝ているのもそのため。ちょっと長めの鼻は冷たい外気を暖め、内臓を守っている。君のルーツは典型的な北方系だね。北陸に多いタイプだよ」。ちょっと衝撃的な指摘だったものの、目からウロコが落ちる思いだったことを覚えている。

   午後7時58分、金沢駅に着いた。「あと7分しかない」と年甲斐もなく駅構内を走った。金沢駅前の県立音楽堂で開催されているマルク・ミンコフスキ氏指揮のクラシックコンサートを聴くためだ。ミンコフスキ氏は現在フランス国立ボルドー歌劇場の音楽監督だが、こし9月からオーケストラ・アサンブル金沢(OEK)の芸術監督に就くことなっている。指揮する姿をぜひ一度見たいとS席を購入していた。ただ、東京で勉強会もあるので、3曲目のメンデルスゾーン交響曲第4番「イタリア」が始まる午後8時15分までに音楽堂に入る予定だった。

   ところが番狂わせが起きた。当初は①序曲「フィンガルの洞窟」(11分)、②交響曲「スコットランド」(38分)、③交響曲「イタリア」(27分)だった。休憩は午後7時55分-8時15分だった。前日の25日になって①序曲「フィンガルの洞窟」(11分)、②交響曲「イタリア」(27分)、③交響曲「スコットランド」(38分)に順番が入れ替わったのだ。したがって休憩は午後7時45分―8時05分と10分前倒しとなった。この知らせをOEKスタッフの知人から聞いて慌てた。金沢駅到着7時58分、演奏8時05分、「あと7分」と走ったはこのためだった。

   結果的に休憩時間も後にずれたので間に合った。ミンコフスキ氏のタクトを十分に楽しませてもらった。ちょっと印象的だったのは、服装だった。これまでのOEK音楽監督の故・岩城宏之氏や井上道義氏を見てきたので、指揮者はタキシ-ドというイメージだったが、ミンコフスキ氏は体にぴったりのこげ茶色のディレクターズウエアだった。年齢は55歳、丸肩で肉付きがよく幅広タイプの体格。指揮する後ろ姿は、言葉はふさわしくないかも知れないが、クマが起ち上って体を左右上下に動かし、タクトを振っているようなイメージでとても「おちゃめ」な感じがしたのは自分だけだろうか。

⇒26日(月)夜・金沢の天気    はれ

☆能登の里山里海マイスター、人材育成の10年

☆能登の里山里海マイスター、人材育成の10年

   金沢大学が能登半島の先端で取り組んでいる人材養成事業「能登里山里海マイスター育成プログラム」の卒業課題研究の発表会が来月3日に大学の金沢能登学舎(珠洲市三崎町)で行われる。受講生30人のうち21人が発表会に向けて仕上げの段階に入っている。卒論にチャレンジする受講生は30歳代前半で、キャリアも多彩だ。日系アメリカ人の女性は里山での農業を通した国際交流をプランニング、介護福祉士の男性は介護施設における園芸福祉活動をテーマに、弁護士の男性は「比較法の観点で見る日本林業再興のための考察~能登から変える日本の林業~」と題して、所有者が判明せず、境界不明など日本の森林の課題を諸外国の法律と比較しながら解決策を探る。

   同プログラムがスタートしたのは2007年、「能登里山マイスター養成プログラム」(科学技術振興機構「地域再生人材創出拠点の形成」補助事業)として5年間、2012年からはその後継事業として「能登里山里海マイスター育成プログラム」(大学と自治体の共同出資)を実施し、現在に至っている。今年11年目、これまで144人のマイスターを輩出。ここに来て、栄誉ある賞をいただいた。全国の大学や産業支援機関でつくる「全国イノベーション推進機構ネットワーク」による表彰事業「イノベーションネットアワード2018」で最高賞の文部科学大臣賞を受賞した。先日23日に東京で表彰式があった=写真=。

   評価されたのは、人材育成や移住者の定着促進に向けた取り組みを通して、過疎高齢化などの課題解決と向き合っているという点だった。表彰式の後、記念フォーラムが開催され、演台に立った。以下、能登里山里海マイスター育成プログラムの取り組みの概要を説明した。

                ◇

   金沢大学が能登半島で廃校となった校舎を活用して実施している里山里海マイスター育成プログラムはとても地味な活動ですが、高い評価をいただき、このような栄えある賞をいただけたこと、感謝いたしております。このプログラムはことし11年目に入ります。その継続性についてはポイントが4つあります。

   一つ目は、地域と大学が何のために連携するか、自治体や地域のみなさんと議論を深め、能登に必要な人材養成を継続してやっていこうという明確な方向性が打ち出せたことです。昨年からは、地場の金融機関とも連携するなど、人材養成のプラットフォームとして定着してきました。

   二つめは人材養成のカリキュラムの内容です。「大学でしかできないことを、大学らしからぬ方法でやろう」とのスタンスです。受講生には卒業するための課題研究を課しています。12分間のプレゼンテーションと論文の提出が必須です。これは社会人にとって自己啓発の場でもあり、それに耳を傾ける同じ受講生にとっては相互啓発の場ともなっています。マイスターの学びのプログラムはすべてオープンで行っており、地域の潜在的なクリエーターの発掘や、「ものづくりのマインド」をもった人材を呼び込むベースになっています。

   三つめは、受講生は社会人であり、それぞれ専門性をもっていて、卒業後も情報共有や技術共有のネットワークづくりが活発です。こうした修了生たちの動きは、能登に移住してくるIターンやUターンの若者を巻き込んで、地域社会にいろいろな化学変化を起こしています。

   最後四つめは国際的な評価です。2011年6月に国連の食料農業機関(FAO)から生物多様性や持続可能社会をテーマにした人材養成のカリキュラムについて視察があり、翌11年6月にFAOが「能登の里山里海」を世界農業遺産に認定するきっかけとなりました。さらに、このことが契機となり、2014年にフィリピンの世界文化遺産であるイフガオの棚田で、JICAの支援を受け、イフガオ里山マイスター養成プログラムを実施しています。昨年からは能登とイフガオのマイスター、あるいは自治体職員が米づくりやエコツーリズム、棚田のオーナー制度などをテーマにした技術的な交流も始まっています。

                  ◇

   人材育成プログラムのカリキュラなどの詳細については同行した准教授がプレゼンを行った。うれしかったのは、会場での講演を聞き、ぜひ3日の卒業課題研究の発表を聞きに能登に行きたいとのオファーを2件もいただいたことだった。

⇒25日(日)夜・金沢の天気   くもり

★110年「旅するワイン」

★110年「旅するワイン」

     昨夜(20日)金沢のワイン・バーに出かけた。ソムリエで店のマスターが「マデイラワインはご存知ですか」とカウンター越しに声をかけてきた。「いや、マデイラは地名ですか。どこのワインなの」と尋ねると、「ポルトガルのリスボンから1000㌔のマデイラという島なんですが、ソムリエだったら一度は行ってみたい、伝説のワインの島なんですよ」と。

     そこまで聞くと飲んでみたくなった。「10年ものでいいですか」とマスター。アルコールは濃い感じだが口当たりがいい。「この島のワインは酒精強化ワインと言うんです」。マスターの話を要約する。イベリア半島など気温が高く温度管理が難しい地域では、ワインの酸化や腐敗防止など保存性を高めるためにさまざまな工夫が歴史的になされてきた。酒精強化は、液中のアルコール分が一定量を超えると酵母が働かなくなり、アルコール発酵による糖の分解が止まる現象を利用し、ブランデーなどを混ぜる。通常のワインのアルコール度数が10-14度なのに対し、酒精強化ワインは18度前後になる。「それでこのワイン、アルコールが少々強めなんだ」と妙に納得する。

   「保存が効くマデイラワインは大航海時代に重宝され、旅するワインとも言われたようです」とマスターは歴史の話を持ち出した。15世紀ごろからポルトガル、スペイン、イギリスなどからアフリカ、アジア、そしてアメリカ大陸への航海が始まる。保存性が良い酒精強化ワインは大航海の必需品となった。マデイラワインをもっとも有名にしたのは1776年、後に大統領となるトーマス・ジェファーソンが起草したアメリカ独立宣言が大陸会議で承認され、祝った酒がマデイラワインだったとの伝説だ。

    「ところで、保存が長いと言うけど、一体どのくらい保存が効くの、20、30年くらいなの」と突っ込みを入れた。するとマスターは「それでは出しましょうか」と奥から緑色のボトルを1本持ってきて、カウンターに置いた=写真=。「D’OLIVEIRAS」(ドリヴェイラ)という1850年創業のワイナリー。「BOAL」(ブアル)というブドウ品種。そして「1908」とある。「えっ、110年もののワインなの」と驚いた。持っていた手帳で調べると明治41年。まさにオールド・ヴィンテージものだ。

    「マスター、これ一杯いただけませんか」。少し声の震えを感じながらお願いした。澄んだ琥珀色、中ぐらいの甘口だ。古民家に入ったときに感じる古木の香りと芳醇な味わい、そして時空を超えた伝説の深味を楽しんだ。「マスター、冥土の土産話ができましたよ。ありがとう」と言って店を出た。

⇒21日(水)朝・金沢の天気   くもり

☆2年後のタイムラグ問題

☆2年後のタイムラグ問題

     平昌冬季オリンピックが韓国で開催されてよかったと思うことがある。それは時差がないことだ。17日に羽生結弦選手が金メダルを、宇野昌磨選手が銀メダルを獲得したフィギュアスケート男子シングルの生中継(NHK総合・午後0時15分‐同2時41分)の平均視聴率は関東地区33.9%、18日に小平奈緒選手が金メダルだったスピードスケート女子500㍍の生中継(TBS・午後8時00分‐同10時00分)は同地区21.4%(いずれもビデオリサーチ調べ)だったと報じられている。まともな時間に中継を視聴できている。

     2016年8月のリオデジャネイロのときは時差が11時間(サマータイム)、体操の男子個人総合で内村航平選手がロンドンに続く2連覇を果たす瞬間を見たかったが、朝6時台だったので不覚にも寝過ごした。

   「まともな時間」と冒頭で述べたが、それでもフィギャースケートのハイライトと、スピードスケートのハイライトの開始時間が8時間もあるのはなぜか。韓国が開催国なのだから同国のテレビ視聴のゴールデンタイム(午後7時‐同10時)にハイライトを中継できないのか。と言いながらも、私はかつてテレビ局で番組づくりに携わっていたので、裏事情を明かすことにする。

     フィギュアスケートの人気が高い国はアメリカだ。アメリカのゴールデンタイムに放送時間が合わせてある。同競技が始まったのは韓国の時間で17日午前10時、アメリカ・ニューヨークとの時差は14時間、つまりニューヨークで16日午後8時のゴールデンタイムなのだ。羽生選手の優勝が決まると、日本のメディアとほぼ同時にニューヨーク・タイムズなどは「Yuzuru Hanyu Writes Another Chapter in Figure Skating Legend」(電子版)と報じた。また、スピードスケート女子500㍍は韓国の李相花選手がオリンピック3連覇を目指していただけに韓国国内で注目度が高く、韓国のゴールデンタイムだった。

     実は競技時間はIOC(国際オリンピック委員会)と各国のテレビ局との駆け引きでもある。日本の新聞のテレビ欄を見て気付くように、競技開始は午後9時過ぎが多い。これは冬季オリンピックの注目度が高いヨーロッパ向けの時間設定なのだ。オリンピックは世界のテレビ局の放送権料金で成り立っていると言っても過言ではない。著作権ビジネスなのだ。そのテレビ局の最大手がアメリカNBCだろう。2014年冬のソチ、16年夏のリオデジャネイロ、18年冬の平昌、20年夏の東京の4大会のアメリカ国内での放送権料(テレビ、ラジオ、インターネットなど)を43.8億㌦(1㌦106円換算で4643億円)で契約している。

     日本でオリンピック番組を仕切るのはNHKと民放連で構成するジャパンコンソーシアム(JC)。JCは1984年夏のロサンゼルス以来この枠組みで取り仕切っているが、IOCとの契約は同じ4大会で1020億円の契約。NHK70%・民放30%の負担割合となる。日本はアメリカの4分の1程度なのだ。NBCは全放送権料の50%以上を占めているといわれる。つまり、放送時間の設定について日本がIOCと交渉しても、NBCには到底かなわない、勝てないのだ。「刑事コロンボ」や「大草原の小さな家」など名番組の数々を世に出してきた世界のテレビ業界のリーダーであり、オリンピックの大スポンサーとの自覚もあるだろう。

     ここで一つの心配がある。2年後の東京オリンピックだ。テレビ業界ではよい時間で放送し、CMスポンサーに高く売るというのが日本でもアメリカでもビジネスの鉄則だ。アメリカで人気が高い夏の競技(陸上、競泳、体操など)の決勝の開始時間をアメリカのゴールンタイム(午後8時)に持ってくるようにNBCがIOCにごり押ししたらどうなるか。日本とニューヨークの夏の時差は13時間だ。日本時間で午前9時、勤務時間帯だ。東京オリンピックなのに、「まともな時間」と国民は納得して見るのかどうか。(※写真はアメリカNBCテレビのオリンピック特集サイトから)

⇒20日(火)午後・金沢の天気   くもり

★「松林図屏風」の心象風景

★「松林図屏風」の心象風景

   これはまるで長谷川等伯の「松林図屏風」だ。クロマツの林が朝もやに覆われ、松林がかすんで見える。等伯はこの能登の風景の印象を京都で描いたのだろうと想像をたくましくした。ここは能登半島の先端、珠洲市の鉢ヶ崎海岸。けさ(17日)ホテルの3階から見える風景だ。砂浜が広がり、クロマツが防風林の役目を担っている。ただ、この朝もやに包まれたクロマツの林を眺めていて、なんとなくもの寂しさを感じるのだ。あの世をとぼとぼと独りで歩いているような寂寥感だ。

   国宝・松林図屏風を初めて鑑賞したのは2005年5月、石川県立七尾美術館だった。等伯が生まれ育った地が七尾だ。もとともこの作品は東京国立博物館で所蔵されている。七尾美術館が会館10周年の記念イベントとして東京国立博物館側と交渉して実現した。当時、国宝が能登に来るということで長蛇の列だった。東京国立博物館は俗称「トウハク」、等伯と同じ語呂だと話題にもなっていた。

   美術館では、学芸員の解説が面白かったので記憶に残っている。能登国は718年に成立した。その国府が七尾に置かれ、以降、政治的なガバナンスの中心として経済、文化も栄えた。町衆の経済的豊かさや文化的素地が後に桃山美術の画聖と讃えられる若き等伯を育んだのだろうということだった。能登を中心に絵師として活躍した時代、その画才を見込んだ町衆が寺院に寄贈した等伯の作品が今も多く保存されている。

   1571年、等伯33歳の時、養父母が相次いで亡くなり、それを機に妻子を連れて上洛した。京都に入り、本延寺の本山・本法寺のお抱え絵師になり創作活動に磨きをかける。後に本法寺住職となった日通上人と交友を深め、そのつながりで千利休との知縁が広がる。当時の堺は商業都市で、多くの文化人たちが集った。茶の湯の拠点でもあり、茶室には中国などの優れた軸が掛けられていて、等伯も作品に直に接し学ぶことになったことは想像に難くない。

   しかし、等伯の絶頂期に長男久蔵26歳が没する。妻もすでに亡くなっており、能登から連れてきた2人が亡くなった、その寂寥感はいかばかりだったろうか。松林図屏風が描かれたのは久蔵を亡くした翌年1594年、等伯56歳のときの作品といわれる。強風に耐え細く立ちすくむ能登のクロマツ、当時の等伯が心を重ねたのはこの心象風景だったのだろうか。

⇒17日(土)朝・珠洲市の天気   くもり

☆美女軍団の笑顔と漂着船の遺体

☆美女軍団の笑顔と漂着船の遺体

   韓国で平昌オリンピックが始まったが、スポーツの祭典がこれでよいのかといぶかる毎日だ。きょう13日、学食に行った。隣で、サークルの学生たちがワイワイと話している。北朝鮮の美女軍団がどうのこうの、金正恩労働党委員長の実妹の金与正氏の特使派遣がどうのこうの、と。男子学生が「今回のオリンピックは見え見えの政治ショーだよな」と。すると、もう一人の男子学生が「南北会談に文在寅大統領が平壌に招待されているけど、ドル札を持って返礼に来いということですよね」と。一瞬シーンとなった。少し間を置き、「なるほど」と別の男子学生。「で、どのくら持っていくのかな」と女子学生。「5億ドルくらいかな」と口火を切った男子学生。「美女軍団って、そんなに高くつくの・・・」と盛り上がっていた。

   日本海側の各地の海岸で北朝鮮の難破船がすさまじい勢いで流れ着いている。石川県だけでも、きょう羽咋市の海岸で木造船が1隻見つかった。今月11日にも加賀市の海岸で木造船が1隻、10日にも志賀町の海岸に2隻、9日にかほく市で1隻、7日に輪島市で1隻と、今月だけでも6隻が漂着している。1月には10日に7人の遺体が見つかった木造船が金沢市の海岸に、24日と28日に志賀町と羽咋市にそれぞれ1隻、計3隻が流れ着いている。ことしに入って石川県の海岸だけで9隻も、だ。船体にハングルと番号表記があり、船底が平らな同じ型の船だ。漁網などもあり漁船と推測される。船の大きさにもよるが、1隻に8人が乗っていたと仮定すれば72人の人命が失われている。すさまじい現実だ。

   安倍総理が9日、韓国・平昌で開かれた文大統領主催のレセプション会場で、北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長と言葉を交わしたと報じられている。拉致問題と核・ミサイル問題に言及したとされるが、ついでに「日本海で無理な操業するから、多くの人民の命が失われている。漁を即中止するべき」と忠告すべきだったのではないか。

   先月17日、金沢市の安原海岸で7人の遺体が見つかった北朝鮮の漁船を見に行った=写真=。船の周囲にもう1人の遺体がみつかっていて、遺体は8人。現場にはハングル表記の菓子袋が落ちていた。漂流する船の中で8人で細々と分け合って食べたのだろうかなどと想像した。日々ニュースに流れる美女軍団の笑顔の陰で日本海に漂う大量の木造船と遺体。日本のマスメディアが世界に伝えるべきは、この北朝鮮のあからさまな現実ではないのか。

⇒13日(火)夜・金沢の天気    ゆき

★除雪ヨイトマケ

★除雪ヨイトマケ

   きょう11日は朝から町内一斉の除雪活動だった。市道なので除雪車は回ってこない。道路は30㌢ほどの高さの氷のように堅くなった雪道となっている。きのうからの雨で深い轍(わだち)があちこちにでき、そこに軽四の自動車などがはまって、動けなくなるケースが町内でも続出していた。デイケアなどの福祉車両も通るため、町内会では人海戦術で一斉除雪となった=写真・上=。

   問題はその雪の堅さだ。金属スコップで突いてもびくともしない。クワでも凍った箇所は割れない。そこで登場したのがツルハシ=写真・下=だ。先端を尖らせて左右に長く張り出した頭部が特徴。形状がツルの口ばしに似ているからそう名付けられたのだろう。鉄製で4、5㌔の重さはあるだろうか、これを振り上げて下に勢いよく降ろし、堅くなった雪道を砕く。もともと、ツルハシは堅い地盤やアスファルトを砕くために使われる。

   問題提起をする人がいた。「ツルハシを使ってもよいが、そのため道路がガタガタにならないのか」と。道路に直接打ち込めば、確かに道路が破損するかもしれないが、今回は凍った雪道を砕くことが目的なので、道路への打撃は少ないのではないか、ということで話がまとまる。

   ツルハシを誰が担当するのか。これを所有しているご近所さんは70歳を過ぎており、「ワタシにはちょっと重すぎる」と言われたので、私がツルハシを引き受けた。ツルハシは見たことはあるものの、作業は初めて。とにかくやってみた。大きく頭上に振り上げて降ろすときは全身を腰ごと下げる。すると、凍った雪がパカンと割れた。ブロックのサイズだが、きれいに割れた。周囲で見ていたご近所さんも「この人こんなことができるんだ」と言わんばかりにうなずいてくれた。うれしくなって2度目、今度はブロックが3つに割れた。「ひょっとしてオレにはツルハシの仕事は向いているのかしれない」と3度目。ご近所さんたちは割れた雪をスコップで、あるいは手で道路側面に積み上げていく。除雪作業のピッチが上がってきた。

   こちらも、ここまで来たら引けないので、どんどんとツルハシを振るう。「父ちゃんのためならエンヤコラ 母ちゃんのためならエンヤコラ もひとつおまけにエンヤコラ」。なんと『ヨイトマケの唄』を自ら声を出し歌っているではないか。「父ちゃんのためなら」でツルハシを上げ、「エンヤコラ」で一気に降ろす。ヨイトマケの唄はこの3節しか知らないので、それを繰り返している。歌うという意識はまったくなかったのだが、自然と口にしていたのが不思議だ。

    労働はリズム。そう思った。1時間30分ほどで片付いた。「おつかれさま」と一斉除雪は終わった。が、これで腰痛が出ないか、だんだん不安になってきた。

⇒11日(日)午後・金沢の天気  くもりときどきゆき