★「10連休明け」の風景

★「10連休明け」の風景

  長いと言えば長い、しかし、あっという間に明けたような気もする。10連休明けのきょう(7日)の風景は。

  日常の風景。朝から子どもたちの騒がしい声が聞こえた。我が家の前は通学路になっていて、登校の児童たち=写真・上=が交通巡視員に向かって大きな声で「おはようございます」と元気がいい。10連休の金沢市内はどこも観光客であふれていたが、ようやく日常が戻った感じだ。JR西日本金沢支社の発表によると、10連休中の北陸新幹線の利用者数は41万2000人で、昨年の同じ時期と比べて8万4000人増え、兼六園も入園者数が19万人となり昨年に比べ6万5000人増えた。金沢21世紀美術館の入館者数も20万人超え、1日平均2万人は過去最高だった。

  職場の風景。10連休明けの身近な風景はクールビズだった。令和になって初めての業務。職場でも、ネクタイを外した軽装が目立った。ただ、きょうの日中の最高気温は金沢は17度で、暑いという感じではなかったので上着をはおっている姿が多かった。

  マーケットの風景。アメリカのトランプ大統領が5日のツイッターで、中国からの輸入品2000億㌦分に上乗せした10%の関税を今週の金曜日(10日)から25%に引き上げると表明した。アメリカの通商代表部(USTR)のライトハイザー代表も6日、貿易交渉で中国側が構造改革の約束を撤回したこと理由に、関税の引き上げをあす8日に正式発表すると表明した。中国側との交渉は続けるとしているものの重大局面に。連休明け最初の取引となった7日の日経平均株価は大幅に下落、335円安い2万1923円だった。

  値を上げた株もある。北朝鮮は4日、日本海に向けて飛翔体を数発発射、70㌔から200㌔飛んで落下した。アメリカの軍事専門家らは、短距離の弾道ミサイルだとの見方を示している。飛翔体が弾道ミサイルならば、北朝鮮に弾道ミサイル発射を禁じた国連安全保障理事会決議に違反する可能性がある。北の飛翔体に敏感に反応したのは防衛関連株だ。追尾型機雷を製造している石川製作所(本社・石川県白山市、東証一部)の株価は1530円と41円(+2.75%)値を上げた。

  夕方の風景。夕日がとても大きく見え、金沢の街を茜色に染めた=写真・中=。退社時の交通ラッシュが何だか懐かしい感じがした。帰宅して庭を眺めると赤、白、ピンクのツツジの花が咲き始めていた。シラン(紫蘭)も初めて紫色の一輪の花をつけていた=写真・下=。満開ではなく、半開きで下を向くようにして咲く。その花姿は、女性がうつむく姿に似て、実に上品なイメージではある。花言葉の一つが「変わらぬ愛」。人に好かれる花だ。

⇒7日(火)夜・金沢の天気     はれ

☆オピオイド危機 トランプの戦い

☆オピオイド危機 トランプの戦い

   ある意味、トランプという人物は歴史に名を残すかもしれない。弾道ミサイルを再び発射する北朝鮮の崖っぷち外交には「Deal will happen!(取引交渉が始まるよ)」と余裕を見せ、アメリカと中国の貿易交渉でも関税を25%に引き上げるとして「but too slowly, as they attempt to renegotiate. No!(中国は再交渉を試みているが遅すぎる。ノーだ)」と切り捨てるようにツイッターで言い放っている。

   中国への脅しとも取れる今回の関税25%引き上げの発表は、うがった見方をすると根深いものがあるかもしれない。ホワイトハウスのホームページ(4月24日付)で掲載されている見出しがそのことを想起させる。「President Trump is Fighting to End America’s Opioid Crisis(トランプ大統領はアメリカのオピオイド危機を終わらせるために戦っている)」=写真=。ページを読む込むとオピオイド危機は中国が持ち込んでいると読める一文がある。「President Trump secured a commitment from President Xi that China would take measures to prevent trafficking of Chinese fentanyl.(トランプ大統領は、中国からのフェンタニルの密売を防ぐ措置を講じるとの習主席の確約を取りつけている)」と間接的な表現ながら中国を名指ししている。

   オピオイド危機とは何か。ケシの実から生成される麻薬系鎮痛剤の総称。オピオイドの過剰摂取による死者は年間7万237人(2017年、アメリカ疾病対策局)にも上り、中でも強い鎮痛効果があるフェンタニルによる死者は2万8466人と急増している。このフェンタニルを大量生産しているのが中国で、本来アメリカ国内の病院でしか扱えないものが、他の薬物として偽装され普通郵便でアメリカに送り込まれたり、中国からメキシコやカナダに渡り、国境を越えてアメリカに持ち込まれたりしている。ホワイトハウスのHPによると、2016年と18年を比較すると、郵便検査官による摘発は国際便が10倍、国内便で7.5倍に。2018年に国土安全保障局が国境で押収したフェンタニルは5千ポンド(2250㌔㌘)になったと記載している。

    ホワイトハウスHPによると、トランプ大統領はオピオイド危機の撲滅のため、この2年間で60億㌦を新たに注ぎ込んでいる。医療専門チームによる患者の治療(2017年に25万5千人が治療)、青少年薬物使用防止キャンペーン、インターネットによる売買の監視、依存症に罹患した人々の労働復帰のために53百万㌦援助など実施していると掲載している。その成果として、オピオイドの過剰摂取による死亡は2018年9月で前年同期比で全米では5%減、中でもオハイオ州で22%、ペンシルベニア州で20%、それぞれ減少したと強調している。まるで「アヘン戦争」が起きているかの如くの書きぶりだ。

    トランプ大統領のオピオイド危機との戦いの記事はホワイトハウスHPの一面に掲載されている。そのポジションから見れば最重要課題なのだ。「習主席の確約」は昨年12月1日に行われた米中首脳会談で取り付けている。オピオイド危機はアメリカの大いなる経済的な損失でもあると考えれば、首脳会談で直談判した意義はある。今回の貿易交渉のテーブルでもフェンタニルの密売問題が議論になったのではないだろうか。「大統領と国家主席が約束したフェンタニルの密売を中国が根絶できないのは、なぜだ。これでは通商の約束も履行できないだろう」とアメリカ側が迫ったかもしれない。

    オピオイド問題は治まる兆しはあるものの戦いは終わってはいない。オピオイド危機と貿易戦争をあえてセットで想像してみれば、トランプ氏が「but too slowly,・・・ No!」とツイッターで叫ぶ理由が理解できなくもない。

⇒6日(振休)夕方・金沢の天気    あめ

★北は「崖っぷち外交」に戻ったのか

★北は「崖っぷち外交」に戻ったのか

   北朝鮮はきのう(4日)午前9時6分ごろ、東部の元山(ウォンサン)から東の日本海に向けて飛翔体を発射、70㌔から200㌔飛んで落下した。同時発射ではなく21分間の連続だった。日本の国内メディアによると、アメリカの軍事専門家らは、短距離の弾道ミサイルだとの見方を示した。飛翔体が弾道ミサイルならば、北朝鮮に弾道ミサイル発射を禁じた国連安全保障理事会決議に違反する可能性がある。韓国軍は当初「短距離ミサイル」と発表していたが、その後「短距離の発射体」と表現を改めている。

   メディアの報道を視聴する限り、「北は我慢できなくなったのか」との印象を持ってしまう。去年2018年4月27日、板門店で開催された南北首脳会談では文在寅大統領と金正恩委員長との間で「完全な非核化」が明記された。同年6月12日の第1回米朝首脳会談の共同声明では「Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.(2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む)」の文言を入れた。ことし2月28日のハノイでの第2回米朝首脳会談では、トランプ大統領が先に席を立って会談は決裂した。一切妥協しないトランプ氏の姿勢が明らかになった。おそらく金氏にとって会談は屈辱的だったのだろう。

      韓国「中央日報」日本語版(4日付)によると、北の対外宣伝メディアを引用して「(米国の行動は)南側に対北制裁・圧力政策に歩調を合わせろという強迫であり、極めて悪質だ」とアメリカに対する北の非難を紹介し、5日付では「(金委員長が)4日、朝鮮東海上で行われた最前線・東部前線防御部隊の火力打撃訓練を指導した」と伝え、今回の発射と関連づけている。ジレンマに陥った金氏がトランプ氏に放ったメッセージなのだ。「何とかしろ」と。

   一方のトランプ氏は余裕だ。きのうのツイッターで発射の件を投稿している=写真=。”I believe that Kim Jong-Un fully realises the great economic potential of North Korea and will do nothing to interfere or end it” (金正恩は北朝鮮のすばらしい経済的可能性を十分に認識しており、それを妨害したり終わりにすることはないと信じている)。北は経済的な見返りと引き換えに非核化には必ず応じると読んでいる。

    今回の飛翔体が弾道ミサイルならば、2017年11月29日以来だ。その後、韓国、そしてアメリカと交渉を進めてきた金氏だが、ここで弾道ミサイルを発射したとなるとさらに国際世論的にも自らを追いつめることになる。かつての崖っぷち外交、あるいはチキンレースに戻ったのか。百戦錬磨のトランプ氏と向き合うにはまだ遠い。

⇒5日(祝)午後・金沢の天気      はれ

☆「おもやい」という時間のシェア

☆「おもやい」という時間のシェア

  きのう(3日)の話の続き。この時季に庭に咲くアメリカ八角蓮(はっかくれん)は葉の切れ込みが深く、葉の下に白い花が咲く。形状も面白いが、その名前になぜ「アメリカ」とつくのか。ネットで調べてみる。六角蓮や八角蓮と呼ばれる植物はもともと台湾や中国の深山に生える大型の植物で、ハスに似た葉の角の数からそう名付けられている。サイズが花生けにちょうどよい、北アメリカ原産の種が日本に入ってきて、重宝されてアメリカ八角蓮と花名がつけられた。

  生けて床の間に飾ってみる。蓮なので銅の花入れ。野にある花には格付けはないが、床の間に飾るとなるとそれがある。よく言われるのは「青磁に牡丹(ぼたん)」のたとえ。その花に似合う器というものがある。しかも、床の間ではデコレーションするのではなく、自然のありのままの姿を花器に入れる。千利休は「花は野にあるように」と教えている。そこで、アメリカ八角蓮を耳付き銅の花入れに生ける。漆塗り丸敷板の上に。掛け軸は季節のものを選び、『五月晴 燕 自画賛』(即中斎筆)を下げた。

  じっと床の間と向き合っていると掛け軸に描かれたツバメがハスの葉の上を飛んでいるように見えてきた=写真=。意識して配置した訳ではない。気づきだった。何気ない床の間が一体化して一つの自然の風景のように思えるから不思議なものだ。

  話は変わるが、茶道の先生から「おもやい」という言葉を習った。もやい(催合い)に美化語をつけた言葉。共同で一つの事をしたり一つの物を所有したりすること(デジタル大辞泉)。茶道ではどのようなときに使うかというと、茶席の終了の時間が迫ってきたとき、ゲストの正客がホストの亭主に「おもやいで」と声掛けする。すると、一つの茶碗に二人分を点ててくれる。茶碗を受け取った最初の客は飲み口を懐紙で拭き取り、次の客に送る。ひと碗ひと碗点てると時間を要する。そこで、客側の提案で茶碗を共有することでゲストとホストの時間を短縮する。

  茶席という「もてなし」空間で、時間をシェア(share)する言葉である。

⇒4日(土)夜・金沢の天気     はれ

★百花繚乱、五月晴れ

★百花繚乱、五月晴れ

   10連休も後半に入り、ようやく五月晴れに恵まれるようになった。まぶしい日差しの中で庭のイチリンソウ(一輪草)=写真・上=の花が白い輝きを放っている。「スプリング・エフェメラル(春の妖精)」と称されるように、早春に芽を出し、白い花をつけ結実させて、初夏には地上からさっと姿を消す。春の一瞬に姿を現わし、可憐な花をつける様子が「春の妖精」の由来だろうか。

   1本の花茎に一つ花をつけるので「一輪草」の名だが、写真のように一群で植生する。ただ、可憐な姿とは裏腹に、有毒でむやみに摘んだりすると皮膚炎を起こしたり、間違って食べたりすると胃腸炎を引き起こすといわれる。手ごわい植物でもある。

   同じく白い花をつけているのがヤマシャクヤク=写真・中=だ。丸いボール型に咲く「抱え咲き」の白い花は実に清楚な感じがする。名前の由来の通り、もともと山中に自生している。根は生薬で山芍薬(やましゃくやく)といわれた鎮痛薬だ。薬名がそのまま花名にもなっている。かつて乱獲され、今では環境省のレッドリストで準絶滅危惧種に登録されている。花言葉をネットで調べてみると「恥じらい」「はにかみ」。日陰にそっと咲くからだろうか。

   白い花はまだあった。ナルコユリ(鳴子ユリ)も咲き誇っている。鳴子百合の名前の由来をネットで調べてみると、こんな説があった。「この花姿が鳴子(なるこ)=田や畑で鳥を追い払うための音を出す道具に似ていることから」という。かつての農村の風景を思い出す。鳴子を稲はざの周囲に下げて、カランコロンと音が響いた懐かしい時代だ。

   ナルコユリと同じくぶら下がりの花はタイツリソウ=写真・下=もうそうだ。「鯛釣り草」と書く。面白い名前だ。花が枝にぶら下がった姿が何匹もの鯛が釣り竿にぶら下がった様子に似ていることからその名が付いたとされる。姿だけではなく、花の形も面白く、ピンクのハート形。そのせいか、ネットで検索すると花言葉は「心」に関係するものが多く、「恋心」「従順」「あなたに従います」「冷め始めた恋」「失恋」などいろいろと出てくる。

    花は実に個性的でイメージを膨らませてくれる。そして、シャクヤクがつぼみを膨らませている。「これまでの花は前座、次はいよいよ私の出番です」といわんばかりの生気を放っている。花が咲き競い、心を和ませてくれる。まさに百花繚乱の光景だ。

⇒3日(祝)午後・金沢の天気     はれ

☆即位の見出し 読み比べ

☆即位の見出し 読み比べ

   新天皇が即位し、新元号になったということを新聞社はどのように伝えているのか。4月30日付と5月1日付の各紙の一面の見出しを比較してみた=写真=。すると各社の編集の在り様が見えてくる。

   一面の見出しで目立つのが「天皇」と「天皇陛下」の表記だ。共同通信『記者ハンドブック(第13版)新聞用字用語集』(2017年版)によると、「見出しでは敬語、敬称を省略してよい」としている。見出しなので字数を減らす必要があるので当然と考える。「新天皇即位」(北陸中日新聞)や「新天皇即位 令和元年」(朝日新聞)、「新天皇ご即位」(産経新聞)などは「陛下」を省略している。ところが、「新天皇陛下 即位」(日経新聞)、「新天皇陛下即位」(読売新聞)などは「陛下」の敬称を入れている。もちろん、共同通信の記者ハンドブックなので各社はそれに従う必要もない。ただ、読者サイドからは主見出しに「天皇陛下」の4文字は重くないだろうか。丁寧と言えば丁寧なのだが、あえて見出しで「陛下」を入れる意義はどこにあるのだろうか。

   読売の横の主見出しはいわゆる「ぶち抜き」といわれる、紙面左端から右端まで通すかたちで、新聞社としては最大級の扱いという意味だ。しかし、「新天皇即位」の5文字ではよほど文字を大きくしないと、ぶち抜きスペースは埋まらない。そこで、「陛下」の2文字をあえて入れたのではないだろうか。日経はぶち抜きではないが同じ理由ではないか。あくまでも推察だ。

   記者ハンドブックでは、「『御』は固有名詞以外はなるべく『お』『ご』と平仮名書きにするが、基本的には不要」としている。必要最小限での字数で表現する見出しの場合はなおさらだろう。ところが産経は「新天皇ご即位」としている。「ご即位」としているのは産経だけだ。これはおそらく、「新天皇即位」とすると漢字のみが5字並び、読者サイドの見出しの印象が強く重いので、あえて「ご」を入れたのではないかと編集サイドの気持ちを推し測ってみた。うがった見方をすれば、産経も読売と同様にぶち抜きであり、「新天皇即位」の5文字では埋まらない。そこで、あえて「ご」を入れて6文字にし、さらに文字を拡大することでスペースを埋めたということだろうか。文字の大きさは産経が一番大きい。

   見出し文字はいわゆる「黒字のみ」なのだが、読売は「白抜きベタ」を使っている。白抜きベタの見出しは異常事態を読者に印象づけるためによく使われ、慶事の記事では余り見たことがない。今回も主見出しの白抜きベタは読売のみだ。しかも、「新天皇陛下即位」の漢字7文字の連続は、読者としは正直読みにくい。同じ漢字7文字の日経は「新天皇陛下 即位」と「新天皇陛下」と「即位」の間に文字の空きを入れている。漢字9文字の朝日は「新天皇即位」と「令和元年」の間に空きを入れ、さらに字体を明朝体にすることで連続漢字の強さの印象を和らげる工夫をしている。ちなみに漢字だけを並べた見出しを「戒名見出し」と称したりする。

         石川県の地元紙の北國新聞は主見出しで「令和 幕開け」と新たな時代の始まりを強調している。脇見出しで「新天皇陛下 即位」と白抜きベタを使っている。サイドの見出しだが、主見出しと同等に目立つようにとの工夫だろう。主見出しで「令和」の文字を入れたのは朝日の「新天皇即位 令和元年」と合わせ2紙だ。

   では読者サイドとして読みやすい印象の見出しはどの新聞かとなると、産経かもしれない。あえて「ご」を入れることで「新天皇」と「ご即位」の字数バランスをうまく取っている。見出しについては特に決められたルールがあるわけでもない。読みやすく目立つようにすればよい。その編集者の意図と工夫が見出しから読めてくる。

⇒2日(木)朝・金沢の天気   あめ後はれ 

★「ブルゴーニュ」で迎えた令和の幕開け

★「ブルゴーニュ」で迎えた令和の幕開け

   4月30日「平成の大晦日」の夜、金沢のワインバーで過ごした。じっとしておれない「わくわく感」がそうさせた。というより、テレビはどのチャンネルも「平成最後の・・・」のオンパレードである。誰に向けての番組コンテンツなのか、何を発信しようとしているのか、そしてコメンテーターやキャスターの敬語の乱用にも少々嫌気が差して、「オワコンだな」と思いながら外出した。

   店に到着したのは夜9時30分ごろ。休日の夜にもかかわらずカウンターがいっぱいだった。ソムリエのマスターに「さすが10連休ですね」と声掛けすると、マスターは「今夜は令和へのカウントダウンをしないのかと問い合わせ電話もありますよ。カウントダウンで盛り上がりますか」と。勧めてくれたワインが1976年産のブルゴーニュワインだった。ブドウ品種はピノ・ノワール。ボトルに「PREMIER  CRU」と書いてあり、「一級のブドウ畑」の意味だとか。ことし2月に日本とEUのEPA(経済連携協定)が発効して関税が撤廃、ヨーロッパ産ワインが求めやすくなったと同時に、フランス産の高級ワインも入ってくるようになった。

   目の前のブルゴーニュワインは初対面だった。マスターの解説によると、ピノ・ノワールは水はけがよい石灰質の土壌で冷涼な気候で育つが病気にかかりやすく、なかなかデリケートで栽培が難しい。農家泣かせのこの品種のことを欧米では「神がカベルネ・ソービニオンを創り、悪魔がピノ・ノワールを創った」と言うそうだ。40年余りも年月が経っているので、コルク栓が柔らかく崩れてなかなか抜けない=写真=。コルクがそーっと抜かれると、芳しい香りが漂ってきた。ヴィンテージものだがまだ果実味もあり、優しく熟成を重ねたブルゴーニュワインだった。

     ワインの話で盛り上がっているうちに、カウントダウンが近づいた。5月1日まであと10秒。カウンターの客が「9、8、7、6、5、4、3、2、1」と声をそろえた。令和が始まった。すると、マスターがシャンパーニュを振る舞ってくれた。改めて、令和の幕開けに乾杯した。時は過ぎていく。その一刻一刻をワインで事実確認した思いだった。

⇒1日(水)午前・金沢の天気    こさめ

☆平成の大晦日

☆平成の大晦日

   行く年、来る年を迎える日が大晦日ならば、行く時代、来る時代を迎えるきょう30日は「平成の大晦日」だろう。テレビ各社は朝から特番を組んで退位の儀式の模様を伝えている。午前中、天皇は皇居の宮中三殿にある天照大神を祀る賢所(かしこどころ)で、日本古来の言葉で記した御告文(おつげぶみ)を読み上げて退位の礼を行うことを伝えられた。きょう夕方には、宮殿「松の間」で催される正殿の儀では、安倍総理の国民代表の辞に続き、天皇が在位中最後のお言葉を述べられる。

   海外メディアもさっそく取り上げている。イギリスBBCテレビは「Japan’s Emperor Akihito is set to step down from the throne on Tuesday, make him the first Japanese emperor to abdicate in more than 200 years.(日本のアキヒト天皇は火曜日で退位する。ここ200年余りで途中で皇位を降りる初めての天皇となる)=写真・上、BBC‐Web版=。アメリカのニューヨークタイムズ紙は皇位継承の特集を組んでいる。「His Father Was Called a God. She Called Him ‘Jimmy.’(父は神と呼ばれたが、彼はジミーと呼ばれた)」。終戦から1年後の1946年の秋、学習院に着任したアメリカ人の女性教師が、12歳の少年だった皇太子に「このクラスでは、あなたの名前はジミーです」と名付けたピソードを紹介している。

   天皇退位で思い浮かぶのはやはり、天皇皇后が被災地を訪れ、丁寧に被災者を見舞われたお姿だ。避難所を訪れ、膝をついて対話する姿は被災者に寄り添うお気持ちが伝わり、国民の共感を呼んだ。平成3年(1991)の雲仙・普賢岳(長崎県)の噴火の被災地への見舞いから始まり、その後の災害復興状況の視察を含め37回にも及ぶ(宮内庁HP)。国民はマスメディアを通じて、いつの間にか、この姿が天皇のシンボリックなイメージとして定着しているのではないだろうか。

   膝をついての国民との交流は被災地だけではない。平成27年(2015)5月、第66回全国植樹祭が石川県小松市の木場潟公園で開かれた。天皇はクロマツとケヤキなどの苗を植樹され、美智子さまはヤマモミジの苗を緑の少年の団の女の子といっしょに植えられた。このときも、膝をついて丁寧にお手植えされる姿が新聞の紙面にも掲載された=写真・下=。

   平成の大晦日、私自身の一日は骨董市と草むしり。習い始めている茶道に必要な香合と風炉先屏風を買い求めた。香合は炭点前には欠かせないがそれらしいものがないのに気が付き、ようやく手にすることができた。草むしりは大いに苦戦している。チドメグサとの闘いは難題だ。むしり取っても、むしり取ってもしばらくしてまた生えてくる。しかも、芝生やスギゴケといったグランドカバーに潜り込むようにして生えている。「おのれ、許さん」と挑むが、戦いはエンドレスなのだ。あすの令和も、晴れれば地べたをはっている。10連休の醍醐味ではある。

⇒30日(火)午後・金沢の天気     くもり

★トークンエコノミーって何だ

★トークンエコノミーって何だ

   トークンエコノミーという言葉を最近よく耳にする。英語で「token」はもともと「しるし」「象徴」と習った。それが「記念品」「証拠品」の意味になり、最近では硬貨の代わりに用いられる代用貨幣のこととして言葉が進化している。新しい経済概念として、トークンエコミーは「デジタル通貨による新しい経済圏」を指すようだ。今月20日に「能登SDGsラボ 第1回トークンエコノミーと奥能登国際芸術祭」という勉強会(講師:石田貢、大野沙和子の両氏)が石川県珠洲市であった。残念ながら参加はかなわなかったが、レジュメが手に入った。それをもとに自分なりに読み込んでみる。

   トークンエコノミーはもともと心理学の世界で生まれたとされる。望ましい行動を取った場合に「トークン」が付与され、トークンを有形無形の価値と交換できるようにすることで特定の人やグループに対し望ましい行動を推奨するという考えだ。たとえば、消費税増税前の駆け込み需要を地域に取り込み、域内の経済活性化を図る目的で、行政が単独で発行する「プレミアム付き商品券」(1万円で1万2千円分など)もトークンの一種といえる。つまり、プレミアム付き商品券というトークンが外部に流出せず、域内で循環する仕組みとなる。

   このトークンの仕組みを、ユーザーがスマートフォン上の電子ウォレット(財布アプリ)を利用することでさらに利便性が広がる。紙の地域商品券では、所有者に対して利用できる場所の情報を送付するといったコミュニケーションを取ることは難しいが、スマホだとユーザーに情報を送ることができ、継続的なコミュニケーションの接点となる。また、売れ筋商品の開発や事業展開など消費データを収集できるなど多面的な活用ができる。

   ここで出てくるあらたなキーワードが「ブロックチェーン」だ。データのかたまり(ブロック)が連なっていく(チェーン)、これがブロックチェーンと呼ばれる。現在多くのネットユーザーは特定のサーバーにアクセスし、データのやり取りを行っている。ブロックチェーンは「ピアツーピア(Peer to Peer)」という通信方式でデータのやり取りを行う。ピアツーピアは、サーバー頼みの通信方式ではなく、ネットワークの参加者が個別、平等にデータのやり取りを行う方法のこと。

    このブロックチェーンでトークンを発行することで、データの消失や改ざんといったリスクが軽減されるため、金融庁は新たな法的な枠組みづくりを検討している。今年度中に法案が成立の見込み。スペインのバルセロナでは、ブロックチェーンを基盤とした地域通貨「Rec」の発行を昨年2018年から実証実験の段階に入っている。1Recは1Euroに該当し、スマホで市内の店舗で利用すれば、特別な特典が受けることができ、域内での資金循環に寄与しているという。

     勉強会では、トークンエコノミーを2020年秋に珠洲市で実施される奥能登芸術祭で特典が得られる参加券(電子チケット)の購入や国内外へのプロモーション活動、アートへの市民参加などに活用してはどうかとの提案が具体的にあった。プラン化が決まったわけではない。しかし、新しい概念を地域で分かりやすく説明し、トークンを使ってみたいという来場者の心をくすぐるイベントにしてほしいと願う。

⇒29日(昭和の日)夜・金沢の天気    くもり

☆異次元緩和は「MMT」のお手本なのか

☆異次元緩和は「MMT」のお手本なのか

   平成元年(1989)、バブル経済の絶頂期だった。その年、株価は史上最高値3万8915円をつけた(12月29日)。その後、バブル景気は徐々に崩れ平成9年(1997)には山一証券など金融機関が破綻した。平成12年(2000)にはITバブルで株価は2万円台を回復するも、翌13年9月のアメリカ同時多発テロ事件で1万円を割り込む。平成20年(2008)のリーマンショックで一時7000円を割り込み、バブル崩壊後の最安値に(10月28日)。平成25年(2013)からの日銀の大規模な金融緩和で株価は上昇に転じ、平成最後の取り引きとなったきょう26日は2万2258円だった。平成の株価はまるでジェットコースターのようだった。 

      話は変わるが、いまメディアの経済記事のトレンドは「MMT」だろう。Modern Monetary Theory(現代金融理論)。アメリカの金融情報情報サイト「Bloomberg」(4月9日付)でも「Wall Street Economists Wade Into the MMT Debate in a Big Way(ウォール街の経済学者たちは大々的にMMTの議論に加わった)」とMMT論争を報じている=写真・上=。

   記事からMMTを要約する。自国で通貨を発行している国家は、債務返済に充てるマネーを際限なく発行できるため、政府債務や財政赤字で破綻することはない。景気を上向かせ、雇用を生み出していくために、過度なインフレにさえならなければ、政府は積極的に財政出動すべきだ、とする論だ。

   このMMTを提唱するアメリカの経済学者らが事例とするのが日本なのだ。アベノミクスや日銀の異次元緩和を引き合いに出して、国と地方の負債はGDPの2倍近い1100兆円を超えているが、インフレにもならず、財政も破綻していない。格付け会社は日本国債を格下げしたが、金利はギリシアのように急騰せず、インフレ率も低い。インフレはマネーの過剰よりもむしろ、モノの不足を主因として起きるのであって、民主的な政府であれば貿易もう自由化されマネーの供給過剰は起きない。「日本を見よ」と。

   こうしたアメリカ側からのMMT論を警戒しているのは政府、日銀、財務省だ。財政規律を緩めかねないからだ。MMTに反論するため、今月17日に財務省が財政制度等審議会の分科会に出した資料は63㌻におよぶ(財務省ホームページより)=写真・下=。この中でMMTが指摘する「日本国債は大半が国内で保有されるため破綻しない」などの意見に対し、国債の海外投資家の保有割合が高まっているデータや、MMTに批判的な著名な経済学者ら17人の意見を掲載している。そのうちの一つを紹介すると。

   ロバート・シラー氏(イェール大学、経済学者)の ヤフーファイナンスでのインタビュー(2019年2月26日)。「パウエル議長が(議会証言で)受けた質問にMMTについてのものがあって、これは最近出てきたスローガンだ。もしも大衆が望むなら、政府はどこ までも財政赤字を無限に続けられるというものだと思うが、これはこのタイミングで出てきた悪いスローガンだと思う。一部の人々にとって政治的には有用なものだ。」

   シラー氏の論調はどこかで読んだ。平成25年4月に日銀の黒田総裁が「かつてない異次元のレベル」と言って始めた超金融緩和について、メディアの論調がこうだったではないか。「日銀がアベノミクスに加担してよいのか」と。結論、やはりMMTのお手本は日本なのかもしれない。

⇒26日(金)夜・金沢の天気    くもり時々あめ