★企業広告「嘘に慣れるな、嘘をやっつけろ」

★企業広告「嘘に慣れるな、嘘をやっつけろ」

         きょう7日の全国紙で「30段広告」を打って、「敵は、嘘。」「嘘つきは、戦争の始まり。」と吠えているのは出版社「宝島社」だ。30段広告とは左右の見開き全面広告のこと。それだけに目立つ。ここ数年、年明けになると、「ことしのテーマは何だろう」などと気にかけていた。今年のテーマはフェイクニュースを許すなとのメッセージだ。首をかしげるのは、「敵は、嘘。」のキャッチは読売新聞、「嘘つきは、戦争の始まり。」は朝日新聞の2パターンがあるのはなぜだ。

   読売の「敵は、嘘。」はデザインがイタリア・ローマにある石彫刻『真実の口』だ。嘘つきが手を口に入れると、手を抜く時にその手首を切り落とされる、手を噛み切られる、あるいは手が抜けなくなるという伝説がある。「いい年した大人が嘘をつき、謝罪して、居直って恥ずかしくないのか。この負の連鎖はきっと私たちをとんでもない場所へ連れてゆく。嘘に慣れるな、嘘を止めろ、今年、嘘をやっつけろ。」とフレーズが高揚している。この文を読めば、昨年国会で追及された一連の問題のことを指しているのかなと想像する。つまり、読売の読者には内政での嘘を見抜けと発破をかけているのではないか。

   片方の、朝日の「嘘つきは、戦争の始まり。」はデザインが湾岸戦争(1991年)のとき世界に広がった、重油にまみれた水鳥の画像だ。当時は、イラクのサダム・フセインがわざと油田の油を海に放出し、環境破壊で海の生物が犠牲になっていると報じられていた。そのシンボリックな写真だ。ただ、イラクがアメリカ海兵隊部隊の沿岸上陸を阻むためのものであるとの報道や、多国籍軍によるイラクの爆撃により原油の流出が生じたなど、その真偽はさだかではない。「今、人類が戦うべき相手は、原発よりウィルスより温暖化より、嘘である。嘘に慣れるな、嘘を止めろ、今年、嘘をやっつけろ。」とこれもテンションが高い。全体のトーンからアメリカのトランプ大統領の在り様を連想させる。つまり、朝日の読者にはアメリカの嘘を見抜けとけしかけているのではないか。

   宝島社のホームページによると、企業広告の意図が掲載されている。「気がつくと、世界中に嘘が蔓延しています。連日メディアを賑わしている隠蔽、陰謀、収賄、改ざん…。それらはすべて、つまりは嘘です。それを伝えるニュースでさえ、フェイクニュースが飛び交い、何が真実なのか見えにくい時代になってしまいました。人々は、次から次に出てくる嘘に慣れてしまい、怒ることを忘れているように見えます。いまを生きる人々に、嘘についてあらためて考えてほしい。そして、嘘に立ち向かってほしい。そんな思いをこめて制作しました。」
   
   ここまでくると、企業広告とはいえ、出版社のジャーナリズム性が問われる、と考察する。今度は宝島社そのものが、どうフェイクニュースと戦うのかそのスタンスを明示しなければ、企業広告の価値、そして企業そのものが問われるだろう。一度振り上げた拳(こぶし)は簡単に下ろせない。

   ちなみに、宝島社の年初広告は2018年1月5日付は「世界は、日本を待っている」。自然を崇拝し、異文化を融合させながら常に新しい文化を創造してきた国、日本がテーマ。2017年1月5日付は「忘却は、罪である」。前年にオバマ大統領の広島訪問、安倍総理の真珠湾訪問が実現した歴史的な年だったことから、世界平和をテーマとした。次なる宝島社の30段広告に期待したい。

⇒7日(月)夜・金沢の天気    くもり時々あめ

☆『いだてん』ネタばらし

☆『いだてん』ネタばらし

   きょう6日付の朝日新聞「天声人語」を読んで、「これはNHK大河ドラマのネタばらしではないか」と笑った。今夜から始まるNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』をテーマにした記事だ。ドラマの主人公の一人は、日本が初めてオリンピックに参加した1912年(明治45年)の第5回ストックホルム大会でマラソンに参加した金栗四三(かなくり・しそう)だ。金栗の業績や個人ヒストリーについては、出身地の熊本県和水町(なごみまち)のホームページに詳しく掲載されている。
   
  当時ストックホルムまでの旅程は船とシベリア鉄道を経由し、17日間にも及んだ。マラソン当日、長距離移動や異国での慣れない環境に加え、酷暑のために26-27㌔付近で意識不明となり落伍した。出場選手68人中、完走は半分の34人という過酷なレースだったようだ。1967年、ストックホルム大会の開催55周年を記念する式典が開催され、スウェーデンのオリンピック委員会が当時の記録を調べたところ、金栗は「(棄権の意思が運営側に届いていなかったため)競技中に失踪し行方不明」となっていることに気が付いた。つまり、「消えた日本人選手」との扱いになっていた。そこで、スウェーデンのオリンピック委員会は金栗を探し出し、記念式典に招待した。

   ここから感動の物語が始まる。記念式典の当日、76歳の金栗は観衆が見守る中、競技場を走り、ゴールでテープを切った。「日本の金栗、ただいまゴールイン。タイム54年と8か月6日5時間32分20秒3、これをもって第5回ストックホルムオリンピック大会の全日程を終了します」とアナウンスが会場に響いた。これに金栗は「長い道のりでした。この間に結婚し、6人の子どもと10人の孫に恵まれました」と答え、会場は大きな拍手と歓声で包まれたそうだ。このストーリーを仕立てたスウェーデンのオリンピック委員会の企画力とセンスには脱帽する。

   天声人語は「ドラマではきっとそんな一代の名場面も描かれることだろう。」と記している。冒頭で「笑った」と述べたが、大河ドラマのプロデューサーもこの感動のシーンで番組のラストを飾りたいと思っているに違いない。ネタばらしとはこの意味である。

   ところで、正月早々の3日に熊本地方を震源とする地震があり、和水町では震度6弱の揺れがあった。町役場のホームページによると、大河ドラマが始まるきょう6日に、金栗の生家に近い公民館で地域の人たちが集まってテレビを視聴するパブリックビューイングが計画されていたが、地震の影響に配慮して中止されるようだ。「日本マラソンの父」と称され、箱根駅伝の創設者としても知られる金栗を郷土の誇りに震災から復興することを願っている。(※写真は熊本県和水町のホームページより)

⇒6日(日)夕・金沢の天気     くもり時々あめ

★ブログ5000日

★ブログ5000日

   きょう1月5日はブログ「自在コラム」を開設して5000日目に当たる。2005年4月28日にアップした「★50歳エイ・ヤッと出直し」がスタートだった。その年の1月に民放テレビ局を辞して、4月から金沢大学の「地域連携コーディネーター」という仕事に就いた。まったくの異業種、エイ・ヤッだった。友人からは「よくテレビ局を辞めたね。もったいない」と言われたが、私自身は以前から「50歳になったら人生を見直す」と公言してきたのでそれを実行したまでのこと。そもそも、性格的に言って、一つの仕事を最後まで務め上げて云々というタイプではなく、幼いころから寄り道や道草、よそ見ばかりしてよく親に心配をかけた。 

        では、ブログを始めるきっかけは。大学でコーディネーターの職に就いたことを知らせるあいさつの葉書を友人たちに送った。その当時の私のオフィスはキャンパスに移築された築280年の古民家=写真・上=だった。その外観の写真を葉書に掲載した。すると、テレビ局時代の秋田の友人から「ブログに掲載するので内部の写真も送ってほしい」とメールで返信があった。メールで何度かやり取りをしているうちに、「宇野ちゃんは元新聞記者だから、書き始めるときっとはまるよ」と勧められ、当時ブログに余り興味はなかったが、誘われるままにブログの世界に片足を突っ込んだ。あれから14年、アップロード回数は今回で1363になった。その意味では、どっぷりと「はまった」のかもしれない。

   ブログは毎日書いているわけではなく、3日か4日に1本のゆっくりペースだ。ただ、日々のニュースや身の回りの出来事に目を向け、「これはブログのネタになるかもしれない」などと常に思いを巡らしてきた5000日だった。ブログを意識して写真も随分と撮った。画像ファイルがハードディスクの容量を占めるようになってきたので、外付けのハードディスクを持ち歩いている。これまでの中で印象に残る写真を1枚紹介するとすれば、2006年1月、イタリアの国立フィレンツェ修復研究所を訪れたときの画像だ。この研究所は16世紀に「美術のパトロン」といわれたメデイチ家が設立し、世界トップクラスの修復のプロたちが集う。研究所内を許可を得て撮らせもらった。ベッドに横たわる聖像があった。修復士たちが何やら聖像の声に耳を傾けているようにも見えた。聖像は右手を上げ、「病んでいる私を助けてほしい」と訴えかけているよう=写真・下=。まさに病院の医者と患者の光景であった。美術王国イタリアのひとコマである。

    ブログを勧めてくれた友人はその後SNSに乗り換え、トレンドを走っている。これまで、SNSの誘いを何人かの友人から受けたが、かたくなにブログ一本で通し、「不器用」な人生を貫いている。「ブログ1万日」となると78歳だ。いま密かに計画を練っている。自身のデータ(日記、検診や診療記録など)、講演や講義の原稿、著作物、撮った写真、読んだ本のリスト、名刺、これまでのブログなどをすべてAIに読み込ませ、私の思考や感情、心理と論理、知識、対人関係を身に着けた「分身」になってもらうのだ。1万日目のブログはひょっとしてAI分身が書いているかもしれない。  (※写真・上は金沢大学創立五十周年記念館「角間の里」)

⇒5日(土)朝・金沢の天気    あめ

☆アップル・ショック

☆アップル・ショック

    まさに新年早々に「ネガティブサプライズ」だ。きょう朝のニュースによると、アメリカのアップル社は日本時間で3日、2018年10月-12月期の売上高の予想を下方修正し、840億㌦に留まる見込みだと発表した。これを受け、ニューヨーク株式市場でアップル株が一時10%急落、ダウ下げ幅も一時600㌦を超えた。しかし、1社の業績がここまで「資本主義の総本山」ウオールストリートを揺るがすものなのだろうか。

    問題はここにあった。アップルのティム・クックCEOが売上高を下方修正した最大の原因は中国の景気減速だ、と述べたのだ。「”While we anticipated some challenges in key emerging markets, we did not foresee the magnitude of the economic deceleration, particularly in Greater China,” he said. 」(イギリスBBCニュースより)。直訳すれば、「主要新興国市場ではある程度の課題が予想されたものの、特に大中華圏では景気減速の規模がこれほどまでとは予測することはできなかった、とクックCEOは述べた」。香港や台湾を含む大中華圏でのアップル社の売上は全体の20%近くを占めるとも述べているので、中国における景気減速の影響がアップル社だけでなく他産業にも広がると投資家の不安感を刺激したのだろう。このニュースが世界を駆け巡った。

   一方で、売上の下方修正の原因を中国の景気減速のせいにするアップル社のコメントに疑問を投げかけているメディアもある。アメリカのウオールストリートジャーナルWeb版(日本語)は「高級スマートフォンを中国に紹介したアップルは、同国での販売低迷に苦しんでいる。現地メーカーがはるかに低い価格で似たようなデザインと性能の製品を提供し、消費者の心をつかんでいるためだ。アップルのティム・クックCEOは業績見通しを下方修正した理由に、中国経済の減速を挙げた。だが、アップルはそれより根深い問題を抱えている。同社は現地のスマホメーカーの競争力を見くびっていた可能性がある・・・」と論評している。

   確かに、日本国内ではiPhoneの新機種などは価格が高く、消費者に支持されているのか疑問に思うこともある。ショップで見た価格だが、「iPhone XS」(64GB)は12万円、「iPhone XS Max」(同)は14万円だ。画像処理などを行う人工知能や機械学習などの技術を組み込んだハイスペックの製品なのだが、他のメーカーと比べ価格が一ケタ違う。スマホは日常生活に欠かせないものだけに、「価格はそこそこでよいのでは」というのが日本人の感覚かもしれない。

   中国でiPhoneが不調なのはむしろ、アメリカと中国の「貿易戦争」で、アメリカのブランドものに対して中国の消費者心理が冷え込んでいるのではないかと読むほうが自然だ。ましてや、ウオールストリートジャーナルが指摘しているように、現地メーカーが低い価格で似たようなデザインと性能の製品を提供し、消費者の心をつかんでいることは想像に難くない。

   ある意味で、トランプ大統領が仕掛けた「貿易戦争」が、アメリカを代表するIT企業の業績にブーメランのように直撃したのかもしれない。まさに「アップル・ショック」だ。(※写真はイギリスBBCのHPより)

⇒4日(金)朝・金沢の天気     くもり時々あめ

★「2019」を読む~下

★「2019」を読む~下

  自宅の庭にロウバイの花がささやかに咲いている。薄黄色のロウバイと白ツバキを生けて床に飾る=写真・上=。花の少ないこの時期、心を和ませてくれる。ロウバイの漢字表記は蝋梅。旧暦12月は蝋月(ろうげつ)とも称され、冬に咲く梅に似た花であることから蝋梅と呼ばれるようになった。小寒(1月6日ごろ)から立春(2月3日ごろ)にかけての季語でもある。「生物文化多様性」という言葉がある。植物や動物などの生物に文化的な価値付けをすることで生物の多様性を守り、文化的な深まりや広がりを人々も享受できるという意味だと自分なりに解釈している。国連大学やUNESCOなど国際機関が使い始めた言葉だ。

  花を愛でる価値共有と移民政策、生物文化多様性の視点から      

  花の価値を共有できる国の一つはベトナムではないかと思っている。2017年11月、旅したハノイ市内の路上では移動の花店=写真・下=や夜の花市場があり、女性や男性がバイクや軽トラックで次々と花の束を持ち込んで、とても活気があった。ベトナム航空のロゴマークは蓮(はす)の花をデザインしたもの。蓮は日本では仏花を代表する花だが、ベトナムでもシンボリックな花だ。ベトナムは社会主義の国だが仏教が主流だ。そして、ベトナムで仏教を信仰する多くの人々は月2回(1日と15日)に精進料理を食べることも習慣となっている。文化的な価値感を共有できる国ではないだろうか。

  外国人労働者の受け入れ拡大に向けた改正出入国管理法(入管法)が今年4月から施行される。人手不足に悩む14業種、介護、ビルクリーニング、農業、釣り漁業、食品・飲料製造(シーフード加工を含む)、レストラン(飲食サービス)、材料産業、産業機械、エレクトロニクスおよび電気機器、建設、船舶・海洋産業、自動車整備、航空(空港の地上処理、航空機のメンテナンス)、宿泊・もてなしを対象に、日常会話の日本語と簡単な技能試験に合格すれば、単純労働でも最長5年間の就労を認める(特定技能1号)。さらに高度な試験に合格し、熟練した技能を持つ人は長期就労も可能になり、家族の帯同も認める(同2号)。

   日本、ベトナムなど11ヵ国が参加し先月30日に発効したするTPP(環太平洋パートナーシップ協定)では動労者の国境を超えた移動の自由化や、単純労働者の受け入れは対象ではない。しかし、少子高齢化の最先進国である日本は、長期的な視野に立って外国人労働者の受け入れに本腰を入れるしかないだろう。これは思い付きだが、改正入管法の日本語と技能のほかに「文化価値共有度」という尺度があれば、日本で働くと同時に暮らしの中で日本に溶け込み、永住者(移民)として受け入れやすくなるのではないだろうか。TPPの発効と改正入管法の施行は「移民政策」を正面から議論するチャンスだと考える。生物文化多様性という言葉の意味はそこまで広がる。

⇒3日(木)午後・金沢の天気   あめ

☆「2019」を読む~中

☆「2019」を読む~中

   元旦に個性的な賀状を多くいただいた。その賀状からは人生の在り様や経営への想いなどを読むことができる。何枚か紹介したい。著作物を勝手に流用することに少々気も引けるが、正月ということで作者の方にはお許しいただきたい。

            「風のスタシオン」、賀状に込められた経営への想い

       東京の出版社の友人は将棋が趣味。 ✒ 「将来の名人(明治)」と皆が唱和(昭和)し、将棋が大勝(大正)続きでも、本人は常に平静(平成)でいる。ホントに凄い! そうだ(聡太)、新元号は「藤井」にしよう! 

   今年84歳になる人生の大先輩、能登在住。 ✒  干支七回目の目標五項目 ◇複式呼吸法で健康管理と心おだやかに ◇話に明るさ、深さ、広さがあるように ◇常に相手方の長所に学ぶこと ◇「ほめ言葉」と「感謝の言葉」を忘れぬ様 ◇日々、「誠心誠意発露の場」とする精進努力を

   金沢のホテル支配人から。 ✒ 「風土」の語源は土地の生命力とか。「風」と「土」が造る気象、景観や文化、歴史。「土」はこの地に生を受けた私たちなら「風」は旅の人たち。延伸5年目を迎える北陸新幹線は、多くの観光客を連れてきただけでなく、「観光公害」なる言葉も生み出しました。この嫌なフレーズを耳にする時に金沢のおもてなしの力について考えさせられます。「今年は”風のスタシオン”になる」 多くの旅人がこのホテルに集まり散じていく、ひとときの心地よい「駅」でありたいと思います。

   プランニング会社の社長から。 ✒  風の言葉を聴き、土の力を知る。風土から学び、風土へ帰る。これが私たちの普通のコンセプトであり、その核をなすのは人と人のつながりです。新しい年もつながりを深める年となるよう務めていきます。

   最後に自身の賀状を。 ✒ 「平成最後の正月」をみなさまいかがお過ごしでしょうか。本年もどうぞよろしくお願いいたします。プライベートで書き続けているブログ『自在コラム』を始めて今月5日で5000日になります。本数は1360本です。3日か4日に1本のゆったりしたペースですが、日々のニュースや身の回りの出来事に視線を注ぎ、「これはブログのネタになるかもしれない」などと思いを巡らしてきた5000日でした。2017年には中間的なまとめの意味を込めて、新書『実装的ブログ論』(幻冬舎)を上梓しました。これまで、SNSのお誘いを何人かの方々から受けたのですが、かたくなにブログ一本で通す、不器用な人生です。平成から次の時代に変わりましても、引き続き人生のよきお付き合いをいただければ幸いです。

⇒2日(水)朝・金沢の天気   くもり時々はれ 

★「2019」を読む~上

★「2019」を読む~上

    それにしても見事な初日の出だった。写真は午前7時55分、金沢の自宅の2階から撮影したもの。青空に朝日が映えて、眼にも心にも光が差す。長らく北陸に住んでいて、快晴の元旦というのは珍しい。さて、2019年は好天に恵まれるのだろうか、この年を読み解いてみたい。

    年末31日のニューヨークのダウは前週末比265㌦高い2万3327㌦で終えた。アメリカと中国の「貿易戦争」とまでいわれる関税のつばぜり合いで、中国が軟化してきたとの分析が出始め、また、トランプ大統領と習国家主席による電話協議(29日)も前向きにとらえられ、買いが優勢になったようだ。日経平均の2018年終値は2万14円となんとか2万円台を保ったが、1年間で2750円安となった。「アベノミクス」の限界が見えてきたとこのブログでも触れた。では、日本の経済は今年停滞するのかとの思いもよぎるが、むしろ堅調なのではないだろうか。

     不透明感が高まる近隣諸国とどう向き合うか

    先月30日にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)が発効して、日本、カナダ、メキシコ、シンガポール、ニュージーランド、オーストラリア、ベトナム、チリ、マレーシア、ペルー、ブルネイの11ヵ国が参加したGDP10兆㌦の経済圏が構築される。さらに、日本にとって来月1日からEUとの経済連携協定(EPA)も発効する。多国間での自由貿易エリアが誕生することで、国民の経済へのマイナスイメージは当面和らぐのではないか。日本企業の業績もおおむね好調だ。ただ、10月から消費税率アップされるので楽観視はしていない。

   問題は近隣の中国、韓国の経済と外交の在り様ではないだろうか。中国は「一帯一路」を掲げ、アジアやアフリカの各国に融資し、港湾や鉄道などのインフラ開発を積極的に展開してきたが、ここにきて開発計画のずさんさや債務の膨張が表面化してきた。シルクロード経済ベルト(一帯)と21世紀海上シルクロード(一路)の壮大な構想が最近では、債権国(中国)と債務国の在り様がむしろニュ-スとして目立つ。さらに、中国通信機器メーカー「ファーウェイ」の製品を締め出す動きが、世界で広がっている。アメリカは国防権限法を昨年8月発効させ、政府機関や軍の情報が中国当局に流れる危険性があるとし、ファーウェイなど中国通信機器メーカーの製品を政府機関が使うことを禁止している。アメリカは日本など関係国にも働きかけを強め、オーストラリア、ドイツなどヨーロッパ各国、そして日本でも通信インフラを担う企業を含め中国製品をボイコットする流れだ。

   韓国経済も不況感が漂う。先月28日に韓国統計局が発表した11月の産業活動動向(鉱工業やサービスなどの生産動向)によると、鉱工業生産は前月比1.7%減と2ヵ月ぶりの減少となった。製造業生産は前月比1.9%減と2ヵ月ぶりに減少。内訳は前月比で「自動車・トレーラー」(マイナス2.3%)が3ヵ月連続の減少、「半導体・通信機器他」(マイナス4.7%)や「精密・光学機器他」(マイナス3.0%)など韓国の主力産業といわれる分野でマイナス幅が大きくなっている。朝鮮日報(12月31日付Web版)は「韓国の上場企業による営業利益の半分(49.59%)を占めるサムスン電子とSKハイニックスの業績低下が予想よりも深刻で、両社の株価は今年下半期にそれぞれ20%以上下落し、年初来安値を記録した。世界経済が過去10年間の好況から停滞局面に入ったことに加え、中国の攻勢もますます強まっているからだ」と分析している。

  韓国は直近で言えばレーダー照射問題など次々と日本との間で事を起こしている。今後ひと波乱もふた波乱もあるだろう。不透明感が高まる近隣諸国とどう向き合うのか、2019年の日本の最大の課題ではないだろうか。

⇒1日(元旦)午前・金沢の天気    はれ後くもり

☆平成最後の年末、レクイエム回顧~その6

☆平成最後の年末、レクイエム回顧~その6

   この一年の墓碑銘をなぞってみて、映画『日日是好日』で主役を演じた樹木希林(9月15日逝去)に哀悼の意を表したい。映画は亡くなった後の翌月に封切られ、「日日是好日」の意味が知りたくて金沢の映画館で鑑賞した。物語は樹木希林が演じる茶道の先生の元で、主人公を演じる黒木華が大学生の20歳の春にお茶を習い始めことから始まる。

     日日是好日の人生を生き抜いた二人の墓碑銘をなぞる

   映画の空間は一つの小さな茶室なのだ。ここで茶道の帛紗(ふくさ)さばき、ちり打ちをして棗(なつめ)を「こ」の字で拭き清める。茶巾(ちゃきん)を使って「ゆ」の字で茶碗を拭く。多くのシーンは点前だ。面白いのは二十四節季の茶室が描かれ、茶道の四季を際立たせている。四季は「立春」「夏至」「立秋」「小雪」「大寒」などと移ろっていく。同時に掛け軸と茶花が変わり、炉から風炉へ、菓子も季節のものが次々と。外の風景も簀(す)戸、障子戸と季節が移ろう。夏のシーンで主人公が床の掛け軸の「瀧」と茶花のムケゲと矢羽ススキを拝見する姿がある。瀧の字は流れ落ちる滝のしぶきをイメージさせ、「文字は絵である」と悟る。小さな茶室での物語であるものの、季節感あふれる多様な茶道具に見入り、茶道の世界の広さと深さに圧倒された。

   樹木希林の演技はまさに「お茶の先生」だった。初釜の場面で、濃茶の点前をする長めのシーンがある。複雑な手順も自然にこなし、流れが身についていると感じさせる。作法と演技を一体化させる才能はどこから来るのだろうか。主人公は失敗と挫折、人生の岐路に立たされながらも、茶道を通じてその清楚さに磨きをかけ、ヒロインとして輝きを放つ。小さなお茶室で繰り広げられる、茶道という「道」の壮大なドラマだった。日日是好日の意味は、喜怒哀楽の現実を前向きに生きる、その一瞬一瞬の積み重ねが素晴らしい一日となる、そんな解釈だろうか。

   映画を見終わったとき、ひょっとして樹木希林が演じたお茶の先生のモデルではないのかと想像を膨らませた先生がいた。金沢市の出村宗貞さん(本名・貞子)。茶室がある自宅を訪問すると、庭には茶花が咲き、茶室では社中の人たちが稽古に余念がない。出村先生はときには叱り、ときには手を取り教える。話し方、所作など樹木希林が演じる役を地で行く先生だ。その出村さんは10月27日に逝去された。94歳だった。慕われ、尊敬される茶道教授の役柄を見事に演じ切った。日日是好日。名優として最期を遂げた樹木希林と私の心の中でどこか2人の生きざまが重なって見える。(※写真は映画『日日是好日』のパンフレットから)

⇒31日(月)午後・金沢の天気  くもり時々あめ

★平成最後の年末、レクイエム回顧~その5

★平成最後の年末、レクイエム回顧~その5

  年の瀬になって起きた「能登半島沖」の「大和堆」での事件。日本の排他的経済水域(EEZ)内で、韓国海軍の駆逐艦が20日午後3時ごろ、海上自衛隊のP1哨戒機に対して火器管制レーダーを照射した。岩屋防衛大臣が21日夜に緊急記者会見で公表した。P1は最初の照射を受け、回避のため現場空域を一時離脱した。その後、状況を確認するため旋回して戻ったところ、2度目の照射を受けた。P1は韓国艦に意図を問い合わせたが、応答はなかった。照射は数分間に及んだと報じられている。

   ドラマ仕立ての反論、事実と向き合えない相手が陥る弱点とは

   28日、防衛省はP1が韓国駆逐艦を撮影した動画をホームページで公開した。再生して視聴すると、当時のリアルな状況が伝わってくる。レーダーの電波を音に変換してヘッドホンで聞いているP1の操縦士たちが「出しています」と電波を感知すると、「避けた方がいいですね」「めちゃくちゃすごい音だ」と緊迫した会話が録音されている。その後、P1から駆逐艦に向けて、「KOREAN NAVAL SHIP, HULL NUMBER 971, THIS IS JAPAN NAVY, We observed that your FC antenna is directed to us. What is the purpose of your act ? over.」とレーダー照射の目的を無線で3度問い合わせている=写真・防衛省ホームページより=。問い合わせに対する駆逐艦からの応答はなかった。テロップは付けてあるものの、画像の編集はなく、13分7秒の実録である。

   これに対する韓国側の対応はドラマ仕立てだ。映像の公開を受けて、韓国国防部側は「日本側が公開した映像資料は単純に日本の哨戒機が海上から巡回するシーンとパイロットの対話だけだ。一般的な常識からみると射撃統制レーダーを調査したという日本側の主張に対する客観的な証拠とはみられない」と映像の信ぴょう性そのもものを否定。さらに、P1からの呼びかけに答えなかった理由として「日本乗務員がKorea South Naval Shipと呼んだが、通信状態が良くないえうえ英語の発音が悪くてSouthがCoastと聞こえた。海警を呼んだと考えた」と明らかにした、と29日付の韓国・中央日報(日本語版)は伝えている。

  韓国側の対応を「ドラマ仕立て」と述べたのは、事実のストーリーの書き換えを懸命に行っているとの意味である。「英語の発音が悪くて」というそれこそ客観性のない言葉で責任逃れのストーリーを組み立てようとしている。国際外交の舞台であれば、ある意味でドラマ仕立てのハッタリを効かせて交渉を優位に進めることもあるだろう。防衛は外交の場ではなく、相手の弱点を見抜く場でもある。事実と向き合えない相手の弱点とは何か。自己防衛本能は強いが、そのうち自己矛盾に陥る。そのときどうなるのか韓国は。

⇒30日(日)午後・金沢の天気    くもり時々みぞれ

☆平成最後の年末、レクイエム回顧~その4

☆平成最後の年末、レクイエム回顧~その4

     「キャッシュレス」も今年よく耳目で触れた言葉かもしれない。テレビや新聞によると、その先進事例は中国で、スマートフォンによる決済が進んでいて、マクドナルドでは現金レジがない店もあるようだ。さらに、食材市場の個人商店などでもQRコード決済が可能で、キャッシュレスが日常の光景になっている。この傾向は世界的に進んでいて、日本だけが「キャッシュレス文明」に乗り遅れてしまうと言わんばかりの少々自虐的なメディアの論調ではある。

     日本は「キャッシュレス文明」に乗り遅れているのか    

   そもそもキャッシュレスは物理的な紙幣や硬貨の現金ではない支払い手段のことだと自身は解釈している。プリペイドカードなど電子マネー(前払い)で買い物をし、電車やバスに乗車する。クレジットカード(後払い)で家電製品を買ったりもする。私は持っていないがデビットカード(即時払い)でレストランで食事を楽しんでいる友人たちもいる。このほか、電気料金や水道・ガスなどの公共料金などは自動引き落としだ。すでに身の回りはキャッシュレスだ。さらに、住宅ローンなどは銀行口座間での送金となっていて、支払い総額の高い比率がすでにキャッシュレス化している。

   それでも、日本のキャッシュレス化は低い。経済産業省の『キャッシュレス・ビジョン』(2018年4月)によると、世界各国のキャッシュレス決済比率では韓国が89.1%でトップ、2位中国、3位カナダと続く。日本は18.4%にとどまる。韓国では、年商240万円以上の店舗にクレジットカードの取扱義務を課しているほか、硬貨の発行や流通にコストがかかることから「コインレス」に取り組み、消費者が現金で買い物をした際のつり銭を、直接その人のプリペイドカードに入金する仕組みを国家の政策として進めている(『キャッシュレス・ビジョン』より)。
 
   日本でキャッシュレス化が進まないのは貨幣(お金)に対する日本人独特の意識と文化があるのかもしれないと考察している。その典型的な事例が「新券」という考えだ。俗にいうピン札だ。結婚や出産のお祝いの慶事の熨斗袋や、習いごとの月謝袋にはピン札を入れる。同じ1万円札なのに何故に、と他国の人々は不思議がるかもしれない。新券に気持ちを込めるという文化があるのだ。もう一つは治安のよさだろう。スウェーデンのキャッシュ決済比率も48.6%と高い。この背景に、現金を扱う金融機関や交通機関などで強盗事件がかつて多発したことから、犯罪対策としてキャッシュレス化が推進された(『キャッシュレス・ビジョン』より)。

   では、日本でキャッシュレス化を進めるメリットはどこにあるのだろうか。よく分からない。プリペイドカードの枚数が増えて混乱するのは消費者の方だ。根深いところでは、自然災害が多発する日本で送電網が絶たれた場合、プリペイドカードやクレジットカード、デビットカードは果たして使えるのか、機能するのか。それより手元に現金があったほうが安心なのではないか、という深層心理が日本人のどこかにあるのではないだろうか。小銭を財布の中で探すのは時間がかかり、おっくうではあるが。  ※写真は経済産業省『キャッシュレス・ビジョン』(2018年4月)より。

⇒28日(金)夜・金沢の天気     くもり