★ 魂のジェラート

★ 魂のジェラート

          ジェラートの本場、イタリアのパレルモで開催された国内最大のジェーラートコンテスト祭「2017 sherbeth Festival」で初優勝を果たし、一躍「ジェラートの風雲児」と注目される柴野大造氏が金沢大学で講演した(21日)。東京からの出店の誘いに応じず、能登でのジェラートづくりにこだわる。一方で、異業種の企業とのコラボや製品開発も行う。講演のタイトルは「地域素材のジェラートで世界発信 ~ブランド価値の創造で人生を切り拓く~」=写真=。

   能登半島の先端部にあたる石川県能登町で1975生まれ、地元高校を出て、東京農業大学を卒業後にUターン帰郷、家業の酪農に就く。しばらくして借金を抱え苦しい経営に追い込まれ、ジェラートの世界に飛び込んだ。「牧場経営の助けになればという思いで、加工品の製造を考えた。生クリーム、バター、ヨーグルトといろいろ考え、幅広い年齢の方に好まれるということでジェラートにしたんです」

   それまでスイ-ツや料理の経験もなく、イタリアからジェラートに関するレシピを取り寄せ、独学だった。アイスクリームよりも乳脂肪分と空気の含有量を押さえたジェラートは素材の味をダイレクトに伝えることができる。そして、能登へのこだわりは、食材へのこだわりでもある。能登の食材を次々にジェラートのフレーバーとして試した。日本海のワカメ、岩ノリ、カキ、寒ブリなど。能登産の塩を使った「天然塩ジェラート」は最初のヒット作となり、寿司屋やレストラン、居酒屋のデザートとして人気を博すことになる。

   2000年に「マルガージェラート能登本店」を立ち上げる。「食べた瞬間にそこに風景が浮かぶような味わいと情熱を表現することを心がけてつくっている」「どんな人が、いつ、どこで、誰とどんな表情で食べるのかというストーリー性を常に意識しながらつくります」

   イタリアのパレルモで優勝した作品は「パイナップル・セロリ・リンゴのソルベ」と題したジェラートだった。胃の中をリフレッシュしたい、それが自分のテーマだった。しかし当初、イタリアの職人仲間から「セロリはイタリアで最も嫌われる野菜なので、やめてた方がいい」とアドバスを受けた。それを頑として聞き入れず作品づくりに入る。パイナップルは胃もたれ防止、リンゴに含まれるペクチンは腸内環境を整え、そしてセロリは消化のため、と。チャンピオンに輝いたとき、審査員からこう称賛された。「君の作品はパーフェクトだ。イタリア人が寿司コンテストで優勝したようなものだ」と。

   心に刺さる話しぶりは、これまで何度か聴いたITベンチャーの成功者たちとはひと味違った、食を通じた人間愛が込められた言葉だった。「東京で見かける行列ができる店には興味がない。能登にいて、顔の見える生産者のモノを使いたい」「十人十味です。相手を思いやる愛がなければジェラ-トの味は伝わらない。魂の食なんです」

⇒23日(木)夜・金沢の天気      はれ

☆米中貿易戦争、「奇跡」は起きるか

☆米中貿易戦争、「奇跡」は起きるか

  アメリカの大手IT「グーグル」がスマートフォン用の基本ソフトの中国の通信大手「ファーウェイ」への提供を停止した。ファーウェイのスマートフォンには、グーグルの基本ソフト「アンドロイド(Android)」が使われているが、アメリカ商務省は17日、アメリカの企業が政府の許可なく取引を禁じるリストにファーウェイ本社と68の関連会社を発表している。これを受けて、グーグルがファーウェイに対して基本ソフトの提供を停止したカタチだ。20日付のイギリスBBC放送Web版=写真=は詳細に伝えている。

   今後ファーウェイが新たにつくるスマートフォンについては、アプリを配信する「グーグルプレイ」やメールソフト「Gメール」などグーグルの主なサービスが使えなくなる。ファーウェイはスマートフォンの出荷台数でアップルを抜いて、首位のサムスンに次ぐ世界第2位のシェアだが、打撃は避けられないだろう。

   これに対し、ファーウェイは声明を発表し、「すでに世界で販売されたり、現在販売されているスマホやタブレットについては、その利用やセキュリティーのアップグレード、それにアフターサービスに影響はない。利用者は、安心して使ってほしい」と述べ、スマホなどの使用に影響はないと発表。さらに、「アメリカで5G(次世代高速移動通信)を整備するつもりなどない」と宣戦布告のようなことを述べている。

       問題は中国政府の出方だ。外務省報道官の記者会見の発言を読むと、「中国政府は中国企業が法律を武器にみずからの正当な権益を守ることを支持する」と述べているが、アメリカに対するあからさまな非難を避けているような表現だ。アメリカとの貿易戦争という国難をどう切り抜けるのか。

   日本財団の笹川良平氏から届くメールマガジンで、「中国の小話」その185 ―中国政府の6つの奇跡は可能か?―とのタイトル(5月13日付)があったのでのぞいてみた。その奇跡とは、「住宅価格を維持しながら、不動産バブルの問題を解決する。」「貨幣を超過発行しながら、中央と地方政府の債務問題を解決する。」「絶えず巧妙に国民の税金負担を増やしながら、内需不足を解決する。」「資本規制をしながら、人民元国際化の障害をクリアする。」「計画生育制度を維持しながら、労働力人口の縮小問題を解決する。」「政府が強く関与しながら、市場の活力不足の問題を解決する。」

  中国の課題を絶妙な表現で「小話」化しているのが面白い。では、7つ目の奇跡があるとすれば、「米中貿易を戦いながら、25%関税をチャラにする。」だろうか。 

⇒22日(水)夜・金沢の天気   はれ

★能登半島、歌のツーリズム

★能登半島、歌のツーリズム

   歌手の石川さゆりさんが春の褒章(今月21日発令)で学問・芸術分野などに贈られる紫綬褒章に選ばれた。石川県の住民の一人として、石川さゆりさんの功績は大きいと評価している。それは昭和52年(1977)にリリースされた曲『能登半島』(作詞・ 作曲 · 阿久悠、三木たかし)のヒットによる観光効果だ。

   「十九なかばで恋を知り あなた あなた 訪ねて行く旅は 夏から秋への能登半島」。恋焦がれる女性の想いが込められた歌は能登への旅情を誘い、能登観光の第2次ブームを創った。翌53年に半島の先端・珠洲市への日帰り客数は130万人を記録(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成22年度旧きのうら荘見直しに係る検討業務報告書」)。その記録はまだ塗りかえられていない。

        では、能登観光の第1次ブームはいつだったのか。昭和32年(1957)、東宝映画『忘却の花びら』(主演:小泉博・司葉子)が公開された。「忘却とは忘れ去ることなり、忘れ得ずして、忘却を誓う心の哀しさよ」の名文句で始まるNHKラジオの連続ドラマ『忘却の花びら』(菊田一夫作)は、戦後の混乱期から落ち着きを取り戻し、マスメディアによる大衆文化が定着を始めたころのヒット作品だった。

   その映画のロケ地が輪島市の曽々木海岸であったことから、観光地としての能登ブームに火が付いた。横長のリュックを背負った若者が列をなしてぞろぞろと歩く姿を「カニ族」と称する言葉もこのころ流行した。さらに、昭和39年(1964)9月に国鉄能登線が半島先端まで全線開通、同43年(1968)に能登半島国定公園が指定された。マスメディアのPR効果、移動手段の確保、名勝としてのお墨付きを得て本格的な能登半島ブームが起きた。

   しかし、これまでの歌や映画によって誘われる旅情というはもう通用しないかもしれない。次世代の観光はこれまで旅行会社が取り上げなかった、あるいは観光地図にもなかった辺地、隠れた文化度の高い地域などが観光の対象となっていくのではないだろうか。「本当の田舎を見てみたい」や「何か体験をしてみたい」という要求が高まっている。いわばマス型からプライベイト型観光へとシフトが進んでいるように思える。

   新たな観光地は、個人を納得させる文化や歴史、伝統、農法、漁法、景観、人々の立ち居振る舞い、生業(なりわい)、自然・生態系といった地域資源をどれほど有するかがバロメーターとなるだろう。この点を踏まえれば、平成23年(2011)に「能登の里山里海」が国連機関である食糧農業機関(FAO)によって世界農業遺産、正式には「世界重要農業資産システム(Globally Important Agricultural Heritage Systems=GIAHS)」に認定された意義は大きい。

   世界農業遺産は次世代に継承すべき農法や生物多様性などを持つ地域の保存を目指していて、持続可能な伝統農法を見直すよう世界に求めている。家族や人の営みをベースにしていて、プライベイトな探訪型観光になじむ。国際的な評価を得た「能登の里山里海」の地域資源をいかにして活用してツーリズムへとつなげていけばよいのか、次なる能登観光のテーマでもある。

⇒21日(火)午後・金沢の天気    はれ

☆ファーウェイの背後に息苦しい情報空間

☆ファーウェイの背後に息苦しい情報空間

    アメリカと中国の貿易戦争に中国の通信機器「ファーウェイ」が引きずり込まれている。報道によると、アメリカ商務省は、アメリカの企業が政府の許可なく取り引きすることを禁じるリストにファーウェイ本社と68の関連会社を発表した(17日)。事実上の取引禁止だ。

          取引禁止とした経緯について「CNN」Web版=写真・上=は以下伝えている。トランプ大統領は16日、安全保障上の脅威と位置付けるメーカーの通信機器をアメリカ企業が使用することを禁じる大統領令に署名した。この時点で、ホワイトハウス当局者は大統領令のターゲットとしてファーウェイを念頭に置いているかどうかは明言しなかった。そこで、大統領令発令の直後に商務省が、アメリカの国益を侵害していると認定する企業のリストにファーウェイを正式に追加した。ここで初めてファーウェイが大統領令の適用対象となった。

   以前からアメリカはファーウェイが欧米諸国の通信インフラにスパイ行為のリスクをおよぼすとして警戒していたが、今回その排除が確定した。ファーウェイは次世代高速通信システム「5G」の先端企業とされる一方、中国の国家戦略「中国製造2025」のリーダー的企業でもあり、アメリカとすると自国の通信網にそのような企業の製品を入れたくないというのは当然かもしれない。

   今回のアメリカの決定の根拠はおそらくこれだ。2017年6月に施行された中国の「国家情報法」。法律では、11項目にわたる安全(政治、国土、軍事、経済、文化、社会、科学技術、情報、生態系、資源、核)を守るために、「いかなる組織および国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助および協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない。国は、国家情報活動に対し支持、援助及び協力を行う個人および組織を保護する」(第7条)としている。端的に言えば、中国に本社があるファーウェイは国家情報活動に「支持、援助および協力」をしなければならない。この法律がある以上、アメリカの懸念は理解できる。これは貿易戦争ではなく、安全保障の問題だ、と。

   その中国では、民主化を求めた学生たちに対する武力弾圧、「天安門事件」が1989年6月4日に起きてから30年になるのを前に、国内のネットからWikipediaへのアクセスが出来なくなっている。中国は2015年5月から中国語版Wikipediaへのアクセスを遮断しているが、この規制を全言語のWikipediaに拡大したことになる。インターネット検閲に関する調査団体「OONI」が報じている=写真・下=。

  法律による情報活動への協力、そしてネットの情報遮断。息苦しい情報空間がファーウェイの背後に漂っている。

⇒20日(月)午後・金沢の天気     あめ     

★「十人十色」なSDGs

★「十人十色」なSDGs

   SDGs(国連の持続可能な開発目標)と日本語に親和性を感じことがある。「これってSDGsのことだよな」と。先日金沢の隣の野々市市を自家用車で移動していて、中学校の校舎に掲げてあった横看板=写真=もそうだった。「十人十色、みんなちがってみんないい」と。十人十色はそれぞれの個性や考え、立場をお互いに尊重するという意味合いでよく使う言葉だ。この言葉をSDGsの視点で考えれば、まさに基本理念に掲げる約束「誰も置き去りにしない」と同意義だろう。

   看板には「生徒会目標」と書かれている。看板の文字のバックの色合いを眺めてみると、10色ほど使ってあってなかなか芸が細かい。生徒たちのアイデアなのか、教員の指導なのか。ひょっとして最初からSDGsを意識したスローガンなのだろうかと思いながら校舎を後にした。

   小学生のころから「来た時よりも美しく」という言葉をよく使った。今でも大学のフィールド実習を終えての帰り際に学生たちと宿泊施設の清掃をするが、「来た時よりも美しく」と自身が声を出している。この「来た時よりも美しく」という言葉こそ、SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」のキ-ワードとなっているアップサイクルに通じる。持続可能なモノづくりを目指す場合に、単なるリサイクル(素材の原料化による再利用)ではなく、元の製品より付加価値の高いモノづくりへとイノベーションと研究開発を進める。このアップサイクルの精神こそが「来た時よりも美しく」ではないだろうか。

   偉そうに言うが、アップサイクルという言葉を知ったのは3ヵ月前だ。「第1回地方創生SDGs国際フォーラム」(2月13日・東京)で、基調講演の黒岩祐治神奈川県知事が鎌倉市由比ガ浜で打ち上げられたシロナガスクジラの胃の中から大量のプラスチックごみが発見されたことを機に、プラスチックの代替となる新素材の開発を進めていることを「アップサイクルの実証事業」と紹介していた。このときに、アップサイクルは「来た時よりも美しく」ではないだろうかとひらめいた。

   古くから伝えられる近江商人の心得「三方よし」という言葉もSDGsとつながる。売り手、買い手、作り手がそれぞれに納得して利を得る。SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」のモデルのような調和の経済循環ではある。

⇒18日(土)夜・金沢の天気     くもり

☆「いずれ菖蒲か」「立てば芍薬」 花の精気

☆「いずれ菖蒲か」「立てば芍薬」 花の精気

   庭の季節の花が彩りを増している。アヤメが紫色の花びらを一斉つけている。アヤメの花を眺めていると、花びらに網状の文様が見える。わいゆる文目、これがアヤメの名の由来かと思ったりする。花だけを見るとカキツバタやショウブと見分けがつけにくいものの、自生地を見れば分かる。アヤメは乾いた土地に咲き、カキツバタとショウブは池など湿地に咲く。 

  「いずれ菖蒲(アヤメ)か杜若(カキツバタ)」という言葉がある。優劣がつけ難い、選択に迷うことのたとえ。アヤメかカキツバタかハナショウブかとこだわるのは日本人だけかもしれない。英語ではひっくるめてアリス(iris)と呼ばれているようだ。

  「立てば芍薬(シャクヤク)、座れば牡丹(ボタン)、歩く姿は百合(ユリ)の花」。女性の美しさとは、立っていても、座っていても、歩いていてもまるで花のよう、との言葉のたとえと自己流に解釈している。そこはかとなく高貴な姿をイメージさせ、「お守りして差し上げたい」と人間の本能がくすぐられる。シャクヤクが庭で咲き誇っている。「これまでの花は前座よ、本番のステージは私です」といわんばかりの精気を放っている。花が咲き競い、心を和ませてくれる。

⇒17日(金)夜・金沢の天気   はれ 

★ブローカー暗躍、アメリカの大学入学事情

★ブローカー暗躍、アメリカの大学入学事情

       アメリカの名門大学を舞台にした不正入学事件が相次いでいる。中国人の富豪が娘のスタンフォード大への入学時、ブローカー役のアメリカ人に650万㌦を支払っていたことが分かった(5月4日付「朝日新聞」Web版)。ブローカーは同大学のスポーツ推薦枠を悪用し、富豪の娘をセーリング選手と偽る書類を用意し、2017年に合格させたが、「提出書類に不正があった」との理由でその後、退学処分となっている。

  ブローカーが絡んだ不正入学はこれだけではない。エール大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、南カリフォルニア大学といった名門大学にハリウッドスターを含む多くの富裕層が子弟の裏口入学事件に関わり、賄賂の総額は2500万㌦、27億円相当になるという。

  そもそも、アメリカの大学が学生を入学させる基準が日本とは異なる。プリンストンやハーバードは点数もさることながら、面接を重視する選抜制度を採用している。入試ではエッセイ(作文)、推薦状2通、大学進学適性試験(SAT)、そして面接が選抜の要件。とても手の込んだ入試制度だ。その理念は多様な社会のリーダーを育てるということだ。「新たな知識の扉を開き、その知見を学生と共有し、学生の知性・人間性いずれにおいても最大限の可能性を引き出し、やがて学生をして社会に貢献する」(The Mission of Harvard Collegeより訳)。社会へ貢献は多様だ。だから、多様な人材をそろえる、大学の使命として理にかなっている。

  アメリカの入試制度は日本のような点数主義のエリートを育てるシステムではないが、裏を返せばブローカーが暗躍する土壌がそこにある。依頼者の子供である高校生がスポーツの花形選手だったという虚偽の記録をつくるため、実際に活躍したスポーツ選手の顔をフォトショップですげ替える写真の捏造まで行っている。さらに、大学のコーチを買収して合否選考に便宜を図ってもらう(4月25日付「CNN」Web版)。実に手の込んだ、用意周到な手口だ。写真の真ん中の女優、フェリシティ・ハフマンは1万5000㌦を支払って長女のSATで替え玉を使った疑いでことし3月に訴追されている。

  これらの工作資金を寄付というかたちで受け取るために、ブローカーは教育関連のNPO法人を設立し、そこに振込をさせていた。摘発を受けた際の言い逃れのためだ。冒頭の中国人富豪も「貧しい学生の奨学金に当てる正当な寄付と考えていた」と弁明している。知能犯ではある。 ※写真は「college admissions scandal(大学入学スキャンダル)」を報じる4月27日付「ニューヨークタイムズ」Web版

⇒13日(月)夜・金沢の天気     はれ

☆「前提条件なし」会談の思惑は

☆「前提条件なし」会談の思惑は

   安倍総理が北朝鮮の金正恩党委員長と「前提条件なし」に首脳会談を行う考えだと表明したとメディアが報じた(今月6日)。日本人拉致問題の解決に向けて一歩進めたいという思惑を感じる。また、北朝鮮問題をめぐる6ヵ国協議の参加国の中で、日本だけが北朝鮮との首脳会談が実現していないので、何とか対話の糸口をつかみたいと思っているのか。しかし、この「前提条件なし」の首脳会談に国民は期待を寄せているだろか。

   まず、「前提条件なし」という設定はありうるのだろうか。非核化を巡るアメリカと北との交渉で、北の対米担当幹部が2回目の首脳会談が物別れに終わった責任はポンペオ国務長官にあるとして、交代を求める声明を発表している(4月18日)。ポンペオ国務長官抜きに、トランプ大統領と直接会うのであれば、3回目の会談に応じると。これに対して。アメリカの国務省は北朝鮮と建設的な交渉を行う用意があると、改めて協議に応じるようにと返している。仮定の話だが、「安倍氏と1対1で直接会うのであればOK」という条件を北が出したら、これに安倍総理は応じるだろうか。

   さらに解せないのは、今月9日の国連人権理事会で、日本は11年続けてEUと共同歩調をとって提出してきた北朝鮮の人権侵害を非難する決議案を今回は出さなかった。北との首脳会談を誘うため、このような「配慮」までしなければならないのだろうか。案の定、理事会で日本の代表が「日本と北朝鮮は互いに不信感を取り除き、協力し合わなければならない」とやんわりと拉致問題について述べると、北の代表は「日本人の拉致問題は根本的に完全に解決済みで、生存している人たちは家族とともに日本に戻った」と拉致問題そのものを否定した(10日付・NHKニュース)。配慮すればするほどそれがアダとなってブーメランのように戻ってくる。

   おそらく、安倍総理が描いている首脳会談のビジョンは、東京オリンピックへの「誘い」ではないだろうか。韓国の文在寅大統領は昨年の平昌冬季五輪で南北の合同参加を呼びかけ、4月には南北首脳会談にまでこぎつけた。安倍総理も五輪参加を呼びかけ「東京に来ませんか」と。そのひとことを言うために「前提条件なし」の首脳会談を表明している。そう思えてならない。

⇒12日(日)午後・金沢の天気    はれ

★トランプ流「歩み寄り」

★トランプ流「歩み寄り」

   アメリカと北朝鮮の関係がさらに悪化しそうだ。アメリカの「CNN」Web版(日本語)によると、アメリカ司法省は9日、制裁違反を理由に北朝鮮の貨物船「M/Vワイズ・オネスト」を差し押さえたと発表した。貨物船は北朝鮮で2番目の大型商船で、石炭を中国など他国で販売目的で輸送する目的で使われていた。輸送船の差し押さえは初めて。北朝鮮へ「最大限の圧力」をかける取り組みの一環だと司法省は説明している、と伝えている。

   トランプ大統領がツイッターで予告していた通り、アメリカは東部時間10日午前0時1分(日本時間同日午後1時1分)、2000億㌦分の中国製品に課す制裁関税を現在の10%から25%に引き上げた。関税の引き上げ対象は5700品目で、食料品や家電、家具といった生活必需品も多い。

    トランプ氏は上げた関税での税収の使い方についてこんなふうにツイッターで述べている。「….agricultural products from our Great Farmers, in larger amounts than China ever did, and ship it to poor & starving countries in the form of humanitarian assistance. (アメリカの農産物を、中国が買っていたより多く購入し、人道援助のかたちで貧困や飢餓に苦しむ国々に出荷するつもりだ)」と。このツイッターを素直に読むと、今度は中国からの報復関税によって厳しい立場に追い込まれるアメリカ国内農家の救済手段を講じると表明しているようにも読める。

   冒頭の北朝鮮の貨物船の拿捕、そして中国への制裁関税、同時並行で起きているこのアメリカ、あるいはトランプ氏の戦略はどこにあるのか。アメリカの「ニューヨークイムズ」が見出しでこう表現している。「Trump Increases China Tariffs as Trade Deal Hangs in the Balance(貿易取引が均衡に収まるにつれてトランプは中国の関税を引き上げる)」。記事を読みながら見出しの意味を咀嚼(そしゃく)してみる。互いに譲歩して歩み寄るのではなく、歩み寄りながら譲歩を迫る。あるいは、交渉相手との人間関係は緊密にしながら、交渉では脅しの闘いをする。または、交渉も人間関係も切れないようにぎりぎりで維持しながら長期戦に持ち込み優位を得る。という意味合いだろうか。トランプ流の交渉術は難解だ。

⇒10日(金)夜・金沢の天気   はれ

☆北、きょうもミサイル発射

☆北、きょうもミサイル発射

   きょう(9日)午後5時ごろ、メディアのニュース速報が流れた。「午後4時30分ごろ、北朝鮮が飛翔体を日本海に発射した」。夕方のニュース番組では、韓国軍合同参謀本部は短距離ミサイルと推定される飛翔体を午後4時29分と同49分、北西部の亀城(クソン)付近から1発ずつ計2発を発射、それぞれ420㌔と270㌔飛行して日本海に落下したと発表したと伝えた。

    世界のメディアも速報で伝えている。イギリス公共放送「BBC」Web版は「North Korea fires two short-range missiles, South says(北朝鮮が2発の短距離ミサイルを放ったと、韓国発表)」と見出しで、金正恩朝鮮労働党委員長が双眼鏡を手にしている写真とともに掲載した。北は今月4日午前にも東部の元山(ウォンサン)から日本海に向けて飛翔体を数発を発射している。折しも、4日のミサイル発射をめぐってきょう日本、アメリカ、韓国の3ヵ国の防衛当局による実務者協議がソウルで開かれていた。きょうのミサイル発射はそのタイミングを狙って挑発的したのではないかとも受け取れる。

    もう一つ、タイミングが重なった。韓国の文在寅大統領は就任2年を翌日に控えたきょう夜、韓国の公共放送局「KBS」の特集対談番組に生出演した。その様子をKBSのラジオニュースWeb版が伝えている。「President Moon Urges N. Korea to Stop Raising Tensions(文大統領は北に対し、緊張の高まりを止めるよう要請した)」との見出しで、夕方に発射された飛翔体について、文氏は「短距離ミサイルと推定している」「短距離だとしても、弾道ミサイルなら国連安保理決議に違反する可能性もある」「このような行為が繰り返されれば、対話と交渉の局面を難しくする」と述べたと伝えている。

   特集対談番組は以前から組まれていた。その番組は生放送でのインタビューだった。このWeb版ニュースを読む限り、文氏の発言はもう北をかばいきれないと判断しているようにも思える。

⇒9日(木)夜・金沢の天気    はれ