★「G20」 信なくば立たず

★「G20」 信なくば立たず

     「G20」大阪サミットが閉幕した。読売新聞がサミット期間中の先月28-30日実施した全国世論調査は、安倍内閣の支持率が53%で前回5月の調査の55%とほぼ横ばいだったと報じている。議長としてG20サミットを仕切った安倍総理への国民の評価は「なんとか無難に乗り切りましたね。お疲れさま」というイメージだろうか。それにしてもG20の成り行きをウオッチしていて、いくつか違和感を感じた。

  その一つ。来年、サウジアラビアの首都リヤドで行われるG20サミットについて、ムハンマド皇太子が仕切り役となっていることだ。2018年10月、サウジアラビア政府を批判してきた同国のジャーナリストがトルコにあるサウジアラビア総領事館で殺害された。事件当初から皇太子の関与が取りざたされてきた。今月に入り、皇太子と政府高官の関与を示す調査結果が国連人権理事会に報告された(6月20日付「BBCニュース」Web版)。その皇太子と会談した安倍総理は「サウジでのサミット成功に向け、引き続き日本としても取り組む」と述べた(総理官邸HP)。

  G20サミットは加盟国のGDPが世界の8割以上を占めるなど、「国際経済協調の第一のフォーラム」(Premier Forum for International Economic Cooperation)であり、取り上げられる議題は世界経済や貿易・投資のほか、気候・エネルギー、雇用、デジタル、テロ対策、移民・難民問題などだ(外務省HP)。人権とは正面から向き合っていない。「信なくば立たず」という古くからの言葉がある。孔子が、政治を執り行う上で大切なものとして「軍備」「食糧」「民衆の信頼」の三つを挙げ、中でも重要なのが信頼であると説いたことに由来する。国際政治も同様だ。国連人権理事会でも取りざたされている人物をどう信頼すればよいのか。

   次は日本のことだ。G20サミットで議長国の大役を担った。「国際貢献度」というバロメーターがあるとすれば、国際的な注目度を含めて瞬間的にトップだろう。しかし、国際政治の中で日本はどう位置付けかというと、国連憲章第53条と107条に「敵国条項」があり、いまだに第2次大戦の敗戦国である日本とドイツが対象になっている。実態として敵国条項は「死文化」しているため、1995年に削除する決議があったものの、国連憲章から削除されていない。この理不尽な敵国条項をいつまで引きずっているのか。確かに敵国条項があるから、日本はアメリカに外交と安全保障を任せて経済発展ができた、との意見もある。

   G20サミット閉幕後に記者会見を行ったトランプ大統領は、アメリカの対日防衛義務を定めた日米安全保障条約について「不公平な合意だ」と指摘し、条約の見直しの必要性を安倍総理に伝えたと述べて波紋が広がった。これはある意味で、敵国条項と安全保障を両国で考える、よい機会かもしれない。

⇒2日(火)朝・金沢の天気    くもり

☆「DMZ電撃会談」、ツイッターの実力

☆「DMZ電撃会談」、ツイッターの実力

   「まさか」「いや、もしかしたら」などと考えあぐているうちに事態はどんどん進行し、ついに現実となった。前回の29日付のこのブログで取り上げたトランプ大統領のツイッターだ。「G20」大阪サミットで日本を訪れていたアメリカのトランプ大統領は29日午前7時51分のツイッターで「While there, if Chairman Kim of North Korea sees this, I would meet him at the Border/DMZ just to shake his hand and say Hello(?)!」(北朝鮮のキム主席がこれを見たら、握手してあいさつするためだけでも南北軍事境界線DMZで彼と会うかも?!)と、北朝鮮の金正恩党委員長との面談をほのめかしていた。それが、きのう30日午後3時45分、DMZでの電撃的な会談が実現した。

   ニュースの流れはこうだ。午前11時、韓国を訪れているトランプ氏は文在寅大統領と首脳会談を行う。午後1時、会談後の共同記者会見でトランプ氏は「DMZに行き、キム委員長と会う」と明言。ヘリコプターで午後2時45分ごろに現地の監視所に到着する。この1時間後の午後3時45分、板門店でトランプ氏と金氏が面会する。ここからの様子はホワイトハウスがツイッターで動画を公開している。トランプ氏は金氏の姿を確認するとゆっくりと進み、軍事境界線を挟んで握手を交わし=写真=、その後、国境をまたいで北朝鮮側に入る。現職のアメリカ大統領として、初めて北朝鮮側に入ったことになる。

   この後、韓国側の「自由の家」で午後4時ごろから3回目の米朝首脳会談が始まる。その冒頭で、トランプ氏は金氏にこう語った。「とても特別な瞬間であり、2人の面会は歴史的なことだ。ソーシャルメディアでメッセージを送って、あなたが出て来てくれなければ、またメディアにたたかれるところだったが、あなたがこうして出てきてくれたので、2人ともそうならずに済んだ。そのことに感謝したい」(30日付「NHKニュース」サイト)

   一連の流れをツイッター動画とニュースで見て、これまでメディアによって演出されてきた政治ドラマが、SNSによって演出される時代になったと、ある意味感慨深かった。おそらくどこかで仕掛け人がいて、演出がある。それを一切メディアに明かさずに、ソーシャルメディアで仕掛けて実演する。メディアを介さずに、ダイレクトに世間にばらす。トランプ流と言えばそれまでなのかもしれないが。

   それにしても、悔しがっているのは安倍総理かもしれない。「前提条件なし」に日朝首脳会談を模索している安倍氏にとって、ツイッターでいとも簡単に実現する首脳会談って何だろう、と。

⇒1日(月)朝・金沢の天気    くもり

★「DMZ面談」の裏攻防

★「DMZ面談」の裏攻防

  「G20」の余波か。アメリカのトランプ大統領はきょう29日朝、ツイッター=写真・上=で韓国訪問の際に南北軍事境界線の非武装地帯(DMZ)を訪れることを明らかにした。その文章が面白い。「While there, if Chairman Kim of North Korea sees this, I would meet him at the Border/DMZ just to shake his hand and say Hello(?)!」。直訳すれば、「北朝鮮のキム主席がこれを見たら、握手してあいさつするためだけでも南北軍事境界線DMZで彼と会うかも?!」と。もしあす30日にこれが実現すればサプライズが起きる。「G20の成果だ」と。

   もちろん、金氏が呼びかけに応じるかどうか、世界のメディアを固唾を飲んで見守っていることだろう。では、なぜきょう朝のツイッターだったのか。以下は推測だ。トランプ氏と中国の習近平国家主席の会談は午前11時30分に予定されていた。アメリカ側は会談で習氏が「北カード」を切ってくると情報を察知していたのではないか。「北カード」とは、習氏は貿易交渉を始める前の会談の冒頭で、南北軍事境界線DMZで金委員長で会ってはどうか、今月20日に金氏と会談した折にトランプ氏に会うよう助言しておいた、という発言をすることで、交渉全体をリードする狙いがあった。そこで、トランプ氏は先制攻撃に出た、それがこのツイッターではないか。

   報道によると、トランプ氏のツイッターに対し、北朝鮮側はきょうの午後、国営の朝鮮中央通信を通じて外務省次官の談話を発表し「非常に興味深い提案だと見ているが、公式的な提案を受けていない」としていて、面会に応じるかどうか明らかにしていない。しかし、「非常に興味深い提案だ」という文言に可能性を予感させる。

  その後の報道でも、トランプ氏がきょう韓国の文在寅大統領との夕食会に臨む際、記者団からツイッター後から北朝鮮側から連絡があったのか尋ねられ、「連絡があった。現在、取り組んでいる」と述べ、面会の実現に向けて調整していることを示唆している。

  今年2月の第2回米朝首脳会談は決裂したものの、今月に入ってトランプ氏と金氏は互いに親書を送っている。そこに割って入るように、習氏が「DMZで金委員長で会ってはどうか」と先に発言されたのでは、トランプ氏にとってはたまったものではない。トランプ氏がツイッターを活用する意義を改めて考えた。(※写真・下はアメリカ「ホワイト」のツイッターから)

⇒29日(土)夜・金沢の天気     あめ

☆超高齢化と介護人材不足

☆超高齢化と介護人材不足

    先日(24日)能登のある高校から世界農業遺産「能登の里山里海」をテーマにした講演の依頼があり出かけた。探求の時間という総合教育の一環で、生徒たちはグループごとに地域の文化や自然資源を発掘して観光プランを練っていく。地域の将来を担う高校生はフューチャービルダー、未来請負人でもある。生徒たちから「地域を国際評価の目線で見つめ直すことで新たな気づきや発見があった」と感想が寄せられ、こちらの方がうれしくなった。

    講演後、招いてくださった高校の先生方や地域の若い人と懇談した。特養老人ホームで介護士をしている20歳の女性からは現場での話を聞いた。一番の問題は介護の現場で働く人数が足りないことだという。あと数年もたつと、戦後生まれの、いわゆる団塊の世代が後期高齢者になっていく。内閣府の「高齢社会白書」(平成29年版)によれば、2030年には75歳以上は2288万人と推定される。そこで思う。未来請負人の若い人たちをこれ以上介護の現場に「動員」してはいけない、と。少子高齢化で次世代を担う若者たちはもっと担ってほしい産業分野、たとえば製造、医療、IOT、通信、農林水産業など多々ある。 

    酒の勢いもあって、「日本には安楽死法案が必要なのではないか」とつい語ってしまった。いきなりの発言だったので参加者は呆気(あっけ)にとられた顔つきになり、こちらが恐縮した。オランダやスイスは安楽死を合法化している。不治の病に陥った場合に本人の意思で、医師ら第三者が提供した致死薬で自らの死期を早める。似た言葉で尊厳死がある。これも不治の病の延命措置をあえてを断わって自然死を迎える。身内の話だが、92歳で他界した養父は胃がんだった。「90になるまで生きてきた。世間では大往生だろう」と摘出手術を頑なに拒否した。安らかに息を引き取った。今思えば尊厳死だった。

    安楽死にしても尊厳死にしても、自らの人生の質(QOL)を確認して最期を迎えたいという願いがある。日本では尊厳死や安楽死に関する法律はまだない。しかしこれは、憲法が保障する基本的人権の一つ、幸福追求権(第13条)ではないだろうか。もちろんさまざまな議論があることは承知している。

    話が横にそれてしまった。今後問題化するであろう介護人材の不足をどうカバーするか。考えるに、解決策は2つだろう。1つはアジアなど海外からの人材の受け入れだ。ただ、日本での介護士の免許取得は言葉の問題も含めてハードルが高い。介護の制度設計の見直しが必要だろう。もう1つは、逆にインドネシアやフィリピンなど海外の介護施設との提携だろう。親を海外の施設に送るとなると親戚などから「姨捨山に送った」などと白い目で見られるかもしれないが。

⇒27日(木)夜・金沢の天気  はれ

★「G20」 気になること

★「G20」 気になること

   あさって28日から大阪でG20サミット(20ヵ国・地域 首脳会議)が開かれる。安倍総理としては外交手腕の見せどころで、その成果を持って一気に参院選(公示7月4日、投開票21日)に持ち込みたいところだろう。G20のロゴマークは「富士山」と「桜」をモチーフに描かれている=外務省ホームページより=。

   G20を前に気になることがいくつある。「外交」問題でもつれている韓国の文在寅大統領との日韓首脳会談は行わなれないようだ。朝鮮中央日報の報道(26日)によれば、 大統領府の高官の話として、「我々は会談の準備はできているが、日本はまだ準備ができていないようだ」とし、日本側が大統領との首脳会談を事実上拒否したと伝えている。いわゆる元徴用工訴訟では韓国の外務省が日韓の企業が資金を拠出を提案したが、日本側は拒否した(19日)。日本が韓国に求める日韓請求権協定に基づく仲裁委員会の設置に韓国が応じる可能性もない。このような状況下であえて首脳会談を持つことはかえって白ける。

   アメリカのトランプ大統領は中東のホルムズ海峡で石油タンカーなど自国船を自ら守るべきだとのツイッター(24日)で投稿した。今月13日に起きた日本のタンカー襲撃事件を意識したものだろう。日本にとってはアメリカに海上警備を頼っているのが現状で、政府内でも波紋を広げた。自衛隊法の海上警備行動(82条)では人命や財産を危機に陥れる不審船が接近してきた場合、総理の承認で自衛隊を派遣できる。海賊対処法でも対応できる。ただ、多国間で対処すること前提で日本単独の派遣は難しい。しかし、これはあくまでも日本側の都合で、トランプ氏が指摘するようにホルムズ海峡の自国船を自衛する決断が必要だろう。

   安倍総理はあす27日、中国の習近平国家主席との首脳会談に臨む。習氏が先週、北朝鮮を訪問したことを受け、今後の非核化の進め方について協議するほか、日本が目指す日朝首脳会談に向けた北朝鮮側の感触も探るのが総理の意向だろう。そのような首脳会談を前にきょうも中国海警局の船4隻が沖縄県尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域を航行していると海上保安庁が発表した。領土問題と首脳会談は別なのだろうか。

   29日にはトランプ氏と習氏の米中首脳会談が行われるようだ。先月20日、習氏は江西省にある長征記念公園を訪れ、「我々はかつての長征の出発点にやってきた。いままた新たな長い道のりが始まった」と述べたと報じられた。長征は国民党軍に敗れた中国共産党が拠点のあった江西省瑞金を離れ、2年かけて1万2500㌔を徒歩で移動しその後攻勢に転じたとされる、苦難と栄光の歴史である。習氏は米中貿易戦争の現状を長征になぞらえたのだろう。「必ず勝つ」と。その後、同省にあるレアアース(希土類元素)の関連企業を視察した。レアアースは、ハイブリッド車や電気自動車、風力発電機などの強力な磁石、発光ダイオード(LED)の蛍光材料といった多くの最先端技術に使われる。中国がレアアースを対米交渉のカードにする可能性は十分にある。今回のG20の最大の見どころではないだろうか。

   1年前の6月18日、大阪北部地震が発生し震度6弱の揺れが襲った。G20がつつがなく終了することを祈る。

⇒26日(水)夜・金沢の天気      はれ   

☆能登で里山里海SDGsマイスタープログラム始動

☆能登で里山里海SDGsマイスタープログラム始動

   このブログで何度か紹介している、能登半島の里山里海マイスター育成プログラムの今年度の入講式がきょう22日、珠洲市にある金沢大学能登学舎において執り行われた。今年度からは名称も「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」となり、2019年度入講生として20名が式に臨んだ。

   地域人材を育成するこのプログラムは、2007年から5年間、科学技術振興機構(JST)の事業として実施。その継続事業を金沢大学が実施主体となり、珠洲市が出資自治体、石川県立大学と石川県、輪島市、穴水町、能登町が協力団体となり運営している。これまで12年間で183名の修了生を輩出している。今年度から里山里海の保全と活用に国連の持続可能な開発目標(SDGs)のコンセプトを組み入れたカリキュラムとしたことから、プログラム名称も新たにした。

   入講式では始めに山崎光悦学長が式辞を述べた。「さまざまな志(こころざし)をもった受講者が互いに学び合い、切磋琢磨することで能登の未来を切り開く地域イノベーションが生まれることを期待しています」と入講生を励ました。入講生を代表して高澤千絵さんが、「能登の自然の元で、多様な分野に精通した人々との出会いと学びを通して生まれる化学変化が楽しみでなりません」と抱負を述べました。この後の記念講演で、国連大学 サステイナビリィ高等研究所OUIKの渡辺綱男所長が「里山里海とSDGsでひらく能登の持続可能な未来」と題して講演した。

   今年の受講生はバリエーションに富んでいる。能登出身者のみならず、他県から能登への移住者や、金沢などの都市部から通う受講生もいる。職業も農業者、林業者など、能登の里山里海の恵みを生かした生業(なりわい)に携わる者、料理人やクリエイター、ドローン技術者など様々な技術や専門職がいる。地域おこし協力隊や行政職員など地域課題解決の現場で日々奮闘している者も。今回初めて高校生、京都大学の大学院生も入講した。実に多様な経歴や目標をもつ顔ぶれが集まった。 

   受講生は令和2年3月まで、月2回のペースで本科コースと、より高レベルの課題にチャレンジする専科コースに分かれ、卒業研究に取り組むことになる。また、地元金融機関と連携した「創業塾」も併せて開講し、起業を目指すことも可能になった。互いに議論を重ね、自己実現に向かって磨きをかけていく。

⇒22日(土)夜・金沢の天気       くもり

★「国際紛争」化する日本海

★「国際紛争」化する日本海

         安倍総理は5月14日「海上保安の日」で、海上保安庁の幹部職員を前にこう述べた。「新元号は万葉集の梅の花の歌32首の序文から引用されたものです。海上保安庁の徽章もまた梅であります。梅は厳しい冬の寒さを耐え忍び百花に先んじて花を開き、かぐわしい香りを放ち、実を結び、絶えず人々の身近にあるものです。これは正に海上保安庁そのものではないでしょうか。様々な脅威は時を選ばず押し寄せてきます。新たな令和の時代にあっても梅の徽章を胸に、全職員が一致団結し、荒波を乗り越え平和で豊かな海という実を結んでほしい」(「海上保安庁HP」より)。確かに目立たないが、最前線の守り、防人の仕事だ。

   能登半島沖の日本海の排他的経済水域(EEZ)にはスルメイカの漁業資源が豊富な大和堆(やまとたい)と呼ばれる漁場がある。この時季、毎年のように北朝鮮の漁船による違法操業が繰り返されているのだ。海上保安庁は取り締まりに当たっていて、5月下旬からこれまで延べ300隻の北朝鮮の漁船を確認し、違法操業をする漁船に対し警告を行い、退去しない場合は放水を行っている。しかし、いったんは退去しても、また戻ってきて、イタチごっこが続いている。

   北の木造漁船はイカの網漁で、集魚灯などは装備されていない。日本のイカ釣り船団(中型イカ釣り船)がやってくると、夜、スルメイカは集魚灯の下に集まるので、北の漁船が傍らに寄って来て網漁を行う。接触事故などが起きるとやっかいなことになる。さらに、網がスクリューに絡まると船が故障するので、日本の船団は北の漁船を避けて北海道沖の武蔵堆(むさしたい)へ移動を余儀なくされているのが現状だ。さらに、その日本船団を追いかるように、北の漁船も武蔵堆になだれ込んでくる。

   さらに面倒なのが韓国だ。昨年11月15日には大和堆で山形県のイカ釣り漁船と韓国漁船が衝突している。11月20日、大和堆付近で操業中の北海道のイカ釣り漁船に対し、韓国の海洋警察庁の警備艦が「操業を止め、海域を移動するよう」と指示を出し、この漁船に接近した。連絡を受けた海上保安庁の巡視船が韓国の警備艇と漁船の間に割って入ることで、韓国警備艇は現場海域を離れた。12月4日、島根県の隠岐諸島100㌔の日韓の暫定水域で、石川県漁協所属の中型イカ釣り船が操業中、船を安定させる漁具のロープ「パラシュートアンカー」を海中に放っていたところ、韓国漁船が近づいてきて前方を通過、そのパラシュートアンカーをひっかけ、イカ釣り船は20㍍引きずられ、ロープは切れた。イカ釣り船は韓国漁船に止まるよう呼びかけたが応じなかった。日本側の言い分を無視する、まるで「レーダー照射問題」のような「事件」が海上ではすでに起きている。

  韓国は、竹島は韓国の領土であると言い張り、大和堆も韓国海域であると主張したいので、その布石を打っているのだろうか。これから「海上衝突」状態が本格的に始まることは想像に難くない。安倍総理は「荒波を乗り越え平和で豊かな海という実を結んでほしい」と言うものの、現実はすでに「国際紛争」化している。(※写真は、能登半島・珠洲市の海岸に漂着した北朝鮮の木造漁船=2017年11月)

⇒18日(火)夜・金沢の天気    くもり

☆土下座が生む大いなる誤解

☆土下座が生む大いなる誤解

  アイドルグループ「KAT-TUN」の元メンバー、田口淳之介が大麻所持で逮捕され、今月7日に釈放された。拘留されていた警視庁東京湾岸署から出てくる姿がテレビのニュース番組やワイドショーなどで流れた。黒いスーツにネクタイ姿で正面玄関を出た後、報道陣を前にお詫びの言葉を述べた。「金輪際、大麻などの違法薬物、犯罪に手を染めないことをここに誓います」と。そして、額を地面に付けて土下座した。このシーンをテレビで視聴していて、「誰に向かって土下座しているのだろうか。単なるパフォーマンではないか」などと違和感を持った。

  自分自身は土下座の経験はないが、重大な損害を与えてしまった相手に対する誠心誠意の謝罪、あるいは金銭的な借り入れや猶予を相手に乞い願うというのが、これまでに見聞きした土下座のイメージだ。いずれにしても相手がその場に居ての土下座だ。今回の場合、待ち構えていた報道陣のカメラに向かって、ファンに対して土下座をしたということか。それにしても、ファンに直接的な被害を与えた訳でもないので、冒頭のお詫びの言葉だけで十分だろう。

  今回の土下座について、金沢大学で担当している授業「マスメディアと現代を読み解く」の今月12日の講義で取り上げた。謝罪と土下座のネット動画を学生たちに見てもらい、マスメディアがどのようにこの場面を取り上げているか考察した。テレビ各局はお詫びの言葉から土下座まで映像で伝えている。映像では「田口被告が土下座しました」とリポーターの興奮したような音声も入っていて、一部学生たちから笑いも漏れた。新聞は写真1枚なので、どのような写真を掲載したのか。各紙をチェックすると、土下座の写真そのものを掲載している紙面は多かったが、中には正面を向いてお詫びの言葉を述べる写真を掲載している紙面もあった=写真=。おそらく、土下座写真は読者に違和感を与えると判断したのではないだろうか。

  学生たちの感想も尋ねた。ネット上で作成したアンケートをスマホでQRコードで読み取ってもらい、答えてもらう。設問は簡単だ。「元KAT-TUNの田口淳之介の土下座について、あなたは違和感を感じますか」の問いに「感じる」「感じない」の選択肢だ。58名から回答があり、「感じる」が64%、「感じない」が36%だった。ほぼ3人に2人が違和感があると答えた。学生に直接聞くと「そもそも彼が謝罪することに違和感を感じる」「土下座までする必要性はない」との意見だが、「土下座している映像をメディアに報道させる方がインパクトがあってよい」「誠意が伝わる謝罪が土下座ではないか」と擁護する意見もあった。メディアの謝罪報道を考察するよいタイミングだった。

  田口淳之介は容疑者から被告になった。初公判は来月、7月11日だ。拘留期限は合わせて13日間だった。検察側は20日間の勾留請求をしたが、東京地裁はこれを認めなかった。長期勾留や、いわゆる「人質司法」を避けようとする裁判所側の思惑が働いたようだ。これは邪推だが、ひょっとして今回の土下座は弁護士の入れ知恵ではないか。この流れをうまく掴んで、「本人は真摯に反省しています。土下座までしました。裁判官殿、どうぞよろしくお願いします」と弁護側が裁判に向けてアピールしたのではないか、と。

  田口被告は初犯なのでおそらく執行猶予が付くだろう。こうなると薬物事件で逮捕されても、土下座して反省して謝れば、刑務所に行かなくてよくなるという大いなる誤解が社会に生じないだろうか。

⇒16日(日)夜・金沢の天気    あめ

★「酒造りの神様」 快心の一献

★「酒造りの神様」 快心の一献

  86歳、杜氏として今でも造り酒屋で蔵人たちを指導する農口尚彦(のぐち・なおひこ)氏は国が卓越した技能者と選定している「現代の名工」であり、ファンからは「酒造りの神様」と称され、地元石川では「能登杜氏の四天王」と尊敬される。金沢大学の共通教育科目「いしかわ新情報書府学」(2009-2016年)を担当していたころ、非常勤講師として農口氏に酒造りについて講義をいただいたことが縁でこれまで能登の自宅や酒蔵を何度か訪ねた。

  酒蔵見学には他の造り酒屋にも何度か訪れたが、農口氏の酒蔵は独特の凛とした雰囲気がある。農口氏は米のうまみを極限まで引き出す技を持っている。それは、米を洗う時間を秒単位で細かく調整することから始まる。米に含まれる水分の違いが、酒造りを左右する。米の品種や産地、状態を調べ、さらには、洗米を行うその日の気温、水温などを総合的に判断し、洗う時間を決める。勘や経験で判断しない。これまで、綿密に蓄えたデータをもとにした作業だ。そのデータを熱心に記録する姿は「酒蔵の科学者」との印象だ。

  酒蔵に住み込む農口氏は夜中でも米と向き合い、米を噛み締める。持てる五感を集中させて、手触り、香り、味など米の変化を感じ取る。次に行うべき適切な作業とは何かを判断するためだ。農口氏は言う。「自分の都合を米や麹(こうじ)に押し付けてはならない。己を無にして、米と麹が醸しやすいベストな状態をつくらなければ、決して良い酒は出来ない」。酒造りに生涯を捧げる言葉には悟りを求めるような深みがある。

  その農口氏がかつて杜氏をしていた酒造会社に無断で名前を商品名や広告宣伝に使われているとして使用の差し止めを求める仮処分を申し立て、金沢地方裁判所はこのほど農口氏の名前を使うことを禁じる決定を下した。きょう14日付の新聞各紙が報じている。その酒造会社「農口酒造」(能美市)は出資者と2013年に共同で設立したものの、経営者との酒造りの方針が食い違い2015年に辞している。その後、農口氏は2017年に「農口尚彦研究所」(小松市)という名称の酒造会社を別の出資者と立ち上げた。金沢地裁は前の会社を辞めて4年が経ち、農口氏が実際に造った酒は在庫がないはず、として名前の使用を禁止した(5月30日付)。

  日本酒業界における農口氏の知名度は抜群である。商品名だけでなく、造り酒屋の社名そのものに「農口」の名前が被さっているほどだ。ある意味「有名税」とは言え、売らんがために名前をいつまでも勝手に使われたのではたまったものでない。地裁の判断に胸を撫で下ろされたことだろう。実は農口氏は下戸である。もし飲めれば、この一件は快心の一献だったろう。(※写真は、日本酒について学生たちと語らう農口尚彦氏=右=、2010年11月、金沢大学角間キャンパス)

⇒14日(金)朝・金沢の天気    くもり

☆「テレビ離れ」の加速

☆「テレビ離れ」の加速

  金沢大学で担当している共通教育科目 「マスメディアと現代を読み解く」(1単位)の授業がきょう12日始まった。全8回の講義コンセプトは、マスメディアが政治や経済、文化をどう報じるのか、その報道からメディアの価値や在り様を考察する。大学でこの講義を担当してもう12年目になる。2016年度の講義から学生たちにマスメディアとの接触度を尋ねるアンケートを行っている。毎回同じ設問で今回4回目となる。 

  アンケートの設問は「あなたは新聞を読みますか 1・毎日読む 2・週に2、3度 3・まったく読まない」「あなたはテレビを見ますか 1・毎日見る 2・週に2、3度 3・まったく見ない」の単純な設問だ。新聞を「まったく読まない」68%、テレビを「まったく見ない」17%の結果だった。4回同じ設問でのアンケートなので推移がわかる。結論から言うと、「新聞離れ」は下げ止まりから反転へ、「テレビ離れ」は加速している。

  数字を分析してみよう。新聞から。2016年の調査(回答190人)は「まったく読まない」78%、「週に2、3度」16%、「毎日読む」6%だった。2017年調査(回答73人)は「まったく読まない」75%、「週に2、3度」18%、「毎日読む」7%、2018年調査(回答102人)は「まったく読まない」75%、「週に2、3度」18%、「毎日読む」7%。ことし2019年調査(回答69人)は「まったく読まない」68%、「週に2、3度」22%、「毎日読む」10%となった。調査を始めた20016年から「まったく読まない」は漸減し、3年間で10ポイント減ったことになる。逆に「週に2、3度」は16%から22%に推移して、6ポイント増えている。「毎日読む」も6%から10%だ。数字で見る限り、下げ止まりから反転傾向は浮かんでくる。

  アンケートではその理由も尋ねている。多いのは「学生生活では新聞は経済的な負担になる」といった意見だが、中には「大学の授業でプレゼンテーションを作成するためのネタ探しとして新聞を読むようになった」(3年)や「テレビは娯楽の面で見ているが、新聞は世界のおおまかな情勢を知るために読んでいる。個人的な見解としてはテレビよりも新聞の方が情報が整理されていると思う」(1年)など新聞に対し肯定的な意見が散見される。 

  一方、「テレビ離れ」は加速している。2016年調査では「まったく見ない」12%、「週に2、3度」23%、「毎日見る」65%だった。2019年調査は「まったく見ない」17%、「週に2、3度」34%、「毎日見る」49%だった。3年間の比較では「毎日見る」は16ポイントも減り、「まったく見ない」は5ポイント増えている。「毎日見る」は2018年調査でも49%だったので、2年連続で過半数割れとなった。理由でも「夜のニュースは毎回見るようにしており、その日一日の情報を知る便利なツールとして使っている」(1年)といった肯定的な意見の半面で、「テレビはネットニュースの焼き直しや、芸能人のゴシップ、政治的バイアスのかかったものが流れている。長期間どの局も同じような内容を流し続けるという、例えばモリカケとか、ことがあったため見なくなった」(※学年記入なし)といった辛辣なコメントもある。

  毎年のアンケート調査ではこの科目を履修する学生を対象に行っているもので、年によって学生数に増減があり、母数にばらつきが出て調査手法としては精度に欠く。なので、傾向を読むだけの調査ではある。電通が発表した「2018年日本の広告費」(2019年2月)によると、総広告費6兆5300億円のうちテレビが29.3%のシェアを占め、次にインターネットが26.9%で迫り、新聞は7.3%だ。テレビ業界はビジネスモデルが視聴率だけに、「テレビ離れ」が加速すれば、スポンサー離れも進む。広告費でインターネットに逆転される日も近い。そうなると「次なるテレビ離れ」も起きるのではないかなどと憶測した。

⇒12日(水)夜・金沢の天気    はれ