☆北の武装船、日本海の一触即発

☆北の武装船、日本海の一触即発

   イギリスBBCテレビのWeb版をチェックしていると、日本海で北朝鮮がロシアとせめぎ合っている。「Russia holds 80 North Koreans on ‘poaching’ boats」の見出しの記事=17日付・BBCニュースWeb版=によると、ロシアの国境警備隊が今月17日、日本海のロシアの排他的経済水域(EEZ)で北朝鮮の密漁船2隻をだ捕し、乗組員80人以上を拘束したと発表した。ロシア側の説明によると、密漁船1隻から武力攻撃を受け、国境警備隊3人が負傷したという。

   ロシア連邦保安局(FSB)報道官はだ捕の経緯について、朝鮮半島とロシア、日本の間に位置する、日本海の好漁場「大和堆」で、北朝鮮のスクーナー(帆船)2隻とモーターボート11隻が密漁しているのを発見したと説明。さらに、ロシア外務省は北朝鮮の駐ロシア臨時代理大使を呼び出し、「深刻な懸念」を表明した。ロシア・インタファクス通信は、FSBの話として、拿捕された漁船は極東ナホトカ港に連行されたと伝えた。

   ロシアと北朝鮮がこの海域で争うのは今回が初めてではない。FSBは今月12日にもロシアのEEZでイカを密漁したとして北朝鮮の漁船16隻を拿捕し、250人以上を拘束したと発表していた。今年6月には、北朝鮮がロシア漁船をだ捕し、乗組員を逮捕した。北朝鮮側は今回のだ捕についてコメントしていない。

   懸念するのは北朝鮮の船の武装化だ。8月23日には、大和堆で武装した船員が乗った北朝鮮の船2隻を水産庁の取締船が見つけ、連絡を受けた海上保安庁の巡視船も駆け付けた。現場は日本のEEZ海域だった。北朝鮮海軍らしき旗を掲げた不審船は、小型高速艇と北朝鮮の国旗が船体に描かれた貨物船で、高速艇には小銃を持った船員がいたという。周辺では日本の漁船も操業していて、水産庁は漁船に対し、安全確保のため海域を離れるよう伝達した。日本海は一触即発の緊張感が漂っている。

⇒21日(土)夜・金沢の天気    はれ

★スタディ・ツアーNoto(下)

★スタディ・ツアーNoto(下)

  能登スタディ・ツアーの2日目(9月14日)、珠洲市の製炭所を訪れた。日本の伝統的な炭焼きを今も生業(なりわい)としている、石川県内で唯一の事業所でもある。代表の大野長一郎さんは43歳、炭焼き業の二代目。パワーポイントを交えながら、事業継承のいきさつや炭焼き業の課題と可能性についてレクチャーをいただいた。

   里山のカーボン・ニュートラル、里海のマイクロプラスティック除去

  その中で印象的な言葉は「里山と生物多様性、そしてカーボン・ニュートラルを炭焼きから起こすと決めたんです」。樹木の成長過程で光合成による二酸化炭素の吸収量と、炭の製造工程での燃料材の焼却による二酸化炭素の排出量が相殺され、炭焼きは大気中の二酸化炭素の増減に影響を与えない、とされる。しかし、実際はチェーンソーで伐採し、運ぶトラックのガソリン燃焼から出るCO²が回収されない。「炭焼きは環境にやさしくないと悩んでいたんです」

   そこで金沢大学の「能登里山マイスター養成プログラム」に参加し、研究者といっしょに6年分の帳簿から年間のガソリン使用量を計算し、どうすれば植林した樹木のCO²吸収量と相殺できるか検証した。結論は製造した炭の3割を燃やさない炭、つまり床下の吸湿材や、土壌改良材として土中に固定すればカーボン・ニュートラルが達成できることが計算上可能であることが分かった。これをきっかけに炭の商品生産の方針も明確になってきた。 

   付加価値の高い茶炭の生産にも力を入れている。茶炭とは茶道で釜で湯を沸かすのに使う燃料用の炭のこと。2008年から茶炭に適しているクヌギの木を休耕地に植林するイベント活動を開始した。すると、大野さんの計画に賛同した植林ボランティアが全国から集まるようになった。能登における、グリーンツーリズムの草分けになった。

   3日目(15日)、同市の塩田村を訪ねた。「揚げ浜式塩田」と呼ばれ、400年の伝統を受け継いでいる。塩をつくる場合、瀬戸内海では潮の干満が大きいので、満潮時に広い塩田に海水を取り込み、引き潮になれば水門を閉める(入り浜式塩田)。ところが、日本海は潮の干満が差がさほどないため、満潮とともに海水が自然に塩田に入ってくることはない。そこで、浜で海水を汲んで塩田まで人力で運ぶ(揚げ浜式塩田)。今では動力ポンプで海水を揚げている製塩業者もいるが、かたくなに伝統の製法を守る浜士(はまじ=塩づくりに携わる人)もいる。ひとにぎりの塩をつくるために、浜士は空を眺め、海水を汲み、知恵を絞り汗して、釜で火を燃やし続ける。機械化のモノづくりに慣れた現代人が忘れた、愚直で無欲でしたたかな労働の姿でもある。

  しかし、能登の海にも環境問題が押し寄せている。マイクロプラスティック問題だ。製塩業者は海水にマイクロプラスティックが含まれていないか定期的に検査している。製塩場を経営する中巳出理(なかみで・り)さんは徹底している。汲み上げた海水を5ミクロンと1ミクロンのフィルターのろ過装置に通し、マイクロプラスティックをはじめとするあらゆる固形物を除去した海水で伝統的な製塩作業を行っているのだ。

  さらに、塩の釜炊きに燃料は、ガソリンや石炭などの化石燃料を使わず、すべて能登の山林から切り出した間伐材を使っている。このことが、里山を保全することにもなる。伝統の塩づくりを守るということは実に奥が深い。(※写真は上から、大野長一郎のクヌギの林、「柞(ははそ)」とブランド名をつけた茶炭、塩の結晶がついた乾いた砂を垂れ船(たれぶね)に集める作業、海水のろ過装置)

⇒18日(水)夜・金沢の天気   くもり

☆スタディ・ツアーNoto(上)

☆スタディ・ツアーNoto(上)

   先週13日から2泊3日で「能登の世界農業遺産を学ぶスタディ・ツアー」(単位科目)を実施した。スタディ・ツアーには学生9人のほかに留学生6人(ケニア、中国、インドネシア、ベトナム)が参加した。能登は国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産(GIAHS=Globally Important Agricultural Heritage Systems)に認定されている。その能登の文化や風土には独特のアジアっぽいカラーがある。能登の国際評価は学生・留学生たちにはどう見えたのか。

             留学生たちが見た「能登のアジア」

    最初にの国史跡「雨の宮古墳群 」(中能登町)=写真・上=を訪ね、学芸員から解説を聞いた 。北陸地方最大級の前方後方墳と前方後円墳が隣接する。4 世紀から5世紀(弥生後期)の古墳で山頂にある。邑知(おうち)地溝帯と呼ばれる穀倉地帯を見渡す位置に古墳はある。能登の王は自ら干拓した穀倉地を死後も見守りたいという思いではなかったか。

    この地域は能登における稲作文化の発祥の地でもある。1987年、雨の宮古墳近くにある「杉谷チャノバ タケ遺跡」の竪穴式住居跡から、黒く炭化したおにぎりが発掘された。化石は約2000年前の弥生時代のものと推定され、日本最古のおにぎりと話題になった。また、この地域の神社3社では収穫に感謝する新嘗祭で振る舞う濁り酒「どぶろく」を連綿と造り続けている。延喜式内社でもある天日陰(あめひかげ)比咩神社でどぶろくをいただき、日本酒の成り立ちを学んだ。

   山が海にせり出すリアス式海岸では神々しい光景を見ることができる。13日午後5時35分に輪島市曽々木海岸に到着した。すると、窓岩で知られる海に突き出た岩石の穴に夕日が差し込んできた=写真・中=。岩の穴と夕日がちょうど同じ大きさで、すっぽり収まったときは思わずため息が漏れるの神々しさとなる。同40分ごろから5分間の夕日と奇岩のスペクタルショーを楽しませてもらった。インドネシアの留学生は「バリ島のサンセットと同じだ」と。

   中国の留学生が「能登はアジアですね」と目を輝かせたのは祭りだった。14日に半島の尖端、珠洲市を訪れ、地域の伝統的な祭礼「正院(しょういん)キリコ祭り」を見学した。能登では夏から秋にかけて祭礼のシーズン。キリコは収穫を神様に感謝する祭礼用の奉灯を巨大化したもので、大きなものは高さ16㍍にもなる。この日、輪島塗に蒔(まき)絵で装飾された何基ものキリコが地区の神社に集い、鉦(かね)と太鼓のリズムが祭りムードが盛り上がっていた。

    キリコを担ぎ、太鼓をたたく若者たちがまとっているのは地元でドテラと呼ばれる衣装だ=写真・下=。もともと女性の和服用の襦袢(じゅばん)を祭りのときに粋に羽織ったのがルーツとされる。それに花鳥風月の柄が入る。祭りの心意気を感じる。インドネシアの留学生は「少数民族も祭りのときには多彩でキラキラとした衣装を着ますよ」と。

⇒17日(火)夜・金沢の天気    はれ

★「9・11」から18年、アメリカは

★「9・11」から18年、アメリカは

   「9・11」からもう18年になる。、アメリカで同時多発的にテロ攻撃が実行されたその日だ。イスラム過激派のテロ組織「アルカイダ」による犯行。死者は3千人ともいわれた。現地時間で午前8時46分、日本時間で午後9時46分だった。当時帰宅して、報道番組「ニュースステーション」が始まったばかりの同9時55分ごろにリモコンを入れると、ニューヨ-ク・マンハッタンの高層ビル「ワールドトレードセンター」に民間航空機が追突する事故があったと生中継の映像が映し出されていた。間もなくして、2機目が同じワールドトレードセンターの別棟に突っ込んできた。リアルタイムの映像で衝撃的だった。番組のコメンテーターが「これは事故ではなく、おそらくテロです」と解説していた。テロリズム(terrorism)という言葉が世界で認知されたのは、この事件がきっかけではなかったか。

   この同時多発テロはアメリカの中心部が初めて攻撃を受けた歴史的な事件でもあった。このころからアメリカ人の深層心理が揺らぎ始めたのではないかと推測している。デモクラシー(民主主義)という価値観を創造し、グローバルに展開してきたのはアメリカだったと言っても異論はないだろう。1862年9月、大統領のエイブラハム・リンカーンが奴隷解放宣言を発して以来、自由と平等、民主主義という共通価値を創り上げる先頭に立った。戦後、ソ連や北ベトナムなど共産圏との対立軸を構築できたのは資本主義という価値ではなく、自由と平等、民主主義という共通価値だった。冷戦終結後も、共通価値は性や人種、信仰、移民とへと広がり深化していく。アメリカ社会では、こうした共通価値を創ることを政治・社会における規範(ポリティカル・コレクトネス=Political Correctness)と呼んで自負してきた。

   ところが、アメリカの本丸が攻撃された同時多発テロをきっかけに、誰もが自由と平等だがそれが誰かの犠牲に上に成り立っているとすれば、それでは偽善ではないか、とアメリカ社会の白人層が考え始めた。2003年にアメリカを中心とする有志連合が始めたイラク戦争は大量破壊兵器の廃絶を名目とした軍事介入とされた。そこには自由と平等、民主主義という共通価値はすでになかった。ポリティカル・コレクトネスは政治的、社会的に公正・公平・中立的という概念だが、広意義に職業、性別、文化、宗教、人種、民族、障がい、年齢、婚姻をなどさまざまな言葉の表現から差別をなくすこととしてアメリカでは認識されている。しかし、ポリティカル・コレクトネスは同時に、本音が言えない、言葉の閉塞感として白人層を中心に受け止められている。心の根っこのところでそう思っていても、表だってはそうのように言わない人たちでもある。

   こうした「ポリティカル・コレクトネス疲れ」の白人層に支持されたトランプ政権のいまの在り様はポピュリズム(Populism)と称される。ポピュリズムは、国民の情緒的支持を基盤として、政治指導者が国益優先の政策を進める、といった解釈だろう。トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」を唱え、世界に難題をふっかけている。もう、アメリカではポリティカル・コレクトネスは死語と化しているのではないだろうか。

⇒11日(水)朝・金沢の天気    くもり

☆積乱雲の怖さ

☆積乱雲の怖さ

  関東を襲った台風15号の影響だろうか、北陸も午前中から気温が30度以上の真夏日になった。歩いているだけで熱中症になるのではないかと思ってしまうほど。金沢市で33度、能登半島の輪島市で32度と平年を5度上回る、厳しい残暑だった。

  写真は正午ごろ、金沢市内の道路を走っていて、信号待ちで撮影した。積乱雲がまるでヨーロッパアルプスの最高峰、モンブランのように見えた。上昇気流の影響で鉛直方向へ発達し、雲頂が成層圏下部に達したかのような巨大な雲だった。神々しさと同時に不気味さも感じた。

  積乱雲には気を付けたい。もう11年も前のことだが、「ダウンバースト」という現象が起きた。航空自衛隊がある石川県小松市。2008年7月27日午後3時半ごろ、突風が吹き荒れた。航空自衛隊小松基地が観測した最大風速は35㍍で、「強い台風」の分類だ。このため、神社の高さ4㍍の灯ろうが倒れたり、電柱が倒壊したり、民家70棟の窓ガラスが割れるなど被害が及んだ。このとき、小松基地が発表するのに使った言葉が「ダウンバースト」だった。積乱雲から急激に吹き降ろす下降気流。ダウンバースト、初めて聞いた言葉だった。

  積乱雲の「ガストフロント」も怖い。ダウンバーストと同じ27日、福井県敦賀市や滋賀県彦根市でその現象は起きた。午後1時ごろ、最大瞬間風速21㍍余り。敦賀では「西の空が急に暗くなって雨が強くなって、突風がきた」。このため、イベントの大型テントが横倒しになった。福井地方気象台では突風の原因を「ガストフロント」と説明した。非常に発達した積乱雲が成熟期から衰退期かけて発生する雨と風の現象。小型の寒冷前線のようなものでその線に沿って突風が吹く。つまり、北陸に前線が停滞し積乱雲が発生、ガストフロント現象が起き、その前線となった金沢では豪雨が、小松、敦賀、彦根では風速21㍍から35㍍のダウンバーストが発生したのだ。

  こうした嵐は想定外の規模でやってくる。日本だけではない。この年の5月に訪れたドイツで、シュバルツバルトの森が季節はずれの大嵐で1万㌶もの森がなぎ倒された現場をこの目で見た。地球環境学者のレスター・ブラウン氏は著書『プランB3.0』でこう述べている。「温暖化がもたらす脅威は何も海面の上昇だけではない。海面温度が上昇すれば、より多くのエネルギーが大気中に広がり、暴風雨の破壊力が増すことになる。破壊力を増した強力な暴風雨と海面の上昇が組み合わされば、大災害につながる恐れがある」と。レスター氏の警鐘が聞こえる。

⇒9日(月)夜・金沢の天気      はれ

★茶道とアポロ11号の月面着陸

★茶道とアポロ11号の月面着陸

  1969年7月21日(日本時間)、アポロ11号のアームストロング船長が月面に第一歩を記したとき、私は中学3年生だった。当時テレビは38万㌔先の月面の画像をリアルタイムに映し出していた。「偉大な一歩」の映像は脳裏に刻まれている。私の知り合いは、新聞の「地球人が月に立った」の見出しに衝撃を受け、それ以来、ずっと新聞の切り抜きを続けている。「地球人」という言葉の新鮮さと大局観に、「世界を読み解こう」という感性にスイッチが入った、と言っていた。月面の第一歩はさまざまな人と分野に波及した。きょう8日、金沢市宝町の曹洞宗「宝円(ほうえん)寺」で催された「月印(げついん)茶会」もその一つだ。

  茶会は午前7時から、表千家同門会石川県支部の主催で開かれた。アポロ11号が月面着陸したのを記念して、1969年のその年に始まり、毎年この時期に開催を重ねて半世紀、今回が第51回目となる。茶会発足の趣意に合わせ、月や宇宙にちなんだ茶道具が用意された。待ち合わせの場所である寄付(よりつき)の掛け軸は色紙「月知天下秋(月は天下の秋を知る)」=写真・上=が掲げられていた。禅語で、月は自らがもっとも美しく輝くことができる秋を知っている、と解釈している。太古より万物は少しも変わることなく絶えず働き続けている。ただ無心である、と。そのほか、茶席では月をイメージした茶碗もあった。

  では、茶道とアポロ11号の月面着陸はどんな関係があるのか。茶席には円相(えんそう)の掛け軸=写真・下=がよく用いられる。円相は絵なのか、それとも文字なのか分かりにくいが、禅宗の教えの一つとされる。円は欠けることのない無限を表現する、つまり宇宙を表している、と。茶の道も同じで、物事にとらわれず、純粋に精進することが茶の湯の道である、と。茶を点てるだけでなく、支度や片付け、掃除にいたるまでが一つの円のようにつながっている。

   千利休の口伝書とされる『南方録』には「水を運び、薪をとり、湯をわかし、茶を点てて仏に供え、人に施し、吾ものみ、花をたて香をたく、皆々仏祖の行いのあとを学ぶなり」とある。雑念を払い、ひたすら無限の境地で、自らの心を円相とせよ、それが茶の道の心得であると教えている。もちろん、ここで言う宇宙とは、互いに心の交わりを楽しむ「小宇宙」の空間ではある。その心の宇宙の象徴が満月、見事な円なのである。月印茶会の感想を取りとめもなく書いてしまった。

⇒8日(日)午後・金沢の天気     はれ

☆レーダー照射事件の裏読み

☆レーダー照射事件の裏読み

    今の日本と韓国の関係性を「そもそも論」で振り返ってみたい。発端は2018年12月20日午後3時ごろ、能登半島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内で、韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊のP1哨戒機に対して火器管制レーダーを照射したことだった。火器管制レーダーは、ミサイルで対象を攻撃するために距離や高さ、移動速度を計測するためのもので、通常のレーダーとは全く違う。

   岩屋防衛大臣が翌日21日の緊急記者会見で、このレーダー照射の一件を公表した。火器管制レーダーを照射したのは韓国海軍の駆逐艦「クァンゲト・デワン」=写真・上、防衛省ホームページより=。P1は海上自衛隊厚木基地所属。P1は最初の照射を受け、回避のため現場空域を一時離脱した。その後、状況を確認するため旋回して戻ったところ、2度目の照射を受けた。P1は韓国艦に照射の意図を問い合わせたが、応答はなかった。照射は数分間に及んだ。防衛省ホームページには、P1が撮影した動画が掲載されていて、その経緯が詳細に紹介されている。

   これに対し、韓国側は火器管制レーダーの使用について「哨戒機の追跡が目的ではなく、遭難した北朝鮮船捜索のため」などと反論した。防衛省は不測の事態を招きかねず、意図しなければ起こりえない事案であり、「極めて危険な行為」として韓国側に強く抗議した。ここから日本と韓国の応酬がエスカレートしていく。では、そもそも、なぜ韓国は駆逐艦を派遣してまで「遭難した北朝鮮船」を捜索したのか、という疑問がずっと残る。防衛省ホームページの映像では駆逐艦と韓国・海洋警察庁の警備艦が洋上に見え、警備艦が北朝鮮の木造船らしき船に近づいている=写真・下=。問題はここにあるのではないか。

   映像から推察する。海難救助であるならば海軍と海洋警察が連携して救助に向かうこともあるだろう。北の船が救助信号を出してSOSを求めたのであれば、EEZ内なのでその信号は日本の海上保安庁にも海上自衛隊にも救助信号は届き、現場に向かったはずだ。ということは、北の船は救助信号を出していない。救助信号を出していないのに韓国はなぜ「遭難」の救助と弁明したのか。

  ここからは憶測だ。本来の海難救助でもないのに海軍と海洋警察が連動して、北の船と接触するのは、指揮系統上、そのような命令を出せるのは大統領府しかない。文在寅大統領が「遭難した北朝鮮船を捜索せよ」と命令した背景には、北の要請があったのだろう。大統領に要請をできる北の人物は、金正恩党委員長しかいない。ということは、遭難したのは単なる漁船ではなく、重要な任務を帯びた工作船ではなかったのか。特殊な通信機を装備している工作船ならば本国に直接SOSを出すことは可能だろう。工作船が能登半島沖で事故を起こし漂流した。そこであえて、韓国に捜索と救助を依頼した、と推測する。

  その現場は、自衛隊のレーダーがカバーしている。日本のP1哨戒機が飛んで来るのは十分に予想された。そこで、実際の遭難救護は警備救難艦、海軍の駆逐艦はP1哨戒機に射撃用レーダーを照射して追い払う役割だったのだろう。
 
   工作船についてさらに憶測する。能登半島の複雑に入り組んだリアス式海岸は工作員の絶好の隠れ場所となっていた。一連の日本人拉致を指揮した大物スパイも能登のリアス式海岸から入ってきた。1973年に輪島市の猿山岬から不法入国し、以後東京、京都、大阪に居住した北朝鮮のスパイ・辛光洙 (シン・ガンス)だ。彼を直接指揮したのが当時の金正日総書記だったといわれる。辛光洙はICPO(国際刑事警察機構)を通じて国際手配されている。
 
   今回、トップの命令を受けた工作員が乗船していたのではないか。韓国がそのことを承知しながら船の救助を行ったのはないか。工作船であるとしたら、何の目的で日本に向かっていたのか。疑念はさらに深まる。

⇒6日(金)夜・珠洲市の天気      はれ

★北の武装船、八千代丸事件の悪夢

★北の武装船、八千代丸事件の悪夢

   これは韓国に続いて、北朝鮮からの「あおり運転」だろうか。報道によると、8月23日午前9時半ごろ、能登半島沖のイカ釣り漁場、大和堆で武装した船員が乗った北朝鮮籍とみられる不審船2隻を水産庁の取締船が見つけ、連絡を受けた海上保安庁の巡視船が駆け付けた。巡視船が警戒監視を続けたところ、不審船は去った。

   現場は、日本と韓国のいずれの漁船も操業できる日韓暫定水域の、日本の排他的経済水域(EEZ)内の海域でのこと。周辺では日本の漁船も操業していて、水産庁は漁船に対し、安全確保のため海域を離れるよう伝達した。北朝鮮海軍らしき旗を掲げた不審船は、小型高速艇と北朝鮮の国旗が船体に描かれた貨物船で、高速艇には小銃を持った船員がいたという。

   毎年のようにEEZには北の木造漁船が数百隻も押し寄せているが、今回武装船となるとただ事ではない。能登半島の先端、石川県能登町小木港のイカ釣り漁業関係者の心境を察する。それは、1984年7月27日に起きた「八千代丸銃撃事件」がまだ記憶にあるからだ。小木漁協所属のイカ釣り漁船「第36八千代丸」が、北朝鮮が一方的に引いた「軍事境界線」の内に侵入したとして、北朝鮮の警備艇に銃撃され、船長が死亡、乗組員4人が拿捕されるという事件だった。1ヵ月後の8月26日に「罰金」1951万円を払わされ4人は帰国した。当時私は新聞記者で船長の遺族や漁業関係者に取材した。「北朝鮮は何を仕出かすか分からない」と無防備の漁船を銃撃したこの事件に恐怖心を抱いていた。小木ではこの感情が共有され、今でも引きづっていることは想像に難くない。

   日本の海で操業していて、武装船が入ってきて、身の危険を感じなければならない状況というのは、まさに北の「おあり運転」だ。その狙いは、八千代丸事件のように、銃撃と拿捕により人質を取り、「軍事境界線」の内に侵入したとして「罰金」をせしめるつもりではないかと。なにしろ、今回武装船が確認された場所は北が主張する「軍事境界線」と近いのだ。(※写真は、能登町の小木漁港に停泊するイカ釣り漁船)

⇒4日(水)朝・金沢の天気     くもり

☆隣国の「あおり運転」

☆隣国の「あおり運転」

   まっすぐに道を走行していて、後ろの車が接近し車間距離を詰めてきたので、注意を喚起するためクラクションを1回鳴らすと、今度は右横に接近して嫌がらせ運転を始めた。もう10年以上も前、北陸自動車道での自らの体験だ。いま問題となっている「あおり運転」である。このあおり運転は隣国との状況と実によく似ていると思う。

    先月2日、日本側が輸出管理上のホワイト国(優遇対象国)から韓国を除外する政令改正を閣議決定した。これを受けて、韓国の文在寅大統領は「賊反荷杖」という韓国語の四字熟語を使って日本批判を展開した。日本語訳では「盗人猛々しい」に相当し、「加害者である日本が、盗っ人たけだけしく、むしろ大きな声で騒ぐ状況は絶対に座視しない」と文氏の発言した(朝日新聞Web版)。

   そもそも、ホワイト国は政府が信頼できる輸出先だと認める国だ。武器や大量破壊兵器、それに関連する資材、兵器の汎用品などについて経産大臣の許可が必要だ。韓国側が認めているように、武器製造に転用可能な戦略物資の違法輸出を摘発した事例が2015年から19年3月までに156件あった(7月12日付・東京新聞HP版)。素直に「改善する」と言えばよいのに、それを歴史と絡めて批判してくるところに韓国側の無理がある。

   先月22日、韓国側は日韓防衛当局間で軍事機密のやりとりを可能にするGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を継続せずに破棄すると発表した。翌日23日、駐韓日本大使を呼び、GSOMIA破棄を正式に通告した。さらに、韓国の李洛淵首相が「日本が不当な措置を元に戻せば、GSOMIA破棄を再検討できる」と述べ、ホワイト国除外の撤回を日本側に求めた。安全保障上の合意を輸出管理上の手続きと引き換えにするという発想が理解できない。

   連動するように、韓国軍は25日と26日、島根県の竹島周辺で軍事訓練を行った。これに対してアメリカ国務省は「韓国と日本の最近の意見の対立を考えれば、島での訓練のタイミング、メッセージ、規模の大きさは今の問題を解決するのに生産的ではない」と韓国批判のコメントを出した(8月27日付・NHKニュースWeb版)。もともとは韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射問題から始まったが、GSOMIA破棄まで来ると辟易(へきえき)とする。

   こうした隣国のまさに「あおり運転」の今後は外交的にどうなるのだろうか。いわゆるアグレッシブドライビング(速度超過、短い車間、割り込み、頻繁な車線変更、進路妨害など)の精神状態でよく指摘されるのは「衝動制御障害」や「復讐願望」「思考停止」「想像力の欠如」などだ。とくに衝動制御障害は、他人に危害を与える行為に自己抑制が効かない障害だ。このあおり運転の結末は自ら事故を招く、ということになるだろう。これを国家に置き換えたら、空恐ろしい。

   冒頭のあおり運転に遭遇した話の続きだが、最後はクラクションを派手に鳴らしながら猛スピードで去っていった。  

⇒2日(月)朝・金沢の天気     あめ

★「パンダ大使」の行く末

★「パンダ大使」の行く末

  毎日ニュースに目を通していて気になったものをいくつか。最初は、NHKが伝えていた、「パンダが日中貿易摩擦に巻き込まれる? 米有力紙報道」の報道(8月29日)。米有力紙とはワシントン・ポスト紙だと紹介されていたので、さっそく同紙のWeb版を検索する。

  Could pandas get caught in the U.S.-China trade war? と見出しが踊る=写真=。記事を読むと、ワシントンD.Cのスミソニアン国立動物園にはジャイアントパンダのメイシャン(メス・21歳)とティエンティエン(オス・22歳)、そして子のベイベイ(オス・4歳)の3頭がいる。パンダは毎年何百万人もの見学者を引き寄せ、桜と並ぶワシントンのシンボルにもなっている。 

  記事によると、パンダの中国側と動物園側のリース契約は20年で来年2020年12月7日に契約切れとなるが、現時点で更新に向けた話し合いは始まっていないのだという。ちなみに、年間リース価格は50万㌦と。愛くるしいパンダだが、中国にとっては外交の道具でもある。東西冷戦の最中、1972年2月にアメリカのニクソン大統領が中国を電撃訪問、国交樹立の足掛かりをつくった。その2ヵ月後に中国はパンダをアメリカに寄贈している。パンダは「親善大使」でもある。そのパンダが中国に戻ることになれば、米中関係が冷戦に戻ったことのシンボルにもなる。

  中国側と動物園側の契約が無事更新されるのかどうか。同紙は「the U.S. political landscape by late 2020 is a mystery. 」と伝えている。次にアメリカ大統領選挙が実施される2020年後半までは政治情勢はミステリーだ、と。

  もう一つ気になったニュース。30日の閣議で、読売新聞グループ本社の白石興二郎会長(72歳)をスイス大使に充てる人事を発表したと報じられた。新聞メディアに対する違和感を感じた。30日付で退職しているとはいえ、報道機関のトップが政府のプレーヤーに転身する。大使の民間起用には異議はないが、権力監視が本分であるはずのメディアの現職が、政府から起用されたからといって簡単に受けるものだろうか。メディアは権力と距離感を保っておかないと、読者・視聴者の不信を招くのは言うまでもない。メディアは権力のかわいいパンダにはなってはいけない。

⇒1日(日)午前・金沢の天気     くもり