☆ファーウェイの背後に息苦しい情報空間

☆ファーウェイの背後に息苦しい情報空間

    アメリカと中国の貿易戦争に中国の通信機器「ファーウェイ」が引きずり込まれている。報道によると、アメリカ商務省は、アメリカの企業が政府の許可なく取り引きすることを禁じるリストにファーウェイ本社と68の関連会社を発表した(17日)。事実上の取引禁止だ。

          取引禁止とした経緯について「CNN」Web版=写真・上=は以下伝えている。トランプ大統領は16日、安全保障上の脅威と位置付けるメーカーの通信機器をアメリカ企業が使用することを禁じる大統領令に署名した。この時点で、ホワイトハウス当局者は大統領令のターゲットとしてファーウェイを念頭に置いているかどうかは明言しなかった。そこで、大統領令発令の直後に商務省が、アメリカの国益を侵害していると認定する企業のリストにファーウェイを正式に追加した。ここで初めてファーウェイが大統領令の適用対象となった。

   以前からアメリカはファーウェイが欧米諸国の通信インフラにスパイ行為のリスクをおよぼすとして警戒していたが、今回その排除が確定した。ファーウェイは次世代高速通信システム「5G」の先端企業とされる一方、中国の国家戦略「中国製造2025」のリーダー的企業でもあり、アメリカとすると自国の通信網にそのような企業の製品を入れたくないというのは当然かもしれない。

   今回のアメリカの決定の根拠はおそらくこれだ。2017年6月に施行された中国の「国家情報法」。法律では、11項目にわたる安全(政治、国土、軍事、経済、文化、社会、科学技術、情報、生態系、資源、核)を守るために、「いかなる組織および国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助および協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない。国は、国家情報活動に対し支持、援助及び協力を行う個人および組織を保護する」(第7条)としている。端的に言えば、中国に本社があるファーウェイは国家情報活動に「支持、援助および協力」をしなければならない。この法律がある以上、アメリカの懸念は理解できる。これは貿易戦争ではなく、安全保障の問題だ、と。

   その中国では、民主化を求めた学生たちに対する武力弾圧、「天安門事件」が1989年6月4日に起きてから30年になるのを前に、国内のネットからWikipediaへのアクセスが出来なくなっている。中国は2015年5月から中国語版Wikipediaへのアクセスを遮断しているが、この規制を全言語のWikipediaに拡大したことになる。インターネット検閲に関する調査団体「OONI」が報じている=写真・下=。

  法律による情報活動への協力、そしてネットの情報遮断。息苦しい情報空間がファーウェイの背後に漂っている。

⇒20日(月)午後・金沢の天気     あめ     

★「十人十色」なSDGs

★「十人十色」なSDGs

   SDGs(国連の持続可能な開発目標)と日本語に親和性を感じことがある。「これってSDGsのことだよな」と。先日金沢の隣の野々市市を自家用車で移動していて、中学校の校舎に掲げてあった横看板=写真=もそうだった。「十人十色、みんなちがってみんないい」と。十人十色はそれぞれの個性や考え、立場をお互いに尊重するという意味合いでよく使う言葉だ。この言葉をSDGsの視点で考えれば、まさに基本理念に掲げる約束「誰も置き去りにしない」と同意義だろう。

   看板には「生徒会目標」と書かれている。看板の文字のバックの色合いを眺めてみると、10色ほど使ってあってなかなか芸が細かい。生徒たちのアイデアなのか、教員の指導なのか。ひょっとして最初からSDGsを意識したスローガンなのだろうかと思いながら校舎を後にした。

   小学生のころから「来た時よりも美しく」という言葉をよく使った。今でも大学のフィールド実習を終えての帰り際に学生たちと宿泊施設の清掃をするが、「来た時よりも美しく」と自身が声を出している。この「来た時よりも美しく」という言葉こそ、SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」のキ-ワードとなっているアップサイクルに通じる。持続可能なモノづくりを目指す場合に、単なるリサイクル(素材の原料化による再利用)ではなく、元の製品より付加価値の高いモノづくりへとイノベーションと研究開発を進める。このアップサイクルの精神こそが「来た時よりも美しく」ではないだろうか。

   偉そうに言うが、アップサイクルという言葉を知ったのは3ヵ月前だ。「第1回地方創生SDGs国際フォーラム」(2月13日・東京)で、基調講演の黒岩祐治神奈川県知事が鎌倉市由比ガ浜で打ち上げられたシロナガスクジラの胃の中から大量のプラスチックごみが発見されたことを機に、プラスチックの代替となる新素材の開発を進めていることを「アップサイクルの実証事業」と紹介していた。このときに、アップサイクルは「来た時よりも美しく」ではないだろうかとひらめいた。

   古くから伝えられる近江商人の心得「三方よし」という言葉もSDGsとつながる。売り手、買い手、作り手がそれぞれに納得して利を得る。SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」のモデルのような調和の経済循環ではある。

⇒18日(土)夜・金沢の天気     くもり

☆「いずれ菖蒲か」「立てば芍薬」 花の精気

☆「いずれ菖蒲か」「立てば芍薬」 花の精気

   庭の季節の花が彩りを増している。アヤメが紫色の花びらを一斉つけている。アヤメの花を眺めていると、花びらに網状の文様が見える。わいゆる文目、これがアヤメの名の由来かと思ったりする。花だけを見るとカキツバタやショウブと見分けがつけにくいものの、自生地を見れば分かる。アヤメは乾いた土地に咲き、カキツバタとショウブは池など湿地に咲く。 

  「いずれ菖蒲(アヤメ)か杜若(カキツバタ)」という言葉がある。優劣がつけ難い、選択に迷うことのたとえ。アヤメかカキツバタかハナショウブかとこだわるのは日本人だけかもしれない。英語ではひっくるめてアリス(iris)と呼ばれているようだ。

  「立てば芍薬(シャクヤク)、座れば牡丹(ボタン)、歩く姿は百合(ユリ)の花」。女性の美しさとは、立っていても、座っていても、歩いていてもまるで花のよう、との言葉のたとえと自己流に解釈している。そこはかとなく高貴な姿をイメージさせ、「お守りして差し上げたい」と人間の本能がくすぐられる。シャクヤクが庭で咲き誇っている。「これまでの花は前座よ、本番のステージは私です」といわんばかりの精気を放っている。花が咲き競い、心を和ませてくれる。

⇒17日(金)夜・金沢の天気   はれ 

★ブローカー暗躍、アメリカの大学入学事情

★ブローカー暗躍、アメリカの大学入学事情

       アメリカの名門大学を舞台にした不正入学事件が相次いでいる。中国人の富豪が娘のスタンフォード大への入学時、ブローカー役のアメリカ人に650万㌦を支払っていたことが分かった(5月4日付「朝日新聞」Web版)。ブローカーは同大学のスポーツ推薦枠を悪用し、富豪の娘をセーリング選手と偽る書類を用意し、2017年に合格させたが、「提出書類に不正があった」との理由でその後、退学処分となっている。

  ブローカーが絡んだ不正入学はこれだけではない。エール大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、南カリフォルニア大学といった名門大学にハリウッドスターを含む多くの富裕層が子弟の裏口入学事件に関わり、賄賂の総額は2500万㌦、27億円相当になるという。

  そもそも、アメリカの大学が学生を入学させる基準が日本とは異なる。プリンストンやハーバードは点数もさることながら、面接を重視する選抜制度を採用している。入試ではエッセイ(作文)、推薦状2通、大学進学適性試験(SAT)、そして面接が選抜の要件。とても手の込んだ入試制度だ。その理念は多様な社会のリーダーを育てるということだ。「新たな知識の扉を開き、その知見を学生と共有し、学生の知性・人間性いずれにおいても最大限の可能性を引き出し、やがて学生をして社会に貢献する」(The Mission of Harvard Collegeより訳)。社会へ貢献は多様だ。だから、多様な人材をそろえる、大学の使命として理にかなっている。

  アメリカの入試制度は日本のような点数主義のエリートを育てるシステムではないが、裏を返せばブローカーが暗躍する土壌がそこにある。依頼者の子供である高校生がスポーツの花形選手だったという虚偽の記録をつくるため、実際に活躍したスポーツ選手の顔をフォトショップですげ替える写真の捏造まで行っている。さらに、大学のコーチを買収して合否選考に便宜を図ってもらう(4月25日付「CNN」Web版)。実に手の込んだ、用意周到な手口だ。写真の真ん中の女優、フェリシティ・ハフマンは1万5000㌦を支払って長女のSATで替え玉を使った疑いでことし3月に訴追されている。

  これらの工作資金を寄付というかたちで受け取るために、ブローカーは教育関連のNPO法人を設立し、そこに振込をさせていた。摘発を受けた際の言い逃れのためだ。冒頭の中国人富豪も「貧しい学生の奨学金に当てる正当な寄付と考えていた」と弁明している。知能犯ではある。 ※写真は「college admissions scandal(大学入学スキャンダル)」を報じる4月27日付「ニューヨークタイムズ」Web版

⇒13日(月)夜・金沢の天気     はれ

☆「前提条件なし」会談の思惑は

☆「前提条件なし」会談の思惑は

   安倍総理が北朝鮮の金正恩党委員長と「前提条件なし」に首脳会談を行う考えだと表明したとメディアが報じた(今月6日)。日本人拉致問題の解決に向けて一歩進めたいという思惑を感じる。また、北朝鮮問題をめぐる6ヵ国協議の参加国の中で、日本だけが北朝鮮との首脳会談が実現していないので、何とか対話の糸口をつかみたいと思っているのか。しかし、この「前提条件なし」の首脳会談に国民は期待を寄せているだろか。

   まず、「前提条件なし」という設定はありうるのだろうか。非核化を巡るアメリカと北との交渉で、北の対米担当幹部が2回目の首脳会談が物別れに終わった責任はポンペオ国務長官にあるとして、交代を求める声明を発表している(4月18日)。ポンペオ国務長官抜きに、トランプ大統領と直接会うのであれば、3回目の会談に応じると。これに対して。アメリカの国務省は北朝鮮と建設的な交渉を行う用意があると、改めて協議に応じるようにと返している。仮定の話だが、「安倍氏と1対1で直接会うのであればOK」という条件を北が出したら、これに安倍総理は応じるだろうか。

   さらに解せないのは、今月9日の国連人権理事会で、日本は11年続けてEUと共同歩調をとって提出してきた北朝鮮の人権侵害を非難する決議案を今回は出さなかった。北との首脳会談を誘うため、このような「配慮」までしなければならないのだろうか。案の定、理事会で日本の代表が「日本と北朝鮮は互いに不信感を取り除き、協力し合わなければならない」とやんわりと拉致問題について述べると、北の代表は「日本人の拉致問題は根本的に完全に解決済みで、生存している人たちは家族とともに日本に戻った」と拉致問題そのものを否定した(10日付・NHKニュース)。配慮すればするほどそれがアダとなってブーメランのように戻ってくる。

   おそらく、安倍総理が描いている首脳会談のビジョンは、東京オリンピックへの「誘い」ではないだろうか。韓国の文在寅大統領は昨年の平昌冬季五輪で南北の合同参加を呼びかけ、4月には南北首脳会談にまでこぎつけた。安倍総理も五輪参加を呼びかけ「東京に来ませんか」と。そのひとことを言うために「前提条件なし」の首脳会談を表明している。そう思えてならない。

⇒12日(日)午後・金沢の天気    はれ

★トランプ流「歩み寄り」

★トランプ流「歩み寄り」

   アメリカと北朝鮮の関係がさらに悪化しそうだ。アメリカの「CNN」Web版(日本語)によると、アメリカ司法省は9日、制裁違反を理由に北朝鮮の貨物船「M/Vワイズ・オネスト」を差し押さえたと発表した。貨物船は北朝鮮で2番目の大型商船で、石炭を中国など他国で販売目的で輸送する目的で使われていた。輸送船の差し押さえは初めて。北朝鮮へ「最大限の圧力」をかける取り組みの一環だと司法省は説明している、と伝えている。

   トランプ大統領がツイッターで予告していた通り、アメリカは東部時間10日午前0時1分(日本時間同日午後1時1分)、2000億㌦分の中国製品に課す制裁関税を現在の10%から25%に引き上げた。関税の引き上げ対象は5700品目で、食料品や家電、家具といった生活必需品も多い。

    トランプ氏は上げた関税での税収の使い方についてこんなふうにツイッターで述べている。「….agricultural products from our Great Farmers, in larger amounts than China ever did, and ship it to poor & starving countries in the form of humanitarian assistance. (アメリカの農産物を、中国が買っていたより多く購入し、人道援助のかたちで貧困や飢餓に苦しむ国々に出荷するつもりだ)」と。このツイッターを素直に読むと、今度は中国からの報復関税によって厳しい立場に追い込まれるアメリカ国内農家の救済手段を講じると表明しているようにも読める。

   冒頭の北朝鮮の貨物船の拿捕、そして中国への制裁関税、同時並行で起きているこのアメリカ、あるいはトランプ氏の戦略はどこにあるのか。アメリカの「ニューヨークイムズ」が見出しでこう表現している。「Trump Increases China Tariffs as Trade Deal Hangs in the Balance(貿易取引が均衡に収まるにつれてトランプは中国の関税を引き上げる)」。記事を読みながら見出しの意味を咀嚼(そしゃく)してみる。互いに譲歩して歩み寄るのではなく、歩み寄りながら譲歩を迫る。あるいは、交渉相手との人間関係は緊密にしながら、交渉では脅しの闘いをする。または、交渉も人間関係も切れないようにぎりぎりで維持しながら長期戦に持ち込み優位を得る。という意味合いだろうか。トランプ流の交渉術は難解だ。

⇒10日(金)夜・金沢の天気   はれ

☆北、きょうもミサイル発射

☆北、きょうもミサイル発射

   きょう(9日)午後5時ごろ、メディアのニュース速報が流れた。「午後4時30分ごろ、北朝鮮が飛翔体を日本海に発射した」。夕方のニュース番組では、韓国軍合同参謀本部は短距離ミサイルと推定される飛翔体を午後4時29分と同49分、北西部の亀城(クソン)付近から1発ずつ計2発を発射、それぞれ420㌔と270㌔飛行して日本海に落下したと発表したと伝えた。

    世界のメディアも速報で伝えている。イギリス公共放送「BBC」Web版は「North Korea fires two short-range missiles, South says(北朝鮮が2発の短距離ミサイルを放ったと、韓国発表)」と見出しで、金正恩朝鮮労働党委員長が双眼鏡を手にしている写真とともに掲載した。北は今月4日午前にも東部の元山(ウォンサン)から日本海に向けて飛翔体を数発を発射している。折しも、4日のミサイル発射をめぐってきょう日本、アメリカ、韓国の3ヵ国の防衛当局による実務者協議がソウルで開かれていた。きょうのミサイル発射はそのタイミングを狙って挑発的したのではないかとも受け取れる。

    もう一つ、タイミングが重なった。韓国の文在寅大統領は就任2年を翌日に控えたきょう夜、韓国の公共放送局「KBS」の特集対談番組に生出演した。その様子をKBSのラジオニュースWeb版が伝えている。「President Moon Urges N. Korea to Stop Raising Tensions(文大統領は北に対し、緊張の高まりを止めるよう要請した)」との見出しで、夕方に発射された飛翔体について、文氏は「短距離ミサイルと推定している」「短距離だとしても、弾道ミサイルなら国連安保理決議に違反する可能性もある」「このような行為が繰り返されれば、対話と交渉の局面を難しくする」と述べたと伝えている。

   特集対談番組は以前から組まれていた。その番組は生放送でのインタビューだった。このWeb版ニュースを読む限り、文氏の発言はもう北をかばいきれないと判断しているようにも思える。

⇒9日(木)夜・金沢の天気    はれ

★「10連休明け」の風景

★「10連休明け」の風景

  長いと言えば長い、しかし、あっという間に明けたような気もする。10連休明けのきょう(7日)の風景は。

  日常の風景。朝から子どもたちの騒がしい声が聞こえた。我が家の前は通学路になっていて、登校の児童たち=写真・上=が交通巡視員に向かって大きな声で「おはようございます」と元気がいい。10連休の金沢市内はどこも観光客であふれていたが、ようやく日常が戻った感じだ。JR西日本金沢支社の発表によると、10連休中の北陸新幹線の利用者数は41万2000人で、昨年の同じ時期と比べて8万4000人増え、兼六園も入園者数が19万人となり昨年に比べ6万5000人増えた。金沢21世紀美術館の入館者数も20万人超え、1日平均2万人は過去最高だった。

  職場の風景。10連休明けの身近な風景はクールビズだった。令和になって初めての業務。職場でも、ネクタイを外した軽装が目立った。ただ、きょうの日中の最高気温は金沢は17度で、暑いという感じではなかったので上着をはおっている姿が多かった。

  マーケットの風景。アメリカのトランプ大統領が5日のツイッターで、中国からの輸入品2000億㌦分に上乗せした10%の関税を今週の金曜日(10日)から25%に引き上げると表明した。アメリカの通商代表部(USTR)のライトハイザー代表も6日、貿易交渉で中国側が構造改革の約束を撤回したこと理由に、関税の引き上げをあす8日に正式発表すると表明した。中国側との交渉は続けるとしているものの重大局面に。連休明け最初の取引となった7日の日経平均株価は大幅に下落、335円安い2万1923円だった。

  値を上げた株もある。北朝鮮は4日、日本海に向けて飛翔体を数発発射、70㌔から200㌔飛んで落下した。アメリカの軍事専門家らは、短距離の弾道ミサイルだとの見方を示している。飛翔体が弾道ミサイルならば、北朝鮮に弾道ミサイル発射を禁じた国連安全保障理事会決議に違反する可能性がある。北の飛翔体に敏感に反応したのは防衛関連株だ。追尾型機雷を製造している石川製作所(本社・石川県白山市、東証一部)の株価は1530円と41円(+2.75%)値を上げた。

  夕方の風景。夕日がとても大きく見え、金沢の街を茜色に染めた=写真・中=。退社時の交通ラッシュが何だか懐かしい感じがした。帰宅して庭を眺めると赤、白、ピンクのツツジの花が咲き始めていた。シラン(紫蘭)も初めて紫色の一輪の花をつけていた=写真・下=。満開ではなく、半開きで下を向くようにして咲く。その花姿は、女性がうつむく姿に似て、実に上品なイメージではある。花言葉の一つが「変わらぬ愛」。人に好かれる花だ。

⇒7日(火)夜・金沢の天気     はれ

☆オピオイド危機 トランプの戦い

☆オピオイド危機 トランプの戦い

   ある意味、トランプという人物は歴史に名を残すかもしれない。弾道ミサイルを再び発射する北朝鮮の崖っぷち外交には「Deal will happen!(取引交渉が始まるよ)」と余裕を見せ、アメリカと中国の貿易交渉でも関税を25%に引き上げるとして「but too slowly, as they attempt to renegotiate. No!(中国は再交渉を試みているが遅すぎる。ノーだ)」と切り捨てるようにツイッターで言い放っている。

   中国への脅しとも取れる今回の関税25%引き上げの発表は、うがった見方をすると根深いものがあるかもしれない。ホワイトハウスのホームページ(4月24日付)で掲載されている見出しがそのことを想起させる。「President Trump is Fighting to End America’s Opioid Crisis(トランプ大統領はアメリカのオピオイド危機を終わらせるために戦っている)」=写真=。ページを読む込むとオピオイド危機は中国が持ち込んでいると読める一文がある。「President Trump secured a commitment from President Xi that China would take measures to prevent trafficking of Chinese fentanyl.(トランプ大統領は、中国からのフェンタニルの密売を防ぐ措置を講じるとの習主席の確約を取りつけている)」と間接的な表現ながら中国を名指ししている。

   オピオイド危機とは何か。ケシの実から生成される麻薬系鎮痛剤の総称。オピオイドの過剰摂取による死者は年間7万237人(2017年、アメリカ疾病対策局)にも上り、中でも強い鎮痛効果があるフェンタニルによる死者は2万8466人と急増している。このフェンタニルを大量生産しているのが中国で、本来アメリカ国内の病院でしか扱えないものが、他の薬物として偽装され普通郵便でアメリカに送り込まれたり、中国からメキシコやカナダに渡り、国境を越えてアメリカに持ち込まれたりしている。ホワイトハウスのHPによると、2016年と18年を比較すると、郵便検査官による摘発は国際便が10倍、国内便で7.5倍に。2018年に国土安全保障局が国境で押収したフェンタニルは5千ポンド(2250㌔㌘)になったと記載している。

    ホワイトハウスHPによると、トランプ大統領はオピオイド危機の撲滅のため、この2年間で60億㌦を新たに注ぎ込んでいる。医療専門チームによる患者の治療(2017年に25万5千人が治療)、青少年薬物使用防止キャンペーン、インターネットによる売買の監視、依存症に罹患した人々の労働復帰のために53百万㌦援助など実施していると掲載している。その成果として、オピオイドの過剰摂取による死亡は2018年9月で前年同期比で全米では5%減、中でもオハイオ州で22%、ペンシルベニア州で20%、それぞれ減少したと強調している。まるで「アヘン戦争」が起きているかの如くの書きぶりだ。

    トランプ大統領のオピオイド危機との戦いの記事はホワイトハウスHPの一面に掲載されている。そのポジションから見れば最重要課題なのだ。「習主席の確約」は昨年12月1日に行われた米中首脳会談で取り付けている。オピオイド危機はアメリカの大いなる経済的な損失でもあると考えれば、首脳会談で直談判した意義はある。今回の貿易交渉のテーブルでもフェンタニルの密売問題が議論になったのではないだろうか。「大統領と国家主席が約束したフェンタニルの密売を中国が根絶できないのは、なぜだ。これでは通商の約束も履行できないだろう」とアメリカ側が迫ったかもしれない。

    オピオイド問題は治まる兆しはあるものの戦いは終わってはいない。オピオイド危機と貿易戦争をあえてセットで想像してみれば、トランプ氏が「but too slowly,・・・ No!」とツイッターで叫ぶ理由が理解できなくもない。

⇒6日(振休)夕方・金沢の天気    あめ

★北は「崖っぷち外交」に戻ったのか

★北は「崖っぷち外交」に戻ったのか

   北朝鮮はきのう(4日)午前9時6分ごろ、東部の元山(ウォンサン)から東の日本海に向けて飛翔体を発射、70㌔から200㌔飛んで落下した。同時発射ではなく21分間の連続だった。日本の国内メディアによると、アメリカの軍事専門家らは、短距離の弾道ミサイルだとの見方を示した。飛翔体が弾道ミサイルならば、北朝鮮に弾道ミサイル発射を禁じた国連安全保障理事会決議に違反する可能性がある。韓国軍は当初「短距離ミサイル」と発表していたが、その後「短距離の発射体」と表現を改めている。

   メディアの報道を視聴する限り、「北は我慢できなくなったのか」との印象を持ってしまう。去年2018年4月27日、板門店で開催された南北首脳会談では文在寅大統領と金正恩委員長との間で「完全な非核化」が明記された。同年6月12日の第1回米朝首脳会談の共同声明では「Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.(2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む)」の文言を入れた。ことし2月28日のハノイでの第2回米朝首脳会談では、トランプ大統領が先に席を立って会談は決裂した。一切妥協しないトランプ氏の姿勢が明らかになった。おそらく金氏にとって会談は屈辱的だったのだろう。

      韓国「中央日報」日本語版(4日付)によると、北の対外宣伝メディアを引用して「(米国の行動は)南側に対北制裁・圧力政策に歩調を合わせろという強迫であり、極めて悪質だ」とアメリカに対する北の非難を紹介し、5日付では「(金委員長が)4日、朝鮮東海上で行われた最前線・東部前線防御部隊の火力打撃訓練を指導した」と伝え、今回の発射と関連づけている。ジレンマに陥った金氏がトランプ氏に放ったメッセージなのだ。「何とかしろ」と。

   一方のトランプ氏は余裕だ。きのうのツイッターで発射の件を投稿している=写真=。”I believe that Kim Jong-Un fully realises the great economic potential of North Korea and will do nothing to interfere or end it” (金正恩は北朝鮮のすばらしい経済的可能性を十分に認識しており、それを妨害したり終わりにすることはないと信じている)。北は経済的な見返りと引き換えに非核化には必ず応じると読んでいる。

    今回の飛翔体が弾道ミサイルならば、2017年11月29日以来だ。その後、韓国、そしてアメリカと交渉を進めてきた金氏だが、ここで弾道ミサイルを発射したとなるとさらに国際世論的にも自らを追いつめることになる。かつての崖っぷち外交、あるいはチキンレースに戻ったのか。百戦錬磨のトランプ氏と向き合うにはまだ遠い。

⇒5日(祝)午後・金沢の天気      はれ