☆クマの生命力

☆クマの生命力

  最近クマ出没のニュースをよく目にする。さきほども極身近の金沢大学から、「クマ被害防止に関する危機対策本部長」から届いたメールは。「クマの出没について(注意喚起) 6月3日(月)19:20頃に角間キャンパス近隣(別添地図参照)でクマが出没しました。各自、下記の1及び2に留意の上、十分に注意してください。 また、クマを目撃した場合は、速やかに警察に通報する(下記3)とともに、総務部総務課(下記4)まで連絡してください。」と前置きし、以下具体的な対応を個条書きで述べている。

   1.日常的な注意行動 ・角間キャンパス周辺を通行する際には鈴など音が出るものを携行しましょう。・集団での登下校などに努めましょう。・クマを引き寄せる残飯等のゴミは所定の場所に捨てる又は持ち帰りましょう。
   2.クマに遭遇した際の行動(金沢市HPから) 「もし出会ってしまったら!」 ・あわてずに静かに立ち去りましょう。・クマを興奮させないために騒いだりしないようにしましょう。・決して走って逃げたりしないことです。(クマは逃げるものを追う習性があります) 「もし近づいてきたら!」・背中を見せないでゆっくり立ち去るようにしましょう。・クマが離れていっても決して戻らないようにしましょう。

   現実にそぐわない記載がある。1.の「鈴など音が出るものを携行しましょう」というのは学生に鈴を携行させるのはちょっとムリ。むしろ、「スマホで音楽をボリュームいっぱいに鳴らしましょう」と記載した方が現実的かもしれない。あるいは、クマ撃退アプリを開発して鈴の音をスマホでダウンロードしてもらうとか処置を講じる方がよいのではないだろうか。キャンパス近隣での目撃情報は今月1日12時50分にもあった。

   ちょっと変わった場所での出没もある。先月31日午前8時25分ごろ、石川県宝達志水町の海岸でクマの姿が目撃された。山間部ではなく、海辺でクマが出没するのか。このニュ-スを見たとき、泳ぐクマの姿が記憶にみがえった、30歳前半なのでもう30年前だ。新聞記者時代にレジャー欄で「ぐるり白山」という特集を担当したことがある。富山県の庄川峡を訪ね、小牧ダムで遊覧船に乗って、大牧温泉に向かった。季節は6月だった。曇り空で今にも雨が降りそうな天気。出港してしばらくして乗客がざわめいた。「クマが泳いでる」。船の舳先を横切るように犬かき姿で泳いでる。しかも、かなり速いスピードで、対岸に向かっている。写真を撮ろうとしたが、すでに遠方にいて、肉眼で確認できるたものの、シャッターチャンスは逃してしまった。

   それ以来、クマは泳ぐ動物というイメージがインプットされている。楽しむために泳いでいるのではなく、エサを求めて泳ぎ渡る。本能として泳ぐ。生き抜くための生命力というものを当時感じたものだ。もちろん、クマにとって泳ぐことはそれほど苦痛ではないかもしれないが。

⇒4日(火)午後・金沢の天気     はれ

★研究論文をあさる根深さ

★研究論文をあさる根深さ

        きょう金沢大学の雑木林で草刈りボランティア活動があり、参加した学生27人といっしょに汗を流した。角間キャンパスは200㌶あり、学長が音頭を取って毎年この時季と秋の2回、学生たちと山の草刈りをする。題して「学長と汗を流そう!角間の下草刈りプロジェクト」。午前中だけのイベントだが、傾斜地のささやぶを鎌で刈っていく作業だ。中には斜度60度はあろう、急傾斜地もある。学生たちと上り、ささやぶを刈り払う=写真・上=。 

   ささやぶはチマキザサで、高さが1.5㍍から2㍍もある。雪が積もると倒伏し、傾斜地では積雪が滑りやすい。積雪の山地に柔軟に対応することで群生する、したたかな植物ではある。金沢では笹寿しを巻くのに重宝する。午前中2時間ほどササ刈りを、午後から自宅で草むしりをした。我が家の庭にはいろいろな雑草が生えている。スギナ、ヤブカラシ、ドクダミ、チドメグサなどは通年で生えてくる。中でもチドメグサの勢いが強い。チドメグサは茎全体が横にはって、節から根を出し、どこまでも広がる。これがむしっても、むしっても1ヵ月もすればまた増殖してくる=写真・下=。専用の除草剤はあるのだが、使いたくないので手作業で戦いを挑んでいる。

   チドメグサと一心不乱に向き合って、ふと「ファーウェイも根深い」ときょうのロイター通信のWebニュースを思い起こした。アメリカに本部を置く電気電子技術者協会(IEEE)が、アメリカ政府が安全保障を理由にファーウェイの事実上の輸出禁止規制を決めたことを受け、ファーウェイ社員による研究論文の査読に参加の制限を発表したという内容だった。研究論文の査読は論文の発表前に行う、他の研究者による評価プロセスである。研究者同士が査読をするのであれば問題はないが、通信機器を開発する会社が査読に参加することは問題である。論文の発表前に研究内容を知る立場にあるということだ。

   IEEEと中国のテクノロジー研究機関である中国計算機学会(CCF)が2016年から若手コンピューター科学者向けの賞を共同主催していて、IEEEのウェブサイトにはCCFが「姉妹学会」の1つとして記載されている。つまり、CCFがコンピューター科学者向けの賞をIEEEと設立し、その事前審査である査読にファーウェイ社員を参加させていた。論文の中にファーウェイが欲する研究があれば他社よりもいち早くその研究者を囲い込むができるというシステムをつくり上げていた、ということになる。実に巧妙な手口ではないだろうか。この手法で世界各国のICT研究に食い込んでいたとすれば、これは脅威ではないだろうか。

⇒2日(日)夜・金沢の天気     くもり

☆「同時配信」への欲望~下~

☆「同時配信」への欲望~下~

   かつて「ローカル局の炭焼き小屋論」がテレビ業界にあった。2000年12月にNHKと東京キー局などBSデジタル放送を開始したが、このBSデジタル放送をめぐってローカル局から反対論が沸き上がった。放送衛星を通じて全国津々浦々に東京キー局の電波が流れると、系列のローカル局は田舎で黙々と煙(電波)を出す「炭焼き小屋」のように時代に取り残されてしまう、といった憂慮だった。

    ~ ローカル発の「ネット受け」番組のチャンス ~

   ローカル局には放送法で「県域」というものがあり、放送免許は基本的に県単位で1波、あるいは数県で1波が割り与えられている。1波とは、東京キー局(日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビ、テレビ東京)の系列ローカル局のこと。その電波が隣県に飛ばないよう電波塔の向きなども工夫している。結局、BSデジタル放送問題ははキー局の地上波番組をそのまま同時再送信するような放送を避けて、独自色のある番組を放送することで、「炭焼き小屋論」は杞憂に終わった。今回の放送とネットの同時配信では、「炭焼き小屋論」が再燃するかもしれない。 そもそもなぜ同時配信がイギリスやアメリカに後れをとったのか。3つのハードルがあった。

   一つには著作権の処理の問題がある。日本の著作権処理は細かすぎる。テレビ番組を制作し放送する権利処理と、その番組をネットで配信する権利処理は別建てとなる。ドラマの場合は出演者、原作者、脚本家、テーマ曲の作詞家、作曲家、テーマ曲を歌った歌手、CDを製作した会社、番組内で使用した全ての楽曲の権利者など、全ての権利者の許諾を取らなければならない。番組は「著作権の塊(かたまり)」でもある。スポーツ番組も放送する権利と配信権があるなどややこしい。これを同時配信するとなるとネット分が著作権料が上乗せされるので、同時配信のビジネスモデルが確立されてないとかなりの負担になる。放送のビジネスモデルは視聴率だが、ネット配信のビジネスモデルはアクセス数による広告料でしかない。

   次のことが、冒頭の「炭焼き小屋論」に直結する。ネット動画に接続できる機能を備えたテレビ受像機は今では普通だ。東京キー局が番組をそのまま全国にネット配信すると、同じ系列局のローカル局の番組を視聴せずに、ダイレクトにキー局の番組を見るようになるかもしれない。また、県によっては民放局が2局、あるいは3局しかないところがあり、他のキー局の番組がネットで配信されると、県域のローカル局を視聴する比率が落ち込むことになりかねない。キー局による、ローカル視聴率のストロー現象が起こりかねないのだ。

   三つめは設備のコストだ。ネット配信となると、ローカル局でも数十万件のアクセスを想定した動画サーバーや回線を確保しなけらばならず、ネット配信自体にコストがかかる。キー局や準キー局ならばコスト負担に耐えられるかもしれないが、ローカル局に余力はあるだろうか。

   以上のようなことを想定すると民放全体として同時配信に踏み切れるかどうかだが、個人的には同時配信に踏み切るチャンスだと言いたい。ここからは持論だ。逆にローカル局が番組をネット配信をすることで、首都圏や遠方の他県に住む出身者に「ふるさと」をアピールできるのではないだろうか。出身者でなくても、地域の魅力があふれる面白い番組は全国から視聴される。北海道テレビのバラエティ番組『水曜どうでしょう』などはローカル発全国の先鞭をつけた番組だった。ローカル局によるローカルのためローカル番組ではなく、ローカル局によるローカルのための全国ネット番組を制作するのだ。

   ローカル局には「ネット上げ」という言葉がある。キー局が全国ニュースとして取り上げてくれるニュースや特集、あるいは番組のことを指す。同時配信なので、「ネット上げ」だけでなく「ネット受け」を意識した番組を制作してほしい。同時配信は地域の話題や課題をローカルだけではなく、全国発信するチャンスではないだろうか。

⇒1日(土)夜・金沢の天気    はれ

★「同時配信」への欲望~上~

★「同時配信」への欲望~上~

        NHKのテレビ番組が放送と同時にネットでも常時見られるようになる改正放送法が参院本会議で可決成立した(今月29日)。同時配信の時代が日本にも遅ればせながらやってくる。遅ればせというのは、同時配信はイギリスの公共放送BBCは2008年から、そのほかアメリカやフランスなど欧米では当たり前のように行われているからだ。

        ~  放送はマスでも、ネットは個、視聴者行動にもSIPSがある ~

        NHKは同時配信を転機に「公共放送」から「公共メディア」への脱皮を計っているのだろう。NHKは同時配信には前向きで、災害報道などネットと同時配信を行っている。個人的に同時配信を実感したことがある。2018年11月7日のアメリカ議会の中間選挙の結果をNHKのネット中継で見ていた。放送と同時送信だ。正午すぎに、NHKはアメリカABCテレビの速報として、トランプ大統領の与党・共和党が上院で半数の議席を獲得することが確実となり、共和党が多数派を維持する見通しになったと日本のメディアとして最初に伝えた。放送より数十秒の遅れタイムラグだったが、ネット動画の画面や音声の質での問題はまったくなかった。12時35分ごろには、中間選挙以外の番組に切り替わったため、ネット配信も終了した。同時配信はPCかスマホさえあればリアルアイムで世界のニュースを視聴できる時代だとこのとき実感したものだ。

   しかし、NHKが同時配信を転機に「公共放送」から「公共メディア」を目指すのであれば、放送する番組をネットで流せるようになったというだけは物足りない。上記のアメリカ議会の中間選挙結果のネット配信も、放送と同時に終了ではなく、ネットはそのまま番組を続行してほしかった、というのが本音だ。視聴者の映像への欲望はもっとどん欲だ。2020年夏の東京オリンピックを想定してみる。体操の決勝が番組が流れていても、同時刻で水泳をやっていれば水泳を見たい人もいる、卓球を見たいという人もいる、多様な視聴ニーズ「視聴欲望」がある。

   現状では、NHKも民放も「見逃し配信サービス」を行っていて、水泳も卓球も後ほど録画でネット配信します、となるだろう。今の視聴者は見逃したので後で見るという発想は薄い。視聴者は欲求は見たい番組を今見たいという欲求だ。これまでテレビの番組はマス(視聴者全体)へのアピールだけで事足りてきた。個人のニーズや欲求を満たすという発想はなかった。ところが、AIなどのイノベーションにより、インターネットでは一人ひとりのユーザーの特性に応じた「ターゲティング」がもはや普通になってきた。その消費者行動はシップス(SIPS)と称される。視聴者行動もまったく同じだ。Sympathize(共感する)、Identify(確認する)、Participate(参加する) Share&Spread(共有・拡散する)である。

   NHKが本気で公共メディアを目指すのであれば、この視聴者のSIPSにどう応えていくかが問われるだろう。放送と同じ番組を同時配信だけならば、単なるネットでのタレ流しである。放送はマスであっても、ネットは個である。時代に対応した同時配信を期待したい。

⇒30日(木)夜・金沢の天気    くもり

☆計算された「拡大自殺」

☆計算された「拡大自殺」

   きのう28日朝、ブログを書いているときにニュースが流れた。川崎市多摩区の路上でスクールバスを待っていた小学生や大人が51歳の男に次々と包丁で刺され、女子児童と30代の男性の2人が死亡、17人がけがを負った、と。男は身柄を確保されたが、自ら首を刺して搬送先の病院で死亡した。目撃情報では、「ぶっ殺すぞ」と男は叫び、子どもたちを襲った。

  ニュースで知る限り、犯人と犠牲者との間に接点はない。現場には使われたとみられる包丁2本が落ちていたほか、男のリュックサックの中には使用されていない包丁がさらに2本があった。包丁4本で犯行に及んだと推測される。推測だが、落ちていた2本は他殺用に、リュックの2本は自殺用だったのではないだろうか。保険証があったので身元がすぐに割れた。逃走する意思もなかったのだろう。

  この事件で浮かんだのは「拡大自殺」という言葉だ。この聞き慣れない言葉は、ウイキペディアなどによると、その定義として、1)本人に死の意志 2)1名以上の他者を相手の同意なく自殺行為に巻き込む 3)犯罪と、他殺の結果でない自殺とが同時に行われること。道連れ殺人ともいえる。アメリカでは学校でライフル銃を乱射した後に自殺するケースが多いが、典型的な拡大自殺だろう。

  身近に事件があった。2017年3月10日、石川県能登町で帰宅するためバス停で待っていた高校1年の女子生徒が連れ去られ、バス停から5㌔離れた山あいの集落の空き家で頭から血を流して死亡しているのが見つかった。殺害したとされる男子大学生21歳は同日午後7時40分ごろ、空き家から16㌔離れた道路に飛び出して乗用車にはねられ死亡した。2人は顔見知りではなく、死亡した男子学生は一人でバス停で待っていた女子高生を角材で殴り、車で連れ去って、空き家(祖父の家)で殺害した。その殺害動機は解明されていない。

  男子学生が自殺を図った現場の能越自動車道穴水道路は能登との往復でよく利用する。上下それぞれ1車線で部分的に両脇がコンクリート壁になっていて狭く感じる。ここで急に道路に飛び込んでくる人影があっても、それを避けようにも車体を横に切ることはできない場所だ。まして夜である。他殺、自殺、死亡事故。計算し尽された死の演出ではなかったか。拡大自殺の巻き添えになった女子高生が痛ましい。(写真は、川崎の殺傷事件を伝える28日付の夕刊各紙)

⇒29日(水)朝・金沢の天気   くもり   

★「かが」にドナルドを誘うシンゾーの気持ち

★「かが」にドナルドを誘うシンゾーの気持ち

   2年前の2017年7月、海上自衛隊で最大の護衛艦「かが」が金沢港に寄港したので見学した。その年の3月に就役したばかりで、艦名は「加賀」に由来するとのことで、海上自衛隊の基地以外の初の寄港地として金沢港が選ばれたということだった。一般公開の日ではなく、乗艦はできなかった。基準排水量1万9500トン、乗組員470人。全長248㍍、幅38㍍の広い甲板を有するヘリコプター空母型の護衛艦だ=写真=。甲板の前方に2機、中央に1機、後方に1機の計4機のヘリが駐機していた。

   広い飛行甲板を活用して、潜水艦を探す哨戒ヘリコプター5機を同時発着させることができる。海上自衛隊の潜水艦の探知や追跡力の向上を狙ったものとされるが、具体的には、性能の向上で探知が難しくなりつつある中国潜水艦への対応を念頭に置いているといわれる。陸上自衛隊との連携も想定していて、10機のヘリが収まる格納庫には、陸上自衛隊の大型トラック50台を搭載することもできる。また、陸上自衛隊が導入した新型輸送機MV22オスプレイも発着が可能となる。

   その護衛艦「かが」を、国賓として日本を訪れているトランプ大統領はきょう28日、安倍総理とともに視察する。今回の視察は安倍氏が打ち上げている「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」を具体的に見て理解してもらおうという意図でトランプ氏を誘ったようだ。インド太平洋構想はインド洋と太平洋でつないだ地域全体の経済成長をめざし、自由貿易やインフラ投資を推進する構想のこと。これは安全保障面ともリンクしていて、法の支配に基づく海洋の自由を訴え、 南シナ海で軍事拠点化づくりを進める中国を封じ込める狙いがある。昨年2018年6月、海上自衛隊、アメリカ海軍、インド海軍による共同訓練(マラバール2018)がグアム島の周辺海空域で実施している。2017年7月のマラバール2017ではインド南部チェンナイ沖で行っている。

   ではなぜ「かが」なのか。「かが」は今年4月に適用された新防衛計画の大綱で空母化が決まっている。大綱には「日米同盟の一層の強化には、わが国が自らの防衛力を主体的・自主的に強化していくことが不可欠」と記されており、防衛力の強化の象徴的なアクティビティが空母化といえる。安倍氏はそこをトランプ氏に強調したいのだろう。

  通商だけでなく、安全保障でも一体感を示す場としての「かが」だ。ところで、安倍氏は「かが」の意味をトランプ氏から問われたら、どのように説明するのだろうか。聞いてみたい。

⇒28日(火)朝・金沢の天気    あめ

☆シンゾーとドナルドの「レアアース談義」

☆シンゾーとドナルドの「レアアース談義」

         この写真を見て感じたことは、お笑いコンビのようだ、と。写真は総理官邸のツイッター(26日)で公開している。安倍総理と(右)とトランプ大統領(左)が千葉県のゴルフ場で自撮りした写真だ。とくに、安倍氏の顔がなんとなく、あの芸能人っぽく見える。アメリカのCNNニュース(日本版)は「外務省によれば、昼食は米国産の牛肉のダブルチーズバーガーだった。トランプ大統領は相撲観戦も行った。優勝した力士には、トロフィーの上部に翼を広げたワシをあしらった『トランプ杯』も贈呈した」と。米国産の牛肉のダブルチーズバーガーとあえて取材して伝えているところがアメリカのメディアらしい。

   ところで、アメリカと中国の貿易戦争が安全保障問題と絡まって複雑さを増している。今月20日、習近平国家主席は江西省にある長征記念公園を訪れ、「我々はかつての長征の出発点にやってきた。いままた新たな長い道のりが始まった」と述べたと報じられている。長征は国民党軍に敗れた中国共産党が拠点のあった江西省瑞金を離れ、2年かけて1万2500㌔を徒歩で移動しその後攻勢に転じる、苦難と栄光の歴史である。習氏は米中貿易戦争の現状を長征になぞらえたのだろう。「必ず勝つ」と。

   中国にはもう一つの思惑があった。習氏は江西省にあるレアアース(希土類元素)の関連企業を視察した。レアアースは、ハイブリッド車や電気自動車、風力発電機などの強力な磁石、発光ダイオード(LED)の蛍光材料といった多くの最先端技術に使われる。ハイテク技術を支えるレアアースはアメリカにとっても欠かせないが、中国からの輸入に依存している。ここで思い出す。2010年9月、尖閣諸島で海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件が起きて、中国が日本向けのレアアースの輸出を全面禁止にした経緯がある。今後、中国がレアアースを対米交渉のカードにする可能性は十分にある。

   あす27日、トランプ氏は即位した天皇陛下と外国首脳として初めて会見したあと、11回目となる日米首脳会談に臨むことになっている。ここでの日米首脳会談のタイムリーさがある。会談で数々の議題はあるが、優先課題としてトランプ氏はおそらく、中国が「レアアース輸出禁止」のカードを切ってきた場合、アメリカとしてどう対応すればよいのか、日中のレアアース問題を乗り越えた日本の経験知と対応策を教えてほしいと尋ねるだろう。そのとき、安倍氏は「脱中国化」を進言するに違いない。一つはレアアースの輸入先の分散化により、中国依存度を下げる。もう一つはアメリカ企業の研究開発力でレアアースの消費量そのものを下げる。その事例として、ホンダがレアアース不使用の磁石の開発に成功し、すでにハイブリッド車用駆動モーターとして実用化していること、などだ。

   1ヵ月後の「G20大阪サミット」(6月28、29日)では、習氏も日本を訪れる。トランプ氏とすれば、今後中国との貿易交渉で浮上するであろう「レアアース問題」に先手を打ちたいと考えるのは当然だろう。ひょっとして、米中の「レアアース問題」が日本の新たなビジネスチャンスとして浮上してくるかもしれない。冒頭のにっこり笑った2人の笑顔に次なる可能性が。

⇒26日(日)夜・金沢の天気     はれ    

★ 魂のジェラート

★ 魂のジェラート

          ジェラートの本場、イタリアのパレルモで開催された国内最大のジェーラートコンテスト祭「2017 sherbeth Festival」で初優勝を果たし、一躍「ジェラートの風雲児」と注目される柴野大造氏が金沢大学で講演した(21日)。東京からの出店の誘いに応じず、能登でのジェラートづくりにこだわる。一方で、異業種の企業とのコラボや製品開発も行う。講演のタイトルは「地域素材のジェラートで世界発信 ~ブランド価値の創造で人生を切り拓く~」=写真=。

   能登半島の先端部にあたる石川県能登町で1975生まれ、地元高校を出て、東京農業大学を卒業後にUターン帰郷、家業の酪農に就く。しばらくして借金を抱え苦しい経営に追い込まれ、ジェラートの世界に飛び込んだ。「牧場経営の助けになればという思いで、加工品の製造を考えた。生クリーム、バター、ヨーグルトといろいろ考え、幅広い年齢の方に好まれるということでジェラートにしたんです」

   それまでスイ-ツや料理の経験もなく、イタリアからジェラートに関するレシピを取り寄せ、独学だった。アイスクリームよりも乳脂肪分と空気の含有量を押さえたジェラートは素材の味をダイレクトに伝えることができる。そして、能登へのこだわりは、食材へのこだわりでもある。能登の食材を次々にジェラートのフレーバーとして試した。日本海のワカメ、岩ノリ、カキ、寒ブリなど。能登産の塩を使った「天然塩ジェラート」は最初のヒット作となり、寿司屋やレストラン、居酒屋のデザートとして人気を博すことになる。

   2000年に「マルガージェラート能登本店」を立ち上げる。「食べた瞬間にそこに風景が浮かぶような味わいと情熱を表現することを心がけてつくっている」「どんな人が、いつ、どこで、誰とどんな表情で食べるのかというストーリー性を常に意識しながらつくります」

   イタリアのパレルモで優勝した作品は「パイナップル・セロリ・リンゴのソルベ」と題したジェラートだった。胃の中をリフレッシュしたい、それが自分のテーマだった。しかし当初、イタリアの職人仲間から「セロリはイタリアで最も嫌われる野菜なので、やめてた方がいい」とアドバスを受けた。それを頑として聞き入れず作品づくりに入る。パイナップルは胃もたれ防止、リンゴに含まれるペクチンは腸内環境を整え、そしてセロリは消化のため、と。チャンピオンに輝いたとき、審査員からこう称賛された。「君の作品はパーフェクトだ。イタリア人が寿司コンテストで優勝したようなものだ」と。

   心に刺さる話しぶりは、これまで何度か聴いたITベンチャーの成功者たちとはひと味違った、食を通じた人間愛が込められた言葉だった。「東京で見かける行列ができる店には興味がない。能登にいて、顔の見える生産者のモノを使いたい」「十人十味です。相手を思いやる愛がなければジェラ-トの味は伝わらない。魂の食なんです」

⇒23日(木)夜・金沢の天気      はれ

☆米中貿易戦争、「奇跡」は起きるか

☆米中貿易戦争、「奇跡」は起きるか

  アメリカの大手IT「グーグル」がスマートフォン用の基本ソフトの中国の通信大手「ファーウェイ」への提供を停止した。ファーウェイのスマートフォンには、グーグルの基本ソフト「アンドロイド(Android)」が使われているが、アメリカ商務省は17日、アメリカの企業が政府の許可なく取引を禁じるリストにファーウェイ本社と68の関連会社を発表している。これを受けて、グーグルがファーウェイに対して基本ソフトの提供を停止したカタチだ。20日付のイギリスBBC放送Web版=写真=は詳細に伝えている。

   今後ファーウェイが新たにつくるスマートフォンについては、アプリを配信する「グーグルプレイ」やメールソフト「Gメール」などグーグルの主なサービスが使えなくなる。ファーウェイはスマートフォンの出荷台数でアップルを抜いて、首位のサムスンに次ぐ世界第2位のシェアだが、打撃は避けられないだろう。

   これに対し、ファーウェイは声明を発表し、「すでに世界で販売されたり、現在販売されているスマホやタブレットについては、その利用やセキュリティーのアップグレード、それにアフターサービスに影響はない。利用者は、安心して使ってほしい」と述べ、スマホなどの使用に影響はないと発表。さらに、「アメリカで5G(次世代高速移動通信)を整備するつもりなどない」と宣戦布告のようなことを述べている。

       問題は中国政府の出方だ。外務省報道官の記者会見の発言を読むと、「中国政府は中国企業が法律を武器にみずからの正当な権益を守ることを支持する」と述べているが、アメリカに対するあからさまな非難を避けているような表現だ。アメリカとの貿易戦争という国難をどう切り抜けるのか。

   日本財団の笹川良平氏から届くメールマガジンで、「中国の小話」その185 ―中国政府の6つの奇跡は可能か?―とのタイトル(5月13日付)があったのでのぞいてみた。その奇跡とは、「住宅価格を維持しながら、不動産バブルの問題を解決する。」「貨幣を超過発行しながら、中央と地方政府の債務問題を解決する。」「絶えず巧妙に国民の税金負担を増やしながら、内需不足を解決する。」「資本規制をしながら、人民元国際化の障害をクリアする。」「計画生育制度を維持しながら、労働力人口の縮小問題を解決する。」「政府が強く関与しながら、市場の活力不足の問題を解決する。」

  中国の課題を絶妙な表現で「小話」化しているのが面白い。では、7つ目の奇跡があるとすれば、「米中貿易を戦いながら、25%関税をチャラにする。」だろうか。 

⇒22日(水)夜・金沢の天気   はれ

★能登半島、歌のツーリズム

★能登半島、歌のツーリズム

   歌手の石川さゆりさんが春の褒章(今月21日発令)で学問・芸術分野などに贈られる紫綬褒章に選ばれた。石川県の住民の一人として、石川さゆりさんの功績は大きいと評価している。それは昭和52年(1977)にリリースされた曲『能登半島』(作詞・ 作曲 · 阿久悠、三木たかし)のヒットによる観光効果だ。

   「十九なかばで恋を知り あなた あなた 訪ねて行く旅は 夏から秋への能登半島」。恋焦がれる女性の想いが込められた歌は能登への旅情を誘い、能登観光の第2次ブームを創った。翌53年に半島の先端・珠洲市への日帰り客数は130万人を記録(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成22年度旧きのうら荘見直しに係る検討業務報告書」)。その記録はまだ塗りかえられていない。

        では、能登観光の第1次ブームはいつだったのか。昭和32年(1957)、東宝映画『忘却の花びら』(主演:小泉博・司葉子)が公開された。「忘却とは忘れ去ることなり、忘れ得ずして、忘却を誓う心の哀しさよ」の名文句で始まるNHKラジオの連続ドラマ『忘却の花びら』(菊田一夫作)は、戦後の混乱期から落ち着きを取り戻し、マスメディアによる大衆文化が定着を始めたころのヒット作品だった。

   その映画のロケ地が輪島市の曽々木海岸であったことから、観光地としての能登ブームに火が付いた。横長のリュックを背負った若者が列をなしてぞろぞろと歩く姿を「カニ族」と称する言葉もこのころ流行した。さらに、昭和39年(1964)9月に国鉄能登線が半島先端まで全線開通、同43年(1968)に能登半島国定公園が指定された。マスメディアのPR効果、移動手段の確保、名勝としてのお墨付きを得て本格的な能登半島ブームが起きた。

   しかし、これまでの歌や映画によって誘われる旅情というはもう通用しないかもしれない。次世代の観光はこれまで旅行会社が取り上げなかった、あるいは観光地図にもなかった辺地、隠れた文化度の高い地域などが観光の対象となっていくのではないだろうか。「本当の田舎を見てみたい」や「何か体験をしてみたい」という要求が高まっている。いわばマス型からプライベイト型観光へとシフトが進んでいるように思える。

   新たな観光地は、個人を納得させる文化や歴史、伝統、農法、漁法、景観、人々の立ち居振る舞い、生業(なりわい)、自然・生態系といった地域資源をどれほど有するかがバロメーターとなるだろう。この点を踏まえれば、平成23年(2011)に「能登の里山里海」が国連機関である食糧農業機関(FAO)によって世界農業遺産、正式には「世界重要農業資産システム(Globally Important Agricultural Heritage Systems=GIAHS)」に認定された意義は大きい。

   世界農業遺産は次世代に継承すべき農法や生物多様性などを持つ地域の保存を目指していて、持続可能な伝統農法を見直すよう世界に求めている。家族や人の営みをベースにしていて、プライベイトな探訪型観光になじむ。国際的な評価を得た「能登の里山里海」の地域資源をいかにして活用してツーリズムへとつなげていけばよいのか、次なる能登観光のテーマでもある。

⇒21日(火)午後・金沢の天気    はれ