☆昔「百姓の持ちたる国」、今「住みよき加賀」

☆昔「百姓の持ちたる国」、今「住みよき加賀」

    面白いデータをネットで見つけた。「東洋経済ONLINE」に、「住みよさランキング2020」の全国総合トップ50が掲載されている。1位が石川県の野々市市で、以下、文京区(東京)、武蔵野市(同)、白山市(石川)、福井市(福井)、吉倉市(鳥取)、金沢市(石川)、小松市(同)、長久手市(愛知)、能美市(石川)と続く。トップ10を石川県の自治体が半数を占めている。実際にこの地に住んでいる者としては名誉なことなのだが、それほど「住みよさ」を意識したことはなかったので、「なぜ」とも思う。

   気になって、前回「2019」のデータを検索してみる。すると、1位に白山市、3位に野々市市、8位に能美市がランキングされていてトップ10に3つが入っている。石川県のほか、4位に福井市、7位に黒部市(富山)、9位に魚津市(同)が入っていて、北陸3県で実に6つを占めていた。冒頭で述べたように、「住みよさ」をそれほど意識したことはなかった。というのも、北陸は冬になれば雪が降り、自宅ガレージ前の道路を除雪するのが日課となる。凍結した路面ではのろのろ運転だ。日照時間も少なく、日中でも薄暗い日々が続き、冬のストレスがたまる。それが「住みやすいのか」と。

   そこで、このランキングの評価基準が気になった。ホームページに記されていた。その指標はA「安心度」(人口当たりの病院・病床数、介護老人定員数、0~4歳児数、刑法犯認知数、交通事故件数)、B「利便度」(人口当たり小売り販売数、店舗面積、飲食店小売事業所数、飲食店数)、C「快適度」(転出入人口比率、水道料金、汚水処理人口普及率、公園面積、最低最高気温・日照時間・最深積雪)、D「富裕度」(財政力指数、法人市民税、所得、床面積、地価)。20のデータをもとに算出し、AからDの視点でそれぞれ全国812の市と区をランキングしている。積雪や日照時間も入れての総合評価だった。

   では今回、トップ10のうち5つを占めた石川県の自治体の何が特徴なのか。野々市市は利便性が10位と際立っているが、ほかは安心度134位、快適度170位、裕福度171位とそれほど高くはない。金沢の郊外という立地でスーパーマーケットが多数あり、大学もあるので周囲には飲食店も目立つ。人口5万人余りのコンパクトな自治体なのだ。白山市は快適度6位。その名前の通り、霊峰白山のふもとにあり、豊かな水資源に恵まれ、企業立地も数多く、海浜公園など自然環境にも恵まれている。

   今回トップ10に入った野々市、白山、金沢、小松、能美はそれぞれに立地条件や地域資源など特徴があり、それを最大限に活かす努力をしている点が評価されたといえる。この地に住む者としてふと思うのは、この5つの自治体は加賀とよばれる地域だ。戦国時代は「百姓の持ちたる国」として中央政権と距離を置き、独自に栄えた地でもある。今は「住みよき加賀」として輝きを放っている。

(※写真は、「住みよさランキング2020」で全国総合トップとなった石川県野々市市の市役所)

⇒18日(木)朝・金沢の天気    くもり

★持続可能な千枚田の風景~下

★持続可能な千枚田の風景~下

     輪島市白米町の千枚田の知恵と工夫は現代も生きる。棚田の中腹を貫く道路、国道249号にそれが見て取れる。今でも地滑り地帯であることから、斜面地への圧力を軽減する工夫がほどこされている。軽量の発泡スチロールのプロックを道路の盛土材として使用し道路全体を軽量化している。EPS(Expanded Polystyrene)工法と呼ばれ、完了した1987年には日本で初の施工例として紹介された。

  知恵と執念、そして感謝の念で継承する水田開発の歴史遺産

   しかし、農業の担い手の減少、若者の農業離れが現地でも進み、1004枚の棚田をどう維持するのか。そこで行政と地元の人たちが考えたのが、棚田オーナー制度だった。2007年から始めて、今では毎年100人ほどの会員が参加する。年間2万円で「マイ田んぼ」を得て、年間7回の作業(田起こし、あぜ塗り、田植え、草刈り3回、稲刈り)に参加する。会員が都合で参加できないときは、地元のグループ「白米千枚田愛耕会」が作業をカバーしてくれる。9月の収穫が終わると、精米10㌔と山菜が届けられる。休日に家族連れでやってきてマイ田んぼを楽しそうに耕す光景はグリ-ンツーリズム​でもある。

   収穫が終わると、千枚田は夜の観光地へとステージが変わる。畦道に取り付けられた2万5千個のLED「ペットボタル」がきらめく=写真・上、輪島市公式ホームページより=。棚田の夜を彩るイルミネーションイベントは2011年秋から始まり、毎年10月から3月まで楽しむことができる。

   毎年12月5日にこの地域の農家では農耕儀礼「あえのこと」が執り行われる。稲作の恵みを与えてくれた「田の神さま」にこの1年の田んぼの作業と収穫を報告し、ごちそうでもてなす=写真・下=。目が不自由とされる田の神さまを丁寧にもてなす「独り芝居」だ。先祖から受け継ぐ感謝の念でもある。あえのことはユネスコの無形文化遺産に2009年に登録されている。

   2011年6月、世界農業遺産に「能登の里山里海」が選ばれ、FAOの当時のGIAHS事務局長パルヴィス・クーハフカン氏が千枚田を視察に訪れた。案内役の輪島市長から説明を聞き、「すばらしい景観と同時に農業への知恵と執念を感じる。能登の千枚田は持続可能な水田開発の歴史的遺産だ」と印象を述べていた。

⇒17日(水)朝・金沢の天気      はれ

☆持続可能な千枚田の風景~上

☆持続可能な千枚田の風景~上

   ことしの梅雨は過激だ。降るとなる激しい。きょう16日も金沢地方気象台は金沢など加賀地方で昼過ぎから夕方まで急な強い雨や落雷があると注意警戒情報を出している。今月11日に北陸は梅雨入りしたが、すでに石川県内の各地で土砂崩れなどが起きている。

           深層崩壊から棚田をよみがえらせた2百年のレジリエンス

   雨による土砂崩れをとくに警戒しているのは能登半島の尖端部分の日本海に面した、いわゆる外浦(そとうら)に住む人たちだろう。防災科学技術研究所「地滑り地形分布図データベース」によると、過去に起きた土砂崩れ現場は能登半島ではこの外浦と石川県と富山県の県境に集中している。滑りやすいリアス式海岸の地形であることから大雨による土石流や地震による土砂災害、火山岩でできた凝灰岩の風化など要因がある。能登半島の里山里海をテーマに調査にでかけるとこの地に生きる人々の知恵に驚かされることもある。 

   輪島市白米町の千枚田は1004枚の棚田が海に向かって広がる=写真・上=。2001年に国の名勝に指定され、全国有数の観光地としても知られる。この地も地滑り地帯で、地元で語り継がれる「大(おお)ぬけ」と呼ばれる大規模災害が1684年(貞享元年)にあった。今の言葉でいう深層崩壊だ。その崩れた痕跡は今でも地肌がむき出しになった山側の斜面から見える。そして、田んぼのところどころに石に転がっていることからも、当時の様子が想像できる=写真・中=。その土砂崩れ現場を200年余りかけて、棚田としてよみがえらせた。

   深層崩壊が起きた理由の一つが山からの地下水が地盤を軟弱化させた。棚田を再生するあたっては、逆にその地下水を田んぼに流し込み、その水がすべての田ぼに回るように水路設計が施された。つまり、用水からの分岐ではなく、田から田への水の流れである=写真・下。このため、地域の人たちは田起こしや田植えといった作業をほぼ同時に行うことで水の回しもよくすることができた。

           こうした知恵と工夫で災害地を生産地に回復させた、いわゆるレジリエンス(resilience)の事例として、国連食糧農業機関(FAO)が認定する世界農業遺産(GIAHS)で評価されている。

⇒16日(火)午前・金沢の天気    はれ

★コロナが変える東京都知事選

★コロナが変える東京都知事選

         きょうの夕方のメディア各社のニュースが、「れいわ新選組」の山本太郎代表が記者会見し、今月18日告示、7月5日投開票の東京都知事選に立候補することを表明したと伝えている。気になったのがその公約だ。東京オリンピック・パラリンピックを中止する。新型コロナウイルス感染拡大の見舞金として全都民へ10万円を給付するという内容だった。俳優の経験もあり、参院議員の経験もあり堂々とした表情だった。すでに立候補を表明している小池知事の有力な対抗馬の一人だろう。

   山本氏が掲げた公約の一つ、東京オリンピック・パラリンピックの中止は争点の一つとしてありだろう。では、10万円給付を公約に掲げるのはあり、だろうか。つまり現金給付を公約に掲げることはありのか。調べてみると、昨年7月の参院選選の公約で、自民党は「低収入の年金生活者に年最大6万円の福祉給付金を支給する」と掲げている。この場合、「低収入の年金生活者」という貧困対策だが、山本氏は「すべての都民」を対象としているので、すべての有権者ということになる。

   選挙運動として現金10万円を有権者に配れば、明らかな公職選挙法違反だが、これはあくまでも公約なので、公職選挙法に問われることはないだろう。現金給付を公約に掲げてはならないという規定もない。これはコロナ禍が産み出した新たな選挙公約かもしれない。では、同じく見舞金という名目を掲げ1人20万円を給付するという候補者が出てくるかもしれない。そうなると、有権者は政策の多様性より、金額の多さに惑わされるかもしれない。後出しじゃんけんのような公約だ。

   小池知事は今月12日に立候補を表明している。前回選挙の出馬で用いたスローガン「東京大改革宣言」受けて、新たに「東京大改革2.0」を掲げた。面白いのは「ポストコロナの選挙」と位置づけ、街頭演説は「3密」を避けるためオンライン中心の選挙戦を展開し、街頭演説の予定は立ていない(12日付・共同通信)。コロナ禍で選挙の在り方も大きく変わるだろう。(※写真は「小池ゆりこ」公式ホームページより)

⇒15日(月)夜・金沢の天気   はれ

☆加賀千代女と酒飲み男

☆加賀千代女と酒飲み男

    『朝顔やつるへとられてもらい水』の俳句で有名な江戸時代の俳人、千代女(1703-75)は加賀国松任(現・石川県白山市)に生まれ育った。小さいころから、この句を耳にすると夏休みのイメージがわくくらい有名だった。昨年の話だが、古美術の展示販売会で千代女の発句が展示されていると聞いて、会場の金沢美術倶楽部へ見学に行ってきた。

   2点展示されていると聞いていたが、『朝かほや起こしたものは花も見ず』は早々と売れて展示されてはなかった。もう一点の『男ならひとりのむほど清水かな』の掛け軸はまるで滝を流れるような書体だった。「千代尼」と署名があるので、剃髪した晩年の作だろうと美術商から説明を受けた。ただの見学のつもりだったが、『男ならひとりのむほど清水かな』の句に魅かれて購入した。

   自宅の床の間にさっそく飾ってみる=写真=。掛け軸にじっと向き合っていると、千代女のくすくすと笑い声が聞こえてきそうになった。酒飲みの男が一人酒でぐいぐいと飲んでいる。それを見て千代女は「酒はまるで水みたい」と思ったに違いない。おそらくその男は僧侶だった。法事で余った酒をもらい、自坊で黙々と飲んでいる姿ではなかったか。『男ならひとりのむほど清水かな』。千代女の観察眼は鋭い。

   はたと気がついた。冒頭の『朝顔やつるへとられてもらい水』に面白い解釈が浮かんだ。自らの体験だが、若いころ飲み仲間数人と朝まで飲んでいて、「朝顔みたいだ」と互いに笑ったことがある。赤くなった顔と、青白くなった顔をつき合わせるとまるで朝顔の花のようだった。以下はまったくの空想だ。千代女がある夏の朝、自坊の外の井戸に水くみに出ようとすると、朝まで飲んでいた酔っ払い男たちが井戸で水を飲んでいた。あるいは、井戸の近くでへべれけになって寝込んでいた。近づくこともできなかった千代女はしかたなく近所に水をもらいにいった。そして、男たちのへべれけの顔や姿から井戸にからまる朝顔をイメージした。そんなふうに解釈するとこの句がとても分かりやすい。

   私は俳句の研究者でもなければ、たしなんでもいない。酒はたしなんでいる。顔は赤くなる。今もその酒の勢いでブログを書いてしまった。

⇒13日(土)夜・金沢の天気    あめ

★「日本の失われた20年」警戒するアメリカ

★「日本の失われた20年」警戒するアメリカ

   「U.S. Stocks End Sharply Lower as Coronavirus Worries Return」(コロナウイルスの懸念が再び高まる中、アメリカ株は大幅下落)。ウオールストリートジャーナルWeb版(11日付)の見出しだ。一方、イギリスのフィナンシャルタイムズWeb版はこう伝えている。「US stocks slide nearly 6% on worst day since March」(アメリカの株価は3月以来の最悪日に、ほぼ6%下落)=写真=。

   11日のニューヨーク株式市場のダウは前日比1861㌦安の2万5128㌦だった。下げ幅は3月16日(2997㌦安)以来の大きさで、過去4番目の下げ幅を記録した。この大幅下落の原因をウオールストリートジャーナルは新型コロナウイルス感染の「第2波」を一番に上げている。サブ見出しでこう記している。「Dow falls more than 1,800 points; concerns about a new wave of infections send investors out of risky assets」(ダウは1,800ポイント以上下落した。新たな感染拡大への懸念が投資家を危険資産から遠ざけた)。 

   フィナンシャルタイムズはコロナ第2波と併せて、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)の「ゼロ金利の継続」を上げている。「Investors spooked by uptick in virus cases and gloomy prognosis from the Federal Reserve」(ウイルス感染増加とFRBの先行き不安に怯えた投資家)。FRBは10日に開催した連邦公開委員会で、政策金利の誘導目標「0%~0.25%」を2022年末まで続ける方針を示した。この根拠としてアメリカの失業率は2020年10-12月期も平均9.3%と高水準を予想。さらに、2022年10-12月期でも物価上昇は前年同期比1.7%と予想(目標2%)。つまり、投資家とすれば、インフレ効果による株価の上昇などは今後見込めないということだ。

   ジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボードの最新版をチェックするとアメリカのコロナ感染者202万人だ。9日の感染者は197万だったので第2波が不安を煽る。コロナ禍では、いわゆる資本主義の「公式」というものが通用しない。人を雇い、経済が拡大すれば社会全体が豊かになるという構図は一変した。金融政策を投じたとしてもモノは売れず、経済の成長力は弱まり、デフレを招く「日本の失われた20年」の再現をアメリカが警戒し始めたのではないだろうか。

⇒12日(金)朝・金沢の天気     あめ

☆アメリカ暴行死事件の複雑怪奇

☆アメリカ暴行死事件の複雑怪奇

     きのうの金沢の最高気温は31.3度だった。梅雨入りを感じさせる蒸し暑さ。外出の折にはマスクを着けたが、正直、苦痛だった。まさに「暑苦しい」という言葉が当たる。そしてきょう午前中から雨が降り出し、季節はいよいよ梅雨に入った。

    けさのロイター通信Web版日本語によると、白人警官に逮捕される際に暴行を受けて死亡した黒人男性の弟がアメリカ下院司法委員会の公聴会に出席し証言した。ミネソタ州ミネアポリス近郊で、20㌦の偽札を利用してたばこを買おうとして通報され、警察に取り押さえられたとの内容だ。記事では、弟が「兄は誰も傷つけなかった。20㌦のために命を落とす必要はなかった。黒人の命は20㌦の価値しかないのだろうか。今は2020年だ。こうしたことはもう終わりにしてほしい」と訴えたと記している。

   黒人差別反対の抗議活動が全米に広がった事件だが、発端が偽札の使用だったことは余り知られてなかったのではないだろうか。この事件の複雑さを感じる。アメリカ社会は、1862年にエイブラハム・リンカーンが奴隷解放宣言を発して以来、自由と平等、民主主義という共通価値を創り上げる先頭に立ってきた。自由と平等、民主主義を共通価値と掲げ、さらに性や人種、信仰、移民へと広げてきた。こうした共通価値を創ることを政治・社会における規範(ポリティカル・コレクトネス=Political Correctness)と呼んでアメリカ社会は自負してきた。

   ところが、しかし、ポリティカル・コレクトネスは裏腹で、きれい事しか言えない、本音が言えないという言葉の閉塞感として白人層を中心に受け止められるようになってきた。こうした「ポリティカル・コレクトネス疲れ」の白人層に支持されたのがトランプ大統領でいまの在り様はポピュリズムと称される。ポピュリズムは、国民の情緒的支持を基盤として、政治指導者が国益優先の政策を進める、といった解釈だろう。トランプ氏が「アメリカ・ファースト」を唱え、世界に難題をふっかけているが、ある意味で支持層の気持ちを代弁しているとも言える。

   黒人差別問題ならば法的な規制など出口はいろいろあるだろう。しかし、偽札の使用が事件の発端となるとこれを貧富の格差の問題として単純に世論に問うことができるだろうか。たとえば、偽札を大量に印刷してばらまくマフィアの存在がバックにいたとすると話はより複雑怪奇に展開していくのではないだろうか。あくまでも憶測の話である。(※写真は、白人警官による黒人の暴行死事件が経済に与える影響を解説する11日付・ウオールストリートジャーナルWeb版)

⇒11日(木)午前・金沢の天気   あめ

★パンデミックがもたらすペシミズム

★パンデミックがもたらすペシミズム

   新型コロナウイルスのパンデミックが止まらない。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボード(=一覧表、9日付)をチェックすると=写真=、感染者は718万人、死者は40万人を超えている。その中でもアメリカは感染者197万人、死者11万人と圧倒的に多い。警察官による黒人男性への暴行死事件をきっかけにアメリカ全土に広がっている「Black Lives Matter」黒人の命は大切だ)の抗議デモはこのコロナ禍による厭世(えんせい)感、あるいは悲観主義と訳されるペシミズム(pessimism)が背景にあるのではないかと憶測してしまう。

          社会の悲観や不安の広がり、ペシミズムがアメリカだけでなく、世界を覆っているのかもしれない。嫌なもの、価値のないものに攻撃を仕掛けるのがペシミズムである。香港に対する強力な介入の動きを読むと、国内でのペシミズムが読める。5月の全人代で「2020年に貧困ゼロ達成」を重要課題として強調した。2019年時点で551万人の中国人が貧困状態にあり、今年の目標は彼らすべてを貧困から引き上げることだ(5月25日付・共同通信Web版)。ところが、コロナ・ショックは貧困層を増長させているのが現実。中国国家統計局が4月17日に公表した20年1-3月期の国内総生産(GDP)は前年比6.8%減と大打撃だった。こうなると、人民の目は富裕層が多いとされる香港に向く。そこで、政治的メンツを保とうとあえて香港国家安全法の導入に踏み切った、のではないか。

   北朝鮮のペシミズムもそうとうだろう。北朝鮮の人権状況を調査している国連の特別報告者が、北朝鮮が新型コロナウイルスの影響で最大の貿易相手国である中国との国境を封鎖したことで貿易が大幅に減少し、深刻な食糧不足が起きているおそれがあると指摘した(6月10日付・NHKニュースWeb版)。北ではホームレスが増え、薬の値段が急上昇している。トウモロコシ以外食べるものがない人が増え、兵士ですら食糧不足に陥っているという情報もあると、深刻な食糧不足を報告している(同)。

   このタイミングで、北が韓国に対して、脱北者による金正恩党委員長への批判ビラを風船で飛ばすのを放置していたとして南北通信の全回線を9日正午で遮断すると宣告した(6月10日付・中央日報Web版日本語)。これまでに、人民のいら立ちやペシミズムが募ると、その目をそらすために弾道ミサイルの発射や韓国への砲撃があった。今回は韓国政府そのものに矛先を向けた。

   日本も例外ではない。SNSによる誹謗中傷で女子プロレスラーの痛ましい死については何度かこのブログでも取り上げた。自民党ではネットで中傷した発信者の特定や厳罰化を法整備するとニュースになっているが、背景には根深い問題があるのではないだろうか。コロナ禍による労働者の解雇や雇止めが止まらない。5月29日現在で全国で2万933人(厚労省発表)だが、今後さらに膨らむ。世の中への漠然とした不安、あるいはペシミズムが背景にあると思えてならない。冒頭のダッシュボードを眺めていて暗い話になった

⇒10日(水)午前・金沢の天気    はれ

☆波高し 日本海のイカ釣り漁

☆波高し 日本海のイカ釣り漁

   日本海のイカ釣り漁が始まった。能登半島の尖端、能登町の小木漁港からはきのう8日、中型イカ釣り漁船が4隻が出港したと報じられている。目指すは能登半島の沖300㌔のEEZ(排他的経済水域)にある大和堆(やまとたい)、スルメイカの漁場だ。ただ、EEZであったとしても、違法に北朝鮮や中国の漁船も入り乱れ、一触即発の状況がここ数年続いている。

   昨年不穏な動きがいくつかった。8月23日、不審船2隻を水産庁の取締船が見つけ、EEZを離れるよう伝達した。北朝鮮海軍らしき旗を掲げた小型高速艇と北朝鮮の国旗が船体に描かれた貨物船の2隻で、高速艇には小銃を持った船員がいた。海上保安庁の巡視船が駆け付け警戒監視を続けたところ、不審船2隻は去った。毎年のようにEEZには北の木造漁船が数百隻も押し寄せているが、武装船となるとただ事ではない。

   10月7日にはEEZで、水産庁の漁業取締船と北朝鮮の漁船が衝突する事故があった。取締船が北の漁船に放水して退去するよう警告したところ、漁船が急旋回して取締船の左側から衝突してきた。通常、船同士がぶつかりそうな場合、左側の船が衝突をよけるルールとなっているが、避けることなく衝突し沈没した。さらに、日本海の沿岸には北の木造船の漂流や漂着が相次ぐ。2019年は全国で158件(18年225件)、生存者は6人、遺体は5体だった(第9管区海上保安本部まとめ)。

   悲惨な事件もかつて起きた。小木の漁業関係者では「八千代丸銃撃事件」が忘れられないだろう。1984年7月27日、小木漁協所属のイカ釣り漁船「第36八千代丸」が、北朝鮮が一方的に引いた「軍事境界線」の内に侵入したとして、北の警備艇に銃撃され、船長が死亡、乗組員4人が拿捕されるた。1ヵ月後の8月26日に「罰金」1951万円を払わされ4人は帰国した。

   当時私は新聞記者で船長の遺族や漁業関係者に取材した。関係者は無防備の漁船を銃撃したこの事件に憤りと恐怖心を抱いていた。「イカ釣りは続けられないですね」と言うと、ある漁師は「板子(いたご)一枚 下は地獄だよ」と反応した。漁師という職業は船に乗るので常に危険と隣り合わせにいる。初めて知った言葉だった。確かに日本海で漁をする危険はあるものの小木はいまでもイカ漁の日本海側の拠点の一つである。

   日本側のイカ釣り漁の漁期は6月から12月だが、すでに北の漁船はEEZに入り漁を始めている。5月中頃から取り締まりに入っている水産庁の退去警告は延べ54隻(うち放⽔措置4隻)の上っている(6月1日現在・水産庁公式ホームページ)。日本漁船の漁の安全と、豊漁を祈る。(※写真は、日本のEEZで違法操業する北朝鮮の漁船=海上保安庁の動画から)

⇒7日(火)午前・金沢の天気     はれ

★内閣不支持「50%」どう読むか

★内閣不支持「50%」どう読むか

   読売新聞社の全国世論調査(今月5-7日)の結果がきょうの紙面で掲載されていた。内閣支持率は40%で前回(5月8-10日)より2ポイント減らした。不支持は50%と前回48%と2ポイント増えている。政権批判の数値が他社より比較的安定している読売の調査で、この数字をどう読むか。

   なにより、不支持が50%を超えたことだ。読売の調査で2012年12月の第2次安倍内閣発足以降これまで3度、不支持が50%を超えている。直近では2018年4月調査で53%。森友学園への国有地売却や財務省の文書の改ざんをめぐる問題が沸騰したころ。2017年7月調査で52%。森友・加計学園問題などでの批判の高まりと、小池都知事が率いる都民ファーストの会の都議選で圧勝で、不支持が前回から11ポイントも跳ね上がった。2015年9月調査で51%。このときは安全保障関連法で世論が揺らいだ時期だった。

   では、今回4度目となる不支持の高まりの理由は何なのか。目立つ数字が、新型コロナウイルス対策について「あなたは、政府の経済対策に、満足していますか、満足していませんか」の問いだ。「満足」が27%、「満足していない」が64%もある。この不満は何か。簡単に言えば、特別定額給付金「10万円」が行き渡っていないということだろう。安倍総理が「ウイルスとの闘いを乗り切るため」と5月中の支給を目標に実施した給付金が全国に行き渡っていないのだ。ネットで調べると、宮城県の対象世帯101万世帯のうち今月1日時点での支給は17万世帯、支給率はわずか17%だ(5日付・河北新報Web版)。休業要請などに応じた事業者への支援金についても、申請書類の不備などで給付件数が伸び悩んでいる。個人、事業者ともに不満がうっ積している現状がこの「64%」ではないだろうか。

   一方で、コロナ対策の政府の対応に関しては「評価する」が42%で前回34%を上回り、「評価しない」49%は前回58%から下がった。コロナ対策の全体評価は上昇傾向にあるで、給付件数が高まれば不満も和らいでくるのかもしれない。

   今回の読売調査で内閣支持は前回から2ポイント下がったとは言え、40%もある。内閣支持率の20%台は政権の「危険水域」、20%以下は「デッドゾーン」とされる。第2次安倍内閣での支持率の最低は2017年7月調査の36%だ。第1次安倍内閣の退陣(2007年9月)の直前の読売の内閣支持率は29%だった。これに比べるとまだまだ余裕があるのかもしれない。

   ただ、香港をめぐるアメリカと中国の摩擦、白人警官による黒人男性暴行死をきっかけにした抗議デモの世界的な広がりと11月のアメリカ大統領選挙の行方、東シナ海での中国の軍事活動の活発化など、緊張関係がいつ日本に飛び火してくるか分からない。安倍内閣の真価が問われるのは、こうした国際情勢や世の中の流れといったダイナミズムにどう対応するか、だろう。
(※写真は今月5日の横田滋氏の死去について安倍総理の会見の模様=総理官邸公式ホームページから)

⇒8日(月)朝・金沢の天気    はれ