☆「サイバーいじめ」とSNSプラットフォーマーの責任

☆「サイバーいじめ」とSNSプラットフォーマーの責任

   テレビ番組に出演していた女子プロレスラー22歳がSNSで誹謗中傷を受け死去したことに関し、高市総務大臣はきょう26日の記者会見で、ネット上の発信者の特定を容易にし、悪意のある投稿を抑止するため制度改正を検討する意向を示した。年内に改正案を取りまとめる方針だという(26日付・共同通信Web版)。

   一連の報道が気になり記事に目を通すが、死に至るまでの状況が記されていないので「事件」の概要がつかめないでいる。たとえば、SNSでの誹謗中傷はどのような内容だったのか、遺書にはどのようなことが書かれていたのか、そして、どのように死に至ったのか詳細な報道が見当たらない。本人の尊厳を守る意味で知りたいと思うのだが。

   さらに、テレビ番組のどのような女子プロレスラーのシーンがSNSで「炎上」のきっかけになったのか、その原因がメディアでは報じられていない。うがった見方だが、そのシーンがテレビ局側の「やらせ」だったとしたら、局側の責任も問われるのではないだろうか。

   高市大臣が会見で述べた制度改正とは、「プロバイダー責任制限法」のことだろう。匿名で権利侵害の情報が投稿された場合、被害者がインターネット接続業者であるプロバイダーに発信者の氏名など情報開示を直接請求できる。ところが、権利の侵害が明白でないとの理由から開示されないケースが多い。今回の会見で大臣が示した改正のポイントは、投稿者の特定を簡素化し処罰すること。しかし、こうなると権利侵害をめぐる裁判が多発することにもなり、新たな社会問題になる可能性もある。

   問題性はむしろSNSのサイト運営者、プラットフォーマーにもある。総務省が制度改正すべきは、誹謗中傷を放置状態にしているSNSのプラットフォーマーに自主規制の強化を促すことではないだろうか。削除要請があった場合に24時間以内に人権侵害などに抵触するかどうか判断し、削除に相当すると判断すれば実行する。表現の自由の範囲であれば、その旨を要請者に説明して放置する。もし、それにプラットフォーマー側が応じなければ高額の罰金を科すことだ(ドイツの事例)。

     女子プロレスラーが出演する番組が動画配信サービス「ネットフリックス」で流されていたことから世界でもファンがいる。イギリスのBBCニュース(23日付、Web版)も女子プロレスラーの死を取り上げている=写真=。「Hana Kimura: Netflix star and Japanese wrestler dies at 22 」の見出しで  「彼女の死のニュースについて、ファンや関係者は、サイバーいじめとその精神衛生上の影響について多くの声を上げている」と論評している。サイバーいじめはもはや、国際問題になっている。

⇒26日(火)夜・金沢の天気    くもり

★10万人の数字より、1%の実名が訴えること

★10万人の数字より、1%の実名が訴えること

   夕方のテレビのニュース番組で、午後6時から始まった安倍総理の記者会見の模様を中継していた。新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言を全国で解除すると述べ、さらに、第2波に備え、医療体制の充実に2兆円の予算を積み増すと説明していた。先月7日に出された宣言が1ヵ月半ぶりに全国で解除され、今度は防御に徹するという次なるステージに入ったとの印象だ。それにしても「空前絶後」と称した200兆円におよぶ第1次と第2次補正予算案の方が心配になった。将来、このツケを払うのか、と。 

   きのうのニュースで、感染による死者の数が10万人に迫るアメリカで、NYタイムズ紙が24日付けの紙面1面でコロナ禍で亡くなった千人の名前や年齢、居住地、故人をしのぶ一文を掲載していると報道されていた(25日付・NHKニュースWeb版)。同紙のホームページをチェックすると、写真などはまったくなく、全面が活字で埋め尽くされている=写真=。ある意味で、紙面の迫力に圧倒された。見出しは「U.S.DEATHS NEAR 100,000,AN INCALCULABLE LOSS」(アメリカの死者は10万人に近づく、計り知れない喪失)。

   アメリカの感染者は世界最多の165万人、死者も最多の9万7千人。NYタイムズ紙は、ローカル紙の訃報記事などから亡くなった人の情報を集めた。「千人はアメリカの死者数の1%にすぎないが、人の死は単なる数字ではない」と掲載の意義を強調している。短文ながら丁寧な表現だ。「Lila A. Fenwick、87、ニューヨーク市、ハーバード大学ロースクールを修了した初の黒人女性」「Harley E. Acker、79、ニューヨーク州、スクールバスの運転手で天職を見つけた」など 。こうした故人をしのぶような記述は死者への尊厳とも言える。

   このNYタイムズ紙(Web版)を読んで、日本の地方紙の「おくやみ欄」をイメージした。死亡者の実名や居住地、人となりを簡潔に伝えている。また、事件や事故でもあっても、日本のメディアは実名報道が原則だ。記者が直接に遺族の了解が得て報道する、あるいは警察が遺族の了解を得て公表した実名をメディアが報道するといった仕組みになっている。ところが、アメリカや各国はそこまで実名にこだわらず、大がかりな事件や事故となると死者の人数を最優先する。なので、NYタイムズ紙が実名と人となりを記事にするのは異例中とも言える。

   今回は1%の千人だが、ではあと99%を実名報道するかというと、そうではなく今回はピンポントでのアピール記事だろうと察する。そのアピールとは、コロナ禍への強い憤りの表現だろう。いかに多くのアメリカ人がウイルスによって命を落としたか、国家が直面する事態の重大さを、死者の実名を公表することで伝えたかったのではないだろうか。この矛先がさらにどこに向かっていくのか。初動で対策が遅れたとされるトランプ大統領なのか、あるいはパンデミックをもたらした中国なのか。

⇒25日(月)夜・金沢の天気    くもり

☆現金嫌いへ意識変化、そしてデジタル通貨へ

☆現金嫌いへ意識変化、そしてデジタル通貨へ

          けさ新聞を広げると広告チラシが落ちてきた。地元のスーパーの特売チラシが2枚、総菜の通販のチラシ1枚の合わせて3枚だが、何だか久しぶりのように感じた。

   4月7日に新型コロナウイルスの感染防止対策として緊急事態宣言が発令され、16日には全国拡大した。石川などは「特定警戒県」に指定され、地域でも緊張感が高まった。この頃からスーパーの特売日やポイント還元の折り込みチラシを見なくなった。買い物客の混雑を招くため、チラシを自粛していたようだ。今月14日に39県で宣言が解除され、石川でも「非常」から「日常」に徐々に戻りつつある。チラシを見て感慨深い。

   きのう金沢市役所から特別定額給付金の申請用紙が郵便で届いた。国が国民1人に10万円を配る特別定額給付金。先週、オンライン申請をしようとPC画面に向ったが、「ICカードリーダー」が必要とあり、持っていなかったので諦めた。スマホによる申請も可能とあったがまるで複雑なゲームのようだったのでこれも諦め、申請書が郵送されてくるのを待っていた。

   送付された申請書(請求書)に銀行口座の番号を記入し、預金通帳とマイナンバーカードのコピーを添付し、返信用封筒で返送した。ごく簡単だが、まったくのアナログ。やはりオンライン申請でOKとしないと、この国際的なデジタル時代に乗り遅れるのではないか。本人確認の書類の添付は不要で、入力も短時間で済むなど、デジタルの利点がまったく活かされていない。

   コロナ禍で日常の変化がある。それは「人が触ったものには触らない」という行為が共有された行動規範として定着したことだ。ドアノブやエレベーターのタッチボタン、そして何より現金だ。以前から紙幣や硬貨は非衛生的だと指摘はあった。もちろん、現金を粗末してはいけないという国民性もあった。それが、コロナ禍で現金は手にすること自体が不快感を伴う存在になった。この意識変化で、今後キャッシュレス化がさらに進み、現金しか受け付けないという店舗には入らなくなるだろう。

   さらに、政府と日銀はアフター・コロナの政策として、デジタル法定通貨へと急ぐのではないか。2024年に予定している新札発行をデジタル法定通貨へと舵を切るのではないかと憶測する。政府としてのもくろみもある。税務申告されていない現金、いわゆる「タンス預金」が数十兆円もあると言われる。政府が銀行での預金分しかデジタル通貨と交換しないと発表した時点で、タンス預金は一気に消費へと回る。アフター・コロナの経済対策になればまさに「一石二鳥」とほくそ笑むのではないか。

⇒24日(日)午前・金沢の天気    はれ 

★「旅するユリ」の生存戦略

★「旅するユリ」の生存戦略

   きょう庭の手入れをしていて気がついた。タカサゴユリ(高砂ユリ)の先端が枯れている。4年ほど前に突如咲き始めた、いわゆる外来種だが、花がきれいなので伐採せずにそのままにしておいた。旧盆が過ぎるころ、花の少ない季節に咲き、茶花としても重宝されている=写真=。雑草の力強さ、そして床の間を飾る華麗さ。したたかなタカサゴユリではある。

  その生命力ある植物が若くして枯れようとしている。連作障害だ。同じ場所に何年も生育すると、土壌に球根を弱める特定のバクテリア(病原菌)が繁殖して枯死してしまう。そのため、タカサゴユリは風に乗せて種子を周辺の土地にばらまいて新たな生育地に移動する。いわゆる「旅するユリ」とも称される。

   以前、植物に詳しい知人にタカサゴユリの花の話をすると、外来種をなぜほめるのかと苦笑いされたことがある。確かに、立場が異なればタカサゴユリは外敵、目の敵だ。国立研究開発法人「国立環境研究所」のホームページには「侵入生物データベース」の中で記載されている。侵入生物、まるでエイリアンのようなイメージだ。日本による台湾の統治時代の1923年ごろに、観賞用として待ちこまれたようだ。

    それにしても、バクテリアで枯死する前に種子をばらまいて次々と拠点をつくり、侵入生物と敵視される一方で、床の間に飾られるような見事な花をつける。人間社会に入り込んだ植物として、その生存戦略は実に見事ではないだろうか。

⇒23日(土)夜・金沢の天気    はれ  

☆賭けマージャンなのか取材なのか

☆賭けマージャンなのか取材なのか

    東京高検の黒川検事長がきのう夜、安倍総理あてに辞表を提出したとメディアが各社が報じている。緊急事態宣言の中で産経と朝日の新聞記者らと興じた賭けマージャンのニュース(20日付・文春オンライン)が急浮上し、辞表提出につながった。

   「安倍(総理)はうまくすり抜けたな」と直感した人も多いのではないだろうか。黒川氏は63歳で、ことし2月に定年を迎えるところだった。総理官邸の信任が厚く、さらに半年間(8月7日まで)の勤務延長が国家公務員法の規定で閣議決定し、さらにそれを後付けするように検察庁法改正案を国会に提出した。ことし7月に勇退予定の検事総長の後任になるのではないかとも取り沙汰され、「三権分立の原則を壊す不当な人事介入」との批判が沸き起こった。今月18日に政府は法案成立を見送ったが、国会での追及は止まらなかった。このタイミングでのいわゆる「文春砲」だった。

   この問題はさまざまに波及するだろう。賭けマージャンの事実認定だ。当事者である朝日新聞は賭けマージャンに加わった社員(元検察担当記者)から事情を聴き、詳細を以下公表している。「13日は産経新聞記者と社員が数千円勝ち、産経の別の記者と黒川氏がそれぞれ負けた。1日は社員が負けた。4人は、5年ほど前に黒川氏を介して付き合いが始まった。この3年間に月2、3回程度の頻度でマージャンをしており、集まったときに翌月の日程を決めていた。1回のマージャンで、勝ち負けは1人あたり数千円から2万円ほどだったという」「2017年に編集部門を離れ、翌年から管理職を務めていた。黒川氏の定年延長、検察庁法改正案など、一連の問題の取材・報道には全くかかわっていない」(21日付・朝日新聞Web版)

   もう一方の当事者である産経新聞もコメントを発表した。「東京本社に勤務する社会部記者2人が取材対象者を交え数年前から複数回にわたって賭けマージャンをしていたことがわかりました。賭けマージャンは許されることではなく、また、緊急事態宣言が出されている中での極めて不適切な行為でもあり、深くおわびいたします。厳正に対処します」としている(22日付・NHKニュースWeb版)

   賭けマージャンは刑法の賭博罪(50万円以下の罰金)となる。飲食代など「一時的な娯楽に供するもの」を賭けた場合だと処罰されないという例外規定もある。今回、朝日新聞は賭けた金額も発表しているので事実関係は明らかだろう。黒川氏がいちやはく辞表を提出したのも、はやめに法務省から処分(訓告)を受けた方が、今後、刑事告発などを受けたとしても、罪は軽微で済むとの判断ではなかった。

   ここからは憶測だが、これが記者たちによる「接待マージャン」だとしたらどうなるだろう。事実、黒川氏の帰りのタクシー代を産経の記者が負担している。話の場を持たせるために、賭けマージャンという接待をしていたのだと記者たちが主張したら、賭博罪に問えるだろうか。むしろ贈収賄罪かもしれない。この場合、その対価は検察の内部情報だが、これは記事を検証すれば証明できる。黒川氏は「マージャンを通じて、メディアの知りたい情報とは何かを確認したかった」と主張するかもしれない。単なる賭けマージャンなのか、あるいは接待マージャンという取材なのか、そこが問題だ。

   朝日側は「一連の問題の取材・報道には全くかかわっていない」とコメントを発表している。卓を囲んだ社員は確かに記事は書いてはいなかっただろう、しかし、担当記者に黒川氏からの情報を流していたと考える方が自然ではないだろうか。

⇒22日(金)午前・金沢の天気    はれ

★文春が突いた「虎穴」取材の盲点

★文春が突いた「虎穴」取材の盲点

   「虎穴(こけつ)に入らずんば、虎子(こじ)を得ず」という諺(ことわざ)がテレビ・新聞メディアの記者たちの間で今でも使われている。権力の内部を知るには、権力の内部の人間と意思疎通できる関係性をつくらならなければならない。そこには取材する側とされる側のプロフェッショナルな仕事の論理が成り立っている。その気構えがなければ記者はつとまらない、という意味だ。

   「文春オンラン」(Web版・20日付)が報じた記事にメディア関係者は戸惑ったことだろう。「黒川弘務東京高検検事長 ステイホーム週間中に記者宅で“3密”『接待賭けマージャン』」。東京高検の黒川氏が緊急事態宣言によって不要不急の外出自粛が要請されているさなかの今月1日と13日夜、産経新聞社会部記者の自宅マンションを訪れ、産経のもう一人の記者と朝日新聞社員で元検察担記者の4人で賭けマージャンに興じた。黒川氏の帰りのハイヤーは産経記者が手配した。

   この記事で気になる一文がある。「産経関係者の証言によれば、黒川氏は昔から、複数のメディアの記者と賭けマージャンに興じており、最近も続けていたという。その際には各社がハイヤーを用意するのが通例だった」。「産経関係者の証言」と記述しているので、この記事のソースは産経新聞社の関係者と言っているに等しい。うがった見方かもしれないが、記者は取材源を秘匿するが、あえて「産経関係者」と出したところに何か隠された意味がありそうだ。   

   けさ新聞をコンビニで購入し、賭けマージャンの記事を各紙がどのように掲載しているかチェックした。読売新聞と中日新聞は関連記事を一面、中面、社会面の3ヵ所で記載している。これに比べ、当事者は扱いが小さい。朝日新聞は第2社会面、産経新聞は3面で報じている。

   文春の記事の論点は、ジャン卓を囲む3密と賭けマージャンの賭博罪の2点である。ただ、これは記事の本流ではない。政府がことし1月に黒川氏の定年を延長し、さらに4月に今国会で検察庁法改正案を提出。これが、黒川氏の定年延長を後付けで正当化するものではないかと議論になった。今月18日に政府は成立を見送り、議論は収束した。が、文春は3密と賭けマージャンで追撃をかけた。

   テレビ・新聞メディアは、当事者の産経と朝日以外も黒川氏の3密と賭けマージャンを知っていたはずだ。では、なぜ報じなかったのか。それは、冒頭の「虎穴」の論理だ。産経と朝日の記者は、法案に対する黒川氏の本音を知りたいとの思いを持って卓を囲んだ。3密の状態で賭けマージャンをすることで、黒川氏からさりげなく言葉を引き出すことにある。おそらく、読売や毎日の記者も賭けマージャンをともに行っていただろうと憶測する。こうした取材の一環として行った賭けマージャンについて、メディア各社はお互いに知る手の内なので記事にはあえてしない。文春はこの虎穴の取材の論理を上手に横から突いた。

   ここからはあくまでも憶測だ。黒川氏との賭けマージャン仲間である記者たちはお互いに卓を囲むスケジュールを把握していたはずだ。その記者の1人がうっかりと、あるいは意識的に1日と13日の予定を文春の記者にばらした。文春もばらした記者の社名を伏せるため、あえて「産経関係者の証言」と記述したのではないか。

   記者すべてが虎穴を肝に銘じているわけではない。躊躇する記者もいる。「権力を監視する立場の記者があえて権力の懐(ふところ)に飛び込んでよいものか」と問うている。

   黒川氏はきょう法務省の調査に対し、事実関係を認め、辞職の意向を示した。法務・検察関係者が明らかにした。森法務大臣は報道陣に「21日中に調査を終わらせ、夕方までに公表し、厳正な処分も発表したい」と述べた(21日付・共同通信Web版)。

⇒21日(木)午後・金沢の天気    くもり

☆甲子園はレジェンドを生む

☆甲子園はレジェンドを生む

   新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中、開催か中止で注目されていた第102回全国高校野球選手権大会(夏の甲子園大会)について、高校野球連盟はきょう午後に運営会議と理事会を開き中止を決めた(20日付・共同通信Web版)。春の選抜大会とあわせ、春夏連続での中止だ。

   報道によると、高野連は無観客での開催なども視野に検討を進めてきたが、休校が明けてから部活動を再開する時期が見通せない地域もあり、中止を決めた(同)。夏の甲子園出場は私学や国公立問わず、高校球児にとっての夢だろう。今回の中止決定は止むえない判断と察するが、高校球児にとってかなりの希望の損失ではないだろうか。   

   夏の甲子園は単なるアマチュアスポーツ大会とはずいぶんと趣が異なる。地域の巻き込みが半端ではない。7月中旬から代表校を決める地方大会、そして8月上旬から甲子園大会が開催されるが、地域全体のボルテージが高くなる。夏の日中に街を歩くと、カキーンというテレビの甲子園中継の音声があちこちから聞こえてくる。「風物音」でもある。

   金沢に住むと、甲子園の話が共有できる。1979年の第61回大会の3回戦で石川代表の星稜高校が延長18回の死闘を箕島(和歌山)と演じ、敗れた。箕島はこの年の春の選抜大会で優勝していて、まさに春夏連覇がかかっていた。その箕島を最も苦しめたのが星稜だった。もう一つ、星稜が負けて名を上げた試合が1992年の第74回大会の2回戦の明徳義塾(高知)戦。星稜の4番・松井秀喜選手に対し、5打席連続での敬遠が物議をかもした。ABC朝日放送の実況アナが「勝負はしません」と声を張り上げた。松井選手は春夏含め4回甲子園出場で、高校時代の公式試合でホームラン60本を放っていた「怪物」だった。連続5敬遠が松井を一躍全国区に押し上げた。

   連続5敬遠のとき、自分は金沢の民放局で報道デスクを担当していた。何度か高校野球をテーマで特集を組み、松井選手の父親に取材した。息子にこう言い聞かせて育てたそうだ。「努力できることが才能だ」と。才能があればこそ努力ができるのだ、と。プロ入りしてから、ホームランの数より、連続出場記録にこだわった。この父親の言い聞かせが甲子園、そして球界のレジェンドを生んだのだろうか。

(※写真は、2005年12月に東京・JR浜松町駅で撮影した企業広告のスナップ写真)

⇒20日(水)夜・金沢の天気    あめ

★コロナワクチン 世界の希望の光になるか

★コロナワクチン 世界の希望の光になるか

   けさのニュースをチェックすると、18日のニューヨーク株式のダウ終値は911㌦高で、一時上げ幅が1000㌦を超えた。その理由が新型コロナウイルスのワクチン開発への期待感が高まりだった(19日付・共同通信Web版)。そこで、アメリカメディアを検索してみる。「Moderna Coronavirus Vaccine Trial Shows Promising Early Results」(モデルナ社がコロナウイルスのワクチンの初期の臨床試験で有望な結果)の見出しの記事があった(18日付・ニューヨーク・タイムズWeb版)。

   モデルナ社はアメリカのバイオテクノロジーの製薬会社。記事を読む。「The company said a test in 8 healthy volunteers found its experimental vaccine was safe and provoked a strong immune response. It is on an accelerated timetable to begin larger human trials soon.」(同社によると、健康なボランティア8人を対象にテストを行なったところ、この実験用ワクチンは安全で、強い免疫反応を引き起こすことがわかったという。近いうちに大規模な臨床試験を開始する予定である)。この3月からNIH(国立衛生研究所)と共同で、ワクチン開発を進めてきた、とある。

   第1段階の臨床試験では、18歳から55歳の45人が対象となっているが、今回発表した結果は8人分にとどまっている。臨床試験全体の結果の公開がまだ示されていない。600人を対象とした第2段階の試験をまもなく開始、7月には健康な数千人を対象とした第3段階の試験を前倒しのスケジュールで進める。記事では「急ぐと安全性が損なわれ、結果的にワクチンが効かなくなったり、患者に害を与えたりするのではないかという懸念が科学者の間に広がっている」との懸念も示している。ただ、全体的な記事のトーンは、「offering a glint of hope to a world desperate for ways to stop the pandemic.」(パンデミックを食い止めようと必死になっている世界に希望の光を与えている)と前向きだ。

   そしてきょうの東京株式は日経平均が335円高で始まり、上げ幅は一時500円を超えている。ニューヨーク株式の「ワクチン高」の流れを引き継いでいるのだろう。確かに暗いニュースが蔓延する世界で希望の光になってほしい。このワクチンの普及で、来年は東京オリンピックも盛り上がってほしいと願う。

⇒19日(火)午前・金沢の天気    くもり

☆「金沢嫌い」 ルーツをたどる

☆「金沢嫌い」 ルーツをたどる

   今月13日付のブログで「金沢嫌い」というタイトルで、新型コロナウイルスの感染者について「人口10万人当たりだと金沢市は27.9人と東京都35.9人に次いで多い。これが、感染者が出ていない能登北部などからは警戒されている」と書いた。そして、能登の知人からも「いま金沢から来ない方がいい。周囲の人も金沢に行かないようにしている」と電話で聞かされたことに自身もショックを受け、「金沢嫌厭」や「金沢嫌い」という言葉が浮かびタイトルにした。

   実は昔から「金沢嫌い」という言葉を聞いていた。まず、金沢人の言葉が、能登や金沢、富山や福井に住む人たちからは「上から目線」のように感じる。これは自身の体験にもなるが、高校時代に金沢で下宿生活を始めたとき、下宿のおばさんは「そうながや」「しまっし」と語尾にアクセントをつけ、念を押すように話した。慣れない間は、いつもしかられているような印象だったことを覚えている。生まれ育った能登では、たとえば「そやのきゃー」と語尾を消すように話すので優しい言葉に聞こえる。福井でも「そやのおー」とあえて語尾を丸くする。

    金沢言葉が周囲と違うと感じるのは歴史に由来すると考えている。日本史でも教わるように、戦国時代の北陸は「百姓の持ちたる国」として浄土真宗の本願寺門徒が地域を治めていた。その後、戦国大名・前田利家を中心とした武家集団が越前、能登に赴き、金沢に加賀藩の拠点を構えることになる。武家集団は上意下達、命令をしっかり相手に伝えるために語尾にアクセントをつける、あるいは言葉にアンカーを打つような言い回しにする。金沢の武家社会で育まれた言葉だった。

    宗教観の違いもあるかもしれない。「百姓の持ちたる国」は浄土真宗、武家社会の金沢では曹洞宗、つまり禅宗の家が多かった。浄土真宗と曹洞宗の宗教観の違いは葬儀に参列すれば理解できる。浄土真宗だと葬儀で「若いときからとても苦労されたが、その分、極楽浄土に行かれて・・」といった弔辞を今でも聞く。曹洞宗の僧侶は葬儀で「この世も修行、あの世も修行」と言って、エイッと大声で死者に喝を入れる。曹洞宗が武家社会に受け入れられた理由はこの「修行」がキーワードなのだろうと解釈している。

    記者時代に金沢の博識者から教わったことだが、金沢の武家界隈ではかつて、ニブツモンという言葉があった。父親が楽することばかり考えている息子たちを「このニブツモンが」と大声で叱ったそうだ。念仏を唱えれば極楽に行けると信じる浄土真宗の信徒たちをネンブツモノ(念仏者)と称し、それが金沢の武家社会では訛ってニブツモンになったようだ。武士たちは農山漁村の浄土真宗の信徒たちをこのような目線で見ていたことがうかがえる事例ではある。この言葉はもう死語だろう。長く金沢に住んでいるが直に聞いたことはない。

   話は随分と横にそれたが、金沢の言葉は歴史と風土の中で育まれたが、冒頭で述べたように、いまでも「上から目線」と勘違いされやすい。関西の「京都嫌い」は有名だが、北陸の「金沢嫌い」もなかなかのものだ。金沢の観光パンフでよく使われる言葉に「加賀百万石」がある。かつての栄華をいつまで誇っているのかと揶揄する向きもある。しかし、金沢の人たちはあまり気にはしてないようだ。生まれ育って得た言葉に他人を見下す発想などもともとないのだ。

(※写真は加賀藩初代の前田利家が建立した曹洞宗・宝円寺の仁王像)

⇒18日(月)朝・金沢の天気     くもり

★IOCと覚書、WHOの次なる押しの一手

★IOCと覚書、WHOの次なる押しの一手

   新型コロナウイルスのパンデミックの中で外出や運動の機会が減っていることから、WHOのテドロス事務局長とIOCのバッハ会長が16日、ジュネーブにあるWHO本部で会談し、スポーツを通して健康を共同で促進していこうという覚書(MOU)を交わした(17日付・NHKニュースWeb版)。

   どのような内容なのか知りたいと思い、双方の公式ホームページをチェックした。WHOは午前9時現在でMOUに関する記載は見つからなかった。ICOでは写真付きで詳しく掲載されていた=写真・上=。そのMOUを交わす目的については明快だった。SDGs(国連の持続可能な開発目標)に基づいている。

「the IOC and WHO are demonstrating their shared commitment both to promoting healthy society through sport, in alignment with Sustainable Development Goal 3 (“Good health and well-being”), and to contributing to the prevention of non-communicable diseases. (IOCとWHOは、SDGs目標3「健康と幸福」に沿って、スポーツを通じて健康的な社会を促進するという共通のコミットメントを示し、さらに非感染性疾患の予防に貢献する)

   気になる一文もあった。「The IOC and sports organisations recently benefited from WHO guidelines on mass gatherings, aiming specifically to provide additional support to sports event organisers and host countries in developing a risk-assessment process, identifying mitigation activities and making an informed evidence-based decision on hosting any sporting events. The guidelines can be found here.」(意訳:IOCとスポーツ組織は、リスク評価プロセスの開発や緩和の特定、およびスポーツ大会の開催の決定に当たり、スポーツイベントの主催者と開催国に追加のサポートを提供する。実施にあたってはWHOからガイドラインを頂戴する)

   実際、IOCとWHOの覚書の後の記者会見で、記者からワクチンが完成する見通しがたたない東京オリンピックの開催は可能かと問われ、バッハ会長は「2021年の7月に世界がどのようになっているかわからない。大会まで1年2ヵ月あり、WHOと作業チームの助言に従いながら正しい時期に必要な決定を行う」と述べた(同)。オリンピックの最終決定にあたってはWHOとの連携を密にすると。

   IOC公式ホームページの写真でもトレーニング用の固定自転車でツーショット=写真・下=が掲載されている。解釈によっては、IOCとWHOは「両輪」、あるいは「二人三脚」と強調しているようにも読める。覚書はWHOで交わされたので、おそらくこの写真のアングルの提案者はテドロス事務局長だろう。  

   もう一つ、気になるニュースがある。アメリカのトランプ大統領は16日、ツイッターで、WHOの新型コロナウイルス感染症問題などへの対応が中国に偏向しているとして一時停止を決めた資金拠出に関し、部分的な再開を選択肢の一つとして検討していることを明らかにした。これに先立ち、FOXニュース電子版は16日、トランプ政権が、新たな拠出額を中国と同程度となる9割減とすることで準備を進めていると報道した(16日付・共同通信Web版)。アメリカのWHOへの2019年の拠出額は4億㌦だった。

   結論を急ぐ。テドロス氏はアメリカの9割減額分をどう補填するか苦心していることだろう。そこにIOCとのMOUはグッドタイミングだった。アメリカの減額分をオリンピック開催国の日本に肩代わりさせればいい、と今ごろ思案しているかもしれない。テドロス氏の「脅し、すかし、商売上手」はこのブログで何度か述べてきた。「東京オリンピックの開催決定権を握っているのは私なんですよ、安倍さん分かってますね」と押しの一手で迫って来るに違いない。邪推に過ぎない。それにしても、ワクチンの開発が待たれる。

⇒17日(日)午前・金沢の天気   くもり時々あめ