☆アメリカ大統領選から見えたメディアの有り様

☆アメリカ大統領選から見えたメディアの有り様

    それにしても「長い長い戦い」とはこのことを言うのだろう。アメリカ大統領選挙は、投票日(今月3日)から10日が経ちようやく、トランプ氏とバイデン氏の選挙人の獲得数が確定した。50州と首都ワシントンでの選挙人538人のうち獲得したのはバイデン氏が306人、トランプ氏が232人だったとメディア各社が報じている。

   フロリダ大学「選挙プロジェクト」サイトでの推計によると、今回の大統領選の投票数は1億5883万票で、アメリカの18歳以上の有権者数2億3925万人に対する投票率は66.4%だった。二者択一の投票率は高いものだが、たとえば、大阪市を廃止して4つの特別区に再編する「大阪都構想」の住民投票(今月1日)は今回62.4%だった。大阪より熱いアメリカだったとも言える。

   アメリカ大統領選について動画やサイトをチェックしていたが、アメリカのメディア、とくにテレビは日本の選挙報道と少し趣(おもむき)が異なる。現地時間12日付のCNNは「Trump fails to address election loss」(トランプ氏、選挙敗北への対応に失敗)とトランプ氏に対しては皮肉たっぷりに伝えている=写真=。選挙期間中を問わず、CNNはいつもトランプ氏には対して厳しい論調だ。

   日本では新聞やテレビに選挙報道の公正さを求める(公選法148-1)、テレビ放送に政治的な公平性を求める(放送法4)、テレビ放送に候補者の平等条件での放送を求める(放送法13)などだ。この法律に従って、マスメディアの選挙報道は公示・告示の日から投票時終了まで、候補者の公平的な扱いを原則守っている。

   アメリカでもかつてテレビ局に「The Fairness Doctrine」(フェアネスネドクトリン)、つまり選挙報道などでの政治的公平が課せられ、連邦通信委員会(FCC)が監督していた。ところが、CATV(ケーブルテレビ)などマルチメディアの広がりで言論の多様性こそが確保されなければならないと世論の流れが変わる。1987年、連邦最高裁は「フェアネス性を義務づけることの方がむしろ言論の自由に反する」と判決を下し、フェアネスドクトリンは撤廃された。このころから、テレビ局に政治色がつき始め、たとえば、FOXは共和党系、CNN、NBCは民主党系として知られるようになった。

   アメリカではむしろこの傾向が「テレビ離れ」に拍車をかけているのかもしれない。確かに、アメリカでは、ヘイトスピーチもフェイクニュースも表現の自由であり、むしろ、誰かが言う権利を否定することこそが忌まわしいという風潮は今もある。ただ、メディアの公平性というのは、フェイクやヘイトがネットで蔓延する社会だからこそ求められる報道スタンスであり、それが今、信頼性として評価される時代ではないだいろうか。FOXもCNNも脱共和、脱民主を追求してみてはどうか。

⇒14日(土)朝・金沢の天気     はれ

★動物たちの反乱

★動物たちの反乱

   前回のブログで霊長類学者、河合雅雄氏の講演について述べた。河合氏らの共著に『動物たちの反乱』がある。タイトルが面白い。今まさにその時代が到来しているのかもしれない。街中に出没するツキノワクマ、農作物を食い荒らすニホンザル、市内でゴミをあさるイノシシなど、動物たちがヒトに「反乱」を起こしているのか。ここからは空想の世界が入り混じる。

   動物たちの反乱は身近に起きている。きょう大学から一斉メールが届いた。「高病原性鳥インフルエンザに対する対策について」との文科省からの通知の転送だ。添付ファイルに「野鳥との接し方」がある。以下引用。「野鳥の糞が靴の裏や車両に付くことにより、鳥インフルエンザウイルスが他の地域へ運ばれるおそれがありますので、野鳥に近づきすぎないようにしてください。 特に、靴で糞を踏まないよう十分注意して、必要に応じて消毒を行ってください」。自家用車を駐車場に停めておくと、鳥のフンがフロントガラスについていることがある。これまでテッシュペーパーで拭いて、水をかけて洗っていたが、触れないようさらに用心が必要だ。鳥たちの「フン爆撃」か。処置としては、ガソリンスタンドの洗車機で洗うのベストだろう。1回450円だ。

   動物たちの「敵陣突破」作戦も顕著になってきた。環境省は今年4-9月のクマの出没件数が全国で1万3670件に上り、2016年度以降の同時期で最多だったことを明らかにした(10月26日付・共同通信Web版)。石川県では687件(ことし1月-11月10日現在)に上り、9月11日には「ツキノワグマの出没注意情報」を発令した。さらに、クマとの遭遇に備えて「ヘルメットの着用やクマ撃退スプレーの携行」、さらに、「林道での人身被害を防止するため、自動車から降りる際にはクラクションを数回鳴らしてから降りる」ことを勧めている。 まさに、戦闘態勢だ。

   動物たちの「兵糧攻め」も続いている。農水省公式ホームページの統計によると、平成30年度の野生鳥獣による農作物の被害額は158億円に上った。種別の被害金額は、シカが54億円、イノシシが47億円、サルが8億円だ。被害の7割をこの3種が占めた。被害面積ではシカによるものがおよそ4分の3だ。被害額としては6億円の減少(前年比4%減)だが、被害量が49万6千㌧で前年に比べ2万1千㌧も増加(対前年4%増)している。

   海外では「人心のかく乱」「新兵器」も繰り出している。デンマークでは、毛皮を採取するための家畜のミンクから変異した新型コロナウイルスが見つかり、人への感染が確認されたとして、政府は国内の農場で飼育されるミンク1700万匹を殺処分にする方針を明らかにした(11月7日付・NHKニュースWeb版)。その後、デンマーク政府は国内で飼育されている全ミンクの殺処分を義務付けるとした命令を撤回した(同11日付・CNNニュースWeb版日本語)。一方、イギリスの保健大臣は、変異種が世界中に広まれば「重大な結果」がもたらされると警告、毛皮用のミンク飼育を国際的に禁じる必要があると示唆した(同・時事通信Web版)。エレガントなミンクの毛皮とコロナ禍の間で揺れる人々の心を嗤うように「かく乱」が続く。

   中国では動物たちが「新兵器」を繰り出した。NHKの報道によると、中国甘粛省の蘭州市当局は記者会見(今月5日)で、去年7月から8月にかけて「ブルセラ症」の動物用のワクチンを製造する地元の製薬工場から菌が漏れ出し、周辺住民など6620人が感染したことを明らかにした(11月6日付・NHKニュースWeb版)。ブルセラ症は犬や牛、豚、ヤギなどが細菌に感染して引き起こされる病気で、人が感染すると発熱や関節の痛みなどの症状が出る(同)。

   問題は感染経路だ。厚労省公式ホームページによると、人から人への感染は極めてまれで、感染動物の乳製品や肉を食べた場合での感染が一般的という。コロナウイルスでは、武漢市の細菌研究所の近くに市場があり、動物実験で廃棄されたものが市場に出回ったと当時うわさされた。今回も同じ展開か。動物たちの策略に人はうまく乗せられたのか。

⇒13日(金)朝・金沢の天気    はれ

☆『森の学校』河合雅雄氏から学んだこと

☆『森の学校』河合雅雄氏から学んだこと

           このニュースを知って、7月に亡くなった俳優の三浦春馬氏(享年30)とのちょっとした「縁」というものを感じた。彼が18年前、12歳のときに初主演した映画『森の学校』が来月12月から再び全国公開されるという。この映画は京都大学名誉教授の霊長類学者、河合雅雄氏が自らの少年期を綴った『少年動物誌』を映画化したものだ。2005年12月に河合氏を金沢大学に招いて講演をいただいた。そのときに映画についても述べておられた。

   映画では、三浦春馬氏が演じる雅雄少年が兵庫県の丹波篠山で、病弱で学校を休みがちな小学生のころ、昆虫や動物に興味を抱き、裏庭に小さな動物園をつくり始める。昭和10年の時代設定だ。父親の戦死で東京から転校して来た女の子が、雅雄に森での遊び方を教わるうちに笑顔を取り戻していく。そして、雅雄は肉親の死で命の大切さを知る。篠山の森には相変わらず泥だらけになって遊ぶ子どもたちの姿があり、壮大な自然と命、子どもの好奇心がテーマだ。

   河合氏の金沢大学での講演テーマは「森あそびのすすめ」だった。映画で描かれた人生の延長戦線上の話として、京都大学に入り、芋を洗うサル、あいさつをするサルを発見する。定年後でも、子どもたちをボルネオのジャングルに連れて行き、いっしょにキャンプをしながら、人が自然の中で学んだことを事例として話をされた。

   講演で印象的だったのは、今の日本人の「自然離れ」についてだった。「日本人は木材や山菜などを利用する資源の場として、また、保水など環境保全の場として森を利用してきたが、文化資源としての利用が欠けている」と話し、「川遊びのように森を利用して遊んでほしい」と訴えた。子どもの「自然離れ」を心配し、「本来、子どもは自然が大好き。それを大人が取り上げていませんか」と問いかけた。確かに、子どもたちを学習塾や「勉強、テスト」と追い立て、野山に入れない現状は変わっていない。映画で訴えたかったことはまさにこの点だったのかもしれない。

   人里へ出るクマや増えすぎるシカ、イノシシ、サルが問題についても述べられた。「動物社会に異変が起こっている」と。その大きな要因は、里山の崩壊にあるとの指摘があった。燃料革命(薪や炭からガス、石油へ)や中山間地の過疎化で人がいなくなり、野生動物たちは山から下りてきて作物を狙い始めた。動物ごとの習性や分布の実態をふまえた向き合い方でないと、十分な対応できない、と

   最近、人里に出てくる動物は殺してもよいという論調が出始めている。一律の殺処分では解決しないだろう。森に集い学ぶ発想は現代こそ必要なのではないだろうか。河合氏から学んだことである。

⇒12日(木)夜・金沢の天気     くもり

★バイデン風の融和的なラーメン味

★バイデン風の融和的なラーメン味

    先日金沢市内のあるラーメン屋に入ると、金沢弁丸出しのおっさん二人が客席カウンターで楽しそうに話していた。まるで、落語に出てくる熊五郎(熊さん)と八五郎(ハつあん)のようだった。

<熊さん>
コロナいつまで続くんかな。おかげで景気が悪いさかい、歯もガタガタになってきた。そっちはどうや。
<ハつあん>
久しぶりに会ったがに、のっけから景気の話かいや。はよ、歯医者に行けや。
<熊さん>そやけど、ここのラーメン屋、年寄りの客が多いな。
<ハつあん>おれらも年寄りやろ。ここは、薄味のラーメンなんや。まあ、バイデン風のラーメンやな。自然の調味料がいろいろ入っとるらしい。融和的な味やな。
<熊さん>なんやそれ、おれはトランプ風の濃い味がいいけどな。切れ味がいい。

   二人が話しているとラ-メンが出てきて、二人は黙々と食べて店を出て行った。さまざまな食味を追求したラーメン店が巷(ちまた)に看板を競っているが、この店は「自然派らーめん」と称している。無化調(無化学調味料のこと)を売りに、鶏をベースに鰹節、煮干、コンブの海産物からとった薄味のスープ。インパクトはなく優しい味わいで美味。ちじれ麺は足踏みだから腰がある。ちじれ麺にスープが絡んでいるのでのど越しがいい。

   この店の自慢はチャーシューだ。燻煙の風味のする炭火焼きのチャーシューで、地元産の豚モモ肉を使っている。炭火焼きチャーシュー麺を注文すると、麺鉢とチャーシュー皿が別々に盆に乗って出てくる。炭火焼きチャーシューと麺鉢を分離するこでチャーシューの風味を守る。

    この店は時折、臨時休業の貼り紙が出る。「土佐の煮干が入荷しない」などの理由だ。客もそこは心得ていて、「納得いく中華そばがつくれないのであれば仕方ない」と文句は言わない。調理人が満足しないのに、食べる人が満足する訳がない。休業する理由も不思議なことに、顧客満足度を高めている。

   熊さんと八つあんが話していたように、10数人にしか入れない小さなこの店にお年寄りが多いというのは凛(りん)とした店の雰囲気と清潔感、薄味といった、まるで「ラーメン界の料亭」といった趣きを醸し出しているからかもしれない。値段もそこそこ高い。でも、客がレジでお金を払って、「ありがとうございました」とお礼を言っているのは、なんと客の方なのだ。

   それにしても、八つあんが言っていて「バイデン風の融和的な味」とはなかなか言い得て妙な表現かもしれない。

⇒11日(水)夜・金沢の天気    くもり

☆WHOに巻きつくヘビ

☆WHOに巻きつくヘビ

    WHOのテドロス事務長は信頼を得ることがさらに難しくなったのではないだろうか。新型コロナウイルスへの対応などを議論するWHOの年次総会が9日、テレビ会議形式で始まり、テドロス氏は、アメリカのトランプ大統領がWHOの脱退を通知していたものの、脱退を撤回すると表明していたバイデン氏が大統領選で勝利宣言をしたことを受けて、「緊密に連携していくことを楽しみにしている」と述べたと報じられている(11月10日付・NHKニュースWeb版)。

     トランプ氏が脱退を表明した理由は、テドロス氏の「中国寄り」の露骨な振る舞いがコロナ禍の拡大を招いたからだ。そもそも、WHOと中国の関係性が疑われたのは今年1月23日だった。中国の春節の大移動で日本を含めフランスやオーストラリアなど各国で感染者が出ていたにもかかわらず、この日のWHO会合で「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言を時期尚早と見送った。同月30日になってようやく緊急事態宣言を出したが、テドロス氏は「宣言する主な理由は、中国での発生ではなく、他の国々で発生していることだ」と述べた(1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。日本やアメリカ、フランスなど各国政府は武漢から自国民をチャーター機で帰国させていたころだった。

   中国でヒトからヒトへの感染を示す情報をWHOが世界に共有しなかったのはなぜか。トンラプ氏でなくとも疑問に思う。アメリカ政府は7月6日に国連に対し、来年7月6日付でWHOから脱退すると正式に通告した。アメリカは1948年にWHOに加盟し、最大の資金拠出国となっており、脱退による活動への影響が懸念されていた(7月8日付・共同通信Web版)。

   さらにWHOが中国寄りの姿勢を露わにしたのは今回の年次総会だった。WHOに加盟していない台湾がオブザーバーとしての参加を目指し、中南米の国も参加を求める提案をしていたが、総会の議長は非公開での協議で提案の議論は行わなかった。台湾の参加は認められなかった。台湾のオブザーバー参加はアメリカや日本などが支持した一方、中国が強硬に反対していた(11月10日付・NHKニュースWeb版)。

          台湾は中国・武漢で去年12月、コロナの感染拡大をSNS上で把握し迅速な対応策を発動して波及を防いだことは国際的にも知られる。人口2350万人の台湾での感染者の累計は578人(死者7人)=今月10日付・ジョンズ・ホプキンス大学コロナ・ダッシュボード=で、うち地元に原因がある発症は55件にとどめている。コロナ対策では国際的な評価を得ている台湾をオブザーバーとして参加させない理由はなぜか。テドロス事務局長による中国への配慮そのものではないのか。WHO脱退を撤回するにしても、バイデン氏にはその矛盾点をぜひテドロス氏に向けてほしい。

   WHOのシンボルの旗には杖に巻きつくヘビが描かれている。ギリシャ神話で医の守護神となったとされる名医アスクレピオスはヘビが巻きついた杖をいつも持っていた。それが、欧米では医療のシンボルとして知られるようになった。(※写真はことし8月21日のWHOの記者ブリーフィング=WHO公式ホームページ) 

⇒10日(火)朝・金沢の天気      はれ

★一喜一憂「合理性のパラドックス」

★一喜一憂「合理性のパラドックス」

   それにしても「なぜ」だ。週明けの9日の東京株式市場、日経平均株価は2万4839円、前日比で514円高く、29年ぶりの高値だとか。29年前は日本のバブル景気の末期。アメリカ大統領選で民主党のバイデン氏が事実上の勝利宣言を出し、選挙後を見据えた投資だろうか。

   一方で、欧米では新型コロナウイルスの感染が再拡大している。 世界での感染者は累計5040万人、国別でもっとも多いのはアメリカの997万人だ。亡くなった人も世界で累計125万人、うちアメリカは23万人だ(11月9日付・ジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボード)。これが経済に及ぼす影響は計り知れないだろう。世界的にコロナの第2波、第3波が来ているという印象だ。人類はコロナ禍に打ち勝つことができるのだろうか。と、やや悲観的に考えていたところに来て、この株高だ。おそらく、世界中で巨額の金融緩和や財政出動が行われ、来年になればワクチン開発によってコロナ禍も収束に向かうという読みなのだろうか。

   ミクロの合理性の追求がマクロの非合理性をうみだしてしまうという「合理性のパラドックス」を学生時代に学んだ。株価が上がると予想されると、大量の買いが入り株価が高騰する。バブルである。逆に株価が下がると予想されると、売り浴びせが起こり、急落してパニックが起こる。バブルもパニックもマクロ的にはまったく非合理的な動きではあるが、株価の上昇が予想されるときに買い、下落が予想されるときに売る投機家のミクロ的行動には合理的だ。株式市場だけでなく、投票行動などでも起こるパラドックス現象だ。

           コロナ禍が世界にもたらしている景気後退の影響はシビアだ。8月17日に内閣府が発表した四半期(4-6月) のGDP速報値は、前期比マイナス7.8%で年率換算はマイナス27.8%、3期連続のマイナス成長だった。 アメリカも年率換算でマイナス32.9%だった。リーマンショック後の2009年の1-3月のGDPはマイナス17.8%だったので、それを大幅に超えたことになる。

   実体経済がともなっていないのに株価だけが上がるこの現象は「合理性のパラドックス」化をさらに鮮明にするのではないだろうか。内閣府が次に発表する四半期(7-9月)のGDP速報値は今月16日午前8時50分だ。

⇒9日(月)夜・金沢の天気     くもり

☆アメリカ大統領選 「オクトーバーサプライズ」を逃す

☆アメリカ大統領選 「オクトーバーサプライズ」を逃す

   CNNニュースWeb版(11月8日付)は「BIDEN WINS」と大見出しで伝えている=写真=。「Pennsylvania’s 20 electoral votes put Biden over the 270 electoral votes needed to win.」。僅差で激戦が続いていたペンシルベニア州(選挙人20人)でバイデン氏が勝利し、大統領選で必要な選挙人過半数の270を超えることが確定したと報じている。今回の大統領選で勝敗を分けたのは何だったのか検証してみる。

   CNNは、バイデン氏の勝利についてニューヨーク市の医師のインタビューを紹介してる。「このパンデミックを乗り越えて、やるべきこと、つまり私たちがそれをコントロールできるようにするために、都市や国でやらなければならないことをやろうとしているリーダーだ」と語った。このリーダーとは女性初の副大統領に就任予定のカマラ・ハリス氏のこと。先月15日にハリス氏が遊説中にスタッフ2人の新型コロナウイルス感染が発覚、ハリス氏は念のため18日まで遊説を自粛した。医師はコロナにしっかり向き合うバイデン陣営の姿勢を評価したのだ。

   一方、トランプ氏は対照的だった。投票日を1ヵ月後に控えた先月2日、本人のウイルス感染が判明しワシントンの陸軍病院に入院した。ところが、3日後早々に退院した。選挙遊説でもトランプ氏はコロナ感染を克服したことをアピールするためにあえてマスクを外して強さをアピールした。まさに地で行く「オクトーバーサプライズ(October surprise)」となった。その後、ホワイトハウスの関係者に感染が広がった。

   では、バイデン氏とトランプ氏の対称的なコロナ対応が、有権者にどう影響を与えたのだろか。その際立った違いは「郵便投票」への両陣営の呼びかけだろう。バイデン氏は感染対策として郵便投票や期日前投票を活用するよう促していた。一方、トランプ氏は不正につながるとして郵便投票をしないよう呼びかけていた。トランプ氏が指摘した不正とは、郵便と投票所で「二重投票」が起きるとの主張だ。郵便投票の用紙を申請した直後に期日前投票をすれば、二重投票の可能性は出てくるが、事務的チェックで防げるだろう。

   アメリカのメディアがよく引用するフロリダ大学「US Elections Project(アメリカ選挙プロジェクト)」のサイトをチェックすると、今回の選挙の投票総数は1億5883万人で投票率は66.4%だった(大学独自集計)。期日前投票は1億100万人以上で、うち6450万人超が郵便投票を選んだと推定される。2016年の選挙では1億3900万人が投票し、うち郵便投票は3300万人だったので倍近い数字となる(AFP通信Web版日本語)。トランプ氏が 「 Mail-in ballots are very dangerous」と呼びかけたにもかかわらず大幅に増えたということは、それだけ投票所での「3密(密集、密接、密閉)」を避けたいとの有権者の意識の表れだろう。

   トランプ氏はコロナ禍での国民の心情・心理を読み誤った。自らが回復したからと強気に出るのではなく、あの時に「コロナを経験して怖さを知った。郵便投票でOKだ。ワクチン開発を急ぐ、国民は安心してほしい」と言えば、それで選挙情勢は変わっていたかもしれない。自らの「オクトーバーサプライズ」のチャンスを逃した大統領になった。バイデン氏の大統領就任式は2021年1月20日だ。

⇒8日(日)朝・金沢の天気      くもり

★ズワイガニ解禁 初物求めて市場へ

★ズワイガニ解禁 初物求めて市場へ

   日本海のズワイガニ漁が今月6日に解禁となった。ズワイガニにはご当地の呼び方があって、山陰地方では「松葉ガニ」、福井県では「越前ガニ」、そして石川県では「加能(かのう)ガニ」と呼ぶ。加能とは、加賀と能登のこと。初競りが6日夜、金沢で行われ、能登半島の珠洲市で水揚げされた1匹が去年の最高額を10万円上回る40万円で競り落とされた。いよいよカニのシーズン到来だ。

   きょう初物を求めて金沢の近江町市場に行ってきた。ズワイカニが水産の各店舗でずらりと並んでいた。ご祝儀相場が立って、一匹1万数千円から2万円と少々高値だった。金沢の庶民は初日は小ぶりながら身が詰まっているメスのコウバコガニを食する。オスのズワイガニに比べれば安い。一匹1000円前後だ。ズワイガニは高値だが、初物食いの習性でつい買ってしまった。きょうは「かぶら寿し」も知人からいただいたので夕食で堪能した。

   カニを食するのは簡単ではない。一匹丸ごとなので、脚を関節近くで折り、身を吸って出す。その音はパキパキ、ズーズー、その食べる姿はまるでカニとの格闘だ。日本酒を飲みながらだが、一匹を15分ほどで。何しろ、食べ出したら寡黙となり、手と口が休むことがない。カニ食い選手権大会のように真剣になる。

   仕上げにかぶら寿しを食する。青カブにブリの切り身をはさんで漬け込んだもの。かぶら寿しを食べなければ、金沢の冬は越せない、と言われるほど地域に密着した食材ではある。とっておきの九谷焼の皿にかぶら寿しを盛る。これを地酒の辛口吟醸酒で味わう。カニもかぶら寿しも地酒とのマリアージュである。

⇒7日(土)夜・金沢の天気     くもり

☆アメリカ大統領選 往生際の悪さ

☆アメリカ大統領選 往生際の悪さ

   新型コロナウイルスの感染拡大が止まない。ジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボード(一覧表)によると、アメリカの感染が最も多く958万人、インド836万人と続く。亡くなった人もアメリカが23万人、ブラジル16万人と続く。アメリカでは今月4日(現地時間)に新規感染者は10万2831人と1日当たりの感染者が初めて10万人を超えた(11月5日付・CNNニュースWeb版日本語)。

   これが社会不安にもつながっているのだろうか。ニューヨーク市警が公表した犯罪統計によると、ことし年初から10月までの間に発生した発砲事件は1299件で、前年同期に比べ93.9%も増加している(同)。ニューヨーク市では毎日4.3回の発砲音が聞こえていることになる。コロナ禍に加えて、アメリカ大統領選がデスマッチの様相だ。

   開票作業が長引いているペンシルベニア州(選挙人20人)のフィラデルフィアでは、トランプ、バイデンの両候補の支持者らによるデモが繰り広げられた。トランプ氏の支持者らは「投票は選挙日まで」「投票所は閉まりました」と書かれたプラカードを掲げた一方で、バイデン氏の支持者らはバリケード内でダンスする姿が見られた(11月6日付・ロイター通信Web版日本語)。

   SNSも大混乱だ。フェイスブックは5日、誤情報などを投稿し「民主党が選挙を盗んでいる」と根拠のない主張を続けているトランプ支持者のグループ「STOP THE STEAL(盗みを阻止しろ)」をプラットフォーム上から削除した。フェイスブックは声明で「同グループは選挙プロセスの非合法化を目的に組織され、一部メンバーは懸念を誘う暴力行為を呼び掛けていた」と説明した(同)。

            アメリカでは、SNS各社は通信品位法(CDA:the Communications Decency Act )230条に基づき、利用者の投稿内容について免責されるという法的保護を受けている。つまり、SNSは基本的に違法な投稿を掲載したことの責任を問われない。その一方で、ヘイトスピーチなどのコンテンツは独自にファクトチェックの規定を設けて規制しているのだ。むしろ、SNS各社はそのファクトチェックの作業で大混乱しているのではないだろうか。差別や相手を圧迫するようなヘイトスピーチは分かりやすいが、ファクトチェックとなると独自に事実関係を収集・構築した上での判断となるので簡単ではないだろう。

          SNSを政治の舞台として活用したのは、ある意味でトランプ氏だった。2017年1月の大統領就任前からゼネラル・モーターズ社やロッキード社、ボーイング社などに対し、ツイッターで雇用創出のために自国で製造を行えと攻撃的な「つぶやき」を連発した。ホワイトハウスでの記者会見ではなく、140文字で企業に一方的な要望を伝えるという前代未聞のやり方だった。

   そのSNSが今回の大統領選でトランプ氏の書き込みに目を光らせている。ツイッターは「誤解を招く可能性がある」として警告ラベルを付けて閲覧者に注意を促している。その数は尋常ではない=写真=。一国の大統領のツイッターにここまでするのかとも思うくらいだ。一方で、追い詰められたトランプ氏がこの場におよんで無茶ぶりのコメントを連発しているのだろう。往生際の悪さか。

⇒6日(金)午後・金沢の天気     くもり時々あめ

★アメリカ大統領選 ドロ沼化のプロセス

★アメリカ大統領選 ドロ沼化のプロセス

   昨夜は「トランプの再選もありかな」と思いながら就寝した。朝起きてテレビやネットをチェックすると、前回(2016年)トランプが勝ったウィスコンシン州とミシガン州がバイデン氏に流れていて、一夜で情勢が変わったと気がついた。  

   アメリカ大統領選での郵便投票がかなりの「混乱」を招いている。当事者であるトランプ氏のツイッターをチェックすると随所にその混乱ぶりがうかがえる。

「We are winning Pennsylvania big, but the PA Secretary of State just announced that there are “Millions of ballots left to be counted.”」(意訳:我々はペンシルベニア州で大きな勝利を収めているが、州務長官は「数百万の投票が残っている」と発表した)。ペンシルベニア州(選挙人20人)の郵便投票は3日の消印有効で6日までに到着すれば受け付ける。同州では約900万人の有権者の3分の1が郵便投票を申請している(11月4日付・時事通信Web版)。民主党支持者は新型コロナウイルスの感染を恐れて郵便投票が多いとされる。逆に、共和党支持者は当日投票が多い傾向にあり、当日投票の先行開票でリードしていても、郵便投票の開票で逆転もある。

   しかし、トランプ氏はそのような理解をしていないようだ。「How come every time they count Mail-In ballot dumps they are so devastating in their percentage and power of destruction?」(意訳:郵便投票の束を集計するたびに票差が変化し、なぜこれほど破壊力があるのか)。トランプ氏は郵便投票に不正があると見ていて、おそらく納得がいかないのだろう。

   バイデン優勢から激戦、そして郵便投票による逆転劇などドロ沼化しているアメリカ大統領選の開票がこれほど長引くとは思っていなかった。ついでに、ニューヨークダウをチェックすると、前日に比べて367㌦高い2万7847㌦で終えている。一時800㌦の上げ幅もあった。選挙結果が見通せない中でも買い注文が連日続く。東証だったらしばらく様子見だろうか。選挙も投資もアメリカらしく実にダイナミックではある。

⇒5日(木)朝・金沢の天気     はれ