☆クマの飢え、馬の嘆き

☆クマの飢え、馬の嘆き

   このところツキノワグマの出没が相次いでいる。石川県庁は先月9月11日にクマの出没注意情報を発令して注意喚起をしたが、以降でもクマの出没が急増していることから、人身事故の危険性が高まっているとして今月8日には出没警戒情報を発令した=写真=。ことしに入ってクマの目撃情報は357件(10月9日現在)とこれまで過去最高だった2010年の353件を上回った。

   クマの出没による農作物の食い荒らしなど被害も多発している。今月14日に金沢市山間部の果樹園でリンゴが数十個食べられているのが見つかったほか、カキの実などがあちらこちらで荒らされている。同じ日にあわや人身事故になりかけたこともあった。14日午前8時ごろに、小松市の小学校で体長1㍍の成獣のクマ1頭が学校正門から侵入した。クマは校外へ逃げ去ったが、この日は屋外の授業を中止し、教職員が付き添って集団下校させた。小松市ではことしに入って目撃情報が105件もあり、すでにケガ人も出ている。今月7日には同市の住宅街で79歳の女性が朝、新聞を取るために家から出たところ目の前にいたクマに突然襲われた。

   県によると、ことしはクマの冬眠前の餌となる木の実のうち特にブナが大凶作になっていて、エサを求めて人里近くに出没しているようだ。県では、庭のクマはカキやクリを早く収穫するように、合わせて屋外に生ゴミを放置しないなどの対策を徹底するよう呼びかけている。冬眠前のクマの飢えと住宅地での徘徊、解決策はあるのだろうか。

   地元紙では、「金大馬術部 存続危機」との大見出しで記事が掲載されていた(10月15日付・北國新聞)。新型コロナウイルスの感染拡大で、多くのイベントなどが中止となったが、金沢大学馬術部では収入の道が絶たれたカタチで餌代の確保に苦戦しているという内容だった。県内では気多大社「おいで祭り」(3月・羽咋市)や「お旅まつり」(5月・小松市)といった祭事や伝統的な行事が各地で開催されるが、その折に神馬として馬術部の馬も出場してアルバイト代を稼いでいた。これが中止となった。

   同部では13頭を飼育していて、年間で餌代や装蹄などに400万円ほどかかる(同紙)。所属する学生たちもアルバイトで費用を捻出していたが、そのアルバイトも減少。また、部員もこれまで30人ほどいたが、コロナ禍でオンライン授業が主流となり、新入部員の勧誘すらままならない状態のようだ。コロナ禍での馬の嘆きが聞こえる。

⇒16日(金)朝・金沢の天気    はれ  

★オンライン「初診OK」恒久化の是非

★オンライン「初診OK」恒久化の是非

   今月初め、かかりつけの病院に行くと待合室に「【重要】定期通院をされている方へ 電話による診療について」の貼り紙=写真=がしてあった。オンライン診療のお知らせだった。5月に行ったときには貼ってはなかった。医師からも「予約していただければ、電話でもOKですよ」と。で、次回はさっそくオンライン診療を利用することにした。

   これまでは、医師は血圧を測って、最近の様子を聞いて、いつもの薬を処方していた。これからは、自身で測った血圧の数値と、「とくに変わりありません」と電話で医師に伝えるだけだ。その後、病院からのFAXが指定する薬局に届き、自身は薬を取りに行くことになる。通院する時間が省け、何より、待合室での新型コロナウイルス感染への気遣いもなくなる。病院でのオンライン診療はコロナ禍以前でもOKだった。

   それのオンラン診療が大きく変わろうとしている。厚労省は特例措置として、新型コロナウイルスの院内感染などを防ぐため、ことし4月から電話やタブレット端末などを活用したオンライン診療での初診を容認している。ただし、期限は感染が収束するまでと決められていた。それを特例ではなく、いつでも初診はオンランでOKとする動きだ。菅内閣では特例措置を恒久化に向けて動き始めているのだ。

   報道によると、今月6日の政府の経済財政諮問会議では、民間議員がオンライン診療の「特例措置の恒久化」を提言。翌7日の規制改革推進会議でも当面の審議事項にオンライン診療を盛り込んで、「デジタル時代に合致した制度として恒久化を行う」と明記した。

   これについては、患者目線とズレがあると感じる。政府はデジタル化のために「初診もOK」と考えているようだが、患者側としては、やはり初診は医師に症状をしっかりと伝え、診療をしてほしい。もちろん、オンライン初診OKであったとしても、患者側が足を運べばよいだけの話なのだが。医師としても、触診など対面より得られる情報は少なく、誤診につながるのでNGだろう。リスクが高すぎる。

   さらに、医療側にすれば、検査料や管理料などが取れなくなるので収入減となり経営の問題にもなるだろう。さらに、患者になりすまして薬を不正に入手するといった犯罪の温床になるのではないか、といったことにも思いをめぐらしてしまう。デジタル化推進のためにオンラインで「初診もOK」の動きはどうもすっきりしない。後味が悪い。

⇒15日(木)朝・金沢の天気     くもり

☆17才、人生の転機となったヤジ

☆17才、人生の転機となったヤジ

   中学時代に友人たちとエレキギターのバンドを組んで、サイドギターを担当した。当時流行していた、ザ・ベンチャーズの演奏曲を文化祭で披露したりした。当時ヒットしたヴィレッジ・シンガーズの『バラ色の雲』やいしだあゆみの『ブルー・ライト・ヨコハマ』は今でもカラオケで歌っている。高校時代で心に残るのは南沙織の『17才』だろうか。これは歌うというより、南沙織への憧れだったのかもしれない。先日亡くなった作曲家の筒美京平氏がつくったこれらの曲が私たちの世代の思春期を盛り上げてくれたのかもしれない。

   今にして思えば、17才が自身にとっての転機だった。能登で生まれ、高校時代は金沢で過ごした。クラブはESSに所属していて、2年のときに石川県英語弁論大会に出場する幸運に恵まれた。スピーチのテーマは「学生運動について」だった。大阪万博(1970年)が華やかに開催され、翌年には南沙織の「17才」がヒット曲となっていた。世の中がカラフルに彩られた時代の始まりではなかったろうか。その一方で、赤軍派による「よど号」のハイジャック事件(1970年)があり、連合赤軍による浅間山荘事件もその後に起きた。金沢大学でも学生運動が盛んで、新聞紙面をにぎわせていた。そんな闘争の時代の残影に私は違和感や憤りを感じていた。

    英語弁論大会でのスピーチはその気持ちをストレートに表現したものだった。大会は大学の部と高校の部があり、金大生も多く客席にいた。私のスピーチが余りにもストレートな表現だったのか、会場の数人から「ナンセンス」と大声のヤジが飛び、一時騒然となった。コンテストでは優勝した。高校の部は自身を含め4人の出場だった。審査委員の講評はよく覚えている。「これだけ会場をにぎわせた高校生のスピーチはこれまでなかった」と。自身それほど英語の発音が上手ではないと分かっていた。詰まるところ、大学生からヤジを浴びせられた分、ほかの3人より目立ったことがどうやら優勝の理由だった。

    東京の大学に入ったが、英語弁論大会での優勝経験が忘れられず、部活は日本語の弁論部に入った。そこで、論理と調査と統計に裏打ちされた弁論の手法をたたき込まれた。弁論部出身の新聞記者からアドバイスもあって、マスメディアを志望してUターンし、地元の新聞社に入社した。その後、テレビ局へ転職し、メディア業界を28年間渡り歩いた。17才のときの英語弁論大会が人生の転機となったのだろうと思う。

    以下は後日談だ。新聞社に入りたてのころ、先輩記者に居酒屋に誘われた。先輩はかつて学生運動でならした人だと別の先輩から聞いていた。居酒屋で先輩は「君は○○高校の出身か。そう言えば、5年か6年前に英語の弁論大会を取材したときに、学生運動を批判した生意気そうなヤツがいたぞ」と言う。私はピンときて「それは私です」と告白した。先輩のびっくりした表情を今でも覚えている。ヤジを飛ばした一人がどうやら先輩だということも分かった。先輩はその後退社した。あの大声の「ナンセンス」のヤジが優勝に導いてくれたのだと思っているので、私は今でも感謝している。

⇒13日(火)午前・金沢の天気   はれ

★文明の利器ソ-ラーパネルも災害時には凶器に

★文明の利器ソ-ラーパネルも災害時には凶器に

          先日、近所の電気屋の社長とソーラー発電の話をしていて、意外なことを聞いた。ことし7月に九州など各地での豪雨が発生し、川沿いの平野部に設置されていた太陽光発電設備が冠水や浸水、水没して損壊したり、流されるというケースが相次いで起きたようだ。

   ネットで調べると詳しいサイトがあった。太陽光発電の専門メディア「PV eye WEB」(8月1日付)によると、鹿児島県志布志市にあるメガソーラーでは、崖の上から構内に大量の土砂がなだれ込み、約100枚のパネルが破損した。熊本県球磨郡錦町にある太陽光発電所は、付近を流れる球磨川が氾濫したために水没。鹿児島県鹿屋市のメガソーラーも太陽光パネルの下に備えつけられていたPCS(パワーコンディショナ)まで水に浸かった。被害は地上設置型の太陽光発電設備だけでなく、住宅用太陽光発電設備も多数被災した。

   水害にあったこうした太陽光パネルは絶縁不良となっていて、接触すると感電する恐れがあるというのだ。特に複数枚の太陽光パネルが接続されたまま飛ばされたり、流されたりしている場合、日射を受けて発電し、高い電圧・電流が発生するケースがあるようだ。

   経産省公式ホームページに、流された太陽光パネルの対応について説明している。水が引いた後であっても集電箱内部やパワーコンディショナ内部に水分が残っていることも考えられ、触ると感電するおそれがあり、ゴム手袋やゴム長靴着用等の感電対策を行うよう呼び掛けている。また、50kW未満の太陽電池発電設備の場合は販売施工業者が、50kW以上の設備の場合は選任されている電気主任技術者に連絡し、作業を行うよう設置業者に指示している。

   各自治体では独自の条例をつくり始めている。国土交通省や都道府県のホームページ等で公表されている洪水浸水想定区域や、市区町村のホームページ等で公表されている洪水ハザードマップの地域では設置そのものを禁止する動きだ。数々の水害に見舞われてきた石川県の小松市では、都市型水害から市民の生活や財産を守る「総合治水対策の推進に関する条例」を制定し、洪水ハザードマップなどの地域に太陽光発電施設などを設置する際は行政との事前協議が必要としている。

   損傷した太陽電池パネルは日が当たると発電し、感電や火災につながる可能性がある。可能ならばパネルの表面に遮光を施す、たとえばブルーシートや段ボールで覆う、裏返しにするなどの対策が必要となる。文明の利器も災害時には凶器となるのだ。

(※写真は能登半島の尖端、珠洲市にあるソーラー発電施設)

⇒12日(月)夜・金沢の天気 くもり

☆「学問の自由」、福沢諭吉の教え

☆「学問の自由」、福沢諭吉の教え

   「学問の自由」という言葉は学生時代によく聞いた。1970年代の学園紛争の最中、集会に参加するとヘルメットを被った活動家たちが、「俺たちは学問の自由を守るために権力と闘っている」と強調していた。ときには、校門にバリケードをはって、学生がキャンパスに入れないように封鎖したこともあった。

   「学問の自由」の実践家として福沢諭吉の伝記を思い起こす。1868(慶応4)年5月、新政府軍と旧幕府側の彰義隊が上野で戦闘を開始した。慶応義塾を創設した福沢はこのころ、芝新銭座の有馬家中屋敷(現在の東京都港区浜松町1丁目)で英語塾を開講していた。福沢は、戦闘で噴煙があがるのを見ながらも、塾を休むことなく、塾生たちに英書『ウェーランドの経済書』を講義した。挿絵=写真=は、戦火を眺め動揺する塾生を背に粛然と講義を行う福沢の姿である。師が動揺しては塾生も動揺する。自らの使命を遂行することが肝要と自身に言い聞かせていたのだろう。

   1871(明治4)年に福沢は、新政府に仕えるようにとの命令を辞退し、東京・三田に慶応義塾を移して、経済学を主に塾生の教育に励む。その年、廃藩置県で大勢の武士たちが職を失い、落ちぶれていった。武士が自活できるように、新たな時代の教育を受ける学びの場が必要なことを福沢は痛感していたに違いない。福沢は慶応義塾の道徳綱領を1900(明治33)年に創り、その中で「心身の独立を全うし自から其身を尊重して人たるの品位を辱めざるもの、之を独立自尊の人と云う」(第2条)と盛り込み、「独立自尊」を建学の基本に据えた(「慶応義塾」公式ホームページ)。

   では、福沢はいわゆる「西洋かぶれ」だったのか。2009年に東京国立博物館で開催された『未来をひらく 福沢諭吉展』にを見学に行った。ここで紹介されていた福沢の写真のほとんどは和服姿だった。「身体」を人間活動の基盤と考え、居合刀を日に千回抜き、杵(きね)と臼(うす)で自ら米かちをした。身を律して、4男5女の子供を育て、家族の団欒(だんらん)という当時の新しいライフスタイルを貫いた。公費の接待酒を浴びるほど飲んで市中を暴れまわった新政府の官員(役人)たちを横目に、「官尊民卑」と「男尊女卑」に異議を唱えた。

   「政府の提灯は持たぬが、国家の提灯は持つ」。福沢は「学問の自由」を徹底して貫いた。「学問の自由」という言葉を発するのであれば、政府と距離を置くこと。福沢から学んだことである。

 ※写真は、2009年に開催された『未来をひらく 福沢諭吉展』で市販された挿絵より。

⇒11日(日)夜・金沢の天気   くもり

★いつでも誰でもどこででも日銀のデジタル通貨

★いつでも誰でもどこででも日銀のデジタル通貨

   このブログでも何度か取り上げてきた中央銀行が発行するデジタル通貨について、きのう日銀が欧米の中央銀行との共同研究報告書を公表した。日銀の公式ホームページをのぞくと、来年2021年度から実証事業を始めるとある。いよいよデジタル法定通貨が経済のコアとして浮上してきた。

   このブログで、政府と日銀はアフターコロナの政策として、2024年に予定している新札発行をデジタル通貨へと舵を切るのではないかと憶測してきた。以前から紙幣や硬貨は非衛生的だとの指摘があり、新型コロナウイルスの感染拡大にともなって一気にキャッシュレス化が進んだ。もちろん紙幣や硬貨を粗末にするという意味ではない。  

   以下、日銀ホームページの共同研究報告書から引用する。日銀は、現時点でデジタル法定通貨(Central Bank Digital Currency、以下CBDC)を発行する計画はないと前置きしながしなら、決済システム全体の安定性と効率性を確保するよう準備する、としている。CBDC役割について、1.現金と並ぶ決裁手段の導入、2.民間決裁サービスのサポート、3.デジタル社会にさわしい決済システムの構築、の3点を上げている。

   現金に対する需要がある限り、現金の供給についても責任をもって続けていく。CBDCが発行されると、民間企業や金融機関によるデジタル通貨と競合し、民間の活力を損なう懸念もある。たとえば、銀行預金からの引き出しが容易になって金融危機時に銀行経営が揺らぎやすくなるといったことも想定され、そうした事態が起きないよう民間決裁サービスをサポートする。

   CBDCが持つべき特性をまとめている。現金や預金などとの交換性や現金払いやスマホ決済のような決済時の容易さ(ユニバーサルサービス)、取引の即時決済性といった強靱性、セキュリティを上げている。つまり、現金のように「誰でも使える」「安心して使える」「いつでも、どこでも使える」との位置づけだ。

   日銀は21年度の早い時期に実証実験を始め、1.中央銀行と民間事業者の協調・役割分担のあり方、2.CBDCの発行額・保有額制限や付利に関する考え方、.3.プライバシーの確保と利用者情報の取扱い、4.デジタル通貨に関連する情報技術の標準化のあり方などの点について検討を進めていく、としている。

   菅内閣が進めるデジタル化の促進はまさに日銀のこの動きと連動するものだろう。これと選挙のデジタル投票が同時に進めば、日本のデジタル化は政治と経済の両面でかなり加速するのではないだろうか。

⇒10日(土)朝・金沢の天気   くもり

☆キンモクセイ 花咲けど匂わず

☆キンモクセイ 花咲けど匂わず

   庭にキンモクセイが咲き、空に青と黄のコントラストを描いて、秋の季節を感じさせる。キンモクセイと言えば、あの独特の匂いなのだが、今年は不思議と感じられない。その瞬間、「これって認知症」と思いがめぐった。認知症になると嗅覚が低下し、腐ったものを食べたり、ガス漏れに気がつかなかったりすると聞いたことがある。そこで、ずっと年下の家族にも嗅いでもらったが「匂いがしませんね」というので胸をなで下ろした。

   むしろ、なぜ匂いがしないのか気になった。ネットで検索してもエビデンスのある答えがみつからない。ただ、心当たりがあるのは先月末に樹木の剪定をしてもらった。かなり刈り込んだので、その影響か、と。そこで、作業をしてもらった造園業者に電話で尋ねた。「剪定後だとキンモクセイの匂いはしないものですか」と。すると、「長くこの仕事をやっていますが、そうした話は聞いたことはありませんね」「花と匂いはセットなので、花が咲いて匂いがないとは不思議です。私も調べてみます」との返事だった。

   話は変わるが、9月16日に発足した菅内閣。メディア各社の世論調査では内閣支持率は高い。毎日新聞の調査では、内閣支持率が64%で、不支持率は27%を大幅に上回っている(9月18日付・毎日新聞Web版)。 朝日新聞社の調査は内閣支持率が65%で、不支持率は13%だった(9月17日付・朝日新聞Web版)。共同通信の調査でも支持率は66.4%、不支持率は16.2%だった(9月17日付・共同通信Web版)。3社の調査では支持率がおおむね65%とそろっている。

   政権発足から1ヵ月、携帯電話料金の値下げや縦割り行政の打破、デジタル庁発足に向けて取り組み、ハンコ行政の廃止推進、日米豪印の外相会談などよい匂いのしそうな内外の政策が打ち上げられてはいるが、成果はこれから、か。花咲けど匂わず。

⇒9日(金)朝・金沢の天気   くもり

★ポストコロナで具現化、大学への未来投資

★ポストコロナで具現化、大学への未来投資

    財政が厳しい国からの予算配分を待つだけでは、最先端の研究は進まず、世界に後れを取ってしまう。ならば、「大学債」を発行し研究資金を調達する。当たり前のことがようやくできるにようになった。東京大学は大学債を発行し、200億円を債券市場から調達すると発表した(10月8日付・NHKニュースWeb版)。

   東京大学公式ホームページによると、大学債は「FSI債」の名称で、大学が社会変革を理念に進めるFSI(Future Society Initiative)活動を加速させることを目標としている。総長メッセージが掲載されている。以下一部を引用。

   「学債の発行は、直接的には、東京大学を真に自立した経営体とすることに貢献します。しかし、それだけではありません。よい良い未来社会づくり向けて、大学を起点に、知識集約型社会によりふさわしい、資金を動かし循環させる新しい仕組みをつくることにもつながると考えています。それが、閉塞感が拡がる現在の経済社会システムを変革する駆動力を生み出すことを期待しています。これはポストコロナ時代における大学の新しい立ち位置、姿を具現化するものなのです」

   公式ホームページによると、投資家は生命保険会社や銀行、学校法人のほか、意外だったのは蒲郡市や飛騨市、宮崎県新富町といった自治体、それに吉本興業ホールディングスなども。これら46社に毎年0.8%余りの金利を支払い、40年後に返済する仕組み。市場から調達した資金は、素粒子観測施設「スーパーカミオカンデ」の後継となる次世代の施設「ハイパーカミオカンデ」の整備費の一部に充てるほか、宇宙の成り立ちを調べるため、ハワイで計画している超大型望遠鏡の整備費用などに充てる。

   これまで国立大学が発行する大学債は、付属病院やキャンパス移転などの整備事業が主だったが、世界最高水準の教育研究施設の整備事業も対象にできるようになった。ただし、文科省が世界レベルの教育・研究を進めていると認めた指定国立大に限られる。こうした研究は収益事業ではないので、大学全体として寄付金や運用益などの余裕金で返済していくことになる。

   新型コロナウイルスの感染対策と経済立て直しに国の財政が向けられ、大学の研究費がひっ迫してくることは想像に難くない。東京大学は今後10年で1000億円規模の調達を計画している。使いみちが自由な資金を市場から確保し、研究活動を強化する、これこそが「学問の自由」を担保することになる。総長のメッセージにあるように、ポストコロナ時代における大学の新しい立ち位置、姿の具現化ではある。

(※写真は「ハイパーカミオカンデ」の紹介ビデオから)

⇒8日(木)夜・金沢の天気   あめ

☆テレビメディアに厳しい菅氏、ある事件

☆テレビメディアに厳しい菅氏、ある事件

    菅総理の印象について地味で忠実というイメージを持っている人が周囲に多い。かつてテレビ局に在籍した自身の目線で言えば、「テレビメディアに厳しい」というイメージがある。印象に残る事件がある。       

    2007年1月7日放送の関西テレビ番組『発掘!あるある大事典Ⅱ』の「納豆でヤセる黄金法則」について、週刊朝日が11項目のデータについて関西テレビに質問状を送ったのがきっかけで、捏造事件が発覚した。緊急記者会見を行った関テレの社長は当初、「納豆のダイエット効果の有無は学説で裏付けられている」として、「番組全体は捏造ではない」と主張したが、捏造データの多さを記者から追及されて「捏造」と認めた。高視聴率を誇った番組は中止となった。

   その後、2月7日に関テレ社長は総務省近畿総合通信局を訪れ、捏造についてまとめた報告書を提出した。ところが、近畿総合通信局側は納得しなかった。疑惑が次々と出て、520回すべてを調査し報告するよう近畿総合通信局側は求めた。電波法では「総務相は無線局の適正な運用を確保するため必要があると認めるときには、免許人などに対し、無線局に関し報告を求めることができる」(81条)と記されている。そして、3月30日、総務省は総務大臣名の行政指導としては最も重い「警告」を行った。そのときの総務大臣が菅氏だった。テレビ業界を驚かせた言葉が、「今後、放送法違反が繰り返さた場合は電波停止もありうる」だった。

   伏線があった。菅総務大臣は2月9日の国会審議で、再発防止に向けて放送法の改正が必要だと発言していた。テレビ局に捏造事件があり、テレビ局側が認めた場合、総務大臣はテレビ局に対して再発防止計画を要求する。再び繰り返された場合は停波・免許取り消しの行政処分を行うという内容だった。このとき、テレビ業界は戦々恐々としていた。日本民間放送連盟は(民放連)は自浄的な措置として4月19日付で関西テレビを除名処分にした。

   この年の12月21日、放送法の改正案が参院本会議で可決・成立した。ただ、このときの改正案では菅氏が述べていた「再発防止計画の提出義務化」は削除されていた。その前の7月29日の参院選で与野党の勢力が逆転。今国会では番組等の不祥事については、あくまでも世論の批判とテレビ業界の自浄努力に委ねるべきであって、国家権力が安易に介入すべきではないとする野党の主張を与党がくみ入れ、この「再発防止計画の提出義務化」の改正案は見送っていた。菅氏も8月27日に総務大臣を退任していた。

   NHKと民放の両者が共同でつくる「放送倫理・番組向上機構」(略称=BPO、放送倫理機構)に放送倫理検証委員会を設け、やらせや捏造が発覚した番組を外部委員にチェックしてもらい、問題があった局に再発防止策を提出させるという自主的な解決システムをつくっている。しかし、やらせや捏造は後を絶たない。フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーがことし5月23日に自死した問題で、BPO放送人権委員会は遺族からの申し立てを受け、審理入りを決定した(9月15日付・BPO公式ホームページ)。

   BPO人権委員会が、番組内に映る虚像が本人の人格として結び付けられて誹謗中傷され、精神的苦痛を受けたことが自死の原因として、人格権の侵害を認定。さらに、それが裁判にも持ち込まれた場合、菅内閣はどう反応するだろうか。「再発防止計画の提出義務化」の法改正を改めて持ち出してくるのではないか。13年経ってもテレビが変らなければ、これしかない、と。

⇒7日(水)夜・金沢の天気   くもり時々あめ

★尖閣の次は日本海EEZなのか

★尖閣の次は日本海EEZなのか

   きょうの朝刊で石川県の地元紙が日本海のスルメイカの漁場、大和堆(EEZ=日本の排他的経済水域)で大量の中国漁船が違法操業を行っていると報じている=写真=。記事によると、水産庁が9月末までに退去警告をした船の数は延べ2586隻に上っている。去年までは北朝鮮の漁船による違法操業(2019年の警告数4007隻)が圧倒的に多かったが、今年は中国漁船の違法操業が去年より倍増した。記事を読んで、「尖閣の次は日本海か」と胸騒ぎがした。

   記事によると、8月中旬から大和堆周辺で中国の大型底引き網船の違法操業が活発に動き始めた。水産庁の取締船はこれまで違法警告したにもかかわらず退去しなかった漁船に対し放水で警告を発した漁船は329隻に上った。

   その背景はおそらく、中国で顕在化しつつある食料危機ではないだろうか。習近平国家主席が「飲食の浪費を断固阻止する」との指示を出し、新型コロナウイルス感染の世界的まん延は「警鐘」だと指摘し食料問題に危機意識を持つよう訴えた(8月20日付・共同通信Web版)。中国における食料問題は6月以降、中国各地で断続的に続いた豪雨災害で水田などの耕作地が冠水被害が広がったからだ。習氏が「飲食の浪費を断固阻止する」の指示を出すほど、危機感がひっ迫しているとも受け取れる。

   食料危機のうち、タンパク源を確保するための水産資源の確保にも躍起なのではないだろうか。すでに、中国は北朝鮮海域での制裁決議違反が問題視されているにも関わらず、北朝鮮の漁業海域での漁業権を購入し、中国の遠洋漁船全体の3分の1にも相当すると見られる大量の船団を送り込んで漁業資源を漁っていた(7月27日付・ブログ「北の漂着船、グローバル問題に」)。北朝鮮の漁業海域で漁業資源をほぼ取り尽くし、次に狙ってきたのが日本海のEEZだろう。

   冒頭の胸騒ぎは「大和堆の中国所有論」のことだ。中国は今年8月に東シナ海の海底地形50ヵ所について命名リストを公表した。尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域のほか、沖縄本島沖の日本のEEZも含まれる。その前、4月には南シナ海でも海底地形55ヵ所や島嶼(とうしょ)や暗礁25ヵ所について命名リストを公表している。中国とすれば、関連海域と海底に主権と管理権があると主張することで、海洋管理を強化する狙いがある。

   次に来るのは日本海における海底地形の命名リストではないだろうか。地元紙は今回の中国漁船の違法操業について、「EEZ内に中国の公船が現れているとの情報もある」と伝えている(10月6日付・北國新聞)。漁船の違法操業に紛れて、公船が海底調査を行っている。あるいは逆か。海底調査を行う目くらましのために漁船を動員しているのかもしれない。

   それにしても不可解なのは水産庁の発表にもかかわらず、全国メディアは日本海での違法操業のことをまったく伝えていない。スルメイカ漁だからか。マグロだったら大騒ぎか。

⇒6日(火)夜・金沢の天気    くもり