★能登にある「グローバル過疎地」

★能登にある「グローバル過疎地」

   能登半島の里山の一角を自身は勝手に「グローバル過疎地」と紹介している。安倍前総理も2019年1月の通常国会の施政方針演説でこう紹介している。「田植え、稲刈り。石川県能登町にある50軒ほどの農家民宿には、直近で1万3千人を超える観光客が訪れました。アジアの国々に加え、アメリカ、フランス、イタリア、イスラエルなど、20ヵ国以上から外国人観光客も集まります」。観光による地方創生の成功事例として紹介されたのは能登町の農家民宿で組織する「春蘭(しゅんらん)の里」だ。

   春蘭の里にインバウンド観光客が訪れるきっかけとなったのは、2011年11月にイギリスBBC放送の番組「ワールドチャレンジ」にエントリーしたのがきっかけだった。世界の草の根活動を表彰する同番組には毎年600以上のプロジェクトの応募がある。2011年に「春蘭の里 持続可能な田舎のコミュニティ~日本~」を掲げてエントリーし、最終選考(12組)に残ったものの、惜しくも4位だった。が、投票を呼びかけるBBCのこの番組で12組の取り組みが繰り返し放送されたことで知名度が上がり、国内外の観光業者から注目されるきっかけとなった。

   春蘭の里がBBCにエントリーしたのは、突飛な話ではない。2010年10月、名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の公認エクスカーション(石川コース)では、世界17ヵ国の研究者や環境NGOメンバーら50人が参加し、春蘭の里でワークショップを開催している。そして2011年6月、北京でのFAO国連食糧農業機関の会議で「能登の里山里海」が世界農業遺産(GIAHS)に認定され、能登を世界に売り込むチャンスが訪れていた。春蘭の里はこの機会を逃さず、「ワールドチャレンジ」にエントリーにした。

   昨年9月に春蘭の里のリーダー、多田喜一郎氏を大学の研修で訪ねた。新型コロナウイルスのパンデミックの影響でインバウンド観光客は鳴りを潜めているが、それまでは毎年20ヵ国ほどから2000人余りを受け入れていた。「インバウンド観光客が求めているものは、むしろ田舎にある」は、多田氏の持論だ。森の中で暮らす、食するは人類共通の願いである、とも。もう一つの持論は「行政に頼らない。むしろ、行政が応援したくなるような地域づくりをしたい」。この発想が多様なチャレンジを広げていのではないか。

   では、60代や70代が中心の民宿経営者たちがいかに20ヵ国ものインバウンド観光客と接することができるのか、集落に通訳業の人たちがいるわけではない。多田氏は「ポケトークだと会話の8割が理解できる。すごいツールだよ」と。春蘭の里ではこの74言語に対応した音声翻訳機「ポケトーク」を8台所有し、必要に応じて貸し出している。この文明の利器を介して、炭焼きや山菜採り、魚釣りなどの体験をインバンウンドの人たちと楽しんでいる。過疎地にしてグローバル、「グローバル過疎地」と紹介する所以である。

(※写真=「春蘭の里」には世界から日本の里山を見学に訪れる。左はリーダーの多田喜一郎氏)

⇒2日(火)夜・金沢の天気

☆節分に叫ぶ「コロナは外」「ワクチンはうち」

☆節分に叫ぶ「コロナは外」「ワクチンはうち」

   きょうから2月、ことしは節分は2日、立春は3日となっている。国立天文台公式ホームページによると、立春はこれまでずっと4日だった。同天文台の観測によって、「太陽黄経が315度になった瞬間が属する日」を決めている。計算ではことしの立春の日は3日23時59分となるそうだ。1分の違いではあるものの、立春は3日となる。実にきわどい二十四節気ではある。従って、節分はその前日の2日となる。

   さて、節分と言えば豆まき。季節の変わり目に起きがちな病気や災害を鬼に見立て、それを追い払う風習が知られる。「鬼は外、福は内」と声を出しながら煎り豆をまき、豆を食べて厄除けをする。ここからきょうの論点だ。ことしの豆まきの掛け声は「コロナは外」「ワクチンはうち」ではないだろうか。ワクチンをめぐってさまざまな国際問題が起きている。

   WHOは新型コロナウイルスのワクチンについて、EU域内で製造されたワクチンの輸出を制限するというEUの発表を批判し、パンデミック長期化の原因となりかねないと警告した。EUは製薬会社の製造の遅れで当初契約された量が確保できていないことから、輸出制限を発表した(1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。今、世界ではワクチンの囲い込み騒動が起きているのだ。EUは域内で製造されたワクチンについて、域外への輸出規制を強化することは加盟国の人々を守るために必要な行動と表明していた。

   このEUの動きに対して、WHOのテドロス事務局長は、EUなどの富裕国がワクチンを独占して最貧国が苦しむならば、世界は「破滅的なモラル崩壊寸前」だと警告した(1月18日付・時事通信Web版)。まさにワクチンの争奪戦だ。

   EUはワクチン開発に際して域内の製薬メーカーなどに1億ユーロ(126億円)を投資していた。なので、EU域内の感情論だと、域内の製薬メーカーで生産されたワクチンがなぜ国民に行き渡らないのかと疑問に思ってるだろう。実際、EU4億4800万人のうち、これまで840万人しかワクチンを接種していない。ドイツ155万人、イタリア129万人、スペインは115万人、フランス100万人の順だ(1月26日付・BBCニュースWeb版)。ワクチ ンは域内で行き渡っていないのだ。そこにテドロ氏の「破滅的なモラル崩壊寸前」の警告はEUの国民の気持ちにどう響くのだろうか。

   日本政府はアメリカのファイザー社との契約でワクチンを確保し、医療従事者を対象に2月下旬から接種すると述べている。政府がファイザー社と契約した量は年内で7200万人分(1人2回で1億4400万回分)だ(1月30日付・NHKニュースWEB版)。ここに、WHOが日本に対し、「半分寄こせ」と直談判してきたら日本政府はどう動くのだろうか。国益との矛盾が見えてくる。日本は率直に「コロナは外」「ワクチンはうち」と相手をかわすことができるのだろうか。

(※写真は、ファイザー社のホームページより)

⇒1日(月)夜・金沢の天気   くもり

★WHO調査チームの困惑

★WHO調査チームの困惑

   1月の締めくくりでもある31日を晦日正月(みそかしょうがつ)と言ったりする。1月にやり残したことを終わらせるという意味合いもあるが、地域によってはこの日にそばをすすったり、だんごを食べたりする風習もあるそうだ。三寒四温の時節が待ち遠しい時節である。

   きょう気になったニュース。新型コロナウイルスの発生源などを解明するため、中国を訪れているWHOの調査チームは31日、感染拡大の初期に多くの患者が確認された武漢の海鮮市場を視察した(1月31日付・NHKニュースWeb版)。市場は昨年1月に閉鎖され、高さ3㍍の壁で囲まれ内部が見えないようになっていて内部への立ち入りは認められていない。

   調査チームはきょう午前中、中国政府が、感染対策が成功し都市の封鎖が行われていた昨年2月から住民に食料を供給したなどと宣伝している別の市場を視察。調査チームはきのう30日も中国政府が感染の封じ込めを宣伝する展示を視察している。中国は初期対応への遅れが指摘される中で、対応の正当性をアピールする狙いがあるとみられる(同)。

   果たしてこのような、中国側の宣伝する展示や現場を見せられて、困惑しているのは調査チ-ムではないだろうか。チームのメンバーは10人で、リーダーのピーター・ベン・エンバレク氏は動物-ヒト感染のインフルエンザウイルスなどの専門家、ほか疫病学や実験室試験・臨床治療を研究する科学者、新型ウイルス、獣医師などで構成されている。ウイルスが流出した可能性があるとアメリカなどが主張する「武漢ウイルス研究所」などへは行っていない。

   いろいろなところを連れ回し、中国側とすれば、「調査チームは納得して帰った」と宣伝したいのかもしれない。が、今回の調査チームの動向を世界の科学者は注目している。科学を甘く見てはいけない。

   きょう31日は、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言して、ちょうど1年となる。(※写真は、感染者の退院の様子を伝える中の国・武漢市のホームページ、2020年2月1日)

⇒31日(日)夜・金沢の天気    あめ

☆企業版パーマカルチャーの時代

☆企業版パーマカルチャーの時代

   このブログで「パ-マルチャー」という言葉を何度か使って、リスクヘッジと人間の行動の解析を試みた。パーマネント・アグリカルチャー(パーマカルチャー=Permaculture、持続型農業)の略語だ。農業のある暮らしを志す都会の若者たちの間で共通認識となっている言葉だ。農業だけではなく、地域社会の伝統文化を守ることで自分を活かしたいと考えている若者たちも多く見受けられるようになった。

   このパーマカルチャーの発想で若者たちの地方への流れができたのは直近で言えば、2011年3月の東日本大震災のときだった。金沢大学が2007年度から能登半島で実施している人材育成事業「能登里山マイスター養成プログラム」の2011年度募集に初めて東京からの受講希望が数名あった。面接で受講の動機を尋ね、出てきた言葉が「パーマカルチャー」だった。里山や農業のことを学び、将来は移住したいとの希望だった。実際、東京から夜行バスで金沢に到着し、それから再びバスで能登に。あるいは前日に羽田空港から能登空港に入り、月4回(土曜日)能登で学んだ。その後、実際に能登に移住した受講生もいた。

   そして、パーマカルチャーの第2波が新型コロナウイルスの感染拡大にともなう動きだ。コロナ禍で、石川県の自治体への移住相談が増えていて、とくに能登地域にある七尾市では前年同時期の約12倍、珠洲市は約4倍になっているという(2020年7月11日付・日経新聞北陸版)。コロナ禍をきっかにリモートワークが広がった。光回線や5Gなど通信インフラが整っていれば、東京に在住する必要性はない。第2波で特徴的なのは、このリモートワークをきっかけに、人だけではなく企業そのものが「本社移転」を目指し始めたことだ。

    昨年7月、総合人材サービスの「パソナグループ」は東京の本社機能の一部を兵庫県淡路島に移転すると発表し注目を浴びた。そして、東証一部の医薬品商社「イワキ」の社長はきのう29日に石川県の谷本知事を訪ね、ことし6月から本社機能の一部を東京から能登半島の最先端・珠洲市に移転することを報告した。同社は珠洲にテレワークの拠点を置き、同月から持ち株会社「アステナホールディングス」に移行、人事や経理を中心に希望者が移住する。メディア各社の記事=写真=を読んで、同社の本気度が伝わってきた。
  
   パーマカルチャーは人間の本能ではないかと察している。コロナ禍だけでなく、天変地異のリスクが東京で起きたとき、企業は果たして存続できるのか。パソナにしても、イワキにしてもそうしたことを本能的に嗅ぎ取って先回りをしているのではないかと思えてならない。もちろん企業的な計算や価値判断もあるだろう。能登でどのような企業展開を試みるのか注目したい。

⇒30日(土)夜・金沢の天気    あめ 

★100均のライトが浮かぶ雪明かり

★100均のライトが浮かぶ雪明かり

   庭先にソーラーライトを設置していたが、大雪でしばらく雪に埋もれていた。きょう夕方、ふと庭を眺めると雪が解けてソーラーライトが灯っている。光が雪に反射してあたりを明るく灯している。雪明かりだ=写真=。太陽の光を蓄電して、暗くなったら自動で明かりがともる。庭を飾るインテリアとして使っている。「100均」のソーラーライトだが、雪中の光に浮かんで見えて幻想的だ。

          こうしてブログを書いている間にも、再び雪が積もってきた。予報によると、発達した低気圧や強い冬型の気圧配置の影響で、北陸などを中心にあす30日にかけ、雪を伴って非常に強い風が吹き、猛烈なしけや大しけになるところがあるという。気象庁では暴風雪や暴風、高波に厳重に警戒するよう呼び掛けている。あす午後6時までに予想される24時間降雪量は、多いところで、北陸地方が60㌢、関東甲信地方や東海地方でも50㌢となっている。

   一月最後の週末も「雪ごもり」となりそうだ。そして、100均ライトの雪明りは当分お預けか。

⇒29日(金)夜・金沢の天気     ゆき

☆あすから寒波再び

☆あすから寒波再び

   今月9、10日に降った大雪。金沢の自宅周辺で積もった雪は70㌢ほどだった。あれから徐々に寒さはやわらぎ、きょうの日中の気温は8度ほどで雪解けの日だった=写真=。ところが、気象庁によると、あす29日にかけて低気圧が急速に発達しながら北日本に進み、30日にかけては日本上空に強い寒気が流れ込み、日本海側を中心に大雪となる恐れがあるとして、暴風雪や暴風、高波に警戒するよう呼び掛けている。北陸に住む者にとって、冬将軍の第3波が来ると身構える。

   ついでに寒さを感じたニュースをいくつか。菅総理はきょう28日の参院予算委員会で、新型コロナウイルス禍で増える自殺など「孤独問題」を担当する閣僚が誰かを問われ、厚労大臣だと答える一幕があった。田村氏にとっては、突然の“任命”で、一瞬驚いた様子だったが「孤独の問題にもしっかり取り組みたい」と述べた。国民民主党の伊藤孝恵氏への答弁。伊藤氏はコロナの影響を踏まえ、ひとり親や不登校など「望まない孤独」の問題は多様化していると指摘。その究極が自殺として現れているとして、担当閣僚を置いて対策を進めるべきだと迫った(1月28日付・共同通信Web版)。イギリスでは2018年に世界で初めて「孤独担当大臣」を任命している。

       新型コロナウイルスの発生源などの解明に向けて中国・武漢に入っているWHOの国際的な調査チームは、28日午後、入国後の隔離措置を終え隔離先のホテルを出た。あす29日以降、現地での調査を本格化させる。しかし、 調査をめぐっては、感染拡大からすでに1年が経過していることから、WHO内部でも発生源の特定につながるのか疑問視する見方も出ていて、中国側が関連データの提供など調査チームの求めにどれだけ応じるかが焦点となっている(1月28日付・NHKニュースWeb版)。

   深海に生息する巨大なイカ、ダイオウイカが島根県出雲市の漁港に漂着しているのが見つかり、映像が公開された。漂着したのは体長が4㍍10㌢、重さが170㌔あるダイオウイカで、26日出雲市の猪目漁港で地元の漁業者が見つけた。連絡を受けて調べた島根県の水族館によると、ダイオウイカには獲物を捕らえる「触腕」と呼ばれる部分がなく、残っていれば体長は6㍍ほどあったと推定される(同)。

   このところ深海魚が出現したとの報道が多い。深海魚の出現は地震の前兆ではないかと身震いする。もちろん、科学的な論拠はない。現在午後11時20分、外はゴーゴーとかなりの強風だ。

⇒28日(木)夜・金沢の天気    くもり

★ついにコロナ感染1億人、「世界の団結」の証を

★ついにコロナ感染1億人、「世界の団結」の証を

   ついに1億人に感染が拡大した。うち死者は215万人。時折チェックしているジョンズ・ホプキンス大学のコロナダッシュボ-ド(日本時間で27日午前9時現在)=写真=を見て、心が痛んだ。国別ではアメリカの死者が42万人と最多だ。次いでブラジル、インド、メキシコ、イギリスとなっている。この5ヵ国を合わせた死者数は世界全体の48%、半数を占める。ブラジルではことし7月延期されていた「リオのカーニバル」が中止に追い込まれている。

   新型コロナウイルスに立ち向かう人類の武器は「ワクチン」だが、これが思うように進んでいない。NHKニュースWeb版(1月27日付)はオックスフォード大学Webサイト「アワ・ワールド・イン・データ」からの引用で記事を掲載している。今月26日の時点で全世界で接種されたワクチンは合わせて6900万回分で、少なくとも1回は接種を受けた人の数も6300万人と世界の人口からみると一部にとどまっているのが現状だ。

   では、日本はどうか。報道でも、政府は2月下旬からワクチンの接種を始めたいとしているが具体的なスケジュールや接種場所などがまだ示されていない。政府は、アメリカとイギリスの製薬会社3社との間で合わせて1億5700万人分の供給を受ける契約を交わしていて、「ことし6月までに接種対象となるすべての国民に必要な数量の確保は見込んでいる」と示している(1月22日付・NHKニュースWeb版)。

   世界でワクチン接種が進まないとなると、どうしても気になるのが東京オリンピック・パラリンピックの開催だ。オリンピックには、世界から選手や審判員、競技関係者が1万5000人が訪れる。選手村では、一堂に会した選手たちがマスクをして黙々と食事を取るだろうか。にぎやかな食事風景を想像するだけでも、選手村がクラスター化するのではないかとの思いがよぎる。

   ワクチン接種を素早く手当てして、医療体制を整えることが先決だろう。「今年の夏、世界の団結の象徴となる東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催いたします。安全・安心な大会を実現すべく、しっかりと準備を進めてまいります」(菅総理の年頭所感、総理官邸公式ホームページ)。有言実行を期待したい。オリンピックで日本の存在価値が問われる。

⇒27日(水)夜・金沢の天気   くもり

☆身近で、不可解、パラダイムシフトとは

☆身近で、不可解、パラダイムシフトとは

   社会全体の価値観が劇的に変化するという意味で使う「パラダイムシフト」は日常の言葉として発することがある。自身の記憶では、パラダイムシフト(paradigm shift)の言葉を初めて 交わしたのは、インターネットが劇的に広がった1999年だった。

   自宅を新築する際、光ファイバーケーブルを引き込み、リビングや書斎に光コンセントを設置してほしいと建築士にお願いした。すると、建築士は「光ファイバーがあれば、お部屋がオフィスに様変わりしますよ。パラダイムシフトですね」と。初めて聞いた言葉だった。確かに、完成後に自宅書斎のパソコンを会社(当時、テレビ局)のPCとつないでメールや動画をやり取りして仕事ができるようになった。画期的なことだった。それ以来、書斎を「オフィス」と呼び、パラダイムシフトという言葉を自らも使うようになった。

   もちろん、パラダイムシフトは個別の話ではなく社会全体の価値観の変化のことだが、今のIoT化やSociety5.0、リモートワークといったトレンドを考えると、当時建築士が話したように、パラダイムシフトの先駆けだったかもしれない。パラダイムシフトはIT化だけでなく、新型コロナウイルスなどに揺さぶられ、さまざまな場面で起きている。

   身近にある大きな変化では、葬儀もその一つだ。故人をしのび弔うセレモニ-は近年、会葬の規模が縮小し「家族葬」と言われるまでに少人数化した。さらにコロナ禍にあって、「廻(まわり)り焼香」と呼ばれる簡素化がトレンドになっている。廻り焼香は、通夜や葬儀・告別式に参列するが、焼香を終えた人は席に就かずにそのまま帰る。もともとは、多くの弔問客が滞りなく焼香を済ませるための会葬の流儀だったが、最近ではコロナ禍で「三密」を避ける工夫として用いられている。ドライブスルーでの焼香も可能な葬儀場もある。葬儀の小規模化と簡略化という流れは儀式のパラダイムシフトを象徴している。

   戸惑うパライダイムシフトもある。大学キャンパスで大麻をめぐるニュースが相次いだ。昨年は、日本大学ラグビー部や近畿大学サッカー部、そして東海大学硬式野球部、さらに長崎大学でも不法所持や売買などが発覚し、逮捕者も出ている。一方、アメリカでは民主党政権の復権にともない、ニュージャージー、アリゾナ、サウスダコタ、モンタナなどの各州で新たに合法化された。大麻を合法的に使えるアメリカ人は1億900万人に上り、総人口の3人に1人に相当する。ニューヨーク州でも知事が、州政府の財政を再建するため、オンラインのスポーツ賭博と娯楽用大麻を合法化する意向と報じられている(1月7日付・ロイター通信Web版日本語)。

   この背景には、国連が大麻と大麻樹脂を最も危険な麻薬に分類していたリストから外すことを承認し、大麻の医療的価値を認めたことによる(2020年12月3日付・CNNニュースWeb版日本語)。だからと言って、税収の確保のため大麻を合法化するというアメリカの動きは日本人にとっては不可解だ。アメリカでこの動きが全土に広まれば、日本の学生たちにアメリカへの留学を勧められなくなる。

⇒26日(火)夜・金沢の天気    あめ

★株高の無常観 経済の春隣は

★株高の無常観 経済の春隣は

   大寒のこの頃、「春隣(はるとなり)」という季語がある。寒さがこたえる真冬だが、かすかな春の予兆に目を向けてみたくなるものだ、との意味合いと解釈している。

   自宅の庭は雪に覆われているが、春隣を求めて庭先に出た。厳冬のこの時節に咲く花を「雪中四友(せっちゅうしゆう)」を称するが、4つの花(ロウバイ、ウメ、サザンカ、スイセン)のうち、ロウバイが黄色い花を付けていた。例年なら今ごろ花を付けているスイセンは雪に埋もれていた。

   見渡すと、ツバキも花をつけていた。そこで、ロウバイとツバキを切って、玄関に活けてみる=写真=。ロウバイは「蝋梅」と漢字表記されるだけあって、ふくよかな香りがする。中国語ではラ-メイ(蝋梅)、英語ではWinter sweetと言い、世界の人々はその香りを楽しんでいる。ツバキは筒咲きの白花だ。花を見ていて思うことは、花は毎年変わらず咲いて人を楽しませてくれるが、人の世は変わってしまう。新型コロナウイルスの流行(はや)りで滅入ってしまっている。無常である。世の春隣はいつ来るのか。

   きょう無常観を感じたのは株価だ。25日の東京株式市場で日経平均株価の終値が前週末比190円高の2万8822円をつけ、バブル期の1990年8月3日以来30年半ぶりの高値を回復した(1月25日付・共同通信Web版)。景気がよいと感じていないのに、株が買われる。投資家は今の経済状況を見て投資するのではなく、先の経済状況を予想して投資すると言われればそうかもしれない。あるいは、コロナ禍で痛手を被った経済を支えるため日本銀行が大量のお金を市中に流し込んでいるが、景気を押し上げる投資には使われず、だぶついたお金が運用先として株式市場に流れ込んでいるだけ、という見方もある。

   これから第3四半期の企業決算の発表が続々と出てくるだろう。その内容を見てみたい。経済の春隣を感じることができるのだろうか。

⇒25日(月)午後・金沢の天気     はれ

☆ユニークベニューな能登への本社移転

☆ユニークベニューな能登への本社移転

   ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語、ワーケーション(workation)は夢のような働き方と思っていた。景勝地にオフィスを構え、通勤時間は歩いて10分ほど。四季を肌で感じ、食事は近くのホテルやレストランで取れたての食材で寿司や海鮮料理や和食、イタリアンなどを楽しむ。仕事に集中でき、ストレスは溜まらない。そのようなイメージだ。それが、能登で現実に動き始めようとしている。

   日経新聞北陸版(1月23日付)で、東証一部の医薬品商社「イワキ」が東京都中央区にある本社機能をことし6月から石川県珠洲市に段階的に移転するというニュースが掲載されていた。記事によると、本社機能は経営企画、人事、経理、情報システムなどの部門が含まれ、約110人を予定し、東京と石川で居住地や就労地を選べるようにする。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、本社機能の一部を珠洲市に分散し経営上のリスクを減らす。珠洲の原材料を使用した商品を開発するなど地方創生に関わる事業の創出にもつなげる。

   珠洲市は能登半島の先端に位置する。日本海に囲まれ、北部は切り立った断崖、南部には穏やかな海が広がる。軍艦のような形をした見附島や、しぶきを上げて流れる「曽の坊の滝」などの観光スポットとしても知られる(同)。

   記事を読んで驚いたことに、本社機能を移転する予定のオフィスは古民家だ。1914年に東京・日本橋で創業した上場企業が能登の茅葺(かやぶき)の古民家に拠点を移す。前代未聞だ。

   じつは、自身はこの古民家にこれまで3度訪れたことがある。もともと、日本画家の勝田深氷氏が1994年に東京から移住し創作活動をしていたアトリエだった。当時は「勝東(しょうとう)庵」と呼ばれていた。勝田氏は、最後の浮世絵師と称され、美人画で知られた伊東深水の二男で、姉は女優の朝丘雪路だ。サンフランシスコにもアトリア「勝東庵」を構えていたが、2012年7月にシスコで急逝した。しばらく、奥様が珠洲の「勝東庵」を守っていた。自身が初めて訪れたのは2013年5月、奥様から深氷氏の18年間におよぶ能登での創作活動の様子などうかがった。その後、珠洲市が文化芸術交流施設「文藝館」=写真・上=として管理している。この文藝館がオフィスとして貸し出される。

   堂々とした建物の外観もさることながら、内部には深氷氏が遺した芸術作品がある。正面玄関から入ると、左手に杉の板戸6枚に描かれた見事な桜が出迎えてくれる。 作品名は「桜心(おうしん)」=写真・中=。この絵を眺めていると、現代画壇という感じではなく、まさに江戸時代の絵師の筆の勢いというものが伝わってくる=写真・下=。この絵を鑑賞していると新たなアイデア創出や思考力といった感性が高まるような気がする。板戸だけではない。芸術的な工夫が凝らされた玄関やトイレ、客間なども感慨深い。

   文化財の建物などを会議の場として活かすことをユニークベニュー(unique venue、特別な会場)という言葉を用いる。まさに、ユニークベニューなオフィスではないだろうか。

   この古民家の周辺は、「珠洲ビーチホテル」という8階建のホテルを中心に家族用のキャビン群もあるリゾート地としても知られる。震災などリスクヘッジを念頭に置いた地方への本社機能の移転は進むのではないか。人材派遣会社「パソナグループ」も本社機能の一部を東京から兵庫県淡路島へ移転することを発表している。今回のイワキのケースは古民家を活用するという点で、地方移転へのシンボリックな存在になるのではないだろうか。

⇒24日(日)午後・金沢の天気   くもり時々あめ