☆「ネット選挙運動」から「ネット投票」を

☆「ネット選挙運動」から「ネット投票」を

   選挙運動にネットが解禁されたのは2013年7月の参院選挙からだ。当時は、ソーシャルメディアの国内での広がりを背景に、候補者や政党以外の有権者だれでも、ホームページやフェイスブック、ツイッターを活用した選挙運動ができるようになった。

   ただし、電子メールを送信する選挙運動は政党と候補者に限定される。さらに、政党と候補者は送信先の同意が必要で、たとえば、メールマガジンを読者に送る場合は、送信することを事前に通知して拒否されないことを条件としている。さらに、規定に違反したり第三者がメール送信をした場合は、2年以下の禁錮か50万円以下の罰金を科し、公民権停止の対象となる。

   つまり、ネットは「電子メール」と「ウェブサイト等」に分類されていて、一般の有権者がメールで選挙運動に利用することは禁じられている。また、スマホから電話番号を使って送るショートメッセージ(SMS)もこれに含まれる。一方、LINEやフェイスブックやツイッター、インスタグラムなどSNSやユーチューブ、ブログは「ウェブサイト等」に分類されていて、一般の有権者でも選挙運動のメッセ-ジの投稿や送信など自由に使える。

   では、なぜ罰金まで課して、メールを「悪者扱い」するのか。2013年の公職選挙法改正で議論されていたのは、電子メールは第三者によるなりすましやウイルス感染の危険性があるため規制の対象にするということだ。しかし、現代はなりすましやウイルス感染もさることながら、「フェイクニュース」が一番厄介なことではないだろうか。フェイクニュースはSNSでもメールでも拡散する。メールだけをいつまでも規制するのは時代遅れではないだろうか。

   それと、ネット選挙運動の次は、ネット投票だ。菅前政権の肝入りでこの9月にデジタル庁が新設された。マイナンバーカードの普及、そしてネット投票がセットで実現すれば、デジタル社会への大きな一歩になる。ウイズコロナのこのタイミングでネット投票を実現させてほしい。

⇒22日(金)夜・金沢のに天気     くもり   

★「悪い円安」

★「悪い円安」

   最近メディアを通して「悪い円安」という言葉が知られるようになった。円安が進むことは、製品を輸出する企業にとってはメリットが出るものの、海外から原材料を得ている企業にとっては生産コストの上昇となり、製品の値上げに転嫁せざるを得ない。急激に円安が進めば、消費拡大の足を引っ張ることになり、デメリットが大きくなる。

   目に見えるガソリン価格で「悪い円安」で検証してみる。ことし1月初旬のドルと円の為替相場は1㌦104円前後だったが、その後徐々に円安にぶれて、きのうは114円に。このブログでも何度か取り上げてる近所のガソリンスタンドでの価格は1月初旬で1㍑当たり133円前後だった。それが、きょう166円となっていた=写真=。この10ヵ月で1㍑当たり価格にして30円、率にして22%も値上げしたことになる。ガソリン価格は2014年10月以来、7年ぶりの高値だ。ただ、このときは1㌦106円前後だったが、イスラム教の宗派対立でイラク情勢が混乱し原油需給がひっ迫したあおりを受けて1㍑170円前後となった。

   石油だけでなく、天然ガスも高騰している。NHKニュースWeb版(21日付)によると、火力発電所の燃料などとして使われる天然ガスの価格が世界各地で高騰している。アジアのLNG=液化天然ガスのスポット価格は、ことし10月初旬には去年の同じ時期と比べて10倍を超える水準となっている。以下、NHK記事の引用。

   そのLNG価格の高騰の背景に中国の存在が。ことし1月から9月までの中国の輸入量は5800万㌧となり、世界最大の輸入国である日本の5600万㌧を初めて上回った。LNG市場に中国という巨大な買い手が現れ、価格が大きく揺れ動くような事態になった。では、なぜ中国がLNGを。中国の発電所のうち主要な電源は石炭火力で61%を占めている。天然ガスは3%だ(2020年統計)。ただ、石炭火力は煙が立ち上り、二酸化炭素の排出量も膨大だ。さらに、来年2月に北京オリンピックが開催されるので、それに向けた環境シフトが課題となっている。そこで、中国は「青空作戦」と銘打って、石炭火力を抑制することで空気をきれいにするクリーン作戦を国を挙げて展開し、同時にLNG発電へのシフトを急いでいる。

   ここでも「悪い円安」の影響が出るのではないかと懸念する。今後、日本と中国がLNGの奪い合いを演じた場合に価格がさらに高騰する。その分、日本の電気料金に転化されるのではないかと気になる。このところの円安、実にタイミングが悪い。

⇒20日(木)午後・金沢の天気     はれ

☆いまさら「敵基地攻撃能力」とは、日本海側の憂い

☆いまさら「敵基地攻撃能力」とは、日本海側の憂い

   まるで衆院選挙のスタートを告げる「号砲」のようなタイミングだ。公示の日のきのう19日午前10時15分ごろ、北朝鮮は朝鮮半島東部の新浦付近から、弾道ミサイルを東方向に発射した。うち1発は最高高度50㌔程度を変則軌道で600㌔程度飛翔し、日本海に落下した。落下地点は日本のEEZ外と推定される。弾道ミサイルは潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の可能性がある。もう1発の飛翔距離等については、引き続き分析中(19日付・防衛省公式ホームページ)。

   これを受けて、午前10時24分、総理指示が出された。「1.情報収集・分析に全力を挙げ、国民に対して、迅速・的確な情報提供を行うこと 2.航空機、船舶等の安全確認を徹底すること 3.不測の事態に備え、万全の態勢をとること」(同・総理官邸公式ホームページ)。そのとき岸田総理は何をしていたのか。同日午前9時45分にJR福島駅に到着。同10時20分に福島市の「土湯温泉観光案内所」で街頭演説。11時15分にJR福島駅で報道各社のインタビューに答えている(20日付・朝日新聞「首相動静」)。10時24分に総理指示を出した以降も仙台市で街頭演説。官邸に戻ったの午後3時3分だ。本来ならば総理指示を出した時点で即刻、官邸に引き返すべきではなかったか。一国の総理の危機感というものを感じることができるだろうか。

   朝鮮労働党機関紙の労働新聞(20日付)をチェックすると、「조선민주주의인민공화국 국방과학원 신형잠수함발사탄도탄 시험발사 진행」(国防科学研究所が新型潜水艦発射弾道ミサイルを試験打ち上げ)の見出しで写真付きの記事を掲載している=写真・上=。炎を吹き出しながら海上を上昇していく弾道ミサイルの様子や、海面に浮上した潜水艦など、写真は計5枚=写真・下=。記事では、5年前にSLBMを初めて発射した潜水艦から再び新型SLBMの発射に成功し、国防技術の高度化や水中での作戦能力の向上に寄与すると書いている。

   岸田総理は官邸に帰り、午後4時05分から国家安全保障会議に出席。同31分からの記者団のインタビューに対し、「わが国と地域の安全保障にとって見過ごすことができないものだ。すでに国家安全保障戦略などの改定を指示しており、いわゆる『敵基地攻撃能力』の保有も含め、あらゆる選択肢を検討するよう改めて確認した」と述べた(19日付・NHKニュースWeb版)。

   敵基地攻撃能力は、ミサイル発射基地に対する攻撃能力を備えることで、発射を思いとどまらせる抑止力を強化する狙いがある。しかし、今回のようなSLBMの場合、あるいはことし9月15日の鉄道を利用した移動式ミサイル発射台からの弾道ミサイルの場合、どのように「発射基地」を特定し攻撃能力を備えるのか。さらに、変則軌道型の弾道ミサイルに日本のミサイル防衛システムが対応できるのか。すでに、北朝鮮の「国防技術の高度化」の方が勝っているのではないか。日本海側に住み、海の向こうの北朝鮮と向き合う一人としての憂いだ。

⇒20日(水)午前・金沢の天気    あめ

★続・「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~3~

★続・「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~3~

   海の見えるカナダのバンクーバーを拠点として活動をしているデイビッド・スプリグス氏が能登半島の珠洲にやって来て、最も強いインパクトを受けたのが日本海の荒波だった。その強烈さを作品名『第一波』=写真・上=に。かつての漁具倉庫に真っ赤に染まる大荒波が出現する。手書きで描かれた透明なフィルム層を重ねることで、襲いかかってくるような波の迫力が表現されている。

      臨場感と記憶、そして未来、計算し尽くされた場のアート

   正面から見れば荒波に見えるが、斜めから見るとまったくちがった赤い雲のようにも見え、カタチの認知が変る。「見る」ことの不確実性と流動性の不思議を感得できる。倉庫の内部は薄暗く広いので、近づいて見たり、遠巻きで眺めたりしてこの立体感を楽しむことができる。芸術作品は場の選定が絶対条件だ。スプリグス氏の要望に応じて、海のそばの制作現場を選ぶために関係スタッフが相当のリサーチをかけたことは想像に難くない。 

  この作品は銭湯が場となっている。青木野枝氏の作品『mesocyclone/蛸島 』=写真・中=。場所は蛸島(たこじま)という地名の漁師町にある、「高砂湯」という銭湯だった。30年前に営業をやめている。この漁港近くにある銭湯に金属彫刻の青木氏が展示空間そのものを作品とするインスタレーションを展開した。

   mesocyclone(メソサイクロン)は立ち上る小規模な積乱雲を意味する。脱衣場の床から天井へとつながる鉄の輪が、ゆらゆらと立ち上るような湯気を思い起こさせ、浴場に置いた使いさしの石鹸からかつての銭湯の匂いが漂う。仕事を終え船から下りた漁師たちが汗を流し、ゆったりつかった湯。町の人に愛されていた場の記憶を感じさせる。

   場の作品では、そこから見える風景もコンセプトだろう。シモン・ヴェガ氏の作品『月うさぎ:ルナクルーザー』=写真・下=は海岸近くの児童公園にあり、前回訪れたときは外観しか鑑賞することができなかった。今回は木造の月面探査機の中を見ることができた。感動したのは、コックピッド(操縦席)から見える風景は確かに月面にも見えるのだ。ヴェガ氏が制作した月面探査機は市内の空き家の廃材で創られている。古さび捨てられていくものと宇宙というフォルムが合体し、そして海が月面に見えるという奇妙な感覚。これは作家の「未来は過去のなかにある」というコンセプトを表現しているようだ(奥能登国際芸術祭ガイドブック)。場を活かし、計算し尽くされた作品ではないだろうか。

⇒19日(火)午前・金沢の天気     はれ

☆続・「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~2~

☆続・「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~2~

   「奥能登国際芸術祭2020+」で色鮮やかな海をテーマとしているのが、ひびのこずえ氏の作品「Come and Go」=写真・上=だ。作品展示だけでなく、ダンスも演じるパフォーマンスたっぷりの芸術だ。テーマとしているのは能登の海。一般には冬場の鉛色の荒れた海を想像しがちだが、じつにカラフルな構成になっている。

      自然環境と人々の暮らし、能登の森羅万象をアートに

   実際にひびのこずえ氏は能登の海を潜って得た感性で作品づくりをしている。寄せては返す潮の満ち引き、それは出会いと別れでもあり、移り変わりでもある。ここから作品名を「Come and Go」と名付けられたとボランティアガイドから説明を受けた。

   展示作品は海中のイメージを表現している。写真の真ん中に大きなウミガメがいて、海藻や魚、クラゲもいる。ここは海であり、地球であり、そして宇宙をイメージする、まるで無重力空間のようだ。

   奥能登国際芸術祭には金沢美術工芸大学も出品している。教員・学生60人余りで構成するアートプロジェクトチーム「スズプロ」。市内の広々とした旧家の屋敷を借りて、5つの作品を展示している。スズプロは2017年の芸術祭から参加しているが、今回は新作として『いのりを漕ぐ』という大作を展示している。客間に能登産材の「アテ」(能登ヒバ)を持ち込み、波と手のひらをモチーフに全面に彫刻を施したもの。学生らがチェーンソーやノミでひたすら木を彫り込んだ。

   教員・学生たちのは一年を通して珠洲の祭りや伝統行事に参加しながら地域交流を深めている。そして、日本海を見渡すこの地域の調査研究を行い、ここでしか表現し得ない作品の制作を目指してきた。アテを使ったのも、この木が能登特産の素材だからだ。そして「能登曼荼羅(まんだら)」=写真・下=という作品がある。これは2017年制作の作品だが、その地域研究の成果が凝縮されている。「奥能登を、絵解く」をテーマに、人々の四季の暮らしや生業(なりわい)、祭り行事、喜び悲しみの表情まで実に細かく描写されている。まさに、森羅万象の仏教絵画の世界なのだ。

⇒18日(月)夜・金沢の天気     はれ

★続・「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~1~

★続・「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~1~

         能登半島の尖端、珠洲市で開催されている「奥能登国際芸術祭2020+」への2度目の観賞ツアーを企画した。前回は9月4日の開幕と同時に訪れた。16の国と地域から53組のアーティストが参加し、46ヵ所で作品が展示されているが、オープン当時は石川県に新型コロナウイルスの「まん延防止等重点措置」が適用されていて、屋外作品が中心の展示だった。10月1日から措置が解除され、ようやく全作品が公開となり、会期も11月5日まで延長された。2度目の観賞ツアー(今月16、17日)では屋内外の合わせて20点余りを楽しむことができた。

       塩がアートのモチベーションになるとき

   「目にも鮮やか」という言葉の表現があるが、まさにこの作品のことではないだろうか。金沢在住のアーティスト、山本基氏の作品『記憶への回廊』=写真・上=だ。旧の保育所施設を用いて、真っ青に塗装された壁、廊下、天井にドローイング(線画)が描かれ、活気と静謐(せいひつ)が交錯するような空間が演出される。そして、保育園らしさが残る奥の遊戯場には塩という素材を用いた立体アートが据えられている。かつて、園児たちの声が響き、にぎわったこの場所は地域の人々の幼い時の記憶を呼び起こす。

   案内してくれたボランティアガイドの説明によると、作品制作には10㌧もの塩が使われている。なぜ「塩」にこだわるのか。作者は若くしてこの世を去った妻と妹との思い出を忘れないために長年「塩」を用いて、展示空間そのものを作品とするインスタレーションを制作しているのだという。展示後は鑑賞者と共に作品を壊し、塩を海に還すイベントも企画しているという。

   会場入口に作者のメッセージが掲示されていた。作者は金沢から珠洲を13回訪れ、延べ50日かけて創り上げたと記している。最後にこう書き添えている。「私はここを訪れる人たちが、誰もが過ごしたはずの幼い頃の思いを馳せられるタイムマシンのような空間を作りたい。そして出来ることなら、大切な思い出に想いを寄せながら、未来をみつめる機会となってほしい。そう願っています」

           色鮮やかで、そして塩がモチベーションの作品がもう一つある。ドイツ・ベルリン在住のアーティスト、塩田千春氏の作品『時を運ぶ船』=写真・下=。作品制作は前回の「奥能登国際芸術祭2017」のとき。そして作者の名前は「塩田」。珠洲の海岸には伝統的な揚げ浜式塩田が広がり、自分のルーツにつながるインスピレーション(ひらめき)を感じて迷わず創作活動に入ったという。塩砂を運ぶ舟から噴き出すように赤いアクリルの毛糸が網状に張り巡らされた空間。赤い毛糸は毛細血管のようにも見え、まるで母体の子宮の中の胎盤のようでもある。

   ボランティアガイドはもう4年間も作品の説明していて、解説はとても分かりやすく、そして深い。『時を運ぶ船』という作品名は塩田氏が珠洲のこの地域に伝わる歴史秘話を聴いて名付けたのだという。戦時中、地元のある浜士(製塩者)が軍から塩づくりを命じられ、出征を免れた。戦争で多くの友が命を落とし、浜士は「命ある限り塩田を守る」と決意する。戦後、浜士はたった一人となったが伝統の製塩技法を守り抜き、その後の塩田復興に大きく貢献した。技と時を背負い生き抜いた人生のドラマに塩田氏の創作意欲が着火したのだ。

   しばらく「胎盤」の中に身を置くようにして作品を眺めてみる。炎天下で心血を注いでモノづくりをする浜士の心臓の鼓動が聞こえてくるようだった。

⇒17日(日)夜・金沢の天気     はれ

☆「新しい資本主義」その実現可能性はあるのか

☆「新しい資本主義」その実現可能性はあるのか

   前回の話の続き。岸田総理はきのう14日の衆院解散後の記者会見で、今回の衆院選挙を「未来選択選挙」と位置づけ、「コロナとの戦い、危機的な状況を乗り越えた先に、どんな社会を見ていくのか。これがまず大きな争点になるんだと思う」と述べた。具体策として、「成長の果実が幅広く行き渡る『成長と分配の好循環』を実現する」とし、数十兆円規模の経済対策を最優先で行うと説明した。成長と分配の好循環は岸田氏が総裁選でも繰り返し述べてきた「新しい資本主義」の基本理念なのだろうが、その仕組みや具体策が見えない。結局、数十兆円規模のバラまきとしか理解できなかった。

   そもそも、「新しい資本主義」と発言しているが、既存の資本主義を岸田氏はどう捉えていて、どのように改革するのか。もし、経済学者に新しい資本主義の理論を再構築せよと迫っても、おそらく逃げ出すだろう。「資本主義」という言葉そのものが重く深い。安易に「新しい資本主義」という言葉を使うべきではないと考えるのだが。それでも、岸田内閣は「新しい資本主義」に向けて一歩踏み出した。

   NHKニュースによると、きょう政府は、岸田総理を本部長にすべての閣僚が参加する「新しい資本主義実現本部」を設置し=写真、首相官邸公式ホームページより=、経済成長の具体策を検討してきた「成長戦略会議」を廃止して、本部のもとに「新しい資本主義実現会議」を設けることを決定した。会議のメンバーの有識者15人のうち、半数近い7人が女性。日本総合研究所の翁百合理事長やAIコンサルティングの会社「シナモン」(東京)社長の平野未来氏らが参加する。経済3団体と連合の代表、中小・新興企業の経営者も出席する。

   政府の肝いりで「新しい資本主義実現会議」を立ち上げのだから、今後のどのような議論の展開があるのか注目したい。課題はいくつもある。経済成長が止まってしまっている日本をどのように成長させるのか。さらに、日本は世界最速で高齢化と人口減少が進んでいる国だ。マーケットが縮小する中で、どのように成長と配分の好循環を産み出していくのか。

   日本は「低欲望社会」とも言われ、投資より貯蓄に励む。日本銀行がことし9月17日に公表した「資金循環統計速報」によると、6月末時点の家計金融資産残高は1992兆円だった。家計金融資産に占める現金・預金の割合は2020年度末が53%だった。つまり、1000兆円余りがそのまま眠っている。貯蓄が増えてお金が市場に回らないのだ。日本にはさまざま災害があるので、手元にキャッシュを置く指向があるとも言われている。岸田総理が新しい資本主義を唱えても、国民は投資しない、できない現実がある。

   日本が発した「新しい資本主義」は、おそらく世界の経済学者や投資家が注目している。途中で挫折すれば物笑いのネタになる。

⇒15日(金)夜・金沢の天気    はれ

★「争点なき解散」「選挙のための選挙」なのか

★「争点なき解散」「選挙のための選挙」なのか

   自宅近くのガソリンスタンドに行くと、1㍑163円の表示が出ていた=写真=。今月7日付のこのブログでも書いたが、その時は1㍑161円だったので、1週間で2円値上がりしたことになる。資源エネルギー庁が発表した石油製品価格調査(10月13日付)によると、今月11日時点のレギュラーガソリン価格の全国平均は1㍑=162円となり、前週の160円から2円値上がり。1年前の134円と比較すると28円(20%)もの急激な値上がりだ。パンデミックの緩和などで世界で原油の需給がひっ迫しているようだ。このペースで値上げが続けば来月中には1㍑170円を超えるのではないか。1970年代のオイルショックを思い出す。

   きょう14日午後1時すぎからの衆院本会議の様子をテレビ各社がニュースで伝えていた。紫色のふくさに包んだ総理の解散詔書が松野官房長官から大島議長に伝達された。大島氏は「日本国憲法第7条により衆議院を解散する」と解散詔書を読み上げ、衆院は解散した=写真・下、解散を報じる新聞各紙=。代議士は立ち上がりバンザイをした。解散のバンザイはいつもながらの光景だ。

   それにしても、今月4日に岸田総理が就任してから10日後の解散だ。衆院解散を受けて、政府は午後5時すぎに臨時閣議を開き、今月19日公示、31日投開票の選挙日程を決めた。戦後の衆院選挙は27回行われているが、議員の任期満了後に投票が行われるのは今回が初めて(10月14日付・NHKニュースWeb版)。とすると、選挙のために選挙をやるようなイメージだ。もちろん、コロナ禍の影響でここまで日程がもつれ込んだ事情は理解できる。

   では、岸田総理はこの選挙を何を問うのか。午後7時からの記者会見で、今回の衆院選挙を「未来選択選挙」とし、「新型コロナ対策と経済対策に万全を期した上で、コロナ後の新しい経済社会を創りあげなければならない。コロナ後の新しい未来を切りひらいていけるのは誰なのか国民に選択いただきたい」と支持を呼びかけた(10月14日付・NHKニュースWeb版)。「未来選択選挙」、この言葉で選挙の大義名分を感じることができるだろうか。「新しい資本主義」と同じで、具体的で戦略的なビジョンが見えて来ない。

   前回総選挙は2017年10月22日だった。このときは北朝鮮が弾道ミサイルの発射や核実験を行うなど情勢が緊迫化し、政治空白ができることに懸念はあったものの、安倍総理は少子高齢化が進む中で社会保障問題を争点に掲げ、「国難突破解散」と銘打って勝負をかけた。選挙に勝ち、それまで2度見送ってきた消費税率の引き上げを2019年10月から「10%」とした。

   小泉総理はさらに強烈だった。与党も野党も反対していた郵政三事業(郵便、簡易保険、郵便貯金)の民営化をめぐって、「今回の選挙はいわば郵政選挙。郵政民営化に賛成してくれるのか、反対するのか、それを国民に問いたい」と2005年8月に「郵政解散」を行い、9月11日の選挙では与党が3分の2を占め圧勝した。郵政民営化は2007年10月スタートした。

    上記の事例と比べれば、「未来選択選挙」や「新しい資本主義」は言葉遊びのようにも聞こえる。選挙で国民に問うことは一体何なのか。有権者が一票に託す争点は何なのか。さらに、候補者は一体何を選挙で訴えるのだろうか。31日選挙の投票率も気になる。有権者が「これは選挙のための選挙だ」と勘繰るようになれば、前回と比べ大幅ダウンは避けられないだろう。

⇒14日(木)夜・金沢の天気    くもり

☆秋の夜長3題~聴く、見る、読む~

☆秋の夜長3題~聴く、見る、読む~

   秋の夜長とはよく言ったものだ。たまにはゆったりと月を眺めて過ごしてみたいと思う気持ちは古今変わらない。昨夜は「ソナタの夕べ」と題したリサイタル=写真・上=を聴きに出かけた。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の第一バイオリンで活躍する原田智子さん、そして、原田さんが敬愛するというピアニスト小林道夫氏を招いて、ピアノとバイオリンのソナタの魅力を披露した。

   モーツァルトのピアノとバイオリンのためのソナタ(K379)、シューベルトのソナチネ第2番、ベートーベンのソナタ第10番の3曲。心に響いたのはベートーベンだった。森の中にいることを思わせる響きで、日光が差したかと思えば、暗闇になり、嵐になり、そして月影が現れ、また日光が差してくる。まるで、ドラマのような流れだった。アンコール曲は同じくベートーベンの「スプリング・ソナタ」。コロナ禍で席は一つ空けての着席。この方がむしろ、演奏者と空間を分け合い、そして音楽を聴きながら自分と対話しているような感覚になって、十分楽しむことができた。

    次の秋の夜長は、まるでベートーベンの「運命」をテレビで見るような感覚だった。10日に放送されたTBSの日曜劇場「日本沈没―希望のひと―」(午後9時)の初回=写真・中=。1973年の小松左京のSF小説が原作。2023年の東京を舞台に内閣府や環境省の官僚、東大の地震学者らが、天才肌の地震学者が唱える巨大地震説を伏せようと画策する。環境省の官僚が海に潜ると、海底の地下からガスが噴き出して空洞に吸い込まれそうになるシーンはリアル感があった。ラストシーンは実際に島が沈むというニュース速報が流れ、騒然となる。

   これまで小説も読み、映画も観たので既視感はあった。さらに、7日夜に首都圏で震度5強の地震があった直後だけに、関東の人たちはこの番組をどのような思いで視聴しているのだろうかなど案じながら見ていた。ビデオリサーチ社によると、初回の世帯平均視聴率は15.8%だった。ドラマを楽しむというより、自分たちの運命はどうなるのだろうという不安心理などがない交ぜになった高視聴率ではなかったか。

   月刊誌「文藝春秋」(11月号)の「財務次官、モノ申す 『このままでは国家財政は破綻する』」=写真・下=を秋の夜長に読んだ。「最近のバラマキ合戦のような政策論を聞いていて、やむにやまれぬ大和魂か、もうじっと黙っているわけにはいかない、ここで言うべきことを言わねば卑怯でさえあると思います。」との出だし。現職の財務事務次官による、強烈な政治家批判だ。「数十兆円もの大規模な経済対策が謳われ」は岸田総理の自民党総裁選での主張のこと。また、「財政収支黒字化の凍結」は総裁選での高市早苗氏の政策だった。「さらには消費税率の引き下げまでが提案されている」は立憲民主党の枝野代表の公約だ。

 
   読んだ感想だが。財務事務次官の立場からすれば当然だろう。国庫には無尽蔵にお金があるはずがない。財政規律を唱えて当然だ。政治家は選挙を前に必死に財政出動を訴えるものだ。今月31日の衆院選を前に多様な議論があっていいのではないか。
 
⇒13日(水)夜・金沢の天気    くもり時々あめ

★「飛び恥」からカーボンニュートラルへ

★「飛び恥」からカーボンニュートラルへ

   先日、友人たちと会って「コロナ禍」後のことについて語り合った。「世界の人々の海外旅行の欲求が一気に高まり、ビッグバン(大爆発)のようなブームが起きるかもしれない」と話すと、友人の一人が「そうそう、CO2の削減が世界の課題で、ヨ-ロッパでは飛び恥より鉄道での旅行がブームらしい」と。「飛び恥って」と聞き返すと、「環境問題を考えるなら、CO2排出量の多い飛行機を使わないという意味だよ」と友人は教えてくれた。このとき初めて「飛び恥」という言葉を知った。

   ネットで「飛び恥」を検索してみると、この言葉は、若き環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが育ったスウェーデンが発祥の地のようだ。2019年9月、16歳のグレタさんが参加した国連気候行動サミット(国連本部)には、温室効果ガス排出量が大きい飛行機には乗らないと、太陽光パネルと水中タービン発電機が付いたヨット船で父親らと大西洋を横断してニューヨーク港に着いたことが、世界のメディアに大きく取り上げられた。

   HUFFPOST日本語版(2019年11月14日付)の記事を以下引用。多くのスウェーデン人にとって、飛行機での旅行は自慢の対象ではなくなっており、ヨーロッパを移動する際には、鉄道を利用するのが一種のトレンド。「飛び恥(Flygskam/ 英語ではflight-shaming)」「鉄道(列車)自慢(Tågstolthet/英語ではTrain Pride)」という言葉ができている。個人旅行だけでなく、ビジネスでの出張を減らそうという動きもある。ビジネスパーソンたちも、国際会議を減らしたり、なるべくスカイプに切り替えたりしている。

   HUFFPOSTは、グレタさんの母親でオペラ歌手のマレーナ・エルンマンさんは「なぜ飛行機に乗らないか」(2017年)というコラムを書いて、地球温暖化に警鐘を鳴らしている著名人の一人だと紹介している。確かに、スウェーデンは1972年にストックホルムでの第1回地球サミット「国連人間環境会議」のホスト国を務めるなど環境問題には熱心で、二酸化炭素の排出量が世界で最も少ない国として注目されている。そして、地球温暖化を数値で予測可能にした真鍋淑郎氏にノーベル物理学賞を贈ったのはスウェーデン王立科学アカデミーだ。 

   では、スウェーデンはなぜここまで二酸化炭素と地球温暖化問題に熱心なのか。以下憶測だが、ツンドラ地帯の永久凍土の融解や生態系の変化など北欧諸国では地球温暖化の影響が目に見えて変化しているのではないだろうか。とくに、永久凍土が融けると大規模な地盤沈下が起きると言われている。

   話を冒頭に戻す。では、「飛び恥」でこれから航空産業は衰退するのだろうか。むしろ、大気中のCO2濃度を増やさないカーボンニュートラルな航空機燃料、つまりバイオジェット燃料の増産が解決策ではないだろうか。ことし6月、バイオジェット燃料を使い、鹿児島から羽田まで930㌔を飛んだことがニュースになった(6月29日付・NNNニュースWeb版)。 バイオベンチャー企業「ユーグレナ」が、ミドリムシと廃食油でバイオ燃料をつくることに成功。国内初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントを2018年11月に横浜市で完成させている。

    日経新聞Web版(10月8日付)によると、ANAとJALは廃油や植物を原料にした環境負荷の少ない「持続可能な航空燃料(SAF)」の活用推進に向け、共同で市場調査を実施した報告書をまとめたと発表した。日本の航空大手2社が環境関連の活動で手を組むのは初めてと報じている。

   ようやく「飛び恥」からカーボンニュートラルへ。CO2をめぐる航空産業界の動きが一段と加速しそうだ。

⇒12日(火)午後・金沢の天気      あめ