☆「アベノマスク」と「キシダクーポン」

☆「アベノマスク」と「キシダクーポン」

   誰が考えても、この政策は民意からずれている。新たな経済対策として、18歳以下への10万円相当の給付をめぐり、政府は所得制限を設けたうえで、年内に5万円の現金給付を始め、残りの5万円は子育て関連の商品やサービスに使いみちを限定したクーポンを基本に給付する方針だ。このクーポン給付の必要経費に900億円もかかる。

   クーポンに有効期限を設定することで、消費喚起という意味で現金よりもムダのない給付が可能としているが、もともと使う予定だった現金が貯蓄に回ることになるので、現金給付でもクーポン配布でも消費喚起の効果はまったく同じだ。900億円のムダ。これがはたして新たな経済対策と言えるのか。

   その考えは自治体も同じだろう。NHKニュースによると、大阪の箕面市は8日、迅速な給付の実現や事務費の削減などの観点から、10万円を全額現金で給付する方針を決めた。同市の上島市長は「市民の使い勝手やクーポンの準備にかかる時間などを考慮すると全額現金で給付するのが市民のニーズに適している」とコメントした。18歳以下への10万円相当の給付をめぐっては、大阪市の松井市長も全額現金で給付したいという考えを示している(9日付・NHKニュースWeb版)。

   こうした自治体の動きに政府はどう対応するのか。同じNHKニュースによると、政府は自治体が全額現金での給付も選択できるよう調整する。ただし、政策の効果を上げるためにも、近くにクーポンを使用できる商業施設がない場合などにとどめたい考え(同)。ことしは残り20日余り。年内支給の方針が決まっているのにこの混乱ぶりだ。

   「アベノマスク」騒動を思い起こす。コロナ禍で、昨年4月7日に布マスクを全世帯に2枚の配布を閣議決定し、政府目標は月内配布だった。マスク支給予算は466億円。5月下旬になっても配達率は25%だった。緊急事態宣言が全面解除(5月25日)となったころには、すでにドラッグストアなどでマスクの安売りが始まっていた。我が家にアベノマスクが届いたのは6月1日だった。

   このころから安倍内閣の支持率が急速に落ち始める。5月31日付の共同通信社Web版で、全国緊急電話世論調査(5月29-31日実施)で安倍内閣の支持率は39.4%となり、前回調査(5月8-10日)から2.3ポイント減だった。 読売新聞社の世論調査(8月7-9日実施)で、内閣支持率は37%で前回調査(7月3-5日)の39%から下がり、不支持率は54%と前回52%より高くなった。不支持率54%は2012年12月からの第2次安倍内閣では最高だった。支持率下落はマスクの遅れだけでなく、内閣の賞味期限ということもあったろう。そして、9月16日に安倍内閣は総辞職する。

   「キシダクーポン」も二の舞いになりはしないか。国民に届けるものは分かりやすいだけに、国民はじっと見ている。なので、早く届けるのが原則だろう。年内が間に合わなければ、内閣支持率は落ちる。そして、「クーポンは新たな経済対策なのか、これが新しい資本主義なのか」と国民は問い始める。(※写真は首相官邸公式ホームページより)

⇒9日(木)午前・金沢の天気     はれ

★よけいな勘繰り

★よけいな勘繰り

   ニュースに目を通していると、つい余計な勘繰りをしてしまうものだ。けさのNHKニュースによると、岸田総理が災害など緊急事態への対応に万全を期すため、現在住んでいる東京・赤坂の議員宿舎を退去し、今週末に総理大臣公邸に入居する。総理公邸をめぐっては、かつての小泉・福田総理は入居したものの、第2次内閣以降の安倍・菅総理は公邸に入居せず、自宅や議員宿舎から官邸に通っていた。

   ここからは余計な勘繰り。いよいよ大震災への備えを政府が始めたのか。なにしろ、鹿児島県十島村のトカラ列島近海で地震が相次いでいて、きょうも午前5時過ぎに震度3(M3.7)の揺れがあった。トカラ列島だけでなく、ここ1週間で茨城県南部(2日、震度4、M5.0)、山梨県東部・富士五湖(3日、震度5弱、M4.8)、和歌山県紀伊水道(同、震度5弱、M5.4)と列島全体が揺れている。そうなると、次に来るのは首都直下や南海トラフ、富士山噴火ではないかと連想してしまう。災害は必ずやってくる。そのためにも総理が緊急事態への対応に備えることは必然だ。

   CNNニュースWeb版(6日付)によると、アメリカのホワイトハウスのサキ報道官は6日、バイデン政権は来年2月の北京オリンピックに政府の公式代表団を派遣しない、いわゆる「外交ボイコット」を実施すると明らかにした。アメリカの選手は五輪参加を許可されるが、政府当局者を派遣しない。北京で開催されるパラリンピックについても同様の方針を適用する。サキ氏はホワイトハウスでの記者会見で、中国での人権侵害を踏まえると「通常の対応」はありえないという「明確なメッセージ」を送る狙いがあると説明。「新疆で進行中のジェノサイドや人道に対する罪」への意見表明だとしている。

   ここからは余計な勘繰り。このホワイトハウスの声明を機に、オーストラリアやEU各国にも外交ボイコットが広がるだろう。そして、アメリカや他の国のオリンピック選手たちもボイコットに連動するに違いない。中国の元副首相に性的関係を強要されたとSNSで告発し、その後行方が分からなくなっていた女子テニスの彭選手問題で、WTA(女子テニス協会)は「来年、中国で大会を開催した場合、すべての選手やスタッフがリスクに直面する」などとして香港を含む中国での大会を見合わせると発表している(12月2日付・NHKニュースWeb版)。それにオミクロン株の感染拡大も追い打ちをかけている。では、日本政府はどうするのか。

   中国の経済のニュース。時事通信Web版によると、経営危機に陥っている中国不動産開発大手の中国恒大集団がデフォルト(債務不履行)の瀬戸際に立たされている。未払いとなっているドル建て社債の利息について、猶予期限が切れるアメリカ東部時間6日(日本時間7日)までに支払うことができなければデフォルトとなるが、同社は資金の確保は不透明としており、緊張が高まっている。恒大は資金繰り難から、先月6日に期日を迎えた子会社発行の社債の利息8250万㌦(93億円)を払えず、30日間の猶予期間に入っている。ロイター通信によると、アジア時間の今月6日夕方までに一部債権者への利払いはなかったという。

   ここからは余計な勘繰り。いよいよか。それほど大きくはない8250万㌦のドル建て社債の利息さえ払えないとは、中国政府は恒大を見放したのだろう。あすから中国経済が大混乱に陥る。その強烈な余派が日本を含め世界に。

⇒7日(火)午前・金沢の天気     あめ

☆「雪吊り」は庭木のアート

☆「雪吊り」は庭木のアート

   この時節、金沢の一つのキーワードは「雪吊り」だ。11月に兼六園で雪吊りのニュースが流れると金沢市内の家々でも雪吊りが始まり、12月初旬にピークを迎える。我が家も造園業者に依頼している。きょうは朝から小雨が降っていたが、庭師が来てくれた。

   庭木に雪が積もると、雪圧や雪倒、雪折れ、雪曲など樹木の形状によってさまざま雪害が起きる。金沢の庭師は樹木の姿を見てどのような樹木の雪対策をしたらよいか判断する。「雪吊り」「雪棚」「雪囲い」など11種の方法があると、出入りの庭師から聞いた。毎年見慣れている雪吊りの光景だが、縄の結び方などが樹木によって異なるのだ。

   雪吊りで有名なのは「りんご吊り」。我が家では五葉松などに施されている=写真・上=。木の横に孟宗竹の芯(しん)柱を立てて、柱の先頭から縄を17本たらして枝を吊る。パラソル状になっている。「りんご吊り」という名称は、金沢では江戸時代に庭にリンゴの木を植えていて、果実がたわわに実ると枝が折れるのを補強するためそのような手法を用いた。それが冬の樹木にも応用されたと伝えられている。

   低木に施される雪吊りが「竹又吊り」=写真・下=。ツツジの木に竹を3本、等間隔に立てて上部で結んだ縄を下げて吊る。秋ごろには庭木の枝葉を剪定してもらっているが、庭師は庭木の積雪を意識して、積もらないように剪定を行うと話してくれた。その仕事ぶりを見ていると、「庭木のアーチスト」ではないかと思う。庭木の積雪をイメージして剪定を行い、雪害を予想して庭木の生命や美の形状を保つために、雪吊りや雪囲いといった作業をする。

     関西や関東の友人たちに雪吊りの写真をメールで送ると、「長期予報で北陸が暖冬だったら、わざわざ雪つりをする必要はないよね」と返信があったりする。理にかなってはいるが、冬の現実はそう単純ではない。暖冬ではあっても、冬将軍は突然やってくる。一夜にして大雪になることもままある。北陸の雪は湿っぽく重い。とくに松の木の枝には雪が積もりやすく、大雪になると枝がボキボキと折れる。「備えあれば憂いなし」の心構えで、暖冬予報であっても雪吊りをする。雪つりは年末の恒例行事でもある。気持ちの問題として、年末の大掃除のように、これをやらないと気持ち的にけじめがつかないということもある。

⇒6日(月)夜・金沢の天気      くもり

★「田の神さま」をもてなす能登人のココロ

★「田の神さま」をもてなす能登人のココロ

   きょう(5日)奥能登の伝統的な農耕儀礼「あえのこと」を見学した。農家が田んぼから田の神を自宅に招いて、稲の実りに感謝してごちそうでもてなす行事。2009年にユネスコ無形文化遺産にも登録されている。能登町の柳田植物公園内にある茅葺の古民家「合鹿庵(ごうろくあん)」では毎年公開で儀礼を行っていて、今回も50人余りが見学に訪れていた。  

   田の神はそれぞれの農家の田んぼに宿る神であり、農家によって田の神さまにまつわる言い伝えが異なり、夫婦二神、あるいは独神の場合もある。共通していることは、目が不自由なこと。働き過ぎで眼精疲労がたたって失明した、あるいは稲穂でうっかり目を突いてしまったなど諸説がある。目が不自由であるがゆえに、農家の人たちはその障がいに配慮して接する。座敷に案内する際に段差がある場合は介添えをし、供えた料理を一つ一つ口頭で丁寧に説明する。演じる家の主(あるじ)たちは、どうすれば田の神に満足いただけるもてなしができるかそれぞれに工夫を凝らす。

   田の神のもてなし役は執行者と呼ばれるが、合鹿庵での執行者は近くに住む中正道(なか・まさみち)さん、70歳。中さんは町の「あえのこと」保存会の会員であり、前日に自宅を訪問して話を聞いた。開口一番に、「地元の人は『あえのこと』とは言いません。『タンカミサン(田の神さま)』ですよ」と。もともとこの農耕儀礼には正式な名称というものがなく、いまでも農家の人々はタンカミサンと呼んでいる。かつてこの地を訪れた民俗学者の柳田国男が「あえのこと」として論文などで紹介し、それが1977年に国の重要無形民俗文化財に、そしてユネスコ無形文化遺産の登録名称になった。「あえ」は「饗」、「こと」は「祭事」の意で饗応する祭事を指す。

   確かに、ユネスコ登録では宗教行事は回避されるため、「田の神さま」より「あえのこと」の名称の方が審査が通りやすかった。それでも、中さんは「あえのこと」の登録名称に今でも違和感があると正直に語った。また、ユネスコ無形文化遺産に登録されたことを意識してか、農家では「素朴な感謝の気持ちより、儀礼を行うこと自体が目的となっているのではないか」と懸念する。調度品やお供え物が豪華になり、服装も羽織袴になった。
   
   さらに、伝統な供え物では「焼き物」は「田が焼ける(かんばつ)」につながり、「蒸し物」は「虫(害虫、イモチ病)」につながることから避けられてきた。それが、最近では「茶碗蒸し」を出す家もある。「伝統的な供え物には農家の心や願いが込められている。できるだけ正確に伝えることに、伝統や無形文化遺産の価値があるはず」と。中さんは地域の人たちや、両親、祖父母から聞いてきたことを冊子にまとめ、農家の後継者の人たちに「田の神さま」を伝えている。

(※写真は能登町「合鹿庵」で執り行われた農耕儀礼「あえのこと」行事。田の神さまにことしのコメの出来高を報告する中正道さん=写真・左=)

⇒5日(日)夜・金沢の天気     はれ

☆テレビ的な和みのストーリ-の裏を読む

☆テレビ的な和みのストーリ-の裏を読む

   これは「メンツと利権のマッチング」なのか。このブログで何度か取り上げている中国の前の副首相から性的関係を迫られたことをSNSで告白したのち、行方が分からなくなっていたプロ女子テニスの彭帥(ペン・シュアイ)選手の問題。IOCのバッハ会長は先月21日、彭選手とテレビ電話で対話をしたとIOC公式ホームページで発表した=写真=。さらに、今月1日にもIOCチームが彭選手とテレビ電話でコンタクトを取り、「彼女と定期的に連絡を取り合い、1月に個人的な会合を持つことで合意した」との「IOC Statement」をホームページで発表している。

   バッハ会長のテレビ電話は不評だった。ロイター通信(日本語版、11月22日付)は、女子テニスのツアーを統括するWTAの広報担当者の「この動画で、彼女の性的暴行疑惑について検閲なしに完全かつ公正で透明な調査を行うという、われわれの要求が変わることはない。それがそもそもの懸念だ」とIOC批判のコメントを、BBCニュースWeb版(同22日付)もアスリートの声として「IOCが中国当局の悪意のあるプロパガンダと基本的人権と正義に対するケアの欠如に加担している」とのコメントを紹介し、不評を煽った。

   IOCはなぜ彭選手とテレビ電話にこだわったのか。IOCは北京オリンピックをぜひ開催してほしい、そのためには彭選手問題を鎮静化させたいとの思いがあるのだろう。何しろ、オリンピックの放映権料と最上位スポンサーからの協賛金がIOCに入る仕組みになっている。また、中国としては北京オリンピックを是が非でも開催したいというメンツがある。双方の思惑が絡んでのマッチングが「テレビ電話」だった。

   では、誰が仕掛けたのだろうか。最初は中国側がバッハ会長に持ち掛けたのではないかとの印象だった。ところが、IOC側はホームページで2度も彭選手とのテレビ電話での対話を掲載している。こうなると、IOC側の積極的な意図を感じる。

   以下は憶測だ。前述したようにIOCが簡単に五輪を中止しない理由は、IOCの収入は放送権料が73%、スポンサー料が18%だ。その放送権料の50%以上をアメリカの民放テレビ局、NBCが払っている。東京オリンピックと韓国・平昌冬季大会(2018年)を合算した数字だが、NBCの供出額は21億9000万㌦にも及ぶ。そのNBCが東京オリンピックの開催をめぐって、アメリカ国内では批判にさらされた。「NBC Approaches “Moral Hazard” Amid Tokyo Olympics Push During Pandemic」(週刊誌「ザ・ハリウッド・リポーター」6月23日号)、モラル・ハザード(倫理観の欠如)のレベルだ、と。さらに今回の北京オリピックではもともと新疆ウイグル自治区などでの人権問題に加え、彭選手問題が起きた。NBCに対するアメリカの世論は相当厳しいに違いない。

   ある意味でIOCと一心同体の関係にあるNBCはバッハ会長に対して、テレビ電話での対話を入れ知恵した。なぜそう勘繰ったかというと、テレビ電話を使い、会食の約束をするという和みのストーリーは実にテレビ的な発想、演出方法なのだ。ところが、バッハ会長の起用には誤算が生じた。そこで、2回目の対話ではIOC選手委員会のエマ・テルホ委員長(アイスホッケー)ら女性を起用したのではないだろうか。あくまでも憶測だ。

⇒4日(土)午前・金沢の天気     あめ

★呆気にとられる

★呆気にとられる

   このところ呆気にとられるニュースが多い。以下いくつか。18歳以下の子どもたちに10万円相当を給付する事務経費に1200億円を要すると報道されていた。所得制限は設けるものの、18歳以下の国民を対象に5万円の現金給付に加え、5万円分のクーポン券を来春までに配布する。現金給付にかかる事務費は300億円で、クーポン券での給付によって900億円の追加費用がかかるとのこと。政府、与党は「ばらまきにしないための必要経費」との立場だが、まさに「愚策」ではないか。

   そもそも、クーポン券に有効期限を設定することで、消費喚起という意味で現金よりもムダのない給付が可能としているが、もともと使う予定だった現金が貯蓄に回ることになるので、現金給付でもクーポン券配布でも消費喚起の効果はまったく同じだ。900億円のムダ。呆気にとられる。

   北陸に住んでいると配置薬の「富山の薬」はありがたい。ただ、その薬が信用できなくなると話は別だ。医薬品製造販売の「廣貫堂」(富山市)がこのほど自主回収を始めた14製品のうち、4製品で製造販売承認書の記載と異なる添加物を使っていたことが、独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」が公表した資料で明らかとなった。さらに4製品は品質検査の承認規格に適合しておらず、1製品は原薬の受け入れ試験記録が見つからないため試験を実施したかどうかも確認できないなど、ずさんな製造だった。「廣貫堂」は「薬の富山」のトップメーカーだ。同じ富山市のジェネリック医薬品製造「日医工」もことし3月、品質試験の際の記録の不備などが発覚し、高血圧薬など75製品を自主回収している。

   「薬クソ売」という少々下品な響きの言葉がある。効き目のない薬を高く売ってボロ儲けしている業者を皮肉る意味で使う。さらに、「薬九層倍」という四字熟語がある。薬の売値は原価に比べて非常に高く、利益が多いことから、巨大な利益を得ることのたとえ(三省堂「現代新国語辞典」)。呆気にとられる。   

   日本大学の前理事長が脱税の疑いで逮捕されるなど、私立大学のガバナンスが問われている。理事長だった田中英壽容疑者は1億2000万円の所得を隠し、5300万円を脱税した疑いで先月29日に逮捕され、東京地検特捜部と東京国税局は改めて前理事長の自宅を捜索するなど捜査を進めている(12月3日付・NHKニュースWeb版)。

   ことし9月に東京地検による理事への強制捜査が始まって3か月近くにわたっているものの、大学側による記者会見が一度も開かれていない(同)。この報道には呆気にとられた。ホームページではコメントを掲載しているが、記者会見を実施してない。これでは、大学組織としての説明責任を放棄しているに等しい。組織そのものが機能不全の状態に陥っているのではないか、という見方もできる。大学運営は今後どうなるのか。

⇒3日(金)夜・金沢の天気   あめ

☆IOCバッハ会長の「悪あがき」

☆IOCバッハ会長の「悪あがき」

   これはIOCバッハ会長の悪あがきだ。IOC公式ホームページをチェックすると、「IOC Statement on the situation of Peng Shuai」の見出しで、先月21日に引き続き、今度はIOCチームが中国の女子プロテニス、彭帥(ペン・シュアイ)選手とテレビ電話で話したと掲載している。しかし、不思議なのは会話した人物が明記されていない。「We share the same concern as many other people and organisations about the well-being and safety of Peng Shuai.」で文章は始まるが、この「We」が誰と誰なのか。11月21日付の文章では「Today, IOC President Thomas Bach held a video call with three-time Olympian Peng Shuai from China.」とバッハ会長の名前が記されていた。一体どのようなIOCチームが彭選手と話したのか。

   記事では、「私たちは、彭選手の幸福と安全について、他の多くの人々や組織と同じ懸念を共有しています。これが、ちょうど昨日(12月1日)、IOCチームが彼女とビデオ電話を行った理由です。私たちは彼女の幅広いサポートを提供し、彼女と定期的に連絡を取り合い、すでに1月の個人的な会合を持つことで合意しました」など記している。この記事を読めば、おそらく誰もが「演出めいている」と感じる違いない。「IOC Statement」として公式に発表するのであれば、IOCの誰と誰が彭選手と連絡を取って無事を確認したのか、実名を公表すべきだろう。11月21日のときは、バッハ会長のほかに中国オリンピック委員会の李玲蔚副主席とIOC選手委員会のエマ・テルホ委員長(フィンランド)の2人も参加したと報じられていた。この2人なのか。

   IOC声明に先立って、WTA(女子テニス協会)のスティーブ・サイモンCEOは1日、公式ホームページで声明を発表し「中国の指導者たちはこの非常に深刻な問題に信頼できる方法で対処していない」などとして「香港含む中国で開催されるすべての大会を直ちに中止する」ことを明らかにした。さらに声明では「彭選手の居場所は明らかになったが、彼女が安全で自由かということや、検閲されたり強制や脅迫されていることに深刻な疑問を抱いている」としたうえで、現在の状況を踏まえて「来年、中国で大会を開催した場合、すべての選手やスタッフがリスクに直面する」などとして大会を開催した場合の安全性に懸念を示した(12月2日付・NHKニュースWeb版)。

   冒頭で「IOCバッハ会長の悪あがき」と述べたが、WTAの事例にならって、ほかのスポーツ団体や参加予定国が北京オリンピックを辞退することにならないか、おそらくIOCと中国は懸念したのだろう。再度バッハ会長がテレビ電話で会話するとさらなる悪評が立つ。そこで、IOCチ-ムは彭選手と連絡を取り合って無事を確認していると演出を図ったのだろう。ホームページでの掲載もバッハ会長の指示、あるいは中国側の依頼だろうが、むしろ逆効果ではないか。

⇒2日(木)夜・金沢の天気   はれ

★きょうから師走 寒波、コロナ禍への備えは万端か

★きょうから師走 寒波、コロナ禍への備えは万端か

   きょうから12月、北陸ではさっそく寒波がやってきた。けさから突風とともにあられが散発的に降って庭に積もっている=写真=。テレビ各社の昼のニュースによると、本格的な雪のシーズンに備え、金沢市役所では除雪作業本部がきょう設置された。大雪だった昨シーズンは道路で雪にタイヤがはまり、前にも後ろにも進まなくなるスタック(立ち往生)状態になるトラブルが市内各地の道路で相次いだ。このため作業本部では除雪計画を見直し、これまで15㌢以上の積雪で除雪車を出動させていたが、ことしからは10㌢以上積もれば除雪作業を行う。実際に雪道を車で走ると緊張感に包まれる。教訓を生かした「5㌢はやめ」の除雪はありがたい。

   自身も積雪の道路に備えるため、毎年今ごろに近くの自動車修理工場でタイヤ交換をしてもらっている。きょう午前中、電話予約を入れた。すると「2週間待ち」との返事だった。今月下旬となれば、積雪は少なくとも路面が凍結することもある。内心あせったが、仕方なく予約を15日に入れた。なぜ予約がこれほど殺到しているのか。長期予報で「ことしは大雪」との情報が流れている。北陸を含め雪国の人々は積雪情報に敏感だ。自身も予約をもう少し早めに入れるべきだったと悔いた次第。

   早めの対応といえば、岸田総理のコロナ対応は迅速だった。先月29日、WHOが変異ウイルス「オミクロン株」を「懸念される変異株」に指定したことを受け、水際対策として外国人の新規入国を「30日午前0時から、全世界を対象に禁止する」と発表した。そして、アフリカのナミビアから入国した30代の男性外交官がオミクロン株に感染していたことが確認された(30日付・内閣内閣官房官の記者会見)。オミクロン株による国内初感染だった。絶妙なタイミングだ。この後先が逆だったら、おそらく「決断が遅い」とメディアからバッシクングされていたに違いない。安倍、菅の両総理の二の舞いを避けようと岸田総理は早めの決断をしたのだろう。

   オミクロン株の登場で待たれるのがワクチン3回目のブースター接種だ。きょうから医療従事者を対象に全国で始まり、金沢市でも今月中旬からを予定している。医療従事者以外では、金沢市は来年1月から高齢者施設の利用者などへの接種を始め、2月からはそれ以外の65歳以上の高齢者への接種を開始すると広報で発表している。ブースター接種は2回目から8ヵ月を経過している人から順次なので、自身の場合は来年3月下旬となる。それまで第6波が来ないことを祈るしかない。

⇒1日(水)午後・金沢の天気      あめ時々あられ

☆「オミクロン株」がやって来る

☆「オミクロン株」がやって来る

   民族の生き残りをかけて戦ってきた歴史のある国はパンデミック下の対応も的確だと感心させられる。イスラエルのことだ。報道によると、南アフリカで確認された新たな変異ウイルス「オミクロン株」はイギリスやドイツなどヨーロッパでも感染の確認が相次いでいる。こうした中でイスラエルは水際対策を強化するため、今後14日間は特別な許可がない限りすべての外国人の入国を禁止、また、帰国者はワクチン接種を終えていても3日間の自宅隔離を義務付けることを決めた(11月28日付・NHKニュース)。

   イスラエルは世界に先駆けてワクチン接種(ファイザー社製)を開始したことでも知られる。そして、3回目のワクチン、いわゆる「ブースター接種」にいち早く着手したのもスラエルだった。ワクチン接種の効果でことし5月から6月にかけては、感染者数がゼロに近づいた=写真・上、11月28日付・ジョンズ・ホプキンス大学「コロナダッシュボード」より=。ところが、7月以降は変異ウイルス「デルタ株」による感染再拡大に見舞われる。そこでワクチン接種後の時間経過とともに効果が減少することを問題視し、7月末からは60歳以上を対象にブースター接種を開始する。それでも、9月をピークに第4波が訪れた。現在は収まってはいるが、そこにオミクロン株が登場した。なかなか収束しない中で今回、外国人の入国制限を決断したのだろう。

   日本の現状はどうか。現在はイスラエルの5月から6月かけての状況と似ている=写真・中、同=。が、時間が経過すればワクチン効果が薄れる。その間隙をぬって第6波がやってくるだろう。日本の水際対策は大丈夫なのか。政府は今月8日から、ビジネス目的の入国規制緩和や、新規留学生および技能実習生の受け入れ再開が実施している。これまで、ワクチン接種を終えたビジネス来訪者には入国後10日間の待機を求めていたが、3日間に短縮。留学生や技能実習生を対しても、受け入れの大学や企業や団体による入国者の行動管理を条件に認めた。インバウンド観光客の入国は現在も認めていない。

   新たなオミクロン株の感染拡大によって、政府は新たな措置として今月27日から南アフリカのほか8ヵ国(エスワティニ、ジンバブエ、ナミビア、ボツワナ、レソト、モザンビーク、マラウイ、ザンビア)からの邦人帰国者や在留資格を持つ外国人入国者に対して、指定宿泊施設での10日間の待機を義務付けた。はたしてこれで十分なのか。

    日本と同じ島国のイギリスでは感染拡大の勢いが現在も増している=写真・下、同=。さらに、国内でオミクロン株の感染が確認された。BBCニュースWeb版日本語(11月28日付)によると、ジョンソン首相は緊急記者会見で、国民には店舗や公共交通機関でのマスクの着用の義務化、さらに入国する人すべてを対象に2日以内にPCRの検査を受けて陰性だと確認されるまでは隔離を義務づけるなどの新たな対策を打ち出した。

   イギリスは昨年12月に感染拡大が急増し、クリスマスの直前になって規制緩和を中止するという事態に陥った。ことしはクリスマスの前までにはオミクロン株によるさらなる感染拡大を何とか収めたいと必死なのではないか。

⇒29日(月)午後・金沢の天気     はれ

★「能登GIAHS」10周年の国際会議から~下~

★「能登GIAHS」10周年の国際会議から~下~

   能登の世界農業遺産「能登の里山里海」が認定されて10年周年を記念する国際会議(11月25-27日)と連携して「GIAHSユースサミット2021 ㏌ NOTO」が26日に開催された。国連大学サスティナビリティ高等研究所OUIKが主催し、GIAHS認定サイトの能登地区から飯田高校、鹿西高校、日本航空高校石川、新潟県から佐渡総合高校、そして宮崎県から五ヶ瀬中等教育学校の5校が参加、生徒40人が集った。テーマは「世界農業遺産を未来と世界へ~佐渡と能登からつながろう~」。

        ユース宣言の力強さ、そして「知事の花道」

   ちなみに、OUIKのフルネームは「いしかわ・かなざわオペレーティングユニット」。国連大学サスティナビリティ高等研究所が世界に6ヵ所設けているフィールド研究拠点の一つで、2008年4月に金沢市で開設された。里山里海と生物多様性などを研究テーマとしている。

   生徒たちは8つのグループに分かれて世界農業遺産をテーマに生物多様性や農業の発展、産業の発展、伝統文化、食文化、教育、発信などについて、それぞれの地域(サイト)の特徴や課題を話し合った。その内容を「GIAHSユース宣言」(13項目)としてまとめた。以下抜粋。

   将来の農業に向けては「3. 小さなアクションが積み重なれば世界はかわっていくはずです! 地域経済をより身近なものとして、問題について考え続けます」「4. GIAHS地域に密着した商品やブログラムのアイデアを考えます」、認定地の大人たちへは「11. 私たちは、GIAHS地域の自然環境を守るために、開発の抑制や、その代替えとなる案を、共につくり出すことを希望します」、世界の認定地のユースへは「13. 私たちと一緒にGIAHSのことをもっと知り、地域とつながり、積極的に行動して、GIAHSの輪を広げて行きましょう」。生徒自らが作成した台本で宣言した=写真・上=。

   能登の世界農業遺産は10年を経て、さまざま課題も浮き彫りとなっている。それは、少子高齢化と人口減少によって能登が持続可能な地域社会であり続けられるのかどうかだ。里山里海の保全や農林水産業の事業継承、祭り文化の担い手を養成していくことが課題となっている。しかし、高校生が授業で自分たちの地域の世界農業遺産について学ぶチャンスはほとんどないのが現状だ。OUIKが「ユースサミット」を企画した狙いは、GIAHS地域の「サスティナビリティ」を高めることだ。自身も同じ想いでユースサミットを傍聴していたので、生徒たちのユース宣言を聴いて、その力強さに心が励まされた。

   話は変わる。この国際会議開催の提唱者は谷本正憲県知事と県庁関係者から聞いている。前々回のブログで述べたように、2013年5月の「GIAHS国際フォーラム」の能登誘致も、知事がローマのFAO本部に事務局長を訪ね、直談判で開催にこぎつけた。今回の国際会議の基調講演で、「能登GIAHSは国内で初めて認定された。トップランナーとしてさらに深化させていく」と強調していた。政策としてSDGsやカーボンニュートラルを先取りして、能登GIAHSをバックアップしていくと具体的な政策を述べた。国際評価を得ても、情報発信を続けなければ価値はないとの趣旨だった。

   谷本氏は現在7期目。76歳。今月17日には来年3月の任期満了に伴う知事選には立候補せず、今期限りでの退任を表明した。今回の国際会議はある意味で、「知事の花道」のようにも思えた。うがった見方だが。(※写真・下は「GIAHSユースサミット」で生徒たちに国際会議の開催について述べる谷本知事)

⇒28日(日)夜・金沢の天気     はれ