⇒ニュース走査

☆「セルフ」で考えたこと

☆「セルフ」で考えたこと

  数量で表記するのと、手から伝わる実感の違いは大きい。先日、金沢市内でセルフのガソリンスタンドを使った。これまで給油はスタンド任せだったが、これだけガソリンが高騰すると、疎い私でも経済観念が働く。スタンド店員に教えてもらい、ほぼキャッシュディスペンサー(現金自動支払機)の感覚でピッピッと手続き。あとは、静電気除去装置に触れて、給油ガンを差し込みレバーを握るだけ。

   51㍑のガソリンが入ったが、その1分か2分の給油時間がとても長く感じられ、複雑な気持ちになった。ドクドクとガソリンが注ぎ込まれる音と振動がする。地球の資源である化石燃料を消費しているとの実感が手から伝わってくるのである。これまではスタンド任せだったので、金額しか眼中になかった。

   別の精算機で領収書のバーコードをかざすとつり銭が出てくる。計算をしよう。51㍑で税込み6218円、つまり1㍑当たり122円である。セルフを利用する前は、1㍑何円は高いか安いかという発想になったに違いない。しかし、今回はこれだけの化石燃料を使って乗用車を動かす価値はあるのだろうか、などと考えてしまった。ある意味でセルフスタンドはリアル感を伴った環境教育の場になるかもしれない。

  きょうで10月も終わり。あすから兼六園で冬支度の雪つりが始まる。季節は移ろう。

 ⇒31日(月)朝・金沢の天気   はれ   

★「岩、動く」「もはや運命」

★「岩、動く」「もはや運命」

                                                         インターネットのフリー百科事典「ウィキペディア」で、「岩城宏之」と検索すると、「…近年の顕著な活動としては、2004年12月31日のお昼から翌2005年1月1日の深夜にかけて、東京文化会館でベートーヴェンの全交響曲を一人で指揮したのが知られている」と記されている。クラシック界のことをきちんと理解し評価できる人が執筆していると思う。

  8月に肺の手術を受け療養中だったオーケストラ・アンサンブル金沢の音楽監督で指揮者の岩城宏之さんがきのう(4日)、金沢市での復帰公演となる「モーツアルトフェスティバルIN金沢」(6日)を前に記者会見をした。今回で25回目の手術。岩城さんが音楽堂のオフィスに入るや、スタッフから拍手が沸き起こった。声の張りも以前と変わらず。その気迫に私は、「不死身(ふじみ)」という長らく忘れていた言葉を思い出した。石川県立音楽堂での記者会見の1時間ほど前に岩城さんにお目にかかることができた。時間にして15分間ほど。

  今回お目にかかって改めて岩城さんの超人ぶりに心を揺さぶられた。上の2枚のチラシを見ていただきたい。チラシは表と裏の一枚チラシなのだが、岩城さんの生き様を2つの意味で表現している。向かって左は「岩、動く」「岩城宏之、大いに暴れる」のキャッチコピー。10月30日のコンサート(東京)のチラシだ。最初、選挙ポスター風のチラシなので、9月11日の総選挙のパロディー版だと思った。そこで私の方から「面白いコピーですね」と水を向けた。すると意外な言葉が返ってきた。「あと10年、周囲は無理せず穏やかにと言う。これでは面白くないと思ってね、三枝さんの所で暴れることにしたんだ」(岩城さん)。なんと10月から、これまで自らつくり育てた所属事務所「東京コンサーツ」から、作曲家の三枝成彰氏の事務所「メイ・コーポレーション」に移籍したのである。「大いに暴れる」ために「岩、動く」(つまり移籍)。これは「移籍記念」コンサートのチラシなのだ。

  もう一枚のチラシ。「もはや運命」「岩城宏之ベートーベン第一から第九まで振るマラソン」。ことしも12月31日、東京芸術劇場で9時間かけて、ベートーベンの全交響曲を指揮する。ウィキペディアで記載されたように、評価が定まった偉業をことしもさらに続ける。あくなき挑戦だ。「チャンスを見てヨーロッパに。三枝さんは誇大妄想だから」と笑う。額面どおり受け止めれば、西洋クラシックの総本山、ヨーロッパに乗り込んでベートーベンの第一番から第九番までのチクルス(連続演奏)をやる、そのために身柄を三枝さんに預けたと言うのである。入院中にこの壮大なプランが生まれたのか。73歳、岩城さんから鬼気迫るものを感じた。

  手術を25回もして、「生きる」とか「生き抜く」というレベルを超越して、オーラがみなぎっている。岩城さんの凄まじい生き様を文章表現することは私には到底できない。この眼で見届けてみたいと願うだけである。たまにその様子を描写してみたいとも思う。

⇒5日(水)朝・金沢の天気  くもり

☆自民1強、ロイヤルサルートの夜

☆自民1強、ロイヤルサルートの夜

    総選挙の大スペクタクルをテレビで「観戦」するのを楽しみにしていた。昨夜はとっておきのスコッチ(「ロイヤル・サルート21Y」)をそばに置いて、刻一刻と積み上がる数字を自分なりに楽しんだ。何しろこれまで総選挙の時はテレビモニターの向こう側のテレビ局で慌ただしくしていた。ゆっくりテレビ観戦というのはとても贅沢な時の流れのように思えた。で、スコッチを傍らに置いた。

    結果は自民の圧勝。「自民296議席」だが、実質「297」だ。比例代表の東京ブロックで、自民は8議席を獲得できる票を得ながら、重複立候補の小選挙区当選者を除く名簿登載者が7人しかいなかったため、1議席は結果的に社民党に割り振られたのだ。これは誰も予想しなかった。都市部での自民支持のすさまじさが数字となって現れたかっこうだ。

    話題をローカルに転ずる。きのう(11日)午前、金沢は土砂降りだった。石川県加賀地方には大雨洪水警報が発表された。北信越高校野球の県大会も6試合のうち5試合が雨で順延となった。当然、投票の出足に影響をもたらすと想われたがフタを開けてみると、石川1区は68.71%(前回59.58%)と9ポイントも上回った。予想外の投票率。そして自民の馳浩氏が2万9千票余りも差をつけて民主の奥田建氏を振り切った。投票率の上昇効果で無党派層を取り込んだのは自民だった。 

   圧勝した小池百合子氏(東京10区)やかろうじて逃げ切った片山さつき氏(静岡7区)、健闘した堀江貴文氏(広島6区)の戦いぶりを見ると、もはや「地盤」や「看板」という選挙のキーワードは通用しなくなったように思える。この結果を見て、投票前に会った元金沢市会議員のNさんの言葉を思い出した。N氏はこう言った。「市会議員は県のことを、県議は国のことを、国会議員は世界と日本のことを考えるべきだ。有権者はそう願っているのではないか」と。つまり大きなテーマで1票を投ずることの醍醐味を有権者は味わいたいのである。日本の選挙は「しがらみ」や「地縁」という旧態依然としたあり方を超えて、本来あるべき政治の姿へと脱皮したのではないか。

   テレビを見ていて、小泉総理の言葉が耳に残った。「民主の失敗は郵政民営化に反対したことだ」。そして、視覚として残ったのは、小池百合子氏と小宮悦子キャスターの2人はとても顔が似てきたこと。後者はロイヤル・サルートの酔いのせいかもしれない。自民の1強時代に入った。組閣も早いだろう。

⇒12日(月)朝・金沢の天気  晴れ

★静かなる怒りの1票

★静かなる怒りの1票

きょう期日前投票(不在者投票)を済ませてきた。投票日の9月11日は所用があるからだ。というより、「早く選挙がしたい」と思ったからかもしれない。同じような思いをもった人が多いらしく、総務省によれば、8月31日から9月4日までに期日前投票を済ませた人は全国で201万人余り。2003年11月の前回衆院選で同時期の不在者投票者数を集計していた21都府県で比べると投票者数は前回より62.4%も増えているのだ。

   きょうは自宅近くの金沢市泉野福祉健康センターで投票した。1階が「投票所」になっていて、入ると宣誓書を書かされる。期日前投票をする理由を選んで○をつける。私の場合、「仕事」が理由だ。ほかに氏名、生年月日、住所などを記入する。次の受付で小選挙区、比例代表、最高裁判事の国民審査の3種の投票用紙が渡される。あとはいよいよ投票だ。石川1区だから、仮に投票率が65%として、23万分の1程度のことなのだが、ちょっと緊張する。心のどこかで「オレの1票が」との思いが潜んでいるのだろう。期日前投票は午前8時30分から午後8時まで行われている。

   ところで、「清き1票」を済ませて、外に出ると、中年とおぼしき女性2人がおしゃべりをしていた。2人の横を通り過ぎるとき、1人の女性が「あんなん、懲らしめてやらんとね…」と言っているのが聞こえた。残念ながら前後の会話は分からなかったが、選挙の話であることは雰囲気で理解できた。戻って聞けるはずもない。ただ想像するだけである。「小泉総理のやり方は横暴だ。だから、あんなん…」となったのか、あるいは、「民主党はなんでも反対して改革が前へ進まない。だから、あんなん…」となったのか。

   きょういっしょにお茶を飲んだ友人が言うには、会社の若い社員(女性)がきのう期日前投票を済ませたらしい。「今度ばかりはと思って初めて投票をした」とちょっと興奮気味にしゃべっていたという。「今度ばかりは」の言葉の前後はいったい何なのか。「懲らしめてやる」「今度ばかりは」という言葉は怒りの表現である。何の怒りが有権者を期日前投票に駆り立ているのか。偶然にも耳にしたこれらの言葉は案外、今回の総選挙のキーワードなのかもしれない。

⇒6日(火)夜・金沢の天気   くもり

★「ミモレットの約束」と同調

★「ミモレットの約束」と同調

   この「ミモレット」をめぐる選挙のコラムは3部作シリーズのようになってしまった。意図したわけではない。選挙をめぐる動きが急なのである。

   さて、25日夜の小泉総理、総裁派閥会長の森氏、武部党幹事長による会食では、ミモレットを話題にしながらも次なる選挙の秘策が交わされたと私は推測している。会食は、民主の小沢氏が「年金問題」をクローズアップさせるため「一対一の党首討論」を持ち出してきたことがきっかけだった。会食の席で、森氏は「総理も年金を一本化すると派手にぶち上げたらいい」と提案した。しかし、小泉総理は「総裁任期は来年9月までと公言しており、法案整備に数年かかる年金問題をいま声高に持ち出せば、野党が矛盾だと突いてくる」と渋った。そこで、森氏が「任期延長(小泉続投)もありうる」と地ならしをした上で、選挙最終盤になって小泉総理が「郵政民営化法案の可決後に直ちに年金一本化に着手する」とぶち上げ一気に追い込みに入る、というシナリオが出来上がった。話がまとまり、会食に集った自民首脳はほくそ笑みながら「選挙に勝ってミモレットをツマミに祝杯を上げよう」と約束した。私はこの推論上の秘策のシナリオを「ミモレットの約束」と名付けることにした。

    話はローカルになる。25日午前10時ごろ、金沢大学角間キャンパスにある郵便局の前を横切ると、「奥田と言います。よろしく」とパンフを渡された。ふいだったので思わず手に取った。顔を見ると、郵便局から出てきたのは石川1区の民主・奥田建氏本人だった。かつて取材したことがあり、「奥田さん大変ですね」と今度はこちらから声をかけた。すると本人は「本当に大変なんです。よろしくお願いします」と。会話はそこまで。本人は足早に次の郵便局へあいさつ回りに向かった。

    なぜ2日前の話を持ち出したかというと、小泉総理がきのう26日夕、自民党本部で記者団の質問に答えた内容が気になったからだ。 衆院選で与党が勝利した場合、郵政民営化法案への対応から民主が分裂して一部が自民に合流する可能性について、「民主党の中でも、本音では民営化賛成の人がかなりいるだろう」と総理が自信ありげに語ったという記事だ。奥田氏のように多くの民主の候補者は公示以前からこまめに郵便局回りをしているはずだ。ということは、逆にいま郵便局回りをしていない民主の候補者はひょっとして当選後に造反する可能性があると見てよい。これは私の推測だ。

       経団連が自民支持を鮮明に打ち出すとの記事も先日流れた。かつての「総資本VS総労働」(自民VS民主)の構図が浮き上がってきた。郵政民営化に賛成か反対か、労働側の支援を受けるのか受けないのか。いくつかの対立軸のはざ間で相当動揺している「自民に近い民主」の人たちも確かにいるだろう。関が原の戦いで、同調に躊躇(ちゅうちょ)していた小早川秀秋が、徳川家康に大砲を撃ち込まれた。「決断せい」とのシグナルと受け取った小早川軍勢が西軍に反旗を翻し、これが西軍全体の動揺となり総崩れとなる。

    先の小泉総理の言葉は、同調者を揺さぶり出すと言っているようにも聞こえる。選挙後にどのような「決断の大砲」を撃ち込むのか。選挙という戦(いくさ)はリアリズムに満ちあふれている。この膨大なリアリズムの糸の中から本筋をたどり、切れている箇所を冷静に推論しながら繋いでいく。すると一本に繋がったリアリズムの糸の先に近未来のシナリオが見えてくることがある。その「発見」はささやかな喜びにもなる。

⇒27日(土)夕・金沢の天気    晴れ

☆「ミモレットの和解」と計略

☆「ミモレットの和解」と計略

   きのう25日付の「自在コラム」で「ミモレットの誤解」をテーマに、「干からびたチーズ」の映像からこの選挙のドラマが始まった印象があるとの内容のコラムを書いた。偶然にも、昨夜は「ミモレットの和解」が演出されたようだ。けさの新聞記事によれば、小泉総理が25日夜、自民党本部で森前総理と夕食をともにした。今月6日夜に首相公邸で衆院解散の是非をめぐり激論、決裂して以来とのこと。今回は「豪華な弁当」が出たこともあってか、森氏も機嫌を直したとある。例の、森氏が不平を漏らした干からびたチーズについては、小泉総理が「高級チーズだとは知らなかった」などと一応先輩を立てるかたちで釈明し、「選挙が終わったらそのチーズを出す高級レストランに行こう」と約束し和解したらしい。

    しかし、この会食で交わされた会話は「ミモレットの和解」だけだったのだろうか。小泉総理が自民党本部で武部勤幹事長と協議していた森氏を誘うかたちで会食が実現したとある。つまり、党本部で総理、総裁派閥の長、党幹事長の3人が話し合ったということだ。「豪華な弁当」というから、おそらく料亭から取り寄せた箱型の仕出し弁当だろう。おかずは10品ほど、フルーツもつくから30分は夕食をたべながら話す時間があったはず。「和解」の会話は数分そこそこ、では残りの20数分で何を話し合ったのか。ヒントは森氏がこの日、テレビ朝日の番組収録で語った内容とリンクしている。来年9月までの小泉総理の党総裁任期について、森氏は「党の改革をここまでやったのだから、改革を続けなければいけない。(総選挙に)勝ったら少し余裕を持ってやったらいい」と総裁続投を示唆した(朝日新聞インターネット版)。選挙後の党の体制について言及したのだが、公示前のタイミングでは早過ぎる。以下は私の想像だ。森氏は小泉総理にある決断を迫った。その決断の前提条件として総裁任期の延長を持ち出している、と読む。

    森氏が総理に迫った決断とは何か。民主の小沢一郎氏の動きを睨んだ対応である。会食と同じ25日、民主の藤井裕久代表代行らが自民党本部を訪れ、岡田代表と小泉総理との一対一の公開討論会に応じるよう求める文書を提出した。しかし、自民の武部幹事長は「自民と民主だけでの党首討論は、他の政党に公平ではない。機会均等という観点から慎むべきだ」(記者会見)と拒否する考えを示した。民主の提案した一対一の公開討論会は、有権者の関心事を年金問題にひきつけようとの作戦だろう。「郵政では勝てない」と焦った小沢氏の計略。だから腹心の藤井氏が動いた。

  各党のマニフェストを見比べると、年金問題に関しては、民主は「議員年金を直ちに廃止」とした上で「すべての年金を一元化する」と言い切っている。それに比べ、自民は「公務員を含めたサラリーマンの年金制度の一元化を推進する」としており、民主よりトーンは低い。解散から公示まで22日間と長い。前哨戦では郵政民営化でリードした自民だが、途中で「年金」の旗を掲げる民主の巻き返しも予想される。自民にとっては公示以降の後半戦のテーマをどう設定するかが急務なのだ。

   以下はフィクションである。この日の会食で、森氏は「年金の一本化を民主より声高に打ち出したらどうか」と進言した。これに対し、小泉総理は「(総裁は)来年9月までと公言している。年金改革は数年かかる。これは矛盾だと野党から突っ込まれる」と渋った。森氏は「それだったら、改革のために総裁続投も躊躇(ちゅうちょ)せずと公言すればいい。選挙に勝たなきゃ意味がないじゃないか」と決断を促した。小泉総理もようやく「郵政改革を成し遂げ直ちに年金改革に着手する」とぶち上げると肝(はら)を固めた。協議の結果、その日を投票の3日前と決めた。選挙戦の最終盤で一気に「まくり」に入る。年金問題でなんとか命脈(マニフェスト)を保っている民主の息の根を断つ、というシナリオだ。テレビ朝日の番組収録で「小泉続投」を滲ませたのは森氏の得意とする地ならしだ。

    表向き「ミモレットの和解」の傍ら上記のような選挙の秘策が交わされていたとしても不自然ではない。冒頭の新聞記事では、会食で「選挙が終わったらそのチーズを出す高級レストランに行こう」と約束したとある。私の推測ではそれに続く言葉があったはずだ。(小泉総理)「森さん、歯が立つように薄く切ったミモレットをツマミに祝杯を上げましょう」

⇒26日(金)午前・金沢の天気   雨

★「ミモレットの誤解」と選挙

★「ミモレットの誤解」と選挙

   森喜朗元総理のあの「干からびたチーズ」の映像は何度見ても面白い。実に滑稽なのだ。この人が映画俳優だったらいぶし銀のいい味を出す名脇役になっていたに違いない。

    今月6日夜、小泉総理に衆院解散を思いとどまらせようと森氏が官邸を訪ねたが、「殺されてもいい」と拒否された。その会談で出たのが缶ビールとツマミの「干からびた」チーズだった。会談後、森氏はわざわざ握りつぶした缶ビールと干からびたチーズを取り囲んだ記者団に見せ、「寿司でも取ってくれるのかと思ったらこのチーズだ」「硬くて歯が痛くなったよ」と不平を漏らした。あの映像を見た視聴者は「小泉は命をかけているんだ、本気だな」との印象を強くしたのではないか。選挙のドラマのエピローグはここから始まったように思えてならない。

    この話には後日談があって、あの干からびたチーズはフランス産高級チーズ「ミモレット」だった。ミモレットはカラスミに似た深い味わいで日本酒にもあう。18カ月もので100㌘750円ほど。干からびた風合いが一番おいしいそうだ。もし、森氏が「小泉さんが高級チーズで歓待してくれたよ」と自慢していれば、国民の反感を買って、今ごろ小泉総理に逆風が吹いていただろう。そう考えると、ひょっとしてこれは日本の政治史に「ミモレットの誤解」として語り継がれるかもしれない。

    マスメディアはそれぞれ1週間ぐらいの間隔で世論調査を行い選挙動向を分析しているが、各種の調査は内閣支持率が50%を超えたと伝えている。インターネットでもいろいろなアンケート調査があり、たとえば「goo」のブログサイトが行っている公開アンケートでは、小泉総理による「郵政解散を支持するか、しないか」の設問がある。24日現在で「支持する」が68%、「支持しない」が27%でダブルスコア以上に差が開いている。インターネットを利用するのは比較的若い世代なので、この調査からは若い世代の考えのおおまかな傾向をつかむことができる。

    さらにちょっと踏み込んで考えてみると、今回の選挙は「デジタルっぽい」感じがする。「郵政民営化」にイエスかノーか、すべての小選挙区に賛成の候補(自民)と反対の候補(自民造反組、民主ほか)がいる。「0」 と「1」 とで表現されるデジタル信号のようにも考えられ、今回の選挙はインターネットとの親和性が随分あるようにも思える。そして、「白黒をつける」という分かりやすさが内閣支持率を押し上げているのではないかと考えたりもする。もちろん、小選挙区は「ドブ板」と「しがらみ」のアナログ的な要素があり、デジタルっぽさが内閣支持率を押し上げたとしても投票行動とは必ずしもリンクしない。こうした諸条件を勘案すると、「内閣支持率50%超え」という世論調査はそこそこに的を得た数字ではないかと思う。

    選挙が行われる9月11日まであと17日。TVメディアはそろそろ当日の選挙特番の打ち合わせに入るころ。番組タイトルは「YESかノーか小泉郵政民営化、国民の審判下る!~選挙劇場ライブ2005~」といった感じだ。そして番組構成として、冒頭にこれまでの選挙の「振り返り」VTRを流す。5分ぐらい。そのVTRのスタートのシーンは例の森氏の「干からびたチーズ」のはずだ。VTRが終わると西日本の四国や山陰あたりの小選挙区の当確の速報が早々と流れ始め、大勢の判明は午後11時ごろ。選挙結果を受けての番組第2部の討論コーナーのスタートは11時半ごろか。

 ⇒25日(木)朝・金沢の天気   晴れ

☆ブログと選挙とホリエモン

☆ブログと選挙とホリエモン

    来月26日と27日に「放送ゼミ」の集中講義があり、学生に夏休みの宿題を出した。テーマはズバリ、「2005年総選挙でインターネットのブログはどのような役割を果たしたか検証せよ」だ。

     本来の選挙スケジュールにはなかった総選挙が降って湧いたようにやってきた。これは、マスコミを志望する学生にとってチャンスだ。在学中に選挙というものを考え、ディスカッションするということは就職活動の筆記や面接に役立つだけでなく、選挙と切ろうにも切れない人生を送るわけだからとてもプラスになる。「選挙は民主主義の普遍的なテーマなのだ」と学生に発破をかけた。

    その論点として、日本において選挙に積極的に参加する意思の現れとして「勝手連」や「草の根選挙」といった市民の自発的行動があった。ところが、文明の利器としてのインターネットが1980年代から勃興し、いまではブログという個人がコストをかけなくても自由に意見発表ができるツールにまで発展した。日本でも335万人(総務省調べ・3月末)のブロガーがいて、その数は日ごとに増えるという盛り上がりを見せている。このブログ層が選挙に及ぼす影響についてきちんと分析することは今後の選挙のあり方を考える上で重要なポイントとなる。ブログが全盛期を迎えて初めての国政選挙だけに、おそらく各大学の計量政治学のゼミも取り組み始めている横一線の研究だと推測する。

     ところで、ライブドアの堀江貴文社長が「どうせなら亀井静香氏の対抗馬になりたい」と意欲を燃やしているという。「どうせ買収するならフジテレビ」と言ったあのツボ狙いの感覚が今回も。名を得ずとも、実をしっかりと獲得するホリエモンはすでにこの時点で勝っている。というのも堀江氏の「出馬」でライブドアのホームページのページビュー(閲覧数)はこの8月で月間5億に達する、と業界筋は読んでいる。

     ここで選挙日程と、選挙でどこまでインターネットが使えるか確認する。総選挙の公示は8月30日、投票は9月11日だ。公職選挙法では、公示日から投票日までは立候補者や政党はホームページの更新や開設が原則禁止となる。候補者はもちろん、関係のない個人であってもメールやブログ、掲示板で特定候補への投票呼びかけは禁止である(違反した場合、2年以下の禁固、もしくは50万円以下の罰金)。つまり、堀江氏がインターネットをフルに活用できるのは8月29日までとなる。全般的に言って、今回の総選挙は8月29日までに白黒がつく可能性がある。選挙の争点がはっきりしていて、案外有権者に迷いは少ない。小選挙区で候補者が出そろった段階で勝負が決まるのではないか。「1」か「0」か。これを「デジタル選挙」と言っては早計に失するかもしれないが・・・。

 ⇒19日(金)朝・金沢の天気    晴れ

☆昔「勝手連」いまブログ選挙

☆昔「勝手連」いまブログ選挙

   終戦記念日の15日、小泉総理は東京の千鳥ケ淵戦没者墓苑に献花し、日本武道館で開かれた全国戦没者追悼式にも出席したが、靖国神社への参拝は見送った。10日の「自在コラム」でも述べたように、衆院選で靖国問題が争点化するのを避けたいとの現実的な判断があったのだろう。

    ちょっと意地悪な見方をする。郵政民営化反対派の急先鋒、野田聖子氏は14日に夫の鶴保庸介氏(参議員)と靖国神社を参拝した。私はこの「夫婦参拝」を小泉総理を15日に参拝させるためのおびき出し作戦ではなかったか、と見ている。「8月15日の靖国参拝」を公約に掲げて総理に就任した2001年、小泉総理は中国の反発に配慮して8月13日に参拝した。このとき野田氏は「総理の初心が変節されたのか。いつもの歯切れの良さとは異なり、総理ご自身が日程変更の理由を明確に説明されなかったことを私は残念に思っています」(野田氏ホームページ)と批判している。そこで夫婦参拝を前日に行うことによって、「郵政民営化の公約にそれほどこだわるなら、8月15日参拝の公約も守ってよ」と挑発したのではないかとの推測だ。真意はどうであれ、小泉総理は動かなかった。

    小泉総理のこうした徹底した「郵政」争点化の狙いは的中している。最新のTBS系列のJNN世論調査(13、14日実施)によると、内閣支持率は59.3%、不支持は39.8%である。解散直後の各メディアの内閣支持率は50%前後だったから、日ごとに支持が高まっているとの印象だ。有権者にとっては、小泉総理が自ら軍旗を掲げて関が原の戦いに臨む武将のイメージと重なり、実に分かりやすい。要は「西か東か」、つまり「民営化賛成か反対か」なのである。

    この分かりやすさで、内閣支持率を押し上げているのはインターネットのブログではないかと思う。争点がはっきりしているので、ブログのテーマになりやすい。つまり書き手自らの旗色を鮮明にしやすい。しかも、善玉と悪玉と言っては語弊があるが、両陣営の顔が見えてキャラクターも立っている。こんなにストリーが読める面白い選挙はかつてない。そこで、たとえば「小泉陣営=郵政民営化賛成」に共感したある人がブログを書いたとする。そのブログに50人のアクセスIP数(訪問者数)があり、読んでくれたとすると、乱暴な言い方かもしれないが、「50人のミニ集会」が成立したと同じことにならないか。

    かつて「勝手連」や「草の根」と言われた無数の選挙サポーターがいまブログという手法で参戦しているのではないか。総務省の調査だと、2005年3月末時点の国内ブログ利用者数は延べ335万人、アクティブブログ利用者(少なくとも月に1度はブログを更新しているユーザ)数は95万人いて、日々その数は増えている。今回いろいろなブログをざっと見てみると、「郵政民営化賛成」が多い。このブログ・サポーターが世論形成のベースにいて、内閣支持率を押し上げている要因の一つになっているように思えてならない。もちろん数字的な裏付けはない。ただ、ピーク時に比べ減ったものの「小泉内閣メールマガジン」は160万人に配信されている。しかもそのメルマガは200号を数えた。毎週配信されるメルマガで小泉総理の言動をウオッチし共鳴するコアなサポーター層も存在するのである。

    選挙後こうしたブログ現象と選挙結果が分析され、リンクしていたことが評価されると、「ブログはメディアにのし上がった」と一気に脚光を浴びる。評価されなければ、単なる個人日記にすぎない。

⇒16日(火)朝・金沢の天気   晴れ    

★「キャッチコピー」で読む選挙

★「キャッチコピー」で読む選挙

     きのう(14日)は衆院解散後初めての日曜日とあって、NHKや民放の朝の討論番組は選挙一色だった。今回の一連の流れをメディアに焦点を当て注意深く読んでみると、メディアで報じられた登場人物の「言葉の魔力」というものを感じる。「自民党をぶっ壊す」「殺されてもいい」が注目された衆院解散、その直後の総理会見で「ガレリオは『それでも地球は動く』と言った、私は『それでも郵政民営化は必要だ』と言いたい」と述べ、内閣支持率を一気に上げた。前から言われていたが、小泉総理はキャッチコピーの名人だ。

    ところが、郵政民営化反対派からもキャッチコピーは発せられるものの「名人」がいない。反対のドン・綿貫民輔氏は、すべての反対者の小選挙区に自民が対抗馬を立てることについて「小泉さんは織田信長。罪のない子女まで殺した比叡山・延暦寺の焼き打ちと似てきた」と。綿貫氏はもともと神主だから「宗教弾圧」をイメージして言葉を発したのだろうけれども、視聴者や読者で「延暦寺の焼き打ち」と聞いてピンとくる人はそう多くない。これでは印象に残らない。もう一人の亀井静香氏はきのう、自民から非公認とされた反対派の受け皿とする新党結成について、番組の中で「どうやったら仲間が一人でも生き延びていくか。無所属がいいか、新党でいくべきか、結論は出していないが」と語った。強気の面構えだったが、言葉はすでに萎(な)えていた。視聴者は敏感にそう読み取っただろう。

     では、野党はどうか。きのうは各番組とも与野党の党首討論を企画したが、自民は「マニフェストがまだ完成していない」との理由で同じ討論のテーブルに着かず、野党だけが顔をそろえた。小泉総理に代わり、幹事長代理の安倍晋三氏や元副総理の山崎拓氏らが中継で顔を出していたが、欠席は自民の深謀だろう。野党は当然、年金改革はどうだ、靖国参拝はどうだと、論点を郵政民営化から外しにかかる。ましてや「8月15日」を前に野党から大声を上げられたら小泉総理も3対1で形勢が不利となる。テレビ出演は公の仕事でも義務でもない。もちろん「公の党首は国民に向かって説明する責任があるのでは」と番組プロデューサーは自民サイドと交渉を重ねたに違いない。しかし、命運がかかる「いくさ」を前にそのキャッチコピーがどれほどの説得力を持ったのか。

     番組で傑作だったのは、野党党首の討論の直後に出演した石原慎太郎東京都知事の発言だ。野党党首の発言を聞きながらスタジオの片隅で出番を待っていたので「つまんなかったから、眠くなったよ」と。さらに「(今度の選挙で)社民は消えるね、共産は減らすね」と。さらに亀井氏から新党の党首になってほしいとの要請があったことをあっさりと暴露し、「(亀井氏らは)私怨に満ちているよ」とも。短いフレーズながら、討論の感想と選挙分析、幻の新党の裏話がコミカルにそして鋭く刻み込まれていた。トータルの秒数にして20秒だったろう。言葉の力というのは表現もさることながら、タイミングとスピード感であったりする。

 ⇒15日(月)午前・金沢の天気  雨