⇒ニュース走査

☆大浦天主堂の石畳

☆大浦天主堂の石畳

    ユネスコの世界文化遺産に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎、熊本県)が登録されることになったとテレビ各局がニュースで伝えている。この朗報に接して脳裏に浮かぶのは「大浦天主堂」だ。2006年3月に家族旅行で訪れた。

    案内の男性ガイドが分かりやすく説明してくれたのを覚えている。豊臣秀吉の時代から徳川幕府と続いたキリスト教禁教令で「隠れキリシタン」たちは、表面は仏教徒を装いながら代々伝え聞いた信仰を守り通した。幕末に長崎の外国人居留地にやってきたフランス人宣教師たちが1864年に大浦天主堂を建造。翌年公開が始まると、隠れキリシタンたちが見学者に紛れて天主堂やってきた。まだ禁教令下だった。「サンタ・マリア様の御像はどこですか」と小声でフランス人神父に尋ねた。実に七世代、250年もの隠れキリシタンの存在を知って驚いた神父はフランス、ローマに報告した。宗教史上、類まれなこの出来事が世界に広がった。

    実は「長崎」にはちょっとした個人的にも思い入れがある。宴席でカラオケの順番が巡ってきて、「何か歌って」とせかされて歌うのが、内山田ひろしとクールファイブの『長崎は今日も雨だった』だ。「行けどせつない石畳~」と歌い、自分をカラオケモードに切り替える。

     この歌の場所は、オランダ坂を上がり、大浦天主堂、グラバー邸入り口にかけての石畳なのだ=写真=。現地で初めて理解ができたことなのだが、長崎は「坂の街」である。石畳を敷き詰めないと雨で路肩が崩れてしまう。しかも傾斜が急なところも多い。これは想像だが、天主堂の建設と併せて石畳の舗装も進められたとすれば、隠れキリシタンたちも石畳を歩いたに違いない。どのような思いで石畳の向こうの天主堂を眺めたのだろうか。写真はそのようなことを思いめぐらし撮影した一枚だった。

   天主堂前の石畳の坂道を少し上ると「グラバー邸」に着く。長崎湾を見下ろす高台だ。イギリス人貿易商トーマス・グラバー。長崎が開港した安政6年(1859)に日本にやって来た。若干21歳。2年後にグラバー商会を設立し、同時に東アジア最大の貿易商社だったジャーディン・マセソン商会の代理店になった。大資本をバックに武器の取り扱いを始める。

    グラバーに接近したのは坂本龍馬だった。龍馬は、幕府から睨まれている長州藩が武器の購入を表立ってできないのを知り、自ら設立した亀山社中を通して薩摩藩名義で武器を購入、それを長州藩に横流しするという「ビジネスモデル」を思いつく。グラバー商会から購入した最新銃4300丁と旧式銃3000丁が後に第二次長州征伐である四境戦争などで威力を発揮し、長州藩を勝利へと導く。それがきっかけで薩長を中心とした勢力が明治維新を打ち立てる原動力となっていく。龍馬ファンの間では知られたストーリーではある。

    グラバー邸と天主堂は直線距離にして70㍍ほど。龍馬は石畳で立ち止まり、2つの建築物を眺めて西洋という世界を実感し、新たな時代へのイメージを膨らませたに違いない。天主堂の神父と隠れキリシタンたちの劇的な出会いから2年後の1867年12月に龍馬は京都で暗殺される。「行けどせつない石畳~」。歌うたびに天主堂前の石畳がまぶたに浮かぶ。

⇒1日(日)朝・金沢の天気     はれ

 

☆秀吉の「なまつ大事」

☆秀吉の「なまつ大事」

      大学で担当している授業「マスメディアと現代を読み解く」で、今月18日に起きた大阪北部を震源とする地震をテーマに取り上げた。20日の講義は「震災とマスメディア(上)」。講義のつかみの一つに豊臣秀吉が体験した2度の地震を取り上げた。学生に紹介した文献は平凡社新書『秀吉を襲った大震災~地震考古学で戦国史を読む~』(寒川旭著、2010)。
       1596年9月に慶長伏見地震があり、このとき秀吉は伏見城(京都市伏見区)にいた。太閤となった秀吉は中国・明からの使節を迎えるため豪華絢爛に伏見城を改装・修築し準備をしていた。その伏見城の天守閣が揺れで落ち、城も崩れた。それほど激しい地震だった。慶長伏見地震にまつわる秀吉の伝説がある。誰かが混乱に紛れて刺殺に来るのではないかと、秀吉は女装束で城内の一郭に隠れていたとか、建立間もない方広寺の大仏殿は無事だったが、本尊の大仏が大破したことに、秀吉は「国家安泰のために建てたのに、自分の身さえ守れぬのならば民衆は救えない」と怒りを大仏にぶつけ、解体してしまったという話まで。災難を通して秀吉という天下人の人格が浮かび上がる。

   慶長伏見地震の10年前にも秀吉は地震に遭遇している。中部地方の広い範囲を襲った1586年1月の天正地震。このとき秀吉は琵琶湖に面する坂本城(滋賀県大津市)にいた。当時、琵琶湖のシンボルはナマズで、ナマズが騒いだから地震が起きたと土地の人たちの話を聞き、秀吉は「鯰(ナマズ)は地震」と頭にインプットしてしまった。その後、伏見城を建造する折、家臣たちに「ふしミ(伏見)のふしん(普請)なまつ(鯰)大事にて候まま、いかにもめんとう(面倒)いたし可申候間・・」と書簡をしたためている。現代語訳では「伏見城の築城工事は地震に備えることが大切で、十分な対策を講じる必要があるから・・・」(『秀吉を襲った大震災』より)と。

   実際にどのような地震の備えが伏見城に施されたのかは定かではないが、秀吉が自らの体験で得た防災意識を建築に取り込んだことが見て取れる。それでも、前述したように伏見城は慶長伏見地震で天守閣などが倒壊した。この地震も今回の大阪北部地震が起きた「有馬―高槻断層帯」の延長線上にある(19日付・朝日新聞)。

   秀吉の「なまつ大事にて候」の一文は時を超えて安政江戸地震(1855年11月)に伝わる。余震に怯える江戸の民衆は、震災情報を求めて瓦版を買い求めたほか、鯰を諫(いさ)める錦絵を求めた。地震(鯰)が治まってほしいと願う、当時の民衆の不安心理を象徴する購買行動でもある。当時の民間伝承の多様な鯰の絵は、後に「鯰絵」という浮世絵アートの一角を築くほど多く描かれた。

   大地震、さらに幕末から明治維新へと激動する時代、民衆の情報に対する欲求が格段に強まる。安政江戸地震から16年後、1871年に「横浜毎日新聞」が日本で最初の日刊紙として創刊される。これが日本のマスメディアの発達の黎明期となる。(※写真は、2007年3月の能登半島地震の被災地=輪島市門前町)

⇒22日(金)夜・金沢の天気     はれ

★大阪地震、メディアの第一報

★大阪地震、メディアの第一報

    あさ午前8時ごろだ。足元がグラグラと揺れた。間もなくNHKで地震速報が流れた。「大阪北部で震度6弱、M5.9」。「やっぱり来たか」と。先日6月7日に土木学会が、今後30年以内に70-80%の確立で発生するとされる「東海トラフ地震」後の経済被害は最悪の場合、1240兆円とする推計を公表してニュースになったばかり。発表した土木学会長が「日本が最貧国の一つになりかねない」と迷言を吐いて反響を呼んだ。足元がグラグラと揺れた金沢は震度2だった。

    テレビメディアは今回の地震でどのような災害報道をするのか、各局をザッピングしながら観察した。災害報道ではまず全体把握をしなけらば概要が分からない。つまり、ヘリコプターによる映像と中継をどこのテレビ局が流すのか。一番早かったのは、やはりNHKだった。8時25分、大阪市北区中之島周辺のビル街や橋、道路などの空撮映像を中継に入れた。途中、中継する記者の音声は何度か途切れたが、崩れたビルや道路もなく、テレビを見ていた全国の視聴者は少し安堵感を覚えたのではないだろうか。

    地震の発生とほぼ同時に飛んで、大阪のど真ん中の上空から中継を入れるのにわずか25分。感じ入った記者のコメントがあった。「私は朝7時から伊丹空港でスタンバイしていましたが…」。朝7時と言えば、誰も地震を想定していない。つまり、NHKは常に震災を想定していつでもヘリを飛ばせるように記者、記者、操縦士をスタンバイしているのだ。NHKは災害報道でダントツかもしれない。受信料を徴収しているので、災害報道にかけるコストが違うのだ。ちなみに民放でヘリ中継の映像を見たのは8時49分、テレビ朝日のモーニングショーで、茨木市上空からの映像だった。

    リアルな緊張した場面もあった。8時58分、NHKのヘリからの中継映像は高槻市の学校のグラウンドに児童・生徒たちが集まっている様子だった。まもなくして、今度は地上からの映像で箕面市の学校のグラウンドに集まっている児童たちをリポートする中継映像に切り替わった。すると、映像に男性が割り込んできた。音声はよく聞き取れなかったが、「子どもたちを撮影しないでください」と。すると記者が「あなたは学校の教員なんですか」と。すると、男性は「そうです。子たちは動揺しているんです」と。確かに、映像では先生が話しているのに、何人かの子どもたちはカメラが気になるのかこちらを向いている。

    学校側の「抗議」を受けて、NHKは素早く画面をスタジオに切り替えた。グラウンドでの映像は誰か個人を特定するようなアップの映像ではなく、取材する側からすれば学校側が過剰に反応していると思ったかもしれない。被災地の現場では、取材する側もされる側も極度に緊張感が高まっていて、どんなハプニングに展開するか予想できない。中継からそんな様子が見て取れた。

⇒18日(月)午前・金沢の天気   くもり    

    

☆SDGsと能登の尖端、その未来可能性

☆SDGsと能登の尖端、その未来可能性

   きょう15日午前、うれしいニュース(知らせ)が入った。能登半島の最先端、珠洲市が「SDGs未来都市」に選定され、けさ内閣府で選定証の授与式があったというのだ。今回29の自治体が選ばれ、授与式に出席した市長に同行した課長は電話で「地域の可能性を拓くためにこれからよろしく」と声を弾ませた。

   「SDGs未来都市構想」は内閣府が全国の自治体から公募していたもので、同市の提案「能登の尖端“未来都市”への挑戦」が採択された。SDGsは国連が推進する持続可能な開発目標。社会課題の解決目標として「誰一人取り残さない」という考え方が基本に込められている。少子高齢化が進み、地域の課題が顕著になる中、同市ではこの考え方こそが丁寧な地域づくり、そして地方創生に必要であると賛同して、内閣府に応募していた。

  同市が提案した主な内容は「能登SDGsラボ」の開設。SDGsの基本施策は、市民や企業の参加を得て、経済・社会・環境の3つの側面の課題を解決しながら、統合的な取り組みで相乗効果と好循環を生み出す工夫を重ねるというもの。簡単に言えば、経済・社会・環境をミックス(=ごちゃまぜ)しながら手厚い地域づくりをしていく。そのために、金沢大学、国連大学サスティナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわ・オペレーティングユニット(OUIK)、石川県立大学、石川県産業創出支援機構(ISICO)、地元の経済界や環境団体(NPOなど)、地域づくり団体に今回開設するラボに参加を呼びかける。

  具体的にどのようなことにチャンレンジしていくのか。たとえば金沢大学が現地で取り組み、私自身も運営に関わっている社会人の人材養成プロジェクト「能登里山里海マイスター育成プログラム」のカリキュラムに新たにSDGsのコンセプトを導入する。また、現地で実証実験が行われている自動運転を「スマート福祉」に社会実装する支援。SDGsを取り込んだ学校教育プログラムの開発、世界農業遺産(GIAHS=2011年FAOが「能登の里山里海」認定)の資源を活かした新たな付加価値商品や、「奥能登国際芸術祭2020」に向けた参加型ツーリズムの商品開発を進めていく。国連大学と組んで過疎地域から発信するSDGs国際会議の開催や、県立大学とのコラボによる新たな食品開発など実に多様だ。

  昨年の奥能登国際芸術祭2017の開催をきっかけとして、確かに、地元市民の中には地域を見直す動きや、里山里海を資源としてビジネスモデルを創る積極的な取り組みが具体的なカタチで起きている。また、経済・社会・環境の分野で新たな技術やプランを持ったU・Iターンの人材が集まってきている。同市ではこのチャンスを最大限に活かすステージとして「SDGs未来都市」を用意したのだろう。能登半島の尖端、過疎地の最前線が新たなチャレンジに動き出すことに期待したい。

⇒15日(金)午後・金沢の天気    くもり

★トランプの赤ネクタイ-下-

★トランプの赤ネクタイ-下-

    やはり、トランプ氏の赤ネクタイは「勝負ネクタイ」だったのか。71歳のトランプ氏が終始、34歳とされる金氏をリードしながら丁寧に対応する姿はまさに勝負師そのものだった。見方によっては、世間慣れしていない息子を諭すように教える老父という感じもした。ワーキングランチ前の記者に向かってのトランプ氏の言葉「Getting a good picture, everybody? So we look nice and handsome and thin? (みんな、いい写真を撮っているかい?かっこよく、細く見えてるだろう?)」。要は、金氏を細くかっこよく撮ってくれよと。ジョークではあるものの、金氏への気遣いだと見て取れた。

      共同声明に盛り込まれなかった「IAEAの査察」の今後      

    両者が署名した共同声明にはCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)の文言はなく、果たしてこれでよいのかと戸惑うものの、こうしたトランプ氏の振る舞いを見ていると、共同声明にある「Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.(2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む)」の下りは期待できるようにも思えてくる。

    トランプ氏の単独の記者会見でも「Chairman Kim has told me that North Korea is already destroying a major missile engine testing site that’s not in your signed document. (合意文書を調印した後に金氏から「北朝鮮は既に主要なミサイルエンジン実験場の破壊に取り掛かっている」と口頭で伝えられた)」と述べていた。金氏の非核化に向けたヤル気を察知したのかもしれない。

    だとすると、金氏が非核化への準備をしているのであれば、IAEA(国際原子力機関)による査察を共同声明として提案すべきでなかったか。すなわち、核が保管されている施設を申告させて場所を明確にする「特定査察」、そこに監視カメラを設置して、平和目的かどうかを監視する「通常査察」、そして、監視によって疑惑が出た場合には「特別査察」を行うことだ。トランプ氏は「IAEAの査察を受け入れれば、アメリカだけでなく国際社会も歓迎するよ。君はあすからヒーローになれる」とアドバイスすべきではなかったか。

    さらに、問題になると思ったのは、会談後の記者会見でトランプ氏がアメリカと韓国が行っている合同軍事演習を凍結すると発言したことだ。理由は「経費節減」のようだが、この会見を聞いて誰しもが、近い将来、朝鮮戦争の終結に合意し在韓米軍を撤収するのではないかと印象付けたに違いない。

    前回ブログの繰り返しになるが、韓国の文在寅大統領は在韓米軍撤収の動きと連動して「一国二制度」の半島統一に素早く動くのではないだろうか。一方で非核化へのプロセスは4、5年の中長期にわたると言われている。その間、核弾頭が存在すれば「いつの間にか韓国と北は核を共有している」という事態にならないだろうか。国際政治の舞台はいろいろイメージを膨らませてくれる。(※米朝首脳会談後、トランプ氏の記者会見を伝えるNHKニュース=12日午後7時25分)

⇒13日(水)朝・金沢の天気    あめ

☆トランプの赤ネクタイ-上-

☆トランプの赤ネクタイ-上-

       アメリカのトランプ大統領はやはり赤いネクタイだった。ズボンのチャック辺りまで長く垂らす、見慣れたスタイルだ。この赤いネクタイは「勝負ネクタイ」というより、平常心を保つための「落ち着きネクタイ」ではないのか。きょう12日午前、シンガポールで北朝鮮の金正恩党委員長の2人だけの会談に入る前のトランプ氏の姿を視聴した印象だ。

   その2人の会見の様子で気になった言葉は、金氏の「ここまでくるのは容易ではなかった。我々の足をひっぱる過去があり、誤った偏見と慣行が我々の目と耳をふさぐこともあったが、我々はそのすべてを乗り越えてここまで来た」と述べて笑みを見せたことだ。この「我々」とは金氏とトランプ氏の2人のことなのか、あるいは北朝鮮の国を指すのか。「我々」の解釈によって意味が全く違う。北朝鮮の国を指す場合は、相手(アメリカ)を罵っているように聞こえる。このフレーズ全体を聞けばやはり金氏の「我々」は北朝鮮の国を指す。ところが、トランプ氏は「その通りだ」と応じ、再度握手した。通訳を介しての対話なので、トランプ氏には「We」と伝えられ、金氏とトランプ氏の2人のことと解釈したに違いない。

       「朝鮮戦争の終戦宣言」と「核あり統一」の複雑化   

   2人だけの会談の内容については午後にトランプ大統領が記者会見するようだが、最近の米朝首脳会談の論調で気になることがある。それは「完全な非核化」と併せて「朝鮮戦争の終戦宣言」をトランプ氏サイドから打ち上がっていることだ。

   首脳会談で「完全な非核化」がこじれ、とりあえずの成果として「朝鮮戦争の終戦宣言」が優先した場合、この歴史的な対話は少々おかしな方向うのではないかと考え込んでしまう。というのも、終戦宣言となれば、次は南北の統一だろう。当面は一国二制度かもしれない。とすると、核を保有したままで半島統一となる可能性も出てくる。実際、日本と違って韓国では核兵器の保有論は一定の支持を得ている。韓国ギャラップの調査(2017年9月5-7日、1004人対象)では韓国の核保有に賛成する意見は60%で、反対は35%なのだ(2017年9月9日付・産経ニュース電子版)。

   韓国の文在寅大統領は、これまでの外交成果を軸に北朝鮮と交渉を続けるだろう。北朝鮮の非核化を前提としての交渉ではなく、「一国二制度」のような構想を互いに模索するのかもしれない。そうすれば、韓国にとって在韓米軍や米韓軍事演習も不要となる。さらに核保有国として、近隣諸国に睨みを効かせることができる。「いつの間にか韓国は核保有国」のシナリオで描いているのではないだろうか。それを国民も反対しないとなれば、なおさらである。

   「核なき統一」は日本もアメリカも国際社会も望むところだ。それが「核ありの統一」ということが鮮明になった場合、日本の外交スタンスもガラリと変わる。油断ならない。(※写真は米朝首脳会談の様子を伝えるTBSWeb版)

⇒12日(火)午前・金沢の天気     あめ

★子への虐待、日米の認識度

★子への虐待、日米の認識度

      5歳の女の子が虐待を受け死亡した東京・目黒区での事件=写真=。女の子が書き残した文章を読むと実に痛ましい。この子は必死で親に気持ちを伝えようとした。しかし、親は無視はしたのだろう、伝わらなかった。この子には文章による訴える力がある。5歳児とは思えないくらいだ。以下、朝日新聞Webニュースより。

   もうパパとママにいわれなくてもしっかりとじぶんからきょうよりもっともっとあしたはできるようにするから もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします

    ほんとうにもうおなじことはしません ゆるして きのうぜんぜんできてなかったこと これまでまいにちやってきたことをなおします

    これまでどれだけあほみたいにあそんでいたか あそぶってあほみたいなことやめるので もうぜったいぜったいやらないからね ぜったいぜったいやくそくします

   涙を誘うフレーズは「じぶんからきょうよりもっともっとあしたはできるようにするから」だ。今日よりもっと明日は出来るようにする。もう1フレーズ。「きのうぜんぜんできてなかったこと これまでまいにちやってきたことをなおします」。昨日できなかったこと、これまで毎日やってきたことを直します。時間軸に身を置いて、明日はもっとよくする、という5歳の強い意思表示だと読み取れる。この子のどこに罪があるというのか、あるはずがない。

   昨日、子どもの虐待について知人らと話していると、アメリカで子育てをした経験のある研究者が「アメリカでは子供といっしょに風呂に入るだけでも虐待とみなされる」と。このひと言に驚き、「なぜ」と問うと、「狭い空間で裸でいると性的虐待が疑われるということなんだ」と。研究者も知人から聞いて調べたという。アメリカの在ナッシュビル日本総領事館のホームページに事例がいくつか出ていると教えてくれた。同総領事館HPの「安全情報」の中の「米国での生活上の注意事項」に掲載されている。

   入浴に関する事例は、HPを引用する。「某日、幼稚園に通う少女が、父親と一緒にお風呂に入るのがいやだと幼稚園の作文に書いた」、すると「幼稚園の先生が、児童虐待(性的暴力)容疑者として父親を州政府の児童保護局に通報し、調査活動が行われた」。また、「某日、乳児をお風呂に入れている写真を近所のドラッグストアで現像に出した」、すると「ドラッグストアが児童に対する虐待容疑で児童保護局に通報し、児童虐待(性的虐待)容疑で調査活動が行われた」。いずれの事例も実際に邦人がアメリカで体験したケースのようだ。 

   日本とアメリカの文化による認識の違いで、日本では許容されることでも、アメリカでは「犯罪」として扱われる事例だろう。入浴のほかにも、言うことを聞かない子どもの頭を人前でたたいたり、買い物をするときに、乳幼児を車に置いて離れたりすることなども、虐待の容疑で親の身柄が拘束されることもあるようだ。

   総領事館のHPで掲載されている事例を読んで思うのは、文化による認識の違いや誤解があるにせよ、アメリカでは「善意の通報」が行き届いていることだ。ところが、日本では目の前で親から子へのあからさまな暴力があったとしても、「関知せず」であえて見過ごすケースがあるのではないだろうか。アメリカでは人権侵害としての児童虐待の観念が徹底しているので第三者が通報する。日本では虐待なのか「しつけ」「教育」なのかグレーゾーンととらえられ、看過されるケースが起きるのではないだろうか。

   冒頭の5歳の女の子に多数の「善意の通報」があれば救われていたに違いない。

⇒7日(木)朝・金沢の天気     はれ

★日本海のイカ漁場、厄介な現実

★日本海のイカ漁場、厄介な現実

   北朝鮮の動きがいよいよ「活発」になってきた。東シナ海で北のタンカーが別の船に横づけし、ホースで石油などを移し替えする「瀬取り」を行っているのを先月24日、海上自衛隊の護衛艦が確認。政府は国連安保理の北朝鮮制裁委に通報した。そして、日本海では日本のEEZ(排他的経済水域)にある大和堆(やまとたい)で北のイカ漁船が数10隻確認され、退去に応じなかった漁船には海上保安庁の巡視船が放水して退去させている=写真=。

   スルメイカ漁が今月1日に解禁になり、3日には多くの日本漁船が大和堆でのイカ釣り漁を開始する。EEZ内での違法操業はもちろん問題なのだが、もっと厄介なことがある。日本漁船は釣り漁であるのに対し、北のイカ漁船は網漁だ。夜間に日本漁船が集魚灯をつけると、集魚灯の設備を持たない北の漁船が多数近寄ってきて網漁を行う。獲物を横取りするだけでなく、網が日本漁船のスクリューに絡むと事故になる危険性にさらされる。

   また、夜間では北の木造漁船はレーダーでも目視でも確認しにくいため、衝突の可能性が出てくる。衝突した場合、水難救助法によって北の乗組員を救助しなければならない。そうなればイカ漁どころではなくなる。だから、「厄介な危険物」にはあえて近寄らない。昨年、多くの日本漁船が好漁場である大和堆を避けるという現象が起きたのはこのためだ。
 
   漁業関係者に苛立ちや不安が積もっている。昨年7月に開かれた「大和堆漁場・違法操業に関する緊急集会」(国会内の会議室)では国会議員や漁業関係者の発言は厳しいものがあった。当時のメディアの報道によると、質問が集中したのは海上保安庁に対してだった。海上保安庁も巡視船で退去警告や放水で違法操業に対応していたが、イタチごっこの状態だった。漁業関係者からは「退去警告や放水では逆に相手からなめられる(疎んじられる)」と声が上がった。違法操業の北の漁船に対して、漁船の立ち入り調査をする臨検、あるいは船長ら乗組員の拿捕といった強い排除行動を実施しないと取り締まりの効果が上がらない、と訴えた。

    言うまでもないが、領海の基線から200㌋(370㌔)までのEEZでは、水産資源は沿岸国に管理権があると国連海洋法条約で定められている。ところが、北朝鮮は条約に加盟していないし、日本と漁業協定も結んでいない。そのような北の漁船に排除行動を仕掛けると、北朝鮮が非批准国であることを逆手にとって自らの立場を正当化してくる可能性がある。取り締まる側としてはそこが悩ましいところなのだろう。

    きょう2日付のWebニュースによると、アメリカのトランプ大統領は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との初めての会談をいったん中止すると通告していたが、金氏からの親書を受け取ったことで、予定通り今月12日にシンガポールで会談すると明言した。こうした外交の裏側で国連安保理決議に反する「瀬取り」、そして日本のEEZ内での違法操業がまかり通る。シビアな現実がそこにある。(※写真は海上保安庁が公表した映像、NHK画面より)

⇒2日(土)朝・金沢の天気     はれ

☆「司法取引」小物に餌与え、大物を釣る

☆「司法取引」小物に餌与え、大物を釣る

   世間を騒がせている森友学園への国有地売却や決裁文書改ざんをめぐる問題で、大阪地検特捜部はきのう(31日)、虚偽公文書作成などの疑いで告発された佐川前国税庁長官ら関係者全員を不起訴とした。きょう1日付の朝刊を読むと、各紙の論調は「まだ幕引きは許されぬ」(朝日新聞)といった感じで、私自身も何だか釈然としない=写真=。しかし、どこかでケジメをつけないといつまでも「モリカケ問題」が国会の論戦になっているのはいかがなものか、とも。

   そんな思いで紙面に目を通していると、アメリカのニュースなどでよく出てくる「司法取引」がきょうから日本でも始まるとの記事に目が止まった。読むと、アメリカの司法取引とは意味合いがかなり異なるようだ。日本の場合、司法取引でタ-ゲットとする犯罪は、組織犯罪や企業犯罪、汚職事件など。より具体的には、振り込め詐欺など組織犯罪、また贈収賄・詐欺・横領などの事件、さらに独占禁止法・金融商品取引法などの経済犯罪、薬物銃器犯罪などとしている。一方で殺人や性犯罪などは対象外。つまり、特定の犯罪に限定しているのだ。

   アメリカの場合は、自分の罪を正直に供述して刑の減免を受ける、いわゆる「有罪答弁型」だ。日本の場合は、たとえば容疑者・被告が共犯者など他人の犯罪の捜査に協力すれば検察が見返りとして起訴を見送ったり求刑を軽くしたりする法制度。組織犯罪や経済犯罪で逮捕された部下が指示した上司(ボス)のことを供述したり、証拠を提出するなど検察側に協力をすれば、不起訴や軽い罪での起訴、軽い求刑など有利になる。いわば「捜査協力型」、言葉は悪いが、「小物に餌を与え、大物を釣る」のたとえだ。

   ただ、単に捜査に協力するのではない。司法取引に関して、検察側と容疑者・被告の間で合意をするには、その過程で弁護人の立ち合いが義務化されている。確かに、司法取引として検察側が末端の者の犯罪に刑の減免を約束して、組織の上層部の犯罪について供述を求めることで、事件解明のスピードが早まることになるだろう。ただ、素朴な懸念も生じる。自らの処分を有利にするために虚偽の供述をする、あるいは伝聞の話を供述して、無関係の人物まで事件に巻き込むといったことにはなりはしないだろうか。いわば冤罪だ。

   もう一つ。他人のことを供述して、自らの責任を減免することは国民感情としていかがなものだろうか。もちろん、司法取引には、個人の責任よりも巨悪を懲らしめるという社会的責任が優るという大義があるだろう。検察側でその思いが逸(はや)ると、大阪地検特捜部の主任検事が郵便不正で押収したフロッピーディスクのデータを改ざんした事件(2010年9月)にもなりかねない。

        今回のブログは大阪地検特捜部に始まり、大阪地検特捜部で終える。もちろん、冒頭の不起訴処分で検察側と財務側で「司法取引」はなかったと信じたい。

⇒1日(金)朝・金沢の天気    くもり

★なぜ審判が問われないのか

★なぜ審判が問われないのか

   今月6日に行われたアメリカンフットボールの日本大学と関西学院大学の定期戦。日大学のDL(ディフェンスライン)の選手が関学大の司令塔のQB(クォーターバック)の選手に悪質なタックルをして負傷させた問題。今月21日に被害届が大阪府警に出され、刑事事件になる可能性がある。一連のニュースを視聴して腑に落ちないのは、競技中の悪質なタックルに対し、なぜ審判員は即刻退場を命じなかったのか、ということだ。

   動画を見れば、一目瞭然だ。試合開始の早々に、日大のDL選手がパスをし終わった関学大のQB選手に真後ろからタックルを浴びせて倒している。QBが球を投げ終えて少し間を置いてから、わざわざ方向を変えて突進しているので、意図的なラフプレーだ。3プレー目でも不必要な乱暴な行為があり、5プレー目で退場となった。ここで疑問なのは、1回目のラフプレーでDL選手をなぜ退場にしなかったのか。明らかに「レッドカード」ではないのか。単なる見逃しであるならば、審判員に対してなぜ責任が問われないのだろうか。

   これはあくまでも「スポーツの世界」であり、審判員が試合を適切に判断できないのであればスポーツは成り立たなくなる。監督が「つぶせ」と指示したとしても、審判員がそれを見逃さずに早々と退場にしていれば、よかったのではないか。それがスポーツの世界だろう。単なる見逃しだったのか、その判断を聞きたい。審判員としての釈明がなければ、逆に日大と審判員の関係性を勘ぐってしまう。

   では、関東学生アメリカンフットボール連盟の見解はどうなのか。今月10日に、DL選手の1回目のプレーについて「試合中に審判クルーが下した『アンネセサリーラフネス(不必要な乱暴行為)』を超えるものである」と発表し、「追加的な処分の内容が確定するまでは、当該選手(DL選手)の対外試合の出場を禁止する」と処分を決めた。しかし、即退場としなかった当時の審判の差配は適正なものだったのかについては述べていない。関東学生アメリカンフットボール連盟は月内に臨時理事会を開き、日大の処分などを判断する方針だというが、審判の在り様の問題もぜひ説明してほしい。

   今回の悪質なタックルの問題は、日大の「不誠実」とも取れる対応で、連日のようにニュースになり、いっこうに収束の気配が見えない。それよりなにより、スポーツがこのように刑事事件になるのは筋が違うのではないか。

⇒29日(火)朝・金沢の天気     はれ