⇒ニュース走査

★パンデミックがもたらすペシミズム

★パンデミックがもたらすペシミズム

   新型コロナウイルスのパンデミックが止まらない。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボード(=一覧表、9日付)をチェックすると=写真=、感染者は718万人、死者は40万人を超えている。その中でもアメリカは感染者197万人、死者11万人と圧倒的に多い。警察官による黒人男性への暴行死事件をきっかけにアメリカ全土に広がっている「Black Lives Matter」黒人の命は大切だ)の抗議デモはこのコロナ禍による厭世(えんせい)感、あるいは悲観主義と訳されるペシミズム(pessimism)が背景にあるのではないかと憶測してしまう。

          社会の悲観や不安の広がり、ペシミズムがアメリカだけでなく、世界を覆っているのかもしれない。嫌なもの、価値のないものに攻撃を仕掛けるのがペシミズムである。香港に対する強力な介入の動きを読むと、国内でのペシミズムが読める。5月の全人代で「2020年に貧困ゼロ達成」を重要課題として強調した。2019年時点で551万人の中国人が貧困状態にあり、今年の目標は彼らすべてを貧困から引き上げることだ(5月25日付・共同通信Web版)。ところが、コロナ・ショックは貧困層を増長させているのが現実。中国国家統計局が4月17日に公表した20年1-3月期の国内総生産(GDP)は前年比6.8%減と大打撃だった。こうなると、人民の目は富裕層が多いとされる香港に向く。そこで、政治的メンツを保とうとあえて香港国家安全法の導入に踏み切った、のではないか。

   北朝鮮のペシミズムもそうとうだろう。北朝鮮の人権状況を調査している国連の特別報告者が、北朝鮮が新型コロナウイルスの影響で最大の貿易相手国である中国との国境を封鎖したことで貿易が大幅に減少し、深刻な食糧不足が起きているおそれがあると指摘した(6月10日付・NHKニュースWeb版)。北ではホームレスが増え、薬の値段が急上昇している。トウモロコシ以外食べるものがない人が増え、兵士ですら食糧不足に陥っているという情報もあると、深刻な食糧不足を報告している(同)。

   このタイミングで、北が韓国に対して、脱北者による金正恩党委員長への批判ビラを風船で飛ばすのを放置していたとして南北通信の全回線を9日正午で遮断すると宣告した(6月10日付・中央日報Web版日本語)。これまでに、人民のいら立ちやペシミズムが募ると、その目をそらすために弾道ミサイルの発射や韓国への砲撃があった。今回は韓国政府そのものに矛先を向けた。

   日本も例外ではない。SNSによる誹謗中傷で女子プロレスラーの痛ましい死については何度かこのブログでも取り上げた。自民党ではネットで中傷した発信者の特定や厳罰化を法整備するとニュースになっているが、背景には根深い問題があるのではないだろうか。コロナ禍による労働者の解雇や雇止めが止まらない。5月29日現在で全国で2万933人(厚労省発表)だが、今後さらに膨らむ。世の中への漠然とした不安、あるいはペシミズムが背景にあると思えてならない。冒頭のダッシュボードを眺めていて暗い話になった

⇒10日(水)午前・金沢の天気    はれ

☆波高し 日本海のイカ釣り漁

☆波高し 日本海のイカ釣り漁

   日本海のイカ釣り漁が始まった。能登半島の尖端、能登町の小木漁港からはきのう8日、中型イカ釣り漁船が4隻が出港したと報じられている。目指すは能登半島の沖300㌔のEEZ(排他的経済水域)にある大和堆(やまとたい)、スルメイカの漁場だ。ただ、EEZであったとしても、違法に北朝鮮や中国の漁船も入り乱れ、一触即発の状況がここ数年続いている。

   昨年不穏な動きがいくつかった。8月23日、不審船2隻を水産庁の取締船が見つけ、EEZを離れるよう伝達した。北朝鮮海軍らしき旗を掲げた小型高速艇と北朝鮮の国旗が船体に描かれた貨物船の2隻で、高速艇には小銃を持った船員がいた。海上保安庁の巡視船が駆け付け警戒監視を続けたところ、不審船2隻は去った。毎年のようにEEZには北の木造漁船が数百隻も押し寄せているが、武装船となるとただ事ではない。

   10月7日にはEEZで、水産庁の漁業取締船と北朝鮮の漁船が衝突する事故があった。取締船が北の漁船に放水して退去するよう警告したところ、漁船が急旋回して取締船の左側から衝突してきた。通常、船同士がぶつかりそうな場合、左側の船が衝突をよけるルールとなっているが、避けることなく衝突し沈没した。さらに、日本海の沿岸には北の木造船の漂流や漂着が相次ぐ。2019年は全国で158件(18年225件)、生存者は6人、遺体は5体だった(第9管区海上保安本部まとめ)。

   悲惨な事件もかつて起きた。小木の漁業関係者では「八千代丸銃撃事件」が忘れられないだろう。1984年7月27日、小木漁協所属のイカ釣り漁船「第36八千代丸」が、北朝鮮が一方的に引いた「軍事境界線」の内に侵入したとして、北の警備艇に銃撃され、船長が死亡、乗組員4人が拿捕されるた。1ヵ月後の8月26日に「罰金」1951万円を払わされ4人は帰国した。

   当時私は新聞記者で船長の遺族や漁業関係者に取材した。関係者は無防備の漁船を銃撃したこの事件に憤りと恐怖心を抱いていた。「イカ釣りは続けられないですね」と言うと、ある漁師は「板子(いたご)一枚 下は地獄だよ」と反応した。漁師という職業は船に乗るので常に危険と隣り合わせにいる。初めて知った言葉だった。確かに日本海で漁をする危険はあるものの小木はいまでもイカ漁の日本海側の拠点の一つである。

   日本側のイカ釣り漁の漁期は6月から12月だが、すでに北の漁船はEEZに入り漁を始めている。5月中頃から取り締まりに入っている水産庁の退去警告は延べ54隻(うち放⽔措置4隻)の上っている(6月1日現在・水産庁公式ホームページ)。日本漁船の漁の安全と、豊漁を祈る。(※写真は、日本のEEZで違法操業する北朝鮮の漁船=海上保安庁の動画から)

⇒7日(火)午前・金沢の天気     はれ

☆拉致事件は終わっていない

☆拉致事件は終わっていない

   北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの救出活動を続けてきた父親の滋さんが今月5日亡くなったことがメディアで報じられた。横田めぐみさんのポスター写真があったのを思い出し、パソコンの画像ファイルを探した。

   政府の拉致問題対策本部がつくったポスターだ=写真・上=。「必ず取り戻す!」。ポスターの右下には、横田めぐみさんが12歳のときに初めて母親の着物に袖を通し、新潟市の自宅前で撮った写真との説明がある。なんともあどけな少女の姿である。撮影者は父の滋さん、撮影日は1977年1月と記されている。赤と白の市松模様の羽織を着ているので、雪が積もった自宅前の風景にちょうどいいと滋さんが考えたアングルだったのだろう。めぐみさんが新潟市の海岸から拉致されたのはこの10ヵ月後だった。

   1977年9月に拉致1号事件が能登半島で起きていた。9月19日、東京都三鷹市役所の警備員だった久米裕さん(当時52歳)が石川県能登町宇出津(うしつ)の海岸で失踪した。地元では今でも「宇出津事件」と呼ばれている。久米さんは在日朝鮮人の男(37歳)と、国鉄三鷹駅を出発した。東海道を進み、福井県芦原温泉を経由して翌19日、能登町(当時・能都町)宇出津の旅館「紫雲荘」に到着した。午後9時、2人は黒っぽい服装で宿を出た。

   旅館から通報を受け、石川県警は捜査員を現場に急行させた。旅館から歩いて5分ほどの小さな入り江、通称「舟隠し」=写真・下=で男は石をカチカチとたたいた。数人の工作員が船で姿を現し、久米さんを乗せて闇に消えた。その後、同行した男は外国人登録証の提示を拒否したとして、駆けつけた捜査員に逮捕された。旅館からはラジオや久米さんの警棒などが見つかった。

  自分自身もこれまで何度か現地を訪れたことがある。そして、当時事件を取材した元新聞記者のK氏からこの事件にまつわる話を聞いた。K氏によると、この事件で石川県警察警備部は押収した乱数表から暗号の解読に成功したことが評価され、1979年に警察庁長官賞を受賞している。当時、この事件は単に朝鮮半島に向けて不法に出国をした日本人がいたという小さな事件としてしか報道されなかった。警察は、乱数表およびその解読の事実を公開した場合は、工作員による事件関係者の抹殺など、事件解決が困難になるリスクもあると判断し、公開に踏み切れなかったともいわれる。

  宇出津事件の以降、日本海沿岸部から人が次々と消える。この年の11月15日、横田めぐみさんが同じ日本海に面した新潟市の海岸べりの町から姿を消した。あれから43年、願いかなわず他界された父親の心情を察すると、言葉が出ない。拉致事件は終わっていない。

⇒7日(日)午前・金沢の天気    はれ

★WHOの今さらマスク

★WHOの今さらマスク

           WHOの公式ホームページによると、新型コロナウイルスの感染が確認された人は世界全体で653万6354人で、亡くなった人は38万7155人となっている(6月5日現在)。きょうのニュースでも、死亡者がもっとも多いのはアメリカの10万9143人、イギリス(4万344人)、ブラジル(3万4021人)と続く。パンデミックの勢いは時間がたっても衰える気配がない。このような数字を見るたびに、WHOはいったい何をやっているのか、素人ながらに気にかかる。

   WHOが5日に行った記者会見でのテドロス事務局長の発言内容が掲載されていた。意外な内容だった。「In light of evolving evidence, WHO advises that governments should encourage the general public to wear masks where there is widespread transmission and physical distancing is difficult, such as on public transport, in shops or in other confined or crowded environments. 」(意訳:エビデンスの進展に照らして、WHOは、公共交通機関や店舗、あるいは他の閉ざされた、あるいは混雑した環境など、感染が広範囲に及び、物理的な距離が困難な場所では、各国政府は一般市民にマスクを着用するよう奨励すべきであると勧告している)

   今さら何をか言わんや、である。そもそも、WHOはこれまで、マスク着用に関して、健康な人が着けても感染を予防できる根拠はないとしていたのである。それを今回、エビデンスが得られたとして、大幅に修正して、感染が広がっている地域で人との距離をとることが難しい場合はマスクを着けるよう、各国政府が勧めるべきだという方針を示したというのだ。

   WHOの機能不全を感じたのは1月23日だった。中国の春節の大移動でフランスやオーストラリアでは感染者が出ていたにもかかわらず、この日のWHO会合は時期尚早と「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言を見送った。同月30日になってようやく緊急事態宣言を出したが、渡航制限勧告は見送った。このとき、日本をはじめアメリカ、フランスなど各国政府はすでに武漢から自国民をチャーター機で帰国させていた。

   WHOは保健衛生の制度が比較的貧弱な国々に感染が広がることを懸念しているのは間違いない。1月30日の緊急事態宣言とのときも、テドロス氏は「宣言する主な理由は、中国での発生ではなく、他の国々で発生していることだ」と述べた(1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。途上国にパンデミックが広がるまで待つという、「タイムラグ」感が逆にパンデミックを増長させてきたのではないだろうか。あるいは、中国への「配慮」に途上国を使ったのか。

⇒6日(土)夜・金沢の天気    はれ

☆アメリカ 負の連鎖のただ中で

☆アメリカ 負の連鎖のただ中で

         アメリカ・ミネソタ州で黒人男性が白人警官に拘束され死亡してから10日たったが、抗議デモは各地に飛び火して治まる気配がないようだ。むしろ煽ったのは、「法と秩序」を重視するトランプ大統領で、過激化する抗議デモを抑えるために軍の動員を指示したことがさらなる反発を招いた。

   5日付のCNNニュースWeb版は「Trump shares letter that calls peaceful protesters ‘terrorists’」(トランプ氏、平和的な抗議者を 「テロリスト」 と呼ぶ書簡を公開)の見出しで、月曜日(今月1日)ホワイトハウスの門の外にいた平和的な抗議者たちに催涙弾など浴びせて解散させて、トランプ氏が彼らを「テロリスト」と書簡で綴っていた、と記事にしている=写真=。

   今月2日の「ロイター/イプソス世論調査」によると、抗議デモが全米に広がっていることについて、抗議活動参加者に「共感する」と答えた人の割合が64%に達し、否定的な27%、「分からない」の9%を大きく上回った。トランプ大統領の対応を支持しないという割合は55%を超え、このうち「強く反対」が40%となり、支持は33%だった。共和党員に限っても、トランプ氏の対応に肯定的だったのは67%だった。ただ、大統領としての職務全般を評価する声を82%だった(6月3日付・ロイター通信Web版日本語)

           連日報道される抗議デモやこうした世論調査を見ると、多くの日本人は「トランプは終わった」と読むだろう。むしろ、大統領選挙が本格的に始まったと読む方が正解かもしれない。トランプ氏はおそらく民主党のバイデン氏が票固めをするために、抗議デモを利用していると考えているだろう。有権者の気を引くためのトランプ氏の次なる一手は、香港に国家安全法を導入し一国二制度を形骸化された中国に対する制裁だろう。ドルと人民元の交換停止といった強烈な一撃もあるかもしれない。そうなると中国だけでなく、世界経済がさらに大揺れになる。

   一方で、抗議デモは必ずしも評価されているとは限らない。それは新型コロナウイルスの感染拡大というもう一つの側面がある。事件が起きたミネソタ州や、ニューヨーク州の知事は、デモ参加者に対して、ウイルス検査を受けるよう呼びかけている。とくに、ニューヨーク州は抗議デモの参加者数は最大規模で、1人から多くの人に感染を広げる「スーパースプレッダー」になる可能性がある。不都合な真実ではある。

   コロナ禍の渦中にある国民的なストレス、黒人貧困層のうっ積、そして失業の不安と怒りなどがこの抗議デモに集約されていると考えると根深さを感じる。まさに、アメリカは負の連鎖のただ中にあることだけは読める。

⇒5日(金)午後・金沢の天気    はれ時々くもり

★不適切な投稿に警告をタグ付け

★不適切な投稿に警告をタグ付け

          今月7日付のブログで紹介したが、11月のアメリカ大統領選挙に向けて、トランブ節がさく裂している。トランプ氏の26日付ツイッター。「There is NO WAY (ZERO!) that Mail-In Ballots will be anything less than substantially fraudulent. Mail boxes will be robbed, ballots will be forged & even illegally printed out & fraudulently signed. ・・・」(郵送による投票が実質的に詐欺的なものではない、なんてことには全くならない。郵便箱は奪われ、投票用紙は偽造され、さらには違法に印刷され、不正に署名される。・・・)

   何のことかと調べると、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(民主党)が新型コロナウイルス対策の一環として郵送投票を採用すると発表した。すると、トランプ氏は大統領は偽造や不正署名など詐欺の可能性があると問題視したのだ。

   BBCニュースWeb版(27日付)で関連記事=写真=が。「Twitter tags Trump tweet with fact-checking warning」(ツイッターがトランプ氏のツイートにファクトチェックの警告をタグ付け)。これも何のことか調べる。ツイッター社はトランプ氏の投稿のうち、郵便投票が不正投票につながると主張した件について、誤った情報や事実の裏付けのない主張と判断し、「Get the facts about mail-in ballots」とタグ付けした(写真下の青文字)。要するに、大統領のツイートと言えども、事実関係が怪しいツイ-トはファクトチェックの警告をします、との意味だ。

   もう一度トランプ氏のツイッタ-に戻って青ラベルを探したが見えない。何度更新しても出てこない。ホームページが日本語で設定あるとラベルが表示されないようだ。

   この青ラベルはもともとは新型コロナウイルスに関するデマ情報への警告としてスタートした。それにしても、さすがツイッターだ。たとえアメリカ大統領であれ、怪しい投稿にはファクトチェックを入れる。その方法を前回のブログで述べた、女子プロレスラーへの誹謗中傷の書き込みなどに適応できないのだろうか。「警告!不適切な表現」と赤ラベルをタグ付けすればいい。すると、誹謗中傷を受け方側は気分的に少しは救われるのではないか。

⇒27日(水)午後・金沢の天気   はれ時々くもり

☆「サイバーいじめ」とSNSプラットフォーマーの責任

☆「サイバーいじめ」とSNSプラットフォーマーの責任

   テレビ番組に出演していた女子プロレスラー22歳がSNSで誹謗中傷を受け死去したことに関し、高市総務大臣はきょう26日の記者会見で、ネット上の発信者の特定を容易にし、悪意のある投稿を抑止するため制度改正を検討する意向を示した。年内に改正案を取りまとめる方針だという(26日付・共同通信Web版)。

   一連の報道が気になり記事に目を通すが、死に至るまでの状況が記されていないので「事件」の概要がつかめないでいる。たとえば、SNSでの誹謗中傷はどのような内容だったのか、遺書にはどのようなことが書かれていたのか、そして、どのように死に至ったのか詳細な報道が見当たらない。本人の尊厳を守る意味で知りたいと思うのだが。

   さらに、テレビ番組のどのような女子プロレスラーのシーンがSNSで「炎上」のきっかけになったのか、その原因がメディアでは報じられていない。うがった見方だが、そのシーンがテレビ局側の「やらせ」だったとしたら、局側の責任も問われるのではないだろうか。

   高市大臣が会見で述べた制度改正とは、「プロバイダー責任制限法」のことだろう。匿名で権利侵害の情報が投稿された場合、被害者がインターネット接続業者であるプロバイダーに発信者の氏名など情報開示を直接請求できる。ところが、権利の侵害が明白でないとの理由から開示されないケースが多い。今回の会見で大臣が示した改正のポイントは、投稿者の特定を簡素化し処罰すること。しかし、こうなると権利侵害をめぐる裁判が多発することにもなり、新たな社会問題になる可能性もある。

   問題性はむしろSNSのサイト運営者、プラットフォーマーにもある。総務省が制度改正すべきは、誹謗中傷を放置状態にしているSNSのプラットフォーマーに自主規制の強化を促すことではないだろうか。削除要請があった場合に24時間以内に人権侵害などに抵触するかどうか判断し、削除に相当すると判断すれば実行する。表現の自由の範囲であれば、その旨を要請者に説明して放置する。もし、それにプラットフォーマー側が応じなければ高額の罰金を科すことだ(ドイツの事例)。

     女子プロレスラーが出演する番組が動画配信サービス「ネットフリックス」で流されていたことから世界でもファンがいる。イギリスのBBCニュース(23日付、Web版)も女子プロレスラーの死を取り上げている=写真=。「Hana Kimura: Netflix star and Japanese wrestler dies at 22 」の見出しで  「彼女の死のニュースについて、ファンや関係者は、サイバーいじめとその精神衛生上の影響について多くの声を上げている」と論評している。サイバーいじめはもはや、国際問題になっている。

⇒26日(火)夜・金沢の天気    くもり

★10万人の数字より、1%の実名が訴えること

★10万人の数字より、1%の実名が訴えること

   夕方のテレビのニュース番組で、午後6時から始まった安倍総理の記者会見の模様を中継していた。新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言を全国で解除すると述べ、さらに、第2波に備え、医療体制の充実に2兆円の予算を積み増すと説明していた。先月7日に出された宣言が1ヵ月半ぶりに全国で解除され、今度は防御に徹するという次なるステージに入ったとの印象だ。それにしても「空前絶後」と称した200兆円におよぶ第1次と第2次補正予算案の方が心配になった。将来、このツケを払うのか、と。 

   きのうのニュースで、感染による死者の数が10万人に迫るアメリカで、NYタイムズ紙が24日付けの紙面1面でコロナ禍で亡くなった千人の名前や年齢、居住地、故人をしのぶ一文を掲載していると報道されていた(25日付・NHKニュースWeb版)。同紙のホームページをチェックすると、写真などはまったくなく、全面が活字で埋め尽くされている=写真=。ある意味で、紙面の迫力に圧倒された。見出しは「U.S.DEATHS NEAR 100,000,AN INCALCULABLE LOSS」(アメリカの死者は10万人に近づく、計り知れない喪失)。

   アメリカの感染者は世界最多の165万人、死者も最多の9万7千人。NYタイムズ紙は、ローカル紙の訃報記事などから亡くなった人の情報を集めた。「千人はアメリカの死者数の1%にすぎないが、人の死は単なる数字ではない」と掲載の意義を強調している。短文ながら丁寧な表現だ。「Lila A. Fenwick、87、ニューヨーク市、ハーバード大学ロースクールを修了した初の黒人女性」「Harley E. Acker、79、ニューヨーク州、スクールバスの運転手で天職を見つけた」など 。こうした故人をしのぶような記述は死者への尊厳とも言える。

   このNYタイムズ紙(Web版)を読んで、日本の地方紙の「おくやみ欄」をイメージした。死亡者の実名や居住地、人となりを簡潔に伝えている。また、事件や事故でもあっても、日本のメディアは実名報道が原則だ。記者が直接に遺族の了解が得て報道する、あるいは警察が遺族の了解を得て公表した実名をメディアが報道するといった仕組みになっている。ところが、アメリカや各国はそこまで実名にこだわらず、大がかりな事件や事故となると死者の人数を最優先する。なので、NYタイムズ紙が実名と人となりを記事にするのは異例中とも言える。

   今回は1%の千人だが、ではあと99%を実名報道するかというと、そうではなく今回はピンポントでのアピール記事だろうと察する。そのアピールとは、コロナ禍への強い憤りの表現だろう。いかに多くのアメリカ人がウイルスによって命を落としたか、国家が直面する事態の重大さを、死者の実名を公表することで伝えたかったのではないだろうか。この矛先がさらにどこに向かっていくのか。初動で対策が遅れたとされるトランプ大統領なのか、あるいはパンデミックをもたらした中国なのか。

⇒25日(月)夜・金沢の天気    くもり

☆賭けマージャンなのか取材なのか

☆賭けマージャンなのか取材なのか

    東京高検の黒川検事長がきのう夜、安倍総理あてに辞表を提出したとメディアが各社が報じている。緊急事態宣言の中で産経と朝日の新聞記者らと興じた賭けマージャンのニュース(20日付・文春オンライン)が急浮上し、辞表提出につながった。

   「安倍(総理)はうまくすり抜けたな」と直感した人も多いのではないだろうか。黒川氏は63歳で、ことし2月に定年を迎えるところだった。総理官邸の信任が厚く、さらに半年間(8月7日まで)の勤務延長が国家公務員法の規定で閣議決定し、さらにそれを後付けするように検察庁法改正案を国会に提出した。ことし7月に勇退予定の検事総長の後任になるのではないかとも取り沙汰され、「三権分立の原則を壊す不当な人事介入」との批判が沸き起こった。今月18日に政府は法案成立を見送ったが、国会での追及は止まらなかった。このタイミングでのいわゆる「文春砲」だった。

   この問題はさまざまに波及するだろう。賭けマージャンの事実認定だ。当事者である朝日新聞は賭けマージャンに加わった社員(元検察担当記者)から事情を聴き、詳細を以下公表している。「13日は産経新聞記者と社員が数千円勝ち、産経の別の記者と黒川氏がそれぞれ負けた。1日は社員が負けた。4人は、5年ほど前に黒川氏を介して付き合いが始まった。この3年間に月2、3回程度の頻度でマージャンをしており、集まったときに翌月の日程を決めていた。1回のマージャンで、勝ち負けは1人あたり数千円から2万円ほどだったという」「2017年に編集部門を離れ、翌年から管理職を務めていた。黒川氏の定年延長、検察庁法改正案など、一連の問題の取材・報道には全くかかわっていない」(21日付・朝日新聞Web版)

   もう一方の当事者である産経新聞もコメントを発表した。「東京本社に勤務する社会部記者2人が取材対象者を交え数年前から複数回にわたって賭けマージャンをしていたことがわかりました。賭けマージャンは許されることではなく、また、緊急事態宣言が出されている中での極めて不適切な行為でもあり、深くおわびいたします。厳正に対処します」としている(22日付・NHKニュースWeb版)

   賭けマージャンは刑法の賭博罪(50万円以下の罰金)となる。飲食代など「一時的な娯楽に供するもの」を賭けた場合だと処罰されないという例外規定もある。今回、朝日新聞は賭けた金額も発表しているので事実関係は明らかだろう。黒川氏がいちやはく辞表を提出したのも、はやめに法務省から処分(訓告)を受けた方が、今後、刑事告発などを受けたとしても、罪は軽微で済むとの判断ではなかった。

   ここからは憶測だが、これが記者たちによる「接待マージャン」だとしたらどうなるだろう。事実、黒川氏の帰りのタクシー代を産経の記者が負担している。話の場を持たせるために、賭けマージャンという接待をしていたのだと記者たちが主張したら、賭博罪に問えるだろうか。むしろ贈収賄罪かもしれない。この場合、その対価は検察の内部情報だが、これは記事を検証すれば証明できる。黒川氏は「マージャンを通じて、メディアの知りたい情報とは何かを確認したかった」と主張するかもしれない。単なる賭けマージャンなのか、あるいは接待マージャンという取材なのか、そこが問題だ。

   朝日側は「一連の問題の取材・報道には全くかかわっていない」とコメントを発表している。卓を囲んだ社員は確かに記事は書いてはいなかっただろう、しかし、担当記者に黒川氏からの情報を流していたと考える方が自然ではないだろうか。

⇒22日(金)午前・金沢の天気    はれ

☆甲子園はレジェンドを生む

☆甲子園はレジェンドを生む

   新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中、開催か中止で注目されていた第102回全国高校野球選手権大会(夏の甲子園大会)について、高校野球連盟はきょう午後に運営会議と理事会を開き中止を決めた(20日付・共同通信Web版)。春の選抜大会とあわせ、春夏連続での中止だ。

   報道によると、高野連は無観客での開催なども視野に検討を進めてきたが、休校が明けてから部活動を再開する時期が見通せない地域もあり、中止を決めた(同)。夏の甲子園出場は私学や国公立問わず、高校球児にとっての夢だろう。今回の中止決定は止むえない判断と察するが、高校球児にとってかなりの希望の損失ではないだろうか。   

   夏の甲子園は単なるアマチュアスポーツ大会とはずいぶんと趣が異なる。地域の巻き込みが半端ではない。7月中旬から代表校を決める地方大会、そして8月上旬から甲子園大会が開催されるが、地域全体のボルテージが高くなる。夏の日中に街を歩くと、カキーンというテレビの甲子園中継の音声があちこちから聞こえてくる。「風物音」でもある。

   金沢に住むと、甲子園の話が共有できる。1979年の第61回大会の3回戦で石川代表の星稜高校が延長18回の死闘を箕島(和歌山)と演じ、敗れた。箕島はこの年の春の選抜大会で優勝していて、まさに春夏連覇がかかっていた。その箕島を最も苦しめたのが星稜だった。もう一つ、星稜が負けて名を上げた試合が1992年の第74回大会の2回戦の明徳義塾(高知)戦。星稜の4番・松井秀喜選手に対し、5打席連続での敬遠が物議をかもした。ABC朝日放送の実況アナが「勝負はしません」と声を張り上げた。松井選手は春夏含め4回甲子園出場で、高校時代の公式試合でホームラン60本を放っていた「怪物」だった。連続5敬遠が松井を一躍全国区に押し上げた。

   連続5敬遠のとき、自分は金沢の民放局で報道デスクを担当していた。何度か高校野球をテーマで特集を組み、松井選手の父親に取材した。息子にこう言い聞かせて育てたそうだ。「努力できることが才能だ」と。才能があればこそ努力ができるのだ、と。プロ入りしてから、ホームランの数より、連続出場記録にこだわった。この父親の言い聞かせが甲子園、そして球界のレジェンドを生んだのだろうか。

(※写真は、2005年12月に東京・JR浜松町駅で撮影した企業広告のスナップ写真)

⇒20日(水)夜・金沢の天気    あめ