⇒ニュース走査

☆読売調査、内閣不支持54%の暗雲

☆読売調査、内閣不支持54%の暗雲

           読売新聞社の世論調査(今月7-9日実施)で、安倍内閣の支持率は37%で前回調査(7月3-5日)の39%から下がり、不支持率は54%と前回52%より高くなった。不支持率54%は2012年12月からの第2次安倍内閣では最高となった(8月9日付け・読売新聞)。読売新聞の調査でこの数字だ。安倍内閣の正味期限はすでに切れているのかもしれない。

   読売の調査で不支持が50%を超えたことは2012年12月の第2次安倍内閣発足以降で3度あった。直近では2018年4月調査で53%。森友学園への国有地売却や財務省の文書の改ざんをめぐる問題が沸騰したころだ。2017年7月調査では52%。森友・加計学園問題などでの批判の高まりと、小池都知事が率いる都民ファーストの会の都議選で圧勝で、不支持が前回から11ポイントも跳ね上がった。2015年9月調査で51%。このときは安全保障関連法で世論が揺らいだ時期だった。

   では、今回の不支持の高まりの理由は何なのか。やはり、新型コロナウイルス対策についての無力感だ。ウイルス対策を巡る政府のこれまでの対応を「評価しない」は66%で、前回(7月調査)の48%より上昇、「評価する」は27%で前回45%より大幅に下がった。そして、安倍内閣がコロナ対策の指導力を発揮していると思わない人が78%にも上っている(同)。

   今では店頭でのマスク不足は解消され、自由に購入できるのに、さらに8000万枚、118億円もの布マスクを介護施設などに追加配布するとのニュースが7月下旬に流れて、呆気に取られた。 7月22日から始まった「Go To キャンペーン」の混乱も不支持率の高まりに影響しているのだろう。

   ただ、今回の読売調査で内閣支持は前回から2ポイント下がったとは言え、37%ある。さらに、今回の調査で「同じ人が長く首相を続けることは、日本にとって、プラスの面が大きいと思いますか、マイナスの面が大きいと思いますか、それとも、プラスとマイナスの面が同じくらいだと思いますか」がある。最も多かった回答が「プラスとマイナスの面が同じくらい」で42%だ。長期政権は必ずしもマイナスではないというイメージを持っている人が多い。政党支持率は「自民党」33%、「立憲民主党」5%、「支持する政党はない」46%と前回とほぼ同じだ。

   安倍政権は不支持が57%もあるものの、政権から引きずり降ろすべきだとの強いメッセージをこの世論調査からは読み取れない。どちらかというと、「安倍さん、これまで頑張ってきたけれど、そろそろ降りるべきですね」くらいのニュアンスか。

   内閣支持率の20%台は政権の「危険水域」、20%以下は「デッドゾーン」とされる。第2次安倍内閣での支持率の最低は2017年7月調査の36%だ。第1次安倍内閣の退陣(2007年9月)の直前の読売の内閣支持率は29%だった。これに比べるとまだまだ余裕だ、と本人は思っているかもしれないが、安倍内閣に暗雲が垂れ込めてきたことは間違いない。

⇒10日(祝)午後・金沢の天気     はれ

☆北の非核化、泡と消ゆ

☆北の非核化、泡と消ゆ

        北朝鮮は核を手放さないとついに公言した。金正恩党委員長は27日に開かれた朝鮮戦争休戦67年の記念行事での演説で、核保有を正当化し一方的な核放棄に応じない立場を強調した(7月28日付・共同通信Web版)。朝鮮戦争に従軍した退役軍人らを平壌に招いた「老兵大会」での異例の演説。核抑止力によって国の安全が「永遠に保証される」と強調した(同)。

   2018年4月27日、板門店で開催された南北首脳会談では韓国の文在寅大統領と金氏との間では「完全な非核化」が明記された=写真・上=。さらに同6月12日の第1回の米朝首脳会談では、共同声明で「Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.(2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む)」の文言を入れていた。

   ところが、2019年2月28日、ハノイでの第2回米朝首脳会談では、北の非核化に妥協しなかったトランプ大統領が先に席を立って会談は決裂した。おそらく金氏にとってこの会談は屈辱的だったのだろう。そしてついに今回、非核化を完全に反古する声明を出した。おそらく、南北首脳会談も、米朝首脳会談も今後開かれることはないだろう。そして、日本への脅威はさらに高まった。

   では、日本国内では北からの核ミサイル攻撃に向けての防衛体制は進んでいるのだろうか。6月15日に河野防衛大臣が地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を撤回すると表明してから40日余り経った。配備断念を受けて、自民党のミサイル防衛の在り方を検討するチームがきのう28日に続いてきょうも会合を開いた。政府に対する提言案が示された。相手の領域内でも弾道ミサイルの発射などを阻止する能力の保有も含め、政府として早急に検討して結論を出すよう求めつつ、攻撃的な兵器を保有しないという、これまでの政府方針を維持すべきだとしている。会合は非公開で、結局、提言案はまとまらなかった(7月29日付・NHKニュースWeb版)。

   日本海側に住めば北の脅威が実感できる。2017年3月6日、北朝鮮が「スカッドER」と推定される弾道ミサイルを4発発射し、そのうちの1発は能登半島から北に200㌔㍍の海上に着弾した=写真・下=。北が弾道ミサイルを撃ち込む標的の一つが能登半島だ。半島の先端・輪島市の高洲山(567㍍)には航空自衛隊輪島分屯基地のレーダーサイトがある。その監視レーダーサイトの目と鼻の先にスカッドERが撃ち込まれたのだ。

   これまで、南北首脳会談と米朝首脳会談に期待したが、北の非核化は泡と消えた。北からの核弾道ミサイルはいつでも飛んでくる。もちろん、監視レーダーサイトを能登半島から撤去せよという話ではない。

⇒29日(水)夜・金沢の天気     くもり   

★北の漂着船、グローバル問題に

★北の漂着船、グローバル問題に

   これはショッキングな見出しだ。「The deadly secret of China’s invisible armada Desperate North Korean fishermen are washing ashore as skeletons because of the world’s largest illegal fleet.」(意訳:中国の見えざる艦隊の秘密 世界最大規模の不法船団のため、北朝鮮の漁民たちが骨のように海に投げ出されている)。アメリカのNBCテレビのWebニュースの特集で、日本海でのイカ漁のすさまじい現状をリポートしている=写真=。その見出しだ。

   2019年12月27日に新潟県佐渡市の素浜海岸に打ち上げられた北朝鮮の漂着船から7遺体が見つかった。このほか、2019年に確認された北の漂着船は158件、この3年間で487件だ(第9管区海上保安本部報道資料)。

  「The battered wooden “ghost boats” drift through the Sea of Japan for months」(打ち砕かれた木の「幽霊船」が何ヵ月も日本海を漂っていた)で始まるこのリポートを読んでみる。以下、要約。何年もの間、この恐ろしい現象に日本の警察は当惑してきた。気候変動によってイカの個体数が北朝鮮近海で減り、漁師たちは命からがら危険な距離の海に出て、そこで立ち往生して死にさらされれてきたと推測されていた。

   ところが、衛星データで漁船の動きを調査するグローバル海洋保護非営利団体「Global Fishing Watch」(GFW、ワシントン)の分析で、北朝鮮海域に中国からの漁船が大量に入っていることを突き止めた(2019年で800隻)。中国のイカ釣り漁船は集魚灯を使うので、中国からの海洋での照明の動きを追うと、次第に北朝鮮の漁業海域に集まって来る様子が画像で分かる。

   中国が北朝鮮の漁業海域での漁業権を購入し、小型の北のイカ網漁船を追い払っている。漁場を奪われた北の漁船は、遠海に出て無理な操業をして、エンジン故障などで漂流し、日本の海岸に漂着するケースが増えてきたと解説している

 
   もう一つ。NBCはGFWの研究者のコメントを引用して、問題提起をしている。中国は、北朝鮮海域での外国漁を禁じる国連の制裁決議に違反しているのではないか、と。の核実験に対応した2017年の国連制裁決議には、漁業権の取引も含まれる。3月の国連会議では、北朝鮮海域での制裁決議違反が問題視された。これに対し、中国は「一貫してかつ誠実に北朝鮮に関する安全保障理事会の決議を執行した」と述べたが、北朝鮮海域に関してはは認めも否定もしていない。GFWは、この制裁決議違反の中国船団は中国の遠洋漁船全体の3分の1にもなると見ている。

   このNBCのリポートを心強く感じた。というのも、日本海での漂着船問題や、EEZ内での北の違法操業は、日本でも全国ニュースになりにくい。ローカルニュースなのである。NBCがこのように衛星データをもとに国連制裁決議を絡めて漂着船問題を報道することで、一気に国際問題になったのではないだろうか。

⇒27日(月)朝・金沢の天気    くもり

☆経営陣と労組の関係性を読む

☆経営陣と労組の関係性を読む

   4連休の中いろいろニュースを見聞きしたが、中でも、「なぜ」と感じたのが、テレビ朝日労組が民放労連を脱退したことだった。「テレ朝労組が申し入れ、同日(25日)開かれた民放労連大会で賛成多数で承認された。民放労連によると、キー局の脱退は初めて」(25日付・共同通信Web版)。

   共同通信によると、テレ朝労組は脱退理由として、運動方針に対する考え方の違いのほか、テレビ広告費の低迷や新型コロナウイルスの影響で業績が厳しくなる中、組合費の負担が重くなったことを挙げているという。しかし、労連には日本テレビやTBS、フジテレビなど全国の放送局や放送関連プロダクションが加盟している。組合費の負担が脱退理由の一つだが、テレビ朝日だけが、テレビ広告費の低迷や新型コロナウイルスの影響で業績が厳しくなっているわけではない。むしろ、運動方針に対する意見の相違ではないか。

   そこで、テレ朝労組の脱退の背景を探ろうと、民放労連の公式ホームページにアクセスした。同日(25日)開かれた民放労連大会は第131回定期大会で、今回はリモート会議の形式で開催された=写真=。「アピール」では、「同一労働同一賃金を定めた働き方改革関連法が4月から施行され、・・・先行する単組の成果を民放労連全体に広げ、働きがいのある産業にしなくてはならない」、あるいは、「民放における男性中心の職場環境を改めるためにもジェンダーバランスを改善し、他者を敬う社内風土を培い、ハラスメントの被害者も加害者も出ない職場を作ろう」とある。しかし、運動方針に相違があったことや、テレ朝労組脱退の事実関係も触れていない。

   冒頭のニュースでは、「賛成多数で承認」とあるので、どのような運動の方針をめぐる意見の相違が脱退を招いたのか、事実関係を明示すべきだろう。うがった見方をすれば、「賛成多数」という場の空気はおそらく2つある。一つは、テレ朝労組がもともと民放労組の方針に異議をとなえ、煙たがられていた存在だった。あるいは、労連の時代感覚はもう古い、その役割は終わったとテレ朝労組が先陣を切って脱退を表明し、それに賛同する他の労組も多い。あるいはそのミックスかもしれない。

   考察するヒントが労連の公式ホームページにあった。2019年12月26日付で中央執行委員長名で出された談話「テレビ朝日『報道ステーション』スタッフ「派遣切り」の撤回を求める」だ。2020年4月の番組リニューアルに向けて、社外スタッフを大量に契約終了させたのは、事実上の「解雇」に相当すると主張している。番組が継続するにもかかわらず、「人心一新」を理由にスタッフの雇用不安を引き起こすような人員の入れ替えを行うこと、社会に一定の影響力を持つメディア企業としてあってはならない、と。「放送で働く労働者を組織する民放労連として看過できない」と述べている。

   この問題を「しんぶん赤旗」Web版(2020年2月14日付)も取り上げている。2つを総合して読むと、いきさつはこうだ。昨年2019年9月5日発売の「週刊文春」と「週刊新潮」(ともに9月12日号)が「報道ステーション」のチーフプロデューサーによるセクハラ事件を報じた。これを受けて、9月24日にテレビ朝日の会長は記者会見で、報道局のこの男性社員をハラスメントに当たる不適切な行為で謹慎処分としたと認めた。看板番組のチーフプロデューサー(最高責任者)が処分されたとなると社内は尋常ではない。そこで、テレビ朝日は番組の「人心一新」を図るため、ことし4月に番組リニューアルに向けて、社内外のスタッフを入れ替えることにした。社外スタッフは映像制作会社からの派遣ディレクターで人数は10数名、ことし3月末での契約打ち切りも通告された。

   この派遣ディレクターの契約打ち切りが労連でも問題となったことから、テレビ朝労組は会社側と交渉した。そして、派遣ディレクターについては「新たな雇用先を確保する」(民放労連公式ホームページ)、「次の配属先を見つける」(「しんぶん赤旗」Web版)と雇用確保についての会社側の言質を得た。ところが、委員長談話では、最後にテレ朝こそ企業として「人心一新」をはかれ、と求めた。テレ朝労組とすれば、会社側に派遣スタッフの雇用確保の言質を得た段階で難問をうまくまとめたつもりだった。それが、テレ朝の経営者は辞めろとまで労連から言われると立つ瀬がなくなる。

   経営陣と労組の関係性はある意味で信頼関係の上で成り立つものだ。テレ朝労組は労連内部でいたたまれなくなり、距離を置くことにした。それが今回の脱退のいきさつだろうか。あくまでも自らの経験も交えた憶測である。

⇒26日(日)朝・金沢の天気     くもり時々はれ

★「安楽死」議論は避けられない

★「安楽死」議論は避けられない

   全身の筋肉が動かなくなる難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)で、京都に住む51歳の女性からSNSで「安楽死させてほしい」との依頼を受けた宮城と東京の男性医師2人が薬物を投与して女性を死なせたとされる事件=写真=。この報道で率直に思うことは「安楽死の議論をいつまで放置しておくのか」だ。

   不治の病に陥った場合に本人の意思で、医師ら第三者が提供した致死薬で自らの死期を早める「安楽死」は基本的に認められていない。現在の法律では嘱託殺人や承諾殺人、自殺ほう助の罪に問われる。今回の事件で、医師2人は嘱託殺人の疑いで逮捕された。ただ、患者や家族の同意で延命措置を中止する「尊厳死」は医療現場で容認されている。

   問題は安楽死を認めるか、認めないかだ。昨年2019年7月の参院選挙では、「安楽死制度を考える会」から9人が立候補し、この議論を全国に広めようとしたが争点にはならなかった。超高齢化社会を迎えて、自らの人生の質(QOL)を確認して最期を迎えたいという願いやニーズは確かにある。しかし、日本では尊厳死や安楽死に関する法律はまだない。これは、憲法が保障する基本的人権の一つ、幸福追求権(第13条)ではないだろうか。もちろんさまざまな議論があることは承知している。問題は、国会がその議論をずっと避けてきていることだ。オランダやスイスは安楽死を合法化している。

   この議論は避けられないのだ。内閣府の「高齢社会白書」(平成29年版)によれば、2030年には75歳以上は2288万人と推定される。高齢となった自身が不治の病に陥った場合、おそらく主治医に致死薬で自らの死期を早めるようお願いするだろう。身内の話だが、92歳で他界した養父は胃がんだった。「90になるまで生きてきた。世間では大往生だろう」と摘出手術を頑なに拒否した。安らかに息を引き取った。尊厳死だった。

   自らの人生のQOLを確認して最期を迎えたいという願いはこれから高まるだろう。オランダやスイスに行って安楽死する必要はない。これは日本の人権問題ではないだろう。今回の事件が投げかける意味は深い。メディアには、犯罪報道ではなく、安楽死についての議論として世論提起をしてほしい。逮捕された2人の医師を擁護するつもりはまったくない。

⇒24日(金)夜・金沢の天気    あめ

☆キャンパスがクラスター化するということ

☆キャンパスがクラスター化するということ

   残念なことだが、金沢大学がクラスターと判断された。石川県がきょう21日発表した新型コロナウイルスによる新たな陽性患者数は女性3人と発表した。このうち30代の女性は大学の学生で、あと2人は同居する60代女性とゼロ歳の女児。今月18日にも20代の男子学生1人が陽性と発表していて、大学関連の感染者はこれで5人となった。この状況で、石川県は県内で7つ目のクラスターと認定した。 

   新型コロナウイルスの感染拡大で金沢大学では4月からすべての対面型の授業は中止となっていた。このため、講義はインターネットによる遠隔授業(オンデマンド型)のみで、学生は在宅授業だった。サークルや部活なども禁止。また、研究室の学生や大学院生の研究活動も登学は原則禁止となっていた。何しろ学生だけで1万人余りいる。キャンパスという限られた空間で、「大規模集会」を毎日開催するようなもので、感染が広がればひとたまりもない。

   緊急事態宣言が解除され、対面授業が再開されたのは6月19日だった。ただし、授業における「3密」を回避する条件がついている。たとえば、51人以上の規模の大きな講義は引き続き遠隔授業に。また、50人以下であっても、1学生当たり4平方㍍のスペースを確保することが対面授業の条件となっていた。このため、学生たちは少人数の限られた授業しか受講できない状態が続いている

   「3密」対策が取られているのは授業だけではない。学生がよく集まる図書館のカフェや生協食堂もそうだ。カフェは1テーブルにつき1人掛け。食堂のテーブルは対面ではなく一方向で横のイスの間隔も一つ空けてある。普段は12人掛けのテーブルだが、3人掛けだ。にぎわいからほど遠い。営業時間も午前11時から午後1時30分で、金曜と土日・祝日は休業だ。

   自身はリモートワークが続いている。久しぶりにキャンパスを歩いても、いつものにぎやかしい雰囲気が戻っていない。それだけに、今回のクラスター認定で学生たちの気持ちそのものがロックダウンするのではないか。そんなふうに案じている。

(※写真は、大学キャンパスの学生ラウンジ。学生たちの姿は少なく閑散としている)

⇒21日(火)夜・金沢の天気     くもり

☆リアリティ番組、いよいよ「BPO沙汰」に

☆リアリティ番組、いよいよ「BPO沙汰」に

   台本のない共同生活を描いたリアリティ番は実話、損害賠償金つきの誓約書兼同意書によって、出演者たちが制作者側の意図に沿って演じていた番組だった、のか。フジテレビの番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーが自死した問題で、遺族がBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会に人権侵害を申し立てる書類を提出した(7月15日付・共同通信Web版)。

   番組の中で、同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れたとして怒鳴り、男性の帽子をはたく場面が流れ、視聴者から誹謗中傷のSNSなどが集中し、本人が追い込まれた。母親によると、このシーンについて、スタッフの指示があったと本人がかつて話していて、「暴力的な女性のように演出・編集され、過呼吸になっても撮影を止めてくれなかった。人格や人権が侵害された」と訴えている(同)。

   BPOがこの問題を審議することになれば、リアリティ番組の中で、女子プロレスラーが凶暴な悪役を演じさせられたのか、それが誰の指示によるものだったのか、損害賠償金つきの誓約書兼同意書の意図はどこにあったのか議論になるだろう。台本のないリアリティさを売りにしていた番組だったので、映像に描き出される彼女の言動そのものが、人格・個性と視聴者に受け止められた。これが、娯楽バラエティー番組であれば役者による演技と受け止められ、視聴者からのSNSによる誹謗中傷もそれほどではなかったのではないか。リアリティ番組で過剰な演技が要求されていたとすれば、まさに「人権侵害」といえるだろう。

   フジテレビの社長は7月3日の記者会見で、「現在、検証作業中であり、事実関係の精査などを行っている」と前置きし、「一部報道にスタッフが“ビンタ”を指示したと書かれているが、そのような事実は出てきていない。一方で、『テラスハウス』という番組は性質上、出演者とスタッフが多くの時間を過ごしており、多くの会話をしている中で、撮影では、出演者へのお願い・提案などはある。 」と述べている(フジテレビ公式ホームページ)

   この問題は「BPO沙汰」にすべきだと考えている。5月にこの問題が発覚し、女子プロレスラーの自死はSNSでの誹謗中傷が招いたと社会問題となった。自民党はインターネット上での誹謗中傷対策を検討するプロジェクトチームを立ち上げ、匿名による中傷を抑制する法規制などを検討を始めている。ところが、この問題の根本はテレビ局側が出演者に過剰な演技を要請したことが原因ということになれば、別次元の問題だ。視聴者もテレビ局側にある意味で騙され、煽られたことになる。

   BPOは放送や番組に対して政治や総務省が介入することを防ぐ目的で、NHKと民放が自主的に問題を解決する姿勢を示すために設けた第三者機関である。「人権侵害」と認定されれば、テレビ局側もそれ相当の自己改革が迫られる。この際、リアリティ番組の放送基準を明確にすべきだろう。このままうやむやにしてはならない事案だと考える。

(※写真はイギリスのBBCニュースWeb版が報じた女子プロレスラーの死=5月23日付)

⇒16日(木)朝・金沢の天気    くもり

★日本も例外ではない「ズーノーシス」の接近

★日本も例外ではない「ズーノーシス」の接近

   「ズーノーシス(zoonosis)」という言葉を初めて知った。UNEP(国連環境計画)がこのほどまとめた報告書に出てくる。新型コロナウイルスの発生源として論議を呼んでいるコウモリなど動物由来で人にも伝染する感性病を総称してズーノーシス(人畜共通伝染病)と呼ぶそうだ。新型コロナウイルスの感染症やエボラ出血熱、中東呼吸器症候群(MERS)、HIV、ライム病といったこれまで人間が罹ってきた感染症はズーノーシスに含まれる。

   では、なぜズーノーシスが繰り返されるのか、UNEPのインガー・アンダーセン氏らが報告書=写真=をまとめた。以下、UNEP公式ホームページで掲載されているダイジェスト版「Preventing the next pandemic: Zoonotic diseases and how to break the chain of transmission」(次なるパンデミックの防止:人獣共通感染症と伝染の連鎖を断ち切る方法)から以下引用する。

   低・中所得国では毎年200万人がズーノーシスである炭疽病、牛結核、狂犬病で死亡している。これらの国々は家畜への依存度が高く、野生生物に近い地域社会である。その原因は人の生産活動にある。肉の生産量は50年間で260%増加し、農業生産も強化された。大規模な耕作地や灌漑、ダムなどの農業インフラを拡張したものの、同時に野生生物の空間を犠牲にした。その結果、人と野生動物は近くなり、ズーノーシスとも密接になってきている。

   野生生物の領地やその他の天然資源の過剰な開発をやめ、持続可能な農業を行うことで、土地の劣化を逆転させ、生態系の健全性を守るための投資が必要、と提言している。

   これを読んで、日本ではまったく逆のズーノーシスが起きる可能性が高まっているのではないかと感じた。たとえば、金沢でも人里や住宅街にクマやサル、イノシシ、シカが頻繁に出没している。ドングリなどのエサ不足に加え、里山と奥山の区別がつかないほど里山や耕作放棄地が荒れ放題になっていて、クマ自身がその領域の見分けがつかず、人里や住宅街に迷い込んでくる、とも言われている。

   ズーノーシスに感染したこれらの野生生物が街中を徘徊することを防げるだろうか。

⇒9日(木)夜・金沢の天気    くもり

☆検証されるべきはWHOと中国の関係性

☆検証されるべきはWHOと中国の関係性

   気になった国際ニュース。アメリカはWHOから来年7月6日付で脱退すると国連に正式に通告した。トランプ大統領が5月下旬、新型コロナウイルスを巡る対応が中国寄りだと主張し、脱退すると宣言していた。7月6日に通告を受けた国連サイドは、脱退条件を満たしているかどうか確認作業に入ったとしている。アメリカは1948年にWHOに加盟し、最大の資金拠出国となっており、脱退による活動への影響が懸念されている(7月8日付・共同通信Web版)。

   トランプ氏はこれまで何度も「WHOは中国に完全に支配されている。WHOとの関係を終わらせる」と脱退の意向を示してきたので、ついに実行に移したか、という印象だ。当のWHOは今回の通告に対してまだコメント発表していない。ただ、テドロス事務局長はこれまでアメリカ政府は協力の恩恵を世界は長年受けてきたと強調し、公衆衛生の改善に大きな影響を与えてきたアメリカの貢献を称賛している(6月1日・WHO記者会見)。

   今回の通告を11月のアメリカ大統領選の争点にしようとしているのが、大統領の座を争うことになる民主党のバイデン氏だ。さっそく、7日のツイッターに「大統領としての初日にWHOに戻る」と投稿し、政権を奪還すれば、来年1月に大統領に就任してすぐ、脱退を撤回する考えを示した(7月8日付・NHKニュースWeb版) 。

   冒頭の記事にあるように、国連サイドはアメリカの脱退条件を満たしているかどうか確認作業に入ったとしている。ぜひ、テドロス氏と中国の関係性を明らかにしてほしい。これまで指摘されているように、中国でヒトからヒトへの感染を示す情報がありながら、WHOがその事実を知りながら世界に共有しなかったのはなぜか。トンラプ氏でなくとも疑問に思う。

   そもそも、WHOと中国の関係性が疑われたのは1月23日だった。中国の春節の大移動で日本を含めフランスやオーストラリアなど各国で感染者が出ていたにもかかわらず、この日のWHO会合で「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言を時期尚早と見送った。同月30日になってようやく緊急事態宣言を出したが、テドロス氏は「宣言する主な理由は、中国での発生ではなく、他の国々で発生していることだ」と述べた(1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。日本やアメリカ、フランスなど各国政府はすでに武漢から自国民をチャーター機で帰国させていた。

   ぜひとも、こうしたWHOと中国の関係性がアメリカの主張の通りなのか、国連サイドとして検証してほしいものだ。

(※写真は4月27日、テドロス事務局長の記者ブリーフィング=WHO公式ホームページ) 

⇒8日(水)夜・金沢の天気    あめ

★コロナと大雨の二重禍、そしてボランティアは

★コロナと大雨の二重禍、そしてボランティアは

   きょう未明から雨が降り続き大雨だった。午前中、車で能登方面に出かけたが、フロントガラスに雨が激しく叩きつけ、前方がよく見えかった。ワイパ-を最高速にしたが、かえって見にくい。車体がグレーでライトをつけていない車は要注意だった。

         今回列島を襲っている記録的な大雨で、これまでに熊本県を中心に57人が亡くなり、2人が心肺停止、12人が行方不明となってる。まだ被害が把握できていないところもあり、警察や消防、自衛隊などが引き続き捜索している(7月7日付・NHKニュースWeb版)。

   山中の道路が寸断され、孤立した集落が数多くあるだろう。記録的な大雨の犠牲者は今後さらに増える可能性もある。熊本県の公式ホームページにきょう行われた災害対策会議の模様が動画で掲載されいる。参加者は全員マスクを着用し会議に臨んでいた=写真=。熊本県内では新型コロナウイルス感染で48人の感染者、そして3人が死亡しているので、コロナと大雨の二重の災禍と向き合っている、そんな光景に映った。

   水害の復旧のためのボランティアをどのように集めるのか気になって検索をかけていると、熊本県社会福祉協議会の公式ホームページで「災害・生活復興支援ボランティア情報」(7月7日付)のページがあった。その中で気になったのは、ボランティア参加に関しては、ウイルス感染防止から参加を制限していることだ。

   ホームページをもう少し詳しく見てみる。同協議会では、災害ボランティアセンターの設置に向け準備を進めている。「開設後は新型コロナウイルス感染症拡大防止から、当面は県内被災地近隣の方々に限るなど、範囲を定めてボランティアの募集が行われる予定です。ご理解・ご協力をお願いいたします。」と。これだけの大災害となると連日テレビが大きく取り上げる。すると本来ならば災害ボランティアは全国から集まって来る。ところが、ウイルス感染の防止から全国からの受け入れには慎重にならざるを得ない、ということなのだろう。

   しかし、ボランティアの被災地で作業は「3密」状態だろうか。マスクの着用を守ってもらい、 被災者との「濃厚接触」を避けてもらえばそれだけでよいのではないだろうか。被災地の近隣のボランティアだけは人数が足りない。ましてや、これだけ広範囲の水害となると近隣からは集まらないだろう。

   コロナ禍では、移動の自粛をめぐって意見の違いが交錯する。東京都の小池知事が、ほかの県への不要不急の移動を控えるよう呼びかけたことについて、コロナ対策の西村経済再生担当大臣は政府として移動の自粛は求めない考えを重ねて示した(同)。この意見の違いは、ボランティアにも当てはまる。被災地の復旧をサポートしたいというボランティアの気持ちを前向きに受け入れてはどうだろうか。

⇒7日(火)夜・金沢の天気   あめ