⇒ニュース走査

★動物たちの反乱

★動物たちの反乱

   前回のブログで霊長類学者、河合雅雄氏の講演について述べた。河合氏らの共著に『動物たちの反乱』がある。タイトルが面白い。今まさにその時代が到来しているのかもしれない。街中に出没するツキノワクマ、農作物を食い荒らすニホンザル、市内でゴミをあさるイノシシなど、動物たちがヒトに「反乱」を起こしているのか。ここからは空想の世界が入り混じる。

   動物たちの反乱は身近に起きている。きょう大学から一斉メールが届いた。「高病原性鳥インフルエンザに対する対策について」との文科省からの通知の転送だ。添付ファイルに「野鳥との接し方」がある。以下引用。「野鳥の糞が靴の裏や車両に付くことにより、鳥インフルエンザウイルスが他の地域へ運ばれるおそれがありますので、野鳥に近づきすぎないようにしてください。 特に、靴で糞を踏まないよう十分注意して、必要に応じて消毒を行ってください」。自家用車を駐車場に停めておくと、鳥のフンがフロントガラスについていることがある。これまでテッシュペーパーで拭いて、水をかけて洗っていたが、触れないようさらに用心が必要だ。鳥たちの「フン爆撃」か。処置としては、ガソリンスタンドの洗車機で洗うのベストだろう。1回450円だ。

   動物たちの「敵陣突破」作戦も顕著になってきた。環境省は今年4-9月のクマの出没件数が全国で1万3670件に上り、2016年度以降の同時期で最多だったことを明らかにした(10月26日付・共同通信Web版)。石川県では687件(ことし1月-11月10日現在)に上り、9月11日には「ツキノワグマの出没注意情報」を発令した。さらに、クマとの遭遇に備えて「ヘルメットの着用やクマ撃退スプレーの携行」、さらに、「林道での人身被害を防止するため、自動車から降りる際にはクラクションを数回鳴らしてから降りる」ことを勧めている。 まさに、戦闘態勢だ。

   動物たちの「兵糧攻め」も続いている。農水省公式ホームページの統計によると、平成30年度の野生鳥獣による農作物の被害額は158億円に上った。種別の被害金額は、シカが54億円、イノシシが47億円、サルが8億円だ。被害の7割をこの3種が占めた。被害面積ではシカによるものがおよそ4分の3だ。被害額としては6億円の減少(前年比4%減)だが、被害量が49万6千㌧で前年に比べ2万1千㌧も増加(対前年4%増)している。

   海外では「人心のかく乱」「新兵器」も繰り出している。デンマークでは、毛皮を採取するための家畜のミンクから変異した新型コロナウイルスが見つかり、人への感染が確認されたとして、政府は国内の農場で飼育されるミンク1700万匹を殺処分にする方針を明らかにした(11月7日付・NHKニュースWeb版)。その後、デンマーク政府は国内で飼育されている全ミンクの殺処分を義務付けるとした命令を撤回した(同11日付・CNNニュースWeb版日本語)。一方、イギリスの保健大臣は、変異種が世界中に広まれば「重大な結果」がもたらされると警告、毛皮用のミンク飼育を国際的に禁じる必要があると示唆した(同・時事通信Web版)。エレガントなミンクの毛皮とコロナ禍の間で揺れる人々の心を嗤うように「かく乱」が続く。

   中国では動物たちが「新兵器」を繰り出した。NHKの報道によると、中国甘粛省の蘭州市当局は記者会見(今月5日)で、去年7月から8月にかけて「ブルセラ症」の動物用のワクチンを製造する地元の製薬工場から菌が漏れ出し、周辺住民など6620人が感染したことを明らかにした(11月6日付・NHKニュースWeb版)。ブルセラ症は犬や牛、豚、ヤギなどが細菌に感染して引き起こされる病気で、人が感染すると発熱や関節の痛みなどの症状が出る(同)。

   問題は感染経路だ。厚労省公式ホームページによると、人から人への感染は極めてまれで、感染動物の乳製品や肉を食べた場合での感染が一般的という。コロナウイルスでは、武漢市の細菌研究所の近くに市場があり、動物実験で廃棄されたものが市場に出回ったと当時うわさされた。今回も同じ展開か。動物たちの策略に人はうまく乗せられたのか。

⇒13日(金)朝・金沢の天気    はれ

☆WHOに巻きつくヘビ

☆WHOに巻きつくヘビ

    WHOのテドロス事務長は信頼を得ることがさらに難しくなったのではないだろうか。新型コロナウイルスへの対応などを議論するWHOの年次総会が9日、テレビ会議形式で始まり、テドロス氏は、アメリカのトランプ大統領がWHOの脱退を通知していたものの、脱退を撤回すると表明していたバイデン氏が大統領選で勝利宣言をしたことを受けて、「緊密に連携していくことを楽しみにしている」と述べたと報じられている(11月10日付・NHKニュースWeb版)。

     トランプ氏が脱退を表明した理由は、テドロス氏の「中国寄り」の露骨な振る舞いがコロナ禍の拡大を招いたからだ。そもそも、WHOと中国の関係性が疑われたのは今年1月23日だった。中国の春節の大移動で日本を含めフランスやオーストラリアなど各国で感染者が出ていたにもかかわらず、この日のWHO会合で「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言を時期尚早と見送った。同月30日になってようやく緊急事態宣言を出したが、テドロス氏は「宣言する主な理由は、中国での発生ではなく、他の国々で発生していることだ」と述べた(1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。日本やアメリカ、フランスなど各国政府は武漢から自国民をチャーター機で帰国させていたころだった。

   中国でヒトからヒトへの感染を示す情報をWHOが世界に共有しなかったのはなぜか。トンラプ氏でなくとも疑問に思う。アメリカ政府は7月6日に国連に対し、来年7月6日付でWHOから脱退すると正式に通告した。アメリカは1948年にWHOに加盟し、最大の資金拠出国となっており、脱退による活動への影響が懸念されていた(7月8日付・共同通信Web版)。

   さらにWHOが中国寄りの姿勢を露わにしたのは今回の年次総会だった。WHOに加盟していない台湾がオブザーバーとしての参加を目指し、中南米の国も参加を求める提案をしていたが、総会の議長は非公開での協議で提案の議論は行わなかった。台湾の参加は認められなかった。台湾のオブザーバー参加はアメリカや日本などが支持した一方、中国が強硬に反対していた(11月10日付・NHKニュースWeb版)。

          台湾は中国・武漢で去年12月、コロナの感染拡大をSNS上で把握し迅速な対応策を発動して波及を防いだことは国際的にも知られる。人口2350万人の台湾での感染者の累計は578人(死者7人)=今月10日付・ジョンズ・ホプキンス大学コロナ・ダッシュボード=で、うち地元に原因がある発症は55件にとどめている。コロナ対策では国際的な評価を得ている台湾をオブザーバーとして参加させない理由はなぜか。テドロス事務局長による中国への配慮そのものではないのか。WHO脱退を撤回するにしても、バイデン氏にはその矛盾点をぜひテドロス氏に向けてほしい。

   WHOのシンボルの旗には杖に巻きつくヘビが描かれている。ギリシャ神話で医の守護神となったとされる名医アスクレピオスはヘビが巻きついた杖をいつも持っていた。それが、欧米では医療のシンボルとして知られるようになった。(※写真はことし8月21日のWHOの記者ブリーフィング=WHO公式ホームページ) 

⇒10日(火)朝・金沢の天気      はれ

☆アメリカ大統領選 「オクトーバーサプライズ」を逃す

☆アメリカ大統領選 「オクトーバーサプライズ」を逃す

   CNNニュースWeb版(11月8日付)は「BIDEN WINS」と大見出しで伝えている=写真=。「Pennsylvania’s 20 electoral votes put Biden over the 270 electoral votes needed to win.」。僅差で激戦が続いていたペンシルベニア州(選挙人20人)でバイデン氏が勝利し、大統領選で必要な選挙人過半数の270を超えることが確定したと報じている。今回の大統領選で勝敗を分けたのは何だったのか検証してみる。

   CNNは、バイデン氏の勝利についてニューヨーク市の医師のインタビューを紹介してる。「このパンデミックを乗り越えて、やるべきこと、つまり私たちがそれをコントロールできるようにするために、都市や国でやらなければならないことをやろうとしているリーダーだ」と語った。このリーダーとは女性初の副大統領に就任予定のカマラ・ハリス氏のこと。先月15日にハリス氏が遊説中にスタッフ2人の新型コロナウイルス感染が発覚、ハリス氏は念のため18日まで遊説を自粛した。医師はコロナにしっかり向き合うバイデン陣営の姿勢を評価したのだ。

   一方、トランプ氏は対照的だった。投票日を1ヵ月後に控えた先月2日、本人のウイルス感染が判明しワシントンの陸軍病院に入院した。ところが、3日後早々に退院した。選挙遊説でもトランプ氏はコロナ感染を克服したことをアピールするためにあえてマスクを外して強さをアピールした。まさに地で行く「オクトーバーサプライズ(October surprise)」となった。その後、ホワイトハウスの関係者に感染が広がった。

   では、バイデン氏とトランプ氏の対称的なコロナ対応が、有権者にどう影響を与えたのだろか。その際立った違いは「郵便投票」への両陣営の呼びかけだろう。バイデン氏は感染対策として郵便投票や期日前投票を活用するよう促していた。一方、トランプ氏は不正につながるとして郵便投票をしないよう呼びかけていた。トランプ氏が指摘した不正とは、郵便と投票所で「二重投票」が起きるとの主張だ。郵便投票の用紙を申請した直後に期日前投票をすれば、二重投票の可能性は出てくるが、事務的チェックで防げるだろう。

   アメリカのメディアがよく引用するフロリダ大学「US Elections Project(アメリカ選挙プロジェクト)」のサイトをチェックすると、今回の選挙の投票総数は1億5883万人で投票率は66.4%だった(大学独自集計)。期日前投票は1億100万人以上で、うち6450万人超が郵便投票を選んだと推定される。2016年の選挙では1億3900万人が投票し、うち郵便投票は3300万人だったので倍近い数字となる(AFP通信Web版日本語)。トランプ氏が 「 Mail-in ballots are very dangerous」と呼びかけたにもかかわらず大幅に増えたということは、それだけ投票所での「3密(密集、密接、密閉)」を避けたいとの有権者の意識の表れだろう。

   トランプ氏はコロナ禍での国民の心情・心理を読み誤った。自らが回復したからと強気に出るのではなく、あの時に「コロナを経験して怖さを知った。郵便投票でOKだ。ワクチン開発を急ぐ、国民は安心してほしい」と言えば、それで選挙情勢は変わっていたかもしれない。自らの「オクトーバーサプライズ」のチャンスを逃した大統領になった。バイデン氏の大統領就任式は2021年1月20日だ。

⇒8日(日)朝・金沢の天気      くもり

☆アメリカ大統領選 往生際の悪さ

☆アメリカ大統領選 往生際の悪さ

   新型コロナウイルスの感染拡大が止まない。ジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボード(一覧表)によると、アメリカの感染が最も多く958万人、インド836万人と続く。亡くなった人もアメリカが23万人、ブラジル16万人と続く。アメリカでは今月4日(現地時間)に新規感染者は10万2831人と1日当たりの感染者が初めて10万人を超えた(11月5日付・CNNニュースWeb版日本語)。

   これが社会不安にもつながっているのだろうか。ニューヨーク市警が公表した犯罪統計によると、ことし年初から10月までの間に発生した発砲事件は1299件で、前年同期に比べ93.9%も増加している(同)。ニューヨーク市では毎日4.3回の発砲音が聞こえていることになる。コロナ禍に加えて、アメリカ大統領選がデスマッチの様相だ。

   開票作業が長引いているペンシルベニア州(選挙人20人)のフィラデルフィアでは、トランプ、バイデンの両候補の支持者らによるデモが繰り広げられた。トランプ氏の支持者らは「投票は選挙日まで」「投票所は閉まりました」と書かれたプラカードを掲げた一方で、バイデン氏の支持者らはバリケード内でダンスする姿が見られた(11月6日付・ロイター通信Web版日本語)。

   SNSも大混乱だ。フェイスブックは5日、誤情報などを投稿し「民主党が選挙を盗んでいる」と根拠のない主張を続けているトランプ支持者のグループ「STOP THE STEAL(盗みを阻止しろ)」をプラットフォーム上から削除した。フェイスブックは声明で「同グループは選挙プロセスの非合法化を目的に組織され、一部メンバーは懸念を誘う暴力行為を呼び掛けていた」と説明した(同)。

            アメリカでは、SNS各社は通信品位法(CDA:the Communications Decency Act )230条に基づき、利用者の投稿内容について免責されるという法的保護を受けている。つまり、SNSは基本的に違法な投稿を掲載したことの責任を問われない。その一方で、ヘイトスピーチなどのコンテンツは独自にファクトチェックの規定を設けて規制しているのだ。むしろ、SNS各社はそのファクトチェックの作業で大混乱しているのではないだろうか。差別や相手を圧迫するようなヘイトスピーチは分かりやすいが、ファクトチェックとなると独自に事実関係を収集・構築した上での判断となるので簡単ではないだろう。

          SNSを政治の舞台として活用したのは、ある意味でトランプ氏だった。2017年1月の大統領就任前からゼネラル・モーターズ社やロッキード社、ボーイング社などに対し、ツイッターで雇用創出のために自国で製造を行えと攻撃的な「つぶやき」を連発した。ホワイトハウスでの記者会見ではなく、140文字で企業に一方的な要望を伝えるという前代未聞のやり方だった。

   そのSNSが今回の大統領選でトランプ氏の書き込みに目を光らせている。ツイッターは「誤解を招く可能性がある」として警告ラベルを付けて閲覧者に注意を促している。その数は尋常ではない=写真=。一国の大統領のツイッターにここまでするのかとも思うくらいだ。一方で、追い詰められたトランプ氏がこの場におよんで無茶ぶりのコメントを連発しているのだろう。往生際の悪さか。

⇒6日(金)午後・金沢の天気     くもり時々あめ

★アメリカ大統領選 ドロ沼化のプロセス

★アメリカ大統領選 ドロ沼化のプロセス

   昨夜は「トランプの再選もありかな」と思いながら就寝した。朝起きてテレビやネットをチェックすると、前回(2016年)トランプが勝ったウィスコンシン州とミシガン州がバイデン氏に流れていて、一夜で情勢が変わったと気がついた。  

   アメリカ大統領選での郵便投票がかなりの「混乱」を招いている。当事者であるトランプ氏のツイッターをチェックすると随所にその混乱ぶりがうかがえる。

「We are winning Pennsylvania big, but the PA Secretary of State just announced that there are “Millions of ballots left to be counted.”」(意訳:我々はペンシルベニア州で大きな勝利を収めているが、州務長官は「数百万の投票が残っている」と発表した)。ペンシルベニア州(選挙人20人)の郵便投票は3日の消印有効で6日までに到着すれば受け付ける。同州では約900万人の有権者の3分の1が郵便投票を申請している(11月4日付・時事通信Web版)。民主党支持者は新型コロナウイルスの感染を恐れて郵便投票が多いとされる。逆に、共和党支持者は当日投票が多い傾向にあり、当日投票の先行開票でリードしていても、郵便投票の開票で逆転もある。

   しかし、トランプ氏はそのような理解をしていないようだ。「How come every time they count Mail-In ballot dumps they are so devastating in their percentage and power of destruction?」(意訳:郵便投票の束を集計するたびに票差が変化し、なぜこれほど破壊力があるのか)。トランプ氏は郵便投票に不正があると見ていて、おそらく納得がいかないのだろう。

   バイデン優勢から激戦、そして郵便投票による逆転劇などドロ沼化しているアメリカ大統領選の開票がこれほど長引くとは思っていなかった。ついでに、ニューヨークダウをチェックすると、前日に比べて367㌦高い2万7847㌦で終えている。一時800㌦の上げ幅もあった。選挙結果が見通せない中でも買い注文が連日続く。東証だったらしばらく様子見だろうか。選挙も投資もアメリカらしく実にダイナミックではある。

⇒5日(木)朝・金沢の天気     はれ

★大阪都構想 票に滲むコロナ禍と報道と共感と

★大阪都構想 票に滲むコロナ禍と報道と共感と

    「反対50.6%、賛成49.4%」の僅差で否決された大阪都構想。その後の新聞・テレビ各社の報じる論評を読めば読むほど分からないことが増えてくる。同時に票にはさまざま思いや時のタイミングが滲んでいると思えてくる。

   大阪・朝日放送(ABC)の世論調査によると、10月24-25日調査では賛成46.9%、反対41.2%だった。ABCは9月19-20日から世論調査を始めているが、それまでの賛成が6回続けてリードしていた。7回目となる10月30-31日の調査で初めて反対46.6%、賛成45.0%と逆転した。これまで「未定・不明」と答えた人の割合が、3.5ポイント減って反対側に流れたようだ。そして、この7回目の調査結果がそのまま11月1日の住民投票の結果に反映されたかっこうだ。

   ABC調査で気になったデータがある。「新型コロナの拡大下でも住民投票を行うべきか」(10月3-4日調査)の問い。年代でもバラツキがあるが、全年代通しでは「予定通り行うべき」37.8%を「中止もしくは延期するべき」42.0%が上回っている。大阪市では、10月は第3波ともいえる新規感染者数が増加を始めたころだった。とくに終盤の27日から11月1日の投票日にかけては連日50人から70人の新規陽性者が出ていた(大阪市役所公式ホームページ)。

   実際にコロナ禍は投票行動に影響を与えたのではないだろうか。投票率が66.8%だった前回(2015年)より世論の関心度も高く盛り上がったにもかかわらず、今回投票率が62.4%と4.4ポイントもダウンしたのも、コロナ禍で投票場へ行くのを控えた人も多かったせいだろう。期日前投票が前回35万9千、今回41万8千と率にして16%も増えているのも、「3密」を避けた投票行動と読めるのではないか。

   ABC調査のデータが現実になったともいえる。「中止もしくは延期するべき」が声が上がっていたにもかかわらず、それを実施したことに対する、松井市長、大阪維新の会への批判が「反対」票となって表れたのではないだろうか。大阪都構想を推進する側にとっては、コロナ禍はタイミングが悪かった。

           さらにもう一つ「反対」票につながったと思われる数字がある。大阪市を4つの特別区に分割した場合、標準的な行政サービスを実施するために毎年必要なコスト「基準財政需要額」の合計が、現在よりも約218億円増えることが市財政局の試算で明らかになったと報道された(10月26日付・毎日新聞Web版)。市財政局の担当者は29日に緊急記者会見で、この試算を撤回した(10月29日付・同)。が、この数字が都構想のデメリットとして独り歩きを始めたのではないだろうか。

   きょう大阪維新の会のツイッターをチェックすると、吉村知事の囲み会見(11月2日)が動画で紹介されている。支持者のコメントが出ていた。「燃え尽き症候群のようになってしまわないか心配です。今はなかなか切り替えができないと思いますけど、違うやり方で少しづつ改革を進めることはできます。60万人以上の市民が賛成したのも事実です、これで都構想を諦めるなんて言わないでください!まずは一休みして」。やさしい励ましの言葉だ。都構想はある意味で市民の共感を得ていた政策だったのだ、と理解もできた。

⇒3日(祝)朝・金沢の天気     はれ

☆大阪都構想 僅差で「あかん」

☆大阪都構想 僅差で「あかん」

   「大阪都構想」という言葉はおそらく日本の多くの人が知っていただろう、そして住民投票で可決されると思っていたのではないだろうか。何しろ都構想を推進する松井一郎大阪市長と吉村洋文大阪府知事はテレビにもよく顔出しして、はっきりとした物言いでリ-ダーとして頼りになると誰しもが印象を持っていたのではないだろうか。一夜明けてニュースを見れば、この投票結果だ=写真=。「なぜ」と首をかしげる。

   都構想は、政令指定都市の大阪市を廃止して4つの特別区(北区、天王寺区、中央区、淀川区)に再編する構想で、特別区が教育や福祉といった住民サービスを提供して、道路や水道などのインフラ整備などは大阪府に一元化するという内容だと理解している。

   去年2019年4月の大阪市長選をテレビで見て、松井氏が「府と市の二重行政は効率が悪く弊害も大きい、これは不幸せ(府市合わせ)です」とマイクで叫んでいたのを覚えている。この選挙では自民推薦の候補に圧勝。同日選挙だった府知事選も吉村氏が自民推薦の候補に勝利した。なのになぜ、前回(2015年5月)と同様に都構想は否決されたのか。その民意は何だろう。

   敗因を数字で読んでみる。投票率は62%で反対50.6%、賛成49.4%だ。前回は投票率66%で反対50.4%、賛成49.6%と、今回も前回もまさに拮抗した数字だ(11月2日付・NHKニュースWeb版)。NHKが投票当日の出口調査の数字を公表している。それによると、10代と20代は賛成と反対が並んでいるが、30代は賛成が60%、反対が40%となっている。40代は賛成が50%台半ば、反対が40%台半ば。50代は賛成と反対が拮抗し、60代と70歳以上はそれぞれ賛成が40%台前半、反対が50%台後半となっている。いわゆるシニア世代に反対票が多い。性別では、男性では50%台前半の人が賛成に、女性は50%台半ばの人が反対したと答えている。

  シニア世代に反対が多いということは、「現状でよい」という意向だと読める。政令指定都市を廃止してまで改革をやって、どのようなメリットがあるのか見えない、ということだろう。もう一歩踏み込んで考えると、大阪市で上場する企業は339社と集中しており、市税収入の総額に占める法人税の割合は17%と、名古屋市(12%)や横浜市(7%)より高い(「大阪市役所公式ホームページ」平成31年度統計)。こうした財源の一部がインフラ整備などで府に移行する計画なので、住民サービスが低下するので「あかん」と意識した人もいたのだろう。

   さらに住んでいる地名にこだわる人たちもいただろう。特別区で消えてしまう「阿倍野区」や「住吉区」など。地名に愛着を持っている人は多い。そして、意外と市役所の関係者が反対に回ったかもしれない。都構想が実現して、特別区に分割されれば、市役所職員は「区役所」職員になってしまう。「格下げ」だと感じているのではないだろうか。

   大阪府と大阪市の不都合な関係性は、金沢市に住んでいて理解できなくもない。府における市は人口で3割を占める。金沢市も石川県では4割だ。県と市の二重行政は無駄、特別区を設けて、首長を市長ではなく、県知事に任せるとの構想が出てきたら、金沢市民にどのような反応が起きるだろうか。賛成する人もいるだろう。一方で「金沢をなくせば、都市力や住民サービスの低下につながる」と反対する人も多いだろう。行政の無駄では片付けられない、独自の歴史やプライドが地域にはあるものだ。

   大阪都構想の敗北。「維新の会」にとってはまさに一丁目一番地の政策だっただけに、松井市長も吉村知事も今期限りで辞任すると表明した。維新の会そのものの存在意義が問われ、大阪では政治の迷走が始まるだろう。来年に予想される総選挙はどうなるのか。2025年万博への影響はないのか。

⇒2日(月)朝・金沢の天気     あめ

★「領域外」に立ち入るということ

★「領域外」に立ち入るということ

   先日金沢市内の卯辰山公園近くの道路の入り口に看板がかかっていたので乗用車を停めると、「園内でクマが出没しました!」との注意書きだった=写真=。「7月22日」と記されているが、1ヵ月余り前の6月3日にも卯辰山山ろくの人家密集地にクマが出没し、7時間にわたる「大捕物劇」がニュースになっていた。いつまたクマが出没するかもしれないと考えると、金沢の紅葉の名所の一つでもあるものの、市民は敬遠するだろう。いつもならこの季節、バーベキューでにぎわうのだが。

   クマの暴走が止まらない。先月10月29日朝、小松市の小学校のグラウンドに1頭が入り、隣りにある高校の敷地内に逃げ込んだ。午前9時前に猟友会のメンバーが猟銃で駆除した。高校では15分遅れで授業を開始した。現場は市街地だ。小松市ではきょう1日に同市で実施される全国高校駅伝競走大会県予選について、一般道路を走るルートから陸上競技場のトラックを周回する方式に急きょ変更した。発着点付近でクマ出没が相次いだためだ。石川県自然環境課のまとめによると、ことしに入ってクマの目撃情報は502件(10月27日現在)で、うち小松市が133件ともっとも多く、次いで金沢市の118件だ。

   本来入るはずのないところに入る、本来入るべきところでないのに入る、それが問題だ。何もクマの話だけではない。菅内閣の総理補佐官に共同通信社の論説副委員長だった人物が10月1日付で就任したことが議論を呼んだ。いわゆる、権力をチェックする側のジャーナリストが一転して政権内部に入ってよいのか、と。政治部時代に菅総理と知り合い、また、同郷(秋田県)でもあった。総理からの要請を受けての就任で、政策の評価・検証をするポジションのようだ。

   ジャーナリストとして政権側に入ってよいものかどうか、本人が苦悶したであろうことは想像に難くない。以下は憶測だが、現在59歳、来年60歳という年齢が決断のきっかけだったかもしれない。ジャーナリストであっても、政治家であっても、経営者であっても、年齢というものを区切りに辞す、転職するなど別の世界を選択する。それを「人生の転機」と考えるものだ。ましてや、今回のように声がかかれば、「ご縁」、あるいは「運命」と位置付けてその道に入るだろう。

   今回、「ジャーナリストが政権側に身を売るのか」「それまでの政権批判は一体何だったのか」などとの手厳しい意見が身内からもあっただろう。ただ、ジャーナリストは多様である。菅総理に共感を持ちながら政権の有り様を質すジャーナリストもいる(「田原総一朗公式サイト」9月25日付コメント)。批判を覚悟しての政権入りであり、それも人生の貴重な選択肢だ。ただ、菅総理は人使いが荒そうなので、本人が問われるのはむしろこの先だろう。

⇒1日(日)朝・金沢の天気    はれ

☆NHKの「義務化を」の背景を読む

☆NHKの「義務化を」の背景を読む

   自家用車に乗っていてもNHKラジオで時刻ごとの5分ニュ-スをよく聴く。仕事から自宅に戻れば、午後7時や同9時のNHKのニュース番組を視聴する。受信料を払っているからという理由ではないが、自身のNHKへの接触度は高い方だと思っている。そのNHKで違和感があったのが、受信料制度の在り方などを検討する総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会」で、NHK側が家庭や事業所でテレビを設置した場合はNHKへの届け出を義務化するよう放送法の改正を要望したというニュースだ(10月17日付・共同通信Web版)。

   NHKは受信契約を結んでいない世帯の居住者の氏名や、転居があった場合は転居先などの個人情報を、公的機関などに照会できるようにする仕組みの導入も求めた。受信契約の対象者を把握することで不払いを減らし、営業経費の削減にもつながるとみている。NHKはテレビがない場合の届け出も求めており、今後、有識者会議で検討する(同)。このニュースを見た視聴者は「NHKの上から目線」を感じたのではないだろうか。

   このNHKの要望で不快感を露わにしたのは民放サイドだ。いわゆる「テレビ離れ」。今月26日、日本テレビの小杉社長は定例会見で、テレビを設置した際のNHKへの届け出を義務化の要望した件について、「テレビ離れに拍車をかけるようなことになってはいけない」と懸念を表明(10月26日付・産経新聞Web版)。また、受信契約を結んでいない世帯の居住者氏名や、転居した際の住所などの個人情報を公的機関などに照会できる制度の導入についても、小杉社長は「視聴者には心理的なハードルがある」と指摘。「(総務省の有識者会議で)有識者の反対の意見が多かったと聞いているが、注視していかないといけないことだ」と述べた(同)。

   NHKも不評を買うことをある程度予想して要望を出したに違いない。その背景にNHKの相当な「焦(あせ)り」というものを感じる。それは、公共放送の有り様が国際的に見直されようとしているからだ。

   たとえば、イギリスの公共放送であるBBCについて、イギリス政府はTVライセンス料(受信料)を廃止し、希望者のみが視聴料を払う課金制(サブスクリプション)の導入など見直し作業を始める意向だという(2020年2月16日付・「The Sunday Times」Web版)=写真=。ジョンソン首相(保守党党首)は昨年12月の総選挙を前に、BBCの受信料制度の廃止と、視聴する分だけ金を払う有料放送型の課金制への移行を検討すると表明していた(2019年12月11日付・時事通信Web版)。選挙に勝利したジョンソン氏はその公約の実行段階に入ったと言える。

   イギリスの場合は、テレビを見たい視聴者は近くの郵便局で1年間有効の受信許可証を購入する。この許可証がなければ、電気屋でテレビそのものが買えないシステムだ。ところが、インターネット時代で、この受信許可モデルは果たして妥当なのか、その見直しがイギリスで起きているのだ。NHKの焦りというのは、日本でも受信料の見直し議論が起きる前に、NHKへテレビ設置の届け出を義務化するなど受信許可モデルを制度として早々に確立したいという意向ではないだろうか。

   BBCは世界の公共放送のモデルのような存在である。NHKにとってはギョーカイの大先輩であり大御所だ。そのBBCが直面する大問題を自らも焦燥感を持って成り行きを見守っているのだろう。NHKの「義務化を」の言葉の背景を探ってみた。

⇒31日(土)午後・金沢の天気    はれ

☆信なくば立たず

☆信なくば立たず

   韓国のメディアでは「国民情緒法」という言葉で、国民の気持ちをくんだ司法判断を揶揄することがある。私見だが、これも「国民情緒法」ではないだろうか。韓国人の元朝鮮女子勤労挺身隊員による韓国での訴訟で、勝訴が確定した原告が裁判所に申請した被告の三菱重工業の資産売却を巡り、韓国中部の大田地裁が売却命令を出すかどうかを11月10日以降に検討する見通しであることが分かった(10月29日付・共同通信Web版)。

   同地裁が9月7日に、売却について三菱重工業の意見を聞く審問書をホームページなどに掲載することを決定。11月10日午前0時に、書類が同社に送達されたと見なされる「公示送達」の効力が生じる。原告側が明らかにした。売却命令を出すには三菱重工業への書類送達などが必要だが、日本側が受け取りを拒んでいる(同)。日本と韓国の間で結ばれた1965年の日韓請求権協定は完全に反古にされている。被害者ビジネスそのものだ。

          もう一つの韓国の司法判断が「積弊精算」「過去断罪」だ。その典型が、同じ日のこの判決だ。韓国最高裁は29日、大統領在職中にサムスン電子などから巨額の賄賂を受け取ったとして、特定犯罪加重処罰法上の収賄罪などに問われた元大統領、李明博被告の上告審判決で、懲役17年、罰金130億ウォン(約12億円)などとした二審判決を支持し、李被告と検察の双方の上告を棄却し、実刑が確定した(10月29日付・共同通信Web版)。李被告は保釈されており、近く収監される。

   韓国の歴代の大統領経験者のうち、刑事事件として起訴され実刑判決が確定したのは、全斗煥、盧泰愚、そして、朴槿恵に続いて4人目となる。韓国の大統領というのは、前任者が後任に裁かれるというシステムではないだろうか。後任者が支持率を上げるために、前任者を貶める。これに司法が加担する。

   韓国政府はいわゆる徴用工訴訟で、2018年10月に韓国最高裁が日本企業に賠償を命じる判決を出して以降、「三権分立」を言い始め、司法の判断を尊重すると言い続けている。三権分立は司法、行政、立法の3権で相互に抑制を効かせ、権力の集中を防ぐことで国民の自由と権利を確保する民主主義のシステムだ。決して政治的に利用するものではない。国家と国家の約束を反故にして司法判断を尊重するのであれば、外交も国際条約も必要ない。信なくば立たず、である。お隣の国のニュースを見て感じた違和感ではある。

⇒29日(木)夜・金沢の天気    はれ