⇒ニュース走査

☆五輪とパラリンピックの垣根を取り払うという発想

☆五輪とパラリンピックの垣根を取り払うという発想

           パラリンピック競技をテレビで視聴していると、自らの視聴目線が「感動ポルノ(Inspiration porn)」ではないのかと考えたりする。この言葉が知られるようになったのは、2012年にオーストラリア放送協会(ABC)のWebマガジン『Ramp Up』で、障がい者の人権アクティヴィストであるステラ・ヤング氏が初めて用いた。意図を持った感動シーンで感情を煽ることを「ポルノ」と表現するが、障がい者が障がいを持っているというだけで、「感動をもらった、励まされた」と言われることを意味する(Wikipedia「感動ポルノ」)。

   話は変わるが、日経新聞Web版(8月30日付)のニュース。パラリンピックに合わせて来日しているフランスのソフィー・クリュゼル障がい者担当副大臣は30日、都内で記者会見を開き、2024年パリ五輪・パラリンピックは「オリンピックとパラリンピックの垣根を取り払う大会にする」と述べた。大会ボランティアの6%を障がい者にする考えを示し、あらゆる人々の社会参画の必要性を強調した。(※写真はソフィー・クリュゼル障がい者担当副大臣=在日フランス大使館公式ホームページより)

   NHKニュースWeb版(8月25日付)でも、クリュゼル氏が重い障害のあるスタッフがロボットを遠隔操作して接客する都内のカフェを訪れ、障害のある人の新たな働き方を視察したと報じている。このカフェでは、難病や脊髄の損傷などで重い障害のある60人が、自宅や病院にいながら、自分の分身のように、さまざまな大きさのロボットを遠隔操作して接客し、ロボットのカメラとマイクで客とコミュニケーションも取れる。クリュゼル氏は「多くの人が働き続けることを可能にする、すばらしい試みだと思います。2024年のパリ大会は私たちにとって大きな挑戦になるので、日本のよいアイデアを見て役立てたいと思っています。ハンディキャップのある人たちが解雇されることがないよう、人々の意識が変わっていくことを期待しています」と話した。

   オリンピックとパラリンピックの垣根を取り払うという発想が心を打つ。そして、ハンディを持った人が解雇されないよう、ロボットの遠隔操作という日本の技術を世界に広めてほしい。パラ競技を視聴していて、自らの目線が障がい者に対する「上から目線」ではないのかと自問自答しながらそんなことを想った。

⇒31日(火)夜・金沢の天気      くもり 

★SNS・ネットでの誹謗中傷を厳罰化する背景

★SNS・ネットでの誹謗中傷を厳罰化する背景

   SNSやネットでの誹謗中傷は刑法における侮辱罪に当たる。誹謗中傷に耐え切れずに自死にいたるという悲劇は後を絶たない。ところが、侮辱罪は軽犯罪法違反と同じレベルの刑の軽さで、警察もすぐには動かない。その侮辱罪が時代に合わせて厳罰化の動きが出てきた。ようやくだ。

   きょうの読売新聞Web版(30日付)によると、インターネット上での誹謗中傷対策を強化するため、法務省は刑法の侮辱罪を厳罰化し、懲役刑を導入する方針を固めた。来月中旬に開かれる法制審議会(法相の諮問機関)で同法改正を諮問する。罰則の引き上げに伴い、公訴時効も1年から3年に延びる。ネット上の投稿は加害者の特定に時間がかかり、摘発できないケースもあるが、法改正により、抑止効果や泣き寝入りの防止につながるとみられる。

   侮辱罪を巡っては、フジテレビが放映したリアリティ番組『テラスハウス』(2020年5月19日放送)に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(同5月23日)=写真=が記憶に新しい。警視庁は侮辱罪の公訴時効(1年)までに、ツイッターで複数回の投稿があったアカウントの中から2人の男を書類送検した。このうち、大阪府の20代の男は女性のツイッターアカウントに「性格悪いし、生きてる価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと投稿を繰り返した。東京区検は3月30日、この男を侮辱罪で略式起訴した。東京簡裁は同日、男に科料9000円の略式命令を出し、即日納付された。男はこれ以上罪を問われることはなかった。

   読売新聞の記事によると、侮辱罪の厳罰化は公訴時効を1年から3年にするほか、法定刑を拘留(30日未満)または科料(1万円未満)を、1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金を追加する。

   法的な規制強化は効く。飲酒運転も厳罰化によってかなりの抑止効果につながった。今回の侮辱罪の厳罰化も相当効くに違いない。そして、厳罰化の動きのニュースを喜んで見ているのは、SNSやネットのプラットフォーマーの担当者かもしれない。プラットフォーム事業者にはプロバイダ責任制限法があり、こうした情報やコメントの削除などは自主的に対応しなければならない。しかし、現在でも個人や法人の権利を侵害する情報やコメントがあふれているのにほとんど手つかずの状態だ。

   今後、法整備がなされ厳罰化するとしても、刑事罰を科すには投稿者の住所や氏名を特定する必要がある。そのため、プラットフォーム事業者には投稿者のログイン時の情報開示が求められるだろう。 法務省はそもそも投稿者が匿名であることが誹謗中傷をはびこらす原因とみて、ログイン時の情報開示の徹底が対策のポイントだとにらんでいるのではないだろうか。

(※写真は2020年5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事から)

⇒30日(月)夜・金沢の天気   くもり

☆対岸の火事ではない韓国「メディア法」改正案

☆対岸の火事ではない韓国「メディア法」改正案

   韓国で「言論仲裁および被害救済等に関する法律」の改正法案をめぐってメディアを巻き込んで与野党の攻防が続ている。改正法案は、新聞・テレビのマスメディアやネットニュースで、取り上げられた個人や団体側がいわゆる「フェイクニュース」として捏造・虚偽、誤報を訴え、裁判所が故意や重過失がある虚偽報道と判断すれば、報道による被害額の最大5倍まで懲罰的損害賠償を請求することができる。つまり、メディアの賠償責任を重くすることで、報道被害の救済に充てる改正法案だ。国会で3分の2以上の議席を占める与党系が今月30日にも強行採決する見通し。

   これに対し、当事者でもある韓国のメディア関連団体6団体が「共に民主党(与党)が30日に言論仲裁法改正案を強行処理するなら、違憲審判訴訟や効力停止仮処分申請などの法的措置を取る」と27日、明らかにした。また、野党・国民の力は30日の国会本会議でフィリバスター(合法的議事進行妨害)などを通じ、言論仲裁法通過を全力で阻止すると明らかにした(8月28日付・朝鮮日報Web版日本語)。

   言論仲裁法の改正法案に対して、国際ジャーナリスト連盟(IFJ、本部ブリュッセル)は公式ホームページ(8月21日付)で「South Korea: Concerns over media law amendment」との見出しで韓国政府への懸念を表明。また、韓国に拠点を置く外国メディアの組織「ソウル外信記者クラブ(SFCC)」は20日、「『フェイクニュースの被害から救済する制度が必要』との大義名分には共感するが、民主社会における基本権を制約する恐れがある」と声明を出している(8月21日付・朝鮮日報Web版日本語)。

   日本の毎日新聞は「韓国のメディア法改正案 言論統制につながる恐れ」と社説(8月29日付)を掲載している。社説では、問題点として、故意や過失の有無を判断する基準があいまいなこと。しかも、メディア側に厳しい立証責任を負わせていることを指摘している。また、賠償額の算定に当たっては、訴えられた企業の売上高なども考慮される。来年3月の大統領選を控え、政権に批判的な大手報道機関をけん制しようという意図が読み取れる、としている。

   内外のメディアから批判が起きている言論仲裁法改正案だが、火を油を注いでいるのが与党だ。共に民主党のメディア革新特別委員会のキム・ヨンミン委員長は27日、ソウルのプレスセンターで外国メディアとの懇談会を開き、メディアの故意・重過失による虚偽報道に対して損害賠償を請求できる言論仲裁法の改正案について、「外国メディアも含まれる」との認識を示した(8月27日付・ソウル聯合ニュースWeb版日本語)。

   改正案が成立すれば、日本のメディアも対岸の火事ではなくなる。いつ飛び火してくるか分からない。損害賠償を目的に、日本の新聞・テレビ、ネットによって名誉が棄損されたとの訴えが韓国で相次ぐのではないだろうか。

⇒29日(日)夜・金沢の天気      はれ   

☆パラ競技が教えてくれる「人に不可能はない」

☆パラ競技が教えてくれる「人に不可能はない」

            パラリンピックの競技映像がとても新鮮に映る。車いすラグビーの日本対デンマーク戦(8月26日)をテレビで観戦していた。見ている方がハラハラするくらいに激しい動きだ。ガツン、ガツガツと車いすの衝撃音が響く。そして、ぶつかって転倒する=写真・上=。車いすのタイヤがパンクして取り換え。また、激しい試合が再開される。解説者のコメントによると、車いすラグビーは「マーダーボール」、殺人球技といわれるほど激しくぶつかり合う。

   そして、マーダーボールに女性選手も参加している。車いすラグビーが男女混合競技だということを初めて知った。でも、なぜと疑問がわく。再び解説者のコメント。ルールでは、出場する選手には障がいの程度に応じて持ち点が割り振られていて、コート上の4人の合計点は8点以内に抑えなければならない。このルールによって、障がいの軽い選手だけでなく、重い選手も出場機会を得る。さらに、女子選手が出場すると0.5点がマイナスとなるルールがあり、その分、障がいの軽いポイントゲッターを配置できる。女子選手はデンマークチームのハイポインターの動きを封じるディフェンスの役割に徹していた。そして、日本チームは何度もボールを奪い取り、9点差をつけて2連勝。この競技こそパラリンピックの多様性を象徴しているのではないだろうか。

   25日の卓球・男子シングルスも感動的だった。エジプトのイブラヒム・ハマト選手は両腕の肘から先が欠損しているので、口にラケットをくわえ、ボールを打つ。サーブ時は足全体を大きく振り上げ、足の指でつかんだ球を上にトスする。首と身体を左右に大きく振りながらラリーを続け、強烈なレシーブを決める。10歳の時に列車事故に遭い、障害を負った。「人に不可能はない」。人はここまでできると教えてくれているようで衝撃的な感動だった。

  国際パラリンピック委員会(IPC)の公式ツイッターは、25日付でハマト選手を写真付き紹介している=写真・下=。「Only in the Paralympics. Ibrahim Hamato inspires everyone around the world.」。パラリンピックという競技があってこそ、人類は新たな感動を得る。そんなことをイブラヒム・ハマト選手は教えてくれている。

⇒27日(金)午前・金沢の天気     はれ

☆アフガン政変で見えたアメリカのドライなリセット

☆アフガン政変で見えたアメリカのドライなリセット

   アフガニスタンにおける政変で、クローズアップされているのが「自主防衛」という言葉ではないだろうか。アメリカにとって、アフガンは「保護国」であって同盟国ではない。なので、アメリカはトランプ政権下の2020年2月、タリバンとの和平交渉で「アメリカは駐留軍撤退」「タリバンは武力行使を縮小」で合意。そして、バイデン大統領は今年4月に同時多発テロ事件から20年の節目にあたる「9月11日」まで完全撤退すると表明していた(4月14日付・BBCニュースWeb版日本語)。

   では、タリバンが一方的に合意を破って首都カブールに進攻したのであれば、アメリカは駐留軍撤退の合意を破棄すべきではないか、との世界の論調も高まるだろう。現に、アメリカ世論は揺れている。ロイター通信はタリバンが首都カブールを制圧した後の16日に実施した世論調査を17日に公表した。バイデン大統領への支持率は46%で、先週の53%から7ポイント低下し、1月の就任後で最低を記録した(8月18日付・時事通信Web版)。一方で、アメリカのイプソス社が16日に行った世論調査では、アフガン駐留軍の完全撤収の判断には、61%が支持すると回答した。野党・共和党支持者に限っても支持(48%)が不支持(39%)を上回った(同・読売新聞Web版)。

   アメリカの世論がこれほど動くのも、歴代政権が支援してきたアフガンの民主政権を守れなかったのではないかとの国民の評価が分かれ、一方で、アメリカ軍と協力するはずの民主政権の「自主防衛」の有り様が問われた。このニュースは世界中に流れた。ロシア通信は16日、アフガンのガニ大統領が、車4台とヘリコプターに現金を詰め込んで同国を脱出したと伝えた。在アフガニスタンのロシア大使館広報官の話としている(同・共同通信Web版)。多額の現金に関してはフェイクニュースとの見方があるものの、軍の総司令官でもある大統領が抵抗勢力と戦わずして高跳びしたことは事実である。言うならば「無血開城」。これでは、アメリカ軍も手出しようがない。

   このアフガンの事態を見て、緊張しているのは台湾だろう。アメリカと台湾は1954年に「相互防衛条約」を締結し強固な同盟関係を結んだ。しかし、1979年のアメリカと中国の国交樹立を機に翌年1980年に条約は失効し、アメリカ軍の司令部や駐留軍は台湾から撤退した。ただ、アメリカは中国との軍事バランスの見地から、1979年にアメリカの国内法である「台湾関係法」を制定し、有事の際は日本やフィリピンのアメリカ軍基地からの軍隊の派遣を定めている。その代わりに台湾はアメリカから武器を購入するという、「柔らかな同盟」だ。

   今回のアフガンの政変で台湾側は危機感を持った。NHKニュースWeb版(8月18日付)によると、蔡英文総統は18日、与党・民進党のオンライン会議で「台湾の唯一の選択肢は、より強大になり、より団結し、よりしっかりと自主防衛することだ。自分が何もせず、ただ人に頼ることを選んではいけない」と述べた。そして、民主と自由の価値を堅持し、国際社会で台湾の存在意義を高めることが重要だと強調した。

   蔡氏があえて「自主防衛」を持ち出したのは、台湾をアフガンの二の舞にしてはならないという確固たる決意の表れだ。一方で、中国は今回のアフガンのように民主政権ならば何が何でも守るというスタンスではないアメリカのドライな一面を理解した。今後、中国は台湾海峡での海上封鎖といった緊張状態を仕掛けて、あるいは融和策を台湾に持ち掛けて、アメリカの出方をうかがうのではないか。その上で、アメリカ世論の動向も読みながら、「柔らかな同盟」を踏みつぶしにかかってくる。裏読みではある。 (※写真は、The White House公式ホームページより)

⇒19日(木)午後・金沢の天気   くもり時々あめ

☆アフガニスタンとオリンピック

☆アフガニスタンとオリンピック

   「アフガニスタン」で思い起こすのは、1980年のモスクワオリンピックだ。1979年、イスラム原理主義が勢力を伸ばしていたアフガニスタンで、当時のソ連のコントロールのもとにあった政権があやしくなってきた。そこでソ連のブレジネフ書記長は政権を支えるために同年12月に大規模な軍事介入に踏み切った。いわゆる「アフガン侵攻」だ。このアフガン侵攻は西側に衝撃を与え、モスクワオリンピックを日本を含む西側諸国がボイコットする事態にまで展開した。

   それでもアフガンに駐留を続けるソ連を、1981年に就任したアメリカのレーガン大統領は「悪の帝国」と名指しで非難した。その後、アメリカがアフガンに介入したのは、2001年9月11日のニューヨークでの同時多発テロ事件だった。ブッシュ大統領はアフガンで政権を握っていたタリバンが、テロ事件の首謀者のオサマ・ビン・ラディンをかくまっていると非難。10月にはアメリカ主導の有志連合軍がアフガンへの空爆を始め、タリバン政権は崩壊。大規模な捜索にもかかわらず、ビン・ラディンを捕捉できなかった。10年後の2011年5月2日、隣国パキスタンに逃げ込んでいたビン・ラディンの潜伏先をアメリカ軍特殊部隊が探し出して殺害している。

   この時点でアメリカ軍がアフガンに駐留する大義はなくなった。オバマ大統領はビン・ラディン斬首作戦の後の9月、10年間で3兆㌦の財政赤字を削減する方針を打ち出し、アフガンやイラクからのアメリカ軍撤退によって軍事費を1兆1千億㌦削減すると示していた。さらに、トランプ政権下の2020年2月、アメリカとタリバンによる、「アメリカは駐留軍撤退」「タリバンは武力行使を縮小」との和平交渉が合意。そして、バイデン大統領は今年4月に同時多発テロ事件から20年の節目にあたる「9月11日」まで完全撤退すると表明していた(4月14日付・BBCニュースWeb版日本語)。

          ところが今月に入り、アメリカとタリバンによる和平合意とは裏腹に事態は一変する。タリバンは首都カブールに進攻し、日本時間の16日朝、政府に対する勝利を宣言した。一方、2014年から政権を担ってきたガニ大統領は出国し、政権は事実上、崩壊した(8月16日付・NHKニュースWeb版)。

   では、タリバンによって合意が破られたとして、アメリカは駐留軍を継続するだろうか。以下は憶測だ。バイデン氏は予定通り「9月11日」までに完全撤退を終えるだろう。アメリカの国益にならないアフガンの国内紛争に駐留軍を無期限に留めることに意義を感じてはいないだろう。ましてや、政権を担ってきた大統領はすでに国外に高跳びしている。

    この隙間を狙って、タリバンとの友好関係をいち早く築こうとしているのが中国だ。BloombergニュースWeb版日本語(8月17日付)によると、王毅外相はタリバンが当時のガニ政権への攻勢を強めていた先月下旬、天津市でタリバン代表団と会談。王外相は、タリバンがアフガン統治で「重要な役割」を果たすことが期待されていると表明した。

   憶測だが、中国はイスラム教徒の少数民族ウイグル族が多く住む新疆ウイグル自治区での監視を強化している。アフガンと新疆ウイグル自治区は隣接している。タリバンによる「イスラム首長国」の国名変更を後押しすることを条件に、ウイグル自治区には手を出さないようにとの約束を交わしているのかもしれない。いずれにしても、中国はこれからのアフガンの後ろ盾を狙っている。

   テロや女性への抑圧を支持し世界から長らく疎外されてきたタリバンを「国」として認めることができるかどうか。おそらく、アメリカはいったんアフガンとは離れて、国としては認めないだろう。中国に同調する立場、アメリカに同調する立場、今後アフガン問題がこじれると北京オリンピックのボイコットへと発展するのかもしれない。歴史は繰り返す。

(※写真は、国外退避を求め、離陸しようとするアメリカ軍機に乗り込もうとする人々。カブールの空港で=CNNニュースWeb版)

⇒17日(火)午後・金沢の天気     あめ

★オリンピック野球決勝 日米対戦の報道を裏読み

★オリンピック野球決勝 日米対戦の報道を裏読み

          東京オリンピックもきょうを入れてあと2日。ハイラトシーンをリアルで視聴したいと思い、午後7時から横浜スタジアムでの野球、日本とアメリカの決勝戦を放送するテレビ前に陣取った。予選リーグから4連勝の日本と、敗者復活戦から勝ち上がったアメリカだったが、正直、勝敗は五分五分と思っていた。

         3回、1アウト後に村上宗隆選手がソロホームランを打って先制。そして、8回は1アウト二塁で吉田正尚選手がセンター前にヒット、相手のエラーも重なって追加点。投手陣は5人を繰り出し、先発した森下暢仁選手は5回をヒット3本無失点と好投し、6回は千賀滉大選手、7回は伊藤大海選手、8回途中からは岩崎優選手が登板して、得点を与えなかった。9回は栗林良吏選手が2アウトからランナーを出したが、後続を抑えて2-0で勝った。この瞬間「強い、侍ジャパン」と思わず叫んだ。

   ところで、アメリカはこの試合をどう報じているのか気になった。アメリカでの放送権を独占しているNBCテレビのニュースWeb版は「Team USA shut out by Japan, settles for baseball silver as hosts win Olympic gold」との皮肉を込めた見出しで伝えている=写真・上=。ホスト国の日本チームはプロ野球球団から構成するオールスターメンバーだったが、アメリカチームは大リーグ(MLB)がシーズンを中断しなかったため、スター選手は出場しておらず、マイナーリーグやフリーエージェントの選手たちで構成されていたと報じている。

  また、CNNニュースWeb版は「Japan beats US to win first-ever gold medal in baseball」との見出しで、アメリカは銀メダル、これで4度目のオリンピック野球メダルを獲得した、と淡々と伝えている=写真・下=。試合の経過は記事にしていない。

   このNBCとCNNの違いはなんだろう。IOCの収入は放送権料が73%、スポンサー料が18%だ。その放送権料の50%以上をNBCが払っている。韓国・平昌冬季大会(2018年)と東京大会の合算した数字だが、NBCの供出額は21億9000万㌦だ。ちなみに、開催国の日本はNHKと民放がコンソ-シアムを組んで5億9400万㌦だ。五輪開催前の6月の投資家会議でNBCの最高経営責任者(CEO)が「the pandemic-tainted Tokyo Games “could be our most profitable Olympics in the history of the company.“」(パンデミック下での東京大会は「当社の歴史の中で最も収益性の高いオリンピックになるかもしれない」)と述べて、モラルハザードではないかと問題視されたことがある。

   NBCテレビのスポンサーにはさまざまポリシーを持った企業がある。このようなスポンサーをバックにしていると、あえて「Team USA shut out by Japan」という表現を使わざるを得ないかもしれない。8月3日付のブログでも書いたように、広島市長から6日の広島の原爆投下の時刻に選手たちに黙とうを捧げてほしいとの要請をIOCを受け入れなかったのも、NBCが裏で却下するように動いたではないかと個人的に憶測している。アメリカには原爆投下で先の戦争を終わらせたという意識が根強くあるのだ。

(※NBCは写真でアメリカチームの様子を、CNNは日本チームの胴上げの模様を掲載)

⇒7日(土)夜・金沢の天気      はれ時々くもり

☆姉妹でレスリング金メダル 東京五輪の新たなレジェンド

☆姉妹でレスリング金メダル 東京五輪の新たなレジェンド

   連日、地元紙が派手に報じている。レスリング女子57㌔級の決勝で石川県津幡町出身の川井梨沙子選手が5日、ベラルーシの選手を下し、前回のリオデジャネイロ大会に続いて金メダルを獲得した。川井選手の妹・友香子選手も前日4日に62㌔級で金メダルだったので、姉妹で「金」は日本勢初の快挙と讃えている。地元紙の北國新聞は連日の特別紙面で「最強の姉 約束の金lと、本紙では「梨沙子連覇 川井姉妹そろって金」、北陸中日新聞は「川井 姉妹で金 梨沙子連覇」とそれぞれ一面の通し見出しだ=写真=。

   昨夜は民放テレビで観戦していた。横綱相撲という感じだった。ベラルーシの選手を横に投げて動かし、後ろに回って抱える。場外際の投げで2点を先制。素早いタックルなどで場外に押し出してさらに1点。腕を相手の胴体に入れて一気に投げて2点。5‐0で下した。試合後にマットの外に出て、日の丸を背負って初めて笑みを浮かべていた。観客席にいた妹・友香子選手にも両手を上げていた。もし、観客席に人が大勢の人がいたら、「梨沙子」コールがわき起こっていたに違いない。

   インタビューで、梨沙子選手は「最後の1秒まで絶対に相手から目を逸らさないって決めていた。友香子にきのうあんな試合を見せられたらやるしかないって思っていたのでよかった」と。東京オリンピックの日本勢で、姉妹による金メダルは初めてなので、まさに日本のオリンピックの歴史に新たなレジェンドをつくったのではないだろうか。

   話はそれる。金メダルの「番外レジェンド」もある。NHKニュースWeb版(8月5日付)によると、名古屋市の河村市長は4日、ソフトボール日本代表チームのメンバーで、名古屋市出身の後藤希友投手から金メダル獲得の報告を受け、後藤投手からメダルを首にかけてもらった際、突然、マスクを外してメダルをかんだ。これを受け、市の広聴課には、河村市長の行為を批判する電話やメールなどが5日午後5時半までに4000件余り寄せられた。5日午前、後藤投手の所属先のトヨタ自動車から豊田章男社長の名前で、河村市長宛ての抗議文が提出された。

   河村氏の気取らずモノを言い行動するキャラは超絶だ。それにしても、金メダルに突然かぶりつくとは、「とんでもにゃあ」。

⇒6日(金)朝・金沢の天気     はれ

☆緊急時の病床確保、求められる自治体の臨機応変さ

☆緊急時の病床確保、求められる自治体の臨機応変さ

   きょう午前、ワクチン接種を2回受けた病院へ抗体検査に出かけた。2回目接種から2週間余り経ち、病院に申し込んでいた。これまで副反応もなかったことから、「本当に抗体ができているのか」「効果を数値で確かめたい」という思いが募って申し込んだ次第。ワクチン接種は国の政策で無料だったが、この抗体検査は保険適用外で税込み6000円だ。

   病院に到着して受付に行き、採血して終わり。結果の書面は1週間後に自宅に郵送されると看護師から告げられた。時間にして10分足らずだった。説明書によると、ワクチン接種でヒトの細胞内にスパイクタンパク質(ウイルスのトゲトゲの部分)をつくる。このトゲトゲの構造に人体の免疫系が強く反応することで、ウイルスの感染に対する抵抗力、つまり抗体が獲得できる。抗体検査は2つのことを確認する。一つはワクチン接種前の免疫状態、つまり、過去に感染があったかどうかの確認。もう一つはワクチン接種後の免疫応答、これは接種により抗体がついたのかどうかの確認検査となる。その効果が数値で確かめられるので、結果を心待ちにしている。

   イスラエルでは8月からファイザー社製のワクチンの5ヵ月経過を見計らって3回目の接種が行われている。病院の医師と相談し上記の数値と照らし合わせて、自身の3回目接種のタイミングを決めたいと思っている。

   ところで、きのう政府が方針転換した「重症以外は自宅療養」が問題となっている=写真=。病床のひっ迫に備えて、自宅療養を基本とし、酸素吸入も自宅でという方針だ。自身が感染したと想定すると、自宅で酸素吸入をするより、病院の廊下でもいいので、医者や看護師など医療関係者が近くにいてくれた方が安心感がある。

   日本の場合、医療機関の病床の数が入院者数となる。コロナ禍で緊急事態が起きれば、病床ベッドを増やすしかない。たとえば、廊下にベッドを置いてはどうだろうか。あるいは、自治体とタイアップして、病院のごく近くに公共施設があれば、そこに臨時にベッドを置いてはどうだろうか。さらに、行政が交渉してホテル一棟を借り切り、病院に提供し、そこに医師が回診にくるというシステムでもよいのではないか。まるで野戦病院のイメージだが、必要なのは臨機応変な対応だと考える。  

       菅総理は入院制限方針に与党からも撤回要求が出ていることについて、「撤回しない」と記者団に述べた(8月4日付・共同通信Web版)。オリンピックがあり、生徒や学生たちが夏休み、そして、旧盆も近づき、いわゆる「人流」の抑制が効かくなりつつある。こうなれば、求められるのは政府の対応ではない。むしろ、都道府県を単位とする首長の臨機応変な対応ではないだろうか。

⇒4日(水)夜・金沢の天気      はれ

★「ヒロマシの祈り」とオリンピック憲章

★「ヒロマシの祈り」とオリンピック憲章

   前回のブログの続き。8月6日はオリンピック期間中であるが、1945年に広島に原爆が投下された日でもある。3日後の9日は長崎にも投下された。6日と9日は日本では平和の祈り日であると同時に、核兵器全面禁止と廃絶を求める運動が活発になる日でもある。

   NHKニュースWeb版(8月2日付)によると、広島市の松井市長はIOCのバッハ会長に書簡を送り、(原爆が投下された8月6日午前8時15分に)選手村などで黙とうを呼びかけてほしいと求めていた。これに対し、2日午後、IOCから、黙とうを呼びかけるなどの対応はとらないといった返答が広島市にあった。その理由についてIOCは「歴史の痛ましい出来事や様々な理由で亡くなった人たちに思いをはせるプログラムを8日の閉会式の中に盛り込んでおり、広島市のみなさんの思いもこの場で共有したい」と説明している。

   バッハ会長は7月16日午後、広島市の平和記念公園を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花している。では、なぜ、「6日の黙とう」を避けたのか。以下憶測である。オリンピック憲章に違反すると、IOCは判断したのだろう。憲章の50条2項ではこう記されている。「No kind of demonstration or political, religious or racial propaganda is permitted in any Olympic sites, venues or other areas.」(オリンピックの用地、競技会場、またはその他の区域では、いかなる種類のデモンストレーションも、 あるいは政治的、 宗教的、 人種的プロパガンダも許可されない)。この「いかなる種類のデモンストレーション」に相当する行為としてみなされるとの判断ではないだろうか。

   オリンピックにおける黙とうが原爆投下を否定するデモンストレーションとみなされるとの解釈だ。原爆投下に関する歴史認識には、日本とアメリカでいまだに隔たりがある。アメリカでは「原爆投下によって戦争を終えることができた」と正当化する意識がいまもある。アメリカの世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」の調査(2015年)では、65歳以上の70%が「正当だった」と答え、18歳から29歳の若者も「正当だった」との答えは47%だった(2020年8月21日付・ロイター通信Web版日本語)。2016年5月28日、当時のアメリカ大統領のオバマ氏は歴代大統領として初めて原爆死没者慰霊碑を訪れて献花した。ただ、アメリカ国内の反対世論を意識して、「謝罪はしない」と事前に公言していた。

   また、原爆投下についての中国側の論調もはっきりしている。「長年にわたり、日本は第二次世界大戦、特に原子爆弾の被害者であると自らを位置づけてきたが、原子爆弾を投下されることになった歴史的背景について触れることはほとんどなかった」(2020年8月7日付・人民網日本語)

   上記のようなアメリカや中国の論調があるなかで、IOCとしては広島市長のメッセ-ジに応じることをためらったのだろう。IOCは代案として8日の閉会式で「歴史の痛ましい出来事や様々な理由で亡くなった人たちに思いをはせるプログラム」を設けるという。どのような内容なのか注目したい。

(※写真は、広島市の平和記念公園を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花するIOCのバッハ会長=7月16日付・AFP通信Web版動画より)

⇒3日(火)午後・金沢の天気   くもり