#SDGs

★「チャールズ・パッチ」と「金継ぎ」の循環型経済

★「チャールズ・パッチ」と「金継ぎ」の循環型経済

   最近何かとイギリスの王室の話題がテレビの情報番組などで紹介されている。気になった言葉があった。「チャールズ・パッチ」。9月に即位したイギリスのチャールズ国王は皇太子時代から、愛用していた革靴や衣類にパッチを施して使い続けたことから、この言葉が広がったようだ。丁寧な修繕という意味だろうか。靴の場合、ただの革のパッチではなく、張り合わせた革を縫いつけ固定することで、ひび割れなどを隠して補強するという丁寧な補修を指す。

   検索すると、イギリスのメディア「デイリーメール」Web版(2018年4月8日付)に「The penny pinching prince! Charles reveals that he is still wearing a pair of shoes he bought in 1971 – and is holding on to a 50-year-old jacke」の見出しで、チャールズ・パッチのことを紹介している=写真・上=。皇太子(当時)は1971年に購入し、パッチした靴を47年間も履いていて、50年前のジャケットをまだ着ていると話した、と報じている。

   このチャールズ・パッチという言葉を知って、「金継ぎ」という言葉を連想した。陶器のひび割れを漆と金粉を使って器として再生する技術のこと。知人から見せてもらった金継ぎの茶碗は紅葉の絵の抹茶碗に細かく金継ぎが施されている=写真・下=。若いころ茶道を習っていて、茶碗をうっかり落としてしまった。茶道の先生からいただいた思い出のある茶碗だったので修復を依頼したそうだ。

   金継ぎという言葉が世界に広がったきっかけがあった。東京パラリンピックの閉会式(国立競技場・2021年9月5日)でアンドリュー・パーソンズ会長が発した言葉だった。日本の金継ぎの技術について、「不完全さを受け入れ、隠すのではなく、大切にしようという発想であり素晴らしい」と述べて、金継ぎという言葉が世界でもトレンドになった。さらに、金継ぎは一度は壊れてしまった製品を修復するだけでなく、金箔を使うことでアートを施し、芸術的価値を高める。

   もともと、欧州やアメリカでは「kintsugi」が知られていた。その理由の一つが、サステナビリティとサーキュラーエコノミー(循環型経済)を各国が推し進めていることが背景にある。サーキュラーエコノミーとは資源や製品が高い価値を保ったまま循環し続ける社会経済だ。このサーキュラーエコノミー実現において、製品をできるだけ長く使い続けることは特に重要視されており、修繕はその要となる。SDGs「17の目標」とも調和がとれる。

⇒26日(月)夜・金沢の天気   あめ  

★能登半島・輪島から「SDGs観光」の発信を

★能登半島・輪島から「SDGs観光」の発信を

   内閣府は国連のSDGs(持続可能な開発目標)に沿ったまちづくりに取り組む自治体を「SDGs未来都市」として選定している。ことし新たに能登半島の輪島市や新潟県佐渡市など30自治体が選ばれた。選定は2018年に始まり、今回含め154の自治体が選ばれている(内閣府地方創生推進事務局公式サイト「2022年度SDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業の選定について」)。

   輪島市のテーマは「“あい”の風が育む『能登の里山里海』・『観光』・『輪島塗』 ~三位一体の持続可能な発展を目指して~ 」。「“あい”の風」とは日本海沿岸で冬の季節風が終わり、沖から吹いてくる夏のそよ風を言う。ところによっては「あえの風」とも言う。キーワードに世界農業遺産「能登の里山里海」、観光、輪島塗の3つを入れている。ちなみに佐渡市のテーマは「人が豊かにトキと暮らす黄金の里山・里海文化、佐渡 ~ローカルSDGs佐渡島、自立・分散型社会のモデル地域を目指して~」。トキと佐渡金山がキーワードになっている。

   輪島市の提案書を読もうと思い、市役所公式サイトにアクセスしたがまだアップはされていなかった。後日、内閣府の公式サイトで一括して掲載されるようだ。多様な地域の特性をSDGsの視点で見直し、「誰一人取り残さない」「持続可能な社会づくり」に活かしていこうというまさに地方創生の実現に向けた取り組みだ。

   輪島の朝市や千枚田、海女漁を見ればSDGsが体現された地域であることが理解できる。朝市はもともと農村や漁村のおばさんたちが農作物や魚介類を持ち寄って物々交換したことがルーツとされる。作り、採ったものが余った場合、廃棄するのではなく、物々交換という取引で豊かさを共有する場だった。「もったいない精神」と言えるかもしれない。同時に、SDGs目標12「つくる責任つかう責任」である。

   そして、海女漁はまさにSDGs目標14「海の豊かさを守ろう」だ。現在200人いる海女さんたちのルーツは1569年、福岡県玄海町鐘崎から船で渡って来た13人の男女だったと伝えられている(1649年「海士又兵衛文書」)。24種もの魚介類を採ることで生業(なりわい)を立てているだけに資源管理には厳しいルールがある。アワビ漁については、貝殻10㌢以下の小さなものは採らない、漁期は7月から9月の3ヵ月、時間は午前9時から午後1時、酸素ボンベは使わず素潜り。こうした厳格な自主規制で450年余り経ったいまでもアワビを採り続けている。

   千枚田では自然災害と向き合ってき人々のSDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」の精神が見えてくる。1684年、この地区では大きな地滑りがあり、棚田があった山が崩れた。「大ぬけ」といまでも地元では伝えられる。いまで言う深層崩壊だ。その崩れた跡を200年かけて棚田として再生した。まさにレジリエンスだ。それだけでない、いまも地滑りを警戒して、千枚田の真ん中を走る国道249号の土台に発砲スチロールを使用するなど傾斜地に圧力をかけないようにと工夫をしている。

   持続可能な人々の営みというのは、その歴史を検証すことで見えて来る。輪島市には今回のSDGs未来都市の認定で、「SDGs観光」という新たな情報発信をしてほしいものだ。

⇒22日(日)午前・金沢の天気    はれ

★「誰一人取り残さない」SDGs的な選挙活動の現場

★「誰一人取り残さない」SDGs的な選挙活動の現場

   金沢市長選の個人演説会に誘われ、昨夜、市内のある集落を訪ねた。場所は中山間地、いわゆる里山だ。乗用車のナビを使って、曲がりくねった山道を走行する。午後7時からの演説会に間に合うように出かけたが、すっかり周囲は暗くなっていた。ぎりぎりに到着した。会場は市北部にある加賀朝日町の公民館。廃校になった小学校校舎だ。地域の人たち20人余りが集まっていた。

   個人演説会を開いたのは、永井三岐子候補。テーマは「公共交通について考えよう」だった。なぜ山間地の集落でこのテーマなのか。この地域の唯一の公共交通であるJRバスが7月から廃線となることが決まっている。そこで、永井候補はこの地域課題をテーマに住民との意見交換を求めて演説会を開いた。「公共交通は都市の装置です。民間企業の資金やアイデアを求めるのも一つのアイデア」と事例を紹介した。「チョイソコ」は愛知県豊明市でトヨタ系の民間会社が運営しているオンデマンドによるバス運行のシステム。通院や買い物の移動に困る高齢者を救いたいと同市が民間企業と連携している。

   地元の人からも声が上がった。「バスに乗っても乗客は多い時で3人くらい。空気を運んでいるようなものでバス会社には申し訳という気持ちもある」と廃線についてはやむを得ないと話した。また、「バスの本数が少なくなるほど、利用する人が減ってきた」 「中山間地にまだ新しい家が空き家になっている。これをどうにかしたい」 「里山には環境や教育、観光など、その特色を活かした活用がある。どう工夫すればよいか」 など、バス問題だけでなく地域の活性化など意見は多岐に及んだ。

   確かにバスの問題は地域課題の一つであって、その根底には過疎化・人口減少の問題がある。それにしても思ったことは、これは永井候補にとって失礼な言い方かもしれないが、選挙運動期間も残り2日と限られているのに、10数世帯しかない小さな集落でなぜ時間を費やすのか。市内の中心街でもっと人を集めて、訴えた方が遊説効果があるのではないか、と。

   そう考えているうちに、これは本人の根っからのポリシ-なのかもしれないと思い浮かんだ。永井候補は金沢にある国連大学研究所の事務局長だった。SDGsの実践を掲げてきた。今回の選挙でも、公約に「SDGsファンドを創設し、課題解決ビジネスを興す」と掲げている。SDGsの原則は「誰一人取り残さない」だ。小さな集落の課題こそ放ってはおけないと考えたのだろうか。とすれば、まさにSDGsを実践した選挙活動なのかもしれない。

⇒11日(金)夜・金沢の天気     はれ

☆「金継ぎ」「kintsugi」に読む世界の潮流

☆「金継ぎ」「kintsugi」に読む世界の潮流

    器のひび割れを漆と金粉を使って器として再生する金継ぎのことを今月23日付のブログで書いた。能登半島の珠洲市にある「スズ・シアター・ミュージアム『光の方舟』」で展示してあった松の木とツルとカメの絵が描かれた大皿だった。東京パラリンピックの閉会式でのアンドリュー・パーソンズ会長の言葉「不完全さを受け入れ、隠すのではなく、大切にしようという発想であり素晴らしい」が日本人の心にも響いて、金継ぎという言葉が世界でもトレンドになったと述べた。

   このブログを読んでくれた知人女性が「金継ぎの茶碗を持ってます」と写真添付のメールを送ってくれた。写真は、紅葉の絵の抹茶碗に細かく金継ぎが施されている=写真=。メールによりと、若いころ茶道を習っていて、茶碗をうっかり落としてしまった。茶道の先生からいただいた思い出のある茶碗だったので修復を依頼したそうだ。そして、メールには「パーソンズ会長の発言以前から世界ではkintsugiがトレンドになっています」と、Forbes JAPANのWeb記事「ビジネスマインドとしても注目 なぜ今、世界はキンツギに魅了されるのか」(2021年12月12日付)を紹介してくれた。記事を読むと、欧米人がkintsugiをどのように考察しているのか丁寧に書かれてあった。以下記事をかいつまんで紹介する。

   Googleトレンドによると、「kintsugi」の検索数は2012年頃から徐々に増え続けいるが、2015年に飛び抜けて検索数が増加した。アメリカの人気インディーロックバンドDeath Cab for Cutieが楽曲アルバム「Kintsugi」を発売した頃に重なる。前年に1人の重要なメンバーが離脱してから初めてのアルバムとなったが、過去を受け止め、自己を修復し、この先も活動していく意思を示したものとなった。楽曲についての賛否は様々だったようだが、金継ぎという哲学について世界の多くの人が知るきっかけとなった。

   2017年にはハイエンドファッションブランドのヴィクター&ロルフが金継ぎをテーマにした春夏のクチュールを発表。2019年後半にはGoogleトレンドの注目度が加速する。これは同年12月に公開された映画『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』によるものとみられる。本編の中で印象的なのは、メインキャラクターのひとり、カイロ・レンの壊れたマスクが修復され、再び登場するシーン。前作で本人によって破壊されたこのマスクだが、傷を隠したりなかったことにするのではなく、傷跡やヒビが赤いラインで縁取られている。これは過去の物語を受け止め、自分の一部として受け入れ、前に進むための象徴として描かれており、日本の金継ぎにインスピレーションを受けたものだという。

   2020年には玩具メーカーLEGO社がグローバルマーケティングキャンペーン「Rebuild the World」の中で、金継ぎをテーマにした「レゴツギ」キャンペーンを展開。壊れたものを直す楽しさと創造性を、金継ぎの考え方とともに世界に向けて発信した。

   ではなぜ、欧州やアメリカを中心に世界はkintsugiに注目しているのか。その理由の一つとして、サステナビリティとサーキュラーエコノミーを各国が推し進めていることが背景にある。サーキュラーエコノミーとは資源や製品が高い価値を保ったまま循環し続ける社会経済だ。このサーキュラーエコノミー実現において、製品をできるだけ長く使い続けることは特に重要視されており、修繕はその要となる。金継ぎは、一度は壊れてしまった製品をただ巻き戻して壊れていない状態にするだけではなく、美しいアートを施し、歴史というストーリーとともに芸術的価値をともなった製品に仕立て上げる。その発想がサーキュラーエコノミーと符丁が合う。

   以上、Forbes JAPANの記事で感化されたことは、金継ぎの発想はサーキュラーエコノミーに代表されるように世界の潮流になりつつあるということだ。ひょっとしてSDGsの「18の目標」として追加されるのでは。

⇒25日(火)午後・金沢の天気    くもり

★アートとSDGs

★アートとSDGs

   前回の能登半島の珠洲市で開催された「創造都市ネットワーク日本(CCNJ)現代芸術の国際展部会シンポジウム」の続き。シンポジウムの前半は奥能登国際芸術祭の総合ディレクター、北川フラム氏の基調講演。後半は「里山里海×アート×SDGsの融合と新しいコモンズの視点から」をテーマにパネル討論だった。このテーマのキーワードは「里山里海×アート×SDGs」。能登半島は2011年に国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産(GIAHS)に認定された。そのタイトルが「能登の里山里海」だった。さらに市は独自に2017年に奥能登国際芸術祭を開催し、2018年には内閣府の「SDGs未来都市」に登録されるなど、「持続可能な地域社会」を先取りする政策を次々と打ち出している。

   討論会のファシリテーターは自身が務め、パネリストは泉谷満寿裕珠洲市長、国連大学サスティナビリティ高等研究所OUIK事務局長の永井三岐子氏、金沢21世紀美術館学芸部長チーフ・キュレーターの黒澤浩美氏、金沢市都市政策局SDGs推進担当の笠間彩氏の4人。前回のブログの冒頭でも述べた、「アートとSDGsは果たしてリンクできるのか」とパネリストに投げかけた。里山里海とアートはこれまでもこのブログで紹介してきたようにインスタレーション(空間芸術)でつながる。SDGsは貧困に終止符を打ち、地球の環境を保護して、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを呼びかける国連の目標だが、SDGsの17の目標の中に「アート」「芸術」という文字はない。

   アートとSDGsは果たしてつながるのか。すると、討論の中で「アーチストもSDGsをどう創作・表現するか迷っている」という言葉が出た。ハタと気がついた。アーチストもSDGsを表現しようと試行錯誤している。珠洲市は「SDGs未来都市」に登録されている、作家もそのコンセプトを表現しようとするはずだ。思い当たる作品が浮かんだ。

   インドの作家スボード・グプタ氏の作品「Think about me(私のこと考えて)」がある。大きなバケツがひっくり返され、海の漂着物がどっと捨てられるというイメージだ=写真=。プラスチック製浮子(うき)や魚網などの漁具のほか、ポリタンク、プラスチック製容器など生活用品、自然災害で出たと思われる木材などさまざまな海洋ゴミだ。ガイドブックによると、これらの漂着ごみのほとんどが実際にこの地域に流れ着いたものだ。地域の人たちの協力で作品が完成した。グプタ氏の創作の想いが海洋ゴミを無くして海の自然と豊かさを守ろうという意味と解釈すれば、まさにSDGsだ。

   奥能登国際芸術祭ではインスタレーションの視点で楽しんだが、SDGsの視線で作品を見たことはなかった。アートには無限の可能性や、社会を豊かに変えていくことができる芸術の力があるのではないか、と今さらながら感じ入った次第だ。

⇒22日(土)夜・金沢の天気      くもり

☆2021 バズった人、コト~その4

☆2021 バズった人、コト~その4

   新型コロナウイルス感染で昨今のキーワードは「オミクロン株」と「市中感染」だろうか。では、一時期吹き荒れた「アベノマスク」はどうなったのか、その騒動とてん末を振り返ってみる。意外にも、まだ身近な問題としてその言葉があることに気づく。

   ~「アベノマスク」騒動のてん末 破棄かリサイクルか、その行方は~

   知人たちに「ところでアベノマスクはどうした」とメールでさりげなく問うと、ほとんどが使用しておらず、「机の中にまだしまってある」との答えが戻って来る。まるで「記念品」の状態だ。昨年4月7日に布マスクを全世帯に2枚の配布を閣議決定し、政府目標は月内配布だった。マスク支給予算は466億円。ところが、5月下旬になっても配達率は25%だった。緊急事態宣言が全面解除(5月25日)となったころには、すでにドラッグストアなどでマスクの安売りが始まっていた。我が家にアベノマスクが届いたのは6月1日だった。それ以来、自身も机の中にしまっていた。

   マスク配布の遅れが不評で安倍内閣の支持率が急速に落ち始める。共同通信社の全国緊急電話世論調査(5月29-31日実施)で内閣支持率は39.4%に落ち、読売新聞社の世論調査(8月7-9日実施)でも内閣支持率は37%とダウン、不支持率が上昇し54%となった。支持率下落はマスクの遅れだけでなく、7年8ヵ月続いた長期政権の賞味期限切れということもあったろう。9月16日に安倍内閣は総辞職する。

   そしてアベノマスクの在庫問題がいま浮上している。朝日新聞Web版(12月21日付)によると、国は約2億9千万枚の布マスクを調達したが、今年3月末時点で3割近い8272万枚が在庫の状態となった。昨年7月末から希望する介護施設や保育所などへ無料配布を行っているが、はける様子はない。昨年8月からことし3月の保管費用だけで6億円かかっている。保管場所も日本郵便から佐川急便へ、ことし4月からは日本通運の倉庫に。移送費や保管費で今年度はさらに3億円を超える見通し。

   厚労省は今月22日にマスクの在庫をメディアに公開した。倉庫には布マスクが入ったおよそ10万箱の段ボールが山積みにされ、113億円相当のマスクが眠ったまま。岸田総理は21日、マスクの在庫について、希望者に配布し有効活用を図ったうえで、残りは年度内をめどに廃棄する意向を明らかにした(22日付・NHKニュースWeb版)。以下は憶測だ。「破棄するなら欲しい」と途上国などからマスクの受け入れ希望があるだろう。その場合、海外への輸送費は日本の負担が条件となる。そうなれば、「お人よし外交」とメディアからさらにバッシングを受ける。

    自身の机にしまっておいたアベノマスクを取り出して、触ってみる=写真=。布製マスクはガーゼ生地で12枚重ねて縫製してあり、手触りがよい。ガーゼの原料は木綿(コットン)なのでリサイクルすれば、ハンカチやタオル、カーテン、肌着などさまざまな用途があるのではないか。廃棄するより、全国の繊維リサイクル業者に渡す方がいい。その場合、業者の引き取りの運送コストは国と折半でもよいのではないか。国会で追及されても、「SDGsにかんがみて」と理由がつくだろう。

⇒27日(月)午後・金沢の天気      ゆき 

★パラリンピックで際立つNHKと民放の違い

★パラリンピックで際立つNHKと民放の違い

           前回のブログの続き。これまでパラリンピックの番組をテレビで観戦したことは、正直なかった。今回パラリンピックでは、国別のメダル数など気にせず、むしろ、迫力ある車いすラグビーや、エジプトの卓球選手イブラヒム・ハマト氏らのような「凄技」を見たいと思いテレビを視聴している。

   NHKはBS放送などを含め500時間の番組を組んでいる。ところが、新聞紙面のテレビ欄を広げても、民放によるパラリンピックの中継や特番がほとんど見当たらない。きょう28日付の紙面では、TBSによる午後2時30分からの車いすバスケットボール男子・日本対カナダ戦だけだ=写真・上=。民放の公式ホームページをチェックすると、テレビ朝日が競泳の中継(29日午前10時)、車いすテニスのハイライト番組(9月5日午後0時55分)、フジテレビは車いすバスケットボール男子5-6位決定戦(9月4日午後4時)など予定している。各局とも決まったように、競技の中継が1つ、ハイライト番組が1つか2つ、それも土日の日中の時間だ。いわゆるゴールデン・プライム帯ではない。

   オリンピックでは、NHKに負けじと生中継をしていたのに、パラリンピックは気が抜けた感じだ。なぜ、民放はパラリンピックを積極的に放送しないのか。単純な話、放映権料を払っていない。オリンピックについては、NHKと民放はコンソ-シアムを組んでIOCに対し平昌冬季大会(2018年)と東京大会の合算した数字で5億9400万㌦を払っている。しかし、これにはパラリンピックの放映権料は含まれていない。国際パラリンピック委員会(IPC)は独立組織なので、IOCとは別途払いなのだ。

   IPCと契約しているのはNHKのみ。2015年6月25日付のNHK広報のプレスリリースによると、平昌大会から2024年パリ夏季大会までの4大会の日本国内での放送権についてIPCと合意したと発表している=写真・下=。ただ、金額については記していない。

   以下はかつて民放局に携わった自身の憶測だ。2015年6月でのIPCとの契約に民放が参加しなかったのは、パラリンピックはスポーツ観戦としてのニーズが低いので視聴率が取れないと判断してのことだろう。スポンサーも付くかどうか分からない。ところが、視聴者の目線はこの数年で変化した。スポーツ観戦という意味合いだけでなく、障がいや逆境、限界を超えてスポーツに挑むパラアスリートたちから感動を得たいというニーズがある。そして企業側も、SDGs(国連の持続可能な開発目標)の主旨に沿った番組にスポンサー提供をしたいというニーズが起きている。

   民放自体もパラリンピック番組を無視できない状況になってきた。そこで、すでにIPCと合意しているNHKに依頼して「おすそ分け」をしてもらうカタチでパラリンピック番組を放送することになったのだろう。あくまでも憶測だが、NHK側の条件はおそらく、2026年ミラノ冬季大会以降のIPCとの契約はコンソーシアムを組むということではないだろうか。

⇒28日(土)午前・金沢の天気    はれ

★コロナ禍でも「あえのこと」は絶やさず

★コロナ禍でも「あえのこと」は絶やさず

   新型コロナウイルイスの感染拡大で能登半島でもイベントがほとんどが中止となった。何百年という歴史があるキリコ祭りも中止となった。ただ、家々で毎年12月5日に営まれる農耕儀礼「あえのこと」だけはささやかに行われた。「あえのこと」は田の神をご馳走でもてなす家々の祭りを意味する。2009年9月、ユネスコ無形文化遺産に単独で登録されている。   

   田の神はそれぞれの農家の田んぼに宿る神であり、農家によって田の神さまにまつわる言い伝えが異なる。共通しているのが、目が不自由なことだ。働き過ぎで眼精疲労がたたって失明した、あるいは稲穂でうっかり目を突いてしまったなど諸説ある。目が不自由であるがゆえに、それぞれの農家の人たちはその障害に配慮して接する。座敷に案内する際に階段の上り下りの介添えをし、供えた料理を一つ一つ口頭で丁寧に説明する。もてなしを演じる家の主たちは、自らが目を不自由だと想定しどうすれば田の神に満足していただけるのかと心得ている。

   「あえのこと」を見学すると「ユニバーサルサービス(Universal Service)」という言葉を連想する。社会的に弱者とされる障害者や高齢者に対して、健常者のちょっとした気遣いと行動で、障害者と共生する公共空間が創られる。「能登はやさしや土までも」と江戸時代の文献にも出てくる言葉がある。初めて能登を訪れた旅の人(遠来者)の印象としてよく紹介される言葉だ。地理感覚、気候に対する備え、独特の風土であるがゆえの感覚の違いなど遠来者はさまざまハンディを背負って能登にやってくる。それに対し、能登人は丁寧に対応してくれる。もう一つ連想する言葉がSDGsだ。「誰一人取り残さない」という精神風土、あるいは文化風土をこの「能登はやさしや土までも」から感じ取る。

   去年、金沢大学で「あえのこと」見学ツアーを実施した。ブラジルからの女子留学生は「とても美しいと感じる光景の儀式でした。ホスピタリテーの日本文化を知る機会を与えていただき感謝しています」と喜んでいた。留学生たちは日本の「お・も・て・な・し」を体感したようだった。(※写真は、2019年12月5日の輪島市千枚田、川口家の「あえのこと」)

⇒5日(土)夜・金沢の天気    くもり

☆「自助・共助・公助、そして絆」というSDGs

☆「自助・共助・公助、そして絆」というSDGs

   菅総理大臣の初めての記者会見がきのう16日午後9時からあり、テレビで視聴した。会見で述べていた「自助、共助、公助、そして絆」はこれまで何度か耳にしていたが、改めて聴くと、これはひょっとして「菅流SDGs」ではないのかと心に刺さった。

   菅氏はこう語っていた。「まずは自分でやってみる。そして、家族、地域でお互いに助け合う。そのうえで、政府がセーフティーネットでお守りする」。SDGsの理念は「誰一人取り残さない(leave no one behind)」だ。自ら努力し、助け合い、そして公的な支援でしっかりとした絆(きずな)をつくることで、誰一人取り残さないという意味だと解釈した。

   その次のコメントがさらに鋭かった。「こうした国民から信頼される政府を目指す。そのためには、行政の縦割り、既得権益、そして、悪しき前例主義を打ち破って、規制改革を全力で進める。国民のためになる、国民のために働く内閣を作り、期待に応えていきたい」。これまでの内閣は新しいキャッチフレーズで政治や経済や政治のクローバル化や、福祉や医療の充実といった政策を打ち出してきた。ところが、菅氏は国民という目線で行政の縦割り、悪しき前例主義を打ち破る、「国民のために働く内閣」に徹底すると強調したのだ。これまでなかったキャッチフレーズではないだろうか。

   それでは、「自助、共助、公助、そして絆」を徹底的に実行することで、どのようことが可能になるのだろうか。SDGs17のゴールと照らし合わせてみる。1・貧困をなくそう (No poverty)、2・飢餓をゼロに(Zero hunger)、3・すべての人に健康と福祉を(Good health and well-being)、4・質の高い教育をみんなに(Quality education)、5・ジェンダー平等を実現しよう(Gender equality)、10・人や国の不平等をなくそう(Reduced inequalities)、11・住み続けられるまちづくり(Sustainable cities and communities)、16・平和と公正をすべての人に (Peace, justice and strong institutions)、17・パートナーシップで目標を達成しよう( Partnerships for the goals)、の9のゴールが見えてくる。

   さらに、菅氏は、携帯電話の料金が高すぎることなどを指摘し、「当たり前ではない、いろいろなことがある。それらを見逃さず、現場の声に耳を傾けて、何が足りないのかをしっかりと見極めたうえで、大胆に実行する。これが私の信念だ」と述べていた。これを経済と働く現場の感覚を重視するという意味で考えると、8・働きがいも経済成長も(Decent work and economic growth)、12・つくる責任 つかう責任(Responsible consumption, production)が見えてくる。さらに、菅氏が掲げる行政のデジタル化に加え、産業のデジタル化を推進することで、9・産業と技術革新の基盤をつくろう(Industry, innovation, infrastructure)のゴールも想定できる。

   ただ、菅氏のコメントで見えてこなかったのは生物多様性や気候変動といった環境問題に関する政策、そして、ODA(政府開発援助)だ。ODAによって、ぜひ、6・安全な水とトイレを世界中に(Clean water and sanitation)をサポートしてほしい。環境では、7・エネルギーをみんなに そしてクリーンに(Affordable and clean energy)と13・気候変動に具体的な対策を(Climate action)を示してほしいものだ。

   そして、外交として里山里海と生物多様性の問題にも取り組んでほしい。2010年に名古屋市で開催された国連生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された、20項目を10年で達成する「愛知目標」が困難との報告が公表された(9月15日付・共同通信Web版)。森林の減少や種の絶滅、海洋資源の乱獲が世界各国で報告されている。そこで、14・海の豊かさを守ろう(Life below water)、そして、15・陸の豊かさも守ろう(Life on land)のSDGs目標を掲げてはどうだろう。

   日本で採択された国際目標が達成できないとすれば、逆に2030年達成に向けて国際的なイニシャティブを発揮するチャンスではないだろうか。

⇒17日(木)午前・金沢の天気     くもり