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☆NHKの「義務化を」の背景を読む

☆NHKの「義務化を」の背景を読む

   自家用車に乗っていてもNHKラジオで時刻ごとの5分ニュ-スをよく聴く。仕事から自宅に戻れば、午後7時や同9時のNHKのニュース番組を視聴する。受信料を払っているからという理由ではないが、自身のNHKへの接触度は高い方だと思っている。そのNHKで違和感があったのが、受信料制度の在り方などを検討する総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会」で、NHK側が家庭や事業所でテレビを設置した場合はNHKへの届け出を義務化するよう放送法の改正を要望したというニュースだ(10月17日付・共同通信Web版)。

   NHKは受信契約を結んでいない世帯の居住者の氏名や、転居があった場合は転居先などの個人情報を、公的機関などに照会できるようにする仕組みの導入も求めた。受信契約の対象者を把握することで不払いを減らし、営業経費の削減にもつながるとみている。NHKはテレビがない場合の届け出も求めており、今後、有識者会議で検討する(同)。このニュースを見た視聴者は「NHKの上から目線」を感じたのではないだろうか。

   このNHKの要望で不快感を露わにしたのは民放サイドだ。いわゆる「テレビ離れ」。今月26日、日本テレビの小杉社長は定例会見で、テレビを設置した際のNHKへの届け出を義務化の要望した件について、「テレビ離れに拍車をかけるようなことになってはいけない」と懸念を表明(10月26日付・産経新聞Web版)。また、受信契約を結んでいない世帯の居住者氏名や、転居した際の住所などの個人情報を公的機関などに照会できる制度の導入についても、小杉社長は「視聴者には心理的なハードルがある」と指摘。「(総務省の有識者会議で)有識者の反対の意見が多かったと聞いているが、注視していかないといけないことだ」と述べた(同)。

   NHKも不評を買うことをある程度予想して要望を出したに違いない。その背景にNHKの相当な「焦(あせ)り」というものを感じる。それは、公共放送の有り様が国際的に見直されようとしているからだ。

   たとえば、イギリスの公共放送であるBBCについて、イギリス政府はTVライセンス料(受信料)を廃止し、希望者のみが視聴料を払う課金制(サブスクリプション)の導入など見直し作業を始める意向だという(2020年2月16日付・「The Sunday Times」Web版)=写真=。ジョンソン首相(保守党党首)は昨年12月の総選挙を前に、BBCの受信料制度の廃止と、視聴する分だけ金を払う有料放送型の課金制への移行を検討すると表明していた(2019年12月11日付・時事通信Web版)。選挙に勝利したジョンソン氏はその公約の実行段階に入ったと言える。

   イギリスの場合は、テレビを見たい視聴者は近くの郵便局で1年間有効の受信許可証を購入する。この許可証がなければ、電気屋でテレビそのものが買えないシステムだ。ところが、インターネット時代で、この受信許可モデルは果たして妥当なのか、その見直しがイギリスで起きているのだ。NHKの焦りというのは、日本でも受信料の見直し議論が起きる前に、NHKへテレビ設置の届け出を義務化するなど受信許可モデルを制度として早々に確立したいという意向ではないだろうか。

   BBCは世界の公共放送のモデルのような存在である。NHKにとってはギョーカイの大先輩であり大御所だ。そのBBCが直面する大問題を自らも焦燥感を持って成り行きを見守っているのだろう。NHKの「義務化を」の言葉の背景を探ってみた。

⇒31日(土)午後・金沢の天気    はれ

☆メディア業界、総選挙もリスク分散か

☆メディア業界、総選挙もリスク分散か

   来年に延期された東京オリンピックについて、IOCのバッハ会長が「協力すれば必ず実行でき、歴史的な大会になる」と述べたと、きのう25日のブログでニュースを引用した。すると、このブログを見てくれた知人から「IOCはオリンピックがビジネスなのでそうした発言は当たり前、ニュースでも何でもない」との趣旨のメールが届いた。

   確かにIOCには多額の放映権料が支払われている。2018年の韓国・平昌冬季大会と東京大会の合算額で、日本は5億9400万㌦を払っている。人口1億2600万人として、1人当たり4.7㌦だ。アメリカは21億9000万㌦、1人当たり6.7㌦だ(民放連公式ホームページなど参考)。さらに、アメリカのテレビ局の放送権料は全体シェアの50%以上ともいわれる。アメリカの放送権料が日本より高いのは訳がある。IOCとの金額交渉の仕方が異なるのだ。

   日本の交渉形式はNHKと民放が「ジャパン・コンソーシアム」(JC)というチームを組んでの交渉だ。そして、金額が確定した場合は、NHKが70%、民放が30%で負担することになる。アメリカの場合は民放が強く、3大ネットワークと呼ばれる「世界最大の放送局」のABC、「系列局数ではアメリカ最大」のCBS、そして「アメリカ最古」のNBCが放送権の獲得を目指して、競ってIOCと交渉するので、日本などと比べると割高となる。

   こうして眺めてみると、日本のテレビ業界は「リスク分散型」、アメリカは競争を繰り広げる「ハイリスク、ハイリータン型」といえる。日本の場合はNHKという巨大な公共放送があるという点がアメリカとのテレビ事情を異にしている理由かもしれない。

   以下は伝聞だが、オリンピックだけでなく選挙報道もコンソーシアム化するかもしれない。新型コロナウイルスの感染拡大がCMを激減させている。そしてNHKも持続化給付金の給付決定を受けた事業者への受信料の免除など行っている。経費節減が緊急の課題なっている中で、総選挙が近いかもしれないと政局が持ち上がっている。

   これまで、NHKは「選挙のNHK」と呼ばれるほど、出口調査や開披台調査などを独自で実施し、民放各社とは比べものにならないくらいの速さと正確性で「当選確実」を出してきた。なので、候補者はNHKの当確を確認して初めて万歳をするのが習わしになっているほどだ。そのNHKが、民放や新聞各社に呼びかけ、経費分担して選挙特番の情報を収集するようだ。いわゆる「選挙コンソーシアム」だ。民放や新聞各社にとっても経費節減の折、おそらくこの誘いに乗るだろう。

   リスク分散とは言え、こうなるとどのチャンネルも開票速報は同じ、となる。もちろん、候補者の当確の予想はそれぞれの局の分析なので異なるだろう。ひょっとして総選挙をやってほしくない、と願っているのはメディア業界かもしれない。

⇒26日(土)午後・金沢の天気    あめ

★テレビ視聴の「オーダーメイド化」時代

★テレビ視聴の「オーダーメイド化」時代

   気になったニュース。NHKの放送だけ映らないように加工したテレビを購入した東京都内の女性が、NHKと受信契約を結ぶ義務がないことの確認を求めた訴訟の判決で、東京地裁は26日、請求を認めた(27日付・共同通信Web版)。NHKの受信契約をめぐる訴訟は各地で起きているが、ほとんどがNHK側に軍配が上がっている。久しぶりに視聴者側の勝ちではないだろうか。

   最近の判決で印象的なのは、「ワンセグ訴訟」だ。自宅にテレビを置かず、ワンセグ機能付きスマホやカーナビの場合でも、NHKと受信契約を結ぶ義務があるかどうかの訴訟が相次いでいた。2019年3月、最高裁は契約義務があるとして原告側の上告を退ける決定をした。NHK側の勝訴とした東京高裁の判決が確定した。

   そもそもこれまでなぜ訴訟が相次いだのか。放送法そのものが不備が原因だ。放送法では「(日本放送)協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」(放送法64条1項)とある。スマホは持つものであって、設置ではない。常識で考えれば、誰しもがそう思う。今でもスマホでもPCでもタブレットでも視聴できる時代だ。ところが、放送法は制定された1950年のテレビの法律なのだ。東京高裁の判決では「受信設備の設置には携行することも含まれる」と判断したが、これは言葉の勝手解釈だろう。法律の文言を変えればよいだけの話である。

   今回26日の判決はある意味で画期的だ。NHKだけを受信不能とするフィルターをテレビとアンテナの間に取り付ける。つまり、NHKの周波数帯をカットする仕組みだ。裁判で、NHK側は電波を増幅するブースターを取り付けたり、工具を使って復元すれば、放送を受信できると主張した。これに対し、裁判長は女性の設置したテレビを「NHKを受信できる設備とは言えない」「ブースターがなければ映らないのであれば契約義務はない」と退けた。

   「ウィキペディア」によると、NHKの周波数帯を減衰するフィルターを開発したのは筑波大学の映像メディア工学の研究者だ。訴訟を起こした女性はこの研究者からフィルターを組み込みんだテレビを直接購入した。NHKや民放にかかわらず、視聴したくない放送を見ないようにするという発想から、見たくないテレビを見れないようにテレビそものにフィルターをかけるという視聴者ニーズが起きるのではないだろうか。まさにテレビのオーダーメイド化だ。今回の判決をきっかけに新しい商品として開発が進む、と予感する。

⇒27日(土)夜・金沢の天気   くもり