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☆「学問の自由」、福沢諭吉の教え

☆「学問の自由」、福沢諭吉の教え

   「学問の自由」という言葉は学生時代によく聞いた。1970年代の学園紛争の最中、集会に参加するとヘルメットを被った活動家たちが、「俺たちは学問の自由を守るために権力と闘っている」と強調していた。ときには、校門にバリケードをはって、学生がキャンパスに入れないように封鎖したこともあった。

   「学問の自由」の実践家として福沢諭吉の伝記を思い起こす。1868(慶応4)年5月、新政府軍と旧幕府側の彰義隊が上野で戦闘を開始した。慶応義塾を創設した福沢はこのころ、芝新銭座の有馬家中屋敷(現在の東京都港区浜松町1丁目)で英語塾を開講していた。福沢は、戦闘で噴煙があがるのを見ながらも、塾を休むことなく、塾生たちに英書『ウェーランドの経済書』を講義した。挿絵=写真=は、戦火を眺め動揺する塾生を背に粛然と講義を行う福沢の姿である。師が動揺しては塾生も動揺する。自らの使命を遂行することが肝要と自身に言い聞かせていたのだろう。

   1871(明治4)年に福沢は、新政府に仕えるようにとの命令を辞退し、東京・三田に慶応義塾を移して、経済学を主に塾生の教育に励む。その年、廃藩置県で大勢の武士たちが職を失い、落ちぶれていった。武士が自活できるように、新たな時代の教育を受ける学びの場が必要なことを福沢は痛感していたに違いない。福沢は慶応義塾の道徳綱領を1900(明治33)年に創り、その中で「心身の独立を全うし自から其身を尊重して人たるの品位を辱めざるもの、之を独立自尊の人と云う」(第2条)と盛り込み、「独立自尊」を建学の基本に据えた(「慶応義塾」公式ホームページ)。

   では、福沢はいわゆる「西洋かぶれ」だったのか。2009年に東京国立博物館で開催された『未来をひらく 福沢諭吉展』にを見学に行った。ここで紹介されていた福沢の写真のほとんどは和服姿だった。「身体」を人間活動の基盤と考え、居合刀を日に千回抜き、杵(きね)と臼(うす)で自ら米かちをした。身を律して、4男5女の子供を育て、家族の団欒(だんらん)という当時の新しいライフスタイルを貫いた。公費の接待酒を浴びるほど飲んで市中を暴れまわった新政府の官員(役人)たちを横目に、「官尊民卑」と「男尊女卑」に異議を唱えた。

   「政府の提灯は持たぬが、国家の提灯は持つ」。福沢は「学問の自由」を徹底して貫いた。「学問の自由」という言葉を発するのであれば、政府と距離を置くこと。福沢から学んだことである。

 ※写真は、2009年に開催された『未来をひらく 福沢諭吉展』で市販された挿絵より。

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★いつでも誰でもどこででも日銀のデジタル通貨

★いつでも誰でもどこででも日銀のデジタル通貨

   このブログでも何度か取り上げてきた中央銀行が発行するデジタル通貨について、きのう日銀が欧米の中央銀行との共同研究報告書を公表した。日銀の公式ホームページをのぞくと、来年2021年度から実証事業を始めるとある。いよいよデジタル法定通貨が経済のコアとして浮上してきた。

   このブログで、政府と日銀はアフターコロナの政策として、2024年に予定している新札発行をデジタル通貨へと舵を切るのではないかと憶測してきた。以前から紙幣や硬貨は非衛生的だとの指摘があり、新型コロナウイルスの感染拡大にともなって一気にキャッシュレス化が進んだ。もちろん紙幣や硬貨を粗末にするという意味ではない。  

   以下、日銀ホームページの共同研究報告書から引用する。日銀は、現時点でデジタル法定通貨(Central Bank Digital Currency、以下CBDC)を発行する計画はないと前置きしながしなら、決済システム全体の安定性と効率性を確保するよう準備する、としている。CBDC役割について、1.現金と並ぶ決裁手段の導入、2.民間決裁サービスのサポート、3.デジタル社会にさわしい決済システムの構築、の3点を上げている。

   現金に対する需要がある限り、現金の供給についても責任をもって続けていく。CBDCが発行されると、民間企業や金融機関によるデジタル通貨と競合し、民間の活力を損なう懸念もある。たとえば、銀行預金からの引き出しが容易になって金融危機時に銀行経営が揺らぎやすくなるといったことも想定され、そうした事態が起きないよう民間決裁サービスをサポートする。

   CBDCが持つべき特性をまとめている。現金や預金などとの交換性や現金払いやスマホ決済のような決済時の容易さ(ユニバーサルサービス)、取引の即時決済性といった強靱性、セキュリティを上げている。つまり、現金のように「誰でも使える」「安心して使える」「いつでも、どこでも使える」との位置づけだ。

   日銀は21年度の早い時期に実証実験を始め、1.中央銀行と民間事業者の協調・役割分担のあり方、2.CBDCの発行額・保有額制限や付利に関する考え方、.3.プライバシーの確保と利用者情報の取扱い、4.デジタル通貨に関連する情報技術の標準化のあり方などの点について検討を進めていく、としている。

   菅内閣が進めるデジタル化の促進はまさに日銀のこの動きと連動するものだろう。これと選挙のデジタル投票が同時に進めば、日本のデジタル化は政治と経済の両面でかなり加速するのではないだろうか。

⇒10日(土)朝・金沢の天気   くもり