#COP26

☆2021 バズった人、コト~その8

☆2021 バズった人、コト~その8

   ことし話題になった人物といえば、ノーベル物理学賞を受賞したプリンストン大学上級研究員の真鍋淑郎氏、90歳ではないだろうか。地球温暖化予測の第一人者として知られ、それまで物理学とは考えられていなかった気候変動をコンピューターでシミュレーション解析を行うことで数式化し、「気候物理学(Climate physics)」という新たな研究ジャンルを切り拓いた。

   ~ノーベル物理学賞・真鍋淑郎氏 気候変動会議「phase down」に何思う~ 

   真鍋氏の受賞は実にタイムリーだった。二酸化炭素による地球温暖化が国際政治の遡上にのぼったタイミングだ。10月31日からイギリスのグラスゴーで開催されていた国連の気候変動対策会議「COP26」で成果文書「グラスゴー気候協定」が採択された。世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑える努力を追求すると成果文章で明記された。世界全体の温室効果ガスの排出量を2030年までに2010年比で45%削減し、さらに2050年にほぼゼロに達するまで排出量を削減し続ける。

   世界の年間の二酸化炭素排出量の約4割が火力発電など石炭を燃やすことで発生しているため、今回の成果文書で石炭対策が初めて明記された。が、その表現をめぐって土壇場で攻防があった。文書案では当初、石炭の使用を「phase out(段階的に廃止)」という表現になっていた。しかし、合意採択を協議する最後の全体会議でインド代表がこれに反対した。飢餓の削減に取り組まなくてはならない発展途上国にとって、石炭使用や化石燃料を段階的に廃止する約束はできないと主張。インドの主張を中国も支持し、石炭産出国のオーストラリアも賛同した。議論の挙句に「phase down(段階的な削減)」という表現になった。

   真鍋氏はこの土壇場での表現の変更をどう思っただろうか。ノーベル賞発表後にプリンストン大学で記者会見が開催され、会見動画がYouTubeでアップされている。その中で、記者から日本からアメリカに国籍を変えた理由をこう述べている。

   I never wrote single research proposal in my life. So I got all computer I want to use, and do whatever I pleases. So that is one reason why I don’t want to go back to Japan, because I’m not capable of living harmoniously.(意訳:私は生涯で一度も研究提案書を書いたことがない。それで、使いたいコンピューターを全部手に入れて、好きなようにしています。だから、私は日本に帰りたくないのです。なぜなら、私には日本人のような協調する生活ができないからです)

   この文言から察するに、真鍋氏は周囲を気にせず、自分の好きな研究に没頭するタイプだろう。悪く言えば自己中心的。日本社会のように気配りや忖度する社会環境に馴染めず、「Yes」か「No」で済むアメリカ社会が自分に適していると判断した。このような頑なな研究者に石炭の使用を「phase out」か「phase down」と問えば、当然、前者だろう。真鍋氏は 「They should think about more how decision-makers and research scientists communicate with each other(政策決定者と研究者がどのようにコミュニケーションをとるかをもっと考えるべきだ)」と憤っているのではないだろうか。

⇒31日(金)午後・金沢の天気      ゆき

☆カーボンニュートラルな生き方

☆カーボンニュートラルな生き方

   前回のブログの続き。イギリスで開催された国連の気候変動対策会議「COP26」では、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える努力を追求し、石炭火力発電については「段階的な廃止」を「段階的な削減」に表現を改めることで意見対決をまとめて成果文書が採択された。日本政府も2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル宣言」を掲げ、脱炭素社会の実現に向けて待ったなしで突き進んでいくことになる。

   自分の仕事が地球環境や気候変動にどのような影響を与えているだろうか。環境に謙虚な気持ちを持つということはどういうことなのか。そのことに取り組んでいる人物の話だ。能登半島の尖端、珠洲市の製炭所にこれまで学生たちを連れて何度か訪れている。伝統的な炭焼きを生業(なりわい)とする、石川県内で唯一の事業所だ。二代目となる大野長一郎氏は45歳。レクチャーをお願いすると、事業継承のいきさつやカーボンニュートラルに対する意気込みを科学的な論理でパワーポイントを交えながら、学生たちに丁寧に話してくれる。

   22歳で後継ぎをしたころ、「炭焼きは森林を伐採し、二酸化炭素を出して環境に悪いのではないか」と周囲から聞かされた。しかし、自分自身にはこう言い聞かせてきた。樹木の成長過程で光合成による二酸化炭素の吸収量と、炭の製造工程での燃料材の焼却による二酸化炭素の排出量が相殺され、炭焼きは大気中の二酸化炭素の増減に影響を与えない、と。ただ、実際にはチェーンソーで伐採し、運ぶトラックのガソリン燃焼から出る二酸化炭素が回収されない。「炭焼きは環境にやさしくないと悩んでいたんです」   

   この悩みを抱えて、2009年に金沢大学の社会人向け人材育成プロジェクト「能登里山マイスター養成プログラム」に参加した。自身も大野氏とはこの時に知り合った。大野氏は自然環境を専門とする研究者といっしょに生業によるCO²の排出について検証する作業に入る。ライフサイクルアセスメント(LCA=環境影響評価)の手法を用い、過去6年間の製造、輸送、販売、使用、廃棄、再利用までの各段階における環境負荷を検証する。事業所の帳簿をひっくり返しガソリンなどの購入量を計算することになる。仕事の合間で2年かけて二酸化炭素の排出量の収支計算をはじき出すことができた。また、環境ラベリング制度であるカーボンフットプリントを用いたCO²排出・固定量の可視化による、木炭の環境的な付加価値化の可能性などもとことん探った。

   得た結論は、生産する木炭の不燃焼利用の製品割合が約2割を超えていれば、生産時に排出されるCO² 量を相殺できるということが明らかになった。3割を燃やさない炭、つまり床下の吸湿材や、土壌改良材として土中に固定すれば、カーボンマイナスを十分に達成できる。これをきっかけに木炭の商品開発の戦略も明確に見えてきた。さらに、炭焼きの原木を育てる植林地では昆虫や野鳥などの生物も他の地域より多いことが研究者の調査で分かってきた。「里山と生物多様性、そしてカーボンニュートラルを炭焼きから起こすと決めたんです」

   付加価値の高い茶炭の生産にも力を入れている。茶炭とは茶道で釜で湯を沸かすのに使う燃料用の炭のこと。2008年から茶炭に適しているクヌギの木を休耕地に植林するイベント活動を開始した。すると、大野氏の計画に賛同した植林ボランティアが全国から集まるようになった。能登における、グリーンツーリズムの草分けになった。(※写真・上は大野氏が栽培するクヌギの植林地。写真・下はクヌギで生産する「柞(ははそ)」ブランドの茶炭)

⇒16日(火)夜・金沢の天気      はれ

★”phase down” か “phase out”でもめたCOP26

★”phase down” か “phase out”でもめたCOP26

   イギリスのグラスゴーで開催されていた国連の気候変動対策会議「COP26」が13日夜(日本時間14日朝)に閉幕となった。成果文書「グラスゴー気候協定」を採択した。時折、ニュースなどをこの会議をチェックしてきたが、ポイントはいくつかあった。BBCニュースWeb版の記事(13日付)=写真=などからまとめてみる。

   「It’s been a long two weeks of wrangling at COP26 in Glasgow to reach a deal.」で始まるBBCの記事は、「COP26は合意に至るまでに長い2週間を要した」と合意に至るまでの議論の白熱ぶりを表現している。そもそも会期は12日までの予定だったが1日延長となった。注目する数字が「1.5度」だった。世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑える努力を追求すると成果文章で明記された。2015年のパリ協定で各国が合意したこの「1.5度目標」の実現には、世界全体の温室効果ガスの排出量を2030年までに2010年比で45%削減する必要がある。さらに、2050年にほぼゼロに達するまで排出量を削減し続けることになる。

   そこで議論の焦点となったのが石炭対策だ。世界の年間の二酸化炭素排出量の約4割が火力発電など石炭を燃やすことで発生している。気候変動対策に関する国連の合意文書で石炭対策が初めて明記されたことになる。ただ、その表現をめぐって土壇場で議論が交わされた。文書案では当初、石炭の使用を「phase out(段階的に廃止)」という表現になっていた。しかし、合意採択を協議する最後の全体会議でインド代表がこれに反対した。飢餓の削減に取り組まなくてはならない発展途上国にとって、石炭使用や化石燃料を段階的に廃止する約束するなどはできないと主張。インドの主張を中国も支持し、石炭産出国のオーストラリアも賛同した。議論の挙句に「phase down(段階的な削減)」という表現になった。

   BBCニュースはこの土壇場のドラマをこう述べている。議長国イギリスのアロク・シャーマCOP26議長は、「この展開について、謝ります」と全体会議を前に謝罪。「本当に申し訳ない」と述べた。ただし、合意全体を守るためには、不可欠な対応だったと説明すると、声を詰まらせて涙ぐんだ。この議長の様子に、各国代表は大きな拍手を送った。

   これも議長国イギリスの提案だった。2040年までにガソリン車の新車販売を停止し、全てをゼロエミッション(排出ゼロ)車とする提案に24ヵ国が合意したが、日本やアメリカ、中国などの主要国は提案には参加しなかった。電気自動車(EV)への急速な移行を掲げたイギリスの思惑は外れた。ただ、EV普及のため、充電インフラの整備や車体価格の引き下げなどを目指す取り組みには日米独などが参加を表明した(11日付・時事通信Web版)。一方、航空機の温室効果ガス排出量を削減する宣言には、日本は米英仏などと共に署名。炭素を排出しない航空燃料の開発・導入を目指す(同)。

   全体を通じて議長国イギリスの大胆で急進的な提案が目立った。18世紀半ばに石炭利用によるエネルギー革命を起こしたのはイギリスだった。次なるゼロエミッションの産業革命もイギリスが興すと意気込んでいるのかもしれない。

⇒14日(日)夜・金沢の天気      はれ

☆日本は「カーボンニュートラル先進国」になれるのか

☆日本は「カーボンニュートラル先進国」になれるのか

   選挙に勝って勢いがついたのだろうか。イギリスで開かれているCOP26の首脳会合で岸田総理が演説し、2030年度の温室効果ガスの排出量を2013年度から46%削減するなどとした日本の目標を説明した。そのうえで、先進国が途上国に年間1000億㌦を支援するとした目標に届いていない現状を踏まえ、これまで日本政府が表明した5年間で官民合わせて600億㌦規模の支援に加え、今後5年間で最大100億㌦の追加支援を行う用意があると表明。「気候変動という人類共通の課題に日本は総力を挙げて取り組んでいく決意だ」と強調した(2日付・NHKニュースWeb版)。

   去年10月26日、当時の菅総理は臨時国会の所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と声高に述べた。さらに、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力するとし、「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではない」と強調した。そして、石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換し、次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、脱炭素社会に向けてのイノベーションを起こすため、実用化を見据えた研究開発を加速させると述べていた。

   二人の総理が力強く脱炭素を宣言したことで、日本は「カーボンニュートラル先進国」の評価が国際的に高まるかもしれない。ただ、矛盾も見えている。経産省がまとめた第6次エネルギー基本計画が先月22日に閣議決定された。第5次エネルギー基本計画(2018年7月)と比較する。第5次では2030年度の電源構成を火力56%(LNG27%、石炭26%、石油3%)、原子力22-20%、再生可能エネルギー(水力、太陽光、風力など)を22-24%としていた。それが、第6次では火力42%(LNG20%、石炭19%、石油2%、水素・アンモニア1%)、原子力20-22%、再生可能エネルギーが36-38%となっている。

    この数字を見て、再生可能エネルギーの割合が高すぎると感じる。2030年までに建設可能な再生可能エネルギーとなると、水力と風力よりも太陽光が手っ取りばやいだろう。しかし、これまではFIT(固定価格買取制度)で建設が順調に伸びてきたが、これまでのペースさらに伸びるだろうか。また、原子力の割合も高いのではないか。「20-22%」というのは、第5次エネルギー基本計画をベースにした試算でこれを実現するには、原発27基が必要だとされている。現実に再稼働している原発は10基だ。カーボンニュートラルのための原発再稼働は地域住民の理解を得られるとは思えない。

   カーボンニュートラルに反対するつもりはまったくない。ただ、日本の取り組みに実現可能性はあるのかどうか、社会的な混乱を招かないのか。

⇒2日(火)夜・金沢の天気      くもり時々あめ

★ノーベル賞「真鍋効果」がもたらすもの

★ノーベル賞「真鍋効果」がもたらすもの

   今年のノーベル物理学賞に地域温暖化予測の第一人者として知られるプリンストン大学上級研究員の真鍋淑郎氏が選ばれた=写真=。真鍋氏は京都大学と東京大学大学院で地球物理を学び、それまで物理学とは考えられていなかった気候変動を数式を使うコンピューターでシミュレーション解析を行うことで、「気候物理学」という新たな研究ジャンルを切り拓いた。

   実にタイムリーな受賞ではある。今月31日からイギリス・グラスゴーで国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催され、各国の代表やNGOが脱炭素の目標や具体策について話し合う。今回のノーベル賞受賞で、温室効果ガスの削減こそ国際的な課題として広く認知されることになるだろう。

   ひょっとして、真鍋氏のノーベル賞受賞はアメリカのバイデン大統領へのメッセージではないだろうか。アメリカは2015年に採択された温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」について、「不公平な経済的負担」を強いているという理由で2017年6月、当時のトランプ大統領が協定から離脱すると宣言し、2020年11月に正式に離脱した。政権を引き継いだバイデン氏はパリ協定への復帰を表明し、ことし1月20日に復帰手続きの開始を命じる大統領令に署名した(2021年1月22日付・BBCニュースWeb版日本語)。ノーベル委員会は「パリ協定復帰を急げ」とバイデン氏にメッセージを贈ったのだろう。

   話は変わるが、先の菅政権はことし4月に日本が2030年度の温室効果ガスの削減目標を46%減(2013年比)に引き上げて設定し、「2050年カーボンニュートラル宣言」に向けた青写真を示した。さらにG7首脳会議(ことし6月・イギリス)で途上国などで建設する石炭火力発電への新たな公的支援の廃止に合意した。これらの削減目標と対策は前出のCOP26で国連に提出することになる。日本は温室効果ガス削減に向けて舵を切った。

   これも実にタイムリーだった。これまでの温暖化対策が経済成長の制約やコストと考える時代に終わりを告げ、経済成長の新たなチャンスとらえる時代の到来だ。日本には脱炭素化のさまざまな先端技術(水素と二酸化炭素から天然ガスの主成分メタンを合成するメタネーション技術など)がある。日本が本気になって温暖化対策のイニシアティブを握る好機でもある。環境関連に投下される「ESG投資」は世界でさらに強まるだろう。日本経済に「真鍋効果」がもたらされるのではないか。

⇒6日(水)午前・金沢の天気       あめ後くもり