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☆性的虐待を黙認してきたメディアを問うBBCの論調

☆性的虐待を黙認してきたメディアを問うBBCの論調

   連日、ジャニーズ事務所のジャニー喜多川元社長(2019年死亡)の性加害問題が報道されている。この性加害をめぐっては、日本のメディアのあり様が問われている。そもそも、イギリスBBCのドキュメンター番組「Predator: The Secret Scandal of J-Pop 」がことし3月7日に放送されなければ、日本で白日の下にさらされることはなかった。番組の中で、元ジャニーズの4人が生々しく証言している。これが発端となり、日本のメディアにようやく着火した。   

   これまで日本のメディアで追及していたのは唯一、週刊誌「週刊文春」だった。1999年10月から14週にわたってジャニー喜多川社長の性加害問題を告発する連載キャンペーンを張った。この記事に対して、ジャニーズ事務所とジャニー社長は発行元の文藝春秋社を名誉毀損で提訴。二審の東京高裁は2003年5月、「その重要な部分について真実」「真実でない部分であっても相当性がある」と性加害を認定。ジャニーズ側はこれを不服として上告したが、最高裁は2004年に棄却している(ことし5月13日付・弁護士ドットコムニュース)。そして、この判決後もジャニー社長による性的搾取が続いていた、ということになる。

   では、ジャニーズ事務所が社長交代を発表したきのうの記者会見を、BBCはどう報じているのか。「Johnny Kitagawa: J-pop agency boss resigns over predator’s abuse」の見出し=写真=で、日本最大のポップ芸能事務所の社長が、創業者による性的虐待を最終的に認めて辞任したと伝えている。さらに、「Most mainstream Japanese media also did not cover the allegations for decades, prompting accusations of an industry cover-up.」と日本の主要メディア(テレビ、新聞)が何十年もの間、この疑惑を取り上げてこなかったと批判。その背景として、ジャニー元社長が日本の芸能界で最も影響力を持った人物で、ジャニーズ事務所が日本のボーイズバンドを独占してきたという背景にあると報じている。

   BBCのこの論調は解釈の仕方によっては、ジャニー喜多川元社長の性的虐待を黙って見逃してきた主要メディアはむしろ「共犯」ではないのかと言っているようにも読める。

⇒8日(金)夜・金沢の天気     くもり

☆BBC放送100年 視聴者目線でサバイバル

☆BBC放送100年 視聴者目線でサバイバル

  このコラムでよくBBCの記事を取り上げる。たとえば、2021年5月4日付のWeb版で「Covid: Japan town builds giant squid statue with relief money」の見出しで能登半島の「イカの町」で知られる能登町のイカのモニュメントを紹介していた=写真=。そこでブログでは、なぜ、グローバルメデアィアのBBCが能登の小さな町のモニュメントを取り上げたのかと探った。

   記事は国内の新聞メディアなどが「パンデミックが収束しない中で、巨大イカに多額の資金を費やしている」と行政を批判した記事がベースだった。が、写真が大きく、モニュメントそのものに記者の目が向いたのだろう。なにしろ、欧米ではタコやイカをデビルフィッシュ(Devilfish)、「悪魔の魚」と称して忌み嫌う人も多く、話題性に富んでいる。そこに目をつけた。BBCの報道の後、フランスのAFP通信、アメリカのニューヨーク・タイムズなども追いかけるように取り上げた。

   また、2020年5月にテレビ番組に出演していた女子プロレスラーがSNSで誹謗中傷を受け自死した問題を、海外メディアとしていち早く取り上げたのはBBCだった。2020年5月23日付のWeb版で、「Hana Kimura: Netflix star and Japanese wrestler dies at 22 」の見出しで  「彼女の死のニュースについて、ファンや関係者は、サイバーいじめとその精神衛生上の影響について多くの声を上げている」と論評していた。女子プロレスラーが出演する番組が動画配信サービス「ネットフリックス」で流されていたことから世界でもファンがいた。

   BBCのニュースの取り上げ方で感じるのは、グローバルメディアにありがちな上から目線ではなく、視聴者の目線に徹している、ということだ。そもそも、BBCはイギリスの国営メディアで、1922年11月14日にラジオ放送を開始し、ちょうど100年になる。経営のベースは「受信料」だ。なので、視聴者に「見たいものがないので受信料を払いたくない」と言わせたくないために、報道姿勢として視聴者目線を重視しているのではないだろうか。

   ただ、インターネット動画配信サービスの普及もあり、受信料制度の見直しが検討されているようだ。「BBCの受信料一律徴収の制度は2027年にも終了となる可能性がある。代わり視聴状況に応じて受信料を徴収する制度の導入などが検討されている」(6月28日付・ロイター通信Web版日本語) 。ネットの時代、放送環境はますます厳しくなっていくだろう。BBCのような視聴者目線こそ、放送メディアの生き残りのカギではないだろうか。

⇒14日(月)午前・金沢の天気   くもり

☆女王の威厳を讃えるイギリスの国葬

☆女王の威厳を讃えるイギリスの国葬

   イギリスのエリザベス女王が亡くなった。イギリスの君主として歴代最長となる70年にわたって在位し、96歳で亡くなった。BBCニュースWeb版(9日付)は「Nation mourns Queen with flowers, gun salutes and address from new King」の見出し=写真=で、女王の死去を受け、長男のチャールズ皇太子が国王に即位したと伝えている。女王に敬意を表してウェストミンスター寺院、セントポール大聖堂、ウィンザー城で鐘が鳴り、女王の人生を記念して96発の銃による敬礼がハイドパークなどで発射される。女王の国葬は2週間以内にウェストミンスター寺院で執り行われる予定で、正確な日はバッキンガム宮殿によって後日発表される、という。

   エリザベス女王の死去を受けて、天皇陛下のお気持ちを宮内庁が文書で発表した(TBSニュースWeb版)。「女王陛下は、70年の長きにわたり英国女王として同国並びに英連邦諸国の国民を導き、励まされました」「我が国との関係においても、女王陛下は両国の関係を常に温かく見守ってくださり、英王室と皇室の関係にも御心を寄せてくださいました。私の英国留学や英国訪問に際しても、様々な機会に温かく接していただき、幾多の御配慮をいただいたことに重ねて深く感謝したいと思います。 また、女王陛下から、私の即位後初めての外国訪問として、私と皇后を英国に御招待いただいたことについて、そのお気持ちに皇后とともに心から感謝しております」

   天皇のお言葉からも、70年の長きにわたってイギリスの女王として威厳を保ち続けたことが伝わって来る。さまざまな王室スキャンダルの嵐が吹き、イギリスそのものもかつてはEU離脱という国論を二分するよう状況下もあった。その中でも、威厳を湛えながら国をまとめていた。

   エリザベス女王の国葬は2週間以内にウェストミンスター寺院で執り行われる。誰もが弔意を持って、その日を迎えることだろう。これが本来の国葬のあり様でもある。日本の「国葬」と比較するつもりはいっさいない。

⇒9日(金)夜・金沢の天気      くもり 

☆イギリスに受信料廃止の風は吹くのか

☆イギリスに受信料廃止の風は吹くのか

   NHK受信料制度の見直しにつながる動きになるかもしれない。イギリスの「デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)」が4月28日に発表した放送政策全般を見直す年次報告書(白書)『Up Next The Government’s vision for the broadcasting sector』が注目されている。その中にはことし100年の歴史を刻む公共放送BBCの改革の方針が述べられている。そのホワイトペーパーがDCMS公式サイトにアップされているのでチェックした=写真、人物はナディーン・ドリスDCMS担当相=。

   前置きで「The UK’s creative economy is a global success story, and our public service broadcasters (PSBs) are the beating heart of that success. (イギリスのクリエイティブな経済は世界的なサクセス・ストーリーであり、公共放送局はその成功の脈動する心臓に相当する)」と評価しながらも、改革は避けられないとそのポイントを上げている。

   直面するのはネット環境だ。イギリスの視聴者の「メディア消費」のあり様が大きく変化していることを数値を紹介している。イギリスでは79%の世帯がネットに接続されたテレビを所有している。このため、放送局の番組を視聴する時間の割合は2017年の74%から2020年の61%に減少。逆に有料制の動画サービスの視聴時間における割合は2017年の6%から2020年の19%に増加している。さらに、コンテンツのグローバル化問題を指摘している。アメリカ発の動画配信サービス「ネットフリック」などはイギリスの放送業者よりもはるかに大きな予算でコンセンツ制作を展開している。

   このような時代の変化にも関わらず、国民は世帯当たり年間で159ポンド(およそ2万5000円)の受信料(ライセンス料)をBBCに払い続けている。国民の間では不公平感が募っている。また、ライセンス料の支払いを拒んだ場合は刑事裁判がある。件数は示されていないが、2019年に支払いを拒否して有罪判決を受けた人々の74%は女性だったと白書で記載されている。イギリスでは、テレビを見たい視聴者は近くの郵便局で1年間有効の受信許可証を購入する。この許可証がなければ、電気屋でテレビそのものが買えないシステムだ。ネット時代で、この受信許可モデルは不公平感を増長するだけではないだろうか。

   BBCの放送事業の認可であるロイヤルチャーター(女王の特許状)は2027年にいったん切れる。それまではライセンス料の徴収は継続する。白書では、「BBCの受信料制度について見直しを進める」、さらに「BBCの商業部門の限度額(広告枠)を2倍以上に増やす」などと記載されてはいるが、具体案はない。「We will set out more details in the coming months.」と数か月後に詳細を提示すると述べている。

   ジョンソン首相は、BBCの受信料の廃止と視聴する分だけ金を払う有料放送型の課金制(サブスクリプション)への移行を公約として掲げてきた。一方で、受信料が廃止されることで、収入が不安定になり報道の質の高さや公共性が失われるという懸念もある。公共放送の経営と安定、視聴者の不公平感の解消、次なるメディアのコンテンツのあり様、さまざまな課題が凝縮されている。そして他人ごとではない。

⇒20日(金)午後・金沢の天気    くもり

☆北京オリンピック 健康管理アプリから漏れ出る情報とは

☆北京オリンピック 健康管理アプリから漏れ出る情報とは

   このブログでは「不都合な真実」という言葉をたびたび使っている。一見して正論のように見えて、奥にはとてつもない矛盾やたくらみがあったりするとそのような表現をする。アメリカのクリントン政権で副大統領を務めたアル・ゴア氏が主演するドキュメンタリー映画『不都合な真実 (An Inconvenient Truth)』で、地球温暖化の裏側で起きている石油業界と政治の癒着を指摘した。15年前に鑑賞した映画だった。

   今また不都合な真実が見えてきた。総理官邸公式ホ-ムページに掲載されている松野官房長官の記者会見(3日午後)=写真・上=で、産経新聞記者から質問があった。それは、北京オリンピックで新型コロナウイルス感染など健康状態を管理する中国の公式アプリについて、すでに7ヵ国1000人の選手は情報の抜き取りなどを懸念して「使い捨てスマホ」に切り替えているとして、日本政府の対応を質した。これに対して、松野官房長官はスポーツ庁がJOCを通じて選手側に対し、帰国後は速やかにアプリを削除するなどの注意点を伝えていることを明らかにした。

   中国は各国の代表団やメディアに対し、入国14日前に公式アプリ「MY2022」のスマホへのインストールを義務づけ、入国後は毎日の体温の登録などを求めている。ところが、このアプリについては中国当局による監視や情報の抜き取りへの懸念が広がっている。BBCニュースWeb版(1月18日付)は「Winter Olympics: Athletes advised to use burner phones in Beijing」(北京冬季五輪: 必須アプリのセキュリティーに懸念 プリペイド携帯使用を推奨する国も)の見出しで特集を組んだ=写真・下=。サイバーセキュリティーの研究団体によると、問題のアプリには「検閲キーワード」が埋め込まれているのが見つかった。検閲キーワードは発信者がその言葉を使った場合、当局が発信者の氏名や内容などをチェックできるとされる。

   こうしたことを重く見たアメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、スウェーデン、スイス、オランダの欧米各国は、中国の通信回線を通じて個人情報が盗まれたり、行動を監視されることを警戒し、自国選手に個人所有のスマホやノートパソコンを持ち込まないようにと注意し、プリペイド携帯に替えるよう呼びかけているという。上記の松野官房長官の発言も、アプリは必要最小限の使用にとどめ、帰国後は速やかにアプリを削除することや、アプリを導入する端末を別途用意するのが望ましいこと、さらに違和感があった場合は「内閣サイバーセキュリティセンター」などに連絡するよう呼び掛けた。

   では、中国はどのような情報を入手したいのだろうか。以下は憶測だ。オリンピック選手には軍の関係者もいる。たとえば、今回の北京オリンピックではバイアスロンとクロスカントリースキーの2種目の日本代表選手のうち7人が自衛隊所属だ。中国とすれば、どのような会話や情報が7人の中で、あるいは自衛隊本部と交わされているのかチェックしたいのではないか。あくまでも憶測だ。健康管理アプリという名の情報管理アプリ、まさに不都合な真実だ。アプリは必要最小限の使用にとどめ、帰国後は速やかに削除することを願う。

⇒4日(金)午後・金沢の天気     あめ時々みぞれ

★ダイアナ元妃に十字架を背負わせたTVメディア

★ダイアナ元妃に十字架を背負わせたTVメディア

   2006年1月にイタリアのフィレンツェを訪れ、サンタ・クローチェ教会の壁画に描かれているフレスコ画「聖十字架物語」を鑑賞した。1380年代にアーニョロ・ガッティが描いた大作。絵は、4世紀はじめにローマの新皇帝となったコンスタンティヌスの母ヘレナ(中央)がキリストの十字架を発見し、エルサレムに持ち帰るシーンを描いたものだ=写真・上=。その時ふと、聖女ヘレナの横顔がイギリスのダイアナ元妃(1997年8月に事故死)にとても似ている感じがして思わずカメラを向けた。

   いまダイアナ元妃をめぐってイギリスを騒がせているのが、国際的なテレビメディアであるBBCが1995年11月に放送した、ダイアナ妃(当時)への独占インタビュー番組でついてだ。もう25年も前の話なのだが、BBCが自省の念を込めて、「Martin Bashir: Inquiry criticises BBC over ‘deceitful’ Diana interview」の見出しでその経緯について伝えている(現地時間5月20日付Web版)=写真・下=。

   当時、ダイアナ元妃のインタビュー番組は世界に衝撃を与えた。夫のチャールズ皇太子と別居していた彼女の口から自身の不倫や皇太子の愛人の名前、自殺未遂や自傷行為などが語られた。この番組の放映後に彼女は離婚。1997年にパリで起きた自動車事故により36歳で亡くなった。

   今回問題となったのは、このインタビューを行ったBBCの記者がダイアナ妃への取材交渉をする際につくり話と偽造文書を使っていたことだ。記者は、マーチィン・バシール氏58歳。当時、ダイアナ妃の弟、チャールズ・スペンサー氏に取材を持ち掛けた際、ダイアナ妃の情報を横流しする王室関係者の銀行口座にメディアから報酬が振り込まれているなどと説得し、その際に偽造した銀行の取引明細書を見せて信じ込ませていた。

   今回、スペンサー氏が告発したことを受け、BBCは昨年2020年11月、イギリス最高裁の元判事に調査を依頼した。報告書は今月公表され、BBCのグラフィックデザイナーが銀行の取引明細書に関与していることなども判明した。そして「”We can see now that the false bank statements were the lever that opened the doors to the access to Diana.”」(偽の銀行明細がダイアナ元妃に近づくドアを開くレバーだったと、いまわかった)と、当時のBBC会長の言葉を引用してこの記事を終えている。

   王室関係者からリークされているとの記者のつくり話とそれを証明するかのような偽の銀行取引明細書に騙されて、当時のダイアナ妃は恐怖心を抱いて自らのこと、そして夫である皇太子のことなど王室の現状を暴露してしまったことは想像に難くない。インタビューに応じてしまったことにダイアナ元妃は十字架を背負ったような重い心の負担を感じていたのではないだろうか。BBC、そして記者の罪は重い。

⇒22日(土)夜・金沢の天気     くもり時々あめ

☆巨大なデビルフィッシュ 世界への宣伝効果

☆巨大なデビルフィッシュ 世界への宣伝効果

   イギリスBBCニュースWeb版(5月4日付)が面白いニュースを伝えている。「Covid: Japan town builds giant squid statue with relief money」の見出しで海辺のイカのモニュメントの写真を掲載していた=写真=。驚いたことに、能登半島の「イカの町」で知られる能登町のイカのモニュメントだ。

   記事の書き出しはこうだ。「A seaside town in Japan has raised eyebrows after it used funding from an emergency Covid-19 relief grant to build a giant statue of a squid.」。日本の海辺の町は、コロナ禍の緊急援助金を使って巨大なイカの像を建て、物議をかもしている、と。この全長13㍍の像は感染対策の地方創生臨時交付金を使ってことし4月に完成したもので、地元紙も取り上げるなど話題になっていた。何しろ交付金2500万円が建設費に充てられたからだ。

   記事では「能登町の関係者は地元メディアに対し、新型コロナウイルスのパンデミック (世界的大流行) 後に観光客を呼び戻す長期計画の一環だと語っている」と書いている。つまり、BBCの記者が直接取材に訪れたのではなく、地元紙の記事を引用して記事構成をしている。ちなみに、能登町の小木港は青森県の八戸港、北海道の函館港と並ぶ、日本のイカ漁の3大漁港の一つだ。

           憶測だが、BBCの記者は記事の写真をネットなどで見て興味を抱いたのだろう。欧米では、タコやイカをデビルフィッシュ(Devilfish)、「悪魔の魚」と称して忌み嫌う人も多いとか。巨大化したタコやイカと闘うアメリカ映画もある。その意味で、画像のインパクトを意識した記事ではないだろうか。

    記事では「パンデミックが収束しない中で、巨大イカに多額の資金を費やしているとして、町の行政を批判する声もある」と紹介する一方で、「町の広報担当者は、このモニュメントは観光名所となり、能登のイカを宣伝する長期戦略の一部となるだろう」と日本のメディアに語ったコメントも記載している。

   BBCの報道の後、フランスのAFP通信、アメリカのニューヨーク・タイムズなどもこの記事を取り上げている。デビルフィッシュのすさまじい宣伝効果ではある。

⇒8日(土)午前・金沢の天気     くもり時々はれ