#香箱ガニ

☆10ヵ月ぶり出漁で活気づく輪島の漁港 ノドグロやズワイガニが並ぶ

☆10ヵ月ぶり出漁で活気づく輪島の漁港 ノドグロやズワイガニが並ぶ

  この時季の漁港は、ズワイガニや寒ブリなどで港が活気づく。元日の能登地震で漁港に海底隆起が起きて漁船が港から出れなくなっていた輪島漁港では、海底の土砂をすくい取る浚渫工事が進み10ヵ月ぶりに出漁ができるようになった。きのう(15日)現場を見に行った。午前11時ごろに漁港に行くと、刺し網漁船が水揚げをしていた。氷の入ったカゴにごっそりと入っていたのはノドグロだった=写真・上=。

  ノドグロは金沢ではもともとアカムツと呼んでいて、庶民の魚だった。ところが、2014年のテニスの全米オープンで準優勝した錦織圭選手が記者会見で、「ノドグロが食べたい」と答えたことがきっかけで、焼き魚と言えばノドグロが一気に「出世魚」となった。さらにブームに拍車をかけたのが、翌2015年3月の北陸新幹線の金沢開業だった。観光客が急激に増え、金沢での食べ歩きや土産の需要として、ノドグロ人気が一気に高まった。関東からの観光客にとっては、北陸と山陰は同じロケーションで、金沢に行けばノドグロが食えると思われたに違いない。当時、知人らと「あのアカムツがノドグロに化けて、えらい人気やな」と笑っていた。ところが、値段も高騰して、いつの間にか「超高級魚」の様相になって、笑えなくなった。ちなみに金沢の居酒屋で焼き物一匹は4000円ほどだ。「錦織以前」は確か600円ほどだったと記憶している。

  話が逸れた。さらに漁協の荷捌き場に入ると、ズワイガニのメスの香箱ガニが発砲スチロールの箱に段積みになっていた=写真・中=。これを見て、いよいよ「かに面」の季節だと心が騒いだ。かに面は、これも有名な「金沢おでん」の季節限定のメニューだ。香箱ガニの身と内子、外子などを一度甲羅から外して詰め直したものを蒸し上げておでんのだし汁で味付けするという、かなり手の込んだもの=写真・下=。香箱ガニの漁期は資源保護政策で11月6日から12月29日までと限られている。なので、金沢のおでん屋でかに面を食することができる期間は2ヵ月ほど。期限が限定されたメニューとあって、この時季には金沢おでんの店には行列ができる。これがすっかり金沢の繁華街の季節の風物詩になっている。

  香箱ガニの話に集中したが、オスの加能ガニも人気だ。地元メディア各社の報道(15日付)によると、加能ガニの中でも重さ1.5㌔以上、甲羅幅14.5㌢など基準をクリアしたものは「輝(かがやき)」の最高級ブランド名が与えられ、きのう今季初めて1匹が認定され、金沢港かなざわ総合市場での競りで18万円の値がついた。メスの香箱ガニの最高級ブランド名は「輝姫」でこれは4万円。能登の漁業の再起に向けた第一歩となってほしいと願う。

⇒16日(土)夜・金沢の天気    くもり

★「初物七十五日」ズワイガニとワインの寡黙なひととき

★「初物七十五日」ズワイガニとワインの寡黙なひととき

  北陸の冬の味覚の主役、ズワイガニがスーパーの店頭をにぎやかに彩っている=写真・上=。石川県沖は今月6日に解禁されたものの、海のシケで2日間休漁を余儀なくされ、8日から漁が始まった。店頭ではオスの「加能ガニ」、メスの「香箱ガニ」が並んでいる。値札を見ると、手ごろな香箱ガニは800円なので、価格は平年並みのようだ。カニの季節の始まりだ。

 「初物七十五日」という言葉がある。旬の時期に出回り始めた初物を食べると寿命が「七十五日」延びるという意味。 四季に恵まれた日本ならではの季節感で、それほど旬の食材を大切にしてきたということだろう。先日(8日)獲れたての香箱ガニとオーストラリア産ワインを楽しむ会が金沢であり、参加した。  

  これまで、「カニには地酒が合う」と思っていた。能登のカニには能登の地酒が、加賀のカニには加賀の地酒が合うと自身は勝手に思い込んでいる。ぴっちりと締まったカニの身には少々辛口が、カニ味噌(内臓)には風味のある地酒がしっくりなじむ。その自らのイメージがひっくり返ったのが今回のワイン会だった。ワイングラスで食するとなかなかおつな味がする=写真・下=。中でも、ウチコとミソにはロゼがぴったり合う。ロゼの甘味とカニの甘味が溶け合うように口の中で絡まる。カニの身を食べ、最後に甲羅にロゼを入れて飲む。日本酒とはまったく異なる絶妙な風味が口の中に広がる。参加者は寡黙になり味わいを楽しんでいた。カニと日本酒は合う、そしてワインも合うと実感して気分が高揚した。寿命が「七十五日」延びた気分にもなった。 

  ところで、ズワイガニはこの時節の食材で、北陸に住む人は食べ方を自ら体得する。一匹丸ごとのカニを食するのは簡単ではない。脚を関節近くで折り、身を吸う。その音はパキパキ、ズーズー、その食べる姿はまるでカニとの格闘だ。食べ出したら寡黙となり、手と口が休むことがない。カニ食い選手権大会のような真剣勝負となる。

  ズワイガニは乱獲で漁獲量が減り、石川県から島根県の漁業者らが昭和39年(1964)に「日本海ズワイガニ採捕に関する協定」を結び、漁期や漁獲量を取り決めた。そのころから、ズワイガニは高嶺の花となった。カニの話は尽きない。

⇒10日(日)夜・金沢の天気    はれ

★待ってたズワイガニ初物 「蟹-1グランプリ」300万円

★待ってたズワイガニ初物 「蟹-1グランプリ」300万円

   今月6日にズワイガニ漁が解禁だったが、海が大しけで漁獲は遅れて8日から始まり、きのう9日夜に金沢港などで初競りが行われた。この初競りは毎年ニュースになる。各漁船が選んだカニの最高価格を競う「蟹-1(かにわん)グランプリ」では、重さ1.52㌔、甲羅幅15.9㌢の雄の「加能ガニ」が最高級ブランド「輝(かがやき)」に選ばれ、300万円で競り落とされた。雌の「香箱ガニ」の最高級ブランド「輝姫(かがやきひめ)」は甲羅幅9.9㌢のものが7万円で落札された。きょうも朝から地元のテレビ・新聞メディアは、ようやく訪れたズワイガニの話題で盛り上がっている。

   きょう午前中、金沢の台所でもある近江町市場に行ってきた。ズワイガニの初物が並ぶとあって、鮮魚店の店先では店員の威勢のよいかけ声が響いていた。店先をいくつか回って値札を見る。加能ガニはサイズによって1杯2000円から2万7000円が相場=写真・上=、香箱ガニは1杯800円から3500円ほどだ。去年も初物を見に行ったが、去年並みの価格だろうか。

   店先に並んでいるものでもっとも高かったのは、重さ1.42㌔、甲羅幅14.9㌢の加能ガニで7万5000円=写真・下=。グランプリに輝いたものに比べ、サイズ的に重さで100㌘、甲羅幅で1㌢それぞれ足りない。それで、300万円と7万5000円の価格差になるとは、ズワイガニの世界もなかなか厳しいものがある。とは言え、きょうは初物なので、買い手も売り手も気持ちが盛り上がっていて高値だが、あすから徐々に値下がりして庶民価格に落ち着いていく。それが「カニ相場」というものだ。

   鮮魚売り場の一角で人だかりができていた。「この場で食べれます」「すぐ食べられます」との看板が掛かっている。香箱ガニの身をほどいて甲羅にまとめて入れた「カニ面」や、生ガキがこの場で食べることができる。鮮魚店の店頭での立ち食いなのだが、鮮度の高いカニやカキ、エビなどが食べられる=写真・下=。ちなみに、品代はカニ面が高いもので1個1800円、生ガキ1個1000円だ。市場の雰囲気がモチベーションを高めるのか、隣にいた数人の男性グループは「サイコー」「サイコー」と言い合いながら、次々注文していた。

⇒10日(金)夜・金沢の天気   あめ

☆あと1週間、「かに面」の季節がやって来る

☆あと1週間、「かに面」の季節がやって来る

   今月26日付のこのコラムで「どぶろく」の話題をテーマにした。すると、読んでくれている関西に住む友人から、「どぶろく飲んで、かに面が食いたい」とメールが来た。「12月に金沢に行くのでよろしく」と。いつも冷静な書き方の文章家ではあるが、妙にそわそわした文体だ。無類のカニ好きなので、北陸のカニの解禁日を控えて心が踊っているのかもしれない。

   立冬が近づく11月6日は北陸など日本側のカニ漁の解禁日となる。地元石川では雄のズワイガニを「加能ガニ」と、雌を「香箱(こうばこ)ガニ」と称して、季節の地域ブランドのシンボルにもなっている。「加能」は加賀と能登の意味。山陰地方の「松葉ガニ」、福井県の「越前ガニ」の向こうを張った名称ではある。

   友人が「食いたい」と言っている「かに面」は、カニの解禁と同時に、これも季節の味となる「金沢おでん」の逸品だ。香箱ガニの身と内子、外子などを一度甲羅から外して詰め直したものを蒸し上げておでんのだし汁で味付けするという、かなり手の込んだものだ。

   そして、友人が「12月に金沢に行く」と言っているのも訳がある。香箱ガニの漁期は資源保護政策で11月6日から12月29日に限られている。なので、金沢のおでん屋でかに面を食することができる期間は2ヵ月ほど。期限が限定された人気メニューとあって、この時季にはおでんの店に行列ができる。これがすっかり金沢の繁華街の季節の風物詩になっている。

   季節のカニをどぶろくを飲みながら食すというのは、なかなか意気な食し方かもしれない。どぶろくは、蒸した酒米に麹(こうじ)、水を混ぜ、熟成するのを待つ。ろ過はしないため白く濁り、「濁り酒」とも呼ばれる。ぴっちりと締まったかに面の身を、とろりとしたどぶろくを飲みながら食する。甲羅の外を覆うカニ足を、そして外子(卵)、びっしりと詰まった内子(未成熟卵)を。満足度が高い。

   友と語り合いながら、どぶろくとカニを味わう。至福のシーズンがあと1週間ほどで到来する。月曜の朝から酒飲みの話になってしまった。

⇒30日(月)朝・金沢の天気   くもり

★金沢人の「おでん」好き その季節がやってきた

★金沢人の「おでん」好き その季節がやってきた

   きょうの金沢は晴れ間が広がり、昼過ぎには25度以上の夏日となったが、夕方になるとずいぶんと涼しくなってきた。この時節に友人たちと話していて何かと話題に上るのが、「おでん」だ。「そろそろ、源助だいこんやガンモの季節だね」とか、「ことしは、かに面が食えるかな」などと。そして、家庭の食卓にガンモドキなどおでんが出るようになるのがこの季節だ=写真・上=。

   金沢人のおでん好きは、「金沢おでん」の言葉もあるくらいだ。季節が深まるとさらにおでん好きが高じる。「かに面」だ。かに面は雌の香箱ガニの身と内子、外子などを一度甲羅から外して詰め直したものを蒸し上げておでんのだし汁で味付けするという、かなり手の込んだものだ=写真・下=。季節限定の味でもある。資源保護のため香箱ガニの漁期が毎年11月6日から12月29日までと設定されている。

   漁期が限定されているため、価格が跳ね上がっている。なにしろ、金沢のおでん屋に入ると、品書きにはこれだけが値段が記されておらず、「時価」としている店が多い。香箱ガニの大きさや、日々の仕入れ値で値段が異なるのだろう。去年1月におでん屋で食したかに面は2800円だった。それまで何度か同じ店に入ったことがあるが、数年前に比べ1000円ほどアップしていた。   

   値段が急騰したのは2015年3月の北陸新幹線の金沢開業のころだった。金沢おでんが観光客の評判を呼び、季節メニューのかに面は人気の的となり、おでんの店には行列ができるようになった。極端に言えば、「オーバーツーリズム」だ。

   この現象で戸惑っているのは金沢人だけではない。能登や加賀もだ。金沢おでんが観光客の評判を呼び、季節メニューのかに面は人気の的となった。すると水揚げされた香箱ガニは高値で売れる金沢に集中するようになる。それまで能登や加賀で水揚げされたものは地元で消費されていたが、かに面ブームで金沢に直送されるようになった。

   かに面をめぐるぼやきを上げればきりがない。季節に一度食することができるかどうか。できれば幸せ、それだけのことだ。

⇒4日(水)夜・金沢の天気    くもり時々あめ  

★「納豆カレー」と「香箱がにパスタ」の食感のこと

★「納豆カレー」と「香箱がにパスタ」の食感のこと

   東京の知人から、「金沢には納豆カレーがありますか」と尋ねられ、「えっ、初めて聞いた」と返事すると、「東京では結構はまっている人もいますよ。人気です」と。聞けば、カレーに納豆をトッピングした変わり種メニューのようだ。この手の話を一度聞くと頭に残るタイプなので、さっそく試してみた。

   カレーは能登牛を入れた能登牛カレー。牛の食味を引き立てるため、辛さは普通で控えめ。ごはんは加賀産コシヒカリで、その上に能登牛カレーをかけた。能登と加賀の郷土料理のような雰囲気だ。さらに、トッピングで乗せたのは『そらなっとう』だ=写真・上=。

   金沢の納豆製造会社がつくる、この『そらなっとう』にはちょっとしたストーリーがある。金沢大学のある研究者が、春になると黄砂といっしょにやってくる微生物「黄砂バイオエアロゾル」を研究していた。その中に、食品発酵に関連する微生物が多いこと気づき、大気中で採取した何種類かのバチルス菌で納豆をつくってみた。その何種類かのバチルス菌でつくった納豆の試食会に自身も参加したことがある。2010年12月のことだ。その中で、能登半島の上空で採取した「Si38株」というバチルス菌の納豆は独特のにおいも少なく、豆の風味もあり好評だった。その後、『そらなっとう』として商品化された=写真・中=。JALの機内食にも採用されたことで一躍知られるようになった。

   能登牛カレーとこの納豆の「納豆カレー」を食べてみる。すると、納豆がカレーの風味を邪魔しない。逆に、カレーが納豆の味を包み込まない。お互いが共存しながら、口の中で混ざり合う。なんとも不思議な食感なのだ。納豆好きな人、カレー好きの人がそれぞれ納得して食べることができる。初めて知った食感だった。

   ついでに食感の話題をもう一つ。金沢のイタリンア料理の店に入って初めて、「香箱がにパスタ」というメニューを見た。通常のパスタに比べ1200円も高い。思い切って注文する。クリームパスタに北陸の海などで獲れる香箱ガニ(ズワイガニの雌)の身をトッピングしたものだ。とくに、香箱ガニの外子(卵)と甲羅の中にある内子(未熟成卵)、そしてカニみそ(内臓)がパスタ全体の食感を高める。それに白ワインを注文する。深く趣きのある味わいだった。

   後日、近くのスーパーで香箱ガニを2パック、クリームパスタを買い、自宅で香箱がにパスタをぜいたくにつくってみた=写真・下=。ワインはオーストラリア産の「PET NAT」。自然派のス-クリングだ。パスタ、香箱ガニ、そしてワインのそれぞれの風味が口の中でコンサートを奏でているような楽しい味わいなのだ。ただ、香箱ガニの漁期(11月6日-12月29日)はすでに終わっていて、食べられる時期は限られている。地元産、そして季節限定の食の楽しみの中に、しっとり感、揺さぶり感、日常の幸福感がある。

   ちなみに、聴こえてきた口の中のコンサートはヴィヴァルディ作曲の『四季』「冬」の第一楽章だろうか。たかが「納豆カレー」と「香箱がにパスタ」で、話が長くなってしまった。

⇒11日(水)午前・金沢の天気   

☆「ノドグロ」と「かに面」の話 ~下

☆「ノドグロ」と「かに面」の話 ~下

   この時季、庶民の味から遠ざかっているのはノドグロだけではない。「かに面」も、だ。かに面は雌の香箱ガニの身と内子、外子などを一度甲羅から外して詰め直したものを蒸し上げておでんのだし汁で味付けするという、かなり手の込んだものだ=写真=。もともと金沢の季節限定の味でもある。

   それが、このところ価格が跳ね上がっている。なにしろ、金沢のおでん屋に入ると、品書きにはこれだけが値段記されておらず、「時価」とある。香箱ガニの大きさや、日々の仕入れ値で値段が異なるのだろう。今季はまだおでん屋で食べてはいなが、ことし1月におでん屋で食したかに面は2800円だった。それまで何度か同じ店に入ったことがあるが、数年前に比べ1000円ほどアップしていた。

   資源保護政策で香箱ガニの漁期は11月6日から12月29日に短縮された。そこで、値段は徐々に上がってはいたものの、それが急騰したのは2015年3月の北陸新幹線の金沢開業だった。金沢おでんが観光客の評判を呼び、季節メニューのかに面は人気の的となり、おでんの店には行列ができるようになった。

   ノドグロにしてもかに面にしても値段が急騰した背景の一つには北陸新幹線の金沢開業がある。極端に言えば、「オーバーツーリズム」なのかもしれない。この現象で戸惑っているのは金沢の人たちだけではない。能登や加賀もだ。金沢おでんが観光客の評判を呼び、季節メニューのかに面は人気の的となった。すると水揚げされた香箱ガニは高値で売れる金沢に集中するようになる。それまで能登や加賀で水揚げされたものは地元で消費されていたが、かに面ブームで金沢に直送されるようになった。

   食べる話ばかりしてきたが、問題は資源管理だ。富山県以西から島根県の海域にかけて、2007年には5000㌧だった漁獲量が2020年には2700㌧に減っている(水産研究・教育機構「令和2年度ズワイガニ日本海系群 A 海域の資源評価」)。今季は幸いなことに、2013年度から始まった卵を産む雌ガニの漁期を短縮が奏功して、漁獲量が増えているようだ。しかし、持続可能に資源量を回復させるには、さらに雌の漁獲をさらに制限することも想定される。はやい話が「かに面ストップ」ができるか、どうか。

⇒30日(水)夜・金沢の天気     あめ

★どぶろくを飲み、カニを味わう 「時代食感」の楽しみ

★どぶろくを飲み、カニを味わう 「時代食感」の楽しみ

   庶民にとってカニの季節が訪れた。きのう午後、近くのスーパーに行くと、地元産のズワイガニがずらりと並んでいた。雄のズワイガニ(加能ガニ)はゆでたものをカットしたもので大パックで5800円、中パックで3800円の値段だった。今月6日に漁が解禁となり、上旬はご祝儀相場もあり、大パックは9000円ほどだったが、下旬に入って5000円台に。雌の香箱(こうばこ)ガニは大きめのもので1500円ほどだったが、いまは800から900円ほどで値が落ち着いている。今季で香箱ガニは2、3度食したが、今回は思い切って加能ガニに手を伸ばした。

   例年、カニは地酒の辛口吟醸酒で味わう。今回はちょっと趣向を変えて、能登産の「どぶろく」で味わうことにした。能登半島の中ほどに位置する中能登町には、連綿とどぶろくを造り続けている神社が3社ある。五穀豊穣を祈願するに供えるお神酒で、お下がりとして氏子に振る舞われる。同町ではこの伝統を活かして2014年に「どぶろく特区」の認定を受け、いまでは農家レストランなど営む農業者が税務署の製造免許を得て醸造している。

   蒸した酒米に麹(こうじ)、水を混ぜ、熟成するのを待つ。ろ過はしないため白く濁り、「濁り酒」とも呼ばれる。もともと、どぶろくは各家々で造る庶民の味だった。明治政府は国家財源の柱の一つとして酒造税を定め、日清や日露といった戦争のたびに増税を繰り返し、並行してどぶろくの自家醸造を禁止した。

   そして、ズワイガニもかつては庶民も味だった。能登半島で生まれた自身の記憶だが、子どものころにコウバコガニをおやつ代わりに食べ、カニ足をパキパキと折って身を吸い出して食べる「カニ食い競争」に興じたものだ。そのころ、乱獲などで漁獲量が減り、石川県から島根県の漁業者らが昭和39年(1964)に「日本海ズワイガニ採捕に関する協定」を結び、漁期や漁獲量を取り決めた。そのころから、カニは高嶺の花となっていく。

   今回ふと、いにしえの人々のように、どぶろくを飲みながらカニを食べるとどのような風味になるのだろうかと思い立った。そこで、中能登町へ行き、本場のどぶろくを手に入れ、今季初の加能ガニに挑んだ。ぴっちりと締まったカニの身を、とろりとしたどぶろくが包み込むような食感で、実にのど越しがいい。さらに、カニみそ(内臓)としっくりなじみ、満足度が高い。どぶろくとカニを味わっていた昔の人々と時代を超えて食感が共有できたひと時でもあった。

⇒27日(日)午後・金沢の天気    はれ

★「かに丼」と「かに面」 オーバーツーリズムの相関関係

★「かに丼」と「かに面」 オーバーツーリズムの相関関係

   北陸の冬の味覚はカニに勝るものはない。きょう能登半島の尖端の珠洲市で評判の「かに丼」があると聞いて、会合の帰りに店に立ち寄った。かに丼というのは初めてだった。この店は10数年前から季節メニューとして出している。注文すると、ご飯と海藻の入った丼の上にズワイガニの雌の香箱ガニの甲羅が2つ乗って出てきた=写真・上=。

   机の上には「かに丼の召し上がり方」というマニュアルがあった。それを見ながら、甲羅から身と外子(卵)、内子(未成熟の卵)をかき出す。2つ分の甲羅からの分量はけっこう多く、丼の表面がカニの身でいっぱいになった。それをご飯とかき合わせる。ワサビを入れた皿があり、しょうゆを少々注ぐ。わさび醤油を丼にかける。

   さっそく食べる。これまで、丼の上にブリやイカ、カニの身が乗っている海鮮丼は能登で何度か食べたことがある。香箱ガニだけの丼となると贅沢な気持ちになる。細く刻んだ海藻、そしてご飯は少々酸味がつけてあり、これがカニの身と合う。さらに、わさび醤油がアクセントとなって、カニのうまみを引き立てる。勘定は税込みで2750円。満足感が勝り、高いとは思わなかった。

   カニの話をもう一つ。先日、金沢のおでん屋に入った。「かに面」を注文した=写真・下=。このかに面は香箱ガニの身と内子、外子などを一度甲羅から外して詰め直したものを蒸し上げておでんのだし汁で味付けするという、かなり手の込んだものだ。この店のだし汁は昭和30年代の創業以来ずっと注ぎ足しながら今にいたるものなので、半端な味ではない。カニの身とおでんのだし汁がミックスして独特の食感がある。

   金沢のおでんの中ではかに面は季節限定の高級品だ。品書きにはこれだけが値段記されておらず、「時価」とある。香箱ガニの大きさや、日々の仕入れ値で値段が異なるのだろう。勘定をしてもらうと、2800円だった。これまで何度かこの店に来たことはあるが、数年前に来た時よりも1000円ほどアップしていた。

   金沢や能登では香箱ガニは庶民の味だったのだが、最近は高級品となっている。その原因の一つは資源保護のため香箱ガニの漁期が毎年11月6日から12月29日までと設定されていることだ。冒頭の能登の店でも漁期に買い求めたものを冷凍で保存し、漁期外は冷凍ものを出していると、店のマスターが話してくれた。店では10数年前にメニューとして初めて出したときは1280円だった。「むしろ値段が上がったのは金沢のかに面のせいなんです」と少々渋い顔で話してくれた。

   資源保護の政策で香箱ガニの値段は徐々に上がってはいたものの、それが急騰したのは北陸新幹線の金沢開業(2015年)以降だったという。金沢おでんが観光客の評判を呼び、季節メニューのかに面は人気の的となり、おでんの店には行列ができるようになった。すると水揚げされた香箱ガニは高値で売れる金沢に集中するようになる。それまで能登で水揚げされたものは地元で消費されていたが、かに面ブームで金沢に直送されるようになった。この店がかに丼を値上げせざるを得なくなったのもこのころからだったという。香箱ガニの地元素通りと値段高騰。能登の「かに丼」と金沢の「かに面」の値段の相関関係がオーバーツーリズムから見えてくる。

⇒7日(金)夜・金沢の天気  

☆カニの季節へ「Go To」

☆カニの季節へ「Go To」

   あと1ヵ月もすればカニの季節だ。毎年のことながら、そわそわする。11月6日午前0時で日本海側でズワイガニ漁が解禁される。香箱(こうばこ)ガニと呼ばれるメスは12月29日まで、オスは来年3月20日までの漁期だ。北陸人は、初日は高値がするので買い控え、1週間ほどして値が落ち着いてきたことから初物を味わう。この時季、スーパーマーケットの魚介類の売り場に行くと、同じ思いの人たちが大勢いて、茹でガニのコーナーをじっとのぞき込む人々の姿が一つの風物詩のようでもある。

   先日、東京に住む知人が、「山手線の駅で北陸のカニの解禁がポスターが貼られているよ」とメールで画像を送ってくれた。かなり凝ったデザインだ。「本当は、こっちか会いに行きたいくらい。」とチャッチコピーで、ズワイガニが北陸新幹線に乗っかっている図柄=写真・上=。新幹線に乗って北陸にカニを食べに来てね、という単純なデザインなのだが、カニを新幹線に乗せるという発想が面白い。逆にもう一つの図柄は、パソコンとカニを組み合わせた意外性もあるが、「このおいしさは、オインラインじゃ伝わらない。」のキャッチコピーがむしろ心に響く=写真・下=。

   これらのポスターはひょっとして、東京のカニ愛好家の心を揺さぶり、コロナ禍で冷え込んだ経済対策として、政府が打ち出している「Go To Travel」とマッチするかもしれない。旅行会社のサイトをのぞくと、1泊5万円近くのカニのフルコース付プランなどが続々と出ている。 何度か宿泊したことのがある能登半島の和倉温泉の旅館のサイトをチェックすると、カニのフルコース付で1泊2名で8万3600円(税込9万1960円)だが、「Go To クーポン35%+ポイント5%で3万2595円引、地域共通クーポン1万2000円分も使えてさらに安く」とキャンペーンをはっている。このプランは人気なのだろう、来年1月いっぱいまで予約でほぼ埋まっている。

   「カニには地酒が合う」と言われる。能登のズイワガニには能登の地酒がマリアージュ(料理と酒の相性)と自身も勝手に思い込んでいる。ぴっちりと締まったカニの身には少々辛口が、カニ味噌(内臓)には風味のある地酒がしっくりなじむ。至福の季節が待ち遠しい。

⇒5日(月)午前・金沢の天気    あめ時々くもり