#香港国家安全維持法

☆香港を覆う「ブラック・レインストーム」

☆香港を覆う「ブラック・レインストーム」

          中国政府への批判を続けてきた香港の新聞「蘋果日報(アップル・デイリー)」が今月24日付を最後に発行停止に追い込まれ、紙面の主筆や中国問題を担当する論説委員も逮捕されたと報じられている(6月27日付・メディア各社)。香港国家安全維持法(国安法)違反の容疑だ。香港で反政府的な動きを取り締まる国安法が2020年6月30日に施行されて1年となる。香港政府とバックの中国政府の狙いは何か。

   国安法では、裁判は陪審員なしで秘密裏に行われ、裁判は中国政府の当局に引き継がれる。中国政府の治安要員は、免責されたまま香港で合法的に活動することができる。中国政府には、この法律は民主化運動で揺らいだ領土の安定を取り戻し、本土との整合性を高めるとの狙いがあるようだ。

   最初に適用されたのは昨年7月。香港で国安法に抗議する民衆デモで370人が逮捕され、うち10人が「香港独立」の旗を所持していたとして国安法違反の適用となった(2020年7月2日付・共同通信Web版)。その後、国安法をタテに政治活動や言論への締めつけが強まる。この法律が導入された後、多くの民主化運動グループが安全性を恐れて解散。自由で寛容な国際都市と言われてきた香港の姿が一変した。

   蘋果日報が狙い撃ちされたのは昨年8月だった。創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏が国安法と詐欺の容疑で逮捕された後、保釈された。12月に詐欺罪での初公判が開かれ、保釈申請は却下、即日収監された(同12月3日付・読売新聞WEB版)。では、詐欺罪はどのような内容だったのか。蘋果日報を発行する「壱伝媒」の本社がある不動産の貸借契約に反し、黎氏が別会社に一部を提供して不正に利益を得たとして詐欺罪に問われた(同)。つまり、「また貸し」が詐欺として罪に問われたというのだ。日本では民事のような案件だが、香港では刑事事件として問い、収監におよぶところに政治的なむき出しが見て取れる。

   蘋果日報への狙い撃ちは「見せしめ」の狙いもあるだろう。報道機関への弾圧に他の新聞・テレビも当初は強い怒りを感じただろう。しかし、そのメディアの義憤は次第に無力感へと変質しているに違いない。また、香港市民や企業も取材相手として関わることを恐れ、敬遠するようになっていたのではないだろうか。

   きょうのイギリスBBCWeb版(6月28日付)は「Black rainstorm’ warning suspends Hong Kong trading」の見出しで、香港では暴風雨警報が発令され、雨量は70㍉以上の「黒い暴風雨」が予想されると報じている=写真=。このため、香港の証券市場とデリバティブ市場の取引が中止された。また、安全上の懸念から、学校の授業やワクチン接種も中断されている。痛ましいばかりの「ブラック・レインストーム」が香港を覆う。

⇒28日(月)午前・金沢の天気   くもり時々はれ

☆ビジョンなき駆け引き、政治は「お花畑」か

☆ビジョンなき駆け引き、政治は「お花畑」か

   今月10日のブログで取り上げた読売新聞の世論調査(8月7-9日調査)でもう一つ気になるのが政党支持率だ。自民33%(前回32%)、立憲民主5%(同5%)、国民民主1%(同1%)、公明2%(同4%)、共産3%(同2%)、日本維新3%(同4%)となっている。いまこの立憲民主と国民民主の合流の流れが時折ニュースとなっている。   

   国民民主の玉木代表は11日、記者会見し「合流すべきだという人と、合流すべきでないという人がいたので、分党するしかないという結論に至った」と述べ、党をわける「分党」を行い、みずからは合流には参加しない意向を示した(8月12日付・NHKニュースWeb版)。立憲民主党からは、「無理に一緒になっても、混乱のもとになるだけで、一番いい結果だ」と歓迎する声が出ている(同)。

   首をかしげる、「これは政治のニュースだろうか」と。確かに衆院解散と総選挙はもうそろそろと読めば、野党の合流は与党との対決姿勢を鮮明にすることで、有権者の支持獲得の流れをつくることにもなる。それには、次なる時代を感じさせるビジョンとリーダーシップを執る「顔」が必要だろう。ところが、このニュースで知る限りでビジョンも顔も見えない。

   そもそも国民民主の「分党」って何だ。立憲民主と合流することに「好き」「嫌い」があり、それを基準に分党して、好きな人はどうぞ立憲民主へ、嫌いな人は国民民主に残るとうスタンスなのか。そうではないだろう。政治家一人ひとりが自らの立場を表明し、合流に参加する議員としない議員が徹底的に公開討論会をやるべきだろう。そこで合流する理由とできない理由がはっきりすれば、有権者は納得する。このままでは、「好き」「嫌い」で政治の流れがつくられているとしか思えない。まるで、お花畑の政治のようだ。

   立憲民主と国民民主がいまの政治の流れを変えたいのであれば、香港で国家安全維持法に違反したとして民主活動家や新聞創業者らが逮捕、その後に保釈された事件に対して、「香港の民主主義を守れ。政治弾圧を許すな」とその立場を表明すべきだろう。いまの日本に蔓延する政治的な空気は、「香港で起きている事態を黙って見過ごすことが、隣国でもある民主主義国家の有り様なのだろうか」という、ある種の苛立ちや閉塞感ではないだろうか。

   支持率33%の自民でできないことを本筋でやる、それが次の政権に期待感を抱かせる野党の有り様ではないだろうか。今回の香港での逮捕事件をめぐっては、アメリカなど欧米各国の政治家がSNS上で中国政府を強く非難する声を上げている。枝野も玉木も党首としてこの事件に徹底して関わる姿勢を見せれば、政治家としての株は上がる。

(※写真は、香港の民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏の逮捕を伝える12日付・CNNニュースWeb版。家族と国を救うために戦った伝説の中国のヒロインが登場するディズニー映画『Mulan(ムーラン)』と重なり、最近彼女はそう呼ばれている)

⇒12日(水)夜・金沢の天気    あめ

☆ソ連崩壊から29年、米中対立の新展開

☆ソ連崩壊から29年、米中対立の新展開

   1991年にソビエト連邦の崩壊のドラマをメディアを通して見ることができた。8月に当時のゴルバチョフ大統領側近がクーデタを起し、民衆の反撃で失敗。これでソ連共産党の活動が全面禁止となり、共産党は事実上解体となる。12月にゴルバチョフ大統領が辞し、ソ連を構成していた各共和国が主権国家として独立した。中学の歴史教科書にも出ていた、1917年のロシア革命で成立したソ連の崩壊だった。

   では、アメリカはどう見ていたのだろうか。「自由、民主、資本主義」の権化であるアメリカの為政者も国民もマルクス・レーニン主義は必ず崩壊する、中国共産党も時間の問題だと思っていたのではないだろうか。当時の鄧小平が改革開放を進めれば、社会主義市場経済はそのうち資本主義へと変化するだろう、と。

   しかし、中国経済は「世界の工場」と呼ばれるまでに成長し、2001年にはWTOに加盟、2010年にはGDPで日本を追い抜いて世界第2位となる。さらに、製造大国としてだけではなく、巨大な消費市場としての役割を担うまでになる。その一方で、現在でも、共産党や政府の機関に勤める党員に対し、家族を含むプライベートの時間に習近平総書記の地位をおとしめる悪口や、批判的なウェブサイトの閲覧を禁じている(6月26日付・共同通信Web版)。香港では国家安全維持法に抗議する民衆デモで370人が逮捕され、うち10人に「香港独立」の旗を所持していたとして国安法違反が初めて適用された(7月2日付・同)。

   この状況をアメリカはどう読んでいるのか。トランプ大統領の対中国戦略はディール(取引)だ。貿易相手国に脅しをちらつかせ、交渉で譲歩を迫る。ところが、「自由、民主」といった旗印がこれまで見えなかった。国内では、黒人男性が首を押さえられて死亡した事件で全米で抗議デモが相次いでいる。

   けさのニュースで、アメリカ下院は1日、香港の自治抑圧に関与した高官や組織、金融機関に対し、アメリカ政府が制裁を科すことを定めた香港自治法案を全会一致で可決した。ポンペオ国務長官は記者会見で、同盟・友好国を念頭に対中包囲網の形成を急ぐ方針を示した。1997年の香港返還後も中国本土より優遇してきた措置の廃止を進める考えを改めて強調した(7月2日付・共同通信)。

   11月のアメリカ大統領選挙をにらんでの対中制裁法案であることは間違いない。アメリカと中国の全面対決が明確になってきた。中国はその包囲網の切り崩しに全力でかかるだろう。ソ連崩壊から29年、マルクス・レーニン主義と自由・民主・資本主義との対立が再現するのか、目が離せない。そして、日本は。

⇒2日(木)午前・金沢の天気    くもり時々あめ