#首都圏

☆「不幸を待つ」ような報道の倫理について

☆「不幸を待つ」ような報道の倫理について

   首都圏では6日に4年ぶりに10㌢ほどの雪が積もり、7日朝には氷点下3.5度の冷え込みで路面が凍結し、車のスタック(立ち往生)や玉突き事故が相次いだと新聞・テレビメディアが報じていた。テレビを視聴していると、人々が道路などで転倒する映像シーンが全国ニュースで繰り返し放送されていた。転倒によるケガで7日午前中だけで500人余りが病院に搬送されたというから驚きだった。

   ニュースを見ていて違和感も持った。ノーマルタイヤの乗用車やバス、トラックが凍結した路面を走行すれば必ずスリップ事故が多発する。関東や首都圏でスタッドレスタイヤに冬備えする個人や会社は少数だろう。路面凍結が予想された段階で首都高速道路などをなぜ封鎖しなかったのだろうか。そして、映像的に違和感があったのは、人が転倒するシーンだった。あるテレビ局の映像は都内の同じ場所で人々が靴を滑らせて一人また一人と転ぶシーンだった。確かに衝撃的な映像ではあるものの、カメラマンが同じポイントで時間をかけて次々と人が転ぶのを待っていたということだろう。カメラマンの目の前で起きたことではあるが、転倒を待っていたとなれば報道の倫理上の問題はないのだろうか。  

   この違和感は実際の報道カメラマンたちのシーンを思い出したからだ。2007年3月25日に能登半島地震(震度6強)があり、翌日、学生による復旧ボランティアの計画を立てるために現地を訪れた。輪島市門前町は全半壊の街となっていた。街の一角でテレビ局のカメラマンたち3組ほどが半壊の家屋が壊れるシーンを撮影しようとスタンバイしていた=写真=。余震で揺れるたびにカメラを構えていた。「でかいのがこないかな」という言葉が聞こえた。「でかいの」とは大きな余震のこと。余震で家が倒壊する瞬間を狙っていたのだ。

   確かに、報道カメラマンとすれば、大きな余震で家屋が倒壊するシーンを狙うのはプロとして当然なのだろう。しかし、「でかいのがこないかな」と倒壊を待つカメラマンたちの姿は被災地の人たちにはこのカメラマンたちの姿はどのように映っただろうか。また、餓死寸前のスーダンの少女にハゲワシが襲いかかろうとする写真〚ハゲワシと少女』。報道カメラマンのケビン・カーター氏が1993年にNYタイムズで発表し、ピューリッツァー賞を受賞した。受賞後、カーター氏が「ハゲワシがもっと翼を広げてくれれば、迫力ある写真になるのに」と話したことがきっかで、「写真を撮影する前に少女を助けるべき」と非難が殺到。その後、カーター氏は自死した。

   報道として衝撃的な画像や映像であっても、不幸な出来事を待つような撮影のプロセスが感じた視聴者は違和感を持つ。冒頭の転倒にしても、滑って転ぶのをカウントするかのような映像ははたして報道と言えるのかどうか。

⇒8日(土)午後・金沢の天気      はれ

★首都圏で震度5強、ドラマ『日本沈没』のリアル

★首都圏で震度5強、ドラマ『日本沈没』のリアル

   昨夜寝がけにスマホでニュースを見ると、「首都圏で震度5強の地震」とあり、関連ニュースを見ていると寝付けなかった。東京、群馬、埼玉、千葉、神奈川の5都県で計32人が重軽傷を負い、埼玉県草加市では建物火災があり、千葉県の富士石油袖ケ浦製油所では未明に火災が発生したと報じられている。東京都足立区では、緊急停止した日暮里・舎人ライナーの列車(6両編成)が脱輪。高架上で止まった列車から乗客100人が降り、駅員らの誘導で最寄りのまで歩いて移動した。午後10時41分の発生なので、夜中の停電でパニック状態、そして多くの人は「次は首都直下型」が頭をよぎったことは想像がつく。

   けさ気象庁公式ホームページをチェックすると、震源の深さは75㌔、地震の規模を示すマグニチュードは5.9と推定される。東京23区内で震度5強を記録したのは東日本大震災が発生した2011年3月11日以来10年ぶりとのこと。気象庁は、今後1週間ほどは最大震度5強程度の地震に注意するよう呼びかけている。

   能登半島でも先月、9月16日にマグニチュード5.1、震度5弱の地震があった。そして、29日には日本海側が震源なのに太平洋側が揺れる「異常震域」という地震があった。震源の深さは400㌔、マグニチュード6.1の地震に、北海道、青森、岩手、福島、茨城、埼玉の1道5県の太平洋側で震度3の揺れを観測した。このところの頻発する地震に不気味さを感じる。

   あさって10日から、TBS系の番組、日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』(午後9時)が始まる=写真、TBS公式ホームページより=。小松左京のSF小説『日本沈没』が原作。かつて映画で見たことがある。日本を襲う巨大地震という未曽有の事態に立ち向かう人々の姿を描くドラマではあるものの、今回首都圏を襲った震度5強という現実があるだけに、いくらドラマとは言え、視聴する気にはなれない。金沢に住んでいてもそう感じる。ましてや、首都圏の人々は恐怖心を呼び起こすことになりはしないか。リアルすぎる。

   さらに気になるのは、このドラマが30言語に字幕翻訳され、動画配信サービス「Netflix」で世界配信される。おそらく世界の人たちは現実に日本で地震が頻発していることを知れば、ドラマというより、ドキュメンタリー、あるいは現実的な未来予測というふうに思い込んで視聴するだろう。「日本沈没」というワードが独り歩きして、経済や政治、外交などさまざまなカタチで影響を与えるかもしれない。

   TBSがあさってから予定通り放送をスタートさせるのか、あるいは、首都圏だけでなく東日本大震災の被災地の人々のことを考えてしばらく延期するのか注目したい。

⇒8日(金)朝・金沢の天気      はれ