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☆対岸の火事ではない韓国「メディア法」改正案

☆対岸の火事ではない韓国「メディア法」改正案

   韓国で「言論仲裁および被害救済等に関する法律」の改正法案をめぐってメディアを巻き込んで与野党の攻防が続ている。改正法案は、新聞・テレビのマスメディアやネットニュースで、取り上げられた個人や団体側がいわゆる「フェイクニュース」として捏造・虚偽、誤報を訴え、裁判所が故意や重過失がある虚偽報道と判断すれば、報道による被害額の最大5倍まで懲罰的損害賠償を請求することができる。つまり、メディアの賠償責任を重くすることで、報道被害の救済に充てる改正法案だ。国会で3分の2以上の議席を占める与党系が今月30日にも強行採決する見通し。

   これに対し、当事者でもある韓国のメディア関連団体6団体が「共に民主党(与党)が30日に言論仲裁法改正案を強行処理するなら、違憲審判訴訟や効力停止仮処分申請などの法的措置を取る」と27日、明らかにした。また、野党・国民の力は30日の国会本会議でフィリバスター(合法的議事進行妨害)などを通じ、言論仲裁法通過を全力で阻止すると明らかにした(8月28日付・朝鮮日報Web版日本語)。

   言論仲裁法の改正法案に対して、国際ジャーナリスト連盟(IFJ、本部ブリュッセル)は公式ホームページ(8月21日付)で「South Korea: Concerns over media law amendment」との見出しで韓国政府への懸念を表明。また、韓国に拠点を置く外国メディアの組織「ソウル外信記者クラブ(SFCC)」は20日、「『フェイクニュースの被害から救済する制度が必要』との大義名分には共感するが、民主社会における基本権を制約する恐れがある」と声明を出している(8月21日付・朝鮮日報Web版日本語)。

   日本の毎日新聞は「韓国のメディア法改正案 言論統制につながる恐れ」と社説(8月29日付)を掲載している。社説では、問題点として、故意や過失の有無を判断する基準があいまいなこと。しかも、メディア側に厳しい立証責任を負わせていることを指摘している。また、賠償額の算定に当たっては、訴えられた企業の売上高なども考慮される。来年3月の大統領選を控え、政権に批判的な大手報道機関をけん制しようという意図が読み取れる、としている。

   内外のメディアから批判が起きている言論仲裁法改正案だが、火を油を注いでいるのが与党だ。共に民主党のメディア革新特別委員会のキム・ヨンミン委員長は27日、ソウルのプレスセンターで外国メディアとの懇談会を開き、メディアの故意・重過失による虚偽報道に対して損害賠償を請求できる言論仲裁法の改正案について、「外国メディアも含まれる」との認識を示した(8月27日付・ソウル聯合ニュースWeb版日本語)。

   改正案が成立すれば、日本のメディアも対岸の火事ではなくなる。いつ飛び火してくるか分からない。損害賠償を目的に、日本の新聞・テレビ、ネットによって名誉が棄損されたとの訴えが韓国で相次ぐのではないだろうか。

⇒29日(日)夜・金沢の天気      はれ   

★フェイクニュースをどう司法判断するのか

★フェイクニュースをどう司法判断するのか

   前回のブログに続き、今回も「ジャーナリスト狩り」をテーマに取り上げる。韓国の朝鮮日報Web版日本語(8月21日付)の記事は「韓国与党・共に民主党がいわゆる『言論懲罰法』と呼ばれる言論仲裁法の改正を強行採決しようとする中、各国の言論団体など海外のジャーナリストたちも批判の声を上げ始めた」と報じている。ネットでこれまで韓国の言論仲裁法については何度か読んだが、海外のジャーナリストを巻き込んで事が大きくなっている。

   この言論仲裁法は正式には「言論仲裁および被害救済等に関する法律」と呼ばれ、報道被害の救済を大義名分につくられた法律だ。今回の改正法案は、新聞・テレビのマスメディアやネットニュースで、取り上げられた個人や団体側がいわゆる「フェイクニュース」として捏造・虚偽、誤報を訴え、裁判所が故意や重過失がある虚偽報道と判断すれば、報道による被害額の最大5倍まで懲罰的損害賠償を請求することができる。つまり、メディアの賠償責任を重くすることで、報道被害の救済に充てる改正法案だ。国会で3分の2以上の議席を占める与党系が今月25日にも強行採決する見通し。

   改正法案を急ぐ理由には、韓国のネット事情もあるのではないか。「ネット大国」といわれる韓国では中小メディアが乱立し、臆測に基づくニュースが目に付く。フェイクニュースではなかったが、先の東京オリンピックでは2つの金メダルを獲得した韓国のアーチェリー選手が、短くした髪型が理由で、国内のネット上で中傷が相次いでいると報道されていた(7月30日付・日テレNEWS24Web版)。韓国ではSNSによる誹謗中傷で芸能人の自死が相次ぐなど社会問題化している。当事者に対して強烈な批判が沸き起こる社会的な風土があるのかもしれない。日本でも同様に、番組に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(2020年5月)があったように、他人事ではない。

         こうした韓国政府の言論仲裁法の改正の動きに対して、国際ジャーナリスト連盟(IFJ、本部ブリュッセル)は公式ホームページ(8月21日付)で「South Korea: Concerns over media law amendment」との見出しで韓国政府への懸念を表明している=写真=。また、朝鮮日報Web版日本語(8月21日付)によると、韓国に拠点を置く外国メディアの組織「ソウル外信記者クラブ(SFCC)」は20日、「『フェイクニュースの被害から救済する制度が必要』との大義名分には共感するが、民主社会における基本権を制約する恐れがある」と声明を出した。

   以下は持論。記事に目を通して、改正法案に矛盾点があるように思える。記事がフェイクニュースであるかどうかを判断するのは裁判所だ。先に述べたネット上の中小メディアが流した記事ならば、記事の入手方法や取材過程などについて裁判官がメディア側に尋問すれば記事の信ぴょう性を判断できるかもしれない。

   問題はマスメディアの記者、あるいはフリーランスのジャーナリストの場合だ。率直に自らの取材上のミスだったと認める良心的な記者ならば何ら問題はない。しかし、ミスを認めたくない記者の場合、そう簡単ではない。「情報源の秘匿」をタテに口をつぐむだろう。秘匿している限り、取材過程が明らかにされることはない。それを強制的に吐かせるとなれば、裁判所側が報道の自由の侵害とそしりを受けることになる。おそらく、裁判所側は状況証拠を積み上げて最終的に判断するしかない。これはそう簡単ではない。

   懲罰的損害賠償をもくろんであえて訴える人も出てくるだろう。「取材で答えたことと記事の内容が違う。名誉が棄損された、損害を被った」と。記者は「確かにそう言った」、訴えた側は「言ってない。捏造だ」と展開し、「言った・言わない」に審理は終始する。こうなると、裁判官が悩むことになる。むしろ、裁判官たちがこの改正法案を忌避しているのではないだろうか。

⇒22日(日)夜・金沢の天気    あめ時々くもり

★オリンピックを妙に盛り上げた選手たち

★オリンピックを妙に盛り上げた選手たち

          きのう閉会した東京オリンピックのことを海外メディアはどのように評価しているのだろうか。イギリスBBCのスポーツ編集長は「Tokyo Olympics : Sporting drama amid a state of emergency but how will Games be remembered?」との見出しで記事を書いている。印象の深いのは最後の下りだ。「パンデミックという事態であっても、オリンピックを否定することはできなかった。そのことに安堵した人も、失望した人もいたはずだ。そして、東京オリンピックの開催が正しかったのかどうかは、今後ずっと議論されていくだろう。しかし、不安に満ちた時代でも、スポーツ選手はこれまでと同じように、その元気な姿で我々を励ましてくれる存在であり続けた。それだけは確かなことではないだろうか」

   17日間、自身がテレビでオリンピック競技を視聴して、印象に残っているのは、番組での解説やコメントなどスタジオのバックで流れていた、桑田佳祐の『波乗りジョニー』だった。もともと、テレビCMに流れる、日本の夏を象徴する曲だった。夏のテーマソングがそのままオリンピックのテーマソングのようになり、盛り上げてくれた。

   逆説的な意味でオリンピックを盛り上げてくれたのは韓国選手団だったのかもしれない。選手団は選手村入りすると、さっそくにバルコニーに掲げた横断幕だった。豊臣秀吉の朝鮮出兵に抗した李舜臣将軍の言葉にちなんだと連想させる、「臣にはまだ5000万国民の応援と支持が残っています」とハングルで書かれていた。IOCは政治的宣伝と勧告し、横断幕は7月17日に撤去された。

   さらに韓国選手団は、選手村の食材は放射能で汚染されている可能性があるとし、独自に給食センターを設置して選手らに配給した。選手村の食材の一部が福島県から調達されたものであったことから、「放射能フリー弁当」を自国で調達すると、「復興五輪」のネガティブキャンペーンを展開した。

   世界から批判されたのは、7月23日の開会式を生中継した韓国のテレビ局だった。MBCは、ハイチの選手団が入場した際のテロップで「大統領の暗殺によって政局は霧の中」と、マーシャル諸島を選手団を紹介するテロップには「アメリカのかつての核実験場」と、ウクライナの選手が入場する際にはチェルノブイリ原発事故の画像が使われた。不適切放送として批判を浴びた(7月26日付・CNNニュースWeb版日本語)。

   メダル以外に大会をいろいろと盛り上げてくれた選手もいる。男子テニスのダニール・メドベージェフ選手(ロシア五輪委員会)は7月28日、東京の暑さの中で「オリンピックの試合中に暑さで死亡した場合、いったい誰が責任を取るのか」と審判に問いただした。世界2位ランクの選手のひと言で、国際テニス連盟は暑さ対策として、29日の第1試合の開始時間を当初予定していた午前11時からを午後3時に変更した。その29日の準々決勝で、メドベージェフ選手はスペインの選手にストレ-ト負けを喫した。ラケットを破壊し、無観客のスタンドに放り投げた(7月29日付・AFP通信Web版日本語)。何かと話題の多い選手だった。

   オリンピックを多様に盛り上げてくれた人たちだった。「そして笑って もう一度 せつない胸に波音が打ちよせる」。2024年のパリオリンピックもぜひ盛り上がってほしい。

(※写真は8日の東京オリンピック閉会式で映し出された2024年のパリ五輪の映像=NHKテレビ)

⇒9日(振休)午後・金沢の天気     はれ後くもり

★「コウモリ外交」 韓国と日本の場合

★「コウモリ外交」 韓国と日本の場合

   子どものころに読んだイソップ寓話だが、今でもいくつかの物語を覚えている。ストーリー展開が短く端的で、主人公は昆虫や動物なのでイメージとして脳裏に刻まれやすいのかもしれない。働き者のアリたちが、怠け者のキリギリスが食べ物をねだりに来たとき、「夏には歌っていたんだから、冬には踊ったらどうだ」と皮肉を込めて断る下りは、社会人になって会話として応用したこともある。そして、最近ではコウモリの話を思い出す。   

   むかしむかし、鳥の一族と獣の一族がどちらが強いかで争っていた。それ見ていた一羽のコウモリは、獣の一族が優勢になると獣たちの前に姿を現し、「私は全身に毛が生えているから、みなさんの仲間です」と言い、鳥の一族が有利になると今度は鳥たちの前に参上し、「私には羽があるから、みなさんの仲間です」と言いそれぞれの味方に付いた。その後、鳥と獣が和解したことで争いは終わり、双方に顔を出したコウモリは鳥からも獣からも嫌われるようになった。「卑怯者は二度と来るな」となじられ、居場所がなくなったコウモリはやがて暗い洞窟の中に身を潜めるようになり、夜に飛んで出て来るようになった。

   このコウモリのイソップ寓話を思い出すのは、アメリカと中国の覇権争いに対する韓国の外交の有り様が報じられるときだ。NHKニュースWeb版(5月24日付)によると、アメリカのバイデン大統領と韓国の文在寅大統領が会談し、共同声明に台湾海峡の平和と安定の維持の重要性を確認すると盛り込んだ。すると、中国外務省の報道官は「言動を慎み、火遊びをするな」と述べ、強く反発した。「火遊び」という言葉は韓国に向けて発した言葉だろう。

   アメリカと同盟関係にある韓国だが、日本とアメリカ、オーストラリア、インドが参加する非公式協議体である「Quad」(4ヵ国戦力対話)は対中国の包囲網だとして、韓国は参加を見送っている。今回の首脳会談でも、中国を刺激したくないとの配慮から、Quadに踏み込むことは避けたようだ。それでは、同盟関係を重視し対中強硬姿勢を崩さないバイデン氏は納得しない。そこで文氏は考えた。貢物を献上する「朝貢外交」だ。サムスン電子など財閥企業がアメリカに394億㌦(4兆3000億円)の投資する計画を提案した。共同声明でも、中国を名指しせずに「台湾海峡の平和と安定」と盛り込んでアメリカと中国の双方の顔を立てたつもりだった。ところが、上記のように中国から「火遊するな」と怒鳴られた。

   コウモリ外交は前政権の朴槿恵大統領のときもそうだった。アメリカと韓国の両軍が2016年7月に地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の配備を決定し、2017年3月に韓国に発射台やレーダーが運び込まれたものの、韓国政府は配備に躊躇した。中国が高性能レーダーで自国内のミサイル基地まで監視されると強く反対していたからだ。その年の5月に大統領就任した文在寅氏も配備に慎重な立場だった。7月に北朝鮮が射程範囲1万㌔余りにおよぶICBMを発射した。すると、今度は配備を急ぎ、THAADの本格運用が始まったのはその年の9月だった。

   では、日本のコウモリ外交はどうか。中国の習近平国家主席を国賓として2020年4月に招請する予定だったが新型コロナウイルスのパンデミックで延期となっている。2019年6月、大阪での「G20 サミット」に出席のため訪れた習氏に当時の安倍総理が国賓としての再来日を招請したものだった。その後、中国は香港国家安全維持法による民主主義の封じ込めや、日本に対しても尖閣諸島周辺での領海侵犯を執拗に続けている。招請した安倍氏は退陣したが、その後、「中止」という言葉が出てこない。もし、コロナ禍が治まり、習氏を国賓として招請すれば、日本のコウモリ外交は韓国より国際的に有名になるかもしれない。(※写真は韓国政府公式ホームページより)

⇒25日(火)夜・金沢の天気      くもり

☆信なくば立たず

☆信なくば立たず

   韓国のメディアでは「国民情緒法」という言葉で、国民の気持ちをくんだ司法判断を揶揄することがある。私見だが、これも「国民情緒法」ではないだろうか。韓国人の元朝鮮女子勤労挺身隊員による韓国での訴訟で、勝訴が確定した原告が裁判所に申請した被告の三菱重工業の資産売却を巡り、韓国中部の大田地裁が売却命令を出すかどうかを11月10日以降に検討する見通しであることが分かった(10月29日付・共同通信Web版)。

   同地裁が9月7日に、売却について三菱重工業の意見を聞く審問書をホームページなどに掲載することを決定。11月10日午前0時に、書類が同社に送達されたと見なされる「公示送達」の効力が生じる。原告側が明らかにした。売却命令を出すには三菱重工業への書類送達などが必要だが、日本側が受け取りを拒んでいる(同)。日本と韓国の間で結ばれた1965年の日韓請求権協定は完全に反古にされている。被害者ビジネスそのものだ。

          もう一つの韓国の司法判断が「積弊精算」「過去断罪」だ。その典型が、同じ日のこの判決だ。韓国最高裁は29日、大統領在職中にサムスン電子などから巨額の賄賂を受け取ったとして、特定犯罪加重処罰法上の収賄罪などに問われた元大統領、李明博被告の上告審判決で、懲役17年、罰金130億ウォン(約12億円)などとした二審判決を支持し、李被告と検察の双方の上告を棄却し、実刑が確定した(10月29日付・共同通信Web版)。李被告は保釈されており、近く収監される。

   韓国の歴代の大統領経験者のうち、刑事事件として起訴され実刑判決が確定したのは、全斗煥、盧泰愚、そして、朴槿恵に続いて4人目となる。韓国の大統領というのは、前任者が後任に裁かれるというシステムではないだろうか。後任者が支持率を上げるために、前任者を貶める。これに司法が加担する。

   韓国政府はいわゆる徴用工訴訟で、2018年10月に韓国最高裁が日本企業に賠償を命じる判決を出して以降、「三権分立」を言い始め、司法の判断を尊重すると言い続けている。三権分立は司法、行政、立法の3権で相互に抑制を効かせ、権力の集中を防ぐことで国民の自由と権利を確保する民主主義のシステムだ。決して政治的に利用するものではない。国家と国家の約束を反故にして司法判断を尊重するのであれば、外交も国際条約も必要ない。信なくば立たず、である。お隣の国のニュースを見て感じた違和感ではある。

⇒29日(木)夜・金沢の天気    はれ