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★「独裁者」なのか、「改革者」なのか~アメリカ・韓国の大統領の振る舞い方

★「独裁者」なのか、「改革者」なのか~アメリカ・韓国の大統領の振る舞い方

それにしてもよく分からないニュースだ。メディア各社の報道によると、韓国の尹錫悦大統領による「非常戒厳」の宣布(2024年12月3日夜)をめぐり、憲法裁判所はきょう4日、弾劾訴追された尹氏の罷免を8人の裁判官の全員一致で決定した。尹氏は即時失職し、60日以内に大統領選が行われる。憲法裁は戒厳令は違憲で、国会に対する軍の投入などについても違法かつ重大だと認めた。大統領が弾劾・罷免されたのは2017年3月の朴槿恵氏以来2人目だ。

よく分からないのは、尹氏が「非常戒厳」を宣布した理由だ。政府の方針に反対し続ける最大野党「共に民主党」を国政をマヒさせる「反国家勢力」と指弾し、戒厳令を出して国会などに軍や警察を投入した。が、国会が2時間半後に戒厳令の解除を要求する決議案を可決し、その後に解除された。このときの尹氏は大統領の権限をさらに超えた「独裁者」として立ち振る舞おうとしたのか、あるいはマヒした国政を改革するための手立ての第一歩として、「非常戒厳」の宣布をしたのか。独裁者になろうとしたのか、改革者になろうしたのか。

アメリカのトランプ大統領についてもよく分からない。今月2日に世界各国からの輸入品に対して「相互関税」をかけると公表し、各国に一律10%の関税をかけたうえで、国・地域ごとに異なる税率を上乗せした。トランプ氏はこのとき、「2025年4月2日はアメリカの『Liberation day(解放の日)』として永遠に記憶される」と演説し、相互関税を実施するための大統領令に署名した。アメリカは第二次世界大戦後に率先して関税を引き下げ、いわゆる自由貿易体制を構築した。それをぶっ壊し、先進国で最も閉ざされた孤立市場に変質した。

大統領権限で相互関税を発動する根底には、トランプ氏がこれまで何度も述べているように、年1.2兆㌦を超えるアメリカの貿易赤字や工業を中心とした国内産業の空洞化がある。このため中間層が破壊され、勝者と敗者を生み出す経済構造になったと憂い、これをトランプ氏は今回の演説でも「国家の非常事態」と強調した。そして、相互関税により6兆から7兆㌦がアメリカに流入するとの見通しを示し、「市場は活況となり、株価は上昇し、国は急成長するだろう」と語った。

しかし、今回の一律関税および相互関税が額面通りに実行に移された場合、もっとも割を食うのはアメリカ経済ではないのか。個人消費がGDPの7割を占めるので、輸入品の値上がりの影響を直接こうむることになる。そして今、アメリカ株の全面安、ドル安など金融市場に激震が走っている。このまま景気後退へと突入していくのか。

⇒4日(金)夜・金沢の天気   くもり

★韓国大統領が「反乱」の容疑で身柄拘束 どう読むこの国のカタチ

★韓国大統領が「反乱」の容疑で身柄拘束 どう読むこの国のカタチ

  韓国の公共放送KBSはネットニュースで「[속보] ‘내란 수괴 혐의’ 윤 대통령 체포…헌정 사상」(【速報】尹大統領が「反乱」の容疑で身柄を拘束…憲政史上初めて)と報じている=写真・上=。尹大統領による「非常戒厳」の宣布を巡り、高官犯罪捜査庁と警察でつくる合同捜査本部はきょう15日午前10時半過ぎ、内乱容疑で尹氏を身柄を拘束。大統領は憲法で不訴追特権が保障されているが、内乱罪は例外となっている。捜査当局は今月3日にも身柄の拘束を試みたが失敗していた。韓国で現職大統領が身柄拘束はこれが初めて。合同捜査本部は拘束期限である48時間以内に逮捕状を請求する。

  尹氏は独裁者になろうと決意したのか、あるいは野党に対する脅しだったのか。去年12月3日深夜の演説には正直驚いた。「非常戒厳」を宣布すると発表した。韓国の憲法では、非常戒厳は戦時やそれに準じる国家非常事態に陥った際に大統領が宣言するものなので、世界は朝鮮戦争を再開するのかと身構えた。ところが、尹氏は戒厳令をその後、6時間で解除した=写真・下=。あれはいったい何だったのかと、混乱を招いた。ソウルでは大規模な市民による抗議行動と支持行動が連日のように起きていた。

  そもそも、尹氏を支える与党「国民の力」は2022年の政権発足時から少数与党だったが、それが去年4月の総選挙で大敗を喫した。このため、国会運営がままならない状態に陥っていた。追い詰められ、衝動的に戒厳令を発したのだろうか。その後は裁判所が出した拘束令状の執行を拒否し、公邸で籠城を続けていた。

  冒頭に戻る。報道によると、合同捜査本部は捜査員1000人余りを動員し、午前4時半ごろから大統領公邸前で大統領の警護側と捜査側が3時間にわたって対峙した。公邸では尹氏の弁護士と捜査員が協議を続けた。弁護側は自ら出頭すると提案したが、捜査側は拘束令状の執行で譲らなかった。7時半ごろから捜査員らが築かれた壁にはしごを架けるなどして続々と敷地内に入った。合同捜査本部は「午前10時33分、尹氏の拘束令状を執行した」と発表した。尹氏は拘束前に映像メッセージを公開した。「流血の事態を防ぐため、不法捜査だが、高官犯罪捜査庁の出頭要請に応じることにした」と述べた。午前10時半過ぎ、大統領を乗せたとみられる車両が公邸を出て、ソウル近郊の高官犯罪捜査庁の庁舎に向かった。午前11時から取り調べが始まっている。

  戒厳令から2ヵ月足らずで大統領拘束という激震が走った韓国。歴代大統領では李明博氏や朴槿恵氏が離任後に有罪判決を受けて収監されている。この国のカタチをどう表現すればよいのだろうか。

15日(水)午後・金沢の天気     あめ

★「非常戒厳」が裏目に レームダック化したのか韓国・尹大統領

★「非常戒厳」が裏目に レームダック化したのか韓国・尹大統領

  韓国の尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領がこれほどレームダック化していたとは驚きだった。メディア各社の報道によると、尹氏は3日深夜の演説で「非常戒厳」を宣布すると発表した。韓国の憲法では、非常戒厳は戦時やそれに準じる国家非常事態に陥った際に大統領が宣言する。突然の発表に国会は混乱に陥った。尹氏は戒厳令をその後、6時間で解除したものの、政治家として瀬戸際に追い込まれた。ソウルで大規模な市民による抗議行動が起き、さらに最大野党「共に民主党」による尹氏に対する弾劾訴追手続きがなされた。近く開かれる国会で尹氏の真意が議論されることだろう。

  尹氏は2022年の大統領選で保守強硬派の候補として勝利し、同年5月に就任した。だが、今年4月の総選挙で野党が圧勝。政府として国会で予算案や法案を通すことができず、野党が通過させた法案に拒否権を発動する程度のことしかできない状況が続いていた。さらに、尹氏の夫人にまつわる汚職スキャンダルに見舞われている。高級ブランドのディオールのバッグを受け取ったとされる疑惑や、株価操作に関わったとされる疑惑だ(4日付・BBCニュース日本版)。  

  元検事総長の尹氏のかつてのイメージは、権力に遠慮することなく司法の刃(やいば)を向けてきたことだ。朴槿恵(パク・クネ)政権下での「崔順実(チェ・スンシル)ゲート」では朴前大統領を拘束起訴(2017年3月)。この実績により、前大統領の文在寅(ムン・ジェイン)大統領からソウル中央地検長に抜擢された。尹氏はさらに李明博(イ・ミョンバク)元大統領も拘束起訴。2019年6月に検事総長に任命されてから、矛先は文大統領の側近に向けられた。曺国(チョ・グク)前法務部長官の捜査を手初めに、蔚山市長選挙介入疑惑、月城原発経済性ねつ造疑惑など次々と捜査のメスを入れた。(※写真は、2022年3月に韓国の新大統領に選ばれた尹錫悦氏=韓国・中央日報Web版)
 
  権力と対峙してきた尹氏は「私は人(権力)に忠誠を尽くさない」という言葉を放って国民に知られるようなった。尹氏が大統領になったことで期待されていたのは、「法治国家」の確立ではなかっただろうか。ところが韓国では大統領に権力が集中している。戦時でもないのにその権力を行使して非常戒厳令を宣告したとなると、動機がなんであれ、自らがその権力に溺れ込んだと韓国国民は思い込んだに違いない。
 
⇒5日(木)夜・金沢の天気   あめ

★レーダー照射問題で日韓の未来志向外交は視界不良に

★レーダー照射問題で日韓の未来志向外交は視界不良に

   2018年12月21日、当時の岩屋防衛大臣は緊急記者会見を行った。能登半島沖の日本のEEZ内で、韓国海軍の駆逐艦が20日午後3時ごろ、海上自衛隊のP1哨戒機に対して火器管制レーダーを照射した。P1は最初の照射を受け、回避のため現場空域を一時離脱した。その後、状況を確認するため旋回して戻ったところ、2度目の照射を受けた。P1は韓国艦に意図を問い合わせたが、応答はなかった。照射は数分間に及んだ、と公表した。いわゆるレーダー照射事件だ。

  岩屋大臣の会見から7日後の28日、防衛省はP1が韓国駆逐艦を撮影した動画をホームページで公開した=写真=。レーダーの電波を音に変換してヘッドホンで聞いているP1の操縦士たちが「出しています」と電波を感知すると、「避けた方がいいですね」「めちゃくちゃすごい音だ」と緊迫した会話が録音されている。その後、P1から駆逐艦に向けて、「KOREAN NAVAL SHIP, HULL NUMBER 971, THIS IS JAPAN NAVY, We observed that your FC antenna is directed to us. What is the purpose of your act ? over.」とレーダー照射の目的を無線で3度問い合わせている=写真・防衛省ホームページより=。問い合わせに対する駆逐艦からの応答はなかった。テロップは付けてあるものの、画像の編集はなく、13分7秒の実録である。

   「事実上の攻撃着手」であり、日本側は証拠を示して重ねて抗議してきた。これに対し、韓国側は当初、「海自哨戒機が低空飛行で威嚇した」と反論していたが、ことし3月の韓国国会では国防大臣が「照射はしなかった」と発言するなど、事件自体を認めない姿勢に転換した。

   このような状況にありながら、きょう4日、浜田防衛大臣は訪問先のシンガポールで、韓国のイ・ジョンソプ国防大臣と会談した。日韓大臣会談が行われるのは2019年11月以来、およそ3年半ぶりとなる。会談で、両大臣は日韓の防衛当局間の協力を進展させる必要性を確認したものの、レーダー照射問題については両国の事務レベルで再発防止策を含めた協議をすることにした(4日付・NHKニュースWeb版)。

   日本側とすれば「けじめ」をつけて、次なる日米韓の軍事協力に会談のステージを上げたいのだが、韓国側が国会で「照射はしなかった」と発言している以上、事務レベルで解決の糸口が見いだせるとは思えない。今後の展開がますます見通せなくなってきた。

⇒4日(日)夜・金沢の天気    はれ

☆韓国の尹大統領に感じる「実務家」田中角栄のイメージ

☆韓国の尹大統領に感じる「実務家」田中角栄のイメージ

   韓国の尹錫悦大統領がワシントンポストの単独インタビューで日韓関係について触れ、「欧州は過去100年間に数度の戦争を経験したが、それでも戦争を行った国は、未来に向けて協力していく方法を見つけた」「100年前の歴史のために日本がひざまずいて許しを乞うべきだという考え方を受け入れることはできない」と発言した。メディア各社も記事を引用するカタチで報じている(※写真は、4月24日付・ニューズウイーク日本語Web版)。

   尹大統領は日本との未来志向の外交関係を改めて述べたことになる。ことし3月16日、大統領として初来日し、岸田総理と首脳会談に臨み、トップが互いの国を訪問する「シャトル外交」を復活させることや、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に対して日米韓の連携を強化すること、経済安全保障に関する協議体の創設、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の正常化、そして、拉致問題について協力を約束するなど前向きな姿勢を示した。

   尹大統領の日本との未来志向の関係づくりは一貫していて、韓国の閣議(3月21日)で言及した内容からも読み取れる。イギリスのウィンストン・チャーチル首相の言葉を引用して、「もし、われわれが現在と過去を競わせたら、必ず未来を逃すことになるだろう」と述べた。そして、「私は去年5月の大統領就任以来、存在自体、不透明になってしまった韓日関係の正常化の方策について悩んできた。まるで出口のない迷路の中に閉じ込められた気分だった。しかし、手をこまねいてただ見ているわけにはいかなかった。日増しに激しくなる米中競争、サプライチェーンの危機、北の核脅威の高度化など、韓国を取り巻く複合的な危機の中で韓日協力の必要性はさらに高まっている」(3月22日付・NHKニュースWeb版)

   「私も、目の前の政治的利益のための楽な道を選び過去最悪の韓日関係を放置する大統領になる可能性もあった。しかし、昨今の厳しい国際情勢を後回しにして、私までもが敵対的ナショナリズムと反日感情を刺激して国内政治に利用しようとするなら、大統領としての責務を裏切ることになると思った」(同)

   上記の尹大統領の言葉からは「親日家」という言葉は浮かんでこない。むしろ、「実務家」という言葉がふさわしい。日本の歴代の総理にたとえるならば、就任わずか85日で日中国交回復をなし遂げた田中角栄のようなイメージだ。

⇒25日(火)夜・金沢の天気     あめ

☆「人に忠誠を尽くさない」新韓国大統領の法治国家への道

☆「人に忠誠を尽くさない」新韓国大統領の法治国家への道

   韓国の新しい大統領に野党「国民の力」の前検事総長、尹錫悦(ユン・ソギョル)氏が選ばれた。韓国・中央日報Web版(10日付)=写真=によると、得票率は尹氏が48.56%、与党候補が47.83%で文字通りの僅差だ。票差にして24万7千票余り。投票率は、連日30万人の新型コロナウイルス感染者が出ているにもかかわらず、77.1%と高い。韓国の有権者はなぜ政権交代を選択したのか。そして、政治経験がまったくない尹氏に何を委ねたのか。
 
   メディア各社のこれまでの報道から印象的な尹氏のイメージは、権力に遠慮することなく司法の刃(やいば)を向けてきたことだ。朴槿恵(パク・クネ)政権下での「崔順実(チェ・スンシル)ゲート」では朴前大統領を拘束起訴(2017年3月)。この実績により、文在寅(ムン・ジェイン)大統領によってソウル中央地検長に抜擢された尹氏はさらに李明博(イ・ミョンバク)元大統領も拘束起訴した。2019年6月に検事総長に任命されてから、矛先は文大統領の側近にも向けられた。曺国(チョ・グク)前法務部長官の捜査を手初めに、蔚山市長選挙介入疑惑、月城原発経済性ねつ造疑惑など次々と捜査のメスを入れた。曺氏の後任の秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官と対立して去年3月に辞職した。
 
   大統領から任命を受けても、権力と対峙した尹氏は「私は人(権力)に忠誠を尽くさない」という言葉を放って国民に知られるようなった。尹氏が大統領になることで期待されるのは、「法治国家」という共有の概念ではないだろうか。権力の不正や腐敗を正す法治である。司法、行政、立法の三権分立は日本では中学の公民の教科書にも出て来る。ところが韓国では大統領に権力が集中している。時々の政権の都合により法解釈が曲げられたりすることのない国であること、これこそ政治経験のない尹氏に国民が委ねたことはではないか。
 
   尹氏は選挙期間中、国際法や国際協定なども遵守する姿勢を打ち出した。とくに日米韓の安全保障の協力強化は、北朝鮮の核ミサイルに対する協調態勢を念頭に置いてのことだろう。さらに、冷え込んだ日韓関係の修復を図っていくと述べている。日本とすれば、日韓の戦後補償問題は「完全かつ最終的に解決された」と規定した1965年の日韓請求権・経済協力協定で解決済みとの立場であることに変わりないが、「シャトル外交」を進めながら相互理解を再構築することはマストだろう。
 
   油断ならないのは北朝鮮の動きだ。文大統領の任期は5月7日までだが、政権運営としては実質的に何もできない「レームダック状態」に陥る。「日米より、こっちを向け」と韓国に何か仕掛けて来るかもしれない。そして、ことしに入って弾道ミサイルを9回発射している北朝鮮は新大統領めがけてどのような難題を放つのか。
 
⇒10日(木)夕方・金沢の天気      はれ

☆北の五輪不参加と極超音速ミサイルは何を潰したのか

☆北の五輪不参加と極超音速ミサイルは何を潰したのか

   きのう11日に北朝鮮が発射した極超音速ミサイルについて防衛省は公式ホームページで落下地点を推定した図=写真・上=を掲載し、「詳細については現在分析中ですが、通常の弾道軌道だとすれば約700km未満飛翔し、落下したのは我が国の排他的経済水域(EEZ)外と推定されます」とコメントを書いている。この図を見て、ミサイルの発射角度を東南に25度ほど変更すれば、間違いなく能登半島に落下する。さらに、朝鮮新報(12日付)は「発射されたミサイルから分離された極超音速滑空飛行戦闘部は、距離600km辺りから滑空再跳躍し、初期発射方位角から目標点方位角へ240km旋回機動を遂行して1000km水域の設定標的を命中した」と記載している=写真・下=。この記載通りならば、北陸がすっぽり射程に入る。

   さらに、朝鮮新報の記事は金正恩朝鮮労働党総書記が発射を視察し、「国の戦略的な軍事力を質量共に、持続的に強化し、わが軍隊の近代性を向上させるための闘いにいっそう拍車をかけなければならない」と述べと伝えている。

   NHKニュース(12日付)によると、岸防衛大臣はきょう12日午前、記者団に対し、11日に北朝鮮が発射した弾道ミサイルについて、通常よりも低い最高高度およそ50㌖、最大速度およそマッハ10で飛しょうしたと分析していると説明した。今月5日に発射した極超音速ミサイルはマッハ5の速さで飛行したと報じられていた。去年9月28日の「火星-8」はマッハ3とされていたので、ミサイル技術が格段に高まっていると言える。

   そして、岸大臣が述べたように、今回の弾道ミサイルは通常より低く飛び、最高高度およそ50kmだった、非常に速く低く飛ぶ弾道ミサイルに日本は対応できるのだろうか。これまで北朝鮮のミサイル発射は、アメリカを相手に駆け引きの材料だと思い込んでいた。どうやらそうではないようだ。日本やアメリカの迎撃ミサイルなどはまったく寄せ付けない、圧倒的な優位性を誇る弾道ミサイルの開発にすべてを集中する。国際的な経済封鎖下でも、東京オリンピックと北京オリンピックをボイコットしてでも開発を急ぐ。そして、ダメージを受けたのは韓国だった。

   韓国の大統領府関係者は、北京オリンピックについて「慣例を参考にして、適切な代表団が派遣されるよう検討中」と語り、文在寅大統領の出席は検討していないと明らかにした(12日付・時事通信Web版)。文氏は「外交的ボイコット」を検討していないと訪問中のオーストラリアでの首脳会談後の記者会見で表明していた(12月13日付・朝日新聞Web版)。

   以下裏読みだ。文氏は北京オリンピック期間中に中国の仲立ちで北京での南北首脳会談を構想し、水面下で交渉していた。ところが、北朝鮮は今月5日に極超音速ミサイルを発射。同じ日に「敵対勢力の策動と世界的な感染症の大流行」を理由にオリンピックに参加しないことを中国側に通知した。そして11日にマッハ10の極超音速ミサイルを発射した。これで文氏の「北京での南北首脳会談」の構想は完全に潰えてしまった。というより、ひょっとして、北朝鮮は文氏の夢を潰すためにあえて発射と不参加をセットにしたのか。「敵対勢力の策動」とはこのことを指すのか。

⇒12日(水)夜・金沢の天気      あめ

☆「終戦宣言は悪くない」 北の思惑

☆「終戦宣言は悪くない」 北の思惑

   前回のブログの続き。韓国の聯合ニュースWeb版日本語(24日付)よると、北朝鮮の金正恩国務委員長(朝鮮労働党総書記)の妹、金与正党副部長は24日、韓国の文在寅大統領が国連総会演説で朝鮮戦争の終戦宣言を提案したことについて、「終戦宣言は悪くない」として、「長期間続いている朝鮮半島の不安定な停戦状態を物理的に終わらせ、相手に対する敵対視を撤回する意味での終戦宣言は興味深い提案であり良い発想」とする談話を出した。朝鮮中央通信が伝えた。

   このニュースの見て、「アフガニスタン」の二の舞を想像した。2001年9月月11日の同時多発テロで、アメリカは「テロとの戦い(War on Terrorism)」を錦の御旗に掲げ、当時のブッシュ大統領はアフガニスタンで政権を握っていたタリバンがテロ事件の首謀者とされたオサマ・ビン・ラディンをかくまっていると非難。アメリカ主導の有志連合軍がアフガンへの空爆を始め、タリバン政権は崩壊する。しかし、ビン・ラディンを捕捉できなかった。テロとの戦いはオバマ大統領に引き継がれ、2011年5月、パキスタンのビン・ラディンの潜伏先を奇襲し殺害。オバマ氏は緊急声明で「Justice has been done」と発した。

   バイデン大統領は今年4月、同時多発テロ事件から20年の節目にあたる「9月11日」までにアフガンから完全撤退すると表明した。その後、8月に入り、アメリカ軍の撤退を見越して、タリバンが首都カブールに進攻、日本時間の16日に勝利宣言をした。一方、2014年から政権を担ってきたガニ大統領はまさに「敵前逃亡」で出国し、政権は事実上、崩壊した。

   朝鮮戦争の休戦協定が成立したのは1953年7月27日だ。「最終的な平和解決」、つまり平和協定を締結するまでは戦争行為と武力行使を停止すると規定した書面への書名だった。協定に署名したのは国連軍を代表したアメリカと、中国、北朝鮮だった。韓国側は当時の李承晩大統領があくまでも朝鮮半島の統一を主張して休戦に反対して署名に加わらなかった。しかし、署名しなかったことが後々平和的解決への足かせとなる。

   しかし、冒頭の金与正氏の談話はこれまでの北朝鮮の方針転換ではないかと自身は読んでいる。前回のブログでも述べたが、2018年と2019年に行われた延べ3回の米朝首脳会談で、アメリカ側は「先に非核化、その後に経済制裁解除と終戦宣言」との原則だった。一方、2018年4月に行われた初の南北首脳会談で、文大統領は非核化交渉の入口として、先に終戦宣言をすることを提示していた。北朝鮮とすれば、アメリカと直接交渉するより、韓国と共同で終戦宣言を出して「平和的統一」を世界にアピールする方が在韓米軍を撤退させる近道だと考えた。

   そうなると、アメリカ世論もアフガンのケースと同様にいつまで韓国に軍隊を駐在させる必要があるのかと撤退の声が高まる。北朝鮮の狙いはそこにあるのではないだろうか。

(※写真は、2018年5月26日に行われた韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩委員長の2度目の首脳会談を伝える聯合ニュースWeb版)

⇒24日(金)夜・金沢の天気       はれ

★朝鮮戦争の終戦宣言は「核あり統一」の布石か

★朝鮮戦争の終戦宣言は「核あり統一」の布石か

   韓国の文在寅大統領の国連総会での演説には正直、「また同じことを繰り返すのか。くどい」という印象がぬぐえない。NHKニュースWeb版(9月22日付)によると、文大統領は「終戦宣言こそ朝鮮半島に『和解と協力』の新しい秩序を作る重要な出発点だ」と述べ、70年近く休戦状態が続いている朝鮮戦争の終戦宣言を、南北とアメリカの3者か、中国を加えた4者で行うことを改めて提案した。ことしは韓国と北朝鮮が国連に同時に加盟してからちょうど30年で、文大統領としては来年5月までの任期中に朝鮮半島の平和と安定に向けて成果を出そうと各国に支持を求めた形だ。

   文氏が国連総会で「終戦宣言」を持ち出すのは3度目だ。文氏は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と2018年4月に板門店で初の南北首脳会談で「完全な非核化」の約束を取り付けた=写真=。6月にはシンガポールで初の米朝首脳会談が開かれ、共同声明で板門店宣言を再確認し、北朝鮮は完全な非核化に向け取り組むと記された。会談後に当時のトランプ大統領は米韓合同軍事演習を凍結すると発言した。その年の9月の国連総会で文氏は「非核化のための果敢な措置が実行され、終戦宣言につながることを期待する」と述べた。

   その後に原則論が違いが浮き彫りになる。トランプ氏の原則は先に非核化、その後に経済制裁解除と終戦宣言だった。ところが、板門店で文氏は金氏に対して、非核化交渉の入口として、先に終戦宣言を提示していた。金氏もその提案に同意した。亀裂が生じたのは2019年2月、ハノイでの2回目の米朝首脳会談だった。会見でトランプ氏は、金氏が非核化の前に経済制裁の解除を求めたので、それは無理だと先に席を立ったと述べた。同じ年の6月には板門店で3回目が持たれたが、成果には至らなかった。

   そして、2020年6月、南北首脳会談の板門店宣言の合意で建設した南北連絡事務所を北朝鮮が爆破した。それでも、文氏は、その年の9月、オンラインでの国連総会演説で「終戦宣言こそ、朝鮮半島での非核化とともに恒久的な平和への道を開く扉になる」と繰り返した。そして3度目が冒頭の演説だった。文氏の演説の後、アメリカのバイデン大統領が就任後初めての国連演説に臨み、北朝鮮とイランの非核化を引き続き追求すると明らかにした。文氏が提案した終戦宣言には言及していない。

   北朝鮮は9月に入り、長距離巡航ミサイルや移動式弾道ミサイルなどの発射実験を相次いで行っている。韓国も、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の発射実験を文氏の立ち合いのもとで行っている。両国の軍事競争が不可解だ。「核なき統一」は日本もアメリカも国際社会も望むところだ。ところが、文氏の演説は統一が最優先であって、核は後回し、つまり「核ありの統一」のように聞こえる。油断ならない。

⇒23日(祝)午後・金沢の天気      はれ

★北と南が「弾道ミサイル」を発射した日

★北と南が「弾道ミサイル」を発射した日

   北朝鮮がまたミサイルを発射した。NHKニュースWeb版(9月15日付)によると、岸防衛大臣は夕方、防衛省で記者団に対し「北朝鮮は、きょう午後0時32分と37分ごろ、内陸部から、少なくとも2発の弾道ミサイルを東方向に発射したもようだ」と述べた。その後、防衛省は追加でコメントを発表した。「発射された弾道ミサイルは、従来から北朝鮮が保有しているスカッドの軌道よりも低い高度(最高高度約50km程度)を、変則軌道で約750km程度飛翔し、日本海上に落下したものと推定されます。落下したのは、我が国の排他的経済水域(EEZ)内と推定されます」(防衛省公式ホームページ)

   さらに、読売新聞Web版(同)は「防衛省によると、ミサイルは能登半島の舳倉島の北方約300㌔の海域に落下したと推測される」と報じている。舳倉島から輪島市は約49㌔の距離。つまり、能登半島の約350㌔先のEEZ内に落下させたということだ。

     北朝鮮の弾道ミサイル発射を受けて、菅総理は記者会見で、「北朝鮮が弾道ミサイルと判断されるものを発射した。本年3月25日以来、約6か月ぶりの弾道ミサイル発射は、我が国と地域の平和と安全を脅かすものであり言語道断だ。国連安保理決議にも違反しており、厳重に抗議するとともに強く非難する。我が国の排他的経済水域外の日本海に落下したと推定されるが、政府としては、これまで以上に警戒監視を強めていく」と述べた(総理官邸公式ホームページ)。

   韓国の中央日報Web版日本語(同)によると、文在寅大統領は15日午前、青瓦台(大統領府)で40分間余りにわたり中国の王毅外交担当国務委員兼外交部長と面会した。文大統領はこの席で「わが政府は中国を含めた国際社会とともに韓半島(朝鮮半島)の非核化と平和定着のために努力している」としながら「中国の変わりない支持をお願いしたい」と述べた。この後、文大統領は弾道ミサイルの発射に立ち会っている。

   韓国の聯合ニュースWeb版日本語(同)は、韓国が独自開発した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験に初めて成功したと伝えている。発射実験は15日午後、国防科学研究所の総合試験場で文大統領をはじめとする政府・軍関係者の立ち会いの下で行われた。韓国のKBSニュースWeb版(同)=写真=は「世界でSLBMの打ち上げに成功したのは、米国、ロシア、中国、イギリス、フランス、インドに次いで我が国で7番目。文大統領は、SLBMの開発は北朝鮮の挑発に応じたものではなく、むしろ独自の軍事力増強計画に従っていると述べた。しかし、我々のミサイル兵器の増強は北朝鮮の挑発に対する明確な抑止力になり得ると強調した」と述べた。

   北朝鮮は今月11、12日に新たに開発した長距離巡航ミサイルの発射実験を行った。今回、矢継ぎ早に弾道ミサイルを日本のEEZに打ち込んだ。北朝鮮の意図は、韓国のSLBMを意識した「先制パンチ」だったのか、あるいは中国の王毅部長と韓国の文大統領の会談に対する当てつけだったのか。南北が同じ日に弾道ミサイルを発射したことは、日本の防衛にとって警鐘であることだけは間違いない。

⇒15日(水)夜・金沢の天気     はれ