#非核化

★「家を愛する人のように、核兵器は手放さない」

★「家を愛する人のように、核兵器は手放さない」

   きょう16日午後の臨時国会で菅義偉氏が総理大臣に指名され、その後に内閣が発足する。日本のメディアはいつものように新しい内閣の顔ぶれをめぐって連日しのぎを削っていたが、アメリカのメディアは、「ウォーターゲート事件」を暴いたことで知られるジャーナリストのボブ・ウッドワード氏の新刊『RAGE』(今月15日発売)をめぐってしのぎを削っていた。トランプ大統領に対し18回(昨年12月5日-今年7月21日)のインタビューを重ね、北朝鮮との非核化交渉をはじめ、新型コロナウイルスの感染拡大の問題についての内幕を聞き出している。11月3日の大統領選を控えているだけに、メディア各社は発刊前にこの暴露本に注目したようだ。

    CNNはウッドワード氏から取材の音声テープの一部を入手し、今月10日付のCNNニュースWeb版日本語で報じている。ことし2月上旬のインタビューでは、トランプ氏は新型コロナウイルスは「非常に驚きだ」と語り、インフルエンザの5倍以上の致死性がある可能性を指摘していた。ところが、公の場でトランプ氏は当時、新型コロナウイルスは「いずれ消える」「全てうまくいく」と主張していた。この矛盾点について、ウッドワード氏が、トランプ氏が非常事態宣言を出した数日後の3月19日のインタビューで尋ねると、トランプ氏は「常に控えめに扱いたいと思っていた」「今でも控えめに扱いたいと思う。パニックを引き起こしたくないからだ」と答えた。

   9月10日のホワイトハウスでの記者会見で、ウッドワード氏へのインタビューについて、記者からもこの矛盾点を突かれ、トランプ氏は以下にように答えている。「 I want to show a level of confidence and I want a show strength as a leader」(ホワイトハウス公式ホームページ)。コロナ禍と向き合うために、国のリーダーとして災禍を克服する自信を見せたい、リーダーとしての実力を見せたいという思い当然だ。被害の大きさを隠そうとしたのは、「This is China’s fault. (中国の過ちだ)」と述べた。

   ウッドワード氏の古巣でもあるワシントン・ポスト紙は、トランプ氏がウッドワード氏に語った北朝鮮の金正恩党委員長についての人物評を紹介している=写真=。その中で面白い下りがある。「Trump told Woodward that he evaluates Kim and his nuclear arsenal like a real estate target: “It’s really like, you know, somebody that’s in love with a house and they just can’t sell it.”」(9月9日付・ワシントン・ポストWeb版)。意訳すると、金氏と核兵器の関係は家主と不動産の関係と似ていると評した。それは、家主が自分の家を気に入っていると売却したくてもできないのと同じだ、と説明した。

   トランプ氏と金氏は「完全な非核化」をめぐって、3度の首脳会談(2018年6月12日、2019年2月28日、同5月30日)を持ったが、トランプ氏は非核化を完全に反古された状態だ。トランプ氏はその経緯を分かりやすく説明しようと、ウッドワード氏に不動産取引での例えを述べたのだろう。核兵器に愛着がある金氏に核の放棄を説得するのは容易でない、と。いかにも不動産事業家でもあるトランプ氏らしい。 

⇒16日(水)朝・金沢の天気     くもり

☆北の非核化、泡と消ゆ

☆北の非核化、泡と消ゆ

        北朝鮮は核を手放さないとついに公言した。金正恩党委員長は27日に開かれた朝鮮戦争休戦67年の記念行事での演説で、核保有を正当化し一方的な核放棄に応じない立場を強調した(7月28日付・共同通信Web版)。朝鮮戦争に従軍した退役軍人らを平壌に招いた「老兵大会」での異例の演説。核抑止力によって国の安全が「永遠に保証される」と強調した(同)。

   2018年4月27日、板門店で開催された南北首脳会談では韓国の文在寅大統領と金氏との間では「完全な非核化」が明記された=写真・上=。さらに同6月12日の第1回の米朝首脳会談では、共同声明で「Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.(2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む)」の文言を入れていた。

   ところが、2019年2月28日、ハノイでの第2回米朝首脳会談では、北の非核化に妥協しなかったトランプ大統領が先に席を立って会談は決裂した。おそらく金氏にとってこの会談は屈辱的だったのだろう。そしてついに今回、非核化を完全に反古する声明を出した。おそらく、南北首脳会談も、米朝首脳会談も今後開かれることはないだろう。そして、日本への脅威はさらに高まった。

   では、日本国内では北からの核ミサイル攻撃に向けての防衛体制は進んでいるのだろうか。6月15日に河野防衛大臣が地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を撤回すると表明してから40日余り経った。配備断念を受けて、自民党のミサイル防衛の在り方を検討するチームがきのう28日に続いてきょうも会合を開いた。政府に対する提言案が示された。相手の領域内でも弾道ミサイルの発射などを阻止する能力の保有も含め、政府として早急に検討して結論を出すよう求めつつ、攻撃的な兵器を保有しないという、これまでの政府方針を維持すべきだとしている。会合は非公開で、結局、提言案はまとまらなかった(7月29日付・NHKニュースWeb版)。

   日本海側に住めば北の脅威が実感できる。2017年3月6日、北朝鮮が「スカッドER」と推定される弾道ミサイルを4発発射し、そのうちの1発は能登半島から北に200㌔㍍の海上に着弾した=写真・下=。北が弾道ミサイルを撃ち込む標的の一つが能登半島だ。半島の先端・輪島市の高洲山(567㍍)には航空自衛隊輪島分屯基地のレーダーサイトがある。その監視レーダーサイトの目と鼻の先にスカッドERが撃ち込まれたのだ。

   これまで、南北首脳会談と米朝首脳会談に期待したが、北の非核化は泡と消えた。北からの核弾道ミサイルはいつでも飛んでくる。もちろん、監視レーダーサイトを能登半島から撤去せよという話ではない。

⇒29日(水)夜・金沢の天気     くもり   

★イージー・カム・イージー・ゴーの教訓

★イージー・カム・イージー・ゴーの教訓

   「イージー・カム・イージー・ゴー(Easy come、easy go)」という英語は教訓として日本でもよく使われる。この事例が現在の韓国と北朝鮮の関係性ではないだろうか。

   それは2018年3月8日付のアメリカのトランプ大統領のツイートが発端だった=写真・上=。韓国の特使から北朝鮮の金正恩党委員長の親書を受け取ったトランプ大統領は「金総書記は韓国代表に凍結だけでなく、非核化についても話した。また、この期間中の北朝鮮によるミサイル発射もない。大きな進展が見られるが、合意に至るまで制裁は続く。会議を計画中だ!」と非核化に向けた米朝首脳会談の可能性を示唆した。このツイートの予告通り6月の米朝首脳会談へと事態は動き出す。4月27日、板門店で南北首脳会談が電撃的に開催された。文在寅大統領と金委員長との間では「完全な非核化」が明記された=写真・中=。

   この後、6月12日の1回目の米朝首脳会談では、共同声明で「Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.(2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む)」の文言を入れていた。

   この年の9月19日、2回目の南北首脳会談でピョンヤンを訪れた文大統領は数万の国民を前に7分間の演説を行い、起立拍手を受けた。その文大統領がいまでは北から「厚かましい戯言を聞くにおぞましい」(ことし6月17日・朝鮮中央通信)と嘲弄を受けるまでになった。どこで歯車が狂ってきたのか。

   外交は表面上であって実質的な非核化の取り組みは滞っていた。IAEA(国際原子力機関)による査察など非核化へのプロセスを北は実行してこなかった。宣言はしたものの、形骸化していたのである。その矛盾が端的に表面化したのは2019年2月28日のハノイでの2回目の米朝首脳会談だった。金氏は非核化の前に経済制裁の解除を求めたのに対し、トランプ氏は非核化が進まない中ではそれは無理だと突然に席を立った。

   北がその腹いせとも思える行動に出たのは5月4日だった。東部のウォンサンから日本海に向けて飛翔体を発射した。それが弾道ミサイルならば、2017年11月29日以来となる。2020年に入っても3月9日に複数の弾道ミサイルとみられる飛しょう体を発射し、日本海に落下させている。2019年6月30日に3回目の米朝首脳会談が板門店で行われたが具体的な成果もなく1年が過ぎた。

   そしてついに、南北首脳会談の「板門店宣言」で合意で建設された北南連絡事務所が今月16日に爆破された=写真・下、韓国中央日報Web版(16日付)=。北の金与正党第1副部長は13日、「遠くないうちに用のない北南連絡事務所が跡形もなく崩れる悲惨な光景を目にすることになるだろう」と爆破を予告していた。韓国にとって「南北融和の象徴」としてきた施設が3日後に爆破された。

   これによって、文大統領が描いた「2045年にワン・コリア(統一)を目指し、国民所得を4万㌦に」といった南北融和の壮大な夢はゼロどころがマイナスになった。同日の中央日報Web版は、北朝鮮の元軍幹部で北朝鮮研究センター(ソウル)の所長のコメントを紹介している。「北が国家を象徴する国旗と金正恩国務委員長を表す最高司令官旗を掲げてから2年ほど経過した」「2つの旗を降ろしたというのは準戦時状態、挑発準備段階、非常体制稼働を意味する」と。

   文大統領が南北首脳会談からこれまでなすべきことは、非核化への実行をひたすら金氏に促すことではなかっただろうか。南北融和の夢を語り、現実問題の非核化が後回しになった。安易に非核化に合意してそのプロセスを怠ったことで、イージー・カム・イージー・ゴーの状況に陥った。それにしても、金正恩氏はこのところ姿を見せていない。アメリカ軍と韓国軍が密かに計画しているであろう、いわゆる「斬首作戦」を意識して身を隠しているのかもしれない。

⇒19日(金)午前・金沢の天気   くもり